お待たせしました。第75話どうぞ。
「はぁっ!」
クーナはまたダーカー化したアークスと対峙していた。だが、ペルソナとの一件もあり、いつも通りの動きが出来ずにいた。
「ぐぅ……あああああっ‼」
クーナに対し威嚇するかの如く叫ぶ彼の背後から突然巨大な影が現れる。
「ハドレッド⁉」
ハドレッドはクーナと対峙していたアークスを捕食すると、そのままクーナの事は無視してどこかへ飛び去って行き、クーナはハドレッドが消えた方を呆然と眺めていた。
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ペルソナside――――
「マトイ、居るか?」
「ペルソナ!来てくれたんだね」
「自分から預かると言った手前、いつもアスナ達に任せっきりだからな。偶には会いに来ないと悪いと思ってな」
「ふふっ、そんなの気にしなくていいのに。でも、会いに来てくれたのは嬉しいな」
マトイはそう言いながら屈託のない笑顔を向けてきた。
「そう言えば、この前メルフォンシーナさんが来てくれてね。ペルソナとキリトの事話してたよ」
「あまりいい印象を持たれてるとは思えないのだが」
「そ、そんな事ないよ。確かに2人を不思議とは言ってたけど……それでも、2人に感謝してたよ」
「そう……か」
「どうかしたの?」
一瞬言葉を詰まらせた私の顔をマトイは心配そうに覗き込で来る。
「こういう時、どうするべきか分からなくてな。きっとゼノや他の奴等なら、もっと気の利いた言葉を掛けたり出来たんだろうなと思ってな」
「ペルソナは十分頑張ってると思うよ。だから、何でもかんでも1人で抱え込もうとしちゃ駄目だよ?あなたにはみんなが居るんだから」
「分かった。今度からはみんなにも頼ってみるよ。勿論マトイ、君にもな」
そう言って私はマトイの頭を撫でる。私の行動に彼女は初めこそ驚いていたが、すぐ気持ちよさそうに私に頭を撫でられた。
「このまま何も起こらなければ、どれだけ幸せだっただろうか……」
「?何か言った?」
「(声に出ていたか。)いや、何でもない。それより、もう少し話をしないか?私とキリト達の話、あまり面白い話は出来ないだろうが」
「ううん、あなたのお話は初めての事ばかりでどれも面白いよ。だから、もっといっぱい聞かせて欲しいな。わたし、あなたやみんなと話すの好きだから」
話をはぐらかす私の提案にマトイは満面の笑顔で答える。その笑顔が途轍もなく懐かしく感じ、私は無意識にまた彼女の頭を撫でた。
――この笑顔を今度こそ必ず守る。その為なら、私は……。
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場所は変わり、惑星ナベリウスの森林エリア。私とキリトはゼノの捜索に来ている。
――とは言ってもアスナ達に怪しまれずに行動するための建前なのだが。
「なあ、何処まで行くんだ?」
「もう少しだ。恐らくここら辺に……いた」
視界の先、少し大きな岩の上に彼女は座っており、小刻みに揺れながら歌っていた。
「いい歌だな」
「え?あ、いやこれは……何ていうか!そ、そのっ違うんです!」
何が違うと言いたいのか、キリトに突然声を掛けられた彼女は驚きながら焦りつつ、何か言い訳を考えているようだった。そんな彼女の背後に出現した渦から伸びてきた赤黒い触手が私達を掴む。
「なっ」
「しまった!」
渦の中に引き込まれた私達3人は、赤く重ぐるしい空間に放り出された。
「ファンジに捕まったか」
「ファンジ?」
「ダーカーの捕縛罠です。周囲の壁を破壊するまで脱出は不可能です。何より厄介なのは……」
周囲にダーカーの大群が際限なく出現する。これが非常に厄介だ。周囲の壁を破壊しようにも、こいつ等が実質突破不能の肉壁となる。仮に突破できたとしても、ファンジ自体の耐久力が高い為、壁の破壊に専念している間に後ろから来るダーカーの相手もしなくてはいけないのだ。面倒なことこの上ない。
「……どうやら今回はそんな事する必要は無さそうだがな」
私の言葉に他2人が疑問を感じている中、突然ファンジの壁が破られ、侵入してきたハドレッドがファンジ内のダーカーを次々と喰らっていく。
「っ!逃げるな裏切り者‼」
その光景を呆然と眺めていた私達だったが、ハドレッドが飛び去ろうとした瞬間、少女が突然今まで聞いた事のないほど声を荒げてそう叫んだ。しかし、ハドレッドが彼女の声に振り返る事はなく、そのまま飛び去って行った。
「"裏切り者"……やはり君とあの竜、ハドレッドは何か関係が」
「あるのか」っと言い掛けた私の首元に少女の刃が突き付けられる。
「以前も忠告した筈です。余計な詮索はしないようにと」
「なっ、彼から離れろ!」
「武器を下ろせキリト。君もだ。我々が争っても仕方ない。違うか?」
「……そうですね。少し冷静さを欠いていました。それでは失礼します」
首元の刃を退かしながらそう諭すと少女はバツの悪そうな顔をして姿を消した。
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「なあ、何処に行くんだ?」
「着けば分かる」
アークスシップに戻ってすぐ、私はキリトをショップエリアの3階に連れて来た。勿論そこには、
「や、こんちわ。無事に帰還したようで何より」
アークスの歌姫クーナが居た。彼女は初めこそいつもの様に笑っていたが、すぐにその表情は暗く沈んでいった。
「いいよ、言いたいこと、分かってるから。気を遣う必要も無い。お察しの通り、『あたし』は『わたし』。龍を追ってるのも、ダーカー化したアークスを殺してるのも、わたしだよ」
俯く彼女の声が段々と聞いた事のある低い声に変わっていく。その様子から彼女の正体に勘づいたキリトが背中の武器に手を伸ばしている。
「休憩がてら歌っていたら、それを見られてバレちゃうなんて……アイドル失格?隠密業失格?まあ、どっちでもいっか!あたし、向いてないんだろうし」
「色々言いたい事はあると思う。でも、1つお願いがあるの」
そう言った彼女は目の前で手を合わせて私達に頭を下げてきた。
「この事は内緒にしておいて!お願い、このとーり!」
「元々、君の秘密を誰かに喋るつもりは無い。キリトも、それでいいな?」
「君がそれで良いなら。俺も誰にも言わないよ」
「ありがとう2人共!」
私達に笑顔でそう返すクーナ。……この笑顔はアイドルとしての作り物ではないと信じたい。
「そう言えばペルソナ、確か彼女に何か用があったんじゃないのか?」
話がひと段落した所で、思い出したかのようにキリトが言ってきた。
「ああ、そうだった。クーナ、今から時間はあるか?」
「おやぁ?もしかしてデートのお誘いかな?だったらごめんね。あたしはみんなのアイドルだから、特定の1人と親密な関係になる事は禁止されてるの」
「今までの話からしてその線は一番ないだろ」
「もー、折角乗ってあげたのに。ノリの悪い男は嫌われちゃうぞー?」
「茶化すな」
余計なお世話だと続けたい所が、言い争いを始めるのも面倒だし、キリトも居るので早く話を進めたいという念を込めながら私はクーナを睨みつめる。
「ごめんごめん!それで、本当の用とは一体何ですか?」
「ハドレッドがあんな風になった理由を知りたくは無いか?」
「! 何か知っているんですか⁉」
詰め寄り、私の胸倉を掴んだクーナは自分がアイドルモードであるのを忘れているかの様な勢いで問い詰めてくる。
「ナベリウスで廃棄された研究所で変な老人と会ったんだ。恐らくソイツなら何か知っているかもしれないと思ってな」
「でもすぐ話してくれると思うか?こう言っちゃあれだけど、あの爺さん相当気が動転して真面に会話できるか怪しい感じだったけど」
「しかし今はそれしか手掛かりはない。もしかしたら何の収穫も得られないかもしれないが、それでも大丈夫か?」
「廃棄された研究所にいた老人。まさか……分かりました。後で現地にて合流しましょう」
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「お待たせしました。では行きましょう」
再びナベリウスに降り立った私達は研究所があった洞窟の前で始末屋クーナと合流する。
「わざわざ別れてくる必要あったのか?」
「あくまで本職は隠密業なので、形式上仕方なくです。面倒ですが」
そんな他愛ない会話をしながら、私達は爺さんを探して施設内を徘徊している。
――前と同じ場所に居てくれれば、話が早く済んで助かるんだがな。
「あっ」
暫く歩き続けていると、クーナがそんな声を出して1つの部屋の前で立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「ここは」
彼女は机上の写真を手に取る。写真には幼い頃のクーナとハドレッドが映っている。
「……」
クーナは悲しみと懐かしさが混ざった表情で写真を見つめており、その表情を見てキリトも何か察したのか何も言わずにクーナを見守っていた。
「何をしている」
不意に背後から声を掛けられ、振り向くと扉の影から爺さんがこちらを覗き込んでていた。因みにクーナは声が聞こえた時から姿を消している。
「ここは駄目だ。"アレ"だ。アレが居た部屋だ」
「爺さん。ちょうど良かった。訊きたい事があってアンタを探してたんだ」
「わ、ワシは知らん!何も知らん!」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
キリトが話を持ち掛けようとしたものの、同時に爺さんは何かに怯えたように施設の奥へと逃げて行き、キリトは爺さんを追って走って行った。
「まさか、生き残りがいるとは思いませんでした。ハドレッドに全員殺されたものかと」
「本人が言っていたが、唯一の生き残りだそうだ」
「……」
「……もう少しここに残ってても良いんだぞ。思い出に浸りたい時もあるだろ」
「お心遣い感謝します。しかし、わたしにとってはもう過去の事。心配は不要です。行きましょう、彼らを見失ってしまいます」
写真を元あった位置に戻し、クーナは再び姿を消してキリト達の後を追った。私はクーナが置いた写真をストレージに入れ、彼女に続いてキリト達に合流した。
「ワシらは研究機関
「ヴォイド?」
「オラクル船団全体の管理・維持、アークスの武器や防具の研究を行っている研究機関だ」
「お前さん、良く調べておるな。そのヴォイドの研究所の1つが、ここなのだ」
辿り着いたのは他の部屋よりも一際広く、様々な器具が置いてある。もっとも、どれも壊れていて使い物にはならさそうだが。
「何の実験をしていたんだ?」
「アークスの強化実験。そしてもう一つ、人工的に龍を作り出し、意のままに操る研究。ワシらはこれを"造龍"と呼んだ」
「造龍……生体兵器か」
「ワシの研究は龍とアークスの融合。アークスの力は極限まで引き出され、優秀な検体は重要な任務を与えられるようになった!」
宇宙を飛び回り、ダーカーを滅するという目的で作られたアークスからすれば、聞こえのいい話だろう。だがその実態は言葉では言い表せないほど残酷なもので、話を聞いていても気分を害するばかりだ。
「だがあの日、ハドレッドは暴走……任務に出ていた検体以外は皆死んだ。他の研究者も殺され、ワシだけが生き残った」
「それで、良く3年もこんな所で生き延びられましたね。本当にご無事だとは思いませんでした」
そう言いながら姿を現すクーナ。爺さんはクーナが近づくと、悲鳴を上げて逃げだした。
「く、クーナ……⁉ワシを殺しに来たのか?」
「いえ、わたしはこちらの方々に案内されただけです。あの日、唯一生き残った貴方なら、ハドレッドの事を知っているのではないですか?」
「ハドレッド‼そうだ、あの龍だ。あの化物が全てをぶち壊した!本当はお前だったんだ!ワシが実験しようと思ったのは……お前さえ、大人しく被検体になっていれば!お前が実験を受けてさえいれば!皆死なずに済んだんだ‼」
そうして爺さんは語り始めた。あの日、研究員たちは"ある人物"からの圧力により、本来よりも早い段階で実験を進める必要があった。その実験とは、「ダーカー因子の投与による狂化実験」何と馬鹿げた、そして狂った実験だ。その実験を初めはクーナにするつもりだった。当の本人には実験の事は何ひとつ伝えずにだ。
恐らくハドレッドはクーナの危機を悟ったのだろう。クーナを庇うように立ち塞がったハドレッドに、研究員たちは仕方なく実験対象をハドレッドに変更したのだ。それが悲劇の始まりだとは知らずに……
「……何もかも台無しになった。お前が全てをぶち壊した!」
「爺さん、自己陶酔もいい加減にしたらどうだ」
一方的にクーナを非難する爺さんを私は威圧しながら咎める。爺さんは一瞬怯んだようにも見えたが、すぐに私へと標的を変えて睨み付けてきた。
「貴様……お前等アークスが誰のお陰でダーカーと戦えてるのか、考えた事あるのか⁉」
全ては自分の実験の成果だとでも言いたげな爺さん。勿論、全てがこの爺さんのお陰という訳ではない。寧ろ、研究員という役職さえ与えてさえいれば、"奴"にとっては誰でも良かった筈だ。
――それにそもそも、今の私はアークスではないしな。
「予定通りなら実験は次の段階に進むはずだった。アークスと造龍を融合させて、ダークファルスなど足下にも及ばない最強の戦士が生まれる筈だったんだ!……いや、まだ間に合う!クーナがハドレッドと融合すれば良い。何故今まで気が付かなかったんだ!あんなに仲の良かったお前達じゃ!絶対に成功する!さあクーナ、一緒に来なさい」
ふらふらと立ち上がり、おぼつかない足取りでクーナに近づいていく爺さん。そして爺さんの手が彼女の手に触れる寸前、
「わたしにッ「彼女に触るな、下種が」⁉」
クーナの横すれすれで通り過ぎたコートエッジが爺さんの髪の毛を斬り落とし、そのまま後ろの壁に突き刺さった。
その場にいた全員が一種、何が起きたか理解していなかったが、爺さん1人だけは声も出ないほど怯えながら後退り、腰を抜かせていた。
「貴様はそうやって、一体どれだけの人間の人生を踏み躙った!何も知らない彼女が、今までどんな思いをしてたか、考えた事はあるのか!散々好き勝手にして、失敗したら全ての責任を負わせ、今度は再び実験体になれだと?クーナも、ハドレッドも、それ以外の全ての被検体たちも、貴様の都合のいい
壁に刺さったコートエッジを引き抜き、もう一度爺さんの近くに突き刺しながら、私は爺さん越しに私達を観察し、嘲笑っているであろう"奴"に向けて激昂した。
▼
クーナside――――
わたし達は奇跡的に無事だった仮眠ルームで休息を取る事にしました。
「彼は、元の世界に帰りましたか」
「ああ。君も休んだ方が良い。今日は疲れたはずだ」
先程の話は衝撃的な事ばかりでした。あの日、ハドレッドはわたしを守る為にあんな行動を取ったと知り、わたしは何を信じればいいか分からなくなっていました。だからなのでしょうか、彼になら気を許していいように思え、気付けば彼の隣で横になっていました。
「クーナ?」
「すみません。しばらくの間で良いので、このままで居させてください」
ふと冷静になってみると、自分がとんでもない行動をしている事に気が付いた。
何故わたしは彼がいる仮眠用ベッドで横になっているのか。何故わたしは彼の手を握っているのか。わたしは、あたしは……どうして、涙を流して……。
そこまで思考がはっきりした途端、ダムが決壊したように流れる涙を自分の意志では止められなかった。
――一体どれほどの間、そうしていたのだろう。
涙はいつの間にか止まっていた。その間、彼はわたしの手を振りほどく事はせず、わたしに付き合ってくれた。もう十分落ち着いてはいるのに、彼の手を離すことは何故か出来なかった。
「……ごめんなさい。変な所を見せてしまいました」
「私は何も見ていない。何も聞いてない。ただ君が落ち着くように、そばに居た。それだけだ」
「それは……ふっ、ふふっ、バッチリ聞いてるじゃない」
久しぶりに素が出してしまったが、そんな事はどうでもない良かった。どこか心地よくて、何故か落ち着ける彼の手を握り直し、あたしは押し寄せてきた眠気に任せて瞼を閉じた。
――あたしは、本当にどうかしてしまったのかもしれない。
そうじゃないと、こんな夢は見ない。懐かしくて、温かくて、どれだけ強く願っても、絶対に戻って来ることはない。あたしと
今回はここまで。また次回もよろしくお願いします。