仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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お待たせしました。第78話です。

いつも感想、誤字報告、ありがとうございます!



第78話 改変

 

 

「行きますよ!パパ!」

 

 

「うおっ⁉やったなユイ。お返しだ!」

 

 

「もう!2人共、遊びに来たわけじゃないんだよ!」

 

 

「まあまあアスナ、今くらい良いじゃない。……えい!」

 

 

浅瀬で互いに水の掛け合いをしているキリトとユイちゃんを注意するアスナ。そんなアスナの隣ではリズベッドがアスナを宥めながら、手ですくった海水をアスナに掛けた。

 

 

「ちょっ⁉もー、リズまで何するのよ!」

 

 

「最近のキリトもそうだけど、アスナも少し張り詰めすぎよ。今はエネミーも居ないんだし、息抜きぐらいしても良いんじゃない?っという訳で、もう一発!シリカにも!」

 

 

「わっ⁉リーズー、二度目は許さないよ!」

 

 

「きゃっ⁉リズさん、やりましたね!ピナ!ウォーターブレス!」

 

 

「ちょっと!それは反則でしょお‼」

 

 

アスナだけに飽き足らず、近くでピナと戯れていたシリカに水を掛けたリズベッド。だが、すぐにシリカの指示を受けたピナが腹いっぱいに海水を吸い込み、一息に吐き出すという疑似的なウォーターブレスをくらい、大きな水飛沫を上げながら海の中に沈んでいった。

 

 

《惑星ウォパル》。最近発見された惑星で、表面のほとんどが海で覆われている。今回私達は派遣された調査班の護衛として同行しているのだが、皆が早速任務を放棄し海で遊び始めた。

 

 

「次来るときは、前みたいに海水浴したいですね。今度はシノンさん達も一緒に」

 

 

「お!そりゃあ良いな!その時はマトイちゃんも連れて来ようぜ、ペルソナ!」

 

 

「……」

 

 

「おいペルソナ、聞いてんのか?」

 

 

「ん?ああ、すまない。少し呆けていた」

 

 

「ったく、しっかりしろよ。お前さんらしくねえぞ」

 

 

「大丈夫ですか?どこか調子が悪いとか」

 

 

「いや問題ない。仮想世界とは言え、これほど広く綺麗な海を見るのは初めてでな。つい見入ってしまっていた。少し辺りを見て回ってくる」

 

 

適当な理由を付けてクラインとリーファから離れる。……変に心配をされてなければいいが。

 

 

「おーい相棒!」

 

 

「アフィンか」

 

 

ぶらぶらと歩いていると、私達と同じく護衛として来ていたのだろうアフィンと出会った。

 

 

「ウォパルってすげえ星だよな。ほとんどが海なんだぜ」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

「……オレ、海初めてなんだよ!」

 

 

そう言って突然駆け出したアフィン。そのまま海に突っ込んでいき、全身ずぶ濡れになったあげく、頭に海藻を乗せて海から上がってきた。

 

 

「相棒、忠告しとくぞ。海の水はな……ものすごくしょっぱい!」

 

 

そんな当たり前の事を叫ぶアフィンに、思わず笑みがこぼれる。そいう言えば、前世でも私が悩んでいた時、こうやって励ましてもらったな。

 

 

「ようやく笑ったな、相棒。ずっと元気なさそうだったからな。話してみろよ、楽になるぞ」

 

 

「良いのか?」

 

 

「何でも相談なさい。このアフィン様に」

 

 

偉そうなのが少し癪に触るが、ここで何も言わない方がアフィンに失礼か。

 

 

「もし、私の世界から来た者たちがこの世界の住人の命を奪っていたら、お前はどう思う」

 

 

「それって、最近噂になってるか?オレは信じてないぜ。相棒たちはそんな事しないだろ」

 

 

「仮の話だ。そんな事が起きたらお前はどう思う」

 

 

「……そりゃ許せないだろうさ。でも、相棒たちとは関係ない。それは絶対だ」

 

 

当然っという表情で断言するアフィン。「それに」っと言葉を紡ぐ。

 

 

「もし相棒が何かやらかすってなら、オレが止めてやるから安心しろよ!」

 

 

「!」

 

 

意外過ぎるその言葉に私は呆気に取られるも、暫くして段々と可笑しくなってきて、つい吹き出してしまった。

 

 

「な、何だよ相棒!オレ別に変な事言ってないだろ!」

 

 

「すまない。もしそうなった時は……頼りにしている」

 

 

「おいおい、冗談でも言わないでくれよ」

 

 

「もしもの話だ。本気にするな」

 

 

口ではそう言ったが、アフィンを頼りにしているのは本当だ。コイツなら、私が間違いを起こした時、私の事を正してくれるはずだ。前世でも最後まで私の味方となり、マトイの事について共に悩み苦しんでくれた。誰よりも信頼できる男だ。

 

 

――なのに私は、結局1人で突っ走って……謝っておきたかったな。

 

 

「ちょっとあなた達!今は任務中なんだから任務に集中しなさい!」

 

 

突然、聞き覚えのある声に叱責を受けた。声が聞こえた方へ視線を向けると、そこにはエルダー戦以来まったく会うことがなかったエコーがいた。しかし、衣装が変わっており、全体的に露出が少なく――肩や胸元は少し空いているが――赤を基調としており、武器もロッドからソードに変わっていた。

 

 

「えぇ⁉エコーさん⁉」

 

 

「どう?少しはハンターらしく見えるかな?」

 

 

呆気に取られているアフィンを余所に、エコーは胸を張ってそんな事を聞いてきた。

 

 

「どうしちゃったんですか?」

 

 

「何?おかしい?」

 

 

「い、いえ、とっても似合ってます!」

 

 

「適性はフォースの筈だろ?何故ハンターに?」

 

 

「正直、まだ慣れてないわ。でも、ゼノが帰ってくるまで、あたしが頑張らなきゃ」

 

 

突然だが、アークスは世代ごとにクラス適性が異なる。エコーやゼノ達、第二世代アークスは適正外のクラスになれるものの、フォトン傾向などの問題から、クラス本来の能力を発揮できない。

 

 

因みに、ゼノも適性はレンジャーだったのだが、ある理由から今のエコーのようにハンターにクラスを変更していた。きっと、エコーはゼノの代わりになろうとしているのだろう。

 

 

「ダーカーだ‼」

 

 

突然、調査員の誰かがそう叫んだ。何処からか現れた鳥型ダーカーの《ランズ・ヴァレーダ》が、私達の頭上を旋回する。

 

 

「こんな星にまでダーカーが⁉」

 

 

「私が引き付ける。2人は調査班を安全な所に避難させてくれ!」

 

 

「了解!」

 

 

「分かったわ!」

 

 

調査班の下へ急ぐアフィンとエコーと入れ替わるように、キリトが駆け付けてきた。

 

 

「加勢する!」

 

 

「助かる。気を付けろ、面倒な相手だ」

 

 

「分かった。気を付けるよ」

 

 

ヴァレーダが複数のエネルギー弾を放つ。私とキリトは冷静に回避するが、エネルギー弾によって舞い上がった砂埃に視界を遮られる。その一瞬の隙を突いて、ヴァレーダがキリト目掛けて突進してきた。

 

 

「くっ⁉」

 

 

煙の中から目の前に現れたヴァレーダに対し、防御姿勢を取るキリト。それと同時に、キリトの後ろから飛来した(フォイエ)系テクニックが炸裂し、キリトを巻き込んでヴァレーダを吹き飛ばした。

 

 

「無事か?キリト」

 

 

「ああ、何とか……でも一体何が」

 

 

「……ああ、キリトさん。僕の邪魔をしないでくれませんか?僕はウルクの為にダーカーを殺し尽くすんです。ウルク遅いなー。ああそっか、怪我したんだっけ?」

 

 

倒れているキリトを支えながらテクニックが飛んできた方を見ると、虚ろな目をしたテオドールが立っていた。今世で私と彼は初対面だが、彼が正気ではないという事は彼の表情と目の奥が濁っているのを見れば一目瞭然だ。

 

 

「僕がダーカーを、殺し尽くしていれば良かったんだ」

 

 

そう言いながら、こちらに手を向ける。直後、敵感知に追加のダーカーが引っ掛かる。同時に、周囲の空気が冷気に包まれ、(バータ)系テクニックが新手のダーカー達を全て串刺しにした。

 

 

「僕は強くならないといけないんです。ウルクの為に」

 

 

「テオ、だけどウルクは「素晴らしい!」ルーサー……!」

 

 

キリトの言葉を遮るように、後ろの岩山の上から場に合わない拍手が聞こえてくる。振り向くと、そこにルーサーが立っていた。

 

 

 

「君達がここに来たのも、シオンの差し金かい?まあいい、用があるのは君達じゃなくて、そっちの少年だ」

 

 

「何ですか?あなたも僕の邪魔をするんですかぁ?」

 

 

「いや、ダーカーが邪魔なのは僕も同じだ。だから、手助けをさせてもらいたい」

 

 

「手助け?」

 

 

「君は力が欲しくないかい?そう、例えば六芒均衡を超えるほどの。君が殺したいと思うモノを殺し尽くす力」

 

 

ルーサーの誘いに、テオドールはおぼつかない足取りでルーサーの下へと歩く。

 

 

「テオ!駄目だ、耳を貸しちゃ!」

 

 

「これは彼の決断なんだ。そういう重大な決断を尊重してあげるのが、人の言う友っていうヤツじゃないのかな?」

 

 

テオドールを止めようとするキリトを制止し、薄ら笑いをしながらルーサーは一瞬でテオドールの隣に移動した。

 

 

「それじゃあ行こうか。テオドール君」

 

 

「テオドール!」

 

 

「待てキリト。無駄だ」

 

 

空間が歪んでルーサーがテオドールを連れて行こうとし、キリトが彼らを追い掛けようとしたが、その時には既に2人の姿は無かった。

 

 

「ルーサーを相手にするのは早すぎる。今はまだ、力を溜める時だ。そうだろ、サラ」

 

 

「あら、気付いてたの?ていうか、名前教えてたっけ?」

 

 

私は物陰からこちらを窺っていた人物に声を掛ける。すると岩陰から銀髪の少女が現れた。

 

 

「まあいっか。とにかく付いて来て。会わせたい奴がいるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラの後を追い、彼女が出したテレポーターに入ると、大きさの異なる青いキューブが周囲に浮かぶ不思議の場所に居た。惑星アムドゥスキアの龍祭壇エリア、龍族の故郷だ。

 

 

――こうして再びこの星を訪れる事となるとはな。

 

 

アムドゥスキアは実績を認められたアークスのみしか訪れる事が出来ない。その中でもこの龍祭壇は龍族にとっては特別な場所だ。アークスと龍族の交流が悪化している現在では、この場所に来れるアークスは限られている。

 

 

「俺達に会わせたい奴って誰なんだ?」

 

 

「まあ良いじゃない。会った方が早いって」

 

 

「……なあ、あの子本当に信じてられるのか?」

 

 

「安心しろ。今から会う小生意気な餓鬼よりは幾分か信用できる」

 

 

「あいつの言う通り、あなた色々知ってるのね。でもちょっと違うわ。正しくは、すっごく生意気なガキで、イラっとくる要素を詰め込んだ高飛車の塊よ」

 

 

「ふっ…そうだったな」

 

 

「……君はそのイラっとくる奴に従ってるのか?」

 

 

「利害が一致してるからかな。それと恩もあるしね」

 

 

キリトの質問に肩をすくめてそう答えるサラ。話を切り上げて、彼女は案内を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラの案内で奥へ進んでいくと、少し開けた場所に着いた。

 

 

「お疲れ様、サラ。因みに道中の発言、全部ぼくに筒抜けだからね」

 

 

宙に浮くブロックに座る少年がサラに向かって文句を垂れる。

 

 

「知ってる。全部聞こえるように喋ってたから」

 

 

「本当、いい性格に育ったよね」

 

 

「それはどうも。規範となる方々に囲まれてたせいかしら?」

 

 

「何だよ。こういう振る舞いが人間っぽいって教えたのは君じゃないか」

 

 

お互いに軽口をたたき合いながら、少年は座っていたブロックから飛び降りると、一瞬姿を消して私とキリトの前に再び姿を現した。

 

 

「初めましてキリト。ぼくはシャオ。シオンの弟みたいなものさ。わざわざ呼び出してごめんね。ルーサーに気付かれず君に会うには、これしかなかったんだ。シオンが見初めた君…いや君達に」

 

 

「ちゃんと認識されていたようで何よりだ」

 

 

「君も言うようになったね。前に会った時は、ぼくの言う通りに動くことしか出来なかったのに」

 

 

「あの時は貴様に従うしかないと判断したまでだ。それに、人質を取られていたからな」

 

 

「ちょっとシャオ⁉人質って聞いてないわよ!」

 

 

「それより、2人は知り合いだったのか?」

 

 

私の発言にシャオを問い詰めるサラ。そんな2人を余所に、キリトは私とシャオの関係性について聞いてくる。

 

 

「ああ、詳しい事は追々説明する。だが今は……シャオ、早く本題に移れ」

 

 

「そうだね。あまり長くルーサーを欺けないし、手短に話させて貰うよ」

 

 

「シオンもそうだけど、何でそこまでしてルーサーの目を気にするんだ?」

 

 

「ルーサーの目的はただ1つ。シオンを理解すること」

 

 

「シオンを理解?何でそんな事」

 

 

シャオの言葉にキリトは意味が分からないとでも言いたげに首を傾げた。

 

 

「言葉にしてみれば簡単だが、事は貴様の考えているほど単純じゃない」

 

 

「その通り。今のアークスはルーサーの傀儡(かいらい)に等しい状態だ。それでもギリギリ組織の形を取っていられるのは、シオンの事をルーサーが理解出来ていないから。シオンが難解な言葉を使うのは、自分をルーサーに理解させないためさ」

 

 

「でも、最近は何となく意味が分かるようになってきた気がするんだ」

 

 

「そう。彼女の言葉に意味が通ってきてしまっている。それは、ルーサーの理解が深まってしまう事でもある。あまり時間の猶予も無い。だから、本格的に君達にも動いて欲しいんだ。アークスという組織を、正しい状態に戻す為にも」

 

 

先程までのお茶らけた感じは何処へ行ったのか。別人かと思いたくなるほど真剣な表情でシャオは私達に懇願する。

 

 

「いきなりこんな事言われても中々信用できないと思う。だから1つ証拠を示させてほしい。ぼく達なら、結末を変えられるという事を」

 

 

表情を変えず、こちらへ向けるシャオ。次の瞬間、シャオの手が輝き、視界が白く染まっていく。

 

 

「さあ、改変を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……ここは?」

 

 

「ナベリウスのようだな」

 

 

光が収まり、徐々に視界がクリアになっていく。恐らくキリトは、突然の事の連続で混乱しているだろう。私がサポートしなければな。

 

 

「本当に来た。シャオの言った通りドンピシャね」

 

 

「あんた等がシャオに選ばれた奴等か。片方は頼りなさそうだけど、大丈夫なのかい?」

 

 

「サラ、それにマリアさんまで」

 

 

「へえ、アンタ等アタシに会ったことあるのかい」

 

 

「会ったも何も」

 

 

「無駄話はあと!未来のあたしにしか分からない話をするのも無しだからね!それより、急がないと間に合わなくなっちゃう」

 

 

いつの間にかナベリウスにいた事。まるで初対面のような反応をするマリア。ただでさえ混乱している中、キリトとマリアの会話に割って入るサラの言葉にキリトは更に困惑の表情を浮かべた。

 

 

「間に合わないって、何に?」

 

 

「愚問ね。あなたはここに歴史を変えに来たんでしょ?しっかりしてよ、未来のキリト」

 

 

「な、なあ……さっきから状況が整理できていないんだけど、これって俺がおかしいのか?」

 

 

少し困惑しながらも、キリトはサラやマリアに聞こえないくらい小声で、私にそう尋ねてくる。案の定、状況が理解できていないようだ。

 

 

――まあ、何の説明も無しにこの状況を理解しろという方が難しいか。

 

 

「私達は今、過去に来ている。時期的には、エルダー復活直後といった所か」

 

 

「過去だなんて、そんな……」

 

 

「信じられないのも無理はない。だが、すぐに」

 

 

話の途中で、墓標の裏から伸びてきた衝撃が、私達を襲う。

 

 

「始まった!」

 

 

一斉にその場から飛び退けると同時に、各々武器を構えて臨戦態勢を取る。そんな中、土煙の中に良く見知った人影が飲み込まれたのが見えた。

 

 

「あれは!」

 

 

キリトもその人影に気付いたようで、この場に居た誰よりも早くその人影の下へ駆け出す。同時に、私とサラ、マリアが飛び出し、キリトよりも先にマリアが、人影……"ゼノ"とエルダーの間に割り込む。

 

 

「「ハアッ‼」」

 

 

マリアがエルダーを抑えている間に、その後ろから飛び出した私とキリトがエルダーに攻撃する。

 

 

「ぬ、貴様は先程の!」

 

 

「ペルソナ!それにマリアの(あね)さん達まで⁉」

 

 

突然現れた私達に、ゼノだけでなく、エルダーも驚愕の表情を浮かべていた。当然だ。彼らからすれば、つい先程撤退した男が、仲間を引き連れて戻ってきたのだから。

 

 

「久しいねエルダー。こうして対峙するのは40年ぶりか?」

 

 

「ハッハッハッハッ!40年前の闘争、アレは素晴らしきものであった!」

 

 

「素晴らしい?アークスを壊滅寸前まで追いやった戦いが?」

 

 

「互いに死力を尽くし、そして果てる。この上ない甘美なる体験であった!」

 

 

「大勢の仲間が死んだんだ。甘美なんて言葉で穢すな!」

 

 

エルダーの言葉に対し声を荒げるマリア。エルダーに向けるパルチザンが怒りで震えていた。

 

 

「今ここでアタシがアンタを()る。40年前……アルマやカスラやレギアス、そしてアタシが出来なかった事をやり直す!」

 

 

「姐さん、俺も……くっ!」

 

 

加勢しようとソードを構え直すゼノだったが、エルダーを抑えていた際に負った傷が痛むのだろう、すぐその場に蹲った。

 

 

「怪我人は邪魔だ。下がってな。キリト、ペルソナ。アンタ等もサラも、気圧されてるならいらないよ」

 

 

「じょ、冗談!あたし達だってやれるわよ!」

 

 

張り詰めた空気の中、エルダーとの戦闘が始まった。

 

 

まずはマリアが先行してエルダーに攻撃を仕掛ける。

 

 

マリアの攻撃をエルダーは右手で弾く。衝撃で後ろに下がったエルダーに向けてサラが《ワイヤードランス》の先端を飛ばすものの、エルダーは身をひねってそれを避け、伸びきったワイヤーが戻らないままのサラを殴り付けようとする。無論、そんな事させるつもりないが。

 

 

「ハァ!」

 

 

エルダーの拳を私の武器で防ぐ。続けて浄化能力でエルダーの力を喰らう事で、力を失った奴の腕は青白く変色していく。

 

 

「ぬぅ⁉」

 

 

「スイッチ!」

 

 

「ダァ!」

 

 

エルダーが自身に起きた異変を理解しきる前に、私は奴の腕をかち上げながら後退。入れ替わったキリトの突進攻撃(ヴォーパル・ストライク)が直撃し、大ダメージを受けたエルダーは膝を付いた。

 

 

「足りぬ……!我が力が奪われていく……このような事が何故……!そうか、貴様が成し得ているのか!おのれ!力も体も、何もかもが喰い足りぬ!何処だ、何処にある!我が力、我が体!」

 

 

怒りと憎悪の言葉を吐き周囲を見渡すエルダー。やがて何かを感じ取ったのか、奴の注意は完全に奴の背後にある巨大な柱へと向いた。

 

 

「そうか、そこかァッ!」

 

 

「おいおい、余所見するなよ。アンタは今この場でアタシが()るって言っただろうが!」

 

 

(つい)えよ!閻斧(えんぶ)ラビュリス!」

 

 

腕を天高く掲げ、力強く叫ぶマリアの元に遥か上空から巨大な両刃斧が落ちてきた。

 

 

「デヤァッ‼」

 

 

力強く振り下ろされた斧がエルダーとぶつかり、大きな重力場が発生し、エルダーの体がその場に埋まっていく。

 

 

「ぐ、ぬ、がああああああっ!」

 

 

「昔のアンタなら、これくらいの重力、易々と断ち切っていただろ!」

 

 

「我が体、戻りさえすれば……!」

 

 

(こうべ)を垂れ、無念のままに朽ち果てろ!」

 

 

――そろそろか。

 

 

タイミングを見計らい、私はマリアとエルダーの間に飛び込む。私の行動にその場にいた全員が驚愕する中、私はマリアの隣に現れるであろう人物に向かって剣を振るう。

 

 

「邪魔はさせない」

 

 

私の剣の矛先に仮面の男……アッシュが姿を現す。かつての私もこの場面でエルダーを完全復活させる為に時間遡行能力でマリアを妨害した。今回は私が私自身を妨害する側だ。

 

 

「それはこちらの台詞……ですよ」

 

 

全て記憶通りに進むと思っていた矢先、私の前に現れたのはヴァベルと呼ばれていた仮面の少女。ダーカー強襲時も、エルダーとの戦いでキリトが固定アームを破壊する際にも姿を現さなかったとキリトから聞いていた。とは言っても、決して警戒していなかった訳ではない。だが私が防御態勢を取るよりも速く、紫色に輝くコート・ダブリスDの剣先が目にも止まらぬ速さで"11回"、私の体に打ち込まれた。

 

 

――これは、マザーズ・ロザリオ……だが、何故ッ。

 

 

そんな疑問を抱くものの、マリアの拘束から解放されたエルダーが巨塔の中に入り、大きな地響きが起こる。こうなると完全復活は止められない。

 

 

「みんな!ここは退くよ!」

 

 

「はい!ペルソナ、掴まれ」

 

 

「すまない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリア達が乗ってきたキャンプシップで宇宙空間まで退避した私達。エルダーを1人で抑えていたのもあってか、ゼノが崩れ落ちるように倒れた。

 

 

「すまねえなペルソナ、キリト。助けられちまったな」

 

 

「助けたなんて、大袈裟だよ」

 

 

「エルダー相手に1人で戦って生き延びてること自体奇跡だよ。ゼノ坊」

 

 

「その呼び方やめろって姐さん。俺があいつを引き付けるって、カスラさんに大見得切ったのに」

 

 

悔しがるゼノとは裏腹に、マリアはゼノの口から出たカスラの名前に怪訝な表情を浮かべていた。

 

 

「情けないよな。このままじゃ俺は、誰も守れなくなっちまう……!」

 

 

「そんな事「そりゃそうだろうね」」

 

 

弱音を吐くゼノをフォローしようとするキリトに被せて、マリアが容赦ない言葉を放つ。

 

 

「そんな自分勝手なハンターを続けてる限り、アンタには無理だよ。だけど、そういう馬鹿正直に意思を貫く奴は嫌いじゃない。だから、アタシがアンタを鍛え直してやる」

 

 

「いいのか、姐さん?」

 

 

「もちろん貸しにするんだよ。エルダーも止められなかったし、こっちにも思惑があるってことさ……サラ、シャオによろしく伝えといてくれよ」

 

 

「……元よりそのつもり。だってさ」

 

 

「ありがてぇ。ペルソナ、キリト、迷惑ついでに1つお願いだ。俺が無事ってことは他の奴等には内緒にしといてくれ。特にエコーにはな」

 

 

「でもゼノ。彼女(エコー)は君のことを」

 

 

「あいつ感情を抑えられないからな。俺が生きてるって知れば顔に出ちまう。そうなりゃ、姐さんの計画もおしまいだ。それにその方が、あいつにとって良い薬になると思うんだ。大丈夫、ケジメをつけて必ず戻るから……だからそれまであいつの事、よろしく頼むわ」

 

 

ゼノがそう口にする最中、私とキリトを眩い光が包み込む。

 

 

――どうやら、時間のようだな。

 

 

その時、私はふとある事を思い出し、マリアにマトイの写真を見せた。

 

 

「誰だい?この子は」

 

 

「私達の仲間だ。詳しい事は話せないが、今から大量のファルスアームがアークスシップを襲う。この時代の私が合流するまでの間で良い、この子を守って欲しい」

 

 

「何だいまた面倒事かい。……ま、ゼノ坊の事もある。考えておくよ」

 

 

乗り気ではない表情でそう言い放つマリアだが、この後の展開を知っている身としては、そんな生返事でも気が楽になる。

 

 

――まあこの女なら、こんな回りくどい事をしなくても勝手に彼女を救っていただろうが。

 

 

そう思っていると私達を包む光はより一層輝きを増した。暫くして視界が戻ると、私達の目の前にはシャオとサラが立っていた。どうやら元の時間に戻ってきたらしい。

 

 

「どう?少しはぼく達の事を信用してくれた?」

 

 

「俺達は一体、何をしたんだ?」

 

 

「君達は過去を改変し、ゼノを助けた。何でぼく達がそんな事をさせたかは、聞かないでくれるかな。ほんの些細な情報でも、未来に大きな変化をもたらすから」

 

 

「……」

 

 

シャオの言葉に疑いの眼を向けるキリトの様子にシャオは苦笑した。

 

 

「まあ、何もかもを信じてくれなんて無茶は言わないよ。でも今回の改変は、アークスが正しい姿へと戻るために必要だという事だけは信じてくれないかな?」

 

 

「……分かった。まだ納得いかない部分はあるけど、君達に協力するよ」

 

 

「ありがとう、キリト」

 

 

「って、君の意見も聞かずに勝手に決めちゃって悪い」

 

 

「気にするな。貴様がそう言うだろう事は、前から知っていた。だが……」

 

 

私を完全に除け者にして話を進めた事を謝罪するキリトにそう返し、私はシャオの方に向き直る。

 

 

「気になる事がある。その答えを貴様が提示しない限り、私は協力できない」

 

 

「そうだね。君には知る権利がある。でもその前に、2人には退席してもらおう」

 

 

私の言葉に対し、シャオは初めから私がそう切り出すことが分かっていたかのように指を鳴らす。すると、キリトとサラが龍祭壇から強制転移された。

 

 

「彼らにも知っておく権利はあると思うが?」

 

 

「キリトはともかく、サラがこの事実を知ってしまったらどうなるか分からないからね」

 

 

「……相変わらずの過保護っぷりだな」

 

 

「でもそれは、君のせいでもある。何せぼく達は、"君の記憶から再現された"んだから」

 

 

皮肉のつもりだった言葉を皮肉で返され、私は後ろ髪をかいた。今ので答えは出たようなものだ。

 

 

「それじゃ改めて、君が知りたい事に答えよう。この"再現された世界(ニセモノのオラクル)"について」

 

 

 

 

 





今回はここまで。また次回もよろしくお願いします。
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