仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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お待たせしました。第79話です。



第79話 造られた世界

 

「私の記憶から再現された世界」

 

 

「君のことだ。気付いてはいたんじゃない?」

 

 

「可能性として考えてはいた。予想が外れている事を期待したが……」

 

 

――やり直せる機会を貰えたと、我ながら都合のいい解釈をしたものだ。

 

 

「そう悲観する事もないんじゃないって、昔のぼくなら言っただろうね。今のぼくは、君がどんな思いであの結末を選択したのか識っている。それを承知でぼく……いや僕達はもう一度この世界の運命を託したい」

 

 

「結末が分かりきっている世界のか?また私に同じ未来を辿れと?」

 

 

「同じ結末を迎えるかどうかは、今後の君達の行動次第だけどね」

 

 

「……どういう意味だ?」

 

 

慰めのつもりで出た言葉なら今すぐこの場で斬り捨てるつもりだったが、振り返った私が見たシャオの眼はとても機械的で、初めて見る氷のような瞳に思わずたじろぐ。私の動揺を見通してか、シャオは悪戯っぽく笑いながら近づいてくる。

 

 

「さっきも説明したけど、ここは君の記憶から再現された世界。だけど、仮想世界である以上、オラクルの存在を知る誰かがザ・シードにデザインする必要がある。君以外にオラクルの存在を知る人間と言えば……」

 

 

「茅場晶彦……だが奴は既に」

 

 

「そう。人間としての茅場昌彦は既に死んでいる。でも彼の意識はデータに変換され、今もネットワークのどこかで君達の事を観察している」

 

 

――そう言えばそんな事にもなっていたか。

 

 

「だが、今になって奴が介入してくる理由は何だ?奴にメリットがあるとは思えないが」

 

 

「メリットならあるよ。彼は自分の知らない《ソードアート・オンライン》の物語を楽しめる」

 

 

「随分と詳しいな。まさか《物語》の事まで知っているとは思わなかった」

 

 

《物語》…それは茅彦が奴の前世とやらで世界の元となった小説の事らしい。

 

 

――私も詳しくは知らないが。

 

 

「彼は君が関わる事で紡がれていく物語を楽しんでいる。でもそれはあくまで《物語》を基盤として進んでいくストーリーに過ぎない。だからこそ《物語》にない君だけの物語を見る為に、彼はオラクルを作った。《君の世界》にキリト達が関わる事で起こる変化。君の呪われた運命が変わるかもしれないという可能性に賭けてね」

 

 

「私の運命が変わる……」

 

 

いずれ行きつくであろうマトイの死という結末。運命とやらがその事を指すのであれば私の運命は呪われていると言える。だが運命を変えるというのは、言葉にする以上に難しい話だ。実際、私は運命に抗い、苦悩し、幾千という可能性を試した。それでも運命は変わらなかった。

 

 

「あくまで可能性の話さ。必ずしも全ての運命が変わる訳じゃない。ただ今のままだと君は前と同じ結末を迎える事になる。それを阻止する為に僕達はカーディナルから君を新たな未来へと導く役割を与えられた。君の過去や外の世界について詳しいのは、それが理由さ」

 

 

「それで、また昔のように私をサポートする役割に徹していたと」

 

 

「その通り」

 

 

ようやく理解してくれたかな?っと憎たらしい顔で聞いてくるシャオ。この世界が生まれた経緯については良く分かった。だが、

 

 

「何故、お前達は私に力を貸す。今のお前やシオンに私を助ける義理はない筈だ」

 

 

「……君の言う通り今の僕達に君を助ける理由はない。再現されただけのサラ達と違って自分がどんな存在か理解している。ある程度は自由に出来るから与えられた役割なんていつでも放棄できる。少し無茶をすれば、君の意識を完全に崩壊させる事も可能だった」

 

 

言葉とは裏腹にシャオが向ける眼差しは穏やかだった。

 

 

「でも出来なかった。罪悪感かな?あの日ぼくは君かマトイのどちらかを犠牲にしてでも、オラクルを守ろうとした。結果【深遠なる闇】は消え、宇宙は平和を取り戻した。君とマトイ、両方を失うという最悪の形でね」

 

 

「……」

 

 

「勝手な話だと思う。でも、どうしても君の力が必要なんだ。あとでどんな罰を受けたって構わない。もう一度、僕達から力を貸して欲しい」

 

 

そう言ってシャオは手を私の前に出す。だが、私にはその手を握り返せなかった。

 

 

「……まあ急に色々言われて君も混乱してるだろうし、答えはすぐじゃなくて構わない。ゆっくり考えて今の君の選択を聞かせて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界――

 

 

 

――ゆっくり考えろと言われてもな。

 

 

ログアウトしてからというもの、私はシャオと協力関係を結ぶべきかどうか悩んでいた……というか、悩む以前にルーサー打倒の為、シャオとの協力関係は必ず結ばなければならない。問題はその先、マトイを救えるかどうかだ。

 

 

「再現されただけのなら、運命は変えられないと割り切れたんだがな」

 

 

――今更だ。今更私に彼女を救う資格があるのか?

 

 

――コンコン――

 

 

不意に扉がノックされ、飛び起きた私はゆっくりと部屋の扉を開ける。扉の向こうには母が立っていた。

 

 

「あ、良かった戻ってきてたのね。アンタに電話が来てたよ。あの総務省の役人から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、待ってたよ」

 

 

「わざわざ自宅の電話に掛けてくるとは、よほどの用事なんだろうな?」

 

 

「ごめんごめん。どうしても君と連絡が付かなかったからね。現実世界(こっち)でも仮想世界(あっち)でも」

 

 

「それは……悪かったな」

 

 

恐らくシャオの仕業だろうと私は考えたが、菊岡には何も言わないでおこう。話してもどうせ信じないと思うが、変に興味を持たれても面倒だ。

 

 

「それより、結局何の用なんだ」

 

 

「……付いて来て」

 

 

一瞬、菊岡の表情が強張ったのが気になったが、取り敢えず今は奴の言葉に従う事にし、菊岡の後を付いていく。暫く歩いていると厳重に警備された地下室の前まで来た。

 

 

「随分と物々しいな」

 

 

「とても危険な人物を収容していてね。今は身動き一つ取れないくらい拘束して大人しくなっているけど、ボクより前に出ないでね」

 

 

菊岡の言葉に頷き、部屋の中に入った私が見たのは、十字に貼りつけられ、全身を鎖と鉄の枷で拘束された白髪の男の姿だった。

 

 

「誰だ?」

 

 

「金本敦。SAOでジョニー・ブラックと名乗っていた人物さ」

 

 

――ジョニー・ブラック……まさかこんな形で会うことになるとはな。

 

 

「確かに奴は危険だが、ここまでする必要があるのか?いくら何でもやり過ぎだと思うが」

 

 

「これを見てくれ。逮捕時の映像だ」

 

 

菊岡から渡されたタブレットの映像には、複数人の警官に囲まれている金本が映っている。誰が見ても追い詰められているにも拘わらず、不気味に笑う金本。次の瞬間、奴がクイッと右手の指を動かすと、地面から黒い煙が発生し、とても見覚えのある黒い蟲……ダガンが現れた。

 

 

「ボクも初めて見た時は驚いたよ。でもこれは紛れもなく現実さ。彼が呼びだしたモンスターは何とか殲滅できたんだけど、今回の件に関わった警官のほとんどが幻覚を見て錯乱したり、以前よりも攻撃的な性格になっているという報告を受けている」

 

 

菊岡が話す症状はどれもダーカー因子の影響を受けた人間のそれと同じだった。

 

 

――まるでダーカーが現実世界に侵食してきたようだな。

 

 

そんなあり得ない事を考えていると、寝苦しそうな声を上げながら金本が目を覚ました。

 

 

「ウルサイよ。ようやくこの体勢でも寝れるようになったのに……ん?誰」

 

 

不機嫌そうにそう知った金本は私の存在に気が付くと私を見て少し考えるように私を睨み、暫くして大きく目を見開いた。

 

 

「あーオマエ、ペルソナだっけ?いつもの仮面付けてなかったから気付かなかった」

 

 

「久しぶりだな。ジョニー・ブラック」

 

 

――何故私だと分かった?奴の前で素顔をさらした事はない筈だが。

 

 

一瞬、そんな疑問が浮かんだが、私はすぐに思考を切り替える。今はそんな事どうでもいい。

 

 

「貴様、これはどういう事だ」

 

 

私がタブレットの画面を見せると、金本は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「ああそれ?驚いたでしょ。僕もヘッドからこの力を貰った時は驚いたからね」

 

 

「PoHだと…⁉」

 

 

「PoHって君やキリト君が言ってたラフコフのリーダー!まさか日本にいたなんて…!」

 

 

菊岡はPoHが日本にいた事に驚いているが、真に気にするべきはPoHからダーカーを操る力を貰ったという所だ。

 

 

「答えろ。PoHはどこに居る。奴はどこでその力を手に入れた!」

 

 

「へぇー、やっぱりオマエはこの力の事知ってるんだ。ヘッドの言ってた通りだ。だけど残念。ヘッドがこの力をどこで手に入れたかは知らない。警察から逃げてたらいきなりヘッドが目の前に現れてこの力をくれたんだ。どうせ捕まるくらいなら最後にひと暴れしてやろうぜってね。あの後ヘッドが何処に行ったか知らないよ」

 

 

そう言いながら煽るように笑う金本。その様子に殺意を覚えるが、今の奴には手を出せない為、代わりに渾身の力で目の前のガラスを殴り、無理矢理にでも冷静さを取り戻す。

 

 

私の行動には静観していた警官達も流石に驚いたようで、近づこうとする警官を菊岡が抑えているのが視界の端に映った。

 

 

「最後に、1つだけ答えろ。《死銃(デス・ガン)事件》の首謀者は貴様とザザ、新川恭二の3人で全員か」

 

 

「死銃、懐かしいな。今更そんな事が「良いから答えろ!」…そうだよ」

 

 

先程まで煽り口調で面白そうにしていた金本だったが、私がこれ以上煽りに乗ってこない事に気付くとガッカリしたように溜息を吐き、死銃事件の詳細を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとう。彼があんなに話したのは君が来てくれたお陰だよ」

 

 

「出てきたのはザザの証言と全く同じ内容だったがな」

 

 

「充分な成果さ。少なくともこれで死銃事件は本当の意味で終わった訳だし。そうだ!ボクの奢りでお祝いしようか?朝田詩乃さんも呼んでさ」

 

 

「その言葉。本気で言っているなら、今度GGOにログインするんだな。貴様の能天気な頭を撃ち抜いてやる」

 

 

「ご、ごめんって。今のはボクが無神経すぎた」

 

 

調子良く笑う菊岡を睨むと、菊岡は顔を引きつりながら謝罪する。

 

 

「金本の事は私からキリト達に伝えておく。だが奴が使った力については黙っていろ」

 

 

「金本も言ってたけど、君は彼が使った力について何か知ってるみたいだね。話して貰えるかい?」

 

 

「私に聞くより、PoHを捕まえた方が詳しい話を聞けると思うが?」

 

 

菊岡からの問い詰めに皮肉を込めてそう返すと、菊岡は「確かにそれもそうだ」っと言いつつも、微妙に納得できないとでも言いたげな表情をしていた。私は菊岡からの追求を避ける為に足早に帰宅したが、心の中はモヤモヤしている。

 

 

シャオやルーサーと関わり出したのとほぼ同じタイミングで起きた今回の件。偶然と言ってしまえばそれまでだが、偶然にしては余りにも出来過ぎている。それに、やはり気になるのはPoHがダーカーを操る力を所持していたという事だ。

 

 

――普通ただの人間がダーカーを操る力を手に入れられる訳がない。となると……、

 

 

その時、私の脳裏に「そういう事」を楽しむ男の顔が浮かんだ。

 

 

「PoHが誰かと手を組むとは思えないが、最悪を想定しておいた方が良いかもしれないな」

 

 

 

 





お久しぶりです。
前回の投稿から何と4ヶ月⁉︎
いつの間にかSAOクリアされてるし、もう今年も終わっちゃうよ!

……はい。すみません。決してサボってた訳じゃありません。

前話を投稿した直後から書き始めてはいたんです。
リアルの仕事にも集中しようと早く寝るように心掛けてたら、中々続きを書く時間が取れず……休日を使って続きを少しずつ書いていたんですけど、時間が経つにつれて「なんか違うなあ」という感じで話の内容を修正して、書いては修正、書いては修正を繰り返してる内に気付けば大晦日の夜。
「ヤベェ!今年終わる!」((((;゚Д゚)))))))
そんな感じですごい駆け足気味で終わらせたので、いつも以上に読みづらくなってたら申し訳ないです。

何やかんやで今年も終わりますが、こうして続けられているのも、読者の皆様からの温かい感想のお陰です。

また次回も遅くなるかもしれませんが、来年もしぶとく続けていきますので、どうか今まで通り、温かく見守って頂けると幸いです。

それでは皆様、良いお年を。
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