仮面の男と仮想世界   作:オンドゥル暇人

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お待たせしました。第81話です。

今回はキリト君メインになります。



第81話 過去と未来

 

ウォパルから戻ってきた俺はマイルームに戻ってきた。

 

 

遅い時間だからかアスナ達はもうログアウトして居ない。ユイは別の部屋に設置しているベッドで眠っている。

 

 

そんな静かな部屋で背後に気配を感じ、振り返ると、シオンが立っていた。

 

 

「シオン……」

 

 

「……いつも彼に苦悩を強いてきた。そして今度は貴方達にも、彼と同じ苦悩を強いる事となってしまった。……謝罪と感謝を」

 

 

「どうして俺やペルソナに助けを求めるんだ。シオンなら未来に起こる事が全て分かるんだろ?」

 

 

「全知は全能ではない。彼に待つのが破滅の運命と知っておきながら、その事実を伝えようとせず、ただ成り行きを見守る事しかしなかった。私は時に思う事がある。原初の邂逅まで遡り、全てを無かった事にするのが最良なのかもしれないと」

 

 

「全てを無かった事に……そうか!過去に戻ってエルダーの復活を無かった事にできれば、ゲッテムハルトやエルダー戦で被害に遭った人達を救えるんじゃ……!」

 

 

俺の言葉を遮るようにシオンは首を横に振った。つまりあの出来事も必然だというのだ。

 

 

「私と私達は、未来予測と多くの可能性を考慮する事で行動を指示し、未来を変化させてきた。しかし、それでも取りこぼしてしまう未来がある。時を超えて、取りこぼした未来を追う事ができるのは貴方達2人しかいない……貴方に選択を委ねる」

 

 

「選択?」

 

 

「どの時間、どの場所の、誰を救いたい」

 

 

「誰を、助ける……」

 

 

その問いに俺は考え込む。初めてルーサーが俺達の前に姿を現した時、ペルソナは俺の選択が鍵になると言っていた。多分、俺がここで誰を救うかで、ルーサーに対抗する為の切り札になる筈だ。

 

 

「……ウルク。そうだ、ウルクを救いたい!」

 

 

――ウルクが生きていれば、テオドールがルーサーの誘いに乗る事もない筈だ!

 

 

シオンが海のように青い手をこちらに向けると、その手が輝き、強い光が俺の体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ここは」

 

 

気が付くと俺は荒れた市街地の真ん中にいた。所々から戦闘の音や、黒い煙が上がっている。

 

 

「ダーカーがテミスに襲撃したあの日まで戻ってきた……って事でいいんだよな」

 

 

周囲の状況を確認しながら、ここからどうやってウルクを探そうか悩んでいると、目の前を一台の装甲車が通り過ぎた。

 

 

「3人共行くぞ!」

 

 

「あれは、俺?」

 

 

ゼノ、アフィン、過去の俺、アスナが降りると装甲車は発進する。俺は急いで装甲車を追うが、足で車に追いつく訳もなく、やがて装甲車を見失ってしまった。

 

 

そればかりか、行く手を阻むように、丸い皿のような物にダルマのような三つ重なった丸い胴体の上に鉤爪の付いた腕が生えた頭部――というか本体?――を持つダーカーが目の前に現れる。

 

 

「くそっ、こんな時に!」

 

 

悪態を吐く俺をお構いなしに、ダーカーは縦長の体を回転させながら突進してくる。攻撃自体は単調で簡単に避けられたが、攻撃に転じようと背中に手を伸ばした。だがそこには本来ある筈の剣が無かった。

 

 

良く考えればそれもそうだ。俺はさっきまでマイルームに居た。武器どころか戦闘服も装備していない状態でシオンから直接この場所まで飛ばされたんだ。

 

 

「マズイッ‼」

 

 

自分の状態に気を取られている隙に、ダーカーが俺目掛けて鉤爪の付いた腕を振り回しきていた。

 

 

防御はできず、回避も間に合わない。反射的に腕を組んだ次の瞬間、俺とダーカーの間に割り込んだ誰かの一撃で、ダーカーの鉤爪が破壊される。

 

 

「無事かキリト」

 

 

「ペルソナ!ありがとう助かった」

 

 

その誰かはペルソナだった。彼も俺と同じように未来から来たのか、そんな事を考える暇もなく、さっきのダーカーが俺達に迫ってくる。

 

 

「チャージ完了、撃つよ2人共!」

 

 

「飛ぶぞキリト!」

 

 

「ペルソnうわッ⁉」

 

 

あまりにも一瞬の展開に頭が追い付かない。聞いた事のある声が聞こえたかと思えば、ペルソナが俺を抱えて高く飛び上がる。そして俺達がいた場所に飛んできた光弾が炸裂し、ダーカーを一撃で消滅させた。

 

 

「間一髪だったなキリト」

 

 

「ありがとう。助かったよペルソナ」

 

 

「……その姿、私の勘違いでなければ、貴様は未来からウルクを救いに来たキリトだな」

 

 

「そうなんだけど、ウルクの乗った装甲車を見失っちゃって」

 

 

「それなら心配はいらない。彼女の装甲車がどこに居るかは検討が付いている」

 

 

「本当か⁉」

 

 

「ああ。案内をしてやる。っと言いたい所だが……そうも言ってられそうにないな」

 

 

ペルソナはそう言って抜いた剣を何もない方に向ける。その直後、丸く大きな体に不釣り合いな細い腕に大鎌を持った鳥系ダーカーの大群が現れた。

 

 

「リューダソーサラーか。さっきのデゴル・マリューダほどではないが、この数は少し骨が折れそうだ。ルーサーめ、よっぽどウルクを殺すのを邪魔されたくないようだな」

 

 

「ペルソナ、ここは俺も」

 

 

「いや、貴様はウルク救出を優先しろ。心配するな、こっちには頼もしい味方がいるからな」

 

 

その時、先程と同じように、どこからか飛んできた光弾が大群の中央で炸裂した。

 

 

「私達が時間を稼いでいる内にこの場所に行け。ウルクが乗っていた装甲車が倒れている。近くにウルクもいる筈だ。私達もすぐ合流する」

 

 

「分かった。死ぬなよ、ペルソナ」

 

 

「当たり前だ」

 

 

始まった戦闘音を背に俺はペルソナから教えてもらった場所へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No side――

 

 

 

「酷い……」

 

 

装甲車を走らせながら、周囲の状況を見てウルクは小さく呟く。次の瞬間、装甲車は何かに攻撃され、あまりの衝撃に装甲車は勢いよく横転した。

 

 

「はあ、初任務で初被弾なんて……ついてないなぁ」

 

 

急いで装甲車から出たウルクはそんな愚痴をこぼしながら倒れた装甲車に寄りかかる。しかし安堵していられるほどの余裕はない。上空には彼女を襲撃したであろう鳥系ダーカー《ランズ・ヴァレーダ》が旋回している。ウルクはすぐに緊急通信で救援を求めるが、誰も彼女の通信に応答しない。仕方なく彼女は装甲車に備え付けられているアサルトライフルを手にし、先程ダーカーが旋回していた場所を見るが、そこに居る筈のダーカーの姿がない。

 

 

「いない……」

 

 

その時、ガシャンッ!という音が真上で響く。その音に釣られて視線を上げると、倒れた装甲車の上にランズ・ヴァレーダが止まっていた。

 

 

「きゃああああ‼」

 

 

ウルクは錯乱しながらもアサルトライフルを乱射する。だが、戦闘訓練など積んでいない新人の彼女に武器が上手く扱える訳がなく、発砲の反動を抑えられずに尻餅をついてしまう。発射された弾は奇跡的にも何発か命中したものもあるが、ウルク自身がフォトン適正を持たないため、ダーカーにはダメージを全く与えられない。

 

 

無防備のウルクに向かって突進するランズ・ヴァレーダ。その巨体がウルクを襲う寸前、キリトが彼女に覆い被さり、難を逃れたが、ランズ・ヴァレーダは大きく旋回して、再びキリト達目掛けて突撃してくる。キリトは咄嗟に先程ウルクが落としたライフルを手に取り、コアを撃ち抜いた。

 

 

「間に合って良かった。立てるか?」

 

 

「キリトさん……!」

 

 

先程までの恐怖と、助けが来た事による安堵から涙を溢すウルク。キリトの手を掴んで立ち上がり、服の袖で溢れる涙を拭き取る。だが、安心するにはまだ早い。

 

 

――ジリッ、ジジジッ!――

 

 

突然、横たわる装甲車のバッテリーがスパークし、火花が散る。先程のウルクが乱射したライフルの弾が装甲車に当たっていたようで、飛び散った火花はエンジンに引火し、大爆発を起こした。

 

 

咄嗟にキリトがウルクを突き飛ばして、事なきを得たものの、彼女の胸に付いていたネームプレートは炎上してる装甲車の近くに落ちたが、今の2人にはそんな事を気にする余裕はない。

 

 

「危なかった」

 

 

「車が……!あたし、任務に戻らないと!」

 

 

「ダメだよ」

 

 

任務に戻ろうとするウルクを背後から聞こえた声が制止する。2人は声がした方を向くと、そこにはペルソナとユイの姿があった。

 

 

「キリト、ぼくの事わかるね」

 

 

「もしかして、シャオか⁉でも、どうしてユイの姿に」

 

 

「ごめん。本来ならサポート用のマシナリーを使おうと思ったんだけど、何故か壊れて使えなくてね。それに、ペルソナが不用意に歴史を変えようとしてたのを止めたかったしね」

 

 

そう言ってシャオから笑みを向けられたペルソナは、バツが悪そうに顔を背けた。

 

 

「とにかく今は時間がない。早くこの場を離れよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトside――

 

 

 

「ウルク、君はさっきの襲撃で死んだことになっている」

 

 

「本当だ。生きてるって報告しないと」

 

 

シャオに連れられて最寄りのビルの屋上に来た俺達。到着早々、シャオの放った言葉に驚きつつ、実際に自分が死んだ扱いになっている事を知ったウルクは管制に連絡を取ろうとする。が、すぐにシャオが待ったを掛ける。死んだ事にしておいた方が良いと語るシャオ。

 

 

「ルーサーが君を殺したがっている。彼はアークスの最高責任者で、自分の目的のためにフォトン適正の無い君をアークスに入隊させたんだ。そして君は、殺されるために前線に送られたのさ」

 

 

「そんな……でも、どうしてあたしを?」

 

 

「キリト、君から説明してもらえるかな」

 

 

「……テオドールを、手に入れるためだ」

 

 

「はぁ⁉訳が分からないんだけど⁉」

 

 

まあそうだよなっと思いながら、どう説明したものかと考えていると、遠くから俺の声が聞こえてきた。勿論俺は何も喋っていない。

 

 

急いで屋上の端に行き、さっきまで俺達がいた場所を見下ろす。燃え上がった装甲車の近くには、この時代の俺とアスナ、そしてテオドールがいた。テオは装甲車の近くに落ちているウルクの名札を見て絶叫している。この時の出来事が原因でテオはルーサーの手に堕ちた。でも、今ならまだ間に合うかもしれない。

 

 

「ウルク、テオに生きてるって伝えよう」

 

 

「駄目だ。そんな事をすれば、危険を承知で貴様がこの時間まで戻ってきた意味がない」

 

 

「ペルソナの言う通り。仮にここでテオドールの未来を変えたとしても、ルーサーはテオドールを手に入れるまでウルクの命を狙い続ける」

 

 

「そんな、じゃあテオは」

 

 

「テオドールがルーサーの手に堕ちるのは止める事ができないんだ。ウルクを助けるには今はこれしかない。悪いけど、受け入れて欲しい」

 

 

そう冷たく諭してくるシャオ。色々と腑に落ちない所もあるが、嫌でも納得するしかない。

 

 

「ウルクを助ける事ができた。それだけども良かった」

 

 

「良かったか。キリト、このテミスで何人の犠牲者が出たか覚えているよね?何千もの人がダーカーに襲われて死んだ。その中にはウルクのようにルーサーの都合で殺された人達もいる」

 

 

「そんな事「『分かってる』とは言わせないよ」」

 

 

「君は選択したんだ。助ける人間と、犠牲になる人間を」

 

 

「なら、何度でも繰り返して全員を助ければ良いじゃないか!」

 

 

「全員は無理だよ。結局どの命を助けるか、選択する事になるんだ」

 

 

「そんなの!「キリト」っペルソナ……」

 

 

口論が白熱する俺とシャオの間に割って入るペルソナ。彼は悲痛な表情を浮かべていて、その顔を見た瞬間、俺は彼が何を伝えたいか理解し、それ以上は何も言えなかった。

 

 

「シャオ、貴様もこれ以上は止せ。さっきキリトが言ったようにウルクを救えただけでも良かったと考えるべきだ」

 

 

「……そうだね。ごめん、キリトがいつか(・・・)の君と同じ反応をするからつい熱が入っちゃっただけだよ。でもこれだけは言わせてもらうよキリト。過去に飛べるからと言って死んだ人間全てを救う訳には行かない。それでもぼくらは、少しでも多くの命を救うため、常に最適解を求めている。これだけは理解して欲しい」

 

 

シャオの言いたい事は十分理解できる。だが到底納得できない。多くの命を救う事は大切だ。だからと言って犠牲が出るのが分かっていながら黙って見過ごす事もできない。俺がそんな葛藤をして何も言えないでいる中、まるで助け舟を出すかのようにウルクが口を開いた。

 

 

「分かったわ。あなた達の言ってる事は全然分からないけど、みんなを助けようと悩んでいる。そういう事でしょ?大体あなた!あたしが助かったのに何なの⁉まるで助けない方が良かったみたいな言い草じゃない‼」

 

 

「いや、そういう訳じゃ……」

 

 

突然ウルクから叱責されて珍しく口籠るシャオ。

 

 

――見た目がユイだから少し複雑なんだけど。

 

 

「要はルーサーとか言うのをやっつけて、清く正しいアークスに戻せば良いんでしょ?」

 

 

「でもルーサーを倒すと、彼が管理するオラクル全ての機能が維持できなくなって、船団は壊滅してしまうんだよ」

 

 

「そりゃあ全部壊れて初めは大変かもしれないけど、みんなで新しく作り直せばいいのよ。協力すればきっとやれるよ!あたしも頑張るから!」

 

 

ウルクの言葉を聞いて、シャオは「やっぱり君は凄いね」っとお腹を抱えて笑い出した。

 

 

――新しくか。そうだ、過去を変えられないなら新しく作ればいいんだ。俺が望む未来に!

 

 

ウルクとシャオの会話を聞いて、俺がその答えに辿り着いた瞬間、俺の体が光に包まれた。

 

 

「時間みたいだね。この子はぼくが匿うよ」

 

 

「ああ頼む。戻ったら、ウルクが生きてる事をテオに伝えるけど、問題ないよな?」

 

 

「未来は何も決まっていない。君の望むように行動しなよ」

 

 

「ウルク。君にも色々教えて貰った。また未来で会おう」

 

 

そう伝えた所で、俺を包む光は更に強くなり、気が付くと自分のマイルームへと戻っていた。

 

 

「変えてみせる。俺が望む、誰も犠牲にならない未来に……!」

 

 

 

 

 





今回はここまで。

何とか前話から一か月で投稿でました。あとはこれを続けられればいいんですが……。

また次回もよろしくお願いします。
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