お待たせしました。第82話です。
「なあペルソナ、俺の気のせいじゃなければなんだけど、さっきから視線を感じないか?」
「安心しろ、気のせいじゃない」
居心地が悪そうに耳打ちをしてくるキリト。無理もない。周囲のアークスやプレイヤーから怪訝な視線を向けられていれば気にもなる。
「センパイ!」
「イオか。久しぶりだな」
周囲の視線を気にしながら歩く私達に話し掛けてきたイオ。彼女は走ってきたのか、息が絶え絶えになっている。
「はあ……良かった。いつも通りのセンパイ達だ」
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
「もしかして聞いてないのか?例の噂」
「噂?」
「センパイ達が良からぬ事に絡んでるって船団中その噂で持ち切りなんだ」
「良からぬ事って、何を証拠にそんな事」
「さあな。それが分からないから噂なんだよ。それよりもセンパイ」
キリトの問いにイオはぶっきらぼうにそう返し、私の方に向き直る。
「センパイは、センパイなんだよな?」
「?……私は私だ。それ以上でも以下でもない」
不安な顔でよく分からない事を尋ねてきたイオ。質問の意図は理解できなかったが、私の返答に少しだけイオの表情が晴れた。
「そ、そうだよな!取り敢えずセンパイ達は今ちょっとした有名人だから、出歩くなら気を付けた方がいいぞ」
イオはそう言い残すと、足早に私達の元から去った。その直後、私達の背後から銃口が向けられる音がした。私はその正体が誰かは知っている為そこまで気にならなかったが、何も知らないキリトはビクッと体を震わせた。
「一体何をやらかしたんですかぁ?」
銃口越しに嬉々とした声色でそう尋ねてきたのはリサだった。
「ま、リサは一番おいしい物は最後まで取っておくタイプですから、今は撃ちませんけどね」
「何の話だ?」
「貴方達についての噂ですよ」
「君もか……悪いけど俺達には全く心当たりが無いんだ」
「うっふふ。悪い事している人は、みんなそうおっしゃいますよねぇ?」
「……行くぞキリト」
「お、おい。ペルソナ⁉」
私は逃げるようにリサから離れる。やはり彼女は苦手だ。
「なあペルソナ、待ってくれよ!」
「……すまない。やはり慣れないものは慣れないな。相変わらずこれはメンタルが削られる」
「その気持ち、スゴイ分かるよ」
そんな会話で気を紛らわせつつ、私達は丁度いい場所にあったベンチに腰を下ろす。周囲からの視線は気になるが、こんなベンチでも人が居ない場所まで延々と歩き続けるよりはましだ。
さて、本音を言えば、事が片付くまでここで腰を落ち着けておきたい。だが、ここで全てを放棄したら、これまでの苦労が水の泡だ。少なくとも前以上に悪い結果になる。そんな結末、到底受け入れられる訳がない。それに……
「疑惑のデパート!噂の超有名人、キリトとペルソナを直撃してみた‼」
「ちょっとパティちゃん!」
この無駄にうるさい情報屋――主に
「人聞きの悪い事を言うな」
「いつもいつも姉がすみません」
心の底から申し訳ないと思っているティアに対し、全く悪びれる様子のないパティ。今すぐこの2人の元から離れたい所だが、状況確認も兼ねて念のため話を続けておこう。
「……で、どういう意味だ。疑惑のデパートとは」
「またまた、とぼけちゃって。貴方達ありとあらゆる悪事や不正行為に関与しているって囁かれているんだよ?」
「どれも根拠薄弱な噂ばかりで、誹謗中傷の域を出ないんですけど……逆に否定するのも難しいんですよね」
「そんな、一体誰がそんな噂を」
「問題はそこなの。あたしたちの情報網を持ってしても、噂の出所が分からないのよ」
お手上げと言わんばかりに両手を広げるパティ。その情報網とやらがどこまで信用できるものかは置いておくとして、どうやら私の記憶との差異はさほど無いようだ。
「しかも戦艦全体に帰還命令が出たこのタイミングですし」
「何か裏で大きな組織が動いてるって感じがするのよねぇ」
「お二人とも、あまり出歩かない方が良いかもしれませんよ。わたし達が調査してみますから」
「本当か⁉なら是非お願いするよ!」
「「はい!/まっかせなさい!」」
2人と別れ、私達は再び当てもなく――本当はあるが――歩き出した。相変わらず周囲からは非難するような視線を向けられてるが、さっきよりは気にならない。
「うわあっ⁉」
そんな中、苗木の影から出てきた少女……クラリスクレイスとキリトがぶつかりそうになる。
「おいキサマ!今ワタシを見たな!」
「君は確かクラリスクレイスだったか。君も俺達の噂を聞きつけてやって来たのか?」
「ウワサ?何だ噂って?」
「違うのか?」
「何を言っているか分からんが、ワタシの事を本部に報告するつもりだな!」
そう言って一方的に話を進めるクラリスクレイス。待機命令に違反している自分の事を私達に報告されるのを危惧したクラリスクレイスは黒いクラリッサを取り出し、フォトンを集中させる。彼女の突飛な行動に、こちらを様子を窺っていた周囲の者達が騒めく。
「ちょっ⁉待った待った‼」
「止せ!周りに人が居るんだぞ!」
私達が急いで止めに入ると、フォトンを集中させるのを止めたクラリスクレイスは周囲を見渡し、潔くクラリッサを仕舞った。
「仕方ない。何か嫌な感じがするから本部を抜け出してきたけど、それは絶対秘密だからな!誰にも言うんじゃないぞ‼」
「あ、ああ……」
「約束したからな‼破ったらボッコボコだからな‼」
「わ、分かったから!」
正に嵐のような娘だった。走り去るクラリスクレイスを見届けると、今度は頭上から「とうっ!」という掛け声と共にヒューイが降りてきた。……全く次から次へと騒がしい奴等だ。
「感謝するぞ2人共!クラリスクレイスと仲良くしてくれてありがとう!」
「うわっ⁉アンタ何処から⁉」
「……ずっと彼女を見守っていたのか。相変わらず心配性だな」
「まあな!あの子はあの子なりに誰かの役に立ちたくて一生懸命なんだ!それに、彼女が自分の意志で動くことは悪い事じゃない」
「でも、危なっかしくないか?」
「否定はしない。だが多感な少女だ。ここはそっと、見守ってやるべきじゃないか?」
熱苦しい程の熱血漢。それが前世からのヒューイへの評価だ。だが、先程のように時々的を得た発言をするあたり、ただ熱いだけではないのは確かだ。
「そう言えばあの子、何か嫌な感じがするって言ってたけど」
「ああ。人一倍そういう事には敏感だからな。だから余計に目が離せない!」
「大変だな」
「なに、保護者なら当然の事さ。ところで君達!周りが何やら騒がしいようじゃないか⁉」
「(急に話題を変えてきたな)……私達には身に覚えのない話だ」
「そうだな。君はそれでいい。だけど君の友人は噂のせいで心を痛めているかもしれないぞ!」
ヒューイのその一言に、はっとした表情を浮かべたキリト。ヒューイが自身に対する誹謗中傷に対してブツブツと小言を口にしている間に、キリトは駆け出し、私もキリトに続く形で駆けた。
ヒューイが「まだ話の途中だけどー⁉」っと素っ頓狂な声が上げたが、気にしないでいいだろう。
「……アスナ達の事が心配なんだろ」
走りながら、私はキリトにそう尋ねた。
「ああ。でも今はこっちが心配されてるだろうけどな。一体何をやらかしたのか小一時間ぐらい問い詰められそうだよ」
「同感だ。私はマトイの所へ行く。きっとまだメディカルセンターにいる筈だからな」
「じゃ、一旦お別れだな。後で必ず合流しよう」
「ああ。皆の事は頼んだぞ」
「任された!君も気を付けろよ!」
そう言って互いに別方向へと走る私とキリト。恐らく彼も薄々勘づいてる筈だ。今回の騒動の裏で糸を引いているのが誰か。狡猾な奴の事だ。仲間を人質にして私達の行動を制限してくるだろう。
アスナ達ほどの実力があれば心配はいらないだろうが、相手は船団の全てを掌握できる人物だ。何をしてくるか分からない以上、警戒しておいて損は無い。
「ペルソナ!」
背後から聞こえた声に振り向く。そこに立っていた少女の姿に私は思わず安堵した。どうやら気付かぬ内にメディカルセンター前まで来ていたらしい。
「何があったの?みんなが急にキリトとペルソナの悪口を言い始めて……わたし、どうしていいか分からなくて」
「すまない。心配を掛けた」
「ううん。でも、何でこんな事に?」
「ペルソナとキリト。2人の存在が極めて重大な障害になると認知されたからだ」
マトイは今にも泣き出しそうなほど声が震えている。そんな彼女の問いに答えたのは、突然現れたシオンだった。
「……待っていた。私と私達は、ずっとこの時を。貴方に感謝を。貴方とキリトの尽力無くしては、この時まで至る事はできなかった。貴方達がいたからこそ、ここに貴方が居て、
「わたしも?」
「そしてどうか、貴方達で私を助けて欲しい」
そう言い終えたシオンの体にノイズが入り、壊れたプロジェクターの映像のように消えた。
▼
キリトside――
ペルソナと別れた俺は真っ先に自分のマイルームへ向かった。
「キリト君!良かった無事で!」
マイルームに入った俺の姿を見たアスナが抱き着いてきた。
「ごめんアスナ。心配かけて」
「まったく本当よ。通信は繋がらないし、変な噂が流れてるし、もうどうなってるのよ」
「悪いリズ、その事についても説明するからちょっと待ってくれ」
リズからのキツイ言葉に俺は謝りながらアスナを落ち着かせてソファーに座らせる。そんな中、ランがきょろきょろと周囲を見渡しながら、俺に問い掛けてくる。
「あの、キリトさん。ペルソナさんはどこに?」
「彼ならメディカルセンターだよ。マトイを迎えに行ってる筈さ」
俺がそう答えると、安堵したランはホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても、どうして急にこんな噂が流れ始めたのかしら?アンタ達がコソコソやってたのは知ってるけど、まさか本当に何かやらかした訳じゃないでしょうね?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……」
シノンから問い詰められ、俺は一瞬言葉が詰まった。
シャオの事とか、ルーサーの事とかどこまで話せばいいのか分からない。俺が返答に困っていると、突然警報が鳴り響き、俺たち全員に緊急通信が入った。
『アークス及び異界の戦士諸君。私は六芒の一、レギアスである。緊急事態のため、私から説明を行う』
「何だぁ?アークスで一番偉いオッサンが急に何の用だよ?」
突然のレギアス総督の登場に疑問を浮かべているが、あまりのタイミングの良さに俺は嫌な予感がした。そしてその予感はすぐに当たった。
『先ごろ、マザーシップに敵性存在が侵入した。彼の者は我々の仲間でありながら、マザーシップに危険をもたらし、オラクル船団を脅かそうとしている。不可解な外部組織と接触し、船団の重要機密を外部に漏らしていた』
その時、どこで撮られていたのか、俺達とサラが一緒に行動していた時の写真が表示されていく。
『更に、外部から侵入した未確認の人員の支援により、船団内で諜報活動を行っていた。のみならず、対話可能な人型のダーカー種と幾度となく接触している事も確認されている。絶対敵性存在である筈の、ダーカーと戦う事なくだ』
レギアスは次々とペルソナを「裏切者」へと仕立て上げる為の証拠を並べていく。そして一息ついた後、衝撃的な言葉を口にする。
『最後に、ある情報筋によると、彼の者は他の異界人とは異なり、アークスの亡骸を自らの肉体の代わりとしている事が判明した。この事から一連のアークスの不自然死と彼の者が関係していると考えられる』
あまりの衝撃に、俺を含めたその場にいた全員が息を呑んだ。
彼がこの世界の住人に危害を加える事はないと信じている。そう信じているからこそ、彼の
『諸君、傾聴せよ。彼の者は今、神聖にして侵すべからざるマザーシップに侵入している。これはオラクル船団全体に危険をもたらす重大な反逆行為である。故に、ここに六芒の一、レギアスの名において
本日はここまで。また次回もよろしくお願いします。