お待たせしました。第86話です。
3体の
「マトイ、私の傍から離れるな」
「うん」
オリジナルと同じ力を持つK.Kクローン。私はマトイを背に、クローンが放つ火の玉を弾くが、その攻撃の重さは半端なものではない。
それに数も前世以上だ。これではこの場をレギアス達に任せたとしても、何体かは私達を追跡してくるだろう。この後も面倒な奴の相手をしなければならないのに、ここで無駄に体力を消費するのは避けたい。
「どうした?目の前の敵に集中できないみたいだな?」
その時、私達を分断していた炎の壁を切り裂いて現れたゼノが私に疑問を投げ掛けてくる。
「……この先に助けたい奴がいるんだ」
「そうか、お前さんはそうでないとな。分かった!俺が突破口を開く!」
「ゼノ!」
飛び出すゼノを追おうとしたが、すぐに別のクローンが私の行く手を阻む。
ゼノは2体のクローンを撃破するも、転送された別のクローンの攻撃を受けたところをマリアに助けられていた。
「ったく、何無茶してんだい!」
「あいつらを先に行かせたくてな」
「そういう事なら……ヒューイ!カスラ!1つデカいのを頼む!」
「了解だ
「人使いが荒いですね……」
マリアの指示を受け、ヒューイとカスラが各々の創世器の最大火力を放ち、大量のK.Kクローンを吹き飛ばす。しかし次々と転送されてくるクローン達は底無しか、幾ら倒してもすぐに周囲を塞がれ、私はその内の一体と鍔迫り合いになる。直後、私の背後から飛んできた斬撃が、私と鍔迫り合いをしていたクローンを吹き飛ばした。
「進め、若き戦士!己の目的を果たせ!」
「レギアス、恩にきる。行くぞマトイ」
「うん!」
「この程度の事、償いにもならない」
私とマトイはK.Kクローンの相手を六芒均衡に任せ、マザーシップの奥へと走る。
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追っ手を掻い潜り暫く先へ進んでいくと、青い円のようなゲートが見え、その前に1人のデュ―マンの男が立っていた。
――やはり……いるか。
その男は私達が近づいてくるのを視認すると、こちらに手をかざし、テクニックを発動する。
先程のクローン達ほどの威力ではないが、先程まで私達が立っていた場所に着弾した火炎弾は、大きな爆発を起こした。
「本当に来るなんて、ルーサーさんの言う通りだ」
「テオドール。随分と様変わりしたな。前にウォパルで会った時とは大違いだ」
「僕は生まれ変わったんです。今更、貴方と話す事は何もないですしね。僕はルーサーさんの言う事だけを聞く。誰かがここに来たら殺す。ただそれだけの事です」
「やめろと言っても無駄のようだな。"テオ"」
白錫クラリッサを構えるテオドールを挑発するように、私は敢えてウルクが彼を呼ぶときの愛称でテオドールに語り掛け、テオドールへと迫る。
「"テオ"……馴れ馴れしく僕をその名で呼ぶなぁ‼」
私の記憶通り、彼はクラリッサを使って攻撃してきた。マトイを巻き込まないように、彼女から離れていたのは正解だった。
「ルーサーさんは約束してくれたんだ!僕が頑張れば、彼女を蘇らせてくれるって」
「ルーサーの言葉に踊らされるとは……哀れだな。ウルクが生きているとも知らず」
「嘘を吐くな‼」
クラリッサを私の方へと向け、眩い光線を放ってくるテオドール。寸での所でマトイがフォトンによる防壁を張ってくれたお陰で私達は無傷だ。
「嘘じゃない。ウルクは私とキリトが助けた」
「そんな言葉、誰が信じるんですか?あの時、キリトさんは僕と一緒に見たんですよ。ウルクが乗る装甲車が燃えるのを……それに僕も分かってますよ。あの人に良いように使われてる事は。でも、それがどうしたって言うんです?僕なんてどうなってもいい!彼女さえいてくれたら!」
「どうなってもいいだと?それで貴様が死んだら、ウルクが悲しむ事が分からないのか!」
「うるさいうるさい‼ウルクに会った事も無いアンタが、知ったような事を言うな!ウルクがいなきゃ、僕は何もできない!ウルク以外は、全部いらない‼」
ウルクの名に過敏に反応し、絶叫するテオドールはクラリッサの先端に溜めていたエネルギー弾を発射する。私はそれをコートエッジで斬り、爆発の反動で僅かに体勢を崩したテオドールの顔を力の限り殴った。
「いい加減にしろ、テオドール!」
「滅茶苦茶なんだよ、アンタ!」
テオドールは素早く立ち上がり、
「ぐあっ……!」
「ペルソナ!」
かなりのダメージを負ったが、まだ戦える。コートエッジを支えに立ち上がり、加勢しようとしたマトイにハンドサインで制止し、再びテオドールへと突進する。
「いい加減、しつこいんですよ!」
大きく振りかぶった斬撃をテオドールはショートワープで避け、私の後ろの空中に姿を現す。私は、その瞬間を待っていたと言わんばかりに、振り切った勢いそのまま振り向き、力強く地を蹴る。テオドールは私の狙いに気が付いたようだが、既に彼の目と鼻の先まで迫っていた私は、今度こそと力のあらん限りを込めた一撃をテオドール目掛けて振り下ろした。だが、テオドールが咄嗟にテクニックを放ち、私の攻撃を相殺する。
「チィッ!」
ダメージを完全に相殺できた訳ではなく、私とテオドールはお互いに吹き飛ばされるも、受け身を取り、すぐに相手の次の一手に対応できるよう構え直す。
「驚きました。貴方こんなに強かったんですね。でも、これで終わりです!」
「もうやめて!テオ‼」
テオドールが追撃の一手を放とうとしたその瞬間、突如として私達の後ろから飛び出してきた少女がテオドールの名を叫び、その少女の姿を見たテオドールは動きを止めた。
「ウルク……?」
褐色の肌にニューマンの特徴的な長い耳をした少女…ウルクの姿を見てテオドールは信じられないとでも言いたげな表情になる。
「2人とも無事か!」
「間に合ったみたいで良かったわ!」
「キリト、それにサラ」
遅れて到着したキリトとサラ。恐らくサラがウルクを連れてくる際にキリトと合流してきたのだろう。他の皆がいないのが少し気になるが、そんな心配をする暇も与えないかのように、テオドールの乾いた笑い声がその場に響く。
「は、ははは……いやそんなはずはない。彼女は死んだんだ。居るはずないだろ?そうだろテオドール?」
「テオ、あたしだよ。分かるでしょ?」
「幻だ、そうだ幻だ!わざわざ彼女の姿をしてまで……愚弄しやがって!」
自身に言い聞かせるように叫ぶテオドール。だが彼は明らかに動揺を隠しきれていない。
「彼女をよく見るんだテオドール!ウルクはお前を助けるためにここまで来たんだ!」
「うるさい!消えろ消えろ消えろぉッ‼」
「きゃああああ‼」
キリトの言葉に錯乱したテオドールは滅茶苦茶にテクニックを放ち、その幾つかがウルクに命中する。威力は大した事は無いが、フォトン適正の無いウルクがまともに受けるのは危険だ。私はそれを理解した上で、敢えてウルクとテオドールの間に入ろうとしたキリトを止める。
「ウルクを信じてやれ」
「でも、このままじゃウルクは」
「頼むキリト。ウルクしか、今のテオドールは救えない」
そんなやり取りをしている間にも、再びテオドールの放ったテクニックがウルクに直撃する。
「来るな、ウルクはもう、いないんだ」
「テオ、もういいよ。だから、戻ってきてよ。お願いだから」
テオドールは三度ウルクに向けてテクニックを発動しようと構えるが、テクニックが発動する事は無く、代わりにウルクが差し伸べた手がテオドールの頬に触れる。
「テオ、もういいんだよ。ずっと怖かったんだね」
「ウルク…」
「ただいま、テオ」
「ああ、ごめんなさい……!僕は、なんてことを……!」
「テオ、もう休んでいいんだよ」
ウルクに抱きしめられ、今まで仕舞い込んでいた感情を吐き出すように涙を流しウルクを抱き返すテオドール。やがて2人は抱き合ったまま倒れ込んだ。
「テオドール!ウルク!」
「大丈夫、気を失ってるだけ。無茶しすぎよ、バカね」
倒れるウルク達の様子を見て、呆れ半分、安心半分と言った表情でそう呟くサラ。
「貴方も、あたしがウルクを連れてくる事は知ってたんでしょ?だったら、そんな無茶してまで彼を止める必要なかったんじゃない?」
「私1人で止められたら良かったんだがな」
この世界のテオドールは私の記憶以上の力を持っていた。となると、この先で待つルーサーも私の想定以上の力をだしてくるはずだ。今まで以上に気を引き締める必要があるだろう。
「とにかく、ウルクを連れて来てくれて助かった」
「シャオが貴方たちの現在地をトレースしてくれたお陰よ。でも、あたしがお膳立て出来るのはここまで。シオンはこの先よ」
「分かっている」
私はサラから受け取ったモノメイトで回復しながら、マザーシップの中枢へと繋がるゲートの前に立つキリトの隣に並ぶ。
「皆はどうした?」
「ここに来る途中、レギアスさん達が大量のクラリスクレイスと戦ってて、みんなが俺だけを先に行かせてくれたんだ」
「そうか(レギアス達と一緒なら心配ないな)。この先に進めば後戻りできない。覚悟は良いな?」
「ああ。だけどペルソナ、君はここに残ってくれ」
「……今は敢えて訳は聞かないが、そんな事を言って私が首を縦に振ると思うか?」
キリトがこんな事を言う際は、大体が仲間に危険が及ぶような時だ。そして今回は私に何かしらの危険が及ぶのをどこかで知ったのだろう。忠告はありがたいが、今は一刻も早くルーサーを倒さなければならない。こんな所で立ち止まってる場合ではないのだ。
「安心しろ。ルーサーを倒すのに命を引き換えにしようとは思ってない」
「分かった。でも本当に危ないと感じたら、すぐに下がってくれ」
「ああ。頼りにしてる」
私の言葉にキリトは少し穏やか表情になるが、それでも緊張感を漂わせながら向き直ったゲートに触れる。
「でもこれ、どうやって通るんだ?」
「来たれ白錫……クラリッサ」
キリトはゲートに何か仕掛けがないか、ノックしたり体術スキルを使って殴ったり――殴るなよ――して調べていると、先程までテオドールが持っていた白錫クラリッサを掲げるマトイが静かにそう唱えた。クラリッサは、まるで力を取り戻したかのように光り輝き、それに呼応するように私達の目の前のゲートも光り出した。そしてマトイの手から離れたクラリッサは回転しながらゆっくりとゲートに吸い込まれ、ゲートの光は青色から黄色へと変わる。
「マトイ、これは?」
「……あっ、わたし」
一体何をしたのかマトイに尋ねるキリトだったが、マトイは先程まで自分が何をしていたのか全く覚えていないようで、キョトンとした顔で私とキリトを見つめていた。
マトイの不思議な力についてキリトは追及したそうだったが、本人が何も覚えていない以上、何を聞いても無駄だろう。それに今はルーサー討伐が最優先事項だ。私はキリトを止めて呆けているマトイを連れてキリトと共にゲートの先へと進む。
「3人共、シオンを助けてあげて」
そうポツリと零したサラの言葉は誰の耳に届くことはなく、静かな通路へと消えた。
今回はここまで。また次回もよろしくお願いします。
次回、第87話「再誕の日」