お待たせしました。第87話です。
ゲートを通ってからというもの、私達3人は何もない空間をひたすら走り続けている。
『ペルソナ、キリト』
「シオンか!」
『私の本体は、既にルーサーの手の中に。残された時間は少ない』
突如シオンの声が聞こえ、目の前に眩い光が現れる。恐らくシオンの残滓と言った所だろう。
「どうすれば良いんだ?君がルーサーの手に渡ったらオラクルが大変な事になるんだろ?」
『まだ手はある。私の本体へと導く間、どうか私の話を聞いて欲しい』
シオンの残滓は私達の目の前まで近づくと、より一層眩い光を放つ。余りの眩しさに目を塞ぎ再び目を開けたその時、私達は黄土色に輝く海の中にいた。
「ここは?」
『"私達"の意識の中だ』
「"私達"の意識?」
キリトがシオンの言葉を聞き返すと、魚の形をした光の魚群が私達の横を通り過ぎる。
「綺麗……!」
「あれは一体」
『かつて"フォトナー"と呼ばれ、私と交流を持ち、栄華を極め、そして没落した成れの果て。人であることを諦め、それでも生を望み、私と共に生きることを選んだ』
「何だか、この海生きてるみたい」
マトイがそう呟くと、再び私達の目の前にシオンの残滓が現れた。
『海とは、元来生きているものだ。生命の原初は海であり、私もまたそうだった』
シオンの残滓が再び輝くと、私達はまた別の景色が広がっていた。広大な宇宙に1つ、海だけの惑星が浮かんでいる。これはシオンの記憶か。
「ぽつんと存在した海だけの惑星。そこへ知識が生まれた。知識を得た海は森羅万象を演算し、宇宙の観測者となった。そしてフォトナーと出会った。彼らはその海に名を付けた。その名をシオンという」
姿を現したシオンの独白にキリトとマトイは驚くが、シオンはそんな2人差し置いて話を続ける。
「フォトナーと出会った私は観測者である事をやめ、彼等の言葉を覚え、理解しようとした。この姿もそう。最初に触れたフォトナーの姿を真似たものだ。初めてこの姿を見せた時の彼らの驚きようは……楽しかった。演算では得られないものだった。私は彼等にフォトンと知識を与え、ある願いをした。私を……惑星全体を外殻で包み、動けるように、それがマザーシップと呼ばれるこの移動惑星だ。フォトナーと共に歩むために」
「シオンさん何だか嬉しそう」
「そうだ、私は浮かれていた。私以外の存在と出会えた事が嬉しかったから、間違った。観測者である事を忘れず、交流も接触もしなければ、このようにはならなかったはずだ」
「でも、それじゃあ寂しいよ」
「それは、私には理解しかねる感情だ」
「そんな事ないよ。わたしは寂しかった。怖かったし辛かった、誰かに助けてほしかった。わたし、何もかも忘れてたけど、キリトとペルソナの名前と、助けてもらった時の嬉しさは覚えてる。シオンさんも、ひとりぼっちは寂しくて、フォトナーと会えて嬉しかったんだよ」
まさかそんな言葉を掛けられるとは思ってなかったのだろう。マトイの言葉に拍子抜けした表情をするシオンは納得したように「ああ、そうなのか」と溢す。
「最初にあったあの欠落感。あれは、寂しさだったのか」
シオンは納得したような表情で消えた。そして周囲の風景が変化し、私達はいつの間にかマザーシップの中核に立っており、フロアの奥にはクリスタルにシオンの本体が囚われていた。
「……着いたようだな」
「あれは、シオン⁉」
「ここは不可侵の場だよ。どうやって入って来たんだい?」
「っ、ルーサー……!」
その時だ、何もない空間から不機嫌な表情をしたルーサーが現れ、私達は一斉に武器を構える。ルーサーはマトイの持つ白錫クラリッサを見て表情が変化する。
「それはクラリッサ……テオドール君は役に立たなかったようだね」
「ルーサー!お前、シオンに何をした‼」
「僕は完全に彼女と完全に一つとなり、彼女の全てを手に入れる」
「分かってはいた事だが、コイツ正気じゃない」
「君達こそ分かっているのかい?彼女はフォトナーが……いや、僕が追い求めた宇宙の理そのもの。彼女こそ、全てを
「そんな事させる訳ないだろ!」
「待てキリト!」
憤怒したキリトは私が制止するよりも早く、ルーサーに飛び掛かる。だがルーサーは余裕の表情を崩さず、キリトに向けて手を向ける。
「プレイヤー風情が、頭が高いよ。跪きたまえ」
ルーサーがそう言い放つと、キリトの体が止まり、その場に膝を付く。同時に私とマトイも突然体が重くなり、その場に膝を付く。それよりも私は先程ルーサーが口にした単語に耳を疑った。
「実に良いモルモットだったよ。アークスも、君達プレイヤーも」
聞き間違えではない。奴は確かに「プレイヤー」と言った。この一言には私も驚愕を隠せなかった。
「驚いているようだね。君達がどういう存在かは僕は良く知っているよ。何せ君達プレイヤーをこの世界に招いたのは僕なんだから」
「なん…だと…」
「君達の世界、仮想世界なんて中々愉快なものを作っていたじゃないか。僕らに劣る科学力でどうやって完璧なフルダイブなんてものを作り出したのか興味がわいてね。実験や情報収集のために呼び寄せたんだけど、所詮はただのプレイヤー。君達の思考も行動パターンも単調で、集まったサンプルからは大した収穫は得られなかったよ。まあ僕がシオンと一つとなった今、アークスも君達も用済みだけどね」
ルーサーが指を鳴らすと、奴の周りにオラクル船団全体の映像が映し出される。今、全ての船団が管制システムを書き換えられ、生命維持システムが停止している。何も知らない市民の戸惑う声と、管制官たちの焦りながらも対応している声が聞こえてくる。
「玩具は遊び終えたら、片付けないとね。アークスの片付けが終わったら、今度は君達の世界を掃除してあげよう」
「き、さま…!」
私は立ち上がろうとするが、ルーサーが再びこちらに手を向けて私達に掛かる重力を更に重くした。再び膝を付いた私を見て満足したように笑みを浮かべながらシオンの方に向き直る。
「さあ、始めるとしよう」
ルーサーは一度姿を消し、シオンの背後に現れると、クリスタルの中に手を入れてシオンの頭に触れる。ルーサーが触れた場所からが次々とルーサーの元へ光の粒子が流れ込んでいく。
「素晴らしい!素晴らしいぞコレは!頭の中を知識が駆け巡る!ああっ!破裂してしまいそうだ!この知識の奔流に‼」
自身に流れ込んむシオンの知識に興奮するルーサー。そんな中、シオンが目を開き、周囲の時間が停止した。だが停止した時の中でもルーサーを除く私達の意識はハッキリとしている。
『聞こえているかペルソナ。貴方への最後の依頼だ。今から一瞬、貴方を束縛する重力を解除する。その手で、私を殺せ』
『な⁉何を言ってるんだ!彼は君を助けに来たんだぞ!』
『今、私を殺せばアークスから彼を切り離せる唯一の瞬間。管制を司るルーサーと、演算を司る私が融合するこの時しかないのだ』
『ダメだよシオンさん!』
シオンの発言にキリトとマトイは反対する。だが、方法はこれしかない。このままルーサーをシオンと1つにしてしまえば、奴はオラクル船団は崩壊させ、私達の世界へと侵攻する。それにこれは一度通った道だ。それを彼女も理解している。だから、私に依頼しているのだ。
この役目だけは、私にしか出来ないのだから。
『お願いだ。私の
「……ああ、分かっている」
再び時が動き、重力から解放された私はコートエッジを構え、ひと蹴りでシオンの元へと跳ぶ。
『心優しき私の縁者。私は寂しくなかったぞ』
「ダメ‼」
マトイの叫びが響く。だが時は二度は止まらない。私が突き出した刃はクリスタルを破り、シオンの胸を貫く。消滅する直前でも、シオンの表情は穏やかだった。
「バカな!こんな事をして、どうなるのか分かっているのか‼」
『何を言っているルーサー。未来というのは、どうなるか分からないから、楽しいんじゃないか』
ルーサーを哀れむようにそう返したシオンは光の粒子となって消滅した。
――さらばだ、シオン。
「そんな……こぼれていく。手にした筈の知識が……全知が、宇宙の理が滑り落ちていく!終わりだ、全て終わりだ。シオンが失われた。この意味が分かっているのかァッ‼」
「ああ。オラクル船団は崩壊しアークスは滅ぶ。だが、そうはならない。シオンの代理がシオンの抜けた穴を補ってくれる」
「シオンの代理だと⁉」
ルーサーがオラクル全体の様子を確認すると、崩壊する筈のオラクル船団はその機能を取り戻し、正常な運航を再開していた。
「どういう、ことだ。シオンが失われた今、何が演算の代わりを」
ルーサーが困惑していると、奴が出している映像の1つ。オラクル船団が運航するすぐ隣の空間に生じた亀裂より、マザーシップと瓜二つの巨大な船が現れた。あれこそが、新たなマザーシップ。マザーシップ・シャオだ。
「シオンでは、全知ではないあのような演算しか出来ない模造品で……よくも、よくもよくも!僕を出し抜いたな!全知を、僕のシオンをこの手から!許さん、許さん許さん許さん‼」
私に怒りを向けるルーサーの内側から大量の禍々しいダーカー因子が噴き出し、白かったルーサーの服装が黒く染まり変異していく。
「この感じ、まさか!」
「(ようやく化けの皮が剥がれたか)……ダークファルス」
「不愉快だ。僕をこんな姿にさせるなんて!あまつさえ、貴様は僕のシオンを奪った!貴様には罰が必要だ!さあ、目障りな虫けらどもを断罪しろ!」
「ペルソナ!キリト!」
ルーサーは大量の鳥系ダーカーを呼び出して私達を襲わせるが、私達の後ろに控えていたマトイが持つクラリッサから放出された光によって全てのダーカーは一瞬で塵と化した。
「無意味だ無駄だ愚かしい!滅びろ消えろ!宇宙のゴミが!」
続いて私達の周囲に出現した無数の浮遊する剣が次々と降り注いでくる。
私達はそれぞれ、自身の武器で降ってくる剣を弾いたり、防御テクニックで防いだりして直撃を避け続けるものの、数の暴力とは理不尽なもので、永遠と繰り返されるルーサーの攻撃に私達は大ダメージを負ってしまう。
「2人とも大丈夫か!」
「何とかな……だが、次は流石に不味そうだ」
「下らん抵抗だ!」
再び展開される無数の剣による弾幕。マトイが咄嗟に防御テクニックを張るが、一瞬で突破され、ついに直撃を喰らう。
「そろそろ終わりだ。死ね!」
倒れ込む私達はこれで十分とでも言いたげに、出現させた3つの剣を私達それぞれ目掛けて飛ばしてくる。私は飛んでくる攻撃に対応しようとしたが、コートエッジは先程の攻撃を喰らった際に落としてしまったらしく、拾いに行く余裕もない。
――バキンッ!――
――キィンッ!――
腕一本はくれてやる覚悟で飛来する剣を掴もうと構えた瞬間、死角からの銃撃がキリトとマトイに向かっていた剣を破壊し、私に迫っていたもう1つは見えない何かが弾き飛ばした。
「間に合い、ましたね……!」
「クーナ、それにゼノ」
「遅れてすまねえな!って、おいおい何だよアイツ!先に行けとは言われたが、あんなのがいるって話は聞いてないぞ!」
ルーサーに集まるダーカー因子の数に悪態を吐くゼノ。私はマトイに回復してもらい、キリトからコートエッジを受け取る。そして変異していくルーサーの様子に、私も思わず舌打ちをする。どうやら、私の悪い予感は今回も的中してしまったようだ。
「ゼノ、他の六芒均衡や皆はどうした?」
「レギアスの爺さん達はまだクローン達の相手をしてるよ。途中でアフィン達が駆け付けてくれてな、俺だけ姐さんに先に行けって言われたんだよ」
「そうか」
――前世のように集結した六芒均衡がルーサーを圧倒する展開を期待してたのだが。
「まあ、今度は自らの手で奴に引導を渡せると考えれば、悪くないか」
「ん?何か言ったか?」
「気にするな。それより構えろ。もうすぐ奴の変異が終わる」
「貴様らも!貴様らも貴様らも!僕に逆らうか!僕に!このルーサーに!
ゼノとそんな会話を交わしている間に、悍ましい量のダーカー因子を取り込み、6枚の翼を生やした異形の姿へと変異した
「そんな解は必要ない!答えは僕の望むままであるべきだ!それに沿わないものは、死ね‼」
「来るぞ!構えろ!」
「「「「ああ! / うん! / はい!」」」」
今回はここまで。
本当はこの話でルーサー戦を終わらせる予定だったのですが、長くなりそうなので分けました。
それでは、次回もまたよろしくお願いします。