「「えぇ!? 吸血鬼に襲われたぁ!?」」
「そう。と言っても襲われたのは僕じゃなくて、うちのパパの知り合い……近所の人なんだけど」
とある夏休みの日、スネ夫の呼び出しによってジャイアンとのび太の2人は空き地に集まっていた。何でも『驚くような話があるから来てくれ』と、自らフランスの高級菓子を持参してまで2人の家まで訪ねていったのだ。そこまで必死になって聞かせたい話とは一体何なのだろうと、気になったのび太とジャイアンは、貰ったお菓子を頬張りながらスネ夫の話に乗る事に決めたのだった。
「俺たちが驚くような話があるって言うから来てみれば……そんな見え透いた嘘通用しねぇぞ、スネ夫。この前だってお前のついた嘘のせいで恥かいたばかりだってのを忘れたのか?」
「嘘じゃないって! なんならパパに頼んでその人を近い――」
「なら近い内と言わずに明日連れて来い。出来なかったら……分かるよな?」
「そんな無茶苦茶な……!」
どんな驚くような話が聞けるのかと思っていたら、吸血鬼が出たと言う誰も信じる人など、ファンタジー世界の住人でもない限りはいないであろう、突拍子もないような話であった。それに対してジャイアンは、前にスネ夫の嘘に騙されて恥をかいた経験があったため、また嘘で俺に恥をかかせようとしてるんだろうと思い、激怒していた。
今にもスネ夫を殴ろうと構えを取っているジャイアンを見ていたのび太は、何とか怒りを静めてもらおうと勇気を振り絞って会話の中に割り込んだ。むしゃくしゃしているから殴らせろと言われて殴られた経験があるが故に、自分まで巻き添えになっては堪らないと咄嗟に判断したからだ。
「まあまあ、フランスの高級菓子を箱ごと貰ったんだし、せめて話だけでも聞いてあげようよ、ジャイアン。スネ夫がわざわざここまでしてくれたんだから」
「……それもそうか。よし、スネ夫! 御託は良いからさっさと全部話せ」
「ふぅ……助かったよ、のび太。さて、話すけど……」
フランスの高級菓子を持ってきた甲斐があり、のび太の説得が成功した。ひとまず殴られる運命から逃れられたスネ夫はホッと一息つくと、吸血鬼に襲われたと言う知り合いの話をし始めた。
曰く、スネ夫の知り合いはその日いつも通り、会社の同僚と共に居酒屋での飲み会に日付が変わるまで参加していたらしい。当然それで酔っぱらうも、家が近かった事もあったため少しふらついてはいたものの、歩きで帰路につく事に決めた。
しかし、その道中で『女の子』に声をかけられて、不思議に思って振り向いてみるとそこには……背中から宝石をぶら下げた翼を生やした10歳かそれ以下の女の子が居て驚いたと、本人から聞いたとの事だ。
明らかに人間のようで、人間とは異なる容姿の少女に対する恐怖と、得体の知れないプレッシャーを感じたその知り合いは逃げようとしたが、自分の意思に反して身体が縛られたかのように動けなくなると同時に、少女の方から少しずつ近づいてきたらしい。
「で、その女の子が『貴方の血を頂戴』って言って飛びかかってきて、首筋を少しの間舐めた後に噛みついてきて血を吸われたと。よくもまあ、そんな嘘をスラスラと……」
「だから嘘じゃないって――」
「証拠がないだろ? そもそもお前にはついこの間嘘をつかれ、そのお陰で恥をかいたばかり……だから信用出来ねぇんだよ」
「……」
そうして最後まで話終える前に、ジャイアンがスネ夫に食いついた。やはり以前に嘘に騙され恥をかいた経験があった故に、信用していないみたいだ。信じてもらえなかったスネ夫はガックリ肩を落としていたが、ファンタジー世界や伝承上の存在である吸血鬼が出たと、誰が言ってもほぼ誰も信じないだろう。その上嘘で誰かを騙すような人が言ったとあれば尚更信じない。また誰かを騙すために嘘をついていると思われるのがオチだ。
「……とは言ったものの、美味いフランスの高級菓子を箱ごと貰ったからな。ソイツに免じて今回は信じてやる事にするか」
「ジャイアン……」
「ただし、もしこれが嘘だったら次こそは許さねえ。ギッタギタにしてやるから覚悟しておけ……よし、のび太! お前、ドラえもんにでも頼んでひみつ道具で調べてもらってきてくれ」
「えぇ……うん。まあ、分かったよ。頼んではみるけど、期待はしないでね」
しかし、フランスの高級菓子を箱でもらった事がスネ夫にとって良い方に作用し、今回は半分くらいは信じてもらえる事になったようだ。ただ、その真偽によってはスネ夫が殴られる事には変わらない上に、嘘か真か確かめるのはのび太とこの場に居ないドラえもんと言う事が勝手に決まってしまった。
のび太やこの場に居ないドラえもんにとっては災難ではあるが、彼自身スネ夫の話をあながち嘘とも思い切れないのと、逆らったらえらい目にあろう事を理解していると言う2つの理由があるため、ジャイアンによる
―――――――――――――――――――――――――――――
「……吸血鬼が出た?」
「うん。スネ夫の知り合いがさ、夜中に『吸血鬼の女の子』に襲われて血を吸われたって。そうスネ夫が必死になって、わざわざフランスの高級菓子を箱ごとね……」
「うーん……のび太君。吸血鬼なんて物語とかゲームとかに登場する空想上の存在だし、現実に存在するなんてあり得ないよ。それこそもしもボックスで幻想世界にでもするかしない限りはね。僕が思うに、スネ夫かその知り合いの人が嘘をついているか何かを勘違いしているんじゃないかな?」
「まあ、それは何となく理解しているけど……でもね」
スネ夫たちと別れ、家へと戻ってきたのび太。早速、おやつのどら焼きを食べながらのんびりと過ごしていたドラえもんに、聞いた話を一字一句そのまま話して伝えていた。案の定信じてなどいないようで、のび太に対して吸血鬼なんてそれこそ空想上の存在であり、現実の地球世界には存在しないと諭すようにして言った。
今までスネ夫に何回も騙されてきた経験があり、今回も騙されている可能性があるのは百も承知なのび太ではあったが、それでも何かが引っ掛かって仕方ないらしく、ドラえもんに対して更にこう続けた。
「僕はね、今回のスネ夫の話は……本当だと何故かそう思えて仕方ないんだ。根拠はないけど」
「……のび太君がそこまで言うなら、一応調べてみる? 期待はあまりしない方が良いとは思うけど」
「本当!? ありがとう、ドラえもん!」
その結果、そこまで言うなら仕方ないと言った感じで調べる事を決め、ドラえもんはとあるひみつ道具をポケットから取り出した。
「それって◯×占いだよね」
「うん。質問の仕方さえ間違えなければ、君の望む答えを出してくれると思うよ」
◯×占いと言う、質問した事が本当か嘘か、物が本物か偽物かを判別してくれるひみつ道具だ。本当か本物であれば◯が空中に浮かび、嘘か偽物であれば×が浮かんで、質問に答えてくれる。ただし、言葉の奥に潜む意味までは読み取れない性質故に、質問の仕方が悪ければ答えが正確に出てこない事があるため、注意が必要である。
「さてと……『スネ夫の言っていた、スネ夫の知り合いが近所で宝石をぶら下げた翼の、吸血鬼の女の子に襲われて血を吸われたと言うのは事実か?』」
そう言ってのび太が質問を投げ掛けると、◯の方が浮かんだ。少なくとも、これでスネ夫の話に信憑性が出て来た事になる。
それを見たのび太は更に、◯×占いに対して『なら、その吸血鬼の女の子は今、この町のどこかに居るか』と言う質問を投げ掛けたが、それに対しては×が浮かんだ。つまり、ひみつ道具の結果だけを見ればスネ夫の話は本当だが、その吸血鬼の女の子は今はもうこの町には居ないと言う事である。
「ドラえもん。一応聞くけどこのひみつ道具、故障してないよね?」
「勿論、この間点検に出したばかりだからね。それにしても、本当だったなんて驚いたよ。まあ、この町には居ないみたいだし……襲われるのを気にする必要はないんじゃないかな?」
「うん、確かにそうだね。ありがとう、ドラえもん」
「どういたしまして。さてと……僕はそろそろ猫の集会の時間だから、出掛けてくるね」
まさか本当に居るなんて答えが出てくるなんて思ってもいなかったのび太は、思わずこの◯×占いのどこかが故障しているのではないのかと疑い、ドラえもんにそう聞いた。それに対して、点検に出したばかりだから故障はしていないとドラえもんは答え、◯×占いが導き出した結果や、襲われたスネ夫の知り合いが死んだりしていない事から特段気にする必要はないと言う結論を出した。のび太もそれに納得して、これにて調査は終了となった。
「そうだ、ジャイアンにこの事を伝えに行かなきゃ。ちゃんとした証拠はないけど、ドラえもんのひみつ道具が出した結果だし大丈夫だよね?」
そうして、ドラえもんが部屋の窓からタケコプターを付けて猫の集会所へと出掛けていったところで、のび太はこの結果を伝えるためにスペアポケットを勝手に借りて持って、ジャイアンの家へと向かうために出掛ける事に決め、準備をして家を出た。
「うーん……」
道中、のび太はこの結果をジャイアンに伝える事によってスネ夫が殴られる事態と、自分が巻き添えを食らう回避出来る事にホッと一安心すると同時に、ある事を懸念していた。それは、ジャイアンがひみつ道具による結果を聞いて、その吸血鬼を探しに行こうと言い出す可能性である。
確かにのび太自身もイメージとはまるで違う、吸血鬼の女の子が一体どんな姿をしているのかは気にはなっている。しかし、いくら容姿が女の子だとしても吸血鬼。いくらドラえもんのひみつ道具があったとしても……どう言った性格なのか、睨まれたら動けなくなる以外に何か特殊な力を持っているのか、その存在について何も分かっていない内に接触するのは、やはり怖いようだ。
まあ、どうであれこの結果だけはジャイアンに伝えなければと思い、色々考え事をしながら歩いていると……突き当たりから日傘を差し、明らかに日本人ではない見た目と格好をした女の子が、キョロキョロ辺りを物珍しそうに見回しながら1人で歩いて来るのをのび太は見かけた。こんな所に外国の人、それも女の子が1人で歩いているなんて珍しいなと思いつつ、横を通り過ぎようとした時に視線が合った。
その際、のび太は女の子の顔を見て一瞬驚いた。何故なら、スネ夫の知り合いを襲ったと言う、吸血鬼の女の子の容姿に極めて酷似……と言うか同じとしか思えなかったからだ。しかし、1番の特徴である宝石がぶら下がった翼が見当たらなかったのと、吸血鬼がそもそも昼間に出歩くなんてあり得ないと思っていたため、偶然似ているだけだろうとのび太は判断した。
「ねえ、何で私を見てたの? そんなに物珍しいの?」
「えっと、ごめん! 思わず僕の友達が言ってた『吸血鬼の女の子』にそっくりだったからつい……」
すると、急にその女の子が
「そっか」
自分が見られていた理由をのび太から聞いた女の子は、少しだけ驚いたような顔を見せるも、特に気にしていない様子であった。それを見たのび太は胸を撫で下ろし、ジャイアンの家へ再び歩みを進めようとした。
「私、フランドール・スカーレットって言うの。貴方は?」
瞬間、その女の子が唐突に自己紹介をし始め、のび太にも名前の紹介を求めた事で歩みが再び止められた。出会ってから1分も経っていないのにこの展開となり、のび太の理解は追い付いていなかったため、どう考えても当たり前の事をうっかり聞いてしまった。
「え……僕?」
「そうよ。ここに居るの、私と貴方しかいないでしょ?」
「あ、そうだよね。ごめん……僕は『野比のび太』って言うんだ」
「野比のび太……じゃあ、呼ぶときはのび太で良い?」
「うん。僕の友達もそんな感じで呼ぶからね。それで、君の事は何て呼べば良いのかな?」
「フランで良いよ。私のお姉様も、人間の友達も、みんなそうやって呼ぶから」
当然、フランと名乗る女の子からそう突っ込まれてしまったのび太は、思わず顔が赤くなってしまうが気を取り直し、自分も自己紹介をフランに対してやった。
「これで、のび太と私はお友達……かな?」
「うん。これでもう、僕とフランはお友達だよ」
「そっか……ごめんね、突然こんな事言って。お詫びにこれあげる!」
そう言ってフランがのび太に対して渡してきたのは、何だか不思議な力を感じる、綺麗な紅い宝石であった。見るからに高そうな物を出会って3分も経たないような女の子からもらったのび太は、いくらなんでも不味いと思い、返そうとした。
「こんな高そうな宝石もらえないよ……」
「良いのいいの! 手に入れようと思えば手に入るから。だから受け取ってよ!」
「……あ、そうなんだね。分かった。ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、またねー!」
しかし、フランにとって紅い宝石は手に入りやすいものらしく、遠慮して返そうとしているのび太は、半ば押し付けられるような形でもらった。そこまで言われては逆に返すのは失礼だと思ったらしく、受け取った紅い宝石をスペアポケットに大事にしまい、お礼を言った後、フランが遠くに立ち去るまで見送ってから改めてジャイアンの家へと歩み始めた。
「一体、何だったんだろう? うーん……分からないなぁ。まあ、良いや」
色々疑問点は残るが、考えていても答えは出てこない。そのため、今日のこの事についてのび太は考えるのをいったんやめる事にした。
そうして歩いている内にジャイアンの家へ到着したのび太は、家のチャイムを押し、出てきたジャイアンにスネ夫の話の真偽を伝える。
「なるほどな。ひみつ道具で調べたら、スネ夫の話は真実だった事が分かったと」
「うん。吸血鬼の女の子は実在するから、スネ夫の話は本当だよ。ただ、この町にはもう居ないみたい」
「そうか。もし居るのが本当で、この町に居たら探してやろうと思ったが、居ないんじゃ
すると、ジャイアンはスネ夫の話が真実であったと分かるや否や、吸血鬼の女の子を探すつもりであった事を明かした。この町には居ない事を聞き、ドラえもんたちを誘っていない事もあって今すぐ探す事自体は諦めたようだが、いずれは探し当ててやろうと意気込んでいた。
「それに俺の予定もあるしな。まあ、行く時はまたスネ夫やしずかちゃんも誘ってからお前の家に行くから、その時はよろしく頼むぞ!」
「また勝手に決めて……」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何も言ってないよ。それよりも、僕はもうそろそろ帰るね」
「ああ、またな」
勝手に話を進め、断れば断ったで威圧してくるジャイアンに対して小さい声で文句を言いつつ、のび太はその場を後にした。ドラえもんのひみつ道具に対する信頼は凄まじく、自分の言葉で伝えるだけで済んだため、スペアポケットを持ってくる意味がほぼなかったなと、そう独り言を言いながら自分の家へと帰っていった。
「お帰り、のび太君……スペアポケット勝手に借りてったら駄目だろう? 何も変な事はしてないよね?」
「ごめん、ドラえもん。もちろん変な事はしてないよ。せいぜい、もらったこの宝石を入れる入れ物に使ったくらいさ。本当は普通に持ってくとかさ張る、◯×占いを使うために持ってったんだけどね」
「なら良いけど……それは誰からもらったの? 何て言うか表し難い、不思議な力を感じるけど」
「えっと、実は……」
そうして家の2階に上がっていくと、猫の集会から帰ってきていたドラえもんに、スペアポケットを勝手に借りていった事を咎められたのび太は軽く謝り、決して変な事には使っていないのと、もらった紅い宝石を入れる入れ物に使った事を説明した。
案の定、不思議な力を放つ紅い宝石が気になったらしいドラえもんは、それを誰にもらったのかと質問を投げ掛け、のび太はその質問に対して、不思議な日傘を差した少女『フランドール・スカーレット』と出会った経緯を交えて説明をした。
「それはまた、不思議な出会いだったね。もしかしたら、そのフランって女の子がスネ夫の言っていた吸血鬼なのかも。いや、だとしたら日傘を差していたとは言え、太陽が照りつける昼間に出歩くなんて……」
「うん。他にも色々疑問に思う事があるけど考えてたらキリがないし、取り敢えずこの事は一旦おいておいた方が良いかもよ、ドラえもん」
「……確かに、そうだねのび太君」
のび太からの説明を聞いたドラえもんは、もしかしたら吸血鬼の女の子の正体はフランなのではないかとの推測を立てた。しかし、仮にそうだとしたら吸血鬼が昼間に出歩くとは到底考えにくい。ただ、容姿がほぼ同じと言う事実もあるため考えがまとまらず、結論は出せなかったようだ。
その後、キリがないのでこの事を考えるのは止め、始まったばかりの夏休みを謳歌する事に2人は決めた。
―――――――――――――――――――――――――――――
「あぁぁぁ……夏休みの宿題が多すぎるし、難しい! ドラえも~ん、コンピューターペンシル出してぇ~」
「駄目。宿題は自分の力でやらないと。それに、そんなもの使わなくても珍しく半分以上終わってるし、このまま頑張れば終わるよ。のび太君」
「えぇ……」
あれから1週間、のび太は大量に出された夏休みの宿題の処理に取りかかっていた。いつもなら直前まで後回しにしていたのだが、今年は何故かやる気が出たらしく、時間を潰す勢いで必死に宿題を処理している。
ただ、量が多すぎるのと慣れない事をしているせいで集中力が持たない事が原因で、3日前から本格的にやっていても終わっていない。まあ、去年以前の酷すぎた時に比べれば、正誤はともかくとして宿題の処理速度も集中力も格段に上がっているため、このペースで行けば夏休み中には終わるだろう。
「本当、去年以前とは比べ物にならないくらい君は集中して頑張ってるよね。何で3日前から急にやる気が出てきたのかは分からないけど、今の君は凄く無理をしてるように見えるから、やる気あるのは良いけど少しは休まないと」
「うん。じゃあ、そろそろ休憩しようかな」
あまりののび太の変わりように、ドラえもんが『勉強しろ』ではなく、『少しは勉強やめて休め』と言う程である。のび太自身、かなり無理をしている感覚があったため、ドラえもんの忠告を素直に受け入れて、勉強を中断して休む事に決めた。
そうしてのび太は、用意されていたお茶やお菓子類をドラえもんと一緒に食べながら休んでいると、部屋の扉が開いて母親が入ってきた。お使いでも頼まれるのかと思っていると、予想もしていなかった内容の言葉を聞かされ、驚く事となった。
「のび太、あなたのお友達って人が訪ねて来てるけど……」
「僕の友達? スネ夫とかじゃなくて?」
「ええ。金髪で綺麗な紅い瞳、確か……フランちゃんて名乗ってたわね。家の前で『ここかな……ここかな?』って言いながらウロウロしてたのを見かけて声をかけたら、のび太はここに住んでるのかって聞いてきて、私が住んでるって言ったら満面の笑みで『遊びに来ました』って……」
「……!?」
何故なら1週間前に不思議な出会い方をして知り合い、いきなり友達になったフランが、家の場所を教えてもいないのに自分の家を探り当てたからだ。スネ夫やジャイアン、しずかちゃんと言った友達に聞いたのかとものび太は考えたが、近所の子ではないフランがその3人を知っている訳がないため、その線は消えた。
まだ1回、それも数分程度しか話した事のないフランに、何故か家に遊びに来られる程懐かれていたその事実にのび太は意味が分からず困惑し、ドラえもんも不思議に思っていた。しかし、何はともあれせっかく遊びに来てくれて、理由もないのに断るのも悪いと思ったのび太は、母親にこうお願いをした。
「ねえママ、その子を家に上げても良いかな?」
「良いわよ。呼んでくるわね」
結果、母親からの許可をもらったため、フランを家に上げる事となった。そうしてのび太待っていると、ドタドタと足音をたてながらフランが部屋に入ってきて……
「のび太! 遊びに来たよー!」
「ちょっ……危なかった……」
「あ……ごめんね」
元気よく飛び付いてきたが、来るのを待ち構えていた事が功を奏し、上手く受け止める事が出来た。のび太自身は地面に押し付けられる形となってしまったが、フランが痛い思いをせずに済んだので良しとした。
「ドラえもん、この子が僕の言ってたフランって言う友達になった子なんだ」
「なるほど……こんにちは。のび太君の親友で、ドラえもんって言うんだ」
「耳のない喋る青い猫さんなんて初めて見たなぁ。どうやって話し声聞いてるんだろ……まあ良いや。よろしくね、ドラえもん! 私の事はフランって呼んでね! のび太の親友なら、きっと良い人……あれ? どうして泣いてるの? 私もしかして変な事言ったのかな……?」
そうしてドラえもんにフランを紹介し、紹介されたフランはドラえもんに挨拶した後に自己紹介を軽くやった。すると、ドラえもんが少しだけ涙ぐみ、それを見たフランが何か変な事を言ってしまったのではと、少しだけ焦っていた。
「大丈夫だよ、フラン。ドラえもん、初対面の人に猫だって分かってもらえて嬉しいだけだから」
「へぇ。ちなみに、ドラえもんってなんて呼ばれる事が多いの?」
「青い狸。ドラえもん、そう呼ばれたくないのに初対面の人に結構呼ばれては怒ったりしてるから」
「狸……どこをどう見たらそう見えるのかな? まあ、ドラえもんには狸って言わないように気を付けるね」
ただ、その焦りは詳しく説明を聞いた事により綺麗に解消され、ドラえもんに対して『青い狸』と言うのは禁句であると分かったフランは、絶対に言わないように気を付けると誓った。
その後、フランの言葉に感動していたドラえもんが普通に戻り、落ち着いたところでのび太がどうやってここを探り当てたのかを質問した。すると、机の上に置いてあった紅い宝石を指差したので、ドラえもんはもしかしてレーダーみたいな物を仕込んでいたのかと、少しだけ強めの口調で問いかけていた。しかし、当の本人はレーダーを知らないらしく、首を傾げるばかりであった。
「ごめんなさい……その宝石、実はね」
そうしてフランが今にも泣きそうな顔をしながら言い、背中辺りから綺麗な宝石をぶら下げた翼を現した光景を見たのび太はかなり驚いた。何故なら、フランのその姿はスネ夫の父親の知り合いを襲った、吸血鬼の女の子そのものであったからだ。
「翼に付いてる宝石なの。私自身の力が込められてるから、そこから発せられる力を感じ取ってここを探り当てたんだ。それと、実は私って人間じゃなくて、吸血鬼。黙っててごめんね。後、スネ夫って言うのは誰か分からないけど、その人の知り合いの血を吸った吸血鬼の女の子、多分それも私だと思う」
「そうだったんだね……じゃあ、僕に話しかけたのは血を吸うため――」
突然の事にのび太は驚いていると、更に実は吸血鬼でしたと言う告白をフランから受けた。この子がスネ夫の言っていた吸血鬼の女の子だったのかとぼやきつつ、自分に近づいて来たのも血を吸うためだったのかと聞いた時、急にフランが涙ぐみ、大声を上げて否定した。
「違う! のび太に近づいたのはそんな目的じゃない!」
フランはそう言った後、押し黙ったのび太たちをよそに、近づいて来た理由を説明し始めた。曰く、かなり前に幻想郷と言う場所からこの町に迷い込み、いつ帰れるか分からない状況の中で、ずっと1人でひっそり過ごしていて不安だった時にのび太を見て、何故かは不明だが言い表し難い安心感が得られた事で、一緒に居たいと思ったかららしい。
ただ、こっそり後をつけていきなり押し掛けると、その計画が台無しになるためまずは友達にならないとと思い、あの日のやり取りを画策して実行したとの事。それで上手く行ったから、少し期間を開けて紅い宝石の放出される魔力と妖力頼りに家に来て、今は何とか一緒に居れるように頑張って交渉をする段階だと、のび太はフランから聞いた。
「何故かは分からないけどのび太を見て、何て言うか……まるでお姉様の側に居るみたいな安心感を得れたの。私のやった事は確かに良くなかったのは事実、本当にごめんなさい。それに、のび太の言った通りお腹は空いてたけど、それよりも一緒に居たいって気持ちの方が大きかったんだよ? だからお願い! のび太からは血を吸わないように頑張るから、普通の食事で耐えてみせるから、帰れるまで一緒に居させてよ……」
上目遣いで涙を流しながら頼み込んで来ているフランを見て、持ち前の優しさと親切心を発揮したのび太は、どうにかならないかドラえもんに相談した。しかし、住む場所と普通の食事であればひみつ道具で容易に解決出来るが、人の血はどうにもならない。本人は耐えてみせるからと言っているが、吸血鬼と言う種族故にいつまで持つかは不透明である。
仮にフランが欲に耐えきれなくなった時に、真っ先に危ない目にあうのはのび太である。いくら謎に好かれているとは言え、吸血鬼としての本能にそれが勝てるとは、のび太もドラえもんも思っていないが……
「フラン、君を一緒に居させる事にするよ」
「本当……? えへへ、良かったぁ~」
色々な可能性を2人で議論して考えた結果、ある意味家に置いておいた方が安全かも知れないと言う考えにたどり着いたらしく、フランはのび太の家に居る事が決まった。
しかし、このままの姿でずっと家に居られると説明が面倒臭いため、ある条件を提示した。それは『かべがみハウス』と言う、垂直の壁に貼りつける事によってどこでも住居に出来る、優れたひみつ道具の中で夕方から朝まで過ごすと言うものであった。
最初はこんな絵の中に入るなんて出来るわけないと言っていたフランも、促されて入ってみた瞬間、まさかあの絵の中にこんな広い空間があるとは思わなかったようで、はしゃいでいた。
ただ、のび太はおろか自分以外誰も居ない空間であるため、フランにとっては昔の嫌な思い出を想起させたらしい。時間が経たないうちに出てきて、昔の閉じ込められて引きこもっていたあの時みたいで嫌になったと言ってきた。快適ではあったらしいが。
その後、何を思ったかいきなり
「のび太のお母様、動物嫌いなのね……分かった!」
すると、フランはのび太とドラえもんにそう言った後、自分の身体を散らすようにして消し……
『身体を霧に分解したの! 蝙蝠よりも少し負担が大きいし、時間も少しかかるけど……これなら見えないし、良いでしょ?』
何処からか響く声でそう言ってきた。吸血鬼って何でもありなんだなとのび太は感心し、ドラえもんは確かにこれなら良いかなと言い、フランの希望を大方叶える事に決めたようだ。ただ、隠れられるとは言え、夕方以降に話し声を聞きつけてまだ居るのかと部屋にいちいち来られては面倒なので、その時は極力話し声を小さくするなどのいくつかルールをのび太たちは相談して決めた。
こうしてのび太とドラえもんの、吸血鬼少女フランとのいつまで続くか分からない共同生活が始まる事となった。
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