RIDER TIME ZI-O Virtual YouTuber   作:Million01

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教・師・変・身

 

 

弦太郎がばあちゃる学園に転任して二日が経つ。つまり、始業式の翌日。新入生の生徒以外は午後の授業が始まることになる。

 

「よし、もう昼かー」

 

特に自分が受け持つクラスも問題なく終わり、自身の担当する授業も問題なく終わると弦太郎は職員室で腕を上げて背伸びをすると学校の弁当を持ってそのまま校庭へと出た。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

パシ、と両手をあわせて軽く頭を下げるとそのまま弁当の蓋を開ける。白米に様々な彩られた数々のおかずが食べる人の心を揺さぶる。

 

「お、美味そうだな!」

 

弦太郎がそう言って割り箸を割るとそのままおかずを一口。よく噛んで喉を通した。

 

「思ったとおり、この学園の弁当も美味ぇな!!」

 

アムアム、と行儀が悪くならない程度に弁当を食べるスピードが上がっていく。

 

「ごちそうさまでした」

 

そして再び両手をあわせて軽く頭を下げると座っていたベンチの空きスペースに弁当を置いた。

 

「さて……」

 

と弦太郎がんっ、と再び背伸びすると校庭で昼食を摂っている生徒達を見渡した。どれも美味しそうに母の弁当や自作の弁当、学食を食べて顔が綻んでるのがわかる。

 

「良い学校だな」

 

そんな言葉がポツリ、と弦太郎の口から零れた。

 

「でしょでしょ?」

 

そんな弦太郎の言葉を返す言葉が背後から聞こえる。

 

「うおっ!?」

 

そんな言葉に弦太郎がビクリ、と身体を震わせ背後の方へと慌てて振り返った。

 

「こんにちは、如月先生ー」

 

そこには見覚えのある少女。着物を着た青い髪のアイドル部の一人、ヤマト イオリ。

 

「おう、イオリか。今から昼飯か?」

 

「うん。先生、隣座っていい?」

 

「ん、おう」

 

弦太郎がそう言って端へとずれて置いていた弁当を膝元へと置いた。イオリが笑顔で弦太郎と同じベンチへと腰をかけた。

弦太郎がチラリ、と彼女の横顔を見て昨日の話を思い出す。

 

 

 

『ゾディアーツの専門家が戦えないとなれば私達でなんとかするしかありませんね』

 

『俺はゾディアーツの専門家ってわけじゃないんだけどな。どちらかと言うと戦う方の専門家だ。分析は別にいるぞ』

 

『けど、それでも倒せなければ意味がないんですけど』

 

とそこでたまが補足へと入る。確かにそうだ、と弦太郎も思わず納得してしまう。

 

『お前達が戦うって言ってもどうやって?』

 

『如月先生はライバーをご存知ですか?』

 

『ライバー……?なんかどっかで聞いたような気がするんだけど……』

 

どこだっけな、と弦太郎がぼやく。

 

『特殊な力を持った人達の事を総じてライバーと呼ぶんです』

 

そんな弦太郎にあずきが説明する。

 

『ちなみにアイドル部全員ライバーです』

 

え、と思わず弦太郎が驚きの声を上げた。

 

『ですから、もし見つけた場合は連絡してください』

 

そう言って弦太郎達は連絡先を交換して解散した。

 

 

 

「先生、どうしたの?あ、まさかイオリの弁当が食べたいの?」

 

イオリが弦太郎の視線に気付き、自分の弁当の方へと俯いた。

 

「いや、なんでもねぇよ。それよりイオリはどんなすげー力が使えるんだ?」

 

「イオリはねー。髪が鋭くなったりパワーアップするんだー。りこちゃんとおんなじくらい強くなれるの」

 

へー、と弦太郎が彼女を見た。弦太郎はりこの強さを知らないので、なんとなくフォーゼのベースステイツと同じ強さだと頭の中で設定をしておいた。

 

「イオリは怖くねぇのか?ゾディアーツと戦うの」

 

そんな中、弦太郎がなんとなく彼女に聞いた。彼女は戦士ではない。故に聞いておかなければならなかった。

 

「怖い怖くないで言えば怖いかなぁ。でもねでもね、イオリはアイドル部のみんながいるから戦えるよ」

 

「そうか。イオリはすげぇな」

 

ニッカリ、と弦太郎が微笑んだ。

 

「先生は怖くないの?」

 

「俺か?俺は怖いのかもしんねー。けど、それより先にこの状況をなんとかしなきゃって思って身体が動くんだ」

 

「先生って強いんだね」

 

「強くなんかねぇよ。イオリと同じだ」

 

弦太郎の言葉にイオリが首を傾げた。

 

「ダチがいるから頑張れるんだ」

 

再び弦太郎がイオリへと笑うとイオリも笑みを返した。それを見て弦太郎がベンチから立ち上がった。

 

「じゃあ、俺は職員室に戻るとすっか。イオリは午後の授業、頑張れよ」

 

「はい!」

 

イオリが明るく返事する。その言葉を聞いて弦太郎は職員室へと向かった。

 

「中々、やりおるマンですな」

 

「!?」

 

弦太郎が二度目の驚愕。先程のベンチから少し離れたところの茂みから突然、姿を現した少女。

 

「アンタもここの生徒か?」

 

弦太郎が真横から飛び出してきた少女を見た。水色と白のドレスを着た白髪の少女。こんな子、始業式で見れば嫌でも目に入るはずだ。だが、始業式で見かけた覚えがないと目を細めた。

 

「こんにちは、電脳少女シロですっ!」

 

綺麗で可愛い声で弦太郎へと挨拶すると彼をじっくりと観察した。

 

「なるほど、お主が馬の言ってたゲンゲンか」

 

「馬……学園長の知り合いか!?」

 

「むー、シロは馬の知り合いになりたくないのでここはアイドルの子達の先輩と名乗っておくことにします」

 

シロの表情が怒ったり笑ったりと変わる。

 

「先輩?でも、アイドル部は12人のはずだし……あっ、わかった!アイドル部のOBか!!」

 

「…………。まぁ、そんなところです」

 

「それならイオリの方に行ったらどうだ?アイツも喜ぶと思うし」

 

「今日はゲンゲンを見定めにきました!」

 

「俺?」

 

「はい。けど、問題なさそうですね。けど、アイドル部の子達にもし何かあれは覚悟しておいてくださいね」

 

彼女の声が澄み切った低い声へと変わる。

 

「安心しろ!俺はこの学園、全員と友達になる男だ!もちろん、アンタともな!!」

 

ビシッとニカッと笑いシロを指差した弦太郎。

 

「キュイ。良いでしょう。ただし私と友達になりたいならまずアイドル部の子達全員と友達になってからです」

 

イルカの様な鳴き声が彼女の口から聞こえるとすぐに彼女の声が美しい女性の声へと変わった。

彼女がそう言ってどこかへと歩いていく。弦太郎は上等だ、と言わんばかりに笑いその姿を見送った。

 

 

 

 

 

「おっすおっす!」

 

放課後、部室の扉が勢いよく開かれる。部室にいた少女達の視線はめめめへと向けられる。

 

「あれ、いろは達だけ?先生は?」

 

あの元気な先生がもう二日目で来てない事に気付く。

 

「さぁ?なんかやることがあるんだって」

 

「やること?」

 

「へぇー、教師の仕事がまだ残ってるのかな」

 

めめめがそんな事を言うとあ、と思い出したかのようにいろはの方へと振り返る。

 

「ねぇ、ごんごん。駅前のケーキ屋さんに新商品が発売したんだけど食べにいかない?」

 

「いろは知ってるー!あの人気のやつでしょ?行こ行こ!!」

 

めめめはそうと決まればと言わんばかりに席を立つと帰る準備をし始めた。

 

 

 

 

 

少年は廊下で彼女達を待っていた。先日は邪魔が入ったが今日こそは今日こそは必ず潰すと願う。

 

だから、今回はあの先生だって……

 

「よっ、こんな所で何してんだ」

 

「!!」

 

背後からかけられた明るい声。その声は自分もよく知っている。昨日、この学園に赴任してきた先生だ。

少年は咄嗟に振り返りその声の主、如月 弦太郎を睨みつけた。

 

「…………」

 

弦太郎がその少年が握っているモノを見る。黒と銀の装飾が施された物体。弦太郎には見覚えがあった。

 

「お前、そのスイッチ「なるほど、それがゾディアーツ・スイッチですね」───あずき!?なんでここに?」

 

弦太郎が少年の背後から現れた少女の名を口にする。

 

「如月先生と同じですよ。昨日、私達生徒会が襲われた。ということは、相手は生徒会またはアイドル部を狙ってくるというのが妥当です。そして、昨日それを私が阻止しました」

 

あずきが淡々と説明をしてですから、と付け加えた。

 

「まず阻止した厄介な私を狙ってくると思いまして、この時間は私は生徒会室にいるんでその周囲を見張ってたわけです」

 

如月先生もそうでしょう?とあずきが聞いてきた。その言葉に弦太郎は静かに頷いた。

 

「スイッチを渡してくれ。それは危険なスイッチなんだ!」

 

弦太郎が少年に手を向ける。それは無理矢理というわけではなく生徒の意思で渡してくれと言わんばかりだった。

 

「お前らが悪いんだっ!お前らが邪魔をしなければアイドル部を潰せたのにっ!!」

 

《 Last one 》

 

少年の握る手が禍々しいスイッチへと変わる。あずきが眉を潜め、弦太郎が目を見開いた。

 

「やめろ!」

 

カチッ、と弦太郎の言葉を聞かずに少年が躊躇いもなくスイッチを押した。少年の体から溢れる黒いコズミックエナジー。そしてその闇から光を放つ蜥蜴座の光が彼の身体を守る装甲となった。

そして、そのゾディアーツから排出される少年の体が繭となって地面へと倒れた。

 

『まずはお前からだッ!』

 

「っ!」

 

ゾディアーツがあずきへと振り返るとすぐさま彼女の首へと手を伸ばし外へと連れていった。そのまま校庭へと連れて行かれたあずきは杖を構えてゾディアーツと対峙した。

 

「っ!」

 

悔しさに下唇を噛み締めながら彼はハンバーガーを取り出した。とは言ってもそれはハンバーガーを模した機械。そのハンバーガーの真横の差込口に黒いスイッチを挿入してオンにした。

 

ハンバーガーが形を変えて小さなロボットへと変わる。目の様なモノアイはゾディアーツへと向けられる。

 

「賢吾!例のゾディアーツだ!」

 

彼が左手に持っていた銀色のアタッシュケースを地面に置いて開き、そのアタッシュケースの画面に映し出された男へと叫んだ。

 

『ああ、こちらでも確認した。確かに蜥蜴座……イグアナ・ゾディアーツだ。どうやら奴の装甲は龍のような鱗を持つ。ドラゴン・ゾディアーツほどではないがそれでも十分な防御力だ』

 

映し出された弦太郎の親友、歌星 賢吾が淡々と調べた結果を喋りだす。

 

『どうやらイグアナ・ゾディアーツと戦っている彼女では奴の装甲を上回る力はないようだ。恐らくそれよりも上回る子を呼んたほうがいいな』 

 

賢吾にはアイドル部の子達が特殊な力を持っていることを昨日、教えた。だから、こんな状況でも素早く対応できる。

 

「パワーがある奴って事か。えっと、それなら……」

 

なんとなく彼の頭には二人の人物が思い浮かぶ。牛巻 りことヤマト イオリ。誰がどんな力に特化しているのかわからない弦太郎は迷う。そこで弦太郎が仕方ねぇと言ってスマホを取り出した。

 

『させねぇよっ!』

 

「ぐあぁっ!」

 

だが、そこでスマホを持つ弦太郎の腕が蹴られた。赤い炎の様な足で。スマホが遠くへと吹き飛ばされ、弦太郎が地面へと転がった。

 

『なにっ!』

 

賢吾も弦太郎の蹴った存在に気付く。赤い炎を体現したかのような身体に翼が生えた怪物。そして、身体のあちこちに存在するコアと星を結ぶ線。

 

『鳳凰座……フェニックス・ゾディアーツ……』

 

賢吾がその姿を見て絶句する。不死鳥の名を関するゾディアーツが目の前に存在する。

 

「如月先生!?」

 

あずきも新しい怪物の存在に気付く。

 

『っ!?』

 

あずきがイグアナ・ゾディアーツの目の前で杖を翳す。すると杖の先端が強い光を発するとイグアナ・ゾディアーツの視界を奪う。

 

『!』

 

その隙を突いたあずきが棍棒でフェニックス・ゾディアーツの身体を横へと吹き飛ばした。

 

「如月先生。大丈夫ですか?」

 

あずきが弦太郎のそばによると心配そうに彼の顔を覗いた。そして彼は心配するなと言わんばかりに起き上がった。

 

『弦太郎、あの赤いゾディアーツとは戦うな!アイツは恐らく不死身だ!たとえ、フォーゼに変身したところで勝てる可能性は低いっ!!』

 

ディスプレイ越しに賢吾が叫ぶ。

 

『よく分かってんじぇかっ!』

 

そんな賢吾の言葉をバックにフェニックスがあずきの身体を突き飛ばし弦太郎を蹴り出した。

 

「先生!」

 

弦太郎が茂みの向こうへと吹き飛ばされる。あずきの声が遠く感じた。

 

「くぁッ……」

 

身体を地面に打ち付けられ痛みに耐える。

 

「いってぇ……ゾディアーツが二体も……俺が戦えれば……」

 

あずきが二対一をさせずに済むと悩む。ゆっくりと身体を起き上がらせる。自分は生徒を導くためにベルトを捨てた。もう、形も残っていない。自分にはゾディアーツを倒すための力は残っていないと分かっていた。それでもダチを、これからダチになる奴を放ってはおけない。たとえ力がなくとも守る事はできると思っている。

 

「ん……?」

 

弦太郎が不敵に笑うと傍らに落ちていた物体が目に留まる。ストップウォッチのようにも見える白色と橙色の物体。弦太郎は無意識にそれを左手で拾った。

 

 

 

 

 

『潰ス!潰スッ!潰スゥ!!』

 

イグアナ・ゾディアーツが叫ぶ。増幅された憎しみ、歪められた人格によって目の前の少女を消すために拳を振り下ろした。

 

「っ!」

 

あずきが後ろへと跳んでなんとか躱す。だが、その跳んだ先にいたあの赤いゾディアーツが彼女を蹴りつけた。

 

「二対一になるとはあずきは思いもしませんでしたよ……ですが、警戒はしといて正解でした」

 

『は?』

 

フェニックス・ゾディアーツが地面に倒れているあずきを睨みつける。

 

『まさかっ!』

 

フェニックス・ゾディアーツが背後を振り返る。こんな状況でも不敵な笑みを浮かべたあずきの違和感に気付く。

だが、遅い。薙ぎ払われた黄金の斧がフェニックス・ゾディアーツを校舎の壁へと叩きつけた。

 

「やっば!ばあちゃる号に怒られる!!って、あずきち大丈夫?」

 

「はい、大丈夫です。今の奇襲は中々のものでしたよ」

 

巨大な斧を地面に置いてあずきの傍まで駆け寄るりこ。

 

「あれが噂のゾディなんたら…」

 

『ゾディアーツだ』

 

「え、なに今の声……え、何これ?アタッシュケース?」

 

りこの横から邪魔するような声に落ちていたアタッシュケースを覗かせるりこ。

 

『二人共、凄いな。弦太郎は無事なのか?』

 

賢吾がフタリの力を見て驚嘆するがすぐに親友の安否を確認する。

 

「わかりません。茂みの向こうへと飛ばされてしまったので……」

 

『そうか……それなら心配なさそうだな』

 

あずきの言葉になぜか安堵をする賢吾。その様子にあずきは首を傾げた。

 

『アイツはそう簡単に死ぬ奴ではない』

 

フッ、と不敵な笑みを浮かべる賢吾。それを見ていたあずきとりこの背後に人影が迫る。

 

『おもしれぇじゃねぇか。女ァ!!』

 

体から熱を発して二人の背後に現れたフェニックス・ゾディアーツがりこを見下す。フェニックスが燃える右腕をりこへと伸ばす。

 

「───オラァァァッッ!」

 

りこの顔に迫る目前、フェニックスの体に弦太郎のドロップキックがめり込み吹き飛んだ。

 

「「如月先生!」」

 

『弦太郎!』

 

「お前ら、怪我はないか!?」

 

弦太郎がそのまま着地すると二人の安否を確認する。コクリ、と頷く生徒を見て弦太郎はニヤリと笑った。

 

「二人共、赤い野郎を頼めるか?」

 

弦太郎があずきとりこにそう告げる。

 

「ですが、あのイグアナ・ゾディアーツは……」

 

誰が対応するんのですか、とあずきが言いかけた直後。

 

「俺に任せろ」

 

『待て、弦太郎!今の君にはフォーゼドライバーはない!!あのイグアナ・ゾディアーツでさえ倒せないんだぞ!?』

 

あのゾディアーツを相手に戦うなんて無茶だ、と告げる。だが、それでも弦太郎は不敵に笑って見せた。

 

「心配すんな、賢吾。フォーゼドライバーならここにある」

 

弦太郎がそう言って賢吾に見せたのは弦太郎の後輩である時の王者が使うアイテムの一つ。ライドウォッチ。

 

『は?』

 

賢吾が眉を潜め、それを睨みつけた。そのライドウォッチの表面には賢吾と弦太郎の見知った仮面が描かれていた。

 

『確かにフォーゼだが……』

 

それをフォーゼドライバーだと言うのは無理がありすぎる、と付け加えた。

 

「賢吾。お前は俺のダチだ。そしてフォーゼドライバーも俺のダチだ。俺達が信じなくてどうする!」

 

『…………』

 

弦太郎の言葉にかつて自分が呟いた言葉を思い出す。

 

 

『フォーゼドライバーは弦太郎のダチだ。アイツがピンチだった時はいつだってアイツの元に戻ってくる』

 

 

自身の言葉を思い出して息を呑み込むと目を大きく見開いた。

 

『そうだな。俺には弦太郎、フォーゼドライバーを信じよう』

 

「それでこそ賢吾だ!」

 

ニカッ、と笑う弦太郎と賢吾。そんな二人にあずきとりこが首を傾げた。

 

『何をごちゃごちゃと……』

 

「おっと、すまねぇな。だが、安心しな!ここからは俺も本気で行かせてもらうぜ!」

 

弦太郎が左手に握っているウォッチを前へと伸ばす。そして弦太郎がソレを起動させた。

 

《フォーゼ!》

 

ライドウォッチの起動音と共にソレが光の粒子へと変わり彼の腰の周りで別のものへと姿を変えた。

 

『フォーゼドライバー……』

 

賢吾はその姿の名を呼ぶ。レバーと上下四基、合わせて八基のスイッチが取り付けられた白いドライバー。

 

「先生……?」

 

「安心しろ。俺は蜥蜴野郎を倒す。お前達はあの赤い方を足止めしてくれ」

 

カチカチ、カチカチッと弦太郎が下段の赤いスイッチを四つとも下げると身構える。

 

《───3》

 

ドライバーからカウントダウンが発せられ、りこもあずきも何がなんだかわからなかった。

 

《───2》

 

フェニックス・ゾディアーツもイグアナ・ゾディアーツも警戒する。そのカウントダウンを警戒して迂闊に近づけなかった。

 

《───1》

 

そんな中、ディスプレイ越しに賢吾が笑みを浮かべた。それは勝利の確信とかではない。親友の力の復活を喜んで。

 

「───変身!」

 

弦太郎が勢いよく叫んでレバーを押し込み右手を上げた。軽快な音楽と共にドライバーから煙と風が吹き出した。それだけではない。弦太郎の頭上にゲートが開き、神秘な宇宙のエネルギーであるコズミックエナジーが物質化する。

 

煙も風も消え、あずきやりこ、そしてゾディアーツ達も弦太郎の姿を見た。まるでその姿は宇宙服にも似た白をベースとしたスーツ。

 

そして頭はまるでロケットを意識した形をした形だった。

 

ぐっ、と弦太郎もとい仮面ライダーフォーゼがその場で蹲る。

 

『宇宙、キタァーーーーーーッ!!』

 

そしてバッ、と身体を☓字へと広げ電脳世界の彼方まで叫んだ。

 

「「…………」」

 

あずきとりこがフォーゼの姿を見て唖然とする。

 

『仮面ライダーフォーゼ!タイマン張らせてもらうぜ!!』

 

フォーゼが胸を二回叩いてイグアナ・ゾディアーツに向けて拳を突き出すと、そのままイグアナ・ゾディアーツへと突っ込んだ。

 

『まずはコイツだ!』

 

ROCKET(ロケット) ON 》

 

フォーゼぎそう言ってドライバーの上段にある右腕のスイッチを押した。

フォーゼドライバーに装填されてる上段のスイッチは『アストロスイッチ』と呼ばれるものでコズミックエナジーを利用することでフォーゼの戦闘を支援するマルチユニット『フォーゼモジュール』を物質化することができる。

 

『ライダーロケットパァンチッ!』

 

フォーゼの右腕に現れた橙色の小型ロケットが勢いよくイグアナ・ゾディアーツと衝突しそのまま遠くへと吹き飛んだ。

 

『あずき、りこ!その赤い奴の足止め、頼んだぞ!』

 

フォーゼが小型ロケットで飛びながら彼女達へと叫ぶとそのままイグアナ・ゾディアーツの方へと飛んでいく。

 

RADAR(レーダー) ON 》

 

フォーゼが左腕のスイッチをオンにして小型受信機で賢吾と連絡を採る。

 

『弦太郎、奴には通常の攻撃は効かない。強い攻撃力を使うハンマーを使え!』

 

『おう!』

 

弦太郎が頷くとレーダーのスイッチを取り外すとそこに新たなスイッチを取り付けた。

 

HUMMER(ハンマー) ON 》

 

そしてフォーゼの左腕に現れる黄色いハンマー。ロケットをオフにしてイグアナ・ゾディアーツへと着地するとそのままイグアナ・ゾディアーツへと振り下ろす。5.5tをも持つ重い一撃がイグアナ・ゾディアーツへとダメージへとなる。

 

『まだまだ行くぜ!』

 

CHAINARRAY(チェーンアレイ) ON 》

 

フォーゼが慣れた手つきでスイッチを取り替えて新しいフォーゼモジュールを装備する。右腕の鎖で繋がれた鉄球を振り回して遠心力を利用してゾディアーツを吹き飛ばす。

 

GIANTFOOT(ジャイアントフット) ON 》

 

そして右脚に巨大な足が取り付けられフォーゼはその場で地団駄を踏む。それをジャイアントフットが周囲の重力を増幅させゾディアーツを足の幻影で踏みつけた。

 

『これで決めるぜ!』

 

LAUNCHER(ランチャー) ON 》

 

そして右脚に5連装ミサイルランチャーが物質化される。発射されたミサイルの一部はイグアナ・ゾディアーツに命中しなかったものの付近へと着弾し爆風によって上空へと吹き飛んだ。

 

『オラァッ!』

 

再びフォーゼがロケットモジュールを起動させ、上空へと飛ぶ。そのついでにゾディアーツの真下から小型ロケットでさらに上空へと吹き飛ばす。

 

『これで終わりだ!』

 

DRILL(ドリル) ON 》

 

彼の左脚に現れる黄色いドリルモジュール。そのドリルが回転し始めた。

 

《 ROCKET DRILL LIMIT(リミット) BREAK(ブレイク)

 

吹き飛ぶゾディアーツの頭上を捉えてフォーゼがレバーを押し込んだ。ロケットモジュールとドリルモジュールが最大出力で稼働する。

 

『ライダーロケットドリルキッーーークッ!!』

 

ロケットモジュールを用いてイグアナ・ゾディアーツへと急加速していきドリルモジュールの蹴りを繰り出す。加速と回転を用いた破壊力抜群のその必殺技はいとも簡単にイグアナ・ゾディアーツの装甲を貫いた。

 

 

 

 

 

『チッ、失敗か』

 

上空の爆発を見上げながらフェニックス・ゾディアーツは呟いた。あずきもりこもそれにつられて上空を見上げる。そこには爆発を背に地面へと着地するフォーゼの姿が目に入る。

 

『…………』

 

フェニックス・ゾディアーツはその隙を見計らってその場を立ち去る。二人はそれに気付くフォーゼの元へと駆け寄った。

 

「よっ、赤い奴はどうなった?」 

 

フォーゼが変身を解除してこちらへと駆け寄ったきた二人を見た。

 

「それが逃げられてしまいまして……」

 

「そっか。やっぱりな」

 

「え?」

 

「それはどういう?」

 

「どういう意味って、アイツの目的は恐らくあの蜥蜴野郎の援護。そうでもない限り邪魔をしないし、失敗すれば目的を失う。だから帰った。そうだろう?」

 

「確かにそう考えれば不思議ではありませんが……」

 

「まぁ、この話は後だなっと……」

 

弦太郎がそう言って落ちていたゾディアーツ・スイッチを広い上げるとそれを押した。

 

「「!?」」

 

あずきとりこが目を見開いて警戒する。そして三人の目の前でスイッチは消滅した。

 

「今のは……?」

 

「気にすんな。これでアイツも元に戻るはずだ」

 

弦太郎はそう言って校舎へと戻っていく。だが、弦太郎の言葉にあずきとりこは首を傾げていた。

 

「んっ……」

 

そして弦太郎はイグアナ・ゾディアーツへと変身した少年のもとへと駆け寄った。

 

「立てるか?」

 

弦太郎が少年の腕を掴むと肩を貸して歩き始める。

 

「先生、その人をどうするんですか?」

 

「決まってんだろ。病院へ連れて行く」

 

そう言って弦太郎は彼を支えて廊下を歩く。そんな彼の背をあずきとりこは見つめた。

 

 

 

 

「なんでこんなことをしたんだ?」

 

弦太郎が静かに少年へと聞いた。そんな先生の問いに少年が戸惑うと口を開く。

 

「好きな人がいるんです。その人に告白したんですけどアイドルになりたいから付き合えないって言われて……」

 

「その後、でした。俺の前に怪物が現れスイッチを渡したんです」

 

「あの赤い奴か……」

 

「いえ、それよりも大きく禍々しかったです」

 

「!」

 

「俺はそれを半信半疑で受け取ったんです。『このスイッチはお前の願いを叶えてくれる』と。それを受け取った時からでした。彼女を自分の手にしたくて彼女のアイドル部を壊したくなったのは……」

 

「そうか……」

 

「先生は何も言わないんでか?俺はアイドル部。壊そうと……」

 

「自分で気付いてんなら俺が言う必要はねぇよ。薄々はわかってたんだろう?だから、自分のやっている事をなぜ先生は問い詰めないのか疑問に思った」

 

「…………」

 

「フラレて悔しいお前の気持ちもわかる。自分でもわかっているんだろう?お前のやっていた事はその好きな奴の夢を壊すことだって」

 

「…………っ」

 

「お前、夢はあるか?」

 

「───え?」

 

「失恋しちまったんならその心を埋めるために夢に向かえばいい。たとえ、それで埋められなくても夢を追いかけてる間に新しい恋を見つければいい!」

 

弦太郎が少年へと笑顔を向ける。そんな先生の言葉に自分はなんとなく心が温まる。

 

「俺、夢があります。甲子園に出ることです」

 

「そっか、俺はそれを応援するぜ。お前の青春はまだ始まったばかりだ。甲子園は男の青春だ!」

 

弦太郎が無邪気に笑うと少年もなぜか釣られて笑い始めた。

 

「ほら」

 

弦太郎が少年へと手を伸ばす。少年は先生の手を握る。

弦太郎が少年に二種類の握手を交すと少年と拳を打ち付けた。それは弦太郎の友情のシルシであった。

 

 

 

 

 

 

この一件の後、少年はアイドル部の子達に謝りに行った。彼の処遇はばあちゃるによって三週間の停学処分となった。

 

「いやーさすがゲンゲンですね。お願いしたかいがありました」

 

学園長室にてばあちゃるが呟く。そして机に置かれた写真を見つめる。そこは先日、イグアナ・ゾディアーツと戦っていたフォーゼの姿。

 

「いやはや、まさかもうゾディアーツとやらの手がウチの学園に手が回っていたとは」

 

そう言ってばあちゃるが一枚の写真を摘む。不死鳥の名を持つフェニックス・ゾディアーツが写っている写真。

 

「これは少し厄介な事になりそうですねぇ……」

 

 

 




登場人物解説

歌星 賢吾……弦太郎の親友の一人。宇宙京都大学の大学院の院生でコズミックエナジーなどの研究を日々送っている。また、彼はゾディアーツとの戦闘では分析・指示を出す役割を与えられていた。

牛巻 りこ……アイドル部の一人で明るく活発な少女。星座は牡牛座。彼女の力は巨大な黄金の斧を振り回す程の力とその斧を出し入れする能力だ。

イグアナ・ゾディアーツ……蜥蜴座のゾディアーツ。壁や天井に一時的に張り付く能力を持ち、脚力も高い。そして龍の鱗の様な肌を持ちそれなりに高い防御力を持つがドラゴン・ゾディアーツと呼ばれる龍座のゾディアーツ程の防御力は持っていない。

フェニックス・ゾディアーツ……鳳凰座のゾディアーツ。燃え盛る四肢を体現した姿で背には大きな翼が生えている。賢吾が言っていたとおり不死身のゾディアーツでタフさが売りのゾディアーツだ。(命名はバトルスピリッツの『砲凰竜 フェニックス・キャノン』から)

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