収容所の事件から数日経ち、あんていくで働き始めて数日が経った。今日は数日に一度の休みで、俺は東京の街を歩き、地下にあるとある店へと向かっていた。小慣れた足取りで複雑に入り組んだ街路を歩き、地下へと続く階段を降りていくと木製で金属などで装飾が施された扉と「HySy ArtMask Studio」の看板に出会った。俺はその扉をノックする。するとずっと奥の方から間の抜けた返事が聞こえてきて、俺は扉を開いた。
店の中には沢山のマスクが並び、その一つ一つがまるで俺を見ているようで居辛さを感じながら進むと、そいつは椅子に座って俺を見ていた。
「やぁ。来ると思ってたよ」
「俺が抜け出した情報はもう広まっているのか」
「どうだろうね。ここに来たってことは新しいマスクが必要ってことだよね?」
「ああ。頼む。金はある」
「デザインは?」
「決まってる」
「鬼だね」
「ああ」
そしてウタは俺の顔にメジャーを当てて採寸を始める。
「今はどこにお世話になっているの?」
「あんていくって喫茶店だ」
「ハハッ。君とはつくづく縁があるね」
縁があるとはどういうことだろう。俺は考えていると誰かが店の扉をノックした。ウタが返事をすると扉は開いた。
「トーカさん?マスクはこないだ新調したよね?」
「今日は私じゃなくてこいつです」
聞いたことのある声を聞いて先程のウタの言葉の意味を理解した。偶然助けられた先がまさかウタのお得意様だとは思わなかった。
「ちょっと待ってね今先客がいるから。ね?イブキくん?」
イブキという名前をウタは強調するように言った。俺は溜息を吐きながら後ろに手を振った。
「先客ってイブキさん!?」
「どうも」
「ここ、知ってたの?それとも芳村さんから聞いたの?」
「知ってた。捕まる前にはここでマスク買ってたからな」
「ふーん」
トーカとリオと話しているとウタの採寸は終わった。
「採寸はこれで良いかな。あとデザインだけど前と同じのが良い?それとも別のが良い?実は新しいデザイン思いついているんだよね」
「なら新しい方で頼む」
「りょーかい」
俺は椅子から立ち上がり、財布から金を取り出して支払うと店を後にしよう、と思ったが後ろから聞こえてきた声に阻まれた。
「どうせ同じ場所に帰るなら待てよ」
「トーカさん怖いね」
苦笑いするリオ。俺はまた溜息をを吐いて壁に寄りかかる。
数十分するとリオの採寸は終わった。俺達は三人揃って店を後にした。三人並んで歩きながら俺らは話す。
「イブキ。そういえばあんた頃合い読んで店辞めるとか言ってたらしいじゃない」
「そんな言い方をしたつもりはない。ただ事実だ。ずっと厄介になるわけにはいかないしな」
「あそこにいれば住む場所もあるし金も貰えるしアンタの妹捜す手伝いもしてもらえるのに?」
「それでも、だ。行かなきゃいけない場所ですることがある。でも、いつか妹を見つけたら客としてあの店に行くかもしれない。その時はよろしく頼む。取り敢えず助けて貰って住む場所まで与えてくれたお礼はする」
「、、お礼なんてしなくていいからずっといろよ」
「?」
トーカの呟きは少し前を歩いているイブキには届かなかった。トーカの横を歩いていたリオは呟きを聞き取りイブキの背中を見た。大きく強そうな背中はどんどんと遠くへ行ってやがて消えてしまいそうでリオは怖くなって悲しくなった。
マスクを買った後、、、
俺達はマスクを買ってあんていくに帰ってきた。時刻は丁度正午を回った所だ。仕事はオフですることもない。すると見たことのない人がトーカもリオと俺に話しかけてきた。しかしトーカとリオは知っているようで話している。
「イブキさん!この方が四方さんです。僕達をあんていくへと連れてきてくれた方です」
「そうか。済まなかった。感謝している」
「、、、ああ」
初対面の時のトーカと同じくつれない反応だ。すると彼はとんでもない言葉を口にした。
「お前、一発入れてみろ」
「、、、正気か?」
「ああ。一発入れてみろ」
俺は上着を脱いで構えようとした。しかし攻撃を入れようとしている俺をトーカが止めた。
「あんたも四方さんも。ここでいきなりやる気ですか?地下行きましょう」
「そうだな」
四方も頷き俺等は場所を改めることにした。
店の裏側を進むと地下へと続く梯子があり、梯子を降りると広い空間に出た。こんな空間があったのかと俺は驚きながら四方を正面にして改めて構えた。
「赫子は使うなよ」
トーカに頷くと遠慮なく四方の顔面を捉えて拳を振るった。
「、、、。速い。それに重いな」
ギリギリの所で四方は躱す。それを見越して俺は蹴りを逃げた先に入れる。蹴りは四方の身体に直撃せずども掠った。
「何をしていた?」
「何とは?」
「コクリアに入る前にどうやって生きていた?」
「それは言えない」
「スネに傷があるのは確かか」
四方が構え直した。俺はそれを見てもう一度構え直す。今度は四方が先攻を仕掛けてきた。俺は拳を避けて弾く。
「、、良い動きだ」
「そうか」
暫く互いに防ぎ合う時間が続いた時、四方は口を開きそう言った。そして四方は構えるのをやめた。俺はまだ警戒心を解かないままゆっくりと構えるのをやめた。
「警戒しなくていい。終わりだ」
そう言われ俺は全身の緊張を解いた。気付けば汗が流れている。
「あんたそんな戦えたの?」
「イブキさん強っ」
トーカとリオが引きながら俺を見ている。
「生きていく為だ」
汗だくのまま地下を背にして梯子を昇った。