吾輩は鬼である、名は‘‘まだ‘‘無い 作:しいな
感想で続きが見たいという人がおられてすごく嬉しかったです、ありがとうございます。
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「私は胡蝶カナエと言います、貴方の名前は?」
私に対して刀の柄に触れながら女性そう笑顔で言う。
どれだけ美しい女性であろうと鬼への憎しみはあるのか、女性に分からないように肩を少し竦める。
「私の名前は…無い」
自分で言って悲しくなるこは当然ことだが他人に言うとこれほどまでに悲しくなるとは、少し自分の滑稽さに笑ってしまう。
「君も、鬼狩りだね?」
君も、そう言ってしまった自分を殴りたい。女性は刀の柄をしっかりと握って刀を抜く。安全の為、二歩後ろに下がる。
誤解を招くのは当然だろう。私が鬼狩りと出会って生き残っているということはつまり、食い殺したか逃げたかの二択なのだから。
「貴方は私以外の鬼狩りと出会って、喰らったんですか?」
そう問われ私は少し俯き、考える仕草をとる。
「鬼狩りと出会ったのはもう、二百年も前の話だよ」
「え、二百年って…」
「その時の私は、人を喰らったという罪悪感で死にたくて、殺してほしかった、だから頸を差し出した」
私は自分の罪を誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
「少し躊躇して刀を振りかぶった時、鬼の始祖が現れた。鬼狩りを殺し、私に血を大量に与えた」
私はあの時のような憤りと殺意を感じ、拳を強く握りしめた。
「適応してほしくなかった、適応せずに死にたかった。生き残ってしまった私には絶望と、殺意、それしか残っていなかった」
女性の刀を握る手が震えた、こんな話聞きたくなかっただろう。
私は謝罪し、頸を差し出そうと―――。
「…貴方は今、何のために生きているんですか?」
何の為、そう聞かれると無いのかもしれない。
自分の中で何の為に生きているのかと問いただし、出た答えを女性に言う。
「鬼の始祖を殺すためだともいえるし、人を喰らってしまった罪滅ぼし…後は」
――名を求めて、かな
「そうですか…じゃあ、と言ってはあれなんですけど私は鬼と仲良くしたいと思っているんです」
「鬼と…!?」
鬼と仲良くしたい、その言葉に私は目を丸くさせる。
彼女は言葉を紡ぐ。
「私は鬼と仲良くするために貴方が必要、貴方は名前を付けてくる人が必要。協力しませんか?」
「こちらからお願いしたい申し出だが、私は鬼だ。私は定期的に鬼を喰らわないと食人衝動が出るが…」
「鬼が主食なんですか」
「まぁ、好んで喰らっているわけではないが…」
表情を歪めながら言う。
誰が鬼を好んで喰らうのか、少なくとも私は好きではない。
「提案には乗ってくれるんですか」
「いや、迷惑だろうに…」
そう言って引き下がり首を差し出そうとする私の両手首を掴んで瞳を覗き込んで女性は何としてでも私と仲良くしたいのか言ってくる。
「迷惑かは私が決めることなんです、迷惑じゃないから来てほしいと言ってるんです!」
私は二百年生きたことで鬼や人間がつく嘘はある程度見抜けた、女性は嘘を言っていなかった。
本心なのだろう、私に来てほしいというのは。
■■、私はまた、人の心に触れてもいいのだろうか?
もう存在するはずのない愛する人の名を呼び、問いかける。
‥‥‥‥‥。
もちろん、返答は無かった。だが、私は―――。
「じゃあ、今日からよろしく頼もうかな」
もう一度、人の心に触れてみたいのだ。
花が咲くように美しく女性は笑い、私に手を伸ばす。
「では、今日からよろしくお願いしますね」
「あぁ、こちらこそ。お嬢さん」
私は女性が伸ばした手をしっかりと握り、握手を交わした、ガラにもない笑みを浮かべて。