吾輩は鬼である、名は‘‘まだ‘‘無い 作:しいな
「どう呼べばいいでしょうか」
握手を交わした後、彼女は間髪入れずそう聞いてきた。
「名がつくまで、好きに呼んでくれ」
私がそう返すと考えておきますね、そう言ってにっこりと笑った。
ふと空を見上げ、私は顔を歪め影に移動した。太陽が顔を出していたのだ、あと少し確認するのが遅かったら身体が焼き尽くされていただろう。
「夜まで待ちましょうか」
そう彼女は呟くと私の横に座る。
「君には家族がいるんじゃないか?早く帰ってあげなさい、私はここに居るから」
「大丈夫ですよ、私にはこの子がいますから」
彼女が指笛で甲高い音を上げると、空から羽音を鳴らして黒い鴉が舞い降りてきた。
「そいつは?」
「鬼狩りにつけられる鴉、通称鎹鴉、この子の名前は
「あぁ」
彼女は鴉の頭を撫で、何かを耳打ちして空に羽ばたかせた。鴉は私を鋭く見つめてから、空に姿を消した。
話す題が無くなり私たちを静寂が包む。
「…」
「…貴方は、人が嫌いですか?」
「嫌い、ではないよ。でも、羨ましく思う気持ちはある、陽光に対する恐怖も、食人衝動に恐れることもないのだから」
「そう…ですか」
彼女は俯くとポツリと呟いた。
「時々思うんですよ、鬼と仲良くしたい私っておかしいのかなぁって」
少し悲しげな声だった。組織の中で虐げられているのだろうか。
「他の人は皆、鬼は滅する、そんな考えなんです、別にそれを否定するわけではないですが、私はどうしても納得できない」
「…」
「鬼はもともと私たちと同じ人間だったのに…」
「…人には、色々な考えの人がいるんだろう。だからこそ、人間は儚く、美しい。鬼は、一つの意志しか持ち合わせていない。人を喰らえ、それだけだ」
「でも貴方は…」
「私だって鬼さ、血肉を見れば耐え難い、抗い難い、欲望が溢れるさ」
自分の、鬼の滑稽さについ笑ってしまう。
「貴方は、鬼でもあり、人間でもあるんですね」
「それはどうゆう…?」
聞き返すが彼女は答えてくれない。自分で考えろということなのか、私は顎に手を当て考える。
そうしている内に、時間はあっという間に過ぎてゆく―――――――。
「夜ですね」
「…あぁ」
いつの間にか月が顔を出し、夜になっていた。時間の流れは速いな、とうの昔にわかっていたことだが。
「では、着いて来てください」
そう言って走り出した彼女を見失わないように後ろを走る。
後ろから彼女を見ると蝶のようだ、本当に美しい。
―――――――
―――――
「っとと、着きましたよ」
足を止めたので、私も止まって彼女の横に歩いていく。
着いたのは大きな屋敷、珠代が私を案内した屋敷よりは幾分小さいが家族と住むには広すぎるのではないか。そう思いながら進んで行く彼女の後を追う。
「よく来ましたね、鬼」
そんな殺意が混じった呟きが耳に届き、本能的に身体を動かす。
その刹那、左肩に深々と刀が刺さる。
日に焼かれるような痛みに声を漏らす。
「っぐぁ」
「急所は逃れましたか」
「しのぶ!?」
鬼は頸を斬られない限り死なない、そう慢心していた私が馬鹿だった。
「ですが、毒からは逃れられない」
「っあぁ…」
ばちゃり、大量の血が口から溢れ地面に落ちる。視界が眩むような痛みに膝を着き血を分け与えられた時のように痛みにのた打ち回る。
「鬼の貴方が悪いんですよ」