シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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今回は彼女達がメイン……と見せかけてな話。
やっと承らしくなってまいりました。


Stand up! Lady!!

「な、何だか久しぶりで緊張します」

 

 そう言ってぎこちなく笑う響に俺は申し訳なく思った。

 場所はお馴染みと言えばお馴染みの俺の部屋。響にとっては引っ越し以来の来訪となる。

 

「そうだなぁ。ここで響と最初に出会ってもう二か月近くになるし」

「私の感覚だともうちょっと短いですけど、そこまで大差ないですね」

「逆言えば、たったそれだけで変化ってあるもんだよな」

 

 俺の言葉に響も苦笑しながら頷いた。

 あの時、俺は週四の夜勤バイトで何となくその日を生きていた。それは響と出会っても変わらず、クリスが来ても変わらず、翼が来ても天羽さんが来ても大きく変わる事はなかった。

 

 それがセレナちゃんの来訪で一変した。彼女は帰るべき場所を見失い、姉とも距離を取った。

 天羽さんもそうだ。根幹世界以外のゲートが隠され、いつ響達も同じ事になるか分からなくなった。

 だから俺は最悪に備える事にしたんだ。装者全員をこの世界で支える事が出来るように。

 

 ホント、人間変わろうと思えば変わるもんだ。

 

「只野さん、もうすっかり店長って呼ばれてますし」

「そうなんだよ。まぁ茂部が呼ぶのはいいさ。あいつはそういう奴だし。まさかあの近藤さんまで軽く笑いながら店長って呼んできたからな」

「近藤さん言ってましたよ。最近の只野さん、ちょっとだけカッコ良くなったって」

「それは毎日髭剃ってるからじゃないか? あるいは髪を結構短く切ったから?」

「両方じゃないですか? 今の只野さんも私、す、好きですよ?」

 

 少し照れくさそうに言う響に俺も若干照れてしまう。そういう意味じゃないと分かっていてもそうこられると弱いのがDTと言うものだ。

 

「そ、そっか。まぁ、弁当屋の頃はこれぐらいにしてたんだ」

「そうなんですか。えっと、どうして?」

「髪の毛が短い方がいい商売だから。もし入っても分かり易いだろ? 俺のか俺以外か」

「ああ……」

 

 納得。そんな顔をする響に小さく微笑む。何というか、懐かしさを感じるな、この時間。

 思えば三回目まで俺と響はこんな感じだったっけ。で、あのデートが二人きりだった最後な訳だ。

 

「さてと、今日来てもらったのは他でもない。響とゆっくり話をしようと思ってさ」

「話を……?」

「うん。翼とは直接話す事は減ったけどスマホのやり取りで意思疎通や意見交換は出来てるし、クリスとは夕勤の事で時々残って話をしてもらってるんだ」

「そういえばクリスちゃん一人の時は帰りが遅かったような気がする……」

 

 若干響の表情が曇る。ああ、いかんいかん。これじゃ俺が二人だけを特別視してるみたいに思われる。

 

「響、勘違いしないで欲しいんだ。俺は君とも話をしたくない訳じゃない。でも、響はリーダーとか苦手だろ?」

「それは……はい」

「で、バイト中も常に全力だ。それが響の良いとこでもあり時々悪い方へ傾いちゃうけどね」

「あはは……」

「だから響には俺からバイトとして言う事はないんだよ。そのままの君でいて欲しいって思うぐらいだ」

「そのままの……私……」

 

 素直な意見を告げると響が何故か軽く目を見開いた。そんなに驚きかな?

 俺としては響のような接客が出来るようになりたいもんだ。夜中に来る人の中にだって響の事をよく話す人いるぐらいなんだしな。

 

「明るくて元気で、時々ドジをやっちゃう事もあるけど、俺はそんな響が好きなんだ」

「っ!? そ、そうなんですか……」

 

 好きと言われるだけで真っ赤になって照れる響。うん、どうやらそういうところはまだ変わらないらしい。

 それに安心するような、ちょっと心配なような複雑なおっさん心である。

 お願いだから変な男に引っかからないで欲しい。優しい顔で近付いて、信頼させて騙して捨てるなんて男や女は、悲しい事に世の中にそこそこいるのだ。

 

「さて、何から聞こうかな? じゃ、まずはバイトに関して。何かあるかい?」

「えっと、前まではあったんですけど今はそんなに」

「え? そうなの?」

「はい。只野さんが店長さんを目指し出して頑張ってるの見て、私も負けてられないなって思って」

「あー、うん。響、それは嬉しいけど不平不満は言ってくれ。俺が我慢してるから、苦労してるから自分もそうしようってのは違うんだ。ちゃんと言って欲しい。それを直せるかは分からないけどね」

 

 何というか響って昔の俺に似てるんだとそこで分かった。

 一人でも頑張ったり大変な思いをしてると、自分もこれぐらいってそう思う性格なんだ。

 

「え、えっと……いいんですか?」

「勿論。これも店長になるなら避けられない事だ。店を良くしていくにはまずそこで働く人達の協力が必要不可欠だし」

 

 これは俺がこれまで感じてきた事。上が何かあった時にみんなの待遇や環境を良くしようと動いてくれる人なら下はついてきてくれる。逆に上が何があろうと利益優先で自分の事しか考えないと下は確実に離れていく。

 下の人達が頑張るには上がその人達のために頑張ってくれる人じゃないといけない。俺が長く続けてこれたバイト先はいつもそうだった。支えたいって、そう思わせる人だった。

 

 俺の言葉を聞いて響はおそるおそるだけどバイトでの不満や愚痴を言ってくれた。その中には俺が何とか出来ないものもあったけど、そこはオーナーや他のバイトの人達と相談するしかない。

 

 それにしても、響は本当に真面目なんだなとよく分かった。真面目だからこそ気になる事や嫌な事があるのも。

 

「……うん、ありがとう響。俺で何とか出来る事からまず始めていくよ。そうじゃないのはもう少し待ってくれ」

「はい」

 

 色々言いたい事を言えたからか響の表情が明るくなっていた。うん、まずは第一段階成功、かな?

 

「えっと次は……」

「あ、あのっ!」

 

 響への次の質問を切り出そうとしたところで彼女が手を上げた。まるで学校だなと思いつつ、どうぞと声をかけた。

 すると響は何故か言い出しにくそうにモジモジとし始めた。トイレ、なはずはないか。じゃあ……何だ?

 

「どうかした? 言い辛い事なら無理しなくても」

「い、いえ。あの、えっと、その……」

 

 何だろうか。響が俯いてしまった。そのまま俺は彼女が話し出すまで気長に待つ事に。

 でも本気で察しがつかない。言い出しにくい事で響が俺へ言いたい事や聞きたい事?

 

 …………あっ。

 

「あの、さ。それってもしかしてエロい事、だったり?」

「っ?!」

 

 ビンゴ。忘れてたけど、そういや俺は翼とクリスにはエロ動画を見てた事を知られてるんだった。で、おそらく響もだろうと思ってたけど、当たりのようだ。

 

「その、ごめんな。気持ち悪いだろうけど、それが男だと思って大目に見て欲しい」

「い、いえっ! えっと、私が言いたいのはそれじゃないんだけどそれに関係してるって言うか何て言うか……」

 

 はて? どうやら見損なったとかではないらしい。じゃ、一体何を言い辛そうにしているのだろう?

 

 そう思って見ていると響は勢い良く顔を上げた。

 

「た、只野さん! そういう事は彼女さんを作ってした方がいいですよっ!」

「…………あ、はい」

「軽いっ!?」

 

 まさかの意見具申だった。いや、うん。響の言う通りだとは思うけど、今の俺に彼女など望めるはずもないと分かってるんだろうか、この子は。

 まず今の俺はこの世界で唯一の装者達の支援者。もしそんな俺に彼女が出来たとして、彼女達の事をどう説明する?

 次に、説明したとして納得してくれるだろうか。こう言っては何だが装者の子達は皆美女美少女である。いくら俺がその彼女を愛していると言ったところで、そんな女性達と親しくし親身になって接していい気分でいられるはずはない。

 

 まぁ、そもそも俺に彼女となってくれそうな知り合いもいなければ、いたところで口説けるとも思えないワケダが。

 

「えっと、響の気持ちは分かるし嬉しいよ。そこまで俺の事を考えてくれてるんだって」

「え、えっと……」

「でもな、現状俺が彼女なんて作れるはずもないし、もし仮に、何らかの奇跡が起きて、神の力以上の神秘的なモノが作用して作れたとしよう」

「すっごく可能性が薄い前提だっ!?」

「だとしても、俺は悪いけど今は彼女なんて存在へ注げる余力はないよ。今は自分と響達の事だけで精一杯だ」

 

 紛れもない本音を告げる。今の俺には彼女なんてものへ割けるだけの余力はない。

 そう考えるとそういう相手がいなくて良かった。いたら確実別れてただろうし。

 

「自分と私達の事で、精一杯、ですか?」

「ああ」

「そ、そっかぁ」

 

 安心したのか響があからさまにホッとしていた。そんなに俺が彼女出来そうに見えるんだろうか?

 

 ……まぁクリスはあんな事を言ってくれたから、こっちが拝み倒せばワンチャン付き合ってくれそうではあるけど。

 

「あ、あのぉ」

「ん?」

 

 そんな事を考えていると響が赤い顔で上目遣いをしてきた。可愛いな、ホントに。

 

「た、只野さんって、今も私の事、可愛いって、そう思ってくれてますか?」

「それは勿論」

 

 迷うまでもない。即答出来る。

 

「な、なら、デート、しませんか? あの時出来なかった、お家デート」

 

 まさかの申し出が来た。そういえばあの時は帰ってきたらクリスがいて強制的にお開きになったもんなぁ。

 でも、正直あれで十分だと思うんだけど? というか、今思えばあそこから先が出来てたら色々不味かった気がする。

 

「だ、ダメですか?」

 

 だけど、折角響がこう言ってくれた訳だし、天羽さんからも落ち込んでるみたいだから何とかしてやってと言われたし……。

 

「分かった。じゃ、色々話そう。あの時出来なかった事を」

「はいっ!」

 

 二人で畳んだ布団を座布団代わりにして話を始める。話題は響の希望で俺が好きなものについて。

 だからとことん話した。好きな特撮、アニメ、漫画、ゲーム。俺の根底にあるものをこれでもかってぐらいに。

 

 でもシンフォギアに関しては一切触れないようにした。きっと響もそこは聞きたくないと思ったから。

 そうやって俺が話して一息つくともうとっくに昼を過ぎていた。まだ話し足りないけど、腹も減ってきたし眠くもなってきた。

 

「只野さん、どうしますか? もうこんな時間ですけど……」

「……眠いけど空腹じゃ寝れないから弁当を買いに行こう」

「お弁当? あっ、マリアさんが働いてるとこですねっ!」

 

 無言で頷いて立ち上がる。財布と真新しいスマホを持って振り向いた。

 

「行こうか。でも、こんな時間に食べて平気?」

 

 現在午後一時四十分を過ぎた辺り。昼と言うには少し遅く晩と言うにはあまりにも早い。

 

「大丈夫です! 私、食欲旺盛ですから!」

「ああ、そうだね。好きなものはごはん&ごはんだった」

「あ、あはは……只野さんに言われるとちょ~っとだけ恥ずかしいなぁ」

「体重も今の俺ならもしかして教えてもらえたり?」

「そ、それは……だ、ダメです! やっぱりダメっ!」

「それは残念。まだまだ仲良くならないとダメか」

 

 そんな会話をしながら揃って玄関を出る。ただ、響が何かブツブツ言っていたのが気になった。

 そういう事じゃないとか、男の人に体重なんてそもそもとか、そんな感じの。

 

 そんな呟きを聞きながらドアの鍵を閉めて、自然な感じで響の手を握ると弾かれたみたいに響がこっちへ顔を向けてきた。

 

「た、只野さん?」

「ん? ああ、ごめんごめん。あの時と同じ感覚でいたよ」

 

 俺の人生初デート。響から言われて手を繋いだ時の事を思い出して、勝手に手を繋いでた。

 道理で驚く訳だ。駄目だな。眠気でちょっと理性や自制心とかが緩くなってるかもしれない。

 

「あの時と……。じゃ、じゃあいいです。早く行きましょう!」

「え? いいの?」

「はいっ!」

 

 そう返す響は初めて見るぐらいの笑顔だ。そんなに嬉しいのか? ああ、そっか。久しぶりにあの店の弁当を食べるからだろうな。

 こうして俺は鼻歌混じりで歩き出す響と手を繋いでかつての職場である弁当屋へと向かう。

 それにしても、響のこの鼻歌って……ティガのOPか? たしかに渡したベストの中にウルトラマンのもあったけど、それで覚えたの?

 

「なぁ響、それってティガ?」

「はい。ウルトラマンの歌って元気になれるのばっかりで、私大好きなんです」

 

 まるで向日葵のような笑顔を向けてそう言ってくれた響は、俺にとっては理想の彼女である。

 

「そっか。じゃ、それの二番とか好きだろ?」

「はいっ! 僕らが出来る事を続けていくとか、優しくなれればいいとか、本当にあったかくなる歌ですよね」

「平成ウルトラマンはそういう傾向強いからなぁ。俺はガイアとか好きなんだ」

「ああっ! ギリギリまで頑張る歌!」

「そうそう」

 

 あー、何て幸せなんだろう。可愛い女の子と手を繋いで特撮ソングを話題に盛り上がれて、日の光はあったかいし、風は心地いいし、本当に最高な休みだ。

 

「「ピンチの、ピンチの、ピンチの連続! そんな時~」」

 

 更には二人で“ウルトラマンガイア!”を歌えるとか、何これ俺死ぬの?

 でも手から伝わる温もりが俺に生きろと言ってくれてる気がする。隣から聞こえる可愛い歌声が俺に死ぬなと言っている。

 

「「ウルトラマンがっ! 欲しい~」」

 

 隣へ顔を向ければこっちを見ていたようで目が合った。少しお互いに驚くけど、すぐに笑みを見せ合って声を重ねる。

 

「「ウルトラマンガイア~」」

 

 俺にとってのウルトラマンは君かもしれないな。なんて言ったら、君はどんな顔をするんだろうな、響。

 

 

 

「すみませーん」

「はーい」

 

 お昼のピークを過ぎてもう少しで食事休憩って言う落ち着ける時間になると思ったら、そういう時こそお客さんはやってくるものなのね。

 陽子さんはもう休憩の準備に二階へ行ってるので代わりに私が応対しないと。そう思って受付へ行けば、そこには見知った顔が二つ。

 

「只野と響じゃない。どうしたの?」

「飯を買いに来た」

「はいっ!」

「まぁそれしかないでしょうね。じゃ、ご注文は?」

「えっと、只野さんスペシャルって出来ます?」

「はい?」

 

 理解不能な事を言われた。何よ只野スペシャルって。聞いた事ないんだけど……?

 

「響、あれは陽子さんしか通じないから」

「そうなんですか。残念……」

「えっと、どういう事?」

「この時間だと陽子さんは二階?」

「ええ」

「ならこの話はまた今夜にでもするよ。もしくは後で陽子さんに聞いてくれ。で、俺はのり弁大盛り」

「はいはいのり弁大盛りね。響は?」

「同じので!」

「のり弁大盛り二つね。560円よ」

 

 よく分からないけど、どうやら元従業員ならではのサービス弁当ってところかしら?

 陽子さんも教えてくれなかったところを見るに、個人的に只野へやってあげてるって事ね。

 

「じゃ、これで」

「はい、1000円お預かりするわ。……440円のお返し」

「どうも」

「じゃあ、少し待ってて」

 

 裏へ引っ込みながら考える。只野と響、どうして手を繋いでいるの? 彼、異性に興味が無いわけじゃない?

 いや、でも只野からはデートとか付き合ってるみたいな雰囲気はないわね。動揺もしていないし、そもそももしそういう関係ならここへ二人で来るはずないもの。

 

 ……要するにあれは只野にとっては妹といるようなものなんだわ。じゃないとデートでお弁当はない。

 

「だからあの子も嬉しそうなのね」

 

 白身フライを二つフライヤーへ入れて、更に別のフライヤーへちくわの磯部揚げを二つ入れると同時にタイマー作動。

 揚がるまでの間に大盛り用の容器を手に取り、御釜の蓋を開けてご飯をよそっていく。

 最初は計りを使っていたけどもう感覚で大盛りの感じは覚えたわ!

 二つの大盛りご飯をよそってそこへ昆布の佃煮を散らす。そこに海苔を乗せてバランを敷いてっと。

 

「沢庵を二切れ乗せて残るは……」

 

 タイマーへ目を向ければもう磯部揚げはOKだ。そちらのフライヤーを上げて油を切るために網の上へ。

 

「後は白身フライね」

 

 タイマーが鳴った瞬間、フライヤーを上げてフライを網へ。

 

「これで……よし」

 

 のり弁当大盛り二つの完成ね! それに蓋をし、輪ゴムで止めて二膳の箸と共に袋へ入れる。

 

「はい、お待ちどうさま」

「わぁ! はやーい!」

「ありがとイヴさん。じゃ、仕事頑張って」

「ええ。ああ、そうだ。只野? ちゃんと栄養を考えなさいよ? 何なら野菜ジュースあるけど……どう?」

「遠慮しとくよ。それに売り物だろ、それ」

「セットで付けてあげましょうか?」

「キッチリ金を取るんだろ?」

「当然じゃない」

「うわぁ、綺麗だけどむかつく笑顔だ。響、さっさと帰って食事にしよう」

「あっ、はい! また来ますねマリアさん!」

「嬉しいけど時々でいいわ。可能な限り自炊しなさい」

 

 こっちへ手を振りながら去っていく響とそんなあの子を微笑ましく見つめる只野を見送り、私はカウンターへ突っ伏すように遠くなっていく二つの背中を見つめた。

 

「……兄妹みたいよねぇ」

 

 とてもじゃないけど男女には見えない。兄大好きな妹とそんな妹を優しく見守る兄だわ、あれ。

 繋いでる手もそう思うと微笑ましい。あれが指を絡めていたら話は変わってくるんだろうけど……。

 

「只野は女性に興味なさそうだものね……」

「私はそんな事ないと思うけど?」

「っ?! よ、陽子さん!?」

 

 気付いたら後ろに陽子さんが立っていた。しかも私の事を見てニヤニヤと笑っている。

 

「何だい、マリアちゃんは仁志君の事が気になるの? おばちゃんが取り持ってあげようか?」

「ち、違います。たしかに彼には世話になってますけど、恋愛感情なんて1ミリもありませんから!」

「そう? じゃあどうして仁志君が女に興味ないとか気にするんだい?」

 

 これはどう答えてもからかわれるパターンだわ。そう瞬時に理解して何とか話題を変える方向で考える。

 でも生半可な話題では潰される。ここは潰されず陽子さんも答えなくてはいけないものをぶつけないと……そうだっ!

 

「あのっ、そういえばさっき只野が特別メニューがあるって」

「ああ、あの子のいつものか。ごめんねぇ。マリアちゃんが仁志君の事を好きだって知ってれば教えておいたんだけど」

 

 ああもうっ! 結局駄目だった! むしろ余計勘違いさせた気がする!

 

 そこですぐ二時になったので一旦お店を閉めて、私は陽子さんと二階へ上がる。

 遅めの食事を食べながら陽子さんは昔話を始めた。只野に関する昔話を。

 

 最初はここの客の一人だった只野は、陽子さんが言うにはバイト休みの日は毎回昼と夜にきてのり弁当大盛りを買っていったらしい。

 で、そうやって常連になっていくと陽子さんも顔を覚えて話しかけるようになった。只野の方も最初こそあまり会話に乗り気ではなかったらしいけど、段々口数が増えていったみたい。

 

 その店員と客の関係性が変わったのは今から五年前。陽子さんが怪我をして店をしばらく閉めた後。

 久しぶりに店を開けた日の夜、閉店近くで只野がやってきたけどどこか雰囲気が暗い事に気付いた陽子さんは店を閉めて彼を店の中へ入れたそう。

 

――どうしたの? 何かあったの?

――……ここってバイトとか募集してませんか?

 

 どうも当時勤めていたバイト先で揉め事が起きたらしく、只野はそれでも生活のために続けていたけど限界が来たらしくて、それで陽子さんを頼ったそうだ。

 

「うちは私一人でやってるから人手はいらないんだけどさ。あの時の仁志君を見てたら放っておけなくてね」

「雇ったんですか?」

「時給は最低も最低。ただ、お昼と晩ご飯はタダって条件でね」

 

 苦笑する陽子さんを見て私は思い出す。ここへ只野が私を連れて来た時の事を。

 

――いいの? うちは知ってると思うけど稼ぎには向かないよ?

――それでもいいんです。イヴさんはすぐにでも働けないと厳しいもんで。なのでお願いしますっ!

 

 アルバイト募集の張り紙なんてないのにって、不思議には思ってた。その謎がやっと解けた。そもそもここはアルバイトを必要としてないんだって。

 

「マリアちゃんを連れて来た時、あの時の仁志君を思い出したんだよ。何か訳ありで、もう頼るものがないって言う感じの、そんな目を」

「そうだったんですか」

 

 只野の特別弁当は陽子さんなりの愛情って事ね。それで全て納得出来た。

 これ、日数や勤務時間を増やしたいって言える感じじゃないわ。どうしようかしら?

 

「さて、おばちゃんの話は終わり。次はマリアちゃんだよ」

「え?」

「話せる範囲で話してごらん。どこで仁志君と知り合ったの? コンビニ? まさか出会い系とかじゃないよね?」

「え、えっと……彼と出会ったのは知人からの紹介なんです」

「知人?」

「翼って言う日本人で、ネット上なんですけど私と時々一緒に歌を唄ったりする仲なんです。で、こっちに来た時に直接会う事が出来て……」

 

 私の設定は只野が考えたものだ。彼曰く上手い嘘の吐き方は事実の中に嘘を混ぜる事。

 陽子さんも私の話を疑う事なく信じてくれた。まぁ只野といきなり知り合うよりも知人を介してって方が信憑性あるものね。

 

「……仁志君は相変わらずお人よしだね。それで損する事もあるって知ってるのに」

「え?」

 

 話し終わった時、陽子さんがどこか苦笑しながらそう呟いた。

 どういう事? 相変わらずって事は前からお人よし? まぁそこは疑ってないけど……損する事もあるって、何があったの?

 

 私の視線でそんな気持ちを察したのか、陽子さんが困ったように頬を掻いて息を吐いた。

 

「これ、仁志君には内緒だよ? 彼ね、ここに来る前のバイト辞める事になった理由は同僚のために職場の上司にたてついたんだって」

「……それでクビ?」

「今のご時世そんなんでクビには出来ないよ。だからこそ余計辛い事になったみたい」

 

 そこから陽子さんは何も言わなかった。食事の後片付けを始めたので私もそれを手伝う。

 その間も何も言わず、陽子さんはただ黙って洗い物をしていった。

 ただ一言私にこう呟いて。

 

――出来れば仁志君と仲良くしてやって。

 

 その言葉に込められた願いにも似たものを感じて、私が出来たのは無言で頷く事だけだった……。

 

 

 

「あー、食べた」

 

 満足そうにお腹を擦る只野さん。何だかおじさんって感じがするけど、どこか私はそれが嬉しく思えちゃう。

 

「とっても美味しかったです!」

「な~」

 

 たったこれだけのやり取りでも幸せになれる。何だろう? 今日の時間だけで今までの分以上に只野さんエネルギー補充完了って感じがする。

 

「でも、何かごめんな。もうテーブルさえないから」

「いえいえ、何て言うかこれはこれで楽しかったですから」

 

 敷かれたペラペラのお布団を座布団にして、二人で隣り合って割り箸とお弁当を持って食べる。お茶が欲しい時はお弁当を置いて紙コップへ手を伸ばす。

 まるで引っ越ししてきたばかりみたい。あるいは引っ越し直前みたいな感じ。だからかな。さっきからワクワクが止まらない。

 

「何だか物が無さ過ぎて夜逃げ前みたいだなぁ」

「え~っ? そこは引っ越し前とか引っ越し後とかにしましょうよぉ」

 

 只野さんの表現に思わず口が尖る。折角同じ事思ったのかなって嬉しくなったのに最後で台無しにされた。

 

「まぁ実際引っ越し前みたいなもんだよなぁ」

「あ~……」

 

 そうだった。実際今頃は只野さんもあの部屋で私達と暮らしてたはずだったんだ。

 そういう意味じゃここは引っ越し前であり引っ越し後でもある。

 テーブルは私達の暮らす部屋にあるし、座布団とかもそうだ。何だか私が来た時よりも物がないから不思議な感じ。

 

「只野さん、やっぱり引っ越しはしないんですか?」

「うん。ここが取り壊しか立ち退きになるまで住む事になる、のかな?」

「意外とすぐなったりして」

「否定し切れないのが怖いんだよなぁ」

「いつそうなるんですかね?」

「いつだと思う?」

 

 私達がいなくなった後、なんて事は言いたくないし言う気もない。

 

「せめて来年にして欲しいですよね」

「そうだなぁ……」

「いっそ私達の暮らしてる部屋に来ませんか?」

 

 いなくなった後に、なんて言わない。

 

「さすがに現状を考えると片道二十分は辛いなぁ」

 

 軽く笑いながら只野さんが答える。その笑顔がどこか元気がないように見えた。

 

「でもシャワーはいつでも浴びれますよ?」

「元々二日や三日に一回で良かったからなぁ」

「店長さんがそんな不潔じゃ駄目です」

「そう言われると弱いんだよ。実際今も毎日シャワーをイヴさんのとこで借りてるからね」

 

 ズキっと胸が痛む。分かってる。マリアさん達の方が近い事は。

 でも、それでも、ちょっと前までは私達の部屋へ来てくれたのに……。

 

――みんなが私から只野さんを奪ってく……。

 

 何か、一瞬頭の中に声が過ぎった。私のようで私じゃない、と思いたい声が。

 それを無視して私は只野さんへ話しかける。

 

「じゃ、どうです?」

「そうだなぁ。この事が解決出来たらそうしようかな?」

 

 また胸が痛む。解決出来た後でも、私はここに来れるのかな? 只野さんとこうやって話せるのかな?

 

 私が大人になっても、只野さんと二人でお話しとか出来るかな?

 

――いっそここで暮らせばいい……。

 

 まただ。また、私の中に声が聞こえる。ここで暮らすって、未来を、お父さんやお母さん達を捨てるって事だよね? そんなの駄目。だってそんな事したら……。

 

――でも、このままじゃ只野さんが誰かと付き合っちゃうかも……。

 

 誰かって……誰? 只野さんは今は彼女なんて作る余裕がないって言ったし、そんな相手いないもん。

 

「……解決したら、ですか?」

「そうだね」

 

 どうして、どうして私の事を見てくれないんですか、只野さん。

 さっきまでちゃんと私を見ててくれたのに。ちゃんと目を見てくれたのに。今は顔を向けてくれないのは、どうしてですか?

 

――只野さんは奏さんやマリアさんみたいな大人の女性が好きなんだ。だから奏さんとは一緒にバイトして、マリアさんとはご飯を食べるんだ。

 

 違う。そんな事ない。でも、どうして? 何で私はその言葉を否定出来ないんだろう。

 

「只野さんは、解決して私と会えなくなるってなったらどうしますか?」

 

 お願い只野さん。私の事を見てください。それでこの嫌な気持ちを消して。

 

「それは……ん?」

 

 只野さんがやっと私を見てくれた。するとその只野さんの顔が不思議そうな顔になっていく。

 

 そして只野さんが私の顔へ手を伸ばしてきた。その顔を困ったものに変えながら。

 

「悲しくなるぐらいならそんな事聞かないでくれよ……」

「え……?」

「涙、流れてるって。……ほら」

 

 言いながら只野さんの指が優しく私の目元を拭って、その濡れた部分を見せてから小さく笑った。

 その時、私は思い出したんだ。あの時の、きっと私が只野さんを強く意識した事に繋がる思い出を。

 

――立花さん、クリームが口の端についてる。

――え? どこですか?

――じっとして。……取れたよ。

 

 あの時の優しい表情と今の表情が重なる。胸の歌が騒ぎ出す。心が叫ぶ。

 何で気付かなかったんだろう! どうして分からなかったんだろう!

 私……私……っ!

 

 私っ! この人に恋してるんだっ!

 

 そう思った瞬間、さっきまで私の中に渦巻いてたもやもやしたものが吹き飛んだ気がした。

 

「響? おーい、どうした?」

 

 そんな私の事を不思議そうに見つめる只野さん。

 ……何だろう。さっきまでは平気だったのにもう見つめられてるだけで恥ずかしい。

 だからちょっとだけ目を逸らして頬を掻く。だけど、顔は逸らしたくない。ううん、逸らさない。逸らすはずない。

 

「えっと、一つだけお願いが出来まして」

「お願い?」

「はい。えっと、そんなに難しい事じゃないんです」

 

 心臓が煩いぐらい鳴ってて、顔が燃えるように熱い。だけど、うん、大丈夫。

 あの魔法の言葉は必要ない。

 今の私は言葉にする事を迷わない勇気があるから。

 

「これから……」

 

 只野さんの目をちゃんと見つめる。私の事を不思議そうに見つめる優しい目がそこにはある。

 

「これから?」

「只野さんの事を……」

 

 そう言った瞬間、只野さんの顔が安心するみたいな表情へ変わった。私のお願いがお金を使うものとか何かするような事じゃないって分かったからだろうな。

 

「俺の事を? 何?」

 

 一回深呼吸する。きっとこれはある意味で未来へ伝えた言葉よりも大変だから。

 

「ひ、仁志さんって、そう呼んでもいいですか?」

 

 言えたっ!

 

「…………え?」

 

 なのにこの人はぁ……。

 

「だからっ! 名前で呼んでもいいですか!」

「……俺を?」

「以外に誰がいるんですか!」

 

 仁志さんって本当に鈍い。鈍いにも程があるよっ! 

 

「えっと、何で?」

「理由必要ですか!?」

「いや、周囲に聞かれたら答えないといけないし……」

 

 む~っ、ここまで来ても分かってくれないの? 私って女の子としてアピール間違ってるのかな?

 っと、そこで閃いた。じゃ、いっそ仁志さんが説明しなくてもいいようにしようって。

 

「じゃ、二人きりの時だけ呼びます。それならいいですか?」

 

 なのに仁志さんの答えはない。何だか難しい顔してる。

 も、もしかして嫌なのかな? 私に名前で呼ばれるの、嫌だったらどうしよう?

 

「……彼氏が出来た時の練習、って事?」

 

 と思ったらまさかの返事がきた。ううっ、伝わり切ってない。

 でも、ここで違うって言ったら多分仁志さんは駄目って言う気がする。そうなると私だけの特別がなくなるし……仕方ない。

 

「……そういう事です」

「えぇ……何で不機嫌なの……」

 

 ふーんだ。折角頑張って女の子が迫ったのにそんな鈍感さんにはこうです。

 でも、これで私だけの特別が出来た。

 なので意を決して呼んでみる事に。

 

「あ、あのっ、仁志さんっ!」

「……何?」

「む~っ、反応が普通過ぎません? もう少し照れるとか恥ずかしがるとか」

「あのな? こう見えても必死にそれを抑えてるの。というか、良い歳して彼女出来た事ない男をからかうんじゃないっての」

「いいじゃないですか。ここで慣れておけば後々役立つかもしれませんよ?」

「何に役立つって言うんだよ……。ああっ、真面目で優しい響が急に小悪魔系女子高生に変わってしまった……」

 

 からかうように笑うと仁志さんがそう言って俯いた。何だかそれが可愛く見えて、私はちょっとだけ距離を詰めて座り直す。

 ちょっと肩が触れ合うぐらい。こんな距離で男の人といるの、初めてでドキドキする。

 

「ひ、仁志さん、私の事も名前で呼んでみてくれませんか?」

「いつもみたいに響って?」

「はい。でもいつもとは違う感じがいいです」

 

 ちょっと強めに言った。で、出来る事ならもう少し優しい感じで呼んで欲しいなぁ。

 

「えっと……響~?」

 

 何だかペットや子供を呼ぶ感じ。そういうのじゃヤダ。

 

「も、もう少し彼氏みたいに出来ませんか?」

「いや無理言うなって。経験ないんだからさ」

「そこはほら、想像やイメージで」

「同じ意味だぞそれ。う~ん……彼氏っぽい言い方、なぁ」

 

 腕を組んで考え込む仁志さんの顔を私はドキドキしながら覗き込む。あ、目が合った。で、逸らされた。そして顔が少しだけ赤くなる。

 

 ……私も顔が熱いや。

 

「……響」

「っ!?」

 

 ちょっとぶっきらぼうだけど、照れてる感じの声。うわっ、どうしよ? 顔が一気に赤くなっていくのが分かる。

 

「これでいいか?」

「……も、もう一回。今度はこっち見て言って欲しいです」

 

 そうお願いすると仁志さんが息を呑んだ。だ、ダメかな?

 

「み、見て言うのはさすがに恥ずかしいな」

「い、一度だけ。一度だけでいいですから」

「いや、でもなぁ……それにそろそろ眠くなってきたし……」

 

 渋る仁志さんを見て、このままじゃこの時間が終わっちゃうと思った。だから思い切って仁志さんの腕に抱き着いてみた。

 

「っ?! ひ、響!?」

「よ、呼んでくれないとこうですよ? こ、このまま呼んでくれるまでくっついちゃいますからね? 寝かせませんからね?」

「い、いやいや、こんな事されたら名前呼ぶとか寝るとかじゃないって! まず俺の理性とか色々どうにかなりそうだからっ! 離れてくれってっ!」

 

 仁志さんが凄く焦ってる。でも、嫌そうには見えない。

 は、早く言って欲しい。じゃないと私の方が先にどうにかなりそうだよぉ!

 

 

 

「……ん? 今何時だ~?」

 

 そう呟いても何の反応も返ってこない。寝転んだまま視線を動かせば寝室にもダイニングにも誰もいない。

 

「翼~? クリス~? 響~?」

 

 同居人の名前を呼んでも反応なし。これは、あれか。全員外出中ってやつだ。

 仕方なく起き上がってフラフラとテーブルの上へ目を向ける。

 

「……そういう事ね」

 

 そこには翼の字で置手紙があった。響は只野から呼び出しを受け、翼はクリスと一緒に本部へ行って食料を調達してくるって内容の。

 つまり今あたしは一人っきり。この気怠い体でうだうだするしかないわけだ。

 時計を見れば午後二時を少し過ぎたぐらい。寝直すにも微妙な時間だね。

 

「…………どうするかな?」

 

 幸い鍵は置いてある。あたしが外出しても問題ない訳だ。ただ、響がいつ帰ってくるか分からないんだよねぇ。

 今日はバイトがあるから最低でも五時には帰ってくるだろうけど……さて。

 

「シャワーでも浴びるか」

 

 思い立ったが吉日。あたしはさっさと寝室へ移動し上着の替えと下着を手にシャワーへと向かう。

 寝汗で濡れたシャツを脱ぎ、洗濯かごへポイっと投げると見事に入った。我ながら惚れ惚れするね。

 

「……余分な肉、付いてないよな?」

 

 そっとお腹周りの肉を摘んでみる。掴めない訳じゃないけど掴み易くはない。うん、大丈夫。

 

「太ったらあいつに笑われるしなぁ」

 

 言いながら想像してみる。あたしが分かり易く太ったとして、只野は何て言うかって。

 

――あ、天羽さん、そのさ……。

――何さ先輩。言いたい事あるならはっきり言っていいから。

――じゃあ遠慮なく。太った?

 

 あっ、何だろイラっときた。何となくだけど只野ってこういう時気を遣えない気がする。

 もしくはあたしに対してか? 最近バイト中も天羽さんって呼んではいるけど口調砕けてるもんな、あいつ。

 

「やっぱ一緒に走るようになったのが大きいのかね?」

 

 つい三日前ぐらいから始まったバイト終わりのジョギング。それを考えてお互いバイトにタオルを持参して、勤務終わりに紙パックの安いお茶とかを買ってそっから走る。

 二人で走ると不思議ともう見慣れてた場所も違って見える感じがして、多分あれは只野と走ってるからだと思う。

 話も動画の事、バイトの事、聞いてるCDの事、それに付随しての作品の事とか話題に困らないし。

 

「ささやかに生きているものが~っと」

 

 好きな歌のフレーズを口ずさみながらシャワーを出す。気付いたらこうやって歌ってるんだよな、あたし。

 ホント只野の好きなものの影響力は凄い。気付いたらあたしや響は染められてる。

 ま、クリスや翼もそれなりに染まってはいるのはマリアの歓迎会で分かったしね。

 ここで流してる歌ばっかりだったもんなぁ。見事に只野の好きな歌ばっかりだ。

 でもあたしは他の歌だって覚え始めてる。店で流れてる歌とかで、だけど。

 

 意外だったのはヴェイグがあたしの歌ったやつへ一緒に歌ってきた事か。

 “大声で歌えば”なんて一体どこで覚えたんだ? もしかしてここにいた僅かな期間で覚えたのかね?

 

 そんな事を思い出しながらあたしはざっと汗を流した。

 

「ん~……」

 

 ドライヤーで髪を乾かしながらこの後をどうするか考える。

 正直部屋に一人だとする事がCDを聞くぐらいしかない。かと言って出かけるのも行くあてが……あっ。

 

「あいつの部屋に行くか。響もいるだろうし、もし帰る途中ならすれ違うだろうから鍵を渡せばいいしね」

 

 そうと決まればさっさと行こう。っと、そこで思い出した。

 

「……さすがに寝る時の格好に近いのは不味いか」

 

 シャツにハーフパンツだもんね。これで外を歩け……なくはないけど只野に会うのは恥ずかしいかな。

 

 なのでジーパンに履き替えて鍵を持って部屋を出る。少しだけ弱くなってる陽射しを浴びながら鍵を閉めて階段を下りる。

 時折吹き抜ける風は心地良い。この時間のジョギングも悪くないかも。もう少ししたら夕暮れだし、夕日の中で走るってのもいいな。

 

 あまり出歩かない時間に歩き慣れてきた道を歩く。それだけで見える顔が違うもんだ。

 只野と分かれる道へ来てそこで曲がる。そこの道はまだ数える程しか歩いてない。だからか何だか新鮮な感じがまだしてる。

 と、見えてくる木造のアパート。完全に昭和って頃の作りだよ、あれ。

 

「相変わらずボロいよね……」

 

 いつ取り壊しになってもおかしくない外観の二階建て。だけど、何て言うんだろうね。味わいみたいのはある。ま、住みたいとは思わないけど。

 ん? 何か今アパートの上のところに黒い煙みたいなのが流れてた気がする。何か燃やしてるのかな……?

 

「……あれ? 見間違い?」

 

 瞬きしたらもう消えていた。あたし、まだ疲れてるのかな、やっぱ。

 そんな風に思いながらあたしはアパートへと到着し、一階の一番奥のドアの前へと向かう。

 

 部屋の前に立つと、そこにはいかにも古そうな木で出来たドアがある。さてと、いるとは思うけど……どうだろね?

 

「先ぱーい、いる~?」

 

 ノックしながら声をかけたその瞬間、中からドタンと音がした。慌てて転びでもしたかな?

 

「先輩? 大丈夫?」

 

 再びノックしながら声をかける。すると鍵が開く音がしたのでドアから離れるとゆっくりとドアが開いていく。

 

「先輩、遅いって……」

 

 開いていくドアにあたしはそう声をかけて、見えた景色に首を傾げる事となる。

 

「や、やぁ天羽さん……」

 

 何故だか気まずそうな只野の後ろに途轍もなく恥ずかしそうな響が見えたからだ。

 でも明らかにあたしを軽く恨むような、そんな顔してるけど……何で?

 何だか不味い時に来たのかな、あたし。

 

「な、何か用?」

「え? あ、ああ……その、部屋にいても暇だったから……さ」

 

 あたしの言葉を聞いて響の顔がどんどん拗ねていくんだけど、どういう事だいこれは。

 

「そ、そっか。えっと……」

 

 そこで只野が一度だけ後ろを振り返った。で、響を多分見たんだと思う。だって響が拗ねた顔のまま只野へそっぽ向いたし。

 

「……とりあえず上がって」

「う、うん。邪魔するよ……」

 

 正直帰りたいけどここで帰ったら余計響を不機嫌にしそうで、あたしは結局只野の部屋へ上がる事になった。

 

 ……大人しく部屋でCDでも聞いてれば良かったかな、こうなるとさ。

 

 

 

(き、気まずい……)

 

 仁志は室内に流れる言い様の無い空気に言葉を紡ぐ事が出来ないでいた。

 奏が室内に上がってから今まで会話が一言もないのだ。

 勿論奏と響の間で挨拶だけは交わされている。

 

――えっと、まだ話してたんだね。

――……はい。

 

 これだけである。その時の響が仁志には平行世界の響に一瞬ではあるが重なったぐらい、響の機嫌はナナメであった。

 

 それも当然だ。何せ仁志への恋心を自覚し、一気に二人きりの時限定であるが彼を名前で呼んでいいとなったのだから。

 更に距離を縮めようと一気呵成に攻めて攻めて攻め切れそうなところで邪魔が入ったのである。それも、理由がただ退屈だったからという、そんな理由で。

 

(もうちょっと、もうちょっとでキス、出来たかもしれなかったのに……)

 

 そう、実は奏がノックする少し前、恥ずかしさと緊張のあまり響が何を思ったのか、仁志の反応を引き出そうと彼の腕を引っ張り自分が押し倒される形となったのだ。

 当然顔がこの上なく近付き、少しだけ見つめ合った後、響は思い切って目を閉じたのである。その事を受けて仁志は逡巡していたところでのノックと呼びかけだったと言う訳だ。

 

 ちなみにドタンと言う音の正体は、突然のノックと声に慌てた仁志が足をもつれさせて倒れ込んだ音である。

 

(な、何だよこの空気。重苦しいってもんじゃないね)

 

 奏は奏で自分が間の悪い時に来たという事は察していた。それに、そもそも響と話すように仁志へ言ったのは彼女なのである。

 まぁ、まさか響がもう少しで仁志へキスをさせていたかもしれないとは夢にも思っていないが、何かあった事だけはヒシヒシと感じ取っていた。

 

「そ、そういえば響と話をするように言ってくれたのは天羽さんなんだ」

「……そうなんですか?」

 

 この空気を変えようと考えた仁志は、響の奏への不満のようなものを無くす方向から動き出した。

 奏も響の反応が少し良くなった事を感じ取り、ここを逃さぬように会話へ参加するように口を開く。

 

「そうなんだよ。ほら、最近只野と話せてないって言ってたからさ」

「俺もそう言われて何とか響と話をしようと思ったんだ」

「そうなんだ……」

 

 自分が仁志への想いを自覚出来た切っ掛けが奏発信だったと、そう知って響はやっと冷静になる事が出来た。

 そうなれば急に自分の行動が恥ずかしくなってくるのが人と言うもの。響も例に漏れず、やや赤面して俯き気味になったのだ。

 

「あ、あの、そうとは知らず申し訳ありません……」

「あははっ、いいよいいよ。何かあたしが不味いタイミングで来たんだろ?」

「「っ!?」」

 

 奏の言葉に揃って顔を赤くする仁志と響。それを見て奏は笑みを浮かべつつ、微かな寂しさや切なさのようなものを覚えていた。

 

(何だろね。少し前なら何も思わず笑えたはずなのに……)

 

 響が明るさを取り戻した事は嬉しいし、仁志もどこか元気になったような気がするのも喜ばしい。

 なのに何故か自分の心は素直にそれを感じてくれない。それに奏は違和感のようなものを感じて少し苦い笑みを浮かべていた。

 

 それでも空気が良くなってきたのは間違いなく、仁志はここを逃してはいけないと思って話題を変える事にする。

 

「そういや、俺ってみんなに歌は聞かせた事はあるけど肝心の作品そのものって見せた事ないよな?」

「そうだね……」

「はい、歌とかお話は只野さんから聞いた事はありますけど……」

 

 そう聞いた仁志はならと立ち上がり、ほとんど使っていない押入れを開ける。

 そこには実家から持ってきた数少ない荷物が入っており、その一つであるDVDが入ったクリアボックスを抱えて二人の目の前へ置いた。

 そこから一枚のDVDを取り出し、彼は少し凛々しい表情で二人へ見せる。

 

「じゃあこれを是非、見てもらいたい」

「「これって……」」

「仮面ライダークウガ。平成ライダーシリーズ一作目。俺の母さんまでもハマった珍しい特撮作品」

 

 クリアボックスの中には、二人が初めて見るヒーローのDVDが全巻入っていたのだ。

 それらは仁志の金ではなく仁志の母親が買ったものだが、何度も見返すのは彼だったために既に仁志の物となっていたのである。

 

「でも、見るって言っても……」

「そうだよ。只野のPCはゲートになってるし、テレビもなければそういう物のプレイヤーだってないんだよ?」

 

 仁志の意見を取り入れたため、響達の部屋にはテレビもその周辺機器もない。

 だが、そんな事は彼も承知している。

 

「まぁたしかにそうだ。でも、実はイヴさんとこには結構大きなモニターとプレイヤーとしても使えるゲーム機が持ち込まれてる」

「え?」

「あーっ、もしかして切歌ちゃんと調ちゃん用ですか?」

 

 何故と思う奏と違いすぐにその理由を察する事が出来る辺りがあの二人との付き合いの差なのだろう。

 仁志も響の言葉に頷き、教えたのだ。例の集金集団はテレビのアンテナさえなければ気付かない。実際マリアが持ち込んだ物は番組を見る事は出来ず、今は単なるオブジェと化している。

 

 それもあって今まで仁志も意識の外へと追いやっていたのだ。そして、もう一つ。彼が二人と話していてこういう話をしようと思った理由があった。

 

「それと、これ、な~んだ」

 

 クウガのDVDと共にボックスの中に入っていた内の一枚のDVD。それを見せられた二人は思わず声を漏らしてしまった。

 

「「ゴジラ!?」」

「ピンポーン。正解。これはVSスペゴジだな」

「「スペゴジ?」」

「スペースゴジラ。ま、詳しい説明はまた今度するとして、見たい?」

「「見たい(です)っ!」」

 

 当然ではあるが仮面ライダーよりも食いつきは良かった。何せ二人はゴジラと相対した事がある。

 では近い内にマリア達の家で鑑賞会をしようと仁志が提案し、二人は迷う事無く頷いた。

 そこには当然ゴジラ映画への興味があったのも事実だが……

 

(仁志さんが自分から誘ってくれた! みんなで一緒に鑑賞会! 楽しみだなぁ!)

(ははっ、やっと只野の奴が元気になったみたいで良かった。これで出会った頃の只野っぽくなったよ)

 

 仁志が以前のような明るさと元気を見せてくれた事が嬉しかったのである。

 

 こうして二人は眠気が限界になっていた仁志を寝かせるため、彼の部屋を後にし揃って帰宅する。

 奏が鍵を開けるとまだ翼とクリスは戻ってきておらず、二人は首を傾げた。

 

「いつもならもう帰ってきてます、よね?」

「だね」

 

 日常的に報告へ行っている翼。その彼女が出かける時間は決まっている上帰還時間も一定である。

 そういった事には几帳面で規律正しい翼にも関わらず、今日に限ってはクリスもいるのに帰還が遅いのだ。

 クリスも翼と根底は似ていて真面目である。なら帰還時間が大きくズレるはずはないと、そう考えた二人は何か嫌な予感を感じてギアを纏う。

 

「行くよ!」

「はいっ!」

 

 様子を見に行くべき。そう判断しゲートへと入る二人。

 裂け目から急いで唯一残ったゲートへと到着した二人は本部内へと足を踏み入れる。

 普段ならそこでギアを解除するのだが……。

 

「奏さん、これ……」

「ああ、様子が変だ」

 

 不気味な程静かだった。音や気配と言った生命の息吹のようなものが一切感じられないのである。それだけで二人は異常事態が起きた事を察しギアを纏ったままで動き始めた。

 

「……慎重に進むよ。傍から離れるな」

「はい」

 

 ゆっくり周囲を警戒しながら歩く二人。やがて職員の姿が見えてくる。

 

「良かった。人がいます」

「だね」

 

 安堵する二人だったが、近付くにつれてその表情が疑問を浮かべ始める。

 自分達が近付いているのに、声もかけているのに一切その場から動かないのだ。反応さえもない。

 その理由は、相手へ接近した時に分かった。

 

「……奏さん、これ」

「止まってる……ね」

 

 まるでマネキンか彫像かと思う程に瞬きさえもしていなかったのだ。心音さえも聞こえず、二人は胸の内側からこみ上げる不安を押し殺してまず発令所を目指す事にした。

 本当なら走り出したいところだったが、あまりの異常事態に慌てる事は危険だと直感的に察知したのである。

 

「……みんな止まってる」

「時間が、停止してるんだよ。只野が予想した通りの事をやったんだろうね」

「でも、何のために? それに翼さんとクリスちゃんは……」

「分からない。ただ警戒は続けるよ。何であたしらが動けるのか。それはきっと依り代のおかげだろうし」

「っ……じゃ、未来達も動けるはずじゃ?」

「どうだろね。じゃあどうして翼とクリスがまだ帰ってきてなかったんだ?」

 

 その問いかけに響は返す言葉がなかった。奏はやや険しい表情をしていたのだ。

 依り代があれば動けるのであれば、翼達は今どこで何をしているのか。もしやこれを引き起こした相手と対峙しているのか。様々な憶測が響と奏の中へ浮かんでくる。

 

「まぁどっかで無事だと思うよ。だからまず発令所へ行くのさ。もしかしたらここの旦那達は無事かもしれない」

 

 その不安や心配を抑えて奏はそう少しだけ明るい口調で告げて歩き出す。響もその言葉に同意するように頷いて歩き出した。

 そうやって慎重に進み二人は発令所のドアへ辿り着く。普段なら開くそこも時が止まったせいか動かないため、壊して開けようとする響だったが、奏がそれに待ったをかけて手を触れると何とドアがゆっくりと開いたのだ。

 

「これって……」

「依り代がないセレナを翼が触ったら動けたって言ってたからね。もしかしたらって」

「で、でも、職員の人達は動かなかったですっ!」

「そこは戻ってエルフナイン辺りに考えてもらおう。それより今のあたしらは……」

 

 完全に開いたドアの先では弦十郎達がそれぞれ普段のような表情で動かなくなっていた。

 

「……師匠」

「やっぱりか……」

 

 そこで奏は気付いたのだ。この状況は何か異変が起きたと誰も感じ取る事が出来ずに始まったのだろうと。

 何故ならここへくるまで誰一人として慌てたり恐怖したりという表情をしていなかったからだ。

 

(悪意はここの時間を止めて何をしたいんだ?)

 

 敵の狙いを探ろうと思考を巡らせる奏だったが、それは出来ずに終わる。

 

「奏さん、とりあえず街に出てみませんか? 翼さん達もこれを見て街へ出たかもしれません」

「……そうだね、これがここだけって可能性もある」

 

 今は情報収集が先か。そう判断し奏は響と二人で本部を出る事にした。

 

「……雲が、止まってる」

「見てみな。海鳥もだよ。この世界そのものが停止してるんだ」

 

 外へ出た二人を待っていたのはより顕著となった異変だった。

 何もかもが停止し、まるで世界全体が死んでしまったかのような錯覚を覚える状態だったのだ。

 

 そんな中を二人は歩き、まずは未来がいるであろう学生寮へと向かった。

 途中で見かける光景全てが普段の日常が正常に行われていた事を示すような状態のまま停止しており、響と奏に何とも言えない気分を味わわせる。

 やっと到着した学生寮もドアなどが停止していて、二人が触れて何とか動かすような状態だった。

 

「未来っ!? 未来っ!」

 

 自分達の部屋へと到着した響は鍵を使って中へと入り、そこで雑誌を見たまま動かなくなっている未来を見つけた。

 そこで奏は気付いたのだ。この状況で何故自分達が動けるのか。それはギアを展開しているからだと。依り代があってもギアを展開していないと今のこの世界では動けないのだろう。そう読んで奏は響へ近付いた。

 

「響、多分だけど翼達は本部のどこかだ。そこでこの子みたいになってるはずだよ」

「そんな……」

「あたしらはギアを纏ってる。だからまだ動けるんだ」

「……そっか。ペンダントのままじゃ依り代の力が弱いんですね?」

「多分ね。とにかくやるだけやってみよう。響、二人でこの子を触りながらフォニックゲインを高めるんだ。ギアの出力を上げてやれば依り代の力も上がるかもしれない」

「分かりましたっ!」

 

 奏の言葉に力強く返事をし響は未来へ凛々しい表情を向ける。

 

(絶対助けるからね、未来っ!)

 

 そのすぐ後室内に絶唱が流れ始める。S2CAだ。二つのガングニールによる共鳴と依り代の共鳴。それが絶唱による高レベルのフォニックゲインを受け効果を増幅させていく。

 二人による絶唱が終わると同時に未来の体が勝手にギアを展開する。注ぎ込まれたフォニックゲインによって神獣鏡のギアが作動したのである。

 

「あ、あれ……?」

「未来っ!」

「響っ!? えっ?! ど、どういう事?」

「良かったっ! 良かったよぉ!」

 

 状況が理解出来ない未来と涙さえ流しそうな程喜ぶ響。その二人を見て奏は安堵するように息を吐いていた。

 

(これ、あたしらじゃなかったら不味かったかもね)

 

 絶唱の負荷を受け止められる響と同じギアである自分だからこそ成功したのだと、そう奏はどこかで思っていたのだ。

 奏は目の前で困惑し続ける未来と泣きそうな勢いで喜びを告げ続ける響を見つめ、小さく苦笑する。それは、ここへ来て初めての心からの笑みだった……。

 

 

 

「何も思わなかったです。気付いたら響に抱き着かれてて」

「そうか」

 

 落ち着いた響を優しく引き剥がし、奏は未来から情報収集を行っていた。だがやはりというか未来も時間が停止したという感覚はなく、気付く事もなかったと証言したのだ。

 とにかく今は他の装者を見つけないといけない。そう判断した奏は未来へギアを纏ったまま長期宿泊の用意をするように告げた。

 それが何を意味するのかを響も未来さえも悟り、その表情を真剣なものへと変える。

 

「未来、ギャラルホルンの前で待ってて。私達も絶対そこへ行くから」

「分かった」

 

 一旦未来と別れ、二人は切歌と調が暮らす部屋へと向かう。そこはさすがに響も鍵などを持っている訳ではなく、仕方ないと奏が判断してベランダの窓を割って侵入する事となった。

 ギアを纏っているため容易にベランダまでは跳躍で辿り付けた響と奏は、何と驚きの方法で窓を割る。

 

「よっと……どうだ?」

「……すごーい。綺麗に鍵のところだけ切れてます」

 

 奏がアームドギアで鍵近くのガラスを半円状に切ったのである。まるで手慣れた空き巣のような芸当に感心しながら、響は切れたガラスを押して外すとその目を疑う。

 押されたガラスは少し動いたところの空中で停止したのだ。それに響もそして奏も思わず息を呑む。時間が停止するとはこういう事なのかと。

 

 鍵を外し、窓を開けて室内へ侵入すると、二人は程なくしてキッチンにいる切歌と調を発見した。

 やはり二人も動きが止まっていて、どうやら食事を作ろうとしていたところらしい事が分かった。

 調が包丁を探すように止まっていて、切歌は冷蔵庫を開けようとしたところで固まっていたのだ。

 

「どう? まだやれそう?」

「はい! 切歌ちゃんと調ちゃんも助けたいですし!」

「……いい? 本当にきつくなったら言うんだよ? ここで無理したらあの子だけじゃなく只野達も悲しむからね?」

「……はいっ!」

 

 こうして再び絶唱が今度はキッチンに響き渡る。まず調が、次に切歌が行動可能となり、二人も未来と同じく自分達に起こった事を察知していなかった。

 

「響さん、少し休んでくださいデス。どう見てもお疲れデスよ」

「絶唱を三回も使ったなんて絶対体にも良くないです」

「ありがとう。でも、まだ翼さんとクリスちゃんがいるんだ」

 

 明らかに元気を失っている響の声。それに奏は大きくため息を吐いた。

 

「言ったはずだろ。響、あんたは少し休みな」

「でも……」

 

 こっちへ来ている二人の同居人が心配だ。そんな気持ちを表情にアリアリと見せる響を奏は小さく苦笑して見つめる。

 

「あんたはあの子と一緒に先に戻ってこの事をエルフナインへ伝えてくれ。で、あの子は一先ず今日はあたしらの部屋で預かる」

「えっ? で、でも寝る場所が……」

「あたしの布団を貸してやっていいよ。で、あたしは只野の部屋行くから」

「ええっ!?」

 

 あまりな提案にさすがの響も納得出来ないとばかりに声を上げる。そのやり取りの意味が理解し切れない切歌と調は首を傾げるばかりだ。

 

「大体あたしはバイトもあるしあそこからの方が通いやすいからさ」

「で、でも……」

「心配いらないって。あたしも只野もそういう事出来るような余裕ないから」

「い、いやいや、だからって同居は駄目って言ったのに奏さんですよ!」

「あの部屋で何も起きなかったからあんた達はそう思ったんだろ?」

「私達は最低でも三人でしたっ! 男女二人きりなんて問題しかないですっ! 只野さんだって最初私にそう言ったんですからっ!」

 

 何とか奏を思いとどまらせようとする響だったが、そんな彼女へ奏は無慈悲な一言を放った。

 

「じゃ、あの子を只野の部屋へ行かせる?」

「それは絶対無理ですぅっ!」

 

 即答。しかも響の表情と声は若干怖がっていた。

 

「とにかく、あんたはここで少し休む。で、調はここで二人分の荷造りして。ギアを解除するんじゃないよ?」

「分かりました」

「ならアタシは奏さんと一緒に本部へ、デスか?」

「そ。せめて翼とクリスの居場所だけでも分かっておかないとね。食堂方面だと思うけどさ」

 

 こうして響と調を残し、奏は切歌と共に本部へと向かう。切歌も街の様子や周囲の様子などで一気に異常事態だと認識、本部へ入る頃には警戒レベルMAXとなっていた。

 

「これも悪意って奴の仕業デスか?」

「だろうね。多分だけどここのゲートは隠せないんだろうさ」

「ナルホド……。隠せないなら使えても意味なくしてやろうって事デスね」

「かもしれないね」

 

 実際奏と響が来なければ装者の半分以上がここで行動不能になっていたのだ。それで悪意が何かしてきたら。そう考えれば今回の事は危ないところだったと奏は思った。

 歩きながら食堂を目指す二人。するとその途中で両手に荷物を持った翼とクリスを見つけたのだ。ただ……

 

「翼さんっ! クリス先輩っ!」

 

 慌てて駆け寄る切歌とは違い奏はある事に気付いて首を傾げた。

 

「何で二人は表情が険しいんだ……?」

 

 荷物が重いからという理由だろうかと思う奏だが、その表情は何か驚くような事が起きたものに見えたのだ。

 

「ん~っ! だ、ダメデス! まったく動かないデスっ! てこでも動くつもりがないデスよぉ~っ!」

 

 何とか二人を動かそうと頑張る切歌であったが、当然ながら少しも二人の体はその場から動かない。

 その奮闘を眺め、奏は小さく苦笑すると切歌へと近付いていく。

 

「無理だって。教えただろ? あんた達もこうなってたのをあたしと響が絶唱を使って何とかしたんだ」

「ううっ、こーゆーのは後輩の必死の呼びかけで先輩が奮起覚醒するって流れじゃないんデスか? 現実はきびしーデス……」

「何だいそりゃ。何かのゲーム?」

「アニメデス! 響さんのお友達オススメの昔のアニメデスよ!」

 

 楽しげに笑う切歌に奏は内心で微笑む。こんな状況でもこうやって笑える事。それを見て大物かもしれないと思ったのだ。

 

「……さて、どうしたもんか」

「どうしたもんかデス」

 

 自分と切歌では絶唱を使って動けるように出来るか不安が残る。それが奏の考えだった。切歌はとりあえず奏の真似をしてるだけである。

 そうやってしばらく動かない翼とクリスを眺めていると、やがてそこへ両手に大き目の旅行鞄を持った調が現れた。

 

「切ちゃん! 奏さんっ!」

「調~っ!」

 

 嬉しそうに調へと駆け寄る切歌だったが、その抱き締めようとする彼女の動きを軽くかわして調は奏へと駆け寄る。

 

「およっ!?」

「奏さん、響さんは未来さんと一緒に上位世界へ向かいました」

「分かった。さて、じゃあ試すだけ試そうか」

「「試す?」」

 

 調の報告に奏は安堵するように頷き視線を翼とクリスへ向けた。その言葉に二人の声が重なる。

 

「あんた達ってユニゾンってのが出来るぐらい同調するんだろ? なら、悪いけど翼へ手を触れたまま絶唱を使ってくれないか? もしかしたらそれで動けるように出来るかもしれない」

「そういう事なら……」

「アタシ達にお任せデ~ス!」

 

 荷物を一旦床へ置いて、調は切歌と手を繋ぐ。そして二人の少女は残る手を翼へと乗せて歌い始めた。

 その悲しくも儚い旋律が通路に響く。奏はそれを聞きながらどこかで記憶の中に強く残る絶唱とは違うように感じていた。

 

(あの時翼が使った絶唱とは何かが違う。何というか、こっちの方が優しいって言うか温かいって言うか……)

 

 思い返せば響との時もそうだったように思え、奏は疑問符を浮かべながら目の前の二人の少女の成功を祈った。

 

「っ!? なっ……暁? 月読も? どうしてここに……」

 

 ザババの刃の共鳴と同調による凄まじいフォニックゲインが翼へと注がれ、それによってギアが自動的に展開される事で止まっていた翼の時間が動き出したのだ。

 

「「成功した(デス)……」」

 

 急に動けるようになった翼を見て疲れた顔で喜び合う二人。奏はそんな二人を横目にしながら翼へと近付いた。

 

「翼、大丈夫かい?」

「奏? これは一体……っ!? そうだ! 雪音はっ!?」

「クリスなら後ろだよ」

 

 言われて振り返る翼が見たのは険しい表情のまま動かなくなっているクリスの姿。

 

「雪音……っ」

「翼、話は後だ。あたしに協力してくれないか」

「協力?」

「そうさ。あたしと一緒にクリスを動けるようにするのさ」

「動けるように……? どうやって?」

 

 そこで奏から告げられた言葉に翼は息を呑む事になる。

 

「絶唱さ」

 

 

 

 ツヴァイウィングによる絶唱も見事な共鳴を起こし、クリスの止まっていた時間を動かす事に成功。

 そうして絶唱を使った四人とようやく動けるようになったクリスは、一旦体力を回復させる事にして食堂へとやってきていた。

 

「一言で言えば依り代なしの状態だ。ただ、あたしと先輩は体がゆっくり動かなくなるのが分かった」

「とはいえほんの一瞬だ。不味いと思った時にはもう声を発する事も出来なかった」

 

 食堂で体を休めながらの情報整理。そんな様子で奏達は食堂の椅子に座っていた。

 ギアを纏ったまま座るという慣れない感覚に妙な気分となりながら、調と切歌は目の前の二人へと疑問を投げかける。

 

「でも、どうして翼さんとクリス先輩だけそんな風に?」

「アタシ達はまったくでしたよ?」

 

 だがそれに対する答えを二人も持っていなかった。何せ依り代は同じように欠片として組み込まれている上、彼女達も結局動きを止められてしまっているのだから。

 

「……とにかく、今はあたしらも只野の世界へ戻るよ」

「そう、だね。このままここに居ても仕方ない」

「ああ、今のあたしらじゃおっさん達を戻す事は出来ねーだろうしな」

 

 悔しさを噛み締めるような三人の声を聞いて切歌と調も悔しそうな表情で頷いた。

 

(今の私達に出来る事は何もない……)

(一番悔しく思ってるのは先輩達デス……)

 

 今まで上位世界で過ごし色々と考えていた年長組。それが抱えた悔しさと無力感。それは今の自分達よりも上だと二人の少女は理解していたのだ。

 

 こうして遂に上位世界へ装者九人が揃う事となる。だがそれは誰もが予想していなかった状況での合流となった。

 根幹世界の時間が停止させられたという、ある意味強制的な合流。受け入れ体制を整えられぬまま、未来、調、切歌の三人は上位世界へ滞在する事となったのだ。

 

 未来は奏の言った通り響達のアパートへ一先ず滞在する事となり、調と切歌はマリア達の家へと滞在する事となった。

 仁志は何か手を打ちたかったのだが三人が来た時点で夜となっており、もう出来る事がほとんどなくなっていたため翌朝から動く事を余儀なくされるのだった。

 

 そして迎えた翌朝、仁志はマリア達の家へ来てマリアと相談を始めていた。

 

「正直言う。現状では無理だ」

 

 それは当初彼が考えていた計画の頓挫を意味する言葉だった。

 装者達を三つの住居に分けて住んでもらおうという事を仁志は考えていて、そのための準備を始めかけていたところに今回の事態が起きたのである。

 

「でしょうね。それは分かってるわ。幸い切歌と調は元々ここで面倒を見るつもりだったからいいのだけど……。奏、今そっちなんでしょ?」

「ああ。昨夜はもう状況も状況だったから受け入れたが、さすがにずっとは不味い。かと言ってあの部屋に小日向さんを加えた五人では無理だ。エルやセレナちゃんでさえギリギリだったし。となると当初の計画通りに分けるべきだとは思うんだが……」

 

 すぐにでも仁志が手配できる部屋はあの六畳間の隣である。あの条件では年頃の少女三人は暮らせないと彼は分かっていた。

 だが、そういう意味ではマリアは逞しかった。いや、もう腹が据わっていたのだろう。仁志が口にしない事を察してため息と共に告げたのだ。

 

「いいわ。あの部屋の隣で三人を住まわせるのよ。シャワーやお風呂ならここを使えばいい」

「でも……」

「響達ならみんなも喜ぶわ。時々でいいなら泊まらせてもいい。幸いここの居間は結構広いもの。三人を泊まらせる時はセレナとエル、切歌と調をそれぞれ一つの布団で寝かせるわ」

「……分かった。その方向で話をしてみる」

 

 まさしく一種の家族会議である。互いに意識はしていないがその様は夫婦のそれであった。

 

 こうして仁志はすぐさま大家へ隣が空いてるかの確認をした上で契約。翼とも連携して響とクリスの物を引っ越しさせる事になったのだ。

 それは、ある意味で一度引っ越した場所へ出戻るようなものであった。ただ、この引っ越しを喜んでいる者が二人いた。響とクリスである。

 

(ま、まさか仁志さんのお隣さんになれるなんて……。こ、これからお話しし易くなるね!)

(何だか妙な感じだぜ。で、でもこれであの人の食事はこっちが受け持てばいいよな!)

 

 ただ座布団やクッションなどを運び込みながら笑みを絶やさない二人とは違い、未来は若干気乗りしない表情でアパートを見つめていた。

 

(凄く古そう……。それにここってシャワーとかないんだよね? 何で響もクリスも平気そうなんだろう……)

 

 手にした鞄の重さよりも重たい気分で未来はしばらくの仮住まいとなる予定の部屋へと足を踏み入れる。

 

「うわぁ……」

 

 今までの寮生活とは一転しての前時代的な作りの部屋に未来は思わず嫌そうな声をもらした。

 それも仕方ないと響もクリスも思った。だが、クリスはそんな未来へピシャリと告げる。

 

「嫌なら両翼の先輩達と暮らせばいい。正直あたしとこいつさえいなくなればあっちは余裕が出来るからな」

 

 突き放すような声だった。あまりの冷たさに未来が息を呑む程に。

 

「く、クリスちゃん……」

「いいか? 今あたしらは初めての危機的状況に立たされてる。はっきり言って世界蛇と戦った時以上にやべぇ。本部どころか世界そのものが時間停止。他の平行世界とも行き来も連絡も出来ない。で、頼りになるのが全員揃って一部のバイトの稼ぎだ」

 

 暗に贅沢言うなというクリスの言葉に未来は先程とは違った意味で息を呑んだ。

 

「あの人なりにそっちやこいつの事を考えた人選だ。一つ言っとくけどな、あの人だって本当はもう少しマシな部屋をあたしらにって考えてたんだ。ただ、そのためには時間がいる。探す時間や見て回る時間だ。あと、可能ならそっちもバイトを決めてからって考えてたらしい」

「私も、バイト?」

「そうなんだよ。只野さんは私達の暮らしは私達だけで何とか出来るようにって、そう考えたみたいで」

「こんな部屋しか用意出来なくて申し訳ないって言ったぞ。ま、それはあたしやこいつにだけど」

 

 それで未来は察した。元々二人はこの環境で暮らしていた。その不便さや辛さを知っていて、そこから解放された暮らしをしていたのだ。

 なのにまたその環境へと戻る事になった。その事を仁志は詫びたのだろうと。

 

(私、やっぱりまだ装者として甘いんだ。響達はもうこの状況を受け止めてるのに……)

 

 過酷な戦いへ身を置く事なく過ごしていたに近い未来。正式に装者として登録されたとはいえ、経験不足もあって彼女は予備戦力扱いとなっていた。

 それでもいくつかの平行世界関連の事件では力を振るい、またそうじゃない事件でも新しいギアの力を引き出してみせるなど活躍はしている。

 彼女に足りないものがあるとすれば、それは適応力であろう。これまで様々な平行世界関係の事件へ巻き込まれたり首を突っ込んできた響達とは圧倒的にそこが足りなかったのだから。

 

 落ち込む未来を見て響は手を伸ばそうとして、何かを思い出してその手を止める。代わりに小さく息を吐いた。

 

「未来、悪い事言わない。ここで暮らすのが厳しいって感じるならあの部屋で翼さん達といた方がいいよ」

「響……」

「私とクリスちゃんもここでの暮らしは辛いなぁって思う事あった。でもその時はまだ状況に余裕があった頃だったからさ。今みたいにどこかピリピリしてなかったんだ」

「そうだな。どっかで帰れる場所が、家があるって思ってた」

「でも、今はそう言えない。だから無理しないで。私とクリスちゃんは隣に只野さんがいるし、あの頃と違ってマリアさん達のとこへ行けばシャワーやお風呂まで借りられるんだもん」

「おう。そう考えると結構気が楽だな」

 

 二人の話を聞いて未来はどうするべきかと鞄を持つ手を握り締める。

 

(本当に響は強くなったんだね。私と手を離しても大丈夫って、そう分かる。でも、私はまだ無理みたい。だけど……)

 

 生まれてから今まで過ごしてきた住環境と違い過ぎる部屋に未来は迷っていた。

 親友である響と自分から離れて暮らすのか否か。これまでと違う響の態度に未来は以前の話を思い出していた。

 

「……分かった。私、翼さん達とあの部屋で暮らす」

「……そっか」

 

 未来の何かを決意したような表情に響は安堵するように笑みを浮かべた。

 クリスも何も言わず、二人に背を向けて小さく安堵するように息を吐いた。

 

(どうやらあの子もやっと腹括れたみてーだな。ここじゃ誰かにおんぶにだっこじゃダメなんだ。何だって自分の意思と気持ちを伝えられるようにならないとな)

 

 嫌なら嫌と言えるようになって欲しい。それは仁志が店長を目指し出してからクリスへ頼んだ事でもあった。

 今や仁志とオーナーはクリスを夕勤のバイトリーダーとして扱っている。故に仁志は頼んだのだ。何かささいな事でもいいから報告・連絡・相談、所謂“ほうれんそう”をしてくれと。

 

 そしてそれは日常生活でもだ。未来はそういう意味では我慢の人間だ。そう知っているクリスはここでもし未来が嫌だと言わなかった場合、共同生活の中でそれを吐き出せるようにしようと思っていたのだ。

 

「じゃ、私戻るね」

「うん」

 

 どこか意を決した表情で告げる未来。それを正面から見つめ、響は頷いた。

 悲しみはある。だがそれはこれまでならばきっと耐えられなかったものだった。

 今、二人は初めて自分達の意思でその道を分かとうとしていた。それは決別ではなく自立の道。

 

 後の事はいいからお前はあの子を見送ってやれと、そうクリスに言われた事もあり、響は一人来た道を戻っていく未来を見送りながら微かな寂しさを感じていた。

 

「未来……」

 

 以前までならもっと心が痛んだであろう光景にも、今の響はそこまで狼狽えてはいなかった。

 何も未来への想いが弱くなったのではない。彼女への依存にも似た友情が正しい形へと戻っただけなのだ。

 

「響、どうした? 何かあった?」

「只野さん……えっと……」

 

 未来の背中が小さくなり出した辺りで声に振り向いた響が見たのは仁志だった。

 引っ越しの手伝いをしようと部屋から出て来たのである。

 彼は響の見ていた先を見たのだろう。何かを察したように苦笑した。

 

「小日向さんはここじゃ無理だって?」

「はい。その、翼さん達と一緒に暮らすって」

「そっか。うん、自分でそう言えたのなら大丈夫だ。ああ、そうだ。すぐにでも暁さんと月読さんにもバイトを始めてもらうし、小日向さんにもそうやってお願いしておくから。それが上手くいけば以前と同じぐらいの部屋を」

「いいんです。私はここでへいき、へっちゃらですから」

 

 優しく微笑み、響はそっと仁志の手を握る。その行動に仁志が驚くと、響はちょっとだけ照れくさそうに笑って告げた。

 

「仁志さんがいますし」

「っ!?」

 

 その笑顔は今まで響が仁志に見せた事のない笑顔。女の顔と呼ばれるものだった。

 不意打ちのそれに仁志は慌てるように顔を上へ向けつつ、そっと響の手を剥がした。

 

「ひ、響、ダメだって。二人きりの時だけって話だろ?」

「で、でも今は」

「外は駄目だって。どこで誰が見てるか分からないんだぞ? ただでさえ今後はご近所さんになるんだからな?」

「あっ、えっと、すみません。つい……」

「ったく、今後は気を付けてくれよ?」

「はーい」

 

 そんなやり取りをして笑みを見せ合う二人をドアの隙間からクリスが黙って見つめていた。

 

――へぇ、二人きりの時だけの……か。あのバカ、そういう事だけは賢いみてーだな……。

 

 良い事を聞いたと言わんばかりの、獰猛な笑みを浮かべて……。




装者全員集合。ただし、それはこれまでのような受け入れ体制が出来てのものではなく半ば強制的にも等しいものです。
ゲームではきっと起こり得ない状況。ある意味で全員が帰る場所を失った中で始まる(?)乙女の戦い。

只野のお隣さんが響とクリス。ボロアパートの壁は薄い。只野は以前仕事疲れでミスをやらかす程うっかりしがち。

つまり仕事疲れで迂闊な事をすれば……?

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