シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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“まだ”響だけです。


私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ

「っと、只野さーん。来ましたよって……」

 

 三度目の訪問。私はパソコンの中から出てきて只野さんの部屋へ降り立つ。

 最初来た時は散らかってたけど、この前来た時は片付いてた。

 今日も片付いてるけど静か過ぎる。それに暗い。

 でも夜って感じじゃない。カーテンが閉められてるから多分外は少し明るいんだと思う。

 

「……寝てる」

 

 視線を動かすと只野さんが布団で寝てた。 そっと枕元のスマホを手に取る。充電中みたいで画面を表示させると日付と時刻が……

 

「あれから三日経ってるんだ……」

 

 こっちじゃあれからまだ一日だ。やっぱり時間の流れ方が違う。

 時刻はそこまでずれてないからそれだけは安心。

 

「深夜勤務、なんだよね」

 

 こう言ったらなんだけど死んだように眠ってる只野さんを見てると、すっごく申し訳ない気持ちになる。

 まだこの世界の事はよく分からないけど、エルフナインちゃんや師匠はあの新聞からここが私達の世界の歴史と繋がってない事を調べてくれた。

 

 つまり、ここにはフィーネさえいない。下手をしたらバラルの呪詛も神の力さえもない。

 

――そもそも僕らの事が創作物として存在していたとするなら、そこはもしかすれば上位世界なのかもしれません。

 

 エルフナインちゃんの言っていた言葉を思い出す。

 上位世界、かぁ。

 簡単に言えば、只野さん達の世界は私達からすると神様の世界って事だってクリスちゃんが言ってたっけ。

 

――あたしらが自分だけで隠してるような事をそいつは知ってんだろ? しかも、そいつの話が本当なら、それが映像やら文章で存在してたんだ。神様の世界って考えた方が分かり易いだろ。

 

 クリスちゃんの言葉を聞いた時、私はそんな事ないって思ったけど、言う事は出来なかった。

 実際最初に只野さんから色々話をされた時、私もちょっと怖くて嫌だった。

 大事な思い出を見も知らない人が知ってる事に、どこか嫌悪感を覚えたから。

 だけど、あの時の只野さんは私が外へ出てしまったら危険だよって教えるために必死だったと今なら分かる。

 

 ただ、何故かその“戦姫絶唱シンフォギア”って言うものが全て綺麗に消えちゃったらしいけど。

 

「……なのに只野さんは覚えてる。エルフナインちゃんは私と接してるからだって言ってたけど」

 

 多分私がここへ来た瞬間、この世界には変化が起きた。

 だけど只野さんはその影響を受けた時に私と喋っていたから影響を撥ね退けたんじゃないかって、そうエルフナインちゃんは考えてるみたい。

 だから定期的に私達の誰かが会わないと只野さんもいつ影響を受けるか分からない。

 そうなっちゃったらこの世界を戻す事は出来ないし、そもそもここがアラートを発したって事は何かここに事件が起きるって事だ。

 それを何とかするために来たんだから、せめて解決するまでは只野さんの協力は必要だもん。

 

「……それにしても」

 

 ちょっと伸びてきてる髭を見て、そういえばこの前はそうじゃなかったなって思い出す。

 最初の時と二回目は朝の時間だったけど、今は夕方だからだろうな。

 

「髭って、こんな時間で伸びるんだ……」

 

 コンビニの深夜って十時ぐらいから、だよね? ご飯とかどうしてるんだろう?

 見た感じお父さんの暮らしと同じ感じだけど、こっちはもっと家電とかがない。

 炊飯器さえないし、冷蔵庫は小さな物が一つだけ。洗濯機もないみたいだし、精々あるのはレンジぐらいだ。

 

「男の人の一人暮らしって、こんなのなんだね」

 

 そういえば、最初来た時に言ってたっけ。ここは帰ってきて寝るだけの場所だって。

 

「そんな暮らし、私だったら辛いなぁ」

 

 今は未来がいるし、昔はお母さんやお祖母ちゃんがいた。

 いつも、一人じゃなかった。

 でも只野さんはそうじゃない。

 いつからこういう暮らしなのか知らないけど、多分今年からって感じじゃない、と思う。

 

「んっ……響……?」

「っ!? お、おはようございます。って言っても、もう夕方ですけど」

 

 こっちを見てぼんやりとした顔と声の只野さんだけど、い、今響って呼んだ!

 男の人から名前で呼び捨てなんてお父さん以外いないからビックリしちゃった。

 で、でも、今の只野さん、ちょっとだけ可愛いかもしれない。

 普段も眠そうだけど、今は本当に眠そうだ。

 

 って、急に起き上がった。

 

「な、何でこんな時間に?」

「えっと、今日は学院終わりで来たんです。時間はどうもあまりずれてないみたいで」

「そ、そうなんだ。あっ、そうだ。ちょっと待ってて」

 

 シャツとジャージ姿で只野さんは這うように移動して冷蔵庫へと向かうと、そこから何かをって……。

 

「シュークリーム?」

「そう。毎日のように廃棄が出るんだ。良かったらどうぞ」

「いいんですか? じゃあ遠慮なくいただきまーす!」

 

 えへへ、これで三回目のシュークリーム。実はこれ、私達の世界じゃ食べられないんだよね。

 というのも、やっぱり只野さんが働いてるコンビニ、こっちにはないから。

 タダだからかもしれないけど、美味しいんだよねぇ。

 

「はむっ……ん~」

 

 コンビニスイーツって何でこんなに美味しいんだろ? ちょっとしたケーキ屋さんだと結構な値段取る気がする味だよ。

 

「それで、エルフナインちゃんの反応はどうだった?」

「んぅ?」

 

 只野さんがどこか嬉しそうに私を見つめてくる。

 そういえば、只野さんは私を美少女なんて言ってくれた人だった。

 私とちょっと一緒に歩いてお話ししただけで七十億の絶唱を超えられるって、そんな事を言ってくれた人。

 

 ……そ、それに、私の口の端についてたクリームを指ですくい取って舐めちゃった人、なんだよね。

 

 顔が熱くなってくるけど、まずは口の中の物をちゃんと飲み込もう。

 って、そうしてたら目の前にグラスに入ったお茶が出て来た。

 

「良かったらどうぞ」

 

 そこには眠そうじゃない顔の只野さん。何か新鮮かもしれない。

 

「……ありがとうございます。で、すっごく喜んでました。平行世界でもキャロルちゃんはキャロルちゃんだって」

「そっか。役に立てたなら嬉しいよ」

 

 そう言って微笑む顔が、一瞬だけどお父さんに重なった。

 只野さん、まだそんな歳じゃないと思うけど……何でだろう?

 

「それで、色々質問があるんですけど、いいですか?」

「いいよ。俺に答えられる事なら」

 

 師匠達からの質問を書いたメモを取り出して只野さんへ聞いていく。

 まずは師匠の場合は風鳴関係のもの。

 で、只野さんが言うには、そもそも師匠や翼さんのお父さんみたいな防人なんているならもう少しましな政治をしてくれる。だからいないと断言した。

 

 次はエルフナインちゃんの質問。只野さんの世界ではシンフォギアってどんな物語だったのか。

 

「えっと、すっごくざっくりでいい?」

「え? あ、はい」

「何があっても諦めずに手を伸ばし続けよう。そうする事で必ず何かが変わるから。そんな事を思わせてくれる物語」

 

 その言葉に私は思わず息を呑んだ。

 だって、それは私がやってきた事を意味するような言葉だったから。

 私が信じ続けた事。思い続けた事。それが全てそこに詰められていた。

 

「……立花さんにこの言葉はかなりズルいかもしれないな。ごめん」

「い、いえっ! その、嬉しいです。私達のやってた事、そういう風に感じてくれる人がいるんだって、そう思えたから」

「そんな事ないよ。俺だって君達の姿に生きる気力をもらってたんだ。生きるのを諦めるなって、そう自分へ言い聞かせて」

「只野さん……」

 

 握った拳を見つめる只野さんは、少しだけ大人の男の人って感じがした。

 きっと、私とは違った意味で只野さんも辛い想いをしたんだ。

 それでも、奏さんの、そして私の言葉で頑張ってくれてる。そう思うと心があったかくなる。

 

「あとはちょせぇとかもよく使ってた。心の中で、だけど」

 

 そう言って恥ずかしそうに笑うのが、何だかとっても心に響いた。

 そこで分かった。只野さん、どことなくお父さんに似てるんだって。

 外見じゃない。言動が、かな。

 

「次は何?」

「え……? あっ、えっと……」

 

 何だかお父さんみたいって思った途端、急に恥ずかしくなってきて、そこから私は只野さんを見れなくなった。

 運良くメモへ顔を向ければいいから助かったけど、今度からどうしよう?

 お父さんに外見も似てればまだ良かったけど、外見はボサッとしてる感じで私の回りにはいなかった感じの人だし……。

 

 とにかく、今は質問をしていこう。

 

「体重とかも知っているんですか?」

「それは言ったと思うけど、数字関係はあまり覚えてないし、俺はそこまでコアなファンじゃないんだ。だからスリーサイズとかも同様に知らないよ」

 

 マリアさんの質問は終わりっと。ついでにクリスちゃんのもだね。

 

「私達の事は、生まれてから今まで全てを知っているんですか?」

「作品として描かれた部分しか知らないからそれはない。だから本当の両親が誰とか本当の誕生日とかは原作者じゃないから分からないんだ。ごめん」

 

 うわ、これが調ちゃんか切歌ちゃんって分かってるんだ。

 しかも二人の多分知りたい事を答えてくれてる。

 でも、少し残念だな。きっと二人ががっかりするだろうから。

 チラっと見ると只野さんもどこか申し訳なさそうだった。

 

 ……やっぱり優しい人なんだな。

 

「えっと、平行世界の事はどれぐらい知ってますか?」

「どういうとこへ行って、どういう敵と戦ったとかぐらいは知ってる。立花さんが巨大ヒーローになった事とか」

「えっ!? そこまで知ってるんですか?」

「まぁ。フルパワーグリッドマンギア、完凸出来なかったんだよ……」

「かんとつ?」

 

 よく分からないけど、グリッドマンの事を知ってるって事はそういう事だね。翼さんの質問も終わりっと。

 

「ノイズがいない事は、幸せですか?」

「……難しいね。もしかしたら、そういうのがいる方が人類は手を取り合えるのかもしれないから」

 

 少しだけ、少しだけ只野さんが困った顔をした。未来、難しい事聞くなぁ。

 

「もしシンフォギアって作品がなくなったままになれば、私達と繋がり続けるってなったらどうしますか?」

 

 その質問に、只野さんは驚いた顔をした。

 だけど、すぐに悲しそうな笑みを見せてゆっくり首を横に振った。

 

「それは駄目だよ。多分だけど、ここは立花さん達が関わっていい世界じゃない。むしろこうなって欲しいよ。俺が立花さんと出会った事をなかった事にすれば、全てが元通りになるって」

 

 私の質問へ只野さんはそう返して照れくさそうに頭を掻いた。

 

「なんて、そう想い切れればカッコイイんだろうけどさ……」

「只野さん……」

 

 私を見てそう言う只野さんは、困ったように笑みを浮かべてる。

 それが、何だか嬉しくて、だけど申し訳ない気持ちになった。

 

「出来る事なら、俺はこの思い出をなくさず生きて行きたい。だけど、同時にそうする事で誰かが困ったり苦しんだりするなら諦める。あくまでも、今の状況を喜んでいられるのはこの世界が平和で何も特異災害が起きてないからだから」

「……はい。私も、私も同じです。そして、出来れば何も起きないままか、起きる前に解決したいです」

「うん、それが一番だ。俺に出来る事はほとんどないけど、この部屋はいつでも来てくれていいから。それに、今は無理だけど近い内にスマホ一つ増やすんだ。そっちを俺は仕事や連絡用にするから、今のスマホはここへ置きっぱなしにする」

「ええっ!? さ、さすがにそれは……」

「いいんだ。今言った通り、この世界にシンフォギアが、装者が来た。それは絶対良くない事が起きるはずだ。それを阻止するにはこの世界の人間としてやれるだけの事はしたい」

 

 私を見つめる只野さんは、凄く真剣な目をしてた。

 それは、これまで出会ってきた私達を助けてくれた色んな人達と同じ目だ。

 

「……分かりました。じゃあ、お言葉に甘えますね」

「うん。ただ、泊まるのは止めておいた方がいいよ。布団、これだけしかないし」

「あはは……その時は寝袋とか持ってきます」

「いやいやっ! 男の一人暮らしの部屋で女の子が寝るって意味、分かってる? 俺がバイトで帰ってきた時起きてなかったら、変な事されるかもしれないんだよ?」

「あっ……ご、ごめんなさい」

 

 思わずノリで言った事だけど、只野さんが言ってくれた言葉で理解出来た。

 わ、私ってば何て事を……。

 でも、只野さんなら大丈夫だと思うんだよね。優しいし、気は利くし、私を可愛いって言ってくれたし……ん?

 

「だから危ないのか!?」

「いきなりどうしたのっ?!」

 

 頭の中に浮かんだ想像につい大きな声を出した。

 でも只野さんもそれに大きな声を出したのには笑っちゃった。

 その後近所迷惑って言われるかもしれないから、この時間は大声はお互い程々にしようって言われて反省。

 

 でも、何だかこれ、同棲してるみたい。

 な、何だかドキドキしちゃうな。

 

 それからしばらく私は只野さんと過ごした。

 只野さんの晩ご飯はバイト先でもらってきたお弁当。しかもとんかつ弁当だった。

 私がそれを見つめてると……

 

――同居人にバレないようにな。

 

 って言ってとんかつ一切れとご飯を一口くれた。

 何だかとっても美味しくて、そして胸がドキドキした。

 だけど、その後の只野さんは顔が真っ赤になりながら嬉しそうにお弁当を食べていた。その理由ははっきり分からないけど、きっと私なんだろうなって事は分かる。

 

 お弁当を食べ終わってからは、私が只野さんの事を聞かせてもらった。

 歳はとか、一人暮らしはどれぐらいなのかとか、お料理はするのかとか。

 それに只野さんは嫌な顔一つしないで、むしろどこか嬉しそうに話してくれた。

 そこで分かったのは、只野さんは今年で三十になるって事と、一人暮らしはもう十年になるって事。

 

 そしてお料理は出来なくないけど、今の仕事内容的にそこまで気力がわかないのでほとんどやってない事。

 

「そこまで大変なんですか?」

「……年齢もあるからなぁ。二十代前半の頃は深夜帯も割と平気だったんだけどさ」

 

 うーん、私にはまだ遠い話だ。だって三十どころか二十さえまだ先だし。

 

「でも、こうして立花さんが来てくれるなら頑張れるから大丈夫」

「そうですか?」

「そうそう。へいき、へっちゃら」

 

 そう言って軽く笑う表情が、本当にお父さんに重なった。

 思わず胸がきゅんとなる。心が騒ぐ。

 だって、只野さんが何でそう言っているか私は分かるから。

 その言葉の意味を、使い方を、この人は知ってるはずだから。

 

「……響って、そう呼んでくれていいですよ?」

 

 だから、私は支えたいって思った。たった一人で私の事を助けようとしてくれる、優しい協力者を。

 

「で、でもなぁ……。恥ずかしいんだよ、この歳にもなって情けない話だけど」

「そうなんですか?」

「そう。自慢じゃないけど年齢イコール彼女いない歴だから」

 

 言って胸を張ってみせる只野さん。それが照れ隠しだって分かる。

 うん、分かっちゃう。男の人って、こんなにも分かり易いんだ。何か新鮮。

 

「じゃあ、私で練習です。その代わり……」

「その代わり?」

 

 きっと、これが私の一番の目標なんだと思う。

 私を、可愛いって、正面から初めて言ってくれた異性への、私なりのお礼。

 

――こ、今度来た時、私とデートしてくれませんか?




ビッキーは異性にストレートな迫られ方をされたら弱い気がする。あとダメンズにも弱い気がする。
それと感想ありがとうございます。励みになります。
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