シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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ダインスレイフの闇を纏って戦った戦姫達はラピス・フィロソフィカスの輝きを得て光を纏うようになりました。
今回は悪意の闇に包まれた彼女達を心の光が包みます。


花咲く勇気 Ver.Amalgam

「え、エッチな事って……」

 

 思わぬ言葉に耳を疑う。だけどこっちを見つめる二人はふざけてるようには見えない。

 

「だって、仁志さん、プールでえっと、お、おっきくしたじゃないですか」

「あ、あれは」

「何だよ? あ、あたしらに興奮したんだろ?」

 

 否定はできない。実際あの時俺はみんなの体を見てエロい気分になった。

 でも、だからっていきなりそういう事はどうかと思う。したくない訳じゃないけど、響もクリスも若干気が急いてるような感じがするし。

 

「そうだけど、聞いてくれ。えっと、さすがにそういう事はちゃんとした関係になってからじゃないと」

「い、いいじゃないですか。私は、仁志さんならいいですよ?」

「あ、あたしも仁志ならいい。てか、それ以外とは嫌だ」

「響……クリスも……」

 

 恥ずかしそうに、だけど本気で俺へ想いをぶつけてくれる二人に言葉がない。

 男にとっては夢のような状況だけど、だからってさすがに今は色々不味い。

 

「二人共、その、ありがとう、でいいのかな? 二人の気持ちは嬉しいよ。でもさ、せめて本当に悪意との一件が片付くまでは」

 

 そういう事は止めておこう。そう言おうとした俺へある意味一番聞きたくなかった言葉が聞こえてきた。

 

「でもっ! この事件が終わったらもう仁志さんと一緒にいられないかもしれないじゃないですかっ!」

「っ!?」

 

 目を背けていた考え。ある意味で一番可能性の高い、ほとんど確定に近い、結末。

 それを響から告げられ、俺は言葉に詰まる。

 

「そうだぜ。下手すりゃ悪意を倒した瞬間にさよならだ。あたしは、そんなのやだ」

「クリス……」

「お願いです仁志さん。せめて、せめて少しでも思い出をください」

「あたしらに、仁志を刻んでくれよ」

 

 体を密着させながら潤んだ瞳でこちらを見上げる二人の女の子。その、柔らかい感触と温もりに否応なく俺の男の部分が反応する。

 

「仁志さん、その、エッチが駄目なら本物のキス、どうですか?」

「さっきの言葉、嬉しかったんだ。あたしらの事、受け止めるって」

「それは、まぁ」

 

 完全に胸を押し付けるようにこっちへ抱き着く二人を俺はどうすればいいか迷っていた。

 ここまで言ってくれているのを撥ね退けるのもどうかと思うし、だからといってこんな状況や雰囲気に流されてキスするのも響もクリスも本当は嫌だろう。

 こうなると腹を括って二人とのそれぞれのデートでキス、するべきか。

 それならきっと二人も納得してくれるだろう。何せ二人はまだ少女だもんな。

 

「えっと、響」

「はい?」

「クリス」

「何だ?」

「キスは、今は待って欲しい。その、ちゃんとそれに相応しい場と状況を、俺なりに、えっと、用意する、から……」

 

 言いながら恥ずかしくなってきたが、それでも何とか言う事が出来た。

 さて、二人の反応は……?

 

「い、今じゃダメ、ですか?」

「ひ、仁志の気持ちは嬉しいけどさ、あたしらは別に今でもいいんだぜ?」

 

 嬉しいけど今して欲しいってそんな感じだ。

 

「そ、そんなに?」

「「そんなに」」

 

 潤んだ瞳と熱っぽい眼差し。正直言ってかなりぐらついてる。

 悪意に操られてる、訳じゃなさそうだ。だ、だけどさすがにいきなり二人の女の子とキスって、それはさすがにどうかと思う。

 これが響だけとかクリスだけなら俺もした。いや、してる。ただ二人の女の子を相手にして、しかもファーストキスを奪える程俺はプレイボーイじゃない。

 

「あの、さ、笑われるかもしれないけど」

「「笑わない(です)から」」

「……ありがと。えっと、男にも憧れとかあるんだ。そういう意味では、この状況はキスとかするにはちょっとずれてる」

 

 ある意味では憧れではあるけど、な。両手に花なんて夢でしかなかったし。そう思って二人を抱き締める。

 

「「あっ……」」

 

 上がる声が嬉しそうなのが本気でヤバいぐらいテンション上がる。

 

「だから、もう少しだけ待ってくれないか? 二人それぞれとデートをするだろ? えっと、こんな言い方はどうかと思うけど、その時には……さ」

 

 客観的に見ると最低な男だと思う。遊び人以外の何物でもないぞ、これ。

 だけど仕方ないじゃないか。ここで“響を!”とか“クリスで!”とか言える程はっきりとした区別が俺の中にないんだ。

 俺だって男だ。可愛い女の子達から言い寄られて悪い気はしない。それどころかむしろ嬉しすぎて舞い上がりそうだ。

 

「「デート……」」

「そう。今から言っておくと、二人は最後の方にしようと決めてたんだ」

 

 理由はその時と今じゃ違うけど。

 

「最後……?」

「それって……とっておき?」

「あー、うん。そういう意味になる、かな?」

 

 どことなく嬉しそうな二人へ若干だけど言葉を濁す。まぁ間違ってない。今は、って注釈がつくけど。

 

「「仁志(さん)っ!」」

「おっとっ!?」

 

 ムニュっと聞こえそうなぐらいの勢いで二人が強く抱き着いてくれる。

 あー、今日仕事で良かったぁ。これで休みだったら理性だのなんだのまで休みになってた自信がある。

 ホント、良かった。何せ最悪で最高の事態になった場合、俺の部屋にはアレがないし。

 

 こ、今夜、店で買う? いやいやっ! オーナーに勘ぐられるに決まってるし噂になる。

 

 …………駅前のドラッグストアだな。

 

「それにしても、本当にいいのか? 俺の発言って、客観的に見れば女の敵みたいなものなのに」

「「……え?」」

 

 俺の問いかけに何故か二人は“何を言ってるんだ?”みたいな顔をした。

 

「いや、だって俺は君達全員の想いへ向き合うって言ったんだよ? 翼や未来、あとは奏やマリアも」

 

 その瞬間、二人の表情が消えた。それまでは幸福感を表情に乗せていたのに、それが一切消えたのだ。

 正直怖かった。それと嫌でも分かった。今、俺は踏んではいけない地雷を踏み抜いたのだと。

 

「未来達も……?」

「先輩達も……?」

「え、えっと、俺は誰も選べないと思ってたし選ぶ事も出来ないって思った。だけど、それはある意味で俺の気持ちに嘘を吐くって思い直したんだ。だから素直に」

「「私(あたし)達で十分じゃないですか(だろ)っ!」」

「っ?!」

 

 二人から初めて聞く怒声に息を呑む。こちらを睨むような二人に俺は当然の反応だと思って何も言えない。

 そう、だよな。両手に花だってどうかと思われるんだ。それをよりにもよって花束がいいなんて何考えてんだって話ではある。

 それでも、俺は選ぶとしたらそれだ。それに呆れられ、怒鳴られ、見捨てられてもいいと、そう決めた。

 

 だから、俺はこちらを睨む二人へはっきり告げる事にする。嫌われてもいいと、そう思って。

 

「今言った通り、俺は誰かを選ぶ事はしないし出来ない。選ぶなら全員だ。それが、俺だよ」

「「っ……」」

「ダメな男だと罵ってくれていい。馬鹿な男だと笑ってくれて構わない。それでも、俺は君達に対してはこの選択肢以外選ぶつもりはもうない」

 

 マリアが言ってくれた言葉を胸に俺はそう言い切った。

 そうだ。どうせ一緒にいられないなら、俺は俺に素直に生きよう。ゲージが好感度じゃないと分かった今、例え響達に嫌われても彼女達が本当の日常へ戻る事に俺との関係性は意味を成さない。

 

 俺だけが彼女達へ想いを寄せ続ければそれでいい。あのゲームの力を使い、みんなのサポートへ徹して悪意を倒す。そこに、みんなからの好意は必要ない。

 俺だけが想い続けていればいい。そして全てが終わったら彼女達は帰る。ここには俺だけが残る。何も問題ないしおかしくない。

 

 元々この世界は彼女達にとっては別世界なんだ。

 

「響、クリス、俺に恋してくれてありがとう。こんな事を言い出す奴とは思わなかったかもしれないけど、これが俺だよ」

「仁志さん……」

「仁志……」

 

 心なしかこちらを見る二人が苦しそうに見える。本当に優しいんだな、君達は。

 

「さてと、まだ仕事には早いけど、マリア達のとこに汗を流しに行ってくるか。そのまま勤務時間近くまで過ごすだろうから鍵だけ、お願いするよ」

 

 そっと二人の体を押しやって俺は立ち上がろうとして、二人に押し倒された。

 

「ふ、二人共?」

「ダメですよ仁志さん。マリアさんのところになんか行かせません」

「そうだぜ。アイツのとこなんかに行かせるか」

 

 こちらを見つめながらどこか不気味な印象の二人。どことなくだけどマリアへの怒りや憎しみみたいなものを感じる。

 

「い、行かせないって……」

「仁志さんは私達が大好きなんですよね? ならキスしてください」

「ひ、響?」

 

 どこか怖い印象さえ受ける笑顔の響。こんな風に響が笑うなんて……。

 

「仁志はあたしの事、好きなんだよな? だったらキスしてくれよ」

「クリスまで……」

 

 響と似た表情で笑うクリスに背筋が凍る。これは、あれだ。奏と未来が悪意に操られた時に似てる気がする。

 

「ごめんっ!」

「「っ?!」」

 

 そう思った時には全力で二人を払いのけた。違ってたら後で謝ればいい。だけどもしそうじゃなかったらあの体勢は不味い。

 それに、人数も問題だ。いくら男だからってろくに鍛えてない俺じゃ、響とクリスの二人を相手に出来るはずがない。さっきみたいな状態にされたらキスされてしまう。

 

「まさかこんな日が来るなんてなっ!」

 

 可愛い女の子二人からキスを迫られて、それから逃げる事になるとか現実味が無さ過ぎるだろ。

 でも一つだけ分かった事がある。それはゲージが最大にならないと乗っ取りは出来ないだろうって事だ。

 慌てて玄関へ向かいながら途中でスマホを手にする。そしてもしもを考えて予め表示させておいた連絡先をタップして、エルへ電話しながら外へ出た。

 

『兄様? どうしたんですか?』

「エルっ! セレナとヴェイグを俺の部屋まで呼んでくれっ! それと出来れば調もだっ!」

『わ、分かりましたっ! 姉さんっ!』

 

 そこで通話を終え、俺は部屋へのドアの前で座り込んで二人が外へ出ないように重石替わりになった。

 だが、一向に二人が玄関へ近付く気配がない。妙だなと思いつつ、俺は気を抜かずにドアを背中で押さえ続けた。

 

 どれぐらいそうしていたか分からない。だが多分十分ぐらいは経ったと思う。

 

「お兄ちゃんっ!」

「只野さん、お待たせしましたっ!」

「セレナ、調も……ありがとう」

 

 そんなところへヴェイグを抱えたセレナが調と一緒に姿を見せてくれた。

 しかも調の手にはスマホがある。

 

「それは……」

「エルが、必要だろうからって」

「どうぞ」

「助かる。それと、セレナには分かるかもしれないが」

「うん。ヴェイグさんが以前の奏さん達よりも酷いって」

「マジか?」

 

 同じぐらいだと思ってたらそれ以上って……。でもそこまで変わった事はなかった気がする。

 

「とにかく、油断しないでくれ。セレナ、入ったら……分かってるよな?」

「うん。響さんとクリスさんを隔離する」

「調も、いい?」

「はい。二人の悪意を払ってみせます」

「頼む。それとヴェイグは俺が」

「あ、うん。お願い」

 

 セレナからヴェイグを受け取り、俺の腕へヴェイグが掴まるのを見て頷く。

 

「じゃ……いくぞ」

 

 意を決してドアを開けて中へと入ると、俺は思わずその場で動きを止めてしまった。

 

「仁志さん……仁志さん……っ!」

「仁志ぃ……切ないんだよぉ……」

 

 あろう事か響とクリスが、その、俺の使ってる布団や枕へ顔を埋めていたのだ。

 

「ど、どうしたのお兄ちゃん? って、え?」

「響さん……クリス先輩……」

 

 背後から聞こえる声で我に返る。だけどもう遅かった。

 

「な、何で二人はお兄ちゃんのお布団や枕の匂いを嗅いでるの?」

「せ、セレナ、見ちゃダメ!」

「えっ!? し、調さん?」

 

 調の行動は理解出来る。でも今はそれどころじゃない。

 

「調、セレナ、悪いけど今はギアを!」

「は、はい!」

「うん!」

 

 二人がギアを纏うのと同時にヴェイグがスマホを俺へ差し出してきた。

 

「タダノ、あとは任せた」

「助かる!」

 

 既にゲームは起動済み。ステータスをタップし、すぐさま二人をツインドライブへ。

 

「そして……っ! 巫女ギア! ツインドライブっ!」

「ミレニアムパズル、展開っ!」

「このまま二人を浄化しますっ!」

 

 これで何とかなると、そう思った時だった。

 

――Balwisyall nescell gungnir tron……。

――Killter Ichaival tron……。

 

 有り得ないはずの歌が、聞こえた。思わず調が動きを止めて、セレナが目を見開く程の、衝撃と共に。

 

「嘘、だろ……?」

「黒い……ギア……?」

「イグナイト……そんな……」

 

 調の言う通り、目の前には黒いギアを、イグナイトモジュール状態のガングニールとイチイバルを纏った響とクリスがいた。

 

「邪魔、させない……」

「あたし達は、仁志と一緒にいるんだ……」

「「「っ!?」」」

 

 低く放たれた声はたしかに二人の声だった。だけど、何かが違う。言うなれば、敵意みたいなものが宿っていた。

 

「タダノっ! あの時のマリアと同じだっ!」

「っ!? 乗っ取られてるのかっ!?」

「でも、その割には動きが鈍いよ?」

「とにかく、今は浄化しないと。セレナは歌って。私は神楽へ集中するから」

「はいっ!」

 

 改めて神楽をやろうとした調だったけどそれは出来ずに終わる。

 

「っ!?」

「調っ!」

 

 彼女を狙う銃撃が放たれたからだ。やったのは当然クリス。

 

「目障りだ……失せろ……っ!」

「クリス先輩……」

「なら私の歌で……」

 

 奏と未来を鎮静化した際に効果があったセレナの歌。だが……

 

「セレナっ! 動くんだっ!」

「っ!? 響さんっ!?」

 

 そうはさせじと響がセレナへと迫ったのだ。結果、完全に響対セレナ、クリス対調の構図が出来上がった。

 これは、不味い。かと言って助けを呼ぼうにもミレニアムパズルを展開してる今、連絡するのは難しい。

 

「……まさか」

 

 嫌な予感がした。

 何故二人が部屋から出てこなかったのか。

 どうして俺達が中へ入ってもすぐ行動を開始しなかったのか。

 それは、全て現状を作り出すためだとしたら? 他の装者を容易に呼べず、しかも身動きを封じる事が出来ない事を見越していたのかもしれない。

 

 そう、これまでの悪意との戦いで見せてきた戦術はよく影縫いとミレニアムパズルを使っていた。

 だが翼は俺の部屋からは遠く、緊急時にすぐ呼び出せないと悪意も知っているんだ。逆にセレナはまだ近い。なら、俺の部屋で問題が起きた時、すぐに呼び出されるのはどっちか分かるだろう。

 

「してやられた……っ!」

 

 ここに切歌やマリアがいれば少しは違ったんだろうが二人はバイトだ。それに、依り代であるスマホを俺へ託せばマリアがエルの傍を離れる事は出来ない。

 俺達の事を観察してきての今回の一件だとすれば用意周到過ぎて感心したくなる程だ。

 

「クリス先輩っ! 正気に戻ってくださいっ!」

「黙れ……。あたしから、あたしから仁志を奪った癖にっ!」

「響さんっ! 私です! セレナですっ! 悪意になんかに負けないでっ!」

「知ってるよ……。仁志さんを奪った悪い子だ……っ!」

 

 俺の目の前で展開される装者同士の戦い。いや、調もセレナも攻撃していないから戦いとは言えないかもしれない。

 調もセレナも二人の様子に躊躇いや困惑が見える。無理もないよ。俺の事を名前で呼んでるし、初めて二人へ見せるぐらいの憎しみの色に染まった表情をしてる。

 

「タダノ、どうするんだ!? このままじゃセレナと調が……」

「くっ……」

 

 ステータスでの強制変化はやっぱり不可能だ。

 と、そこで察した。ツインドライブアイコンが作動しなかった時から、もう二人は悪意の手の中だったんじゃないかって。

 

 そして何故二人だけイグナイトギアが表示されていたのかも分かった。

 一応警告してくれていたんだ。このゲームは、響とクリスが悪意に魅入られている事をこっちへ教えてくれていたんだ。

 

 だが今それに気付いたところで意味はない。今後に活かせるかもしれないが、その今後を迎えるためにも今、二人をどうにかして助けないと。

 しかしその方法がない。調もセレナも二人の攻撃を回避する事に専念していて、とてもじゃないけど神楽を舞う事も歌う事も出来る状態じゃないんだ。

 

「せめて何とか二人の動きを封じる事が出来れば……」

 

 影縫いは無理だし、俺が押さえつけようにもギアを纏った二人なんてとてもじゃないが無理だ。

 残る手段は二人を攻撃してダメージを与えるしかないけど、それが出来るかと言えば難しい。

 

「ちょこまかと、ちょせぇんだよぉぉぉっ!」

「邪魔だぁぁぁぁっ!」

 

 悪意に操られた二人の攻撃は本気だ。下手をすれば普段以上の迫力かもしれない。

 あれを相手に戦えば調もセレナもただじゃ済まないだろう。そして、響とクリスもだ。

 

「タダノっ!」

「分かってるよっ! 今必死に考えてるんだっ!」

 

 戦闘になれば俺に出来る事なんてないと分かっていたのに、いざこうなると本気で自分のふがいなさに嫌気が差す。

 だからって諦めるものか。何かを捻り出すんだ。少しでもいい。調やセレナを助けるためにも、悪意の好きにさせないためにも、そして何より……

 

 響とクリスを助けるためにもっ!

 

「タダノっ! 何か鳴ったぞ!」

「っ!?」

 

 通知音が聞こえたらしいヴェイグが上げた声で慌てて俺はスマホを見る。

 画面がステータスからメイン画面に切り替わっていて、久しぶりのお知らせアイコンが表示されていた。

 急いでタップすると画面に表示されたのはたった一文。

 

――ミュージックボックスが更新されました。

 

 一体どういう事だと思いながら俺はミュージックボックスをタップして表示させる。

 何も見た目が変わっていない事に内心訝しむけど、今はこれに賭けるしかない。そんな気持ちで俺はミュージックボックスを探る。

 

「……何も変わってないじゃないか」

 

 曲数が増えた訳でもなければ、何か表示が変わった訳でもない。ただただ歌が流れるだけだ。

 

「タダノっ! どうだ!」

「ダメだ。何も変化してない」

「だがたしかに音が出たぞ!?」

「ああ。こうなると手当たり次第試してみるしかないか……」

 

 が、そこではたと思った。これまで俺達はギアの変化ばかりに気を取られたけど、ミュージックボックスの事はほとんど気にも留めてなかった。

 だがステータスが俺達の力になるのなら、これだって何らかの力になるはずだ。何故なら、これも最初からこのゲームに搭載されていたんだ!

 

「じゃあもしかして……っ!」

 

 今いるのはセレナと調。その中で悪意へ効果があるとすればセレナの歌だ。

 なので俺は表示条件をセレナに絞った。表示された楽曲はたった三曲。

 

「これで……何か起きてくれっ!」

 

 “此の今を生きて”を選択し俺は目の前を見つめた。

 すると……

 

「えっ!?」

 

 セレナのギアから間違いなくセレナの歌声が流れ始めたのだ。突然の事に驚くセレナだが、もっと驚くべき事が起きた。

 

「ううっ……」

 

 拳を握りしめて襲いかかろうとしていた響がその歌を聞いて動きを止めたのだ。

 間違いない。みんながギアを展開中にミュージックボックスの曲を選択すれば、それに適応するギアが歌ってくれるんだ。

 いや、多分このミュージックボックスの歌を発してくれている。そしてそれには多少なりとも悪意を弱らせる、あるいは苦しめる効果があるんじゃないだろうか?

 

「セレナっ! その歌に合わせて歌ってみるんだっ!」

「この歌に……うんっ!」

 

 流れる歌へセレナの歌声が重なる。まるで二人のセレナが歌っているかのようだ。

 

「ぐっ……ああっ!」

「「効いたっ!」」

 

 俺とヴェイグの声が重なる。これならいけるか?

 

「あたしの仲間に何しやがるっ!」

「不味いっ!」

 

 完全に歌へ集中しているセレナへ迫るクリスの攻撃。だが、それを突如出現したブロックが阻んだ。

 

「セレナは、友達は俺が守るっ!」

「ヴェイグ……」

「元々ミレニアムパズルは俺の力だ。だけど今はセレナが自分だけで使用してるからな。なら俺ももしかして使えるんじゃと思ったんだ」

「そういう事か……」

 

 ツインドライブの利点がこんなところにもあった。セレナが一人でミレニアムパズルを展開出来るって事は、ヴェイグがいれば彼女とは別にミレニアムパズルへ手を出せるかもしれないな。

 

 ……っ!? 手を、出せるっ!

 

「ヴェイグっ! ブロックでクリスの動きを封じてくれないか!」

「……そういう事かっ! 任せろっ!」

「調っ! クリスの動きをヴェイグが封じてくれる! そうなったら神楽を!」

「分かりましたっ!」

 

 そう言ってる間にクリスの周囲を色取り取りのブロックが取り囲んでいく。

 抜け出そうにもここはセレナとヴェイグの領域だ。しかもクリスはアームドギアで戦うタイプ。なら、その手の動きを封じられてしまえば……

 

「くそっ……ここから出せっ! 出しやがれぇぇぇぇぇっ!」

 

 ミサイルを展開するどころか引き鉄を引く事も出来なくなったクリスの目の前へ調が降り立つ。

 

「クリス先輩……今助けますっ!」

 

 凛とした表情で神楽を舞い始める調。そして響き渡るセレナの優しい歌声。

 それらが合わさって、何とも言えない不思議な雰囲気が出来上がる。だけど共通しているのは邪悪を払い清めようとする心だろう。

 

「いやぁ……また、また大好きな人が私から去ってく……。一人に、一人にしないでぇ……」

「いやだ……いやだぁ……。もう一人ぼっちは、大好きな人を失うのは、やだぁ……」

「響……クリス……」

 

 聞こえてくる言葉に心が痛い。そしてそれではっきりと分かった。悪意がどうやって二人へ忍び込んだか。どうやってその心を支配したか。

 よりにもよって悪意は、二人の根底にある心の傷を俺を使って広げたんだ。

 二人はそれぞれ人の悪意へ晒されて辛い目に遭っている。それに付随して大切な人との別れを匂わせたんだ。

 

 しかも、その切っ掛けは俺が二人を押しのけて逃げ出した事だろう……っ!

 

「タダノ、どうした?」

「今日程悪意を憎んだ事はないよ。あいつ、俺の行動さえも織り込み済みで策を練ってたんだ」

「どういう事だ?」

「……二人が俺へ迫って、それでキス出来ればよし。出来なかったら出来なかったで、そこから俺が逃げた事を利用して二人の心の弱いところを刺激する。大切な人に捨てられたとか思わせて、な」

 

 響は父を、クリスはフィーネをそれぞれ思い出させられたんだ。

 強い怒りを拳に宿して俺は黙って目の前の出来事を見守る。セレナの歌と調の神楽のおかげか二人の動きは大人しくなっていた。ただ、未だにその体から悪意が滲み出てこない。

 

「……妙だな」

「そうだな。マリアの時は悪意らしいものが出てきてたぞ」

 

 俺の呟きにヴェイグが答えてくれた。そう、そうなんだ。なのに何故操られてるだけの二人はそれよりも時間がかかっているんだ?

 

 っと、そこで俺は慌ててステータスを表示させる。

 

「もしかするとそういう事なのか?」

 

 未だに響とクリスのアイコンはイグナイトのまま。もしかするとあれはイグナイトに見えるだけで二人の中に根付いた悪意がギアの形を取っているのかもしれない。

 

「こうなると……」

 

 もし、もしも俺の推測が当たっているなら今回はギアを解除させないと悪意を追い出せないはずだ。ギアという物へ固着して悪意は自分を守っているようなものだからな。

 いくらセレナの歌や調の神楽で分離させようとしても、二人がギアを纏い続ける限りそれは物理的に防がれてる。

 

「イグナイトは闇だ。だから悪意もそれを模したとしたら……」

「タダノ、それなら光を浴びせるのはどうだ? たしかカラオケで言ってただろ。イグナイトが闇なら……」

「っ! アマルガムっ!」

 

 急いで調のアイコンをタップする。あったっ!

 

「調っ! アマルガムのツインドライブを試そうっ!」

「え?」

「悪意の闇をアマルガムの光で消し飛ばすんだ! 奴は今回ギアへ宿ってる可能性が高い!」

「ギアに……分かりましたっ!」

「よし、行くぞ調っ! ドライブチェンジっ! ゴーっ!」

 

 一縷の望みを賭けてアマルガムギアをタップする。するとグリッター化したかのように黄金色のアマルガムギアへと調の姿が変わる。

 

「一気に……ラピスの輝きをぶつけてみせる!」

 

 瞬時に調はクリスへと接近していく。攻撃ではなく、その黄金の輝きをその身へ照射するために。

 

「クリス先輩……私達の心の光、受け取ってくださいっ!」

「うっ……ああ……あったけぇ……」

 

 これならいけるかもしれない。そう思っているとヴェイグが俺の腕を叩く。

 

「タダノ、朗報だ! 翼と未来が来てくれた! パズルの前にいるっ!」

「マジかっ!?」

「ああ、まじだ! パズルの中へ入れるぞっ!」

「頼むっ!」

 

 きっとエルかマリアが念のために呼んでくれたんだ。

 そして姿を見せる翼と未来。その表情が響とクリスを見て驚愕に変わる。

 

「なっ……イグナイト、だと?」

「そんな……」

「翼、君もアマルガムでツインドライブを! 未来はセレナと一緒になって歌ってやってくれないか? 手を繋いでみれば心の歌が共有出来るかもしれない」

「「分かりました」」

 

 二つとなったアマルガムツインドライブバージョンの輝きはクリスを優しく包み込み、その黒いギアが苦しむように軋み始める。

 一方でセレナと未来は二人でAppleを歌い始めた。多分だけど、あれは統一言語の一部だったから呪詛のなくなった未来は歌う事が出来るんだろう。

 

「タダノ、二人の嫌な匂いが少しずつ弱くなってきたぞ」

「そうか……なら、ヴェイグ、ここで待っててくれ」

「……分かった。気を付けろ」

 

 その言葉に俺は頷いて、ヴェイグをそっと下ろすと意を決して歩き出す。まずは響の傍へ向かった。

 

「ううっ……ああっ……」

「響……」

「ひ、仁志さん……?」

 

 こっちに気付いて顔を向けた響はどこか辛くて悲しそうに見えた。

 悪意の影響力が弱くなってきたとはいえ、まだその力が消えた訳じゃない。それと彼女の優しい心が戦っているんだ。

 

「響、ごめんな。俺がもっとちゃんと気付くべきだった。君達の寂しさや、抱えてるものへ」

「仁志さん……」

「今更かもしれないけど、言わせて欲しい。その、俺は立花響が大好きだ」

「っ!?」

 

 こっちを見て目を見開く響。そうだった。俺はこの言葉を言い忘れてた。

 

「あの初めて会った日の事を、俺は絶対に忘れないよ。俺の初デートは、他ならぬ君なんだから」

 

 言いながら響の手を握る。そしてそのままこちらへ引き寄せて優しく抱き締めた。

 

「ごめん。君の心へ新しい傷を作って。ありがとう。俺の心へ新しい強さをくれて」

「あ……ああっ!」

 

 次の瞬間俺の体を響が強く抱き締めてきた。若干痛い、けど耐える。きっと彼女が悪意に心を弄られた痛みはこんなもんじゃない。

 

「仁志さんっ! 私も貴方の事が大好きですっ!」

 

 その瞬間響から光が放たれた。気付いた時には俺の目の前にギアインナーの響がいて、周囲を光の粒子みたいなのが漂っている。

 

「これって……アマルガムの?」

「はい。多分ですけど、仁志さんの言葉で私の胸の歌が勝手に展開してくれたんだと、思います……」

 

 で、何故か照れくさそうに俯く響。ああ、うん。そうだよな。何せ俺の後ろにはセレナと未来がいる。きっと目が合ったんだろう。

 

「えっと、これって俺がいると邪魔じゃないか?」

「え、ええっと、多分ですけどステータスから操作してくれれば大丈夫じゃないかな~って」

「あー……うん、良かった。いつもの響だ」

「どういう意味ですかぁ!」

 

 こっちの軽口に乗ってくれる辺りもう心配なさそうだ。なので早速とばかりにスマホを操作し、響のゲージ後ろにあるミーナのアイコンをタップする。

 

「……やっと、やっとなれた」

「ごめんな響。待たせちゃって」

「ううん、いいんです。私も、もっと仁志さんを信じるべきでした。ちゃんと言葉にするべきでした。言葉にしなきゃ、伝わらないってあの時分かったはずなのに……」

「響……」

 

 少しだけ悲しそうな笑みを見せる響だけど、それもすぐに消える。凛々しく表情を変えて見つめるは未だイグナイト状態のクリス。

 

「仁志さん、クリスちゃんをお願いしますっ!」

「ああっ!」

「未来、セレナちゃん、ありがとう。それと、ごめんねセレナちゃん。私、本気でセレナちゃんを……」

「いいんです。悪いのは響さんじゃなくて……」

 

 そこでセレナは顔を上へ向ける。そこには響から追い出された悪意が浮かんでいた。

 

「悪意ですっ!」

「未来っ! 一緒にやろうっ!」

「分かったっ!」

「じゃあ行きます!」

「仁志さん、お願いしますっ!」

「よし、アマルガムギア、ツインドライブっ!」

 

 響の姿がまるであのアダムを倒した時のような姿へ変わる。あれにアマルガムギアの腕が付いたような感じだ。

 

「行っちゃえ響っ!」

「ハートの全部でぇぇぇぇぇっ!」

 

 セレナがブロックを出現させて悪意を阻み、そこへ神獣鏡の光線を引き連れてアマルガムギアの響がその大きな拳で悪意を貫いてみせた。

 

 それを見届け、俺はクリスの傍へと急ぐ。彼女は翼と調の輝きを受けて少しではあるがその雰囲気が和らいでいた。

 

「クリスっ!」

「……仁志」

「すまないっ! 俺が父親気分で調子に乗ってたせいで君の心へ隙を作らせた! 俺を最初から支えてくれていたのは君と響だったのに!」

「いいんだ……。あたしが、あたしが悪いんだよ。素直になれなかった。口で言えばはえーのに、それを嫌がって結局このザマだ」

「それなら俺も同罪だっ! 俺も、君の気持ちを聞いたのに、それに甘えて答えを先延ばしにしてやきもきさせた。さっきだって、期待させるような事を言って失望させた」

「仁志……」

「こう言えば良かったんだ。最初から、あんな回りくどい言い方じゃなく、俺は君が、雪音クリスが大好きなんだって!」

 

 そう叫び、俺はクリスへと手を伸ばす。するとクリスを封じていたブロックが消える。

 ヴェイグ、ありがとう。明日の朝、シュークリームだけじゃなくコーヒーも持ってくからなっ!

 

「仁志っ! 仁志ぃ!」

 

 飛び込んできたクリスを抱き締め、俺は思いの丈を告げる。

 

「もう離さないからっ! 絶対にクリスを一人にさせないからっ!」

「ホントだな? 嘘じゃねぇな?」

「ああっ! だからそんなイグナイトを真似した邪悪なギアは脱いでくれ!」

「…………ああっ!」

 

 その直後目の前が光り輝き、クリスがギアインナー姿へと変わる。

 そして俺と目を合わせると彼女は小さく頷いた。

 すかさず俺はクリスのゲージの後ろにあるフィーネのアイコンをタップする。

 

「……この姿になるのも久々だな」

「雪音、大丈夫か?」

「クリス先輩、無事で良かった……」

「先輩、心配かけてすまねぇ。それと、悪い。あたしはお前を……」

「いいんです。悪いのは全部悪意。クリス先輩は悪くありません」

「…………ありがとな」

 

 クリスと調のやり取りに翼が小さく微笑むのを見つめながら俺はアマルガムギアをタップする。

 

「クリス、後は頼んだ!」

「おう、そこでしっかり見とけっ!」

 

 こちらもグリッター化のように全身を金色に染め上げて、クリスはその手にした弓を引く。

 

「月読、やるぞ!」

「はいっ!」

 

 そして翼と調は何とアマルガムでのユニゾンを成し遂げて空へと駆けて行く。

 そういえば二人は風月コンビだった。というかアマルガムの上にツインドライブ状態のユニゾンとか……悪意終了のお知らせ以外の何物でもない。

 

「「逃げられると思うなっ!」」

「……ここだっ!」

 

 金色の翼が駆け抜けて三日月のような軌跡を描いて悪意の動きを止め、そこをすかさずクリスが射抜いてみせた。

 光の矢が邪な闇を貫き、消し飛ばしたのだ。見事としか言いようがないそれに俺は無意識で拍手を送っていた。

 

「タダノ」

「ヴェイグか。さっきはありがとう。おかげで助かった」

「それはいいんだが、時間はいいのか?」

「へ?」

 

 言われてスマホの画面を切り換える。時刻は……九時十分前!?

 どうやら思った以上に調とセレナが苦戦していたらしい。道理で翼と未来がここへ派遣されるはずだよ。

 

 普通なら余裕だけど、連休明けの今日は髭を剃ったりしないといけないので時間が割とギリギリだ。

 

「悪いみんな! 俺、急いで支度しないといけないからこれでっ!」

 

 ゲームを終了すると一瞬にして目の前が元の部屋へ戻った。

 鍵と財布だけ忘れず持つと俺はそのまま慌てて靴を履いてドアを開け……

 

「そうだ! 翼、未来、助けに来てくれてありがとうっ! 送っていけないけど気を付けて帰って!」

「はい、分かっています」

「只野さん、明日お話ししたい事がありますから」

「ああ、分かってる。じゃあ、また明日っ!」

 

 そう言って俺は部屋を出た。向かうはマリア達の家だ。急いで行けば間に合うはず。

 

「エルやマリアにも礼を言わないとな……」

 

 走りながら最大の危機を乗り越える事が出来た影の功労者二人の事を思い浮かべる。

 とにかく、悪意はどんどん卑劣さや厄介さを増してる。前とは違った意味で早く決着を着けるべきだと思う。

 

――今は自分に正直に生きよう。そしてみんなへちゃんと向き合おう。この世界のためにも、みんなの世界のためにも……。

 

 

 

 只野さんが出て行った後、私は息を吐いて立花達へ向き直る。

 

「それで、一体どうしてああなった?」

 

 ある程度は分からないでもない。大方立花と雪音の恋心へ悪意が付け込んだのだろう。

 だが、それでイグナイトギアを模してみせるのが理解出来ない。

 あれはいわば暴走状態の力を御したもの。そうであるならあれは悪意を御してみせた姿でなければならないはずだ。

 

「その、実は私とクリスちゃんは……」

 

 そこで立花がチラリとセレナを見た。どうやらセレナには聞かせられない話らしいな。

 

「まずは一旦ここを出ませんか? 只野さんがいない状態で長居するのも」

 

 小日向の指摘に私だけでなく全員が頷き、静かに部屋を後にする事にした。

 最後にセレナが鍵を閉め、私達は一先ずマリア達の家を目指す事に。

 ただ、私の心が若干乱れていた。理由は一つ、只野さんだ。

 

 立花と雪音への言葉。愛の告白にも等しいあれを聞いて、何故落ち着いていられようか。

 只野さん、貴方はあの時こう言ってくれたじゃないですか、答えは必ず出すと。

 ならば何故立花と雪音だけなのですか? 何故私や小日向には、奏やマリアには何も言ってくれないのです?

 

――いや、もうマリアは聞いているかもしれない……。

 

 ……そうだ。マリアは私達の中でもっとも只野さんに近い場所にいる。

 その証拠がゲージの上がり方であり、日々の過ごし方だ。

 

――下手をすれば奏も聞いている可能性がある。深夜業務は人気がなく二人は同じシフトだ。二人きりで定期的に過ごしている……。

 

 そう、そうだった。奏も、マリアと同じだ。

 ああ、どうして気付かなかったんだろう。私と共に歌う二人は密かに只野さんと時間を共有していた。

 

「でも、さっきのお兄ちゃんには驚きました」

 

 ふと聞こえてきたセレナの言葉に視線を動かす。セレナはヴェイグを抱えて少しだけ頬を赤めていた。

 

「響さんとクリスさんを大好きだって、大人の男の人らしくなかったですけど、とってもお兄ちゃんらしい告白でした」

「あ、あれは……えっと……」

「否定はしねぇよ。意識して愛してるなんて言い方は避けたんだろうしな」

「どういう事ですか?」

 

 雪音の言葉に月読が小首を傾げた。見れば小日向も同じ気持ちらしい。

 私は、何となく分かる気がする。愛してるでは意味合いが重たく、また受け取り方が一つでしかない。

 これが大好きとなれば、ズルい言い方だが男女愛とは言い切れないとする事も出来る。

 

「多分、仁志はあたしやこいつの事を恋人にするつもりはないって事だと、思う」

「やっぱり……そうだよね」

 

 雪音の答えに立花もやや悲しそうに呟いた。分かっていた、のか。

 

「だけど、あたしは諦めねぇ。恋人が駄目なら一足飛びにその先だ」

「その先って……お嫁さん!?」

「小日向、声が大きいぞ。気を付けろ」

「あっ、す、すみません……」

 

 気持ちは分かるが既に時刻は九時になろうとしている。

 この辺りは住宅街故に静かだ。いくら往来とは言え大声を出せば迷惑となってしまう。

 

「く、クリス先輩、さすがにそれは」

「あたしは本気だ。仁志さえ良ければあたしの世界へ連れてって、そこで面倒を見る」

「「っ!?」」

 

 その言葉にセレナと月読が息を呑んだ。私と小日向は既に知っていたため反応が出来なかった。

 だからだろう。不味いと思った時には雪音の視線が私と小日向を貫いていた。

 

「……やっぱりか。あの時、あたし達二人の話聞いてたんだな、先輩達は」

「え? ど、どういう事?」

「あたしとお前が仁志の事でお互いの気持ちを言い合った時だっての。ピザを取りに行った時の事だ」

 

 怒りではなく呆れを含んだ雪音の視線に私と小日向は何とも言えない心境となるしかない。

 

「まぁもういいけどな。あの後四人して仁志に半分告白したようなもんだし」

「あー、うん。そうだね」

「そ、そうなんですか?」

 

 セレナが驚きの表情で私達を見てくる。気恥ずかしいな、こう見られると。

 

「ああ、そうだ。私達の想いを聞き、只野さんは必ず答えを出すと言ってくれた」

「で、答えが出たわけだ」

 

 その雪音の声は苦笑混じりだった。

 

「響とクリスが大好きって言う、あれ?」

「そうだけどそれだけじゃねぇ。仁志は誰かを選べないし選ぶ気はないらしい。だから最初は選ばないって、そう決めてたんだと」

 

 あの人らしい。そう思うも、ならば何故と思い直す。

 

「仁志さんはこう言ったんだ。誰かを選べないなら全員だって。そんな馬鹿な男なんだよって」

 

 言葉が、なかった。只野さんは大奥でも作るつもりか? いや、違うな。あの人はおそらく下心ではない気持ちでそう言ったはずだ。

 もしそうならきっとそんな言葉を秘めて立花や雪音へ接するはず。あの人はそういう意味では素直な人だ。あるいは誠実であろうとする人、だろうか。

 

「お兄ちゃんは結婚しないって事ですか?」

「セレナ、この場合は結婚とかじゃないよ。只野さんは響さん達の中から誰か一人を選んでお嫁さんにしないって事」

「えっと……?」

「月読、セレナにはまだ分かりにくい話だ。今は詳しい説明はいい」

 

 普通の恋愛でさえも憧れの世界だろうセレナに、自分へ想いを寄せる相手を全て受け止めるという只野さんの答えはその真意まで理解出来ないだろう。

 

「セレナ、今はただ只野さんは男性としては正しく、大人としては間違っている選択肢を選んだぐらいに思ってくれ」

「男の人としては正しくて、大人としては間違ってる……」

「翼さん、それはちょっと」

「立花、今はこれでいい。それよりも私達が考えないといけない事があるだろう」

 

 悪意が遂にギアを纏っても撥ね退けられないように対応してきた。あるいは、こちらを支配下に置き、ギアを纏わせる事に成功した、だろうか。

 

 どちらにせよこれは由々しき事態だ。

 最初の月読と暁はギアを展開せず神獣鏡の凶祓いによって対処し、二度目の小日向と奏は二人がギアを展開する事で対処出来、三度目のマリアは密かに神獣鏡で対処された後、今度はギアを展開する事で何とかした。

 

 そこへ来ての今回だ。立花と雪音へ入り込んだ悪意は二人を支配下に置いてギアを展開。しかもそれが今は失われたイグナイトだった。

 只野さんはイグナイトを闇と評した事を思い出す。だからこそ私や月読へ光であるアマルガムを使わせたのだろう。

 

「そうですね。悪意が、ギアを使いました」

「ああ、しかもそれであたしらはイグナイトギアを纏った」

「そういう事だ。私達の中で確立されつつあった悪意への対処法が崩れたとも言える」

 

 これは厄介と言わざるを得ない。ただどうして立花と雪音がそうなったのかが肝心だ。

 何せ操りではなく乗っ取られたマリアでさえギアを展開する事は出来なかったのだから。

 

――こうなると二人の心の弱さが原因ではないだろうか? マリアは年長故の責任感があったが、立花と雪音は少々色恋へ入れ込み過ぎているように見える……。

 

 有り得る。先程から二人は悪意に操られていたのに楽観が過ぎる気もしているし。

 

――それに先程から聞いていれば事ある毎に只野さんを名前で呼んでいる。自慢しているようにしか聞こえない……。

 

 まったくだ。私だって、私だって呼んでみたいのに。あの人と翼、仁志さんと、親しげに呼び合ってみたい。

 

――私も以前心を乱し刻印という呪縛をかけられた。ならば只野さんの呼び方を変えて色恋へ現を抜かしている二人なら、悪意をギアとして纏ってもおかしくはない……。

 

 ……そうだ。私でさえ心を乱されて付け入られたのだ。ならば立花と雪音がそうならないはずがない。

 

「とにかく、今はマリア達と話し合おう。話はそれからだ」

 

 私の言葉にみなが頷いてそこからは会話はなくなった。

 それにしても立花と雪音は油断ならない。気付かぬ内に只野さんの呼び方を変えていた。

 

 私も、負けていられない。只野さんが殿方らしい夢を見るというのなら、私がそれを正してあげなければ。

 

――そして、教えてあげるんだ。風鳴翼は、貴方の前だけ歌の好きな女でいられるんだって……。

 

 

 

「ただいまデース……」

 

 時刻は午後十時二十分を過ぎた辺り。可能な限り静かに引き戸を開け、切歌は疲れた声で帰宅した。

 たった五時間とはいえ接客に商品整理などをしていればそれは下手な訓練よりも疲れるというものだ。

 この日もクタクタになりながらも彼女はかなり遅い夕食のため洗面所へと向かっていた。

 そこで居間を素通りしようとして……

 

「おかえり切ちゃん」

「ただいまデスよ……」

「おかえり切歌ちゃん」

「ただいまデスよ響さん……」

「暁、お疲れ様」

「ホントにお疲れデース……ん?」

 

 かけられた声でようやく切歌は普段と違う事に気付き玄関へ戻って靴を見た。

 そこには普段よりも多い数の靴が並んでいた。そしてそれらは彼女が見た事のある物ばかりである。

 それを確認した切歌は慌てて居間へと顔を出した。

 

「な、何でししょー以外勢揃いデスか?」

 

 そこには仁志を除いた全員がいたのである。ただしセレナは既に寝ていて、響とクリスはかなり色濃く疲労が顔に出ていた。

 

「それを説明するからまず手を洗ってきなさい」

「わ、分かったデス」

 

 マリアの言葉に頷き切歌は洗面所へと向かい手を洗い始めた。

 その間も脳内では?マークが浮かび続けていた。今夜は集まる用事などないと切歌は記憶している。

 しかも仁志のいない時に全員が集まるなど初めてだったのだ。

 

(きっと何か問題が起こったんデス。それも、急にみんなで集まらないといけないやつデス!)

 

 手をタオルで拭きながら切歌は疲れた体に鞭打って表情を凛々しく居間へと向かった。

 

「お待たせデス」

「じゃあ、調? もう一度お願い」

「うん。実はね……」

 

 調の口から語られた仁志の部屋での一部始終。それを聞いて切歌は言葉を失った。

 

「……悪意が、ギアになった、デスか?」

「タダノはそう言ってたな」

「正しくは悪意がギアに宿った、だったらしいわ。詳しくは聞けなかったけど少し前から響とクリスだけイグナイトギアの表示があったらしいし」

「つまり、ステータスで今後は悪意が潜んでいるかどうか分かるって事か」

「でも、それが出来るのは現状仁志さんだけです」

 

 その響の言葉に切歌が頷いて……はたと何かに気付いて慌てて立ち上がった。

 

「なななっ! 何で響さんがししょーを名前で呼んでるデスかっ!?」

「まぁそうなるでしょうね」

 

 切歌の反応は既にマリア達がもうやったもの。ただ言われた響はどこか照れくさそうにはにかんでいた。

 

「え、えっと……実はそう呼んでもいいって仁志さんに許してもらったんだ」

「な、ナンデストぉ……」

「ま、今だから言うけどな。あたしとこいつは仁志と二人きりの時だけ呼び方を変えてたんだよ。それをこれからは隠す必要はないって言ってくれて」

「ひ、仁志って……クリス先輩もデスか……」

 

 驚き過ぎて言葉がない切歌。実はこの呼び方問題、地味にマリアと奏の二人に焦りを与えていた。

 

(私が妻みたいって思ってたのが可愛く思えるぐらい、響とクリスは女をしてたのね。只野も只野よ。二人きりの時だけの呼び方なんてどう考えてもそういう意味でしょうに!)

(やっとあたしが只野さんって呼び始めたってのに、とっくに響とクリスは名前呼び、ね。……いっそ、あたしも仁志先輩って呼んでやろうか?)

 

 年長なのに女としては響とクリスに先を越されていた事実。仁志と定期的に過ごせる時間があったにも関わらず、そこでの変化を起こす事もなくいた事に気付いたのだ。

 そしてそうでなかった二人は関わりさえ少なくなった故に、ならばと共有の秘密を作って関係性を縮めていた。

 

 その結果が今の状態だ。そう、それは……

 

「クリス、響もだけど、それってお店でも?」

「さすがにそれはやらねーよ。仁志が店じゃ店長って呼んでくれって言ってたしな」

「うん。たしかに仁志さんはそう言ってた」

「ま、あたしも仁志に迷惑をかけたくないし、面倒事になってもなんだ。ちゃんとその辺はきっちりするさ」

「そうそう。仁志さんだけじゃなくお店にも迷惑かけるかもしれないからね」

 

 二人は、気付いているのだろうか。先程から仁志の名を意図的に連呼している事に。その度に表情を幸せそうにしている事に。

 二人を操っていた悪意はたしかに取り除かれた。それは間違いない。だが、その根はまだ残っているのだ。

 

 何故なら二人は神獣鏡の光を浴びた訳でもなければ、巫女ギアでその身を祓い清められた訳でもないのだから。

 

――そうよ。もっと、もっと煽りなさい。発する言葉が負の感情ではなく正の感情によるものでも、相手や状況によっては負の感情となるのよ。今のお前達の幸せは、他の装者への煽りになるんだから。ふふふ……。

 

 悪意がほくそ笑む。根付いたというのはそういう事だ。見えている部分を取り除いたとしても、見えない部分にまだその根が残っている。

 根が残っていれば、またいずれ芽吹く事は可能だ。故に悪意は敗北を装った。仁志達に次なる手への警戒をさせぬために。

 

「立花、雪音もそこまでにしろ。お前達が只野さんと親しくなり関係性を変えたのは分かるが、だからと言って浮かれすぎだ。只野さんだけでなく私達の世界全てが危機に瀕していた事を忘れたのか」

 

 翼のやや鋭い声に名前を挙げられた二人以外も思わず息を呑んだ。

 

「つ、翼、何もそこまで言わなくても……」

「マリア、そちらもだ。只野さんと家族のように接しているからとはいえ、最近心構えが緩んでいるんじゃないか?」

「そんな事は……」

「では、何故一日に二回も悪意につけ込まれる? しかも、二度目など子を望む発言をしたと聞く。それは、マリアの中にある願望を悪意が汲み取ったからではないのか?」

「っ!?」

 

 思わぬ発言にマリアが言葉に詰まり顔を赤める。そして、それが今の翼には何よりの答えであった。

 

「図星か。どうやら今のマリアと只野さんは互いにいい影響を与えないようだ」

「翼、どうしたのさ? 何か急にカリカリしてない?」

「奏、よく考えてみて。悪意が明確にこちらへ手を出した事はこれまで分かってるだけで五回になった。最初は暁と月読。この時は悪意は二人の中にある寂しさや疎外感などを刺激して只野さん達への敵意を増幅させた。でも、その際の攻撃対象は一人じゃない」

 

 それだけで翼が何を言いたいのかを奏は悟る。今や明確に悪意が狙っている相手は一人なのだと。

 

「二度目は奏と小日向。この時もまだ狙いは私達と言えた。只野さんだけを狙ってはいない」

「翼、つまりこう言いたいの? 今の私では只野といると危険だと」

「ああ。あまり言いたくはないが、只野さんはマリアだけに甘えている。私や奏へ不満や悩みなど言う事はない」

「……そういう事か。分かったよ。だからマリアが二回も狙われたのか」

 

 一番仁志が頼っているマリアならば不意を突く事も出来る。奏はそう考えてやや苦い顔でマリアを見た。

 

「マリア、言い方はちょっとあれだけど翼の懸念はもっともだよ。少し、只野さんと距離を取りな」

「……そう、ね。私も、彼へ甘えていたもの。お互いに依存し始めてたと、思う」

「朝食や夕食を共にするぐらいはいい。だが、しばらくは只野さんの相談相手は控えるべきだ。代わりに私や奏が受け持つ」

「ん。じゃ、あたしはちょっと店へ顔出してくる。只野さんへも軽く今の話をしておきたいし」

「お願いするね。それと、立花と雪音も気を引き締めてくれ。悪意は思った以上に狡猾に私達の心を狙っている。幸せに浸り過ぎて足元をすくわれないようにな」

「分かってますっ」

「ああ、もう仁志を苦しめる事はしたくねーしな」

 

 ややムッとした声で言い返す響とクリス。それに翼も微かに憮然とした表情を返し、場の空気が悪くなった。

 

(何だろ? 今の翼さんの感じ、どこかで覚えが……)

(ううっ、何だか空気が悪いデスよぉ……)

(翼さん、何かイラついてる? 焦ってるのかな?)

 

 妙に棘があるような翼の態度に内心小首を傾げる調。

 切歌はあまり好ましくない雰囲気に疲れが増していく感じを受け苦い顔を見せる。

 未来はある意味で同じ立場故に翼の根底にある気持ちへ察しを付けていた。

 

(嫌な感じだわ。悪意の攻勢が短期間に集中したせいでみんなの心が荒れ始めている。只野がいない時に集まったのは失敗だったかもしれないわね……)

(翼の言う事も分からないでもないけど、何だか刺々しいな。これ、やっぱ嫉妬してるよね、あの二人にさ)

 

 全員の支えでありムードメーカーでもある仁志を欠いた状態での話し合いは早計だったと、そうマリアが思って後悔する中、奏は翼がその恋心故にやや攻撃的になっていると看破していた。

 

「あ、あのっ」

 

 そんな中、空気を変えるようにエルフナインが声を発した。

 

「どうした?」

「き、切歌お姉ちゃんはバイトで疲れてお腹も減っていますし、姉さんはもう寝ています。今夜のところはこれで解散にしてください」

 

 エルフナインがはっきりと願い出た事に翼は自分の引き起こした場の乱れを察して俯いた。

 

「す、すまない。そうだな。今夜はこれで終わりにしよう。暁、我慢を強いてすまなかった。その、ゆっくり休んで疲れを癒してくれ」

「へ? あ、はいデス」

「小日向、部屋へ帰ろう」

「は、はい。みんなおやすみ」

「「「「「「「「おやすみ(なさい)」」」」」」」」

 

 未来へ奏を除いた全員が声をかけ、その背中を見送った。残された形の奏はその場で伸びをしてゆっくりと立ち上がると残った全員へ苦笑を見せる。

 

「まぁ、後であたしから翼には言っておくよ。さすがにちょっとイライラし過ぎってね」

「お願いするわ。何となくだけど、凱旋ライブ後の状態に似ていたし」

「そっか。どこかで覚えがあると思ったらそれだ」

 

 マリアの言葉で調がやっと思い出せたとばかりに声を出す。

 

「あの、奏さん。只野さんに会ったらこう伝えてもらえますか?」

「何だい?」

 

 この時の調の伝言が悪意の妨害へと繋がる事となる。

 

――ノーブルレッドと戦っていた時、翼さんの様子がおかしくなったのって何が原因なんですかって。

 

 

 

 一夜明けて早朝、仁志は店を出ていつものようにマリア達の暮らす家へと向かって歩いていた。

 ただ、その足取りはいつになく重い。その原因は昨夜勤務中に顔を出した奏からの伝言にある。

 

「しばらくマリアへ甘えるな、かぁ……」

 

 言われた時に反論出来なかった程、奏の言葉は仁志にも身に覚えがあったのだ。

 

(そう、だよな。俺がマリアへ悩みや不満を打ち明けていたから悪意に執拗に狙われたってのは納得しかない)

 

 今後はマリアだけに寄りかからないようにと、そう奏から言われて仁志は頷くしかなかったのだ。

 

「……まぁ奏と翼ならマリアと似たような立場だし年齢も大人と言えるか。うん、それにあの時翼には精神的に頼って欲しいって言われたしな」

 

 そこで少しだけ足取りを軽くし仁志は歩き続ける。

 これまでマリアにだけ寄りかかっていたのを奏と翼へも分ける事で彼女への負担を減らそう。そう思って仁志は別の事を考え始めた。

 

(それにしても、XVでの翼の異変の原因かぁ……)

 

 調からの伝言を聞いた仁志は、何を彼女が不安に思っているかを悟っていた。

 ミラアルクによって刻まれた刻印と呼ばれる呪縛。それを使って訃堂に操られてしまった翼。それと似たような事を悪意がやっているのではないかと、そう調は心配したのである。

 

(悪意が翼を操っているとは思いたくないけど……)

 

 聞いた話だけでは翼の厳しい面が久々に出ただけのように思える。それが今の段階での仁志の感想だった。

 

 やがて仁志の視界に見慣れた家が見えてくる。早朝とは言え陽射しは強く、八月が近い事もあってそろそろ冷房が必要になる時期だ。

 

「……金に余裕もあるし、今月中に扇風機も用意するか。多分居間だけだもんな、空調が利くの」

 

 マリア達の家には空調しかない。当然と言えば当然なのだが、これまで彼女達からそれだけでは辛いと言われた事がないため失念していたのだ。

 

「お邪魔しまーす……」

 

 可能な限り音を殺すように引き戸を開け、また閉める。靴を脱いで廊下を歩きながらチラッと居間を覗く。

 そこには静かに眠る四人の寝顔がある。それに癒されながら仁志は台所へ顔を出した。

 

「マリア、おはよう」

「おはよう。えっと、聞いたとは思うけど」

「ああ、うん。今後は君へ甘えるのを自重する」

「……そう。えっと、でも、絶対にとは言わないから。私も、どうしても貴方に聞いて欲しい事が出来たら」

「うん、いいよ。俺にしか言えない事なら甘えじゃないさ。今まで俺達は他の誰かでもいい事をお互いだけに言い過ぎたんだ。それが、何だか心地良かったから」

「只野……ええ、そうね。私も、心地良かった」

 

 マリアの近くへ立ち、仁志は手にしていた袋から廃棄の菓子パンを取り出した。

 

「これ、君のだ」

「ありがとう。あの、ね? 一つだけ、貴方に聞きたいんだけど」

「俺に?」

 

 少しだけ頬を赤めてマリアは一旦火を止めてから仁志へ向き直った。

 

「仁志って、呼んでもいいかしら?」

 

 それは仁志にとって三人目となる呼び方変更の申し出だった。最初は響、次がクリス。しかもその二人以外はこれまで言い出してくる者がいなかった事だ。

 

「……構わない。むしろ嬉しいよ」

「そ、そう……」

 

 もう恋ではなく愛になった仁志は動揺する事なく受け入れ、まだ恋を抜けきらないマリアはやや動揺を見せる。

 

「タダノ、おはよう」

 

 そこへ姿を見せるのはヴェイグだった。彼なりにマリアと仁志のやり取りを聞いて終わるのを待っていたのである。

 

「おはようヴェイグ。いつもの、入れておくからな。それと、これも」

「おおっ、コーヒーじゃないか。どうした?」

「昨夜のお礼みたいなもんだ。クリスの拘束をここぞって時に解いてくれただろ?」

「ああ、あの事か。っと、そうだ。調の質問の答えは何なんだ?」

「ん~……翼がどうして訃堂の言いなりになったか、だよな……っと」

 

 冷蔵庫へシュークリームとコーヒーをしまい、仁志は扉を閉めるとヴェイグへ顔を向ける。

 

「ミラアルクって子がいるんだけど、その子の持つ能力にやられたんだ」

「能力?」

「簡単に言うと一種の暗示をかける事。ただその頃は、心が弱っていたり乱れていないと通用しない程度のものだけど」

「そう、そういう事だったのね。あの行為にはそういう意味もあったのか……」

 

 やっと合点がいったとばかりにマリアが呟く。翼の目の前で殺された少女。あれは翼の心を乱すための意味合いがあったのだとここで知ったのだ。

 

「で、そこからその暗示の主導権をミラアルクから訃堂が受け取り、電話を通じて翼の意識を制御下に置いたって感じだったかな? で、響達への不信感や自分へのふがいなさを煽って機を見て完全掌握」

「全てが繋がって納得出来たわ。何て男よ……」

「あの人は護国ってものに囚われた可哀想な人だからなぁ。国ってものの成り立ちを思い出せば、どれだけ自分が間違った事を言ってるか分かるはずなんだが……」

「国の成り立ち?」

 

 そういう事に縁遠いヴェイグが首を傾げた。彼には国などという枠組みは一度として関わった事のないものだったので仕方ない。

 仁志はそんなヴェイグの体を持ち上げるとテーブルへと静かに置いて椅子へと座る。

 

「国は人が集まって出来るんだ。つまり人がいてこその国だ。その訃堂って男は国ってものを守るために人を犠牲にするのを最初から受け入れてるんだ」

「……そうか。人が集まって国になるなら、守るべきは国じゃなくて人か」

「そういう事」

 

 マリアはそのやり取りを聞いて笑みを浮かべていた。そして理解したのだ。翼がどうして仁志へ心惹かれたのかを。

 

(どこか似てるのね、仁志は翼のパパさんに……)

 

 国という大きな括りではなく人というそれを作るものへ目を向けている。力で物事へあたるのではなく、出来る限り話し合いや知恵で何とかしようとする。

 それらはマリアが知る風鳴八紘に近いと言えたのだ。そして、そんな仁志を作ったのが彼が大好きなヒーロー作品なのだと彼女は察して小さく微笑む。

 

「あの頑固お祖父ちゃんにも、ヒーロー物を見せてあげた方がいいかもしれないわね」

 

 そんな事を呟きながらマリアは仁志とヴェイグの分を用意していく。そして、今までと違い彼女は自分の分も用意したのだ。

 

「あれ? マリアも食べるの?」

「ええ。駄目?」

「そんな事ないけど……」

「エル達と一緒に食べないのか?」

「……これからは、そうしようと思うの」

 

 真っ直ぐ仁志を見つめての言葉に込められた想い。それを彼は感じとり、優しく微笑むと頷いた。

 

「ヴェイグ、いいじゃないか。エル達はいつも最低三人で食べるんだし、マリアが食べなくても寂しくはないよ」

「……そうか。そうだな」

「じゃあ、食べましょう?」

「よし、手を合わせて……」

 

 仁志がヴェイグとマリアへ目を向けてその動きを確認し……

 

「「「いただきます」」」

 

 この日、仁志とマリアの間に一つの決め事が出来た。今後は仁志が食べる時にマリアが一緒に食べると言う事。

 それがどうしてかを知るのはヴェイグのみ。彼はそれを誰かに言う事はせず、セレナやエルフナインに尋ねられても「そういう気分になったんだろう」と返すのみだった。

 

 

 

 ちょっとだけ緊張する。目の前の古い感じのするドアはそんなに見慣れてはいない。

 でもこのまま立ち尽くすのも問題になる。そう思って私は意を決してドアをノックした。

 

「っは~い……」

 

 聞こえてきた声に小さく笑う。今の只野さんの声、少し寝惚けてた。多分だけど軽くお昼寝してたんだと思う。

 

「只野さん、私です。調です」

「ああっ、ごめんごめん。すぐ開けるよ」

 

 軽く笑いながら声をかけると、ちょっとだけ慌てた感じでこっちへ近付いてくる足音が聞こえた。

 ですぐにドアが開いて只野さんの姿が見える。心なしかいつもよりも服装から気が抜けてる感じがする。

 

「いらっしゃい」

「お邪魔します」

 

 そう、今日は私のお部屋デート。朝はアルバイトがあったからお昼からのデートだ。

 部屋の中に入ると風が通り抜ける。見れば窓が開いていた。

 

「只野さん」

「ん?」

「いつも窓って開けてるんですか?」

 

 多分私用に用意しているんだろうお茶をコップに注ぎながら、只野さんは私の疑問で顔を窓へ向けた。

 

「ああ、さすがにもう暑くなってきたからね。日中は窓を開けて凌いでるんだよ。それと扇風機」

 

 只野さんが指さした方を見るとそこには真新しい扇風機が首を振って動いてる。

 

「エアコンは使わないんですか?」

「うん、可能な限り使わないようにしてるんだ。今月は色々出費があったしね。まぁ今後の広告収入は上がりそうだからいいんだけどさ」

 

 若干苦笑する只野さんを見て私は思い出した。

 

 八月になる前にって、そう言って只野さんは私達の家へ扇風機を買ってくれて、その代金は動画配信からの収入だって言ってたっけ。

 実は遂に響さん達もギアの歌を動画として上げたらしくて、それもあってまたチャンネル登録者が増えたって只野さんが嬉しそうに言ってたのを思い出す。

 

「あの、只野さん」

「どうかした? はい、店で売ってる安い緑茶」

「ありがとうございます。あと、そうやって言わないでください。何だかちょっと嫌です」

 

 差し出されたコップを受け取ると、そこに描かれたのは可愛いクマの絵。何となく只野さんが選ぶ気がしない。

 

「これって……」

「ん? ああ、それはセレナが自分用にって選んだんだよ。どことなくヴェイグに似てるからって」

「納得です」

 

 セレナらしいと思った。言われて見ればたしかにちょっとヴェイグみたいに見える。

 そのまま私は只野さんと一緒にクッションが置かれてる場所まで移動する。

 座ると沈むような感じ。これ、あれだ。切ちゃんがヴェイグへ上げた奴だ。

 

「それで、俺に何を聞きたかったの?」

「あ、えっと、あれからああいうコメント増えてないんですか?」

 

 翼さんが未来さんと一緒に見つけたコメント。それは翼さんのギアを使った歌を聞いた事がある気がするって言うものだった。

 だから只野さんは私達のギアの歌も動画として配信した。それでもっとシンフォギアの事を覚えていた人達が思い出してくれるようにって。

 

「残念ながら。こうなると、やっぱりあれは勘違いをした人のものだったんだろうなぁ」

「そうですか。残念……」

 

 只野さんの予想じゃ、シンフォギアの事を元々知ってた人達が思い出してくれれば悪意のやろうとしてる事は不可能になるみたい。

 その理由は一度忘れたものを思い出させる事でその反動みたいなものが起きるんじゃないかって事みたい。

 

「でも、もしかしてがある。ならそれを信じて頑張るだけさ」

 

 そう言って笑みを見せる只野さんは、少しだけカッコよく見える。

 あの響さんとクリス先輩が操られた後から只野さんは、何となくだけど前よりも頼もしくなった。

 多分だけど響さん達の気持ちを全部受け止めるって決めたからだ。誰か一人を選べないから全員選ぶって、そういう風に。

 

 それを聞いて私は正直驚いた。だって普通は言わない。一人に決められないから全員なんて。そんな事を言えば嫌われる。

 でも、だからこそ只野さんは言ったんだと思った。思えば只野さんは絶対に週に一回はみんなで集まる時間を作ってた。

 自分が勤務だったり、あるいは勤務明けでも必ず。例え一時間や二時間でもみんなで集まって話す時間を。

 

「さて、じゃあ調とは何を話そうかな?」

 

 手にしたコップを置いて只野さんがそう言って腕を組んだ。思えば私と只野さんの二人でちゃんと話すのはお店以外じゃ初めてに近いかも。

 

「なら、教えて欲しい事があります」

「教えて欲しい事?」

 

 そう、ある時から私がずっと思ってきた事。これを教えてくれるとしたら只野さんしかいない。

 

「何で切ちゃんが師匠って呼んでるんですか?」

「あー……切歌は何も言ってないの?」

「聞いたんですけど、師匠は師匠だからってだけしか」

「うわぁ、切歌らしいなぁ」

 

 苦笑する只野さんに私も同意するように頷く。全然説明になってないよ切ちゃんって言ってるのに、その一点張りなんだもん。

 

「えっと、じゃあ説明するよ。その……」

 

 そこからの話は要約するとこれで終わる。

 只野さんがそう呼んで欲しいって言ったから。これにつきる。

 

「只野さんって、そう呼ばれた方が嬉しいんですか?」

「いや、あれはその場のノリと言うかテンションと言うか……」

 

 照れくさそうな只野さんに笑みが零れる。こういうところが切ちゃんが只野さんを大好きな理由なんだと思う。

 大人なのに子供みたい。子供みたいなのに大人を出来る。そんな只野さんだからみんな好きなんだ。

 

 ……そして、きっと私も。

 

「じゃ、他に呼ばれたい呼ばれ方ありますか?」

「え? 他?」

「はい」

 

 だって気付けばほとんどみんな只野さんの呼び方を変えてる。マリアは仁志って呼び捨てに、奏さんは仁志先輩だ。未来さんはまだ変えてないけどきっと時間の問題だと思うし、翼さんもきっとそう。

 そもそもあの家だと私だけが只野さんって他人行儀な呼び方だ。セレナはお兄ちゃん、エルは兄様で、切ちゃんは師匠だもん。

 

 だからちょっとだけ聞いてみようと思った。只野さんがどう呼ばれたいかを。

 

「そ、そうだなぁ……切歌が師匠だから……」

 

 言いながらどこか嬉しそうな只野さん。本当に年上に思えない。

 でも、お店で会う時の只野さんは立派な大人。私が質問すると分かり易く教えてくれるし、仕事に関する提案とかは時々データを見せてくれたりして一緒に考えてくれる。

 カップ麺の売り上げが上がったよって教えてくれた時、私は凄く嬉しかった。だからか、只野さんが私の権限を少しだけ上げてくれて売上の数字を見る事は出来るようにしてくれた。

 

――月読さんのモチベーションに繋げたり、今後の売り場作りに活かして欲しい。

 

 毎日来た時と帰る時にチェックして、退勤した後少しだけ残って売り場とにらめっこ。

 それが最近の私の日課。少しでもやった事の結果が出ると嬉しいし、もっと頑張ろうって思える。他のコンビニへ行くとまず見るのはカップ麺の売り場だ。

 

「じゃ、先生とか?」

「分かりました。じゃあ、先生? こんな感じでどうですか?」

「うわっ、何か背徳感があるな……」

 

 はいとくかん? ああ、背徳感かな。えっと、あまり良くない事、だよね?

 

「ふふっ、どうしたんですか先生? こう呼べって言ったの、先生じゃないですか」

「し、調? 何か変なスイッチ入った?」

「かもしれません。それで、どうするんですか先生。これでいきますか?」

 

 言ってて楽しくなってきた。気分的には眼鏡が欲しい。

 

「うーん……いいかもしれない。調は何となく出来る女って外見イメージがあるんだよ。だからそう呼んでると敏腕秘書みたいだ」

「出来る女? 敏腕秘書、ですか?」

 

 出来る女なんて初めて言われた。でもちょっと嬉しい。大人って事だから。

 

「そうそう。眼鏡をクイッと上げて、今日の予定はとか言いながらスケジュールを読み上げて欲しい」

 

 思わず顔が熱くなった。只野さんと私の中のイメージが一致しちゃった。でも眼鏡は今は手元にない。

 なら気分だけでもそうしてみよう。そう思って片手を眼鏡を直すみたいに動かした。

 

「それでは先生? 今日の予定ですが……」

「お~……」

「むっ、先生?」

 

 私がせっかく秘書やってるんだからちゃんと只野さんも先生になってもらわないと。

 

「えっと……ああっ! すまんすまん。調君が今日も綺麗で見惚れてしまったよ」

「そ、そういうお世辞は結構です」

 

 何となくだけど只野さんが肥ったおじさんみたいなイメージになった。あれかな? 政治家?

 

「あははっ、うん、凄くらしいよ。調、ありがとう」

「い、いえ、私もちょっとだけ楽しかったです」

 

 少し恥ずかしいけど、嬉しい事もあった。只野さんが私を可愛いじゃなくて綺麗って言ってくれた事。

 可愛いだと子供っぽいけど綺麗は大人だ。私、今でも只野さんには大人に見えてるのかな?

 

「あの、只野さん」

「何だい?」

「私、大人に見えますか?」

 

 そう聞くと只野さんは少しだけ苦笑した。

 

「調、君にとって大人ってどういう存在?」

「え?」

 

 思ってもみなかった返しが来た。大人ってどういう存在、か……。

 

「マムや司令、あとはマリアみたいな感じです」

「それじゃまだ足りない。もっと細かく考えてごらん」

「細かく?」

「そう。例えば何があっても狼狽えないとか、あるいは誰よりも率先して嫌がる事が出来るとか」

 

 挙げられた例えに浮かぶのは司令やマリア、翼さん。でも、私が思う大人ってそういう事なんだろうか?

 やっぱり司令が大人の代表格みたいな気がする。

 

「司令、みたいな人かもしれません」

「成程、風鳴弦十郎さんか。たしかに大人だと思う。でも、それは男性としての大人じゃないか? 女性としての大人の目標が弦十郎さんでいい?」

 

 そう言われるとちょっと迷う。私には司令みたいになれる要素が少ない。そもそもギアもなくてどうやって私達と戦って勝てるのかが分からないし。

 

「なら、マムです」

「ああ、成程ね。物静かで厳しくも優しい女性かぁ」

「はい。私の理想の大人はマムです」

 

 言われて凄くしっくりきた。物静かで厳しくも優しい。私の中の大人のイメージピッタリだ。

 

「じゃ、調はそれを自分なりに目指すんだな?」

「自分なりに?」

 

 マムみたいになろうとするのは駄目って事なんだろうか?

 

「えっと、物静かで厳しさも優しさもある女性を調らしく目指して欲しいって事。ナスターシャ教授の真似じゃなくてね」

「真似じゃなくて……私らしく……」

「うん。君のままで変わればいい」

 

 そう言って只野さんはちょっとだけ照れくさそうに笑う。これは、多分そういう事だ。

 

「只野さん、今の、何のヒーローですか?」

「……やっぱり分かる?」

「はい、分かります」

 

 だって只野さんって何か元ネタ?がある時は今みたいな顔する事が多いから。

 

「仮面ライダーアギト。クウガが未確認との戦いを終えた後の時代の仮面ライダーのOPにある歌詞」

「アギト……」

「そっちもある意味でヒーロー物らしいかもしれない。最終的には人対神なんだ」

「神様?」

「そう。文字通り人類を生み出した存在が最後に立ちはだかるんだ」

 

 凄く気になる。只野さんのこういう話は本当に興味を引く。

 そこから私は只野さんからアギトの話を教えてもらう事に。クウガは只野さんが持ってる物だからゆっくり見れるけど、切ちゃんがレンタルってなるとお金と時間の融通が利かないから毎晩見る事になる。

 そうなると翌朝のバイトがちょっと大変。早起き、辛い。ガガガを見てる時がそうだった。特に四天王戦は次が気になって仕方なかった。

 

「ライダーが三人もいて、人間みんなにアギトになる可能性がある……」

「そう。そう考えるとアギトの世界は誰もがみなヒーローになれるを地でいってるんだなぁ」

「でも、突然変身能力が手に入ったら困ります」

「それだけじゃなくて周囲との軋轢なんかもあるからね。実際終盤その辺りを描くんだよ」

「重たい感じがします……」

「ライダーはどうしてもそういう面を描く事になるからなぁ」

 

 只野さんはそう言いながらどこか楽しそうだ。やっぱりこういう話をしてる時の只野さんはイキイキしてる。それがどこか可愛い。

 

「そういえば調は料理漫画に興味があったよね?」

「え? はい」

 

 急に聞かれた事に反射的に頷いた。実際只野さんに教えてもらったお料理漫画は読んでて楽しいし参考になる。

 一度試しにってお休みの日に作った時はみんなして美味しいって喜んでくれたっけ。もし可能なら将来はお料理を専門に勉強してみたいかも。

 

「じゃ、古いものだけど面白い漫画を教えるよ。今から出かけよう」

「出かけるんですか?」

「そ。ネカフェへ行こう」

 

 思わぬ展開にビックリ。でも、デートみたいな事を見られたら問題って言ってた只野さんから誘ってくれたのが嬉しくて気が付いたら私は頷いてた。

 

「はい!」

 

 駅前を目指して二人で歩く。何度か見た事はあるけど入った事はないそこへ只野さんと二人で入る。

 

「えっと、調、二時間ぐらいでいいか?」

「うん」

 

 只野さんの問いかけに頷く。只野さんがとりあえずここでは敬語なしでと言ってくれたからだ。

 多分だけど何も知らない人が見たら兄妹に見えるからかもしれない。髪色一緒ってこういう時便利。

 

「こっちだ」

「うん」

 

 何だか新鮮。只野さん相手に敬語なしもそうだけど、初めてネットカフェなんて来た。

 思わずキョロキョロしてると只野さんに見られて小さく笑われた。ちょっとだけ恥ずかしい。

 

「さて、ここはまぁ見ての通り大きなソファやモニターにPCがあるだけなんだけど」

「うん」

「ネットゲームとか時間内ならやり放題。で、ついでに漫画も読み放題。更にソフトドリンクも飲み放題」

「凄い……」

 

 切ちゃんが知ったら通うかも。今だとエルやセレナもかな? 三人で漫画を読み漁ると思う。

 

「と言う訳で、目当ての漫画を探しに行こうか」

「あ、うん!」

 

 まるで只野さんがお兄さんになったみたい。ううん、お兄さんだ。今の私にとって、只野さんは色んな事を教えてくれて、大人扱いしてくれる親戚のお兄さん。

 

 二人でしばらく本棚を見て回る。と、只野さんが嬉しそうな顔をして一冊の漫画を手に取った。

 

「これこれ。はい、どうぞ」

 

 差し出されたのは……ミスター味っ子?

 

「俺もリアルタイムで見た事はないんだけど、アニメ化もされたやつだ。とりあえず五巻まで持って戻ろうか」

「えっと……これで五巻までかな?」

「よし、なら六巻から十巻までは俺が」

「え?」

 

 五巻までってそう言ったのに。そう思って只野さんを見上げると、只野さんは私を見て楽しそうに笑ってこう言った。

 

「俺も読みたいんだよ。調と同じ漫画をさ」

 

 その言葉と笑顔にちょっとだけ顔が熱くなる。だから顔を見られないように先に歩き出した。

 

「お、おい、どうしたんだ?」

「は、早く読みたいんです」

 

 そう言って誤魔化すと只野さんは納得したみたいで何も言わなくなった。でも、少しだけ早足で歩いて隣へと並ぶ。

 

「また漫画飯、作ってくれるか?」

「機会があれば、やってみます」

「頼むよ。いやぁ、まさか本当に漫画のレシピを見て作っちゃうとか驚いたもんな」

「マリアに負けないようにお料理頑張りたいんです」

「成程ね。じゃ、将来はコックさん?」

 

 まさかの言葉に私は足を止める。すると只野さんも足を止めてくれた。

 

「……そうなったら、只野さん、私のお料理食べに来てくれますか?」

「勿論。というか、可能なら試食役に立候補したいぐらいだ」

「じゃあ、お願いします。切ちゃんだと余程じゃない限り美味しいって言ってくれそうだし」

「どうだろ? 俺も似たようなもんかもしれないぞ。それに調の料理は美味しいからな」

「っ!?」

 

 そう言って只野さんはゆっくりと歩き出した。私はその背中を少しだけ見つめて、ハッとなって追い駆ける。

 何だろう? 今の言葉、とっても嬉しかった。それに、何となくだけど旦那さんみたい。

 もしかしてマリアがお料理頑張るようになったのって、こういう事なのかな? 只野さんやエル達にこうやって褒められて嬉しくなったのかもしれない。

 

 だって、今の私はそうだから。只野さんにもっと美味しいって言ってもらいたい。驚いたり喜んだりする顔が見たい。

 

 二人で部屋へ戻って漫画を一旦置いて飲み物を取りに行く。お味噌汁なんかもあってビックリしてると、まさかのソフトクリームまで食べ放題。

 ここは天国かもしれない。でも切ちゃんには教えるかどうか迷う。切ちゃん、こっちでもお金がお金がってよく言ってるし。

 

「っと、じゃあしばらく読書タイムだ」

「はい」

 

 隣り合ってソファに座って漫画を読み始める。

 ミスター味っ子こと主人公の陽一君はお父さんの跡を継いで食堂を切り盛りしてる男の子。お母さんと二人でやってる小さな食堂へ、味王ってお爺さんが来た事で物語は始まった。

 

「……美味しそう」

 

 二度揚げのカツ丼、思わず唾を飲んじゃう。色がないけどきっと綺麗なキツネ色だ。

 カツ丼、か。お家じゃ中々難しいけど、出来ない事もない、かな? うん、今度のお休みにやってみよう。

 

 そんな事を思いながら読んでるとあっという間に五巻を読み終わる。

 

「只野さん」

「ん?」

「六巻、貸してください」

「いいよ。それ以降の読み終わった奴もテーブルの上に置いていくから勝手に読んで」

「はい」

 

 何だか本当に兄妹になったみたい。お兄さんの部屋へ来て漫画を読んでる気分。

 そこでふと只野さんの読んでる時の顔が気になった。チラリと見てみると意外と真剣な顔で漫画を読んでる。

 

 で、チラリとこっちを見た。

 

「どうかした?」

 

 不思議そうに問いかけられるけど、私は小さく笑ってこう返した。

 

「何でもないです」

「そう? まぁならいいけどさ、これ、読んでるとお腹空いてこないか?」

「ですね。お昼食べたのに食べたくなります」

「おっ、調も? じゃ、二人で何か一緒に食べて帰ろう」

「じゃあカツ丼がいいです」

 

 そう言うと只野さんは一瞬驚いた顔をしてから何かに気付いて苦笑した。

 

「いいけど多分二度揚げじゃないと思うぞ」

「いいんです。お腹がカツ丼になってるんですから」

「そう? カレーも惹かれてない?」

「……パイナップルで出来たお皿のカレーなら」

「ははっ、そりゃ俺も食べたい。うん、じゃあカツ丼だな?」

「はい」

 

 その後は会話はなかった。二人で無言で漫画を読み続けたから。

 一度続きを取りに行くと只野さんはそこから違う漫画を読むって言って別行動。私は鍵を受け取って続きを持って部屋へ戻る。

 先に戻って読んでいると只野さんが嬉しそうな顔で戻ってきた。チラっと見たら、仮面ライダーの文字。

 

「只野さん、それって」

「ん? ああ、これ? これはみんなへ誕生日プレゼントはこれにしてって頼んだ漫画の続き。それの読んでなかった巻から読もうと思ってさ」

 

 表紙には新・仮面ライダーSPIRITSって書いてある。そういえば新がない方って言ってた。

 

「誕生日会、いよいよ明日ですね」

「嬉しいやら怖いやら複雑だよ。まさか約二か月遅れで祝われる事になるとは」

「誰のせいですか?」

「ゴルゴムの仕業だ」

「違います」

 

 すぐに否定すると只野さんが小さく苦笑した。

 

「ごめんごめん。今のは良くある特オタネタなんだ。つい言えると思って使っちゃった」

「そういう事ですか。只野さん、気を付けてくださいね。これ、切ちゃんやエルならどういう事かって聞いてきますから」

「むしろそれならこれ以外の定型文も教えて覚えてもらって」

「只野さん?」

 

 ちょっとだけ目を細めて見つめる。切ちゃんとエルへの只野さんの影響力は凄いからだ。

 ううん、それだけじゃない。只野さんの薦めるものは私達の心に響く。あったかくなるメッセージや想い。共感出来る考えや叫び。それが沢山詰まってるから私達までもそれに影響されちゃう。

 

 嫌じゃないけど。

 

「じょ、冗談だよ。下手に切歌やエルを特撮に染めすぎるのもどうかと思わないでもないしね」

「もう手遅れな気もしますけど?」

「…………本当に申し訳ない」

 

 がっくりと肩を落とす只野さんを見て思わず笑う。だって、まるでマリアに叱られた時の切ちゃんみたいだったから。

 そんな風に笑う私を見て只野さんが優しく笑みを見せた。その笑顔に思わず息を呑む。

 

「調がそこまで笑うなんて珍しいな。そんなにさっきの俺は情けなかった?」

「っ……は、はい。でも、只野さんらしいです」

「俺らしい、かぁ。否定し辛いのが何とも……」

「クスっ、そんな只野さんでも私は好きですよ?」

「それはありがとう。俺も調の事は好きだから一緒だな」

 

 さらりと告げられた言葉に私は只野さんを見つめた。只野さんは笑顔で私を見つめてた。

 

「だから特別な呼び方とかしなくてもいいよ」

「ぇ……?」

 

 言われた言葉に私は耳を疑った。只野さんはそんな私へ笑みを浮かべたまま漫画を膝へ置いた。

 

「切歌が師匠って呼んでるし、エルは兄様、セレナはお兄ちゃん。そこへ来てのマリアが仁志だ。自分も呼び方を変えた方がいいんじゃないかって、そう思ってくれたんだよな?」

 

 その問いかけに小さく頷くと、只野さんが苦笑して頭へそっと手を乗せた。

 

「ありがとう。でも、別にいいんだ。俺は呼び方を変えられても変えられなくても気にしないよ。調が呼びたいように呼んでくれればいいから」

「只野さん……」

 

 私を優しく見つめる人の手は、思っていたよりも大きくて、そして少しだけごつごつしてた。

 それが只野さんも男の人なんだって強く思い出させてくれて、同時にあのプールでの出来事を思い出す。

 

「……じゃあ、仁志さんって呼んでもいいですか?」

 

 私の問いかけに只野さんは少し驚いてから苦笑して……

 

「ご自由に」

 

 って、そう言った。うん、ならそう呼ぼう。私の好きな、子供のようで大人なお兄さん。一緒にいると楽しい親戚のお兄さんってそういう親しみを込めて。

 

「じゃあそう呼ぶね仁志さん」

「おっ、完全に敬語を取る感じ?」

「当然。親戚みたいな仁志さんへ敬語なんて使うのは変」

「おっといきなりの変わり様だな。じゃ、店では切り換え?」

「うん。店長さんだから」

「それならいいよ。公私のけじめはちゃんとつけないとな」

 

 そう言って二人で笑顔を見せ合う。切ちゃんが師匠って呼び方を変えてから只野さんとどんどん親しくなったの、分かる気がする。

 だって今、私はさっきよりも只野さんと、ううん仁志さんと仲良くなった気がしてるから。

 

 その後は二人で漫画を時間まで読んで、そこからファミレスへ入ってカツ丼とホットケーキを頼んで二人で分け合った。

 

――あっ、仁志さんズルい。カツ一切れ多く食べた。

――そういう調もバニラアイス全部食べてるじゃないか。はい、交換。

 

 何だか本当に兄妹みたいで楽しかった。食べ終わった後は家まで仁志さんに送ってもらって一旦お別れ。

 

――腹ごなしを兼ねてちょっと散歩してくるよ。また後でな。

 

 そう言ってふら~っと仁志さんは私の前から去った。

 心なしか仁志さんの口調が私に対しても砕けた気がする。何だろう? それが嬉しく思えた。

 家へ入って手を洗ってから居間へ行くとエル達が誕生日会の打ち合わせをしてた。だから私も参加する事に。

 

――仁志さんのためにケーキ、作らないといけないね。甘いのが好きなのは今日の事で分かったし……。

 

 スポンジは市販で何とかするとして、飾り付けぐらいは自力でやろう。みんなで集まってお祝いするんだ。マリアにも言ってフルーツ、奮発しないとね。

 

 

 

「何か、俺の呼び方を変えるのが流行ってるみたいでくすぐったいなぁ」

 

 翌日に迫った自身の誕生日会。生まれて初めての事にどうすればいいか分からず、それでも今はその事で切歌達が打ち合わせ中だろうと踏んだ仁志は散歩と称して時間つぶしをしていた。

 部屋に一旦帰る事も考えたのだが、どうせまた出なければならないのならと、そう考え直してこうしてフラフラしているのである。

 

「ん? あれは……」

 

 そんな時、前方から向かって来る相手に気付いて仁志は足を止めた。

 

「翼?」

「只野さん……?」

 

 それはやや物鬱げな表情で歩く翼だった。

 翼も仁志の存在にそこで気付いたらしくどこかぼんやりとした顔を彼へ向けた。

 

「どうしたんだ? 散歩?」

「……そんなようなものです」

 

 どことなく声に力が無い。そう感じた仁志はどうしたんだろうと翼へと歩み寄る。

 

「何かあったのか? 元気がないみたいだけど……」

「その、奏とケンカをしてしまって……」

 

 そこから翼が語ったのは、ある意味でよくあるケンカの一部始終だった。切っ掛けは奏が翼の買ったアイスを食べてしまったという可愛いもの。だが当然それに気付いた翼が文句を言うと、奏がいつもの調子で軽く謝った。

 普段であればそこで翼がため息を吐いて終わる話だった。しかしどうしても翼にはその態度が気に入らなかったのだ。

 

――私のものを勝手に盗ってその態度は何?

 

 気付けばそう口から出ていたのである。そこからは少しずつではあるが揉め始め、未来がアルバイトでいなかった事もあってかヒートアップ。

 結果、翼は奏へ「もういいっ! 自分で買ってくるっ! 奏のバカっ!」と言い放って部屋を出て来たと、そういう訳だった。

 

「あー、成程なぁ。共同生活あるあるだ」

「はい……」

 

 沈んでいる翼の様子を見て仁志は苦笑すると彼女の手を握った。

 

「え?」

「俺、今散歩中なんだ。もし良かったら付き合ってくれないか?」

 

 握られた手を少し見て、翼は儚げな感じに笑みを浮かべて頷いた。

 

 手を引っ張られる形で仁志が翼を連れて来たのはいつか未来と立ち寄った飲み物の自動販売機だった。

 

「とりあえず何か飲む? 俺の奢りだ」

「じゃあ……スポーツドリンクを」

「ん」

 

 ガタンと音がして青い色のラベルが貼られたペットボトルが取り出し口へ転がり落ちる。それを取り出して仁志は翼へ差し出した。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして。それにしても、思い出すよなぁ」

「何を、ですか?」

 

 仁志の言葉に疑問符を浮かべつつ翼はペットボトルのキャップを開ける。小さく外れる音がして、そのまま翼はキャップを取った。

 

「ほら、俺達も少しだけ四人暮らししてたじゃないか。その時にあっただろ? シュークリームで」

「……ああ」

 

 翼の脳裏に甦るもう数か月前となった思い出。

 クリスが取っておいたシュークリームを響が廃棄でもってきた物と勘違いして食べてしまった事があったのだ。

 

――お前っ! あれはあたしんだぞ!

――ご、ごめん! てっきり只野さんが廃棄でもらってきてくれた残りかなって……。

――まぁまぁ。よし、じゃあこれからは名前を書こう。それならこういう事は防げるだろ?

 

 そこから冷蔵庫上に黒のサインペンが置かれる事になったのだ。

 

「……結局あまり使われませんでしたね」

「まぁ用意したのが引っ越しの三日前だからなぁ」

「今思えば、あれも立花だからやってしまった気がします」

「だろうね。クリスや翼はそこまで食い意地張ってないし」

 

 その言い方に翼は小さく笑った。響の事を食いしん坊と思っているのは分からないでもないが、それを食い意地が張っていると評すると印象が悪いと思ったのだ。

 

「ふふっ、それでは立花が餓鬼みたいです」

「いやいや、食べ物絡みの響はその傾向あると思うよ。クリスも結構食べ物にはうるさいしさ」

「そういえば栄養バランスや彩などをよく考えていました。本当に……」

 

 懐かしいと、そう言いそうになって翼は口を閉じた。

 まだ響とクリスが自分達と離れて三か月も経っていない。それなのに懐かしいはないだろうと思って。

 

「翼、多分だけど焦らない方がいい」

 

 そこへ告げられた仁志の言葉に翼はハッとなった。視線の先に見える仁志の顔は優しく微笑んでいる。

 

「焦りも悪意につけ込まれる要因になる。その、あまり言いたくないけど君は一度それを利用されて訃堂さんの人形にされてしまっただろ?」

「……はい」

「だから焦っちゃダメだ。特に君は年長にあたる。なら焦るのは響達後輩組じゃないと。君はむしろ焦らないといけない時程落ち着いて、冷静にみんなを導くんだ」

「焦らなければならない時ほど……冷静に」

「えっと、俺の好きなゲームの言葉なんだけど、ピンチの時ほどふてぶてしく笑うんだ。相手に余裕がないと思わせちゃいけないよ」

「ピンチの時ほどふてぶてしく笑う、ですか……」

 

 翼の中にあった焦りや不安、そして何より怒りが和らいでいく。過去の失態と同じ愚を繰り返すのかと自問したためだ。

 

(私は、何と成長のない事をしようとしていたのだ。お父様を失った遠因がそこにあると言うのに……)

 

 今もまだ胸を締め付ける記憶。だけど、それを辛いだけのものにはもうしないと翼は決めたのだ。

 

「只野さん、ありがとうございます。私は、どうやらまた呪縛にかけられていたようです」

「そっか」

「はい。悪意を警戒するあまり、周囲や自分を信じる気持ちを忘れかけていました」

 

 二度とあんな思いはしたくない。最愛の人を失う悲しみと苦しみは、繰り返したくない。そう強く思って翼は笑みを浮かべた。

 

「やはり私は貴方の前だと素直になれるのかもしれません。ただの歌が好きな女に、ただの翼に戻れるんです」

「そ、そっか……」

 

 翼が微笑みながら告げた言葉に何故か狼狽える仁志。その理由が分からず小首を傾げる翼へ、彼はやや苦笑しながら答えた。

 

「いや、今、ただの翼って言っただろ? まるで俺の奥さんみたいな名乗りだなってさ」

「っ?!」

 

 その瞬間翼の顔が真っ赤に変わる。

 

(た、ただの翼……。な、成程、只野翼、か……。ああっ、そう考えると急に恥ずかしくなってきた……っ!)

 

 顔の熱を冷やすように手にしていたペットボトルを頬へ当てる翼。その姿を見て仁志が小さく笑みを浮かべた。

 もう大丈夫だと思ったのだ。何故なら今の翼の顔には暗い影のようなものが欠片として見えなかったのだから。

 

「じゃ、スーパーにでも行こうか」

「え?」

「アイス、買うって言って出て来たんだろ? ついでに奏にも何か買って仲直りだ。きっと今頃奏も部屋で反省してる頃だよ」

「……はいっ!」

 

 ペットボトルのキャップを閉め、翼は仁志と並んで歩き出す。

 その姿を上空から見つめる不気味な影のようなものがあった。

 

――忌々しいっ! 根付く前に取り除かれたか……。まぁいいわ。今の装者達には付け込む隙なんていくらでも作れるもの。あははっ……あははははっ!




同じ失敗は繰り返さないのが翼。しかもそれが愛する父を失う流れを生み出したのなら当然です。

次回は二か月遅れの誕生日会がメインになる予定。
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