シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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遂に悪意がノイズ召喚まで出来るようになりました。
ただし一体、それもゲートを経由しないと不可能と、中々制約が多いです。

そしてまた新たになったある事実。時間停止は悪意の仕業かそれとも……?


Exterminate

「タダノっ! ダメだっ! お前が死んだらセレナ達がっ!」

「だからって友達を見捨てられるかっ!」

 

 一番近くにいた俺はヴェイグを守るようにノイズの前へ立つ。正直怖い。ノイズがどういう存在かを知っているから。

 俺がもし死ねば、響達も消えるかもしれない。だけど、だからって目の前で親しくなった相手が死ぬかもしれないのに見てるだけなんてしたくないんだっ!

 

 ノイズの手がこっち――じゃなくてヴェイグへと伸びる。こいつっ! どこまでもヴェイグをっ!

 

「やめろっ!」

 

 そう心の底から叫んだ時、何故かノイズの動きが止まる。そのあまりの事に俺だけでなくきっとみんなも動揺したと思う。

 

「あっ!? 依り代がっ!」

 

 そんな中でエルの声が聞こえた。視線を動かせば、何故か俺の方へスマホが飛んできていた。

 それが手の中へ納まると同時に強い力でノイズへとその手を動かされる。

 

「な、何だってんだっ!?」

 

 まるでスマホをノイズへ突き出すような形となったその時、不思議な事が起こった。

 

「「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」」

 

 スマホが光ったかと思うとノイズがその場で炭化したのだ。何となくだけど、妙な力場のようなものが展開された気がする。

 多分だけどそれに触れてノイズは炭化したんだ。ただ、どういう原理かは分からないので、恐る恐る確認作業を始めた。

 

 そしてどこも異常がない事を確認してある事に気付く。

 

「……バッテリーが減ってる」

 

 いつかの弦十郎さん達へ使用した時と同じぐらいバッテリー残量が減っていた。

 ならばと次は振動した事から着信していたのではと履歴を探る。だが着信履歴には非通知としか残っておらず、誰からなのかまたはどこからかの手がかりを得る事は出来なかった。

 

「仁志さんっ!」

「仁志っ!」

「っと」

 

 一人で首を傾げていると響とクリスに抱き着かれる。

 おうっ、柔らかくていい匂いがしてくる。これは不味い。でも幸せ。

 

「ふ、二人共嬉しいけど離れてくれ。その、あたってるから……」

「「っ!?」」

 

 弾かれるように離れる二人を見て、やっぱりあの時の二人は悪意に操られていたと分かった。

 でも、正直言えば今のように恥じらいが強い方が可愛くて色々不味いんだよなぁ。

 

「兄様ぁ!」

「お兄ちゃんっ!」

 

 で、今度はエルとセレナ。二人を抱き止めて感謝を伝えるようにそっと背中を叩く。

 

「ごめんな、心配させて。この通り俺もヴェイグも無事だから」

「まったく……貴方らしいと言えばらしいけど……」

「こっちの気持ちも考えてくれよ、仁志先輩」

 

 マリアと奏の言葉には反論もない。でも、二人も安堵するように笑みを浮かべてくれていて、それがこっちの心を軽くしてくれた。

 

「只野さん、生きた心地がしませんでした。以後気を付けてください」

「同じ事が起きてもいいように私達も気を付けますから」

「ああ、分かってる。その、ごめんな」

 

 翼と未来も若干泣きそうな顔をしていた。

 多分だけど最悪を想像してしまったんだろう。

 無理もない。俺も正直死を覚悟した。

 

「ししょぉ、本気で怖かったデスよぉ……」

「仁志さん、お願いですからもっと自分を大事にしてください」

「切歌、ごめん。調もすまない。でも、あの時はああするしかなかったんだ」

 

 涙ぐんでる切歌と心から安堵している調へ言葉をかける。

 本当に、さっきはヤバかった。ノイズが躊躇したような反応を見せたし、最後なんて何故か停止したけど、あれはどういう事なんだ?

 

 ……俺を殺すか否かを迷ったんだろうか。

 だとすれば、それはやっぱり俺を使ってみんなへ復讐しようとしているからだろう。

 でも最終的に狙っていたのはやっぱりヴェイグだった。それなのに何故停止したんだろうか? 何が狙いなんだ、悪意は。

 

「タダノ、さっきは助かった」

 

 そして後ろから聞こえてきた声を顔を動かす。そこには怪我一つないヴェイグがいた。

 

「良かったよ。お互い生き延びられて」

「……ああ」

 

 ヴェイグが頷いてくれたと同じぐらいでエルとセレナが俺から離れる。

 そして俺はゲートへと目を向けた。

 

「……みんな、聞いて欲しい事がある。さっきのスマホの振動は非通知からの着信だった。これをどう思う?」

「間違いなく依り代をこちらへ与えてくれた存在からのアラートでしょう。通知音では緊急性が伝わらないと思ったんじゃないかしら?」

「あたしもその意見に賛成。実際、それがなかったらヤバかったよ、今の」

「まさか悪意がゲートを使ってノイズを送り込んでくるとは……」

 

 気付けば響達はギアを纏ってゲート付近を警戒するように位置取っていた。

 俺はエルとヴェイグと共に響と翼に守られるような感じになっている。

 

「兄様、このバッテリーの消耗は……」

「多分だけどさっきの現象のせいだろうな。ノイズの消去ってとこか……」

「平行世界も渡れるし、こいつは凄いな」

 

 戦闘能力がないに等しい俺達はスマホを見つめて話し合いを始めていた。

 力が無いなら知恵で対応だ。というか、今は少しでもいいから話していたい。

 

「……なぁエル。この依り代ってさ」

「はい」

「様々な厄介事への対処能力を持ってる。つまりトラブルキャンセラーって感じじゃないだろうか?」

「…………有り得ます。ただ、そのためにはかなりのエネルギーを消費するみたいです」

「ああ、ノイズへの発動や止められた時間の中で弦十郎さん達の意識を動かすみたいなのは、な」

 

 逆を言えばバッテリーさえあればそれらの事も容易に可能とする事でもある。

 そう考えていると、エルが意を決したように頷いてスマホを手にするとこっちへ差し出してきた。

 

「エル?」

「これは、もう兄様が持っていてください。僕はこの家に基本います。なら、姉様のギアペンダントで行動可能です」

「でも……」

「それに姉さん達もいます。僕が一人で出歩く事はありませんから」

 

 その優しい笑顔に込められた想いを感じ取り、俺は深く頷くとスマホを手に取った。

 心なしかスマホが以前よりも重く感じる。エルの想いと信頼が込められたからだろうな。

 

「ありがとうエル。じゃあ、たしかにこれ、返してもらうな」

「はい」

「で、明日にもエル用のスマホ、契約してくるよ」

「え?」

 

 どうしてと不思議そうな顔をするエルへ俺は優しく微笑むとその頭をそっと撫でる。

 

「この家との連絡手段がなくなるのは困るだろ? いつもここにいるのがエルなら、マリア達との通信役、してもらわないとな」

「……はいっ!」

 

 今のエルにはちゃんとした仕事があるんだ。そう思っての言葉にエルは嬉しそうに頷いてくれた。

 それを見て響達が優しく微笑む。良かった。やっと空気があの恐ろしい出来事の影響から脱したな。

 

「でもいいの? お金、かかるでしょ?」

「幸いみんなのおかげである種の不労所得は得られているからね。スマホの一台ぐらい平気だよ」

「ですが、そろそろ各個人へ連絡手段が欲しいところではありますね」

「だね。バイトとかの居場所が分かってる時はいいけど……」

「私や未来は二人で出かけたりとか、クリスちゃんも一緒にとかありますからね」

「そうだな。なぁ仁志、あたしらどっちかも連絡手段欲しいぞ」

「あー……じゃあ二台追加で契約か」

 

 新しく購入した物を店や両親との連絡先に設定し直しているため、それを響かクリスへ譲渡する訳にはいかない。

 エルから返してもらったスマホを再度そういう用途へ設定してもいいんだけど、もしステータス画面を操作しなければならない時にそれらから連絡が入った場合を考えると不味いと思うし。

 

「いっそあたしは自分のバイト代で支払うよ?」

「いや、それには及ばないよ。奏には動画で収益を上げてもらっているから」

 

 と、そこであの事を思い出す。

 

「そうだ。ドライディーヴァにお願いがある。ギアを纏って三人の胸の歌を生み出してくれないか? もしかしたらそれで今度こそ変化が起こせるかもしれない」

 

 あの胸の歌のプレゼントを聞いていた時に思ったアイディアをマリア達へ打ち明けた。

 

「ギアを纏って……」

「三人で、か……」

「やってみてもいいと思う。只野さん、いっその事以前のRADIANT FORCEも私が立花と雪音の三人で歌い直しましょうか?」

「それはいい。そうしてくれると助かるよ。収益的な面でも」

「仁志さぁん……」

「ったく、仕方ねーけど口に出すなよな」

「ふふっ、只野さんらしいよね」

 

 未来の言葉にやや苦い顔で頭を掻く。それでも俺にとっては重要な事なのだ。

 

「お金の事を考えるのは勘弁してくれよ。後、全員に連絡手段なんて、組織ならともかく一個人で出来る範疇を越えてるんだ。俺が大財閥の御曹司とかなら話は別なんだけどね」

「えっと、その場合は兄様がAIで動くロボットと一緒になって戦うんですか?」

 

 そのエルの言葉にみんなが首を傾げた。

 まぁ分からないだろうから仕方ない。マイトガインはエルとしか話をした事ないし。

 

「それはいいなぁ。あの決め台詞を言えるとかテンション上がるよ」

「決め台詞? ししょー、何の話デス?」

「えっと、マイトガインって言う勇者シリーズの事」

「「「「「「「「「「勇者シリーズ?」」」」」」」」」」

 

 また謎の単語が出て来たとそう響達は思ったんだろうけど、その後の反応はもう慣れたものだ。すぐに俺の趣味のヒーロー物だと察したのである。

 そうと決まれば切歌が話を聞きたがるのも定番の流れと言えた。ホント、可愛い弟子を持ちました。

 

「ししょーししょー、早く早くデス!」

「はいはい。っと、そうだ。奏、ノーパソを閉じてくれるか? 多分だけどそれで悪意がやってる事と同じ事が出来ると思う」

「そっか。よし」

 

 言われて奏がノートPCを閉じる。するとみんなが一様に妙な反応を見せた。

 

「何? 急に空気が……」

「何だか澄んだ感じがするよ、姉さん」

「うん、とても心地いい」

「デスデス」

「へ?」

 

 何を言ってるんだ? そう思うけどマリア達の雰囲気からすると冗談ではないらしい。

 

「たしかにそんな気がするな」

「ああ。何だろね、これ」

「ゲートを閉じたから、ですかね?」

「だとすると、ゲートから悪意の力が流れてた、とか?」

「あり得るな。あの厄介さだ。その力でこの世界の空気を淀ませてたんじゃねーか?」

 

 翼達までマリア達の意見を後押しする程だった。つまり、本当に空気が変わったって事か。

 今一つ理解出来ないから近くのエルとヴェイグへ目を向けた。

 

「二人も同意見?」

「ああ、そうだな。今は少しだけこの世界の匂いが分かる」

「はい。僕も心なしか空気が変わったと思います」

「そうか……」

 

 なんで俺だけ分からないんだろうか。だがみんなの意見を聞いて、クリスの言葉の通りなのではないかと考えた。

 

 ゲートは平行世界と繋がってる。そこからの空気みたいなのが流れてきていてもおかしくない。

 ん? 待てよ? もしそうだとするなら空気を淀ませていたのは何だ? 間違いなく悪意だ。正確にはその波動や影響力かもしれない。

 

 じゃあ、響達に敗れた悪意が再び動き出した時、まずどこでその復活は遂げられたのか。次はそれを考えよう。

 

 もしそれがギャラルホルン内だと仮定すれば、ゲートが常に開き続けていた事で世界の空気が悪くなっていた事の説明はつく。

 そしてそこから考えて行けば、平行世界の時間が停止した事が別の意味を持ってくるな。

 

「エル、意見を聞かせてくれ」

「はい。何ですか?」

 

 これ、もしかしてまた新しい発想の切っ掛けになるかもしれない。

 

「ゲートから悪意の力の余波のようなものが流れていたとして、それが他の世界にも起きていたとすればだ。あの時間停止は悪意の仕業じゃないかもしれないと思うんだが、どうだ?」

「ど、どういう意味でしょうか?」

「悪意の力の余波で空気が淀んでいたとする。でもそれに俺は気付いていなかったし、今も分からない。これがその世界の住人には分からないようになってると仮定すると、あの時間停止はその余波から世界を守るためと言えないか?」

「…………そういう事ですか」

 

 理解出来たと言うようにエルは小さく頷いてくれた。

 そして響達へ分かり易いように説明を始めたのだ。

 それを聞きながら俺は思う。また一度状況を整理して考えてみる必要があるのかもしれない、と……。

 

 

 

 悪意は復活すると同時に各世界のゲートを通じて力を集め、それがある程度叶ったところで持てる力のほとんどを使って上位世界へのゲートを無理矢理創り出した。

 その裂け目から自分の力をゆっくりと流していき、それを利用して戦姫絶唱シンフォギアを消去していったのではないか。

 更に悪意はそれが不完全に終わると見るや今度は力を各平行世界へ流していった。この目的は不明だが、おそらく自分達根幹世界に関する記憶の消去だろうとエルフナインは予想した。

 

「そして、それを察した星の声が悪意の手出しを封じるために時間停止をしたのではないでしょうか?」

 

 仁志の考えを聞き、エルフナインはそこまで考えを飛躍させたのである。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。でも仁志先輩が前言ってた話だとゆっくりと時間の流れがおかしくなってたって」

「はい。ですが、それは悪意だけでなく星の声だとしても通じる話です。思い出して欲しいのですが、あの時間の流れのおかしさは、一定ではありませんでした」

「っ!? そうだ! あたしとこいつがスマホを持って本部へ戻った時、こっちは一日も経過してなかった」

「でも私が初めて仁志さんと会った時、ここでの数時間が裂け目前のクリスちゃん達には五分にもなってなかった……」

「そうなんです。時間経過のずれは基本僕らへ都合よく起きているんです」

 

 そのエルフナインの結論に誰もが分かり始めていた。時間停止などの現象は悪意ではなくスマートフォンを依り代とした謎の力のやっている事で、その目的は悪意の侵攻や策略から世界を守る事だと。

 

「成程。もしそうだとすれば何故依り代で意識だけしか戻せないかも分かるな」

「ああ。悪意がおっさん達へ忍び込んだとしても、だ。身動き出来なきゃ何も出来ないようなもんだ」

「じゃ、じゃあ、悪意は今すっごく力を持ってる状態って事デスか?」

「さっきのノイズはそれかもしれないわね……」

「しかも狙いはヴェイグさんだった! 絶対ここで悪意がみんなへ入り込むとヴェイグさんが気付いてるからだよっ!」

 

 大事な友人を狙った悪意のやり口に普段大人しいセレナが珍しく怒りを露わにしていた。

 そこにはヴェイグを狙った事で仁志がそれを守ろうと動いた事も関係している。

 

(あの時、エルが依り代をお兄ちゃんへ渡そうとしなかったら……っ)

 

 スマートフォンは仁志の近くへ引き寄せられる事はなく、自分達の目の前で彼は炭化していただろう。

 黒く炭と化していく仁志を想像し、セレナはきつく目を閉じる。

 

「絶対、絶対許せないっ! 許せないよ、悪意のやろうとした事はっ!」

「セレナ……」

 

 初めて見るセレナの姿にマリアでさえ戸惑いが隠せない。

 そんなセレナの肩へそっと乗せられる手があった。

 

「セレナ、気持ちは分かるデスよ」

「うん。でも、それぐらいに怒りを押さえて。強すぎる怒りは憎しみになって悪意に利用されちゃうから」

「切歌さん……調さん……」

 

 この世界で今まで以上に仲良くなった二人の友人。その言葉と声がセレナの心を落ち着かせる。

 

「そうだぞセレナ。俺やタダノの事を思って怒ってくれるのは嬉しいが、少し嫌な匂いが出そうになってた。そんなセレナは、見たくない」

「ヴェイグさん……」

「ごめんなセレナ。俺がやった行動の最悪でも想像したんだよな」

「お兄ちゃん……」

 

 悲しそうな顔のヴェイグと申し訳なさそうな仁志を見てセレナは少しだけ俯き、すぐに顔を上げると優しい笑みを見せる。

 

「ううん、私こそごめんなさい。どんな時でもみんなの笑顔のために。そう思っておかないと悪意の好きにされちゃうもん」

「……強くなったわね、セレナ。きっと今の貴方をマムが見れば同じ事を言ってくれるはずよ」

 

 妹の言葉と表情にマリアは噛み締めるようにそう告げて優しくその体を抱く。その小さな体にこの数か月で逞しく育った心と意思を感じ、マリアは静かに後ろを振り返った。

 

(仁志がエルをセレナの支えにとそう考えて始まったこの生活。私達姉妹の妹としてエルが振舞ってくれたおかげで、どこか甘えがあったセレナはもう立派な姉のように振舞えるようになった)

 

 自分達を優しく見守る仁志を見つめ、マリアはそっと微笑みかける。

 するとそれに気付いて仁志が照れたように頬を掻いて微笑み返す。その反応にマリアが逆に照れくさくなり顔を逸らした。

 

 それを見て仁志は静かに苦笑する。マリアの少女のような部分を見たからだ。

 

(マリアも本当に可愛いとこあるよ。願わくばずっとそういう部分を持っていて欲しいもんだ)

 

 まるで兄か父のような事を思いながら仁志は意識を別の事へ向ける。

 

「エル、さっきのノイズは悪意の仕業と見て間違いないけど、何故このタイミングなんだろうか?」

「そうですね。たしかに妙です。もしヴェイグさんを狙っているのなら就寝した後や一人で昼寝をしている時を狙えばいいはずですから」

「ああ。いくら悪意が感情で動いてるとして、だ。いくらなんでも全員揃ってる時を狙うか?」

「むしろ全員いるから狙ったのかもしれません」

 

 そこへ聞こえてくる言葉に仁志とエルの顔が動く。そこには凛々しい表情の翼がいた。

 

「以前エルはこう言いました。悪意はこちらの心を折る事をするだろうと。もし今ヴェイグがノイズによって炭化させられていたら、私達は全員己を責め、悪意への憎しみや怒りを爆発させていたでしょう」

「そうですね。セレナちゃんでさえさっきみたいになっちゃうぐらいでしたし」

「そういう事かよ。マジでムカつく奴だぜ」

 

 ヴェイグを消せればそれでよし。出来なくてもやろうとした事の意図を知り、心に怒りを抱き続ければよし。

 そう察したクリスは悪意へこのまま何もしないでいるのは嫌だった。せめて何か悪意へ打撃を与えたいと思って仁志へ顔を向けた。

 

「仁志、提案がある」

「何だ?」

「今からゲートの中へ行ってカオスビーストを倒してくんだ。全員がツインドライブを出来る今なら、前よりも早く倒せる。悪意の奴がこっちへあんな真似してきたんだ。なら、こっちも黙ってられねぇ」

「クリス、でもそれじゃさっきみたいな事が起きたら」

「いえ、依り代の力があります。兄様、充電器を」

「ああ、そうだな。常に充電状態なら割と安心か」

 

 ギアはなくてもノイズを撃退出来る術がある。期せずして得た防衛手段に仁志は内心で安堵していた。

 

(これで俺が人質とかになる危険性が減った。万が一の際の足手まといにはならずに済むか)

 

 状況に応じてツインドライブさせるギアを変えたりする必要もあるかもしれない。そう考えれば今後あるだろう悪意との決戦には自分も参戦する必要がある。そう仁志は思っていたのだ。

 

「みんな、これだけは覚えてて欲しい。強大な力はちょっとした事で人の道を踏み外させる。そんな力を使う時は、少し臆病なぐらいで丁度いい」

「少し臆病なぐらいで、か。仁志らしいぜ」

「ああ。だが、一理ある。一度しか使っていないが、ツインドライブのアマルガムは凄まじい能力だった」

「はい。あの時は無我夢中でしたけど、よく考えると凄い力でした」

「過信し過ぎる事は危険って事ね。仁志、エルとヴェイグをお願い」

「分かってる。それと、多分今日はノイズの追加派遣はないと思うよ。悪意もみんながいないところで俺達へ手を出してもって考えるだろうし、無駄な力を使う事になるからな」

 

 その意見に響達は苦笑しながら納得するように頷く。

 そしてセレナは巫女ギアツインドライブを、奏はゴジラギアツインドライブを、未来はミラーリングギアツインドライブを、響達六人はアマルガムギアツインドライブとなってゲートへと入っていった。

 

 それを見送った後、仁志はエルフナインとヴェイグへ今後の事を話題に話し合いを開始する。

 悪意が遂にノイズという分かり易い行動を取ったためだ。これが一時的なものか、あるいはもうそれが可能になったという事なのか。それを考えるために。

 

 だが、これに関してはエルフナインもヴェイグも意見が一致していた。

 

「あれはきっと突発的な行動だと思います。今後継続するかは分かりませんが、悪意の目的から推測するに日常化はしないはずです」

「ああ、俺もそう思う。あいつはセレナ達の心を傷付けたいはずだ。なら、さっきのはそのための行動だろう。で、効果が出せないとなったらこだわる気はしない」

「なるほどなぁ」

 

 あれは悪意が試した手の一つ。そう言われてしまえば納得するしかないと思い、仁志は腕を組んだ。

 

(こうなるとみんなで集まるのは悪意に狙われる可能性があるのか? いや、だからといってみんなで集まる時間を無くすのは駄目だ。それこそ悪意の思うつぼだろう)

 

 何せステータスでの悪意の侵入有無の確認をするのにも全員が揃っていた方が都合はいい。

 それに何より、彼女達が一緒にいる時の楽しそうな顔を知っている以上、それを無くす事はしたくない。

 そう思って仁志は小さく頷いて二人へ別の話題を振った。

 

「じゃ、次はカオスビーストを全て倒した後の事を聞きたいんだ」

「全部倒した後、か……」

「難しいですが、おそらく次の手を打つはずです」

「次の手?」

「悪意は僕らへの復讐を考えて様々な手を打ってきました。でもよく考えるとある共通点があります」

「「共通点?」」

 

 一体何だと仁志とヴェイグがエルフナインを見つめる。彼女はその眼差しを正面から受け止め、意を決して告げた。

 

「もっとも簡単な兄様を殺すまたはその記憶の消去などの手段を講じていない事です」

 

 そう、それは当初からエルフナインが考慮していたもっとも簡単で確実な悪意の勝ち方。

 

「切歌お姉ちゃんや調お姉ちゃんを操った時も、奏さんや未来さんを操った時も、姉様を乗っ取った時でさえ悪意は兄様への直接攻撃をしませんでした。それどころか遂には兄様を利用する方向へ舵を切りました。これは、以前兄様が懸念した事が理由だと思います。兄様を使い、響さん達へ望まぬ事をさせるかあるいは……」

「あるいは、何だ?」

「エル、俺に気にせず言ってくれ。今は少しでも悪意の考えを想定して備えておくべきだと思う」

 

 言い難そうな雰囲気を漂わせたエルフナインへ仁志はそう言って続きを促した。

 その想いを酌んでエルフナインは息を吐いて頷いた。

 

「分かりました。では、僕の考えを言います」

「ああ」

「悪意は、兄様を操れた場合、皆さんの目の前で……殺すかもしれません」

 

 最後には顔を伏せて告げられた言葉に仁志は動揺する事もなく、ただ一言「そうか」と返すのみだった。

 ただ、ヴェイグは見た。仁志がエルフナインの言葉を聞いて何かを決意するかのような表情を見せていたのを。

 

(タダノは、戦う気だ。悪意の企みから逃げずに戦うつもりなんだ……)

(俺を利用するけど出来ないなら殺す、か。実に効率的だけどやっぱりどこか一貫してないよな。だからこそこっちにもチャンスがある。悪意が思っているよりもみんなは強いって事を俺は知ってるんだ。なら俺が心強くあればあとはどうにかなる)

 

 マリア、響、クリスで悪意が狙った事。それらは全て仁志の心へ迫るものだった。

 彼女達の恋心を利用し、踏み躙るようなやり方。それに対して仁志は決して負けない事を決意する。

 

 と、そこで仁志はスマートフォンの画面を見た。ステータスは変化ない。ならばと彼は画面を切り換えてアドベントバトルを選択。

 

「エル、ヴェイグ、朗報だ。どうやらまた一体倒したらしい」

 

 そう嬉しそうに言って仁志はスマートフォンの画面を二人に見えるように置いた。

 二人が画面を覗き込むと、ゼフテロスと言う名のカオスビーストにバツ印が打たれていた。

 

「これで三体目」

「残るは二体、か」

「ああ。きっとそろそろ……」

 

 言いながら仁志が顔をゲートへと向ける。エルフナインとヴェイグも同じように顔を向けた。

 もう帰ってくると思って三人はゲートを見つめ続ける。だがしばらく待っても響達は帰還しなかった。

 

「あれ?」

「おかしいな。もう倒してから十分は経過したと思うぞ」

「ですね。何かあったのでしょうか?」

 

 三人でゲートを見つめる仁志達。それでも一向に変化はない。

 

「もしかして、帰還途中で別のカオスビーストと接敵したとか?」

「ないとは言い切れませんね……」

「タダノ、もう一度確認してみたらどうだ?」

「そうだな」

 

 ヴェイグの意見に仁志は再度アドベントバトルをタップし画面を眺める。しかし変化はない。

 どういう事だと三人で首を傾げる事更に五分後、そこからアマルガムの輝きと共に響が姿を見せた。

 

「ただいまっ!」

 

 それを皮切りに続々と帰還する装者達を見て、仁志達は一度だけ顔を見合わせて頷くと揃って声を出した。

 

「「「おかえりっ!」」」

 

 そして何故帰りが遅かったかのかを仁志が尋ねると、その理由はマリアの手にあった。

 

「これを回収しに行ってたのよ」

「ギアペンダント……? もしかしてっ!」

「奏の世界から預かったガングニール。保管庫になかったから、もしかしてと思ってエルの研究室を探したら見つけたの。エル、これも定期的にメンテナンスしてくれていたのね」

「は、はい。でも、褒めないでください。その、実はそれをメンテナンスしようとしていたのを忘れていたんです。今言われて思い出しました」

 

 その言い方に全員が一瞬呆気に取られ、すぐに笑い出した。

 

「え、エルちゃんもそういう事あるんだね」

「ああ、しかも今まで忘れてるとかな」

「仕事のし過ぎだったのだろう。疲れていたんじゃないか?」

「はい。その、今なら分かります。あの頃の僕はどうかしてたんです。仕事をする事が半分趣味になっていたもので」

 

 仕事と研究。それだけがかつてのエルフナインの全てだった。

 それが、この上位世界へ来て一変した。何せその両方を失ったのである。

 代わりに、家事手伝いというそれまで無縁だったものをやるようになり、それまで触れる事のなかった特撮やアニメへ触れ、何より家族のような関係をマリアやセレナと築く事となった。

 

 その結果、エルフナインも十分な睡眠をとり、よく遊んでよく学ぶという生活を送るようになったのだ。

 

「じゃ、軽く試してみようか。マリア、ギアペンダントを変えてくれ」

「ええ」

 

 この後分かったのは、ギアを変えてもゲージは共通である事と、ツインドライブアイコンは表示されなかった事。そして……

 

「ソルブライトギア、か。そういえば忘れてたよ、こいつの存在」

 

 響達ガングニール三人が悪意の種の一件で発現した心象変化ギア、ソルブライトギアが使用出来るようになる事だった。

 

「どういう事かしら?」

「多分だけど、これは三つのガングニールが揃ってないと使えないって事なんじゃない?」

「でも、私は一人でも使えましたけど?」

「あるいは、こいつで再現する場合は、なのかもしれない。その、このギアを得た時の一件はゲームではこう呼ばれていたんだ。太陽の三撃槍って」

 

 その言葉に響達は納得するように頷き、そして同時にある事へ気付いた。

 

「「「もしかして……」」」

「どうかした?」

「ええ。響はこのギアを使って悪意の侵攻を阻止して撥ね退けた」

「じゃあさ、意外とこのギア、悪意へ効果あるんじゃないかってね」

「だからガングニールが三つ揃った今しか表示されないんじゃないですか?」

「そうか! 哲学兵装だ!」

 

 仁志の言葉にエルフナインだけじゃなく誰もが思わず声を漏らした。

 

「一度響はこれで取り除けないはずの悪意の種を打ち砕いた。それを俺は知ってる。そして君達も」

「……つまりこれがあれば奏が悪意へ対抗出来るギアを持てるって事ね」

「そりゃ助かるよ。現状悪意へ効果あるギアがないのあたしだけだし」

「でも、それだけで哲学兵装になるんですか?」

 

 響の疑問は当然と言えた。哲学兵装とは多くの人々の概念が蓄積されて至るもの。それがたった数人で可能なのかと、そう思ったからだ。

 

「……もしかしたら、この世界そのものは僕らを、戦姫絶唱シンフォギアを覚えているのかもしれません」

 

 エルフナインの言葉を真っ先に理解したのはやはり仁志だった。

 

「そうか。星の声」

「はい。兄様が教えてくれた考え方が真実とすれば、この上位世界そのものは僕らの事を覚えています。だから哲学兵装の要素を満たす事が可能かもしれないんです」

「この世界がアタシ達の事を覚えてる、デスか」

「そっか。だからそもそもアラートを出してくれた訳だもんね」

 

 調の言う通り、もう彼女達がこの世界へ来る切っ掛けは世界そのものからのSOSだった事が明らかになっている。

 であれば彼女達装者の事を世界が知らないはずはない。星の想いがどれ程の重さを持つか分からないが、人よりも軽いという事はないだろう。

 故に世界と仁志の概念が哲学兵装の条件を満たしているとしてもおかしくはない。そうエルフナインは考えていたのだ。

 

「ん? 待ってください。仁志さん、立花と奏はツインドライブ出来るはずです。なら、そのギアも二人は強化できるのでは?」

「あっ、そっか。よし、じゃあ試しに……」

 

 ここで思いがけない現象が起きる。響と奏のソルブライトギアツインドライブは無事成功。その形状こそ変化しなかったが差色に金色が入った。

 そして問題はここからだ。二人が変化するのと同時にマリアのソルブライトギアまでも変化したのである。

 

「これって……」

「ど、どうなってるんですかね?」

「仁志先輩、何か分かる?」

「えっと……もしかしたらって程度なんだけど……」

 

 ゲームでマリアのソルブライトギアは響と奏へ影響を与えるパッシブスキルを持っていた。

 それから派生して響と奏の変化の影響をマリアも受ける形になったのでは。それが仁志の出した結論だった。

 

「じゃあ、私は普段こちらも見に着けておくべきかしら?」

「その方がいいかもしれない。奏が悪意へ対抗できるギアになれるなら、これで一応全員もしもの時に何とか手を打てる」

「じゃ、マリアはギアを二つ持つデスね」

「でも、それでどっちを展開するか決められるかな?」

「そうね……」

 

 どうするべきかと、そう思って考えるマリアだったが、その視線がすぐ仁志へと向けられた。

 

「どう?」

「あー……多分だけど、マリアが使いたいギアを思い浮かべればそっちの聖詠が出てくると思う」

「あるいはツインドライブならぬダブルドライブが出来るかもしれませんっ!」

 

 エルフナインの目がキラキラと輝くようにマリアを見つめる。今、彼女の中には仁志から教えてもらった二人で一人のライダーが浮かんでいた。

 

「だ、ダブルドライブ?」

「あ~、完全聖遺物じゃなくギアを同時展開したらどうなるんだろうなぁ」

 

 困惑するマリアとワクワクしている仁志。そんな二人を見つめる笑顔のエルフナイン。そこだけ抜き取れば仲良し親子だろう。

 

「ガングニールとアガートラームの同時展開? 出来るのだろうか?」

「ギアを展開した後で別のギアって展開出来る気がしないんですけど……」

「そもそも複数のギアと適合できるってのが珍しいんだけどね」

 

 翼と未来の言葉に奏が苦笑する。

 

 こうしてマリアは二つのギアペンダントを身に着ける事にし、どちらを展開するかはその都度判断する事でこの件は終わりを迎える。

 

 ちなみにギアの同時展開はやはり不可能だった事を追記する。それを知った時、仁志とエルに切歌は落胆の色を隠せなかったとか……。

 

 

 

「っと、これでよし」

 

 またゲートを閉じてあたしはギアを解除する。それにしても、凄かったね、バーニングゴジラギア。

 まぁ怪獣王の力を更に強化してるんだ。強いのは分かってたけど、まさかカオスビーストが怯えるとはね。

 

「それでデスね、アタシと調がユニゾンしようとしたら」

「アマルガムを纏っている私達六人でユニゾン出来て……」

「まるであの映画のラストのウルトラマン達みたいでしたっ!」

「デスっ!」

 

 響の言葉に切歌が興奮気味に頷く。そう、カオスビーストへトドメを刺したのは響達だ。

 あたしと未来でカオスビーストを足止めしてセレナがギアの力でその邪悪な力を弱めていき、そこへ六人が歌いながらまるで一つの光みたいになって突っ込んできて……トドメ。

 

 あれは圧巻だった。相手のカオスビーストってのも前より手強くなってたはずなのに、あたし達はそれを感じないぐらい強くなってた。

 

「今までも似たような事は経験してきましたが、あれ程の力強さは初めてでした」

「そうね。ネフィリムとの戦いやシェム・ハとの戦いとは比べられない程、あの時の頼もしさは桁違いだったわ」

「正直言って、G3FA並の威力を個人個人で出してる感じだったよな」

「そこまでか……凄いな……」

 

 仁志先輩の言い方でそのG3FAってのがとんでもないってのが分かる。

 実際見たあたしもあの光景には息を呑んだし。

 

「これで残るは二体か。で、今回はどこのゲートを?」

「それが……」

「シャロンちゃん達の世界です」

 

 その言葉を聞いて仁志先輩は一瞬表情を訝しむようにしてから、すぐに何か気付いたように頷いた。

 

「そういう事か……。悪意はよっぽどみんなとの所縁が深い世界を解放したくないらしいな」

「やはり貴方もそう思う?」

「ああ」

 

 マリアの言葉に仁志先輩は即答した。成程ね、やっぱそういう事なのか。

 悪意は本気であたし達の連携を、支援してくれる存在を警戒してるんだ。

 

「で、でもシャロンちゃんの世界には」

「分かってるよ。でも、あそこにいる風鳴さんと雪音さんには依り代が組み込めないし、そもそも彼女達まで来ると色々ややこしい事になる。で、シャロンちゃんの力は使わせる訳にはいかないものだ。融合症例をどうにかするには神獣鏡の光を浴びせる以外に解決策がないからね。あるいは……」

「あるいは? 何か心当たりあるんですか?」

「えっと、こっちの世界にある錬金術師を題材にした漫画やアニメがあってね。それだと錬金術ってのがエル達のものとは大きく違ってるんだ。基本は等価交換って言われていて、その中で人体錬成という禁忌があってさ」

「「「「「「「「「「「人体錬成……」」」」」」」」」」」

 

 とんでもない単語だね、これ。

 

「もしそれに近しい事がそっちの錬金術でも可能なら、アダムぐらいの魔力があればシャロンちゃんの体からえっと……ヤン何とかって言う聖遺物を取り出してみせる事が出来るかもしれない」

「そっか! 依り代でシャロンちゃんとアダムさんを会わせてあげれば……」

「ああ、可能かもしれない。あちらのお父様も賛同してくれるだろう」

「そのためにもこの厄介事を終わらせないとな。悪意の奴をぶっ倒してな」

 

 クリスの言葉にみんなで頷く。そうさ、悪意を倒して面倒事を片付けないと。

 

――でも、そうなったらもう仁志先輩と一緒にバイトは出来ない……。

 

 っ……分かってた事さ。この時間は皮肉な事だけど悪意がいるから続けていられるんだ。

 

――それだけじゃない。下手したらもう二度と来れない……。

 

 それでも……あたしは……

 

――あたしの世界に仁志先輩はいない。連れて行く事も出来ない。だって、あの世界じゃあたししか装者はいない……。

 

 そう、なんだ。あたし以外に装者はいない。アダム達錬金術師はいるけど、それだってあてにしていい相手じゃない。

 

 あたしは、一人で戦い続けるしかないんだ。

 

――だったらせめて仁志先輩と、あたしの日常を明るく楽しくしてくれる人と一緒にいたいって思っちゃダメかな……。

 

 連れて行けないのに……ううん、連れて行っちゃいけないって思ってるからだ。

 

――もし、もしも仁志先輩があたしの世界へ来てくれるって言ってくれたら……。

 

 そう、なったら嬉しい。あたしの旦那さんになってもらって、只野奏って名乗って……

 

――子供が出来る頃には、あたしの世界もここみたいにノイズとかが出てこない世界になってくれるかな? あたしが装者しなくてもいい世界にならないかな?

 

 無理だ……。アルカ・ノイズなんてもんまで出てくるようになったんだ。

 もうあたしには本来の場所でこの世界のような時間は過ごせない。

 

「奏さん、どうしたんですか?」

「っ!?」

 

 気付いたら俯いてた。セレナの声に弾かれるように顔を上げた。

 しかも見れば全員あたしを見てる。

 

「ご、ごめん。何かあった?」

「これからどうするかって。ここで解散してもいいけど、どうせなら夕食までみんなで過ごさないかってお兄ちゃんが」

「奏、何か悩み事か? 俯いてたみたいだけど」

「え? あ、えっと……」

 

 言えない。言えば絶対みんなも似た事で思い悩む。なら……

 

「バイトの事でちょっとね。だから店長、今夜いい?」

「あー、はいはい。天羽さんからの相談ね。いいよ」

 

 こうするのが一番だ。仁志先輩になら、甘えられる。そしてあの人も今ならあたしへ甘えてくれる。

 

「で、夕食までここでみんなで過ごすのはいいけど、何して過ごすのさ?」

「それな。えっと、今だと選択肢はクウガの続きぐらいじゃない?」

「デスデス。ししょーが与えた情報が気になりまくりんぐなんデスよぉ」

 

 切歌の言葉にみんなが苦笑する。あたしも笑った。でも、たしかに気になるな。

 

「今回は見るとすると、見れてライジングフォーム登場ぐらいまでかな?」

「「「らいじんぐふぉーむ?」」」

 

 切歌とエルにヴェイグが揃って首を傾げたもんだから思わず笑った。

 てか、ホント可愛いよね、ここに来てからのヴェイグとエル。見てると癒されるぐらいだ。

 

 そりゃ、マリアも母親みたいになるよ。あたしだって今のエルやヴェイグといたらそうなってる。

 

――むしろ、なりたいぐらいさ。あの人の奥さんみたいな気分になって、一緒にご飯食べたりなんて……。

 

 幸せ、だろうな。

 

「詳しい話をすると面白くないからまだ内緒。と、その前に夕飯の買い物を済ませておこう。で、何がいいかな?」

「素麺とかどうですか?」

「夏らしくていいね」

「でもよ、この人数じゃ大きな器を三つぐらいいるぞ」

「そっかぁ」

「それに、それだけあって全部素麺ってのも飽きるだろ」

 

 クリスはいつも冷静だね。あたしも同感だけどさ。

 

「夏っぽさがあって、大勢で食べても飽き難いメニューかぁ……」

「そう考えると意外と難しい……」

「そうね……」

 

 未来に調、マリアが揃って考え込み始める。やっぱりそうなると難しいよな。

 

「じゃ、いっそ素麺、ひやむぎ、ざるうどん、ざるきしめんと用意してみるか? 原料は同じなのに形や太さが違うと味が変わる不思議を体験出来るよ」

 

 で、仁志先輩の意見で全員が感嘆符を出す。うん、ホントにあたし達のまとめ役だよね、仁志先輩って。

 

 そこから買い物部隊が編成される。マリアをリーダーに調や未来が夕飯の買い物を。

 続いてはクリスと響に翼がこの後の鑑賞会用に百均へ行って飲み物やお菓子の買い出し。

 

「それでは、行ってくるデス」

「「行ってきます」」

「気を付けてな。セレナ、エルを頼むよ」

「うん」

 

 そして切歌は何とバイト先へ行って……ゼアスだっけ。それを借りてくる事に。

 時間を考えるとクウガよりも映画二本の方が丁度いいらしい。

 エルとセレナは一度切歌のバイト先へ行ってみたいらしくついて行くってさ。

 

 可愛いもんじゃないか、本当に姉妹みたいだ。

 

「「「「「「「「「行ってきます」」」」」」」」」

「「「行ってらっしゃい」」」

 

 あたしと仁志先輩にヴェイグが留守番。あれ、これって……。

 

「さて、なら俺は軽く眠る。みんなが帰ってきたら起こしてくれ」

「分かった」

 

 そう言ってヴェイグはクッションへ背を預けて目を閉じた。と、仁志先輩が台所へ向いてた扇風機を持ち上げてヴェイグへ向け直す。

 

「風量を弱にしてっと。どうだ?」

「ああ、丁度いい。ありがとうタダノ」

「何の何の」

 

 ははっ、何だか友人って言うより父と子だね。

 それから少しするとヴェイグから小さな寝息が聞こえ始めた。可愛いじゃんか、やっぱり。

 

「さてと……」

 

 ヴェイグが寝たのを見て仁志先輩はあたしへ顔を向けた。

 

「それで、一体何を悩んでたんだ? バイトの事、じゃないんだろ?」

「……やっぱ分かってたか」

「そりゃあね。今更奏がバイトの事で悩む事はないって知ってるさ。君とずっと一緒に勤務してきたんだぞ?」

 

 その一言に胸がキュンってなった。軽く茶化してるけど、その言葉の裏にはあたしへの信頼と過ごしてきた時間がある。

 嬉しい。これだけで嬉しくなるんだね、あたしって。あははっ、恋って凄いもんだ。

 

「あの、さ」

「うん」

「この時間が終わったら、あたしは自分の世界へ帰らなきゃいけない」

「……ああ」

 

 そこで仁志先輩の声が真剣なものへ変わる。それが、何故か嬉しい。

 

「でも、そこにはあたし以外装者は誰もいない。あたしが、全てを打ち明けて寄り添える男も、多分いない」

「……かもしれないな」

「そうなったら、あたしは耐え切れない。うん、もう耐えられないんだよ。こんな平和で幸せな時間を、あったかい居場所を知った今じゃ」

「奏……」

 

 目が潤んでくる。あたしが見つめるあの人は、そんなあたしを見て辛そうな顔をしてた。

 

「こんな事を年長のあたしが言うのはどうかと思う。こんな弱音を、本音を言うのは」

「いいよ。俺にだけは言ってくれていい。俺は装者でもなければ君の世界の住人でもない。君の事を一人の女性である天羽奏としか見ない人間だから」

「っ……仁志先輩……っ!」

 

 優しく、はっきりとそう言われてあたしは我慢出来なかった。

 仁志先輩の胸へ飛び込む。すると優しくもしっかりと抱きしめてくれた。

 ああっ、あったかい。それに頼もしくて少しだけ、少しだけ逞しい気もする。

 

「奏、辛いと思う。苦しくて寂しくて堪らないと思う。俺も、少しだけ分かるよ。俺も、この十年近い一人暮らしで似た気持ちになった事がある。君とは比べ物にならない境遇だろうけど、それでも死にたいって思った事があるんだ」

 

 初めて聞く話に思わず顔を上げた。そこにはこっちを優しい表情で見つめる仁志先輩がいた。

 

「意外か?」

「……ちょっと」

「そっか。生きている事が辛いって、そう思った頃があったんだよ」

「そうなんだ……」

 

 何だろう。こうやって抱き締められながら過去を聞くって、何だかすっごく恋人っぽい。

 

「奏、どうすれば君の世界が平和に出来るかは俺には分からないし手助けも出来ないと思う。だからせめて、君が自分の世界で心強くあれるようにはしたい」

「あたしが……心強く……」

 

 仁志先輩の温もりがあたしの心を温めてくれている気がした。

 背中に感じる腕の感触が、腕に感じる背中の感触が、あたしが一人じゃないって言ってくれてる気がした。

 

「これがその一助になってくれる事を願うよ」

「え……?」

 

 あたしへ顔を近付ける仁志先輩。う、嘘? き、キス、するの? 自分からはしないって言ったのに?

 

 まさか、悪意に操られて?

 

「……へ?」

 

 あたしが突き飛ばすかどうか迷ってる間に仁志先輩はこっちの額へキスをした。

 何て言うか、ホッとしたようなガッカリしたような複雑な気分だ。

 

「どう、だ? これじゃやっぱり大人の君には不満か?」

「……そうだって言ったらどうしてくれるのさ?」

「ギアを、纏ってみるか?」

 

 っ!? そ、それってつまり……悪意があたしに入り込んでないか確認するかって事、だよね。

 

「……うん」

 

 正直胸がドキドキしてる。でもこの機会を逃したらもうきっとキスなんて出来ない。

 そう思ってギアを展開する。それを見て仁志先輩はスマホを操作してしばらく黙った。

 

「ど、どう?」

「……イグナイトギアの表示はない。でも、考えてみれば奏は元々イグナイトギアがなかったな」

「じゃ、じゃあツインドライブは?」

 

 どうしてもキスして欲しい。そう思ってあたしは食い下がった。ただ、仁志先輩はそんなあたしに小さく苦笑した。

 

「奏、その、気持ちは嬉しいけど、普通男女逆のリアクションだと思うぞ」

「っ……い、いいじゃん。あたしだって、女、なんだよ? 惚れた男とキスしたいって、そう思うのは、駄目?」

 

 かなり恥ずかしいけど本音だ。でも、その甲斐はあったみたい。

 

「……タップした」

「ん。どう、かな?」

「……変わってる、な」

「……みたい、だね」

 

 ドキドキしてくる。仁志先輩はあたしを見て、軽く俯くなり小さく息を吐いてからゆっくりと顔を上げた。

 

「奏、まずこれだけは伝えておくよ。俺は、君の事が大好きだ」

「っ?!」

 

 その瞬間、あたしの胸の奥で何かが弾けた、気がした。

 

「選べないのは、俺にとって君達全員が等しく大切で好きだからだ。こんな優柔不断な男で良ければもう一度この腕の中に来てくれるか?」

「っ……うんっ!」

 

 ギアを解除しながらあたしは仁志さんの腕の中へと戻る。ああ、幸せ。

 あたしを抱き締めてくれる温もりが、頼もしさが、温かさになって包んでくれる。

 だからあたしは顔を上げた。仁志先輩にキスをしてもらうために。

 

「目を、閉じてくれ」

 

 声に出さず笑顔だけ返して目を閉じる。すると、ゆっくりと気配が近付いてきて……あれ?

 

「……何で頬?」

 

 そう、仁志先輩はあたしの頬へキスをした。こういう時は普通口にするもんだろ?

 そういう不満を滲ませて小さく問いかけると……

 

「ここじゃ、背徳感が凄いだろ」

 

 なんて困った顔で返された。成程、たしかにここはマリア達の家だ。なら、あたしとキスなんてまるで浮気か不倫みたいだね。

 

「でもさ、だからしたくない?」

「急に女全開にならないでくれよ。昼ドラみたいじゃないか」

「ひるどら?」

「あっ、知らない? 平日昼にやってるドラマって、基本ドロドロしてる傾向があってさ」

 

 もうその瞬間にあたしの中の熱が冷めてくのが分かった。

 だけど、いいんだ。これがあたしの惚れた男で、仁志先輩なんだから。

 

 でも、少しだけ変わったなって思う瞬間があった。それは切歌達が帰ってきた時の事。

 三人のただいまって声がして、あたしがおかえりって返した直後……

 

――続きは別の機会に、頑張ってするから。

 

 って、そうあたしの耳元へ告げてくれたんだ。

 慌てて顔を動かしたけど、その時にはもう仁志先輩は切歌達と接し始めてて、いつもの兄貴モード。

 

「……ヤバいなぁ」

 

 その姿さえも、今のあたしには胸が騒ぐポイントだよ仁志先輩。

 何であんな事言った直後からそんな顔出来るのさ? それってさ、さっきのに照れや躊躇いがなかったって事だろ?

 

「エルとセレナが特撮コーナーやアニメコーナーをじっくり見たいって言うのでちょっと遅くなったデスよ」

「そっか。何か気になるものでもあったかい?」

「はい。兄様が言っていた作品を見つけたので」

「うん。えっと、鋼の錬金術師?」

「おー、よく見つけられたね」

「アタシが検索してもらったデスよ。まぁ、話をしただけでハガレンだねって言われたデスけど」

 

 本当にあの三人は仁志先輩の事が好きだね。見てると本当に親戚の兄ちゃんか、あるいは父親って感じがする。

 

「……マリアの気持ち、分かるよ。こんなの毎日のように見せられたら……ね」

 

 これを見てたら、あの人との子供を欲しいって思うさ。

 あたしを奥さんにして、母さんにしてくれて、絶対幸せにしようと頑張ってくれる人だから。

 子供とも全力で向き合って、寄り添って、一緒に成長してくれるって、そう思えるから。

 

 あの時、いつかお望みのキスをしてやろうってあたしは思った。

 だけど、それを向こうがしてくれるって言ってくれた。

 ホント、あの時もそうだったけど、改めて思うよ。

 

――こんなの、もっと好きになるしかないじゃん。

 

 そう小さく心の中で呟いてあたしは初めて恋した男を見つめる。

 切歌達相手にまるで少年みたいに笑う、大好きな人を……。

 

 

 

「……とりあえず今のがゼアスの一作目。どうだった?」

 

 只野さんの問いかけに私は素直な感想を口にする事にした。

 

「以前暁が駄目駄目ウルトラマンと言っていた意味が分かりました。ですが、だからこそ今までで一番身近に感じられるウルトラマンです」

「デスデス。弱くて、情けなくて、頼りないのに、やっぱりウルトラマンなんデスよねぇ」

「切ちゃん、多分だけど勇気や優しさは持ってるからだと思うよ?」

「はい、僕もそうだと思います。兄様が教えてくれました。ヒーローとは特別な力があるからヒーローじゃないんです。誰かのために勇気を出せる人だからこそ、ヒーローとして力を与えられたり、身に着ける事が出来るんだって」

 

 エルの言葉が胸に響く。防人も、そうかもしれない。力があるからなるのではない。

 誰かを、国を守りたいと勇気を出せるからこそ戦えるのだ。

 お父様はそういう意味では力があった。知恵を巡らせ、見聞を広めて人脈を築いて力としていた。

 

「私はそれよりもゼアスが地球の女の人を好きになってる事が嬉しかったなぁ」

「ああ、恋愛感情を持ってるんだって思ったよな」

「しかも最後はその人のフルートで復活するんだから、凄いよね」

「でも、それはあの女性はゼアスの正体を知ってるって事だけど……」

「いいんじゃない? 種族は関係なく、互いを思い合う事は出来るって事だしさ」

「セレナとヴェイグみたいにな」

「そうだな」

「うんっ!」

 

 揃って笑みを見せる二人に私を含めた全員が笑顔になる。

 種族の違いを越えて、か。生まれた星さえも乗り越えられるのに、どうして世界が越えられないのだろうか?

 同じ世界ではない事は、やはり越えられない壁なのだろうか……。

 

「只野さん」

「ん?」

 

 だから、私は縋った。只野さんなら異なる世界同士で思い合った物語を知っているのではないかと。

 

「異なる世界の者達が出会い、共に過ごした物語はこちらにないのでしょうか?」

 

 私のその問いかけに誰もが息を呑んだ。ただ私の見ている人だけが優しい笑みを浮かべていた。

 

「あるよ。他にも現代人と未来人で思い合って恋をしたものだってある」

「異なる時代で、恋を……」

「ああ。沢山あるんだ、世界を隔てた恋愛や時間や空間さえも超えた愛は。中には勿論悲しい結末もあるけれど、それを越えて結ばれる想いや絆だってある」

「ひ、仁志さん、私それが見たいです!」

「あ、あたしもだ」

 

 立花と雪音が身を乗り出しそうな勢いで只野さんへ迫る。それに只野さんは苦笑した。

 

「見ても意味がないよ。だって、俺達は誰かに作られた台本で動いてないんだ。誰かに演出され、誰かに指導されてる訳じゃない。そして、俺達の結末は、未来は、誰にだって、神様にだって分かるものか」

 

 静かに、だが力強く告げられた言葉に誰もが黙る。

 ああ、人はこんなにも短期間で変わるものなのか? こんなにも強くなるものなのか?

 私が初めて出会った日、どこか冴えないだけだったはずの人は、もうこんなにも心強くいようとしている。

 

「宿命は変えられないけど、運命は変えられる。何故なら運命は運ばれてくるものだ。宿命は宿るもの。だから、宿命に立ち向かい、運命を変えてみせればいい。悪意が甦るのが宿命なら、その行動の結果は運命だ。俺達の未来は、悪意の好きにはさせない。どんな卑劣で狡猾な手を打とうと、俺達はそれを乗り越え、最後にはみんなで笑うんだ。それ以外の結末なんていらない。だから、その運命を掴み取ろう、みんなで」

「タダノ……ああっ!」

「はいっ! 僕らの未来は僕らの手の中です!」

「うんっ! いつかみんなで笑顔になれるように、私も頑張るっ!」

 

 真っ先に只野さんの言葉に応じるのは、やはりお前達なのだな。

 

「アタシもししょーの意見に賛成デスっ! 最後はみんなで笑いたいデス!」

「うん、私も。悪意との戦いが宿命なら、その結末は運命だから。なら、私達で最高の運命を掴み取りたい!」

 

 暁と月読の言葉に私は小さく頷く。そうだ、その通りだ。

 

「心を強く、優しく持つ事が悪意へ対抗する一番の方法なら、只野さんの言う通り笑顔の未来以外考えないようにしないと」

「だね。あたし達しか悪意と戦えない以上、希望って光を常に心に宿してないといけないしさ」

「ええ。相手が力を増しているけど、こちらだってそれは同じ事。それにツインドライブという新しい力はまだ私達さえも知らない力を秘めてる可能性だってある」

 

 小日向達は自分へ言い聞かせるように、だけど周囲へも聞かせるように考えを述べる。

 そう、今の私達には自分達でさえ未知数の力がある。只野さんとの絆とも言える、ツインドライブが。

 

「ま、何にせよだ。悪意が狙ってるのは仁志だろ? で、ゲートを今みたいに閉じてれば悪意は直接何も出来ない訳だ」

「心配し過ぎは駄目って事だね。ですよね、仁志さん」

「ああ」

 

 雪音と立花はどこか気楽な感じがする。だが、今はそれでいいのだろう。

 私も肩の力を抜くべきだ。もしそれが自分で出来なければ、以前のように只野さんへ甘えよう。

 

 ……誰かに甘える、か。こう思えるようになった事を強さと捉えられる今の私は、やはり変わったのだろうな。

 

「あの、只野さん」

「どうした?」

 

 だから、今までの私と別れを告げる。いや、今から私はここでの私に完全になろうと思う。

 

「仁志さんと、呼ばせてください」

 

 ただのつばさであり“只野翼”と勝手に思い込むために。

 

「どうぞ。っと、未来?」

「は、はい」

「別に呼び方変えなくていいからな。それにもう俺の事を只野さんって呼ぶ女性いないし」

「……じゃあ、そうします」

 

 仁志さんの言葉に雪音や月読が小さく苦笑し、小日向は微笑んだ。そ、そうか。私が呼び方を変える事で小日向は労せずして特別な呼び方のようになったのか。

 

 で、でも、仁志さんと呼んだ方が、その、夫婦のような感じは出易いはずだ!

 

「よし、じゃあ休憩として2の上映まで十五分程時間を取りまーす。その間に飲み物の補充や手洗いなどを済ませておいてくださーい」

「し、ししょーが先生みたいになったデスよ」

「うん、まるで引率してるみたい」

「だろ? イメージは学生時代の野外学習やバス移動の時の教師だ」

「凄くそれらしいです」

「うん、そんな感じ」

 

 立花と小日向が懐かしむように告げる中、エルとセレナは感心するように頷いていたのが印象的だ。

 おそらくだが二人は学校というものを知らない。だから仁志さん達の話を聞いてそういうのが学校というものの一部なのだと思ったのだろう。

 

「エル、セレナ、言っとくけど必ずしも先生ってのはこうじゃないぞ」

「「え? 違うの(んですか)?」」

「勿論。さっきの言葉を弦十郎さんやナスターシャさんが言うと俺と同じ言い方すると思うか?」

 

 その例えに私は小さく笑ってしまった。叔父様やナスターシャ教授が引率の教師か。ふふっ、きっとその学校は装者育成の機関だろうな。

 

「「多分語尾は伸ばさないと思う(います)」」

「な? 俺のはよくある一般的なイメージってやつさ」

 

 そう言うと仁志さんはエルとセレナの頭を優しく撫でた。

 それにくすぐったそうに笑う二人を見ていると心が温かくなると同時に、その、若干気持ちが騒ぐ。

 

――仁志さんの子が、欲しい。あの人との子を抱いて、お父様へ孫を見せてあげたい……。

 

 ああ、本当に。お父様へ孫を見せてあげたい。抱かせる事は叶わなくても、せめて、せめて見せるぐらいは……。

 

――もし、全てを終わらせた時に仁志さんと別れる事になっても、あの人の子だけでもいれば……。

 

 そ、それは……で、でも、私も仁志さんとなら……。

 

――今の私はもしかすると子を宿せないかもしれない。ならば、せめて心を、想いを通じ合わせた思い出だけでもいい。あの人を、仁志さんを刻んでもらいたい……。

 

 思い出だけでも……。そう、だね。仁志さんに私の初めてを捧げよう。どうせ、本来の居場所では剣の私だ。

 なら、女であれるここで女としての全てを仁志さんへ捧げよう。少しでも、あの人の記憶の中に残れるように……。

 

 そうだ。私はデートがまだだった。なら、その時に、その時に思い切って仁志さんへ……。

 

 

 

「「「「シュワッチっ! シュワッチっ! 頑張れゼアスっ!」」」」

 

 エルやヴェイグさん、切歌さんと一緒になって画面の中のゼアスへ声援を送る。

 一度負けた相手。受けた痛みや恐怖。それを心を鍛えて乗り越えて、新しい技まで覚えてゼアスは自分から戦いへ戻ってきた。

 私は、それを見て分かった事がある。戦う事はヒーローだって怖いし嫌なんだ。だけど、それから逃げたらもっと嫌な事や怖い事になる。だから勇気を振り絞って戦うんだって。

 

「……あの戦いを乗り越えたのにたった一度の敗北で情けない。そう思った自分が嫌になるわ」

 

 その姉さんの言葉に私は少しだけ後ろを振り返った。姉さんは今までと違ってテーブルじゃなくお兄ちゃんの近くに座ってる。

 

「いや、そういう意見があってもいいんだよ。全員が全員同じ意見じゃ意味がない。いや、こう言うべきかもな。物事への感じ方は人それぞれだ。どれが正しいかなんて人によりけりさ」

「……そう、ね。うん、そうだわ」

 

 あっ、そっと姉さんがお兄ちゃんの手へ自分の手を重ねてる。も、もしかして姉さんはお兄ちゃんと結婚したいのかな?

 もしそうなったら、お兄ちゃんは私の兄さん? あれ? でもそれって何が今と変わるんだろう?

 

――ちょっと待って。そうなった場合、姉さんはお兄ちゃんの傍にずっといるよね? じゃあ、私は? 一人ぼっちになっちゃう、かな……?

 

「っ?!」

 

 急に胸が苦しくなった。そうだ。姉さんがお兄ちゃんと結婚したら、ずっと傍にいたいって思うはず。

 そうなったら、私はもう姉さんと一緒に過ごせない? お兄ちゃんとも、遊んだり出来ない?

 

――それを避けるには、マムと離れるしかない。だけどそんな事は出来ない……。

 

 うん、無理だ。私しかあの世界には装者がいない。マムを、一人には出来ない。

 

――何とか出来ないかな? いっそお兄ちゃんが私の世界へ来てくれれば、姉さんも一緒に暮らせないかな? それなら、三人で一緒に暮らしていけるのに……。

 

 お兄ちゃんを……私の世界へ……。

 

――マムもきっと依り代を調べたり出来て喜んでくれるだろうし、お兄ちゃんの知ってる事を聞いて色々お仕事が進むんじゃないかな? 姉さんも来てくれれば装者が二人で安心感も増すし……。

 

 そう、だね。うん、そうだよ。姉さん達の世界には装者が七人もいるんだもん。姉さん一人ぐらい、こっちに来てもいいよね。

 

「……マリア?」

「っご、ごめんなさい」

 

 そう思ってたらお兄ちゃんがちょっと困った顔で姉さんの名前を呼んだ。それだけで姉さんが手をどける。

 

「その、嫌じゃないんだ。でも、分かってくれ」

「ええ、その、気を付けるわ」

「頼む」

 

 何だか今の二人は大人って感じがする。もし、本当にお兄ちゃんと姉さんが結婚するなら、いつかエルみたいな可愛い子供が生まれてくるんだよね。

 その頃には、私はいくつになってるだろう? 大人に、なってるのかな? それとも、まだちょっと子供?

 

――そうだ。私のお家デートの時、お兄ちゃんにお願いしてみよう。姉さんと一緒に私の世界へ来てって……。

 

 

 

 二本の映画を見終えた仁志達は夕食までまだ時間があるため、次はどうやって時間を過ごすかと悩み始める――はずだった。

 

「あ、そうだ。じゃあ、これをみんなに読んでもらおう」

 

 そう言って仁志は立ち上がると、誕生会の時に座っていた椅子近くへ置いていたプレゼントを手にした。

 

「これの一巻から三巻まではオムニバス形式の1号からスーパー1までの本編後のストーリーなんだ。それを読んでもらえれば、9人ライダーの基本的な事は分かってもらえるかな」

「本編後なのに、いいんデスか?」

「いいよいいよ。切歌とエルにセレナ、調には……一巻を」

 

 差し出された漫画を受け取り、切歌は名前を上げられた者達へ視線を向けた。

 

「えっと、どうするデスか?」

「勿論読みます!」

「うん、興味ある」

「はい。それにしても、表紙のライダーがカッコイイですね」

 

 年少組はすぐに集まって一冊の漫画を前にし始める。

 

「で、響に未来とクリスへは三巻を」

「はーいって、三巻?」

「二巻じゃないんですね」

「へぇ、ライダーキックが表紙か。迫力あるな」

 

 仲良し三人組は響を中心に漫画を読み始め……

 

「で、ドライディーヴァには二巻を」

「意味があるんでしょうね、これ」

「だろうね。おっ、バイクに乗ってる」

「専用マシンか。バイク乗りとしては憧れる響きだ」

 

 年長者達はマリアが漫画を持つ形で読み始める。

 

「タダノ、俺は?」

「ヴェイグは四巻から読んでみてくれ。俺はその間にちょっと部屋へ戻って取って来たい物があるから」

「分かった。ん? このライダーは赤い顔なんだな。ゼアスみたいだ」

「ああ、色合いは似てるかもな。赤と銀だし。まぁ目の色は違うけど」

「おおっ、そうだな。こっちは緑色だ」

 

 漫画を手に取り一人読み始めるヴェイグだったが、首を傾げながらページをめくるのを見て仁志は疑問符を浮かべた。

 

(一体何が気になってるんだ?)

 

 落丁本なのか。そう思って彼はヴェイグへ問いかけた。

 

「何か気になる事でもあったか? 話が繋がらないとか」

「いや、文字が読めない」

「…………あ~」

 

 ここにきて仁志は自分がうっかりしていた事に気付いた。ヴェイグは日本語が読める訳ではない事に。

 なので、ならばと計画を変更して彼はヴェイグを膝の上に乗せて漫画を音読してやる事にした。

 最初こそただ読んでいるだけだったが、ヴェイグが絵と合わない気がすると言った事から仁志は少しだけ感情を込めるようになった。

 

「なんだって……やってやるさ。俺に記憶(メモリー)をくれるのならばな」

「こいつは、記憶がないのか……」

「正確には奪われてしまったんだよ。バダンによって」

「そうか。なのにそいつらの手先となるしかないとは……酷い話だ」

 

 いつしかそれは仁志なりに感情を込めての朗読に近いものとなった。

 そのせいか声量も大きくなり、そうなれば否応なく周囲の耳へも入ってくる。

 結果、響達がそちらへ意識を向けるのも無理はなく……

 

「痛みとはなんだ!? キサマの痛みを見せてみろ!!」

「そうか。痛みさえ、ZXには欲しいものなんだな」

 

 ZX、村雨良への同情を抱くヴェイグ。既に彼の中では1号とZXが仁志の光と闇になりつつあった。

 

 そして、仁志は気付いていなかった。既に女性陣が漫画を読むのではなく彼の朗読へ聴き入っている事に。

 

「苦しいか……。お前はまるで……俺だ」

 

 1号の台詞を読む仁志。ヴェイグはその目で漫画の絵を見て表情を悲しそうに歪めている。

 

「もし脳改造を施されていたなら……。俺も……お前のように……」

 

 その台詞でヴェイグが顔を上げる。仁志の表情は、辛そうに歪んでいた。

 何故なら彼は知っているのだ。脳改造まで施された1号ライダーを、“仮面ライダーTHE FIRST”という作品を。

 故にその台詞が意味する光景を脳裏に浮かべながら、仁志は目を閉じて少しだけ息を吐くと意を決したようにその目を開く。

 

「だから、お前のその掻きむしるような苦しみ……っ! 俺が止めてやろう!!」

「「「おおっ!」」」

「ん?」

 

 明らかにヴェイグ以外の声が聞こえ、仁志はそこで我に返って顔を動かす。

 すると、響達が揃って自分を見ていたのだ。先程の声はヴェイグだけでなく切歌と響の出したものでもあった。

 

「……えっと、どこから聞いてた?」

「「「「「「「「「「最初から(デス)(です)」」」」」」」」」」

「あ~……ナルホド……」

 

 そして響達の返答を聞いて仁志は静かにヴェイグをテーブルへと乗せてその手に漫画を持たせるや……

 

「っ!」

「「「「「「「「「「「あっ……」」」」」」」」」」」

 

 その場から全力で逃げ出したのである。そのあまりの早さに誰もが追い駆ける事も呼びとめる事も出来ず、ただ茫然とその場に座っていた。

 

 やがて引き戸をやや乱暴に閉める音が聞こえて、そこで慌てて切歌とエルフナインが廊下へ顔を出したものの、既に仁志はそこからいなくなっていたのであった。

 

「ししょー……」

「兄様……」

 

 シュンと肩を落として居間へと顔を引っ込める二人へ、マリアと奏が苦笑を向ける。

 

「大丈夫よ。きっと恥ずかしかっただけだから」

「そうそう。また戻ってくるって」

「……デスかね?」

「だとしても、兄様があんな反応を見せるなんて思いませんでした……」

「うん、そうだね。私もビックリしちゃった」

 

 そっとエルフナインの肩へ手を置いてセレナは笑いかける。

 

「エル、お兄ちゃんはきっと照れてるだけだよ。もし怒ってたら一緒にごめんなさいしよ?」

「……それなら許してくれますか?」

「うん、大丈夫。お兄ちゃんがちゃんと謝って許してくれなかった事、ある?」

 

 その問いかけにエルフナインは首を左右に振った。仁志が謝罪されて許さなかった事などなかったのである。

 エルフナインの反応にセレナは微笑んでその体をそっと抱きしめた。

 

「ね? だから大丈夫だよ」

「エル、タダノは元々俺にまんがを渡して何かを取りに行きたいと言っていた。今頃それを取りに行ってるんじゃないか?」

「ホントです(デス)か?」

 

 ヴェイグの言葉にエルフナインの表情が一気に明るさを増す。同じように切歌もだ。

 そんな二人へヴェイグは笑顔で頷いた。

 

「ああ。俺が文字が読めないからタダノが声に出して読んでくれていたんだ」

「そういう事だったのね」

「成程ねぇ……。ただ、ヴェイグを膝に乗せて声に出して何かを読むってさ、正直親の読み聞かせに見えたよ」

 

 その奏の表現に全員が小さく微笑んだ。それもあって彼女達はどこか笑顔で仁志とヴェイグを眺めていたのだから。

 

(仁志さん、お父さんになったらあんな感じなんだろうなぁ。私のお父さんにどこか近いかも……。でも、きっと今の仁志さんならああなっても逃げない、かな? きっとあの頃のお父さんと以前の仁志さんは似てたと思うし)

(私には覚えのない事だけど、仁志さんが父親になった時が容易に想像出来た。本当に、私の女を刺激する方ですね、貴方は……)

(くそ、あんなもん見せられたらあたしは絶対仁志を諦めないぞ。……あんな風に、パパにされたら子供がどう思うかなんて容易に想像出来るんだよ、あたしは)

(覚悟を決めたからかしら。以前よりも仁志の父性が増してる気がする。もう、駄目みたいね。私は、本気で彼と家族を作りたいもの)

(ししょーって、エルやヴェイグといるとお父さんって感じが凄いデスよ。あ、あんなお父さんだったら子供も嬉しいデスよね。アタシも、あんなお父さん欲しいデス)

(私にはお父さんの記憶なんてない……。だからかな? さっきの仁志さん、理想のお父さんって感じだった。あんな風に子供の世話してくれる旦那さん、いいかも)

(前から思ってたけど、只野さんって子供みたいなところがあるから男の子相手ならすごくいいお父さんになってくれそう。女の子だと……気を付けないとエルちゃんみたいにされそうでちょっとだけ困るけどね)

(あーあ、どうすんだよ仁志先輩。あたしも含めて貴方に惚れてる奴がみんな女の顔してるよ。……本気で迫ってやろうかな?)

(お兄ちゃんとヴェイグさんって、お友達なのに時々親子みたいで不思議だな。私は……どうなんだろう? 妹だって思ってるけど、子供に見えてる時、あるのかな?)

 

 女となっている者達とまだそうなっていない者達。そして……

 

(兄様が戻ってきたら、ちゃんと謝ろう。それにしても……)

 

 エルフナインの視線がある物へ動く。それは仁志から渡された漫画。

 

(……仮面ライダーの話は以前の映画で知ったと思ってたけど、こうやってクローズアップされるとまだ全然知らなかったと分かった。改造人間というものがとても非道な行為である事も)

 

 ノーブルレッドがされた事に匹敵あるいは凌駕する非人道的行為。命を命とも思わぬ所業。エルフナインはあの映画で緩めに表現されていた部分を漫画で知ったのだ。

 

 そして思い出すのである。仁志から教えてもらったあの言葉を。

 

(人の振りぐらいは出来る。この言葉の意味がやっと分かった。ノーブルレッドの三人は人間に戻れるかもしれないと思って動いていたけど、ライダー達は戻れないと、いえ戻ってはいけないと考えたんだ。この異形の姿と力。それがなくては倒せない悪が、闇がある。その魔の手を阻むために、人の影になろうとしたから)

 

 それこそが人の優しく強い気高い魂なのだ。そう思ってエルフナインは漫画を手に取って抱き締めた。

 

(どこかの平行世界では、今もきっとライダー達が戦ってくれている。僕らの世界へアラートが鳴らないように、そうとは知らず、命がけで……)

 

 仁志から教えてもらった多くのヒーロー達。それらが実在するとすれば、彼らがいなければもっとギャラルホルンはアラートを発していただろうとエルフナインは考えたのだ。

 

「エル、どうしたデスか? 漫画を抱き締めたりして?」

「何かあった?」

 

 そんなエルフナインに切歌とセレナが気付いて声をかける。そんな二人へエルフナインは思った事を打ち明けた。

 幾多ものヒーロー達がこれまでも、これからもどこかで戦っている。それへ想いを馳せて感謝するようにしていたのだと。

 

「兄様の話では、平行世界を行き来して多次元宇宙の平和を守っているウルトラマンがいるそうです。もしかすれば、いつか皆さんはそのウルトラマンと出会うかもしれません」

「う、ウルトラマンとデスか……」

「もし会えたら驚きですね」

「私は、どうせ会えるならエースがいい。メビウスの映画でホテルのコックさんやってたから、お料理の事を教えて欲しい」

 

 以前にも増して料理へ力を入れる調らしい言葉だった。

 

「ならアタシはセブンデスかね? お馬さんの乗り方を教えてもらって、ついでにあのカッコイイ帽子をかぶらせてもらいたいデスよ。乗馬、憧れデス」

「私はコスモスに会いたいなぁ。怪獣と仲良くなる方法を教えて欲しい」

 

 切歌とセレナもそれぞれらしい理由で会いたいウルトラマンを挙げる。

 

「俺は……ダイナだな。人の光に触れた時の事を聞きたい」

「あたしはティガかな。闇と光を行ったり来たりした経験から闇への対処法を聞きたいかも」

「なら私はウルトラマンね。初めて地球へ来た時どう思ったのか。どうしてそこまで地球のために戦ってくれるようになったのか。それを知りたいわ」

 

 ヴェイグや奏は今回の事へ活かせるような意見を求め、マリアは純粋に宇宙人が地球へ抱いた感情を知りたがった。

 

「私はやっぱりメビウスです。どういう訓練を受けるのか聞いてみたいし、可能なら手合せとかして欲しい」

「あたしはタロウだな。教官やってるけど、昔は何でも兄弟の末っ子だったらしいじゃねーか。色んな立場での意見を聞けそうだ。あたしもそういう意味じゃ中間だしな」

「ならば私はジャックだろうか。何でもあのブレスレッドは槍にも盾にもなるそうだ。私も剣を時に盾代わりに使う事もある。そういう状況に応じた判断の下し方を御教授願いたい」

 

 響達の意見を聞いて未来は一人苦笑する。

 

「いっそ光の国、だっけ。そこへ行ってみたいかも」

「僕もです。ウルトラマン達の命を支えるプラズマスパークにも興味がありますし」

 

 エルが未来の意見に賛同したその時だった。玄関の方で引き戸が開いた音がしたのだ。

 

「「「兄様(ししょー)(お兄ちゃん)だ(デス)っ!」」」

 

 弾かれるように動き出す三人を見て響達が苦笑した。まさに父親が帰ってきた時の子供の反応だったからだ。

 

「ちょちょちょ、どうしたんだよ三人して。あー、もしかしてさっきの事か? あれはまぁ気恥ずかしさでな?」

 

 聞こえてくる仁志の言葉もそれに拍車をかける。そして誰もが理解するのだ。

 

 今仁志は、気分だけはエルフナイン達の父親なのだろう、と……。

 

――なぁ、何か俺、ここまでくっつかれる事やった?

 

 そうして居間へ現れるのは足元をエルフナイン、両腕を切歌とセレナにくっつかれて困り顔の仁志だった。

 それに誰もが笑い、仁志も笑った。家中に笑い声が響き渡り、あったかく幸せな雰囲気が全員を包んだ。

 

 そんな光景を見つめ、吐き捨てるように黒い雲のようなものが呟く。

 

――ふんっ、ノイズは無意味か。しかもゲートを閉じられてしまうなんて、ね。まぁいい。攻撃だけが攻め方じゃないわ。お前達の大好きな絆とやらを利用させてもらおうじゃない。果たしてお前達にそれを防げるかしら? ふふっ、あはは……。




ノイズ召喚は悪意の悪戯レベルの仕業でした。
そして遂に悪意がイノセントシスターへ手を出し始めました。
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