シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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久々の鑑賞会。クウガのギノガ戦からビートチェイサー登場前までとなります。やはりTVシリーズを見てるとなると時間がかかる(汗

ただし、今回はこれまでと少々雰囲気がこれまでと異なりますが……さてどうなるか……。


番外編 仮面ライダー編(クウガ)

 誰も言葉を発しなかった。モニターの中では、仮面ライダークウガこと五代雄介の心臓が止まった瞬間が流れていた。

 

「う、嘘デスよね? クウガが、五代さんが死んじゃうなんて……」

 

 キノコ怪人であるメ・ギノガ・デによる胞子攻撃を受け、五代の体ではアマダムがその胞子による腐食へ懸命に対抗していたのだが、その甲斐も虚しく五代の心電図は平行線を描いてしまった。

 

 つまり、心臓が停止したのである。

 

「お、お兄ちゃん?」

「姉さん、大丈夫です。クウガは、仮面ライダーなんです。仮面ライダーは、戦いが終わるまで死にません」

 

 五代唯一のかかりつけである椿医師から一条刑事へと五代の死亡が連絡される。

 その連絡をパトカーの中で聞いた一条。その彼の声などは周囲の雨の音で聞こえない。

 

「一体ここからどうやって復活するんだ?」

「不思議な力? アマダム、だっけ。それじゃないかな?」

「で、でもでも、あの怪人の胞子は内臓を腐らせるって……」

「あっ……」

 

 ドラマは一条が五代の死を彼の妹であるみのりへ告げる場面となっていた。

 一条から五代の事を聞いたみのりは、何故か悲しむ事も驚く事もしなかった。

 それを不思議に思う一条へ彼女は告げる。

 

――それでも兄は戻ってくるような気がします。

 

 今や戦士クウガでもある五代雄介。それを踏まえてみのりは強くそう告げたのだ。

 そして、その言葉を合図にしたかのように五代の体に異変が起きる。

 

――瞼の下……大きな瞳……瞳孔の散大か……?

 

 桜子が見つけた古代の碑文。そこにあった一文の意味を医学的な見地から気付く椿。

 

 そう、五代は死んではいなかった。

 怪人の胞子がある程度温度が高くないと活動出来ないと察したアマダムは、五代の体温を下げるために敢えて仮死状態にして体温を低下させたのだ。

 そして胞子を死滅させると同時に再び生命活動を再開させたのである。まさしく奇跡のような肉体制御法であった。

 

「「「「すごい(デス)……」」」」

「とんでもないね、アマダムって」

「神秘の輝石の力ね。だけど、やはりこう見ると五代雄介も……」

「人ならざるものと、なってきているんだな。少なくても、その体は」

 

 明けて翌日、晴れ渡る空に似つかわしくない存在が街で暴れ出す。

 雨による湿気などでより強力になったギノガが一条達警察を襲い始めたのだ。

 懸命に応戦する一条達だが、やはりその力の差は埋められず、あわやこれまでと思われたその時……

 

「「「「ああっ!」」」」

 

 白い影が一条を守るように現れ、ギノガを攻撃。

 それは白いクウガ。グローイングフォームと呼ばれる、力の弱った時の姿であった。

 

「間一髪、か……」

「分かってはいるけど痺れる登場だよね」

「カッコイイなぁ、やっぱり」

「さり気無いやり取りもいいよね。白い四号って訂正するのとか」

「全てを知ってる一条刑事だから、こその台詞ね」

 

 戦場を河川敷へ移し、対峙するクウガとギノガ。

 共に走り出すも、クウガが全身の力を叩き込むように着地を考えないパンチを叩き込んでギノガの機先を制する。

 そのパンチのダメージに呻くギノガを見て、クウガは勝機を悟り、若干距離を取って構えた。

 

「ライダーキックデス!」

「これで決めて! クウガっ!」

 

 気合と共に打ち込まれた蹴りは封印を意味する文字を刻む事が出来ず、あっさりと消えてしまう。

 それでもクウガは再度構え、再び走り出して大地を蹴って宙へ舞いあがり、その右足を蹴り出した。

 

「これなら!」

「……ダメです。まだ文字が完全では」

「だがさっきよりも濃くなってるぞ」

 

 それにクウガも気付き、三度距離を取ると構えた。

 その瞬間、足元の宝石に赤い色が入ったのだ。

 

「「「「「「「「「「「あっ!」」」」」」」」」」」

 

 そしてクウガは走り出した。その右足に熱を感じながら、走る走る走る。

 力強く大地を蹴って飛び上がり、回転し力強く右足を蹴り出しながら吼える。

 

――おりゃああああっ!!

 

 三度目の渾身のキックは見事封印の文字をギノガの体へ刻み、遂にその体を爆発させる事に成功した。

 

「「「「やったぁ!」」」」

「倒せるまで何度でも、か……」

「一番弱いはずの状態で、一度負けた相手に勝つ。いやぁ、すっごくヒーローって感じっ!」

「あの一条さんの台詞もいいよね。遅いぞだってさ」

「あのトドメの演出は良いな。音楽の力をまざまざと感じた」

「そうね。これで決める。そんなクウガの意思を感じたもの」

「仁志、あれって赤いクウガの力に戻ったって事でいいんだよな?」

「そう。ちなみに劇中じゃ読まれる事はないけど、赤いクウガ、マイティを意味する碑文は、邪悪なる者あれば、希望の霊石と共に炎の如くそれを倒す戦士あり。まさしく希望の存在なんだよ」

 

 仁志の言葉に全員が感心するように頷き、揃ってモニターへと目を向ける。

 そこには平和的なEDが流れていた。

 

 今日は実は恒例の週一度の集まりではなかった。

 何故なら仁志やクリスは勤務があり、調もシフトに入っている日だったのだ。

 更に言えば仁志は明けである。そう、つまり今日は本来集まる予定ではなかった。

 

 それでもこうして全員集まっているのは仁志が発起人だったからである。

 

――切歌やセレナがクウガの続きを見たがってるんだ。なので九時にマリア達の家へ来てくれない?

 

 既に見た事のある自分は時々仮眠を取るが、それでも良ければ全員集まらないかと。

 調の勤務終わりから全員がマリア達の家の居間へ集まり、二度目のクウガ鑑賞会がこうしてスタートした訳だった。

 

「さっきの、私達で言ったらギアインナーで勝つって感じかな?」

「G3FAが失敗した後って考えるのが妥当だろ」

「それで一度負けた相手に勝つ、か。そう考えると色々と思う事が多い展開だな」

「ギノガは身体能力で言えばメの怪人達の中でも弱い部類なんだ。それもあってクウガはグローイングでも勝てたんだよ」

 

 どこか眠そうな顔で仁志がそう言うとセレナがそっと彼へ近寄った。

 

「お兄ちゃん、そろそろもう一度寝た方がいいよ? 今夜もお仕事だよね?」

「あー……」

「兄様、姉さんの言う通りです。兄様の解説がないのは寂しいですけど、それはまた別の機会に聞かせてもらいますから」

「仁志、寝た方がいいわ。オーナーさんに心配されるわよ?」

「……そう、するか。じゃ、ごめん。どうせ昼過ぎになったら起きるだろうからライジングフォームの裏話はその時に」

「また地味に気になる事をししょーは言うデスね……」

「クスッ、切ちゃん、それが師匠だよ」

 

 あの海水浴以降調は時折仁志を師匠と呼ぶようになっていた。

 それを調は周囲へはこう説明している。将来のための花嫁修業として仁志から男性の目線や思考を教えてもらっているからと。

 未だ調は切歌以外には自分も仁志を異性として想っている事を伏せていた。その理由は一つ。知られると仁志との時間を取り辛くなるからだ。

 

 切歌と二人で仁志の下を訪れる事があっても、今ならばそこまでうるさく言われないし気にもされない。

 これが二人揃って異性としての行動と思われた瞬間からマリア達の視線が厳しくなる。それを調は理解し切歌と共謀して自分達の立場を周囲へ隠したまま動いていたのだ。

 

 居間の隅に敷かれたマリアの布団へのろのろと動き、仁志はアイマスクと耳栓を装着してそのまま眠りへついた。

 

「そういえば、昼はどうするんだい?」

「まだ何も考えてないの。何か案はある?」

 

 OPが流れる中、奏とマリアを中心とした先輩組は昼食に関して悩み始める。

 が、やはり食べる事に関しては右に出る者はない彼女が真っ先に手を挙げた。

 

「はい! 焼きそばとかどうでしょう!」

「響、それ海水浴の時に食べられなかったからでしょ?」

 

 そしてそのアイディアの根底を未来が瞬時に察してみせるまでで定番の流れである。

 

「立花らしい。だが、いい案だと思う」

「そうだな。ただ、これだけの人数となるとフライパンじゃ、なぁ……」

「ホットプレートとかあれば少しはマシなんだけどね」

「あるわよ、ホットプレート」

「「「「「……え?」」」」」

 

 さらりと告げられた言葉に響達が目を丸くする。マリアはそんな五人に苦笑しホットプレートを買った切っ掛けを話し出した。

 

 それは、今からもう一か月以上前の事。仁志がマリアの事を呼び捨てにし始めた頃までさかのぼる。

 毎日のようにマリア達の家で夕食を食べているため、仁志はこの家の食事面へ大きく関わっていた。

 ある時、マリアがエルフナイン達の朝食にパンケーキを出したいと打ち明けたのだが、フライパンでは複数一気に焼くのが面倒だと察した仁志が……

 

――色んな事に使えるし、いっそホットプレート買おう。

 

 と決断。その日の内に電気屋へ向かい、嬉しそうな顔で仁志が新品のホットプレートを持って顔を出したのだった。

 

「で、その夜に早速仁志の希望で焼うどんをやったのよ。で、ちょくちょく使ってるわ」

「そうなんですね。じゃ、それでお昼は焼きそばやりましょうよ」

「そうだね。ついでに夜はお好み焼きとかどうですか? それなら材料も似たようなものだし、焼きそばが余っても使えますよ」

「いいわね。じゃあ、お昼と夜とホットプレートに頑張ってもらいましょう」

 

 笑顔で話す響、未来、マリア。そんな会話を聞いてややイラッとしている者がいた。

 

「やっぱ仁志先輩ってこの家、ちょっと特別視し過ぎてない?」

「奏……」

 

 目を吊り上げ、奏はマリアを見つめていた。それは女の嫉妬。奏もどこかで分かっているのだ。仁志はマリアではなくエルフナインやセレナという幼い少女のためにと、この家へ色々気を回している事は。

 だが、それをまるで自分が愛されているように振舞っている風に見えるマリアがどうしようもなく嫌だったのだ。

 

 翼が嗜めるような声を出すも、奏はそれを無視するようにマリアを見つめていた。それは、下手をすれば睨みにも似ていて、響達が一瞬息を呑む程険しい。

 

「それはエル達がいるからよ。仁志はあの子達の兄であり父のように思って動いてくれているし」

「そうだろうけど、それを誰かさんがまるでうちの旦那がみたいに言うのが気になってさ」

「あらごめんなさい。私にそんなつもりはなかったけど、気に障ったみたいね」

 

 やや苛立つ奏とそれを余裕で受け流すマリア。言うなれば愛人と正妻の対峙だろうか。

 だが、そんな二人を見て翼が大きくため息を吐いた。

 

「そこまでにして。奏もマリアも仁志さんの目がなくなった途端にそれ? あの人が一番嫌がる事は、今のような事だと思うんだけど?」

「「っ……」」

 

 自分を理由に装者達が揉める。それを仁志が知ればどうなるか。

 最悪彼は必要ではない時は部屋へこもり、今のような時間を取る事はなくなる。

 それどころか、呼び方さえも最初の頃へ戻す可能性さえあった。

 そう、仁志が極端である事をもう響達も気付いている。

 故に、一度でも彼が自分が不和の原因と知ればどうするかを察していたのだ。

 

「先輩の言う通りだぜ。あたしらが仲良くしてるのが仁志は一番嬉しいんだ。下手すりゃ、自分と仲良くしてるよりも、だ」

「うん、それはそうだね。只野さんが今みたいな集まりをやるの、絶対それだもん」

 

 言って未来は寝ている仁志がいる位置へ目を向ける。彼女がいる場所からは見えないそこへ目を向け、未来は小さく笑みを浮かべてからやや真剣な表情で奏とマリアを見た。

 

「あの、二人が色んな意味で只野さんと親しいのは分かりますし、一番傍にいるって思うのも分からないでもないです。だからこそ、そういう事を言い合うならせめて二人だけの時にお願いします」

「み、未来……」

「響、奏さんもマリアさんも大人の女性なんだよ。だからきっと私達よりも只野さんへ思う事が多いんだと思う。ただ、それをぶつけ合われると私達はともかくエルちゃんやセレナちゃんがどう思うか。それを忘れないで欲しいんです」

 

 真っ直ぐ告げられた言葉は少しだけ声量を落として放たれた。

 それがエルフナイン達への配慮だと気付き、奏だけでなくマリアも申し訳なさそうに目を伏せる。

 そして響達三人は未来の言葉に目を見開いていた。要するに仲良くしなくてもいいからケンカするなら二人だけでやれと突き放したからである。

 

「み、未来? それじゃ、マリアさんと奏さんがケンカしてもいいって」

「そう言ったつもり。でも、勘違いしないで欲しいんだけど、これは何も二人だけじゃないから。響やクリスだって、ケンカするなら自分と相手しかいない時にして。私も今後そうする。クリスは知ってるだろうけど、前に響としたような状況で」

 

 今度はマリアと奏さえも目を見開いた。未来はそう言いながら笑っていたのだ。

 

「只野さんが私に教えてくれたんです。誤魔化さないと壊れる絆なんて早く壊してしまえって。もし私達の絆がそうなりかかってるのなら、それをどうするかを決めるのは私達自身じゃないと」

「未来、貴方……」

「でも、私はこうも思ってます。誤魔化しても壊れる絆はあるけど、誤魔化せば壊れない絆もあるんじゃないかって。私は、今の私達をこっちだと思ってます。自分達のためにって、そう誤魔化していけば、壊れないまま強く丈夫になってくんじゃないかなって」

「小日向……それは……」

「あんた、もしかして現状維持を考えてるの?」

 

 奏の問いかけに未来は小さく苦笑しながら頷き、チラリと視線をモニターへと向けた。

 そこに映る五代雄介の姿を見て、未来は噛み締めるように呟いた。

 

「みんなが出来る限りの無理をすれば、きっと何とかなる。私は、そう思います」

「未来……」

 

 響はその言葉がクウガの劇中で使われたものだと覚えていた。何故ならそれは、彼女も心に残った台詞だったからだ。

 

「ちょっと待って。未来、貴方はそれでいいの?」

「只野さんって、どこか似てるんです。私の、すぐ近くにいたお日様に」

 

 小さく微笑み未来は響へ目を一瞬だけ向ける。それを受けて響は妙な照れくささを感じて頬を掻いた。

 

「自分が我慢すればみんなが笑顔に、幸せになる。そう思ったらどれだけ辛い事も、苦しい事も頑張っちゃうんですよ。だからこそ、私は、それをあの人だけにさせたくない。誰か一人だけが我慢するなんて間違ってる。我慢するならみんなで。それをしないならみんなでしない。それが、私の考えです」

 

 はっきりと未来はそう言い切った。

 極論と言える考えではあるが、そこで語られた事は仁志のためにと未来なりに考えたものだと理解し響達は揃って押し黙る。

 切歌達はクウガに夢中でそのやり取りに気付かなかった。ただ気付いたとしても口を挟む事はしなかっただろう。

 

 何せ切歌の望みは未来と同じなのだ。みんな笑顔でいたい。仁志の願うものと切歌が願うものはまったく同じなのだから。

 調は少し違うが、彼女の場合大事なのは仁志を誰かが独占しない事。そこには自分も含めている。

 誰かが仁志を独占すれば、誰かが悲しみ、妬み、怒るからだ。それを誰よりも嫌がるのは他ならぬ仁志だと知っているからこそ、調は独占しようとは思わないのだ。

 

 セレナは独占を考えてはいないが、誰よりも仁志を好きで居続けられるのは自分だと思い込んでいるし、エルフナインは仁志を兄のようで父のようにも慕っているので独占など頭にない。

 つまり、年少組はまだ女のようで女ではないのだ。そして未来は女を通り過ぎて母の域に片足を踏み入れていた。

 

「みんなで幸せになりませんか? みんなが笑顔でいられるために、みんなが少しずつ我慢しましょうよ。それとも、誰かに大きな我慢をさせますか? 自分の笑顔のために。そうなったら、その誰かだけじゃなく大事な人も大きな負担を背負う事になるとしても、それでもいいですか?」

 

 笑顔で放たれた言葉の矢は、想像以上に鋭くマリアと奏の心を突き刺した。

 

「未来……怖いよぉ」

「うん、怖いと思うよ。だって私、自分が只野さんと一緒にいられなくなるなら全員道連れにって思ってるから」

「「「っ?!」」」

 

 思わず息を呑む響、奏、マリア。だが、クリスと翼は驚く事もなくむしろ納得するように苦笑していた。

 二人はあの海で未来から今のような話を聞いていたのだ。

 みんなで幸せになろう。それは仁志の傍で暮らそうと冗談半分本気半分で言い合った二人にとっても望むところな発想だったからだ。

 

「小日向、この話はここまでにしよう。今は、クウガを見ないか?」

「ああ。地味に気になる展開になってきてるしよ」

 

 未来の話を聞きながら翼とクリスはモニターへも意識を向けていた。

 二人にとっては未来の話は知っているものだったため、それによって響達三人がどう衝撃を受けるかはある程度察する事が出来ていたのだ。

 だからこそ騒ぐ事はないだろうと思い、二人はどこか安心してクウガの視聴を再開していたのだから。

 

「キックの時に出てたビリビリ、何なんデスかね?」

「分からない。ライジングフォームって言ってたから、その前兆?」

「かもしれません」

「じゃあ、五代さんが強くなろうとしてなる姿じゃないんだ?」

「分からないぞ。アマダムは五代の意思で力を与えてる。強い敵が出て来たら、その相手に負けたくないと思うだろ? それに応える形で強くなる可能性はあると思うぞ」

 

 ヴェイグの意見に切歌達は成程とばかりに頷き、続きを見るためにEDを飛ばす。そして始まる次回予告に目を輝かせたのだ。

 その姿に響達は小さく笑みを浮かべ、未来の言葉の意図を噛み締める。これを、未来は失いたくないのだろうと。

 

「……マリア」

 

 ポツリと呼ばれた事にマリアが視線を動かす。呼びかけてきたのは奏だった。

 奏は顔をモニターへ向けたまま、テーブルに肘を付けていた。

 

「仁志先輩、言ってたんだ。取り合うのはせめてこの面倒事が終わってからにしてくれって。だから、あたしも最低でもそこまでは我慢するよ」

「……そう。なら、私も自重するわ。仁志は必ずこの事件を終えるまでは選べないものね」

「そういう事。それに、下手な取り合いするとあの人、あたし達から離れるし」

「そうなのよね。それでこっちも、そんな男なんてって、そう言えないのが私達の泣き所だわ」

「仕方ないよ。あたしもマリアも立場ってもんが邪魔だ」

「本当に。それさえなかったらきっと……」

「仁志先輩以上の男を捕まえてる?」

「……そんな未来もあったかも、ね」

「でも、きっと上手くいかなくなる気がするよ。あたしやマリアが背負ってる役目みたいなものへの理解、結構難しいと思うから」

 

 クウガを見ながら話す二人。もう未来も響達もそれへ意識を向けなくなっていた。

 二人の雰囲気は先程までのやんわりと棘があったのと違い、似たような立場の相手への理解と共感が感じられるものだったからだろう。

 

「何だか、どんどん怪人のやり口が凶悪で残虐になってませんか?」

「ああ、そうだな」

「ゲゲルってのがゲームって意味だって仁志は言ってたな。それが、どんどん加速してるって事か」

「酷い。でも、これって見方を変えれば人間もやってる事なんですよ、ね?」

 

 未来の問いかけに翼とクリスが同時に頷く。

 

「特定の動物や魚を執拗に狙い、食べるのではなく数を競う事をしている者達はいる。そういう意味で言えば、怪人達の行動は人間らしいとも言えなくもない」

「まったく胸糞わりぃぜ。これが仁志が悪人にならなかった理由なんだろうさ。人間の悪い面をこいつは皮肉ってるんだからな」

「人間の良い面も悪い面も隠す事無く見せる。だけど、少しだけ、ほんの少しだけ優しさや希望が上回る。だからこそ、仁志さんはヒーロー物が好きなんだろうな」

 

 序盤はただ多く殺せばいいという風な怪人達の行動も、この頃になると何かルールのような物が持ち込まれ始め、何か変化が起き始めている事を見ている者へ感じさせる。

 それに伴ってクウガの体に起きる謎の放電現象。複数の謎が絡み合い、その一つはある答えとなって響達へと示された。

 

「「「「「紫のクウガが変わった(デス)っ!?」」」」」

 

 銀の鎧だったクウガが電撃を体へ走らせると同時に変化を起こし、その鎧を鮮やかな紫へと染め上げたのだ。

 持っていた剣も刀身が伸び、より強力な外観となった。それこそがライジングフォームと呼ばれる強化形態だった。

 

 ライジングタイタンとなったクウガはそれまで苦戦していたメ・ガリマ・バを圧倒。その力を持って見事メ集団のリーダー格を打ち倒してみせたのだ。

 

「……重厚感がすげぇな」

「うん、強そうって感じ。あと、単純にカッコイイ!」

「ヒーローらしさが増したね。金色の差色がいいよ」

「こうなると他の色もどう変化するのか気になるわね」

「私は赤のクウガが気になるな。他の姿は武器を持っているから強化が反映される部分が分かるが、赤は徒手空拳だ。一体どこへあの凄まじい力を反映させるのか」

「キックがトドメだし、足じゃないですか?」

「それは分かるんだ。問題はどういう形で見せるのかが読めない事だ」

「なら先輩、もうしばらく待つんだな。多分赤いやつは最後のお披露目だと思うぜ」

 

 そのクリスの言葉に翼だけではなく響達も疑問符を浮かべた。何故だと、そう思ったのである。

 クリスもそれを察して小さく苦笑しながら口を開いた。

 

「いや、思い出せよ。次が空飛んでる奴だろ? てことは緑のクウガだ。これ、あの最初の頃の逆で色を使ってくんじゃねーか?」

「「「「……あぁ」」」」

 

 クリスらしい鋭い読みに納得する響達。そこへ……

 

「クリス先輩、大当たりデスよ! パッケージ裏を見るとそんな感じデス!」

「切ちゃん、ネタバレ禁止」

「うわぁ、緑のライジングフォーム、カッコイイです」

「青や赤のクウガもライジングになるともっとカッコいいね。お兄ちゃん、どのクウガが好きなんだろ?」

「……よく見ると手の甲に文字があるな」

「「「「どれ(ですか)?」」」」

 

 パッケージを見ながら話す年少組に響達は微笑みを浮かべる。どうしても彼女達のやり取りは心があったかくなり、笑みが零れてしまうのだ。

 

「じゃ、一旦ここで休憩よ。お昼と晩ご飯の買い物に行かないと」

「あたしもついて行くよマリア。荷物持ちは多い方がいいだろうし」

「助かるわ。調はどうする?」

「じゃ、少しだけ仮眠する。切ちゃんは?」

「アタシは……セレナ、ししょーの部屋の掃除に行きますか?」

「あ、はい。そうします」

「俺は寝る」

「僕は姉様についていきます!」

 

 愛らしいエルフナインに誰もが笑みを浮かべた。その表情のままクリスは翼へと目を向ける。

 

「先輩はどうするよ? あたしは留守番してるけど」

「そうだな……ならば買い物へ同行するか。二食分ともなればそれなりに荷物も多いだろうし」

「私も行きまーす」

「私は……あっ、ホットプレート洗っておきます。マリアさん、場所教えてください」

「助かるわ。えっと……」

 

 こうしてそれぞれに動き始め、調は仁志の寝ている横へ布団を敷いて少しだけ嬉しそうに目を閉じる。

 ヴェイグもすっかりお気に入りとなったクッションへ身を沈めて眠り始めた。

 未来はホットプレートを軽く洗い始め、クリスは何気なくテーブルへ突っ伏した。

 

「ねぇクリス」

「ん?」

「正直に答えて欲しいんだけど」

「ああ」

「私達、元の世界に戻っても、今みたいに笑えるかな?」

 

 その問いかけにクリスは言葉を失った。何をバカなと思った訳ではない。何を言ってるんだと思った訳でもない。

 心の底からそれは自分が目を背けていた事だと理解してしまったからだ。

 

「出動やアラートどころか訓練さえもない。そもそもギアが必要とされてない。そんな世界でこうやってみんなで支え合って、笑い合って過ごしてきて、元の生活に戻れるかな?」

「そ、れは……」

 

 言葉に詰まる。その理由がクリスには痛い程分かっていた。

 

(あたしは、もうこのあったけぇ居場所が、時間が忘れられないんだ。これを失うなんて、出来るわけねぇ……)

 

 更に未来はトドメとも言える一言を投げかける。

 

「それに、そこに只野さんはいないんだよ?」

「っ?!」

 

 もし調が起きていれば、仁志が起きていれば、あるいは誰かもう一人いれば何かが変わったかもしれない。

 だが残念ながら今この場で起きているのは未来とクリスだけ。このやり取りを聞いているのも二人だけだった。

 

「私は、そんなの耐えられない。もう、耐えられる自信がない」

「……お前」

 

 未来の震える声にクリスが呆然と顔を上げる。その視界には、泣きそうな顔で自分を見つめる未来がいた。

 

「ねぇクリス? ここで、みんなで幸せになるのはダメなのかな? それって、そんなに許されない事かな? 普通の暮らしって、一般的な生活って、そんなに私達はしちゃダメな事かな?」

「それは……」

 

 クリスは無意識にギアペンダントを握り締めた。ひんやりとした感触がクリスの気持ちを落ち着かせる。

 未来の言葉はそのままクリスの言葉であった。この世界で、仲間達と共に仁志を交えて暮らしていきたい。

 その想いが強かったからこそ、誰よりもあったかさに飢えていた彼女だからこそ、その心に強い光を宿した直後闇へと堕ちてしまったのだから。

 

「装者が、そういう事から遠いのは分かってる。でも、でもさ、だからってずっとみんなは普通になれないの? 他の人達が出来る事を、許される事を、ダメだって、諦めなさいって言われ続けないといけないの!?」

「未来、お前……」

 

 心からの叫びにクリスは思わず未来の名を呼んだ。それは自分の叫びだと、そう思ってしまったのである。

 

 そのクリスの無意識の呟きに未来は気付いて表情を驚きに変えるも、すぐに嬉しそうな微笑みを目の前の少女へ向けた。

 

「クリス、今、私の事を名前で呼んでくれたね」

「っ!? い、いや、今のは、その……」

「嬉しいよ。ありがとうクリス」

 

 陽だまりと響が評した笑顔にクリスは否定するのも憚られ、言葉にならない声を小さく漏らし続けた結果……

 

「…………おう」

 

 認めて受け入れるしか出来なくなったのだった。

 そこで改めて未来とクリスは話し合った。今のような時間を続けていくにはどうしたらいいのかを。

 悪意を倒す事は絶対だが、それは急ぎ過ぎてもいけないと二人は意見を一致させていた。

 それは表向き悪意を警戒してだが、実情は違う。本心ではもうしばらくこの時間に身を浸していたいという欲求からの考えである。

 

 それと、二人は知らぬがある意味悪意の導きでもあった。

 

「じゃ、未来はこのままここで暮らすって言うのかよ?」

 

 一度呼んでしまい、それを聞かれてしまったためにクリスは開き直って未来を名で呼ぶ事にしていた。 

 クリスの問いかけに未来は辛そうに首を小さく横へ振る。本音はそう言いたいが、それはさすがにダメだと分かっているために。

 

「そうは言ってないよ。でも、もう少しぐらいこっちにいたい。で、その間に何とかここと行き来出来る方法を見つけるか、あるいは……」

「あるいは、何だよ?」

「只野さんに、私達と一緒に来てもらえるように説得する」

「っ」

 

 それはクリスと翼がどこかで諦めていた事。仁志から一度明確に拒否されてしまったために、頭の中から追い出してしまっていた発想。

 

「無理だ。仁志は、ここを捨てるつもりはないって」

「どうして?」

「両親がいるってのが一番でかい理由だ。あたしも、そう言われたら納得するしかねぇ」

「そっか……」

 

 未来もクリスと同じだ。両親を捨てて自分達の世界へ来て欲しい。それがどれだけ身勝手で酷い事かを理解しているからだ。

 世界を越えればもう連絡さえも出来ない。看取る事も出来ない可能性が高いし、死んだ事さえ知らされる事はないのだから。

 

 両親が平行世界にしかいないクリスとまだ存命な未来。

 立場こそ違うが、両親への想いや愛情は同じぐらい強い二人は、仁志へ親を捨ててついて来てとは言えそうになかった。

 

「あれぇ? クリスと未来だけ?」

「「っ?!」」

 

 そこへ聞こえてきたのは寝惚けた顔の仁志の声。それに弾かれるように顔を動かした二人に彼は寝惚けたまま笑みを浮かべた。

 

「みんなは買い物?」

「お、おう」

「は、はい。お昼と夕飯の買い物を」

「夕飯?」

「えっと、その……」

 

 未来からの説明を聞いて仁志は寝惚けた頭なりに理解して、ならばとふらふらと洗面所へと移動すると少しの間を置いて再び台所へと戻ってきた。

 

「ホットプレートで焼きそばやお好み焼きかぁ。賑やかな食事時になりそうだな」

「なると思いますよ」

「間違いねぇな」

「ははっ……。っと、それにしても起きた時はビックリしたよ。アイマスク取ったら調が隣で寝てるんだもんなぁ」

「「っ」」

 

 どことなく嬉しそうな仁志にクリスと未来が微かに苛立ちを浮かべる。

 

(今目の前に私達がいるのに……)

(何でそこで後輩の事を言うんだよ……)

 

 恋をしている二人にとって、今の仁志の言葉は決して気分のいいものではなかった。

 やや不機嫌な空気を漂わせる二人に仁志もさすがに気付いたのか、どこか不思議そうな顔で彼女達を見た。

 

「えっと……どうかした?」

「「別にっ」」

 

 明らかに機嫌を悪くしている。そう感じた仁志はその理由を考えようとして、すぐに思い当ったのか小さく声を漏らして頬を掻いた。

 

「ごめんごめん。今はクリスと未来を見てないといけないか」

「「ぁ……」」

 

 苦笑と共に告げられたその一言だけで二人の心は喜んでしまう。

 何せキスを交わした事もあって、今の二人は片想いではなく一種両想い。

 しかも仁志は下心ではなく真心で彼女達と接している。何故なら未だに彼は彼女達へ自発的に淫らな行為をした事はないのだ。

 

「あの、只野さん」

 

 そんな時、未来は先程まで話していた事で仁志へ会話を振ろうとしていた。

 すると、玄関の戸が開く音がして三人揃ってそちらへと顔を動かした。

 

「「ただいま(デス)っ!」」

「「「おかえり」」」

 

 戻ってきたのはセレナと切歌であった。二人は仁志が起きてるのを見るなり嬉しそうに笑みを浮かべて彼へ抱き着いた。

 

「「お兄ちゃん(ししょー)っ!」」

「っと、あっついなぁ」

「「む(な)っ……」」

 

 一見無邪気に見えるセレナと切歌だが、未来とクリスには分かっていた。二人が仁志へ抱き着いた瞬間から浮かべる笑みの質を変えた事を。

 

 微かではあるが女の顔を見せたのである。

 

「クリス……」

「……分かった」

 

 視線と呼びかけだけで互いの考えを通じ合わせ、未来とクリスはその場から動き出して背中側から仁志へと抱き着いたのだ。

 

「えっ?! 未来!? クリスも!?」

「だ、ダメですか?」

「ほ、惚れてる男に抱き着いて何が悪いんだよ?」

 

 きっとかつての仁志であれば狼狽え、何かしら理由を挙げて四人を離しただろう。

 

 だが今の仁志は違った。

 

「悪くはないよ。ただ一旦離れてくれ。椅子から離れるからさ。その方がいいだろ?」

 

 その言葉と同時に仁志はセレナと切歌の頭を撫でた。ただし顔はクリスと未来へと向けて。

 

「俺だって男だからな。可愛い女の子に抱き着かれるのを嫌がる理由はないよ」

 

 微かに照れを見せながら仁志は四人の少女に偽らざる本音を告げ、その両腕を広げて笑った。

 

「えっと、おいで?」

 

 その直後四人が顔を見合わせ、悪戯めいた笑みと共に飛び付いた事で仁志が支えきれず倒れ、その音で調が目覚めてしまい、結局仁志は倒れた形で五人の少女を抱き締める事となる。

 

「暑い……な。さすがに五人もいると体温で割とな感じだ」

「離れて欲しいですか?」

「デスか?」

「ふふっ、むしろもっとくっついちゃおうか?」

「賛成です。お兄ちゃん、嫌がってないもん」

「ま、そりゃそうだろ。でも、い、嫌ならそう言えよ?」

「了解。まぁ、こんな天国はそうそう体験出来ないだろうからもうしばらく堪能するよ」

 

 傍から見れば下手をすれば若い父親へ懐く娘達と言えなくもない光景。

 だが、その五人全員が女として目の前の男へ好意を抱いているという状況。

 しかし男がそれを正しく認識しているのは四人まで。一番年少の少女は、まだどこかで憧れにも似たものだと思っているのだ。

 

 彼は知らない。その少女、セレナは、それ故に強く深い想いを抱いてしまっている事を。

 闇の導きに誘われ、無垢な心は歪みを与えられていた。早く大人になりたいという気持ちを刺激され、仁志をずっと大好きでいられるのは自分だけと思う事で。

 

「ちょっと、何してるのよ?」

「あらら、仁志先輩がデレデレしちゃってるよ。うし、じゃああたしも参加するか。エル、行くよ」

「はいっ!」

「私も続きまーすっ!」

「ちょ、ちょっと……」

「ふふっ、マリア、ここは私達も参加するべきだと思うぞ?」

「翼まで……もうっ!」

 

 当然それを帰ってきたマリア達に見つかり、ならばと悪ふざけを始めた奏に続けとばかりに響やエルフナイン、翼さえも参加し、最後にはマリアも仁志へ覆いかぶさっていった。

 

「こ、これはさすがにヤバいって……。つ、潰れる……」

 

 それで本気で仁志が死にかける事になるのだが、それもまた最後には笑い話の思い出となるのだった。

 

 

 

 楽しく賑やかな食事を終えた仁志達は、ソースの香りが残る中で再び意識をモニターへと向けた。

 

 次のゲゲルを行う怪人はゴ・ブウロ・グ。遂に最初から武器を持つ怪人が出現したのだ。

 しかも、その殺害方法はこれまでと違い何らかの法則性があるというもの。そう、戦いは次の次元へと上がった事を示していた。

 

 五代雄介はそれに一条刑事だけでなく、彼を通じて間接的に未確認対策本部の者達からも支援を受けながら対抗していく。

 ライダー一人ではなく警察や桜子などの力を借り、恐ろしさを増すグロンギへと立ち向かっていくのだ。

 

「何だか、どんどん私達っぽくなってきた」

「デスデス。警察とクウガが協力しないと敵の行動さえ掴めないデスよ」

「対策本部の方達も、クウガへ悪印象を持ってないみたいです」

「だってあの刑事さんはクウガに助けられたんだもん。それに、ずっとクウガはみんなの笑顔のためにって頑張ってる。それを分かってるのは誰でもなく刑事さん達だよ」

 

 セレナの言葉にエルフナインは頷き、ヴェイグも同じように頷いた。

 そして劇中では、五代が恩師である神崎昭二から教え子が東京へ向かったために探して欲しいという依頼を受け、浅草でその少年と出会い会話する場面となっていた。

 

 そのやり取りは、思わず見ている響達まで心を揺さぶられるものだった。

 

 迷えばいい。悩めばいい。それは悪い事ではなく、誰しもが経験しながら前へ進んでいく。簡単に答えが出る事なら迷いも悩みもしないのだから、答えが出るまでいくらでも迷い悩めばいい。

 

 そんな言葉を優しくかける五代に誰もが感じ入っていた。

 彼女達はこれまで何度となく迷い、悩んできた。その度にそれを乗り越え、あるいは答えを出してきた。

 だが、その裏にどこかで悩んでいてはいけないと、迷っていてはいけないという気持ちはなかったかと思ったのだ。

 五代の言葉は、悩みや迷いを否定するのではなく、そして非難するものではなく、肯定し受け入れて生きていこうとする優しく強い言葉だった。

 

「……本当に、強い奴ってのは笑顔が優しいんだね」

「奏さん……」

「仁志先輩も、きっとこういうのを見てきたからそうあろうとするんだろ?」

「どう、だろうな? でも、そうありたいとは思うよ」

「五代さんもきっと、ずっと迷い悩み続けているんだろう。クウガである事や、戦い続ける事へ」

「重みがある訳だぜ。ホント、何でこうヒーローってのはみんな心が強いんだよ?」

「違うよクリス。心が強いからヒーローになれるんだよ。いつでもみんなの笑顔のために。こんなの、普通の心じゃ折れるからさ」

 

 モニターの中では再び現れたブウロへ対抗するべく、五代が変身しトライチェイサーを駆ってパトカーに乗る一条とすれ違い様に拳銃を受け取っていた。

 

「「「「「お~……」」」」」

「凄いな、おい。意思疎通完璧じゃねーか」

「阿吽の呼吸だな」

「カッコ良過ぎるよ一条さん。変身出来ないけど、この人もヒーローだよ」

「うん、そうだね。そういう意味じゃ警察官はみんなヒーローかも」

「クウガもやっぱカッコイイじゃん。敵の攻撃避けながら強化形態へ変わるとかさ」

「そして、そこから瞬時に敵を捕捉し必殺の攻撃を叩き込む。見事だわ」

 

 最初の頃、五代の事を優しいだけの頼りない男と見ていた奏。

 彼女は気付いているだろうか。同じように思っていた仁志へ、今では強く好意を寄せるようになっている事を。

 

 次のゴ・ベミウ・ギは見ている全員が怒りを露わにするルールで殺人を行った。

 プールやスイミングスクールなどの頭文字を音階とし、大人や子供を音符に見立てて革命のエチュードを奏でるように殺していたのだ。

 

 音楽というものへは理解を示す反面、人を殺す事への躊躇いはないグロンギ怪人。

 更に、初めてはっきりと子供が犠牲になったと描かれた事もあり、響達の表情が怒りに染まる。

 

「酷い……子供を敢えて狙うなんて……」

「段々胸糞悪いのが増してんな、おい。もしこんな事を錬金術師共がやった日にゃ、あたしは冷静でいられる自信がねぇ」

「あたしもだよ。しかも相手はそれにまったく心も表情さえも動かないときてる。本当に、イラッとするね」

 

 何とかベミウのルールを把握し、先手を打つ一条達。だが、プールやスイミングスクールを封鎖しても、まだ人が泳ぐ場所は残されている。

 海水浴場も遊泳禁止としたが、その通知を知らず泳いでいる者がいるかもしれない。その可能性を懸念した五代と一条は次の楽譜の音からベミウの行き先を推察、そこへと急行した。

 

「エル、ぜったいれいどってそんなに凄いの?」

「はい。しかも、劇中でも説明していましたが、それを瞬時に作り出して、尚且つ心臓だけに作用させるなんて僕らの世界でも不可能です。本当にクウガの戦う怪人達は、存在していればノイズなどとは違った意味で脅威となります」

「シンフォギアでも厳しいデスか?」

「切ちゃん、クウガでもライジングフォームじゃないと勝てないんだよ?」

「はっ!? 何て説得力のある言葉デスか!」

 

 切歌の中ではクウガ>シンフォギアの図式となっているため、調の言葉はまさに納得しかないものだった。

 

 だが、ここで仁志が笑みを浮かべながらこう告げる。

 

「大丈夫。諦めなければギアは必ず応えてくれる。どんな恐ろしい闇が相手でも、希望を持ち続ければ光の力を与えてくれるさ。エクスドライブや様々な特殊ギアのように」

 

 暗に装者はヒーローなのだと告げるそれに切歌は瞳をキラキラ輝かせて頷いた。

 

「はいデス! ししょーの言う通り、アタシ達は絶対諦めないデスっ!」

「切ちゃん……」

「ふふっ、切歌さんらしいですね」

「はい」

 

 苦笑する調達。それを見てヴェイグは仁志へと顔を向けた。

 

「クウガもそうなのか?」

「ヒーローはいつだってそうだよヴェイグ。諦めないって事は簡単そうで一番難しいんだ」

「……そうだな。俺も、経験した。俺もどこかで諦めかけていたから」

「ヴェイグさん……」

 

 仁志の膝の上で遠い目をするヴェイグだったが、それもほんの少しで消してみせる。

 そしてどこか凛々しい表情でモニターの中に移るクウガを見た。

 波打ち際でベミウと対峙するクウガ。その手にあったドラゴンロッドは、ベミウの能力で凍らされて使い物にならなくなり素手となっている。

 

「不味いな。青のクウガは武器が無ければ決定打を与えられない」

「あの構え、私は結構好きなんだけどなぁ」

「あっ……クウガの足元に枝が」

 

 未来の言葉通り、波がクウガの足元へ小枝を運んだのだ。

 それに気付いたクウガは、一か八か大きく足を踏みつけるように動かして小枝を宙へ浮かしながらベミウの攻撃をかわす。

 

「「「「「「「「「「「「お~(へぇ)(凄いわね)……」」」」」」」」」」」」

 

 全員が感嘆する程の見事さでクウガは金の力と呼ばれるライジングフォームへ超変身。

 その手に小枝を掴むと同時にそれをライジングドラゴンロッドへと変化させたのだ。

 

「おおっ!」

「カッコイイ……」

 

 その強化された跳躍力を活かして放つライジングスプラッシュドラゴンがベミウを捉え、そのままクウガは遠心力を使って相手を遠く海原へと投げ飛ばした。

 

「凄い爆発……」

「ですね……。ん? 待ってください」

 

 セレナと共にベミウの最期を見つめていたエルフナインだったが、その感想を聞いて何かに気付いたのか顔を仁志へと向ける。

 

「兄様、どうして怪人が爆発する際の威力が増してるんですか?」

 

 その問いかけに仁志は大きく驚き、そして感心するように笑みを浮かべた。

 

「凄いなエルは。まさかここでその事に気付くなんて」

「えっ? じゃあ、やっぱりそうなの?」

 

 セレナの言葉に仁志はどこか複雑な顔で頷いた。

 グロンギ怪人達はその階級が上がるにつれてその身に秘めたエネルギーも高くなり、その結果爆発時の範囲を拡大させてしまっている。

 仁志はそれを話した後、こう付け加えたのだ。そしてそれは、怪人が強ければ強い程凄まじい事になっていくのだ、と。

 

「みんな、次のカメの怪人を倒す話で今日は一旦終了にしよう。そこがクウガの第三のターニングポイントだから」

 

 その言葉に誰もが息を呑んだ。何故ならそこはいよいよ赤のクウガ、マイティフォームのライジングフォームが初登場する展開だからだ。

 クウガの基本形である姿。それが強化される話がターニングポイントとなる。それに誰もが微かに嫌な予感を感じ取ったのだ。

 

「あっ、この人……蝶野さん、だっけ」

「ああ、あのピラニアの時に出て来た奴か」

「未確認に憧れていたという人物だったな。まさかまた出てくるとは……」

 

 かつて未確認生物へ憧れていた青年、蝶野。五代がクウガである事を知る数少ない一般人である彼が、今回の話では大きく関わる事となる。

 

 とある企業の企画へと出す作品を描き上げた蝶野は、それを届けるためにバスへと乗り込む。

 だが、折悪く未確認生命体が出現。その影響で道が封鎖、渋滞が発生し時間がなかった蝶野はバスを途中下車し単身走る事を選んだ。

 

 一方その頃、クウガは対峙したゴ・ガメゴ・レの力に苦戦しタイタンフォームで金の力を解放、勝負を付けようとするが、その必殺の一撃であるライジングカラミティタイタンを、何とガメゴは受け止めたのである。

 

 しかもそのまま金の力の使用時間が過ぎてしまい、クウガはガメゴを逃がしてしまう。

 

「そ、そんな……ライジングフォームが負けたデス……」

「効いてはいたみたいだけど……」

「亀がモチーフだから防御力とかが今までの奴らよりも高いって事か?」

「かもしれないね」

「貫通力がもっとも高い剣でダメとなると他の武器も似た結果となる。そうか、それで赤の金か」

 

 翼の言葉通り、五代は今回の相手に対し赤のクウガで金の力を使おうと思っていると一条へ打ち明ける。

 ただ、彼はそこで告げるのだ。とんでもない事になる気がする、と。

 それを聞いて一条は珍しいと思い五代の直感を信じた。後の事は心配するなと告げ、不安を抱える五代の背中を後押しすると、彼は彼なりの無理をやろうと動き出す。

 

「あの五代さんが不安を見せるって……」

「んなに赤の金はヤバいのかよ……」

「私達の敵であるノイズなどは倒した場合そこでただ消えるだけだけど、怪人達は爆発する。これが大きな違いね」

「ああ。しかも、それがどんどん範囲を大きくしてるってなると、だ。これ、倒す場所まで考えないといけなくなるかもね」

 

 そんな中、ガメゴ人間体とぶつかって気を失っていた蝶野は椿の勤務先で目覚め、提出しようと思っていた作品が締切に間に合わなかった事を理解し荒れていた。

 

 そして五代が怪人をさっさと倒さないからこうなったと言い始めたのだ。

 その内容に怒りを覚えた椿が放った言葉で、蝶野が激情のままに拳を振るって椿の顔を殴り付けた。

 

「……拳を握って相手へ叩き付けるって、嫌な気持ちがする人にはとっても辛いんだよね」

「響……」

 

 椿を殴ってしまった蝶野。だがそんな彼へ椿は静かに問いかける。

 

――俺を殴ってどんな気がした。嫌な感じがしただろう。それをあいつはずっとやってるんだよ。みんなの笑顔を、守るためにな。

 

 告げられた言葉の重み。

 恐ろしい相手と戦うという恐怖と体が自分のものではなくなるかもしれないという恐怖の中、笑顔を絶やさぬようにしようとしている五代雄介という男。

 その事を理解し蝶野は言葉がなかった。

 更に椿は蝶野の描いた絵を見て教えるのだ。それを五代が見て心が和むと言っていた事を。

 

「何だか重なって見えるよな……」

「え?」

「立花に、か。ああ、私もそう思っていたところだ」

「えっ?」

「俺もそう思うよ。フロンティア事変の頃の響と五代雄介は近いんだ。その体がどんどん変化していく。その結果、響は死ぬかもしれないとなり、五代は戦うためだけの生物兵器になるかもしれないと言われる。それでも、目の前で困っている人が、流れる涙があるならと拳を握る。本当は、そんな事をしたくないのに。自分しかいないならやるしかないって、そう言い聞かせて」

「仁志さん……」

 

 そして迎える再戦の時。既に初戦での傷を癒したガメゴに対し、クウガは出来るだけ人気のない場所へと相手を誘導してみせる。

 一条の援護もあって、遂にクウガはその時を迎えた。そう、赤の姿で金の力を解放する瞬間を。

 

「……おおっ!」

「ライダーキックの準備で変わるんだ……」

「右足に装飾品が増えました」

「カッコイイ……」

「これなら勝てるのか?」

 

 走り出すクウガを余裕綽々といった様子で待ち構えるガメゴ。

 それを意にも介さず、クウガは走る走る走る。

 

「決まったわね」

「ああ、自分の中の恐怖や不安を受け止めて乗り越えようとする奴と、恐怖や不安を感じられない奴じゃ、どっちが強いかは決まってる」

「キックの見た目は変化なし……」

「だが、おそらく目には見えない変化があるはずだ」

 

 ライジングマイティキックの威力は推定約50トン。更により強力になった封印の文字も加わり、そのダメージがガメゴの耐久力を上回った。

 その次の瞬間ガメゴは爆発を起こし散る。だがその爆発はこれまでよりも大きく、街を包み込むのではないかと思わせるものとなったのだ。

 

「マジ……かよ……」

「これが、これが五代さんの恐れてた事なんだ……」

 

 そこで話は終わる。流れてくるEDを聞きながら誰もが言葉を失っていた。

 

「……あんな爆発、街中で起こしてたら被害がとんでもない事になるよ」

「それだけじゃないわ。下手をしたら二次災害まで引き起こしかねない。あれが原因で火災が起きてもおかしくないもの」

「怪人はどんどん強くなるのに、クウガは倒す時の事も考えないといけないなんて……」

「しかもあの金の力は長続きしねぇ。短時間でここぞって時にしか使えねーんだ。クウガに不利な事だらけだぜ」

「金の力が優位性を作ったかのように思っていたが、逆を言えばそれを使わねば倒せないようになったという事か。であれば、クウガは劣勢に追いやられつつあると言えるな」

 

 翼の言葉に奏とマリアは頷いた。彼女達で言えばツインドライブなどを使わねば倒せないカオスビーストがそれである。

 あとは通常のギアでは互角さえも難しい相手であるカルマ・ノイズだろう。それらがもし倒した際に大爆発を起こすとなれば、その対処法は一気に厳しさを増すとも思っていた。

 

「ししょー、クウガは、五代さんはこれからどうなるデスか? まだ強そうな相手、沢山いますデス。しかもそのゲゲルのやり方もそれぞれで違うデスし、このままじゃ……」

「そう。もうクウガ一人では対処し切れない段階になった。一条さんとの連携も限界なんだよ。だからこそ、ここがターニングポイントなんだ。クウガ達にとっても、未確認にとっても」

「ここから更に戦いは激化していく……」

「五代さん、辛いだろうな……」

「でも、皆さんのようにきっと戦うはずです。いつか、クウガが必要なくなる時まで」

 

 エルフナインの言葉に仁志は頷き、やや重たい空気を変えるべく一つの情報を告げる。

 

「それに、もうじきクウガ専用の新型バイクが登場するんだ。警察がクウガのために制作した特別マシン。その名も、ビートチェイサー」

「「「「「「「「「「「ビートチェイサー……」」」」」」」」」」」

「ゴウラムとの合体を考慮し常人では扱えない速度が出せるように作られた、文字通りクウガのためのバイクだ。トライチェイサーよりも更に上の最高速が出せるんだよ。最高時速420キロだ」

「420……凄いですね」

「もしあの時にあれば、あの錬金術師も舌を巻いたでしょうね」

「でも、ライダーギアでも扱えるか不安」

 

 バイクが趣味である翼にとって、その最高速は恐ろしさと同時に凄みを感じるものだった。

 そんな彼女へ仁志は更なる追加情報を与える。それはゴウラムと融合した場合の最高速。

 何と570キロ。その速度に翼だけでなく誰もがクウガの身体能力の凄さを感じる。

 本当なら仁志はそこで最後のとっておきの情報を言いたかったのだが、それはある意味で楽しみを奪ってしまうかもしれないと判断し口を閉じた。

 

「ししょーししょー、クウガはどんどん敵が強くなってるのが分かり易いデスが、他のライダーもこんな感じデス?」

「敵の強化されていく感じがって事?」

「デス」

 

 切歌の問いかけに仁志は腕を組んでどう答えたものかと悩み始める。実際にはクウガ程分かり易い流れとなっている事は少ないためだ。

 彼の好きなRXなど最強という称号を冠される怪人が出る事が常だったし、BLACKでは怪人の強さに明確な差があるような描写はそこまでなかった。

 そしてそれは他のライダーにも言える事が多く、ズやメ、ゴと言う集団で強さを区分けしているクウガが特殊と言えたためだ。

 

「……クウガ程分かり易くされてるのは少ないかな」

「デスか。じゃ、ライダーと怪人はどっちも同じぐらい強くなってくデスか?」

「えっと、基本的に先に強くなるのは怪人達、悪側なんだ。で、ライダー、ヒーロー側はそれに負けたり苦戦する事で更なる強さを身に着けるべく動く。これがどんなヒーロー物でも大抵基本になってくる。で、ライダーは現在はともかく昔は改造人間。つまりその力は作られたもので限界が決められているんだ」

 

 もうそこだけでエルフナインなどの一部は理解した。定められた性能。それを越えるというのがどういう事かを。

 

「では、1号ライダー達は下手をすれば死んでしまうような事をしていたんですか?」

「そうなる。で、ある時怪人に負けた仮面ライダーV3、風見志郎は傷だらけの体でそれに打ち勝つ特訓をするんだけど、それを心配したおやっさん、立花籐兵衛へこんな風に答えてる。怪我は治るかもしれない。だが敵に捕えられた人達は2度と帰ってこないんですよ、と……」

 

 その言葉の持つ意味を感じ取り、響達装者は無意識にギアペンダントを握り、エルフナインとヴェイグはそんな彼女達を見ていた。

 

「彼らはいつだって力無き人々のために戦ってきた。人類の自由を、平和を守るためにその命を賭けた。ヒーローは死を恐れない訳じゃない。でも、それ以上に犠牲を出す事を恐れるんだ」

 

 そこで言葉を切って仁志はゆっくりとその場にいる全員を見回していく。

 

「君達と、同じように」

 

 優しい笑みと共に告げられた言葉は、一人の例外なく全員の心へ響いた。

 仁志は知っている。響達の葛藤などを。故に言い切れた。彼女達もまたヒーローと同じなのだと。

 

「そして、俺も君達のようになれる可能性を持ってる。人は誰もが光になれるんだ。信じる気持ちが、諦めない心が不可能を可能にする。ウルトラマンだけじゃない。ヒーローの条件は、意外と簡単なんだよ。どんな時も諦めない。それさえ出来ればいいんだから、さ」

「ししょー……」

 

 切歌の肩へそっと手を置いて仁志は微笑む。それを切歌はこう受け取った。

 

(ししょーはアタシ達をヒーローだって言ってくれてるデス。そして、自分もそうであろうとしてるんデスよ)

 

 決して諦めないで欲しい。そういう願いを受け取り、切歌は力強く頷いてみせた。

 

「任せてください! 誰よりもアタシは諦めるなんてかしこい事、しないデスから」

「それはケースバイケースでお願いしたいけどなぁ。なっ、調?」

「うん、本当に。切ちゃん、時と場合を考えてね」

「何でアタシは注意されてるデスかっ?!」

 

 納得いかないとばかりに叫ぶ切歌に誰もが笑った。それに切歌は最初こそ憮然としていたが、ほんの少しで同じように笑顔を見せる。

 分かっていたのだ。仁志が自分のように場の空気を変えるために調を巻き込んだ事を。だから切歌もそれに乗った。みんなが笑ってくれるようにと。

 

 そこから夕食作りが始まり、お好み焼きという事もあって色々な具材を試していく事となる。

 王道の豚玉やイカ玉に始まり、チーズ入りやエビ入りなどとそれぞれが意見を出し合いながらいくつも焼いていく。

 

「そ、それじゃあやりますっ!」

「エル、頑張って」

「え、えいっ! ……出来ましたっ!」

 

 ひっくり返す事をアトラクションとしてエルフナインやセレナ、ヴェイグなどが担当。その愛らしさや微笑ましさに誰もが笑顔となっていく。

 仕上げにソースを塗れば、その零れたものがプレートで焦げて食欲をそそる香りを放つ。鰹節や青のりなどを振って焼き立てを切り分けて口へ運ぶ。

 

「はふはふっ……ん~っ!」

「はい、響、お茶」

「んくんく……っはぁ、ありがと未来!」

「どういたしまして」

「あー、幸せ。なんで自分達で焼いたやつってこんなに美味いんだろ?」

「さあ? でも、きっと一番は焼いてる時から楽しんでるからじゃないかな?」

 

 奏の疑問へそう返して、翼は取り皿の上にあるモチチーズ入りのお好み焼きを口へと運ぶ。

 ソースの香りに混じって鰹節と青のりの香りが鼻腔をくすぐり、熱いのさえも御馳走とばかりにはふはふと息を吐きながら味わうそれは、言葉にするのも忘れる程幸せな味だった。

 

「これ食べたら俺、ちょっと散歩してくるかな。今日は運動不足過ぎるし」

「兄様、僕もいいですか?」

「エルかぁ。じゃ、肩車させてもらおうかな。負荷をかける意味も込めて」

「じゃ、私も行く。ヴェイグさん、どうしますか?」

「俺は……たまにはいいか」

「どこまで行くのよ?」

 

 まるで父親へついていく娘二人とペットだ。そう思いながらも口には出さずマリアは行き先だけ尋ねた。

 散歩と言っているが、きっとあてもなく歩く事はしないだろうと思ったのである。

 それはエルフナインやセレナがついていくと表明したためだ。

 

「そうだなぁ……エルを敵情視察に連れて行った事ないし、セブンまで行くか」

「あら、じゃあ私も一緒に行こうかしら?」

「あっ、私も行きます。また行った事ないんですよね、その系列。奏さん達はどうします?」

「あたし達は遠慮しとく。翼とツヴァイウィングの事で話し合いもしたいしさ」

「そうだね。立花は……」

「私はクリスちゃんとお店の前で別れて駅前の本屋へ行きます。切歌ちゃんと調ちゃんはどうするの?」

「アタシは……お風呂掃除でもしてますか」

「じゃ、洗い物は私がやろうかな。マリア、そういう訳だから」

「悪いわね」

「別にいい。代わりに欲しいものがある」

「ふぅ、そんな事だろうと思ったわ。それで? 何が欲しいの?」

「カップ麺売り場の写真」

「「「「「「「「「仕事絡み(かよ)(デスか)っ?!」」」」」」」」」

「調は仕事熱心だな」

「そうですね」

 

 のほほんとヴェイグとエルフナインはそう言葉を交わすと、それぞれ一口サイズに切られたお好み焼きを口へと運ぶ。

 口の端にソースを付けて笑みを浮かべる二人。すると、それにお互いに気付いて視線を向け合う。

 

「「ヴェイグさん(エル)、ソースが付いてます(るぞ)」」

 

 その様子を見て誰もが笑みを見せる、そんな少し早めの夕食風景だった……。

 

 

 

 隣り合って歩く私とクリスちゃん。これからクリスちゃんはバイトで私は一人でお散歩がてら駅前をブラブラ。

 

 ホントは仁志さん達と一緒に行きたかったけど、クリスちゃんの事を考えたら一人きりでお店へ行かせたくなかった。

 

「なぁ」

「ん?」

 

 そんな時、隣のクリスちゃんが声をかけてきたので顔を向ける。でも、クリスちゃんは私を見ずに少し下を見ていた。

 

「お前、この事が終わったらどうすんだ?」

「…………え?」

 

 一瞬クリスちゃんが何を言ったのか分からなかった。ううん、分かりたくなかった。

 

「仁志はさ、あたしや先輩にこう言ったんだ。今んとここの世界を離れるつもりはないって。その理由は、ここに仁志のパパとママがいるからだ」

「そう、なんだ……」

 

 当然だよね。私だってここに残り続ける事が出来ないのは向こうにお父さん達がいるからっていうのもある。

 

「あたしも、パパとママがいる世界にいたいって気持ちがあるから分かる。やっぱさ、余程じゃない限り自分の親を見捨てられないっての」

「うん……そうだよね」

 

 私も、そうだった。見捨てる事なんて出来なかった。

 どんなに悲しくて、苛立って、笑顔を失いそうになっても、お父さんを見捨てる事なんて出来なかった。

 

「だけど、あたしはあの子と一緒に仁志を説得しようと思ってる」

「説得……?」

「何とかあたしらの世界へ来てくれないかって。だって、このままじゃあたしらは、仁志のパパやママよりも大事じゃないって言われてるようなもんだ」

 

 何故かそのクリスちゃんの言葉が、心に強く突き刺さった。

 私達が大事じゃないって、そう仁志さんに言われて気がして、何だかとっても胸が痛くて苦しくなった。

 

「そ、んな事ないと思うよ?」

「分かってんだよあたしも。頭では分かってんだ。これとそれは別だって。でも、何だか知らねーけど胸の奥がムカつくんだよ。想いを通じ合わせて、あたしらはリビルドまで手にした。なのに、どうして世界は、あたしらを引き離そうとすんだよっ!」

「クリスちゃん……」

 

 両目をきつく閉じてクリスちゃんが叫ぶ。その悲痛な声が私の胸を貫く。

 一緒だって、同じだって思った。私もそうなんだ。

 せっかく出会えて、やっと想いを結べたのに、最後にはお別れしないといけない。しかも、下手をしたらずっと会えなくなる。

 

「なぁ、手を貸してくれ。仁志の説得はあたしとあの子だけじゃ、二人じゃ無理だ。みんなで、みんなでやらなきゃ」

「クリスちゃん……」

「頼む。あたしはさ、今のこの時間が好きなんだ。大好きなんだ。失いたくねぇ」

「分かるよクリスちゃん。私も、私もそうだから」

 

 クリスちゃんの手を取って、私は出来るだけ優しく笑う。

 

「上手くいくか分からないけど、私達の想いは伝えようよ。仁志さんへ、私達の本気を伝えよう」

「……ああ」

 

 この後クリスちゃんとは少し歩いてお別れした。バイトが終わったらまたお話しようって約束して。

 そして一人で駅前を目指しながら歩いて、ふと思う。もし、もしも私達の本気の気持ちを聞いても、仁志さんはお父さんやお母さんの方が大事って、そう言ったらどうしようって。

 

 ……大丈夫。そんな事ないよね。だって、だって仁志さんは……

 

――私達の、ヒーローなんだから……。




番外編に悪意は出ません。というか出しません。
ただ、その影響力が出ないとは言いません(汗

純粋に鑑賞会を見たかった方、申し訳ありません。
ただ、只野が起きていればギスギスもドロドロもないはずですので、次の鑑賞会やカラオケなどを楽しみにしてくださると助かります。

……きっとないはずです(汗々
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