シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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雪音クリスがやってきたっ!


繋いだ手だけが紡ぐもの

「ったく、酷い目に遭ったぜ……」

 

 そう言いながらこちらを涙目で睨むのは雪音クリスと言う名の美少女だった。

 響とのデートというか散歩を終えて部屋でのんびり過ごそうと思ったら、まさかの来客が来ていたと言う訳だ。

 

「それにしても何でクリスちゃんがここに?」

「そりゃこっちの台詞だ。何でお前がここにいるんだよ?」

 

 その問いかけに響が言葉に詰まったみたいになってこっちへ視線を向けてきた。助けてって事かな?

 

「ここでの拠点を確保し続けるためだよ」

「あ? 拠点確保?」

「そう。こっちには二課どころか風鳴機関さえないのは知ってる? つまりこれまでの平行世界みたいに君達を支援出来るまたはしてくれる組織や場所はない。この俺みたいなただの一般人の暮らすこのボロアパートの一室。これが君達が持てる唯一の出入り口であり拠点なんだ」

「そ、そうなんだよ。エルフナインちゃんも言ってたでしょ? いつ只野さんも変化の影響を受けるか分からないって」

 

 俺の言葉に響が慌てて言葉を足してくれた。成程、たしかにそれはある。どうして俺だけがこの変わってしまった世界で唯一影響を受けなかったのか、か。

 

「だからお前はこうしてこいつに会いに来てるのかよ?」

「そ、そうだよ。それに、調査もしないといけないし」

「調査だぁ? お前一人で一体何をどう調べるって」

「ストップ。雪音さん、そこまでだ。君の言いたい事は分かるけど、それを少なくても今の君が言う事は出来ないと思う」

 

 響へ食って掛かる雪音さんを制止する。知ってはいるけど、本当にこの子は素直な言い方が出来ないんだなと実感。

 

「どういう意味だ」

「俺が言うのも何だけど、君は、いや響を除いた装者達は自分達の色々を知ってる俺と会うのが嫌って理由でここへ来るのを避けたんだろ? 人としては分かるけど、装者って立場で言ったらそれはちょっと無責任じゃないか? 本来響じゃなくてイヴさんや風鳴さん、そして君のような年長で分析や推理が出来る人間が来るべきじゃないだろうか。少なくても響一人であたらせる状況じゃないと思うよ」

「只野さん……」

 

 俺は装者の子達よりも年齢だけなら上だ。正直人生経験で言ったら負けてるとは思うけど、それなりに社会で揉まれただけの三十路間近の独身男だって言う時は言うぞ。

 響はきっと寂しかったはずだ。今までだって平行世界で一人きりなんてなかった。この子は誰かといる事で強くあれる子だって、俺は太陽の三撃槍で改めて感じたんだ。

 

「…………お前の言う通りだ。あたしらのすべき事を、今までそいつに丸投げしちまった」

「クリスちゃん……」

「だからこそ、こうしてあたしは来た。たった一人に面倒事を押し付けるつもりはねぇ」

「そっか。なら感謝するよ雪音さん。俺は只野仁志。好きに呼んでくれ。名前で呼ぶのに抵抗あるならあんたとかお前でもいい」

 

 俺がそう言うと雪音さんは一瞬だけ息を呑んで、それから息を吐いて観念するような顔でこっちを見つめた。

 

「はっ、ホントにご存じって訳か。なら、お望み通りで呼ばせてもらうぜ」

「ああ、それでいい。色々キツイ事を言ってすまなかった」

「いいっての。その、そっちも悪い奴じゃないってのは分かったからな」

 

 少しだけ照れくさそうな雪音さんを見て本当に可愛い子だと思った。

 きっと情報だけで俺の事を勝手な思い込みで見てたんだろう。無理もないと思うからそこには何も言わない。

 何せこっちは彼女の辛い過去や平行世界での親子の再会なんかも知っているんだ。なら、避けられて当然だと思う。

 

「にしても、じゃあさっきまで調査に行ってたのか?」

「うえっ?!」

 

 ……ま、こうなったら正直に話そう。それが良さそうだ。

 

「えっと、雪音さん。落ち着いて聞いて欲しいんだけど……」

 

 そうして説明をする事十分少々。雪音さんも最初こそ眉を顰めていたが、最後には呆れていた。

 

「つまりなんだ? お前はこいつとデートしてたと?」

「そ、その、うん……」

「……普段なら文句の一つでも言うとこだけどな、今回はまぁ許してやる。大体調査って言っても何から手を付ければいいか分からねえし」

「そう! そうなんだよ! 未だに何も起きてないんだ、こっちで」

「起きてもらっても困るんだけどね」

 

 事実、俺だけが認識している大きな異変はあるんだ。何で“戦姫絶唱シンフォギア”に関わる全てが変化したのか。それだけは本当に謎だ。

 

「もうカルマ・ノイズが出る事はないだろうし、まさかあれが復活するとか考えたくねーぞ?」

「あれって……世界蛇?」

 

 俺がそう予想を告げると二人が驚いた顔をして、すぐに納得する顔へ変わった。

 

「只野さん、そこまで知ってるんですね」

「じゃ、あの世界蛇の巫女の事も知ってるんだよな?」

「まあ。ミョルニル関係の色々やスクルドの事なんかも」

 

 何せあのイベントはゲームの一種の目玉だったからなぁ。

 

「……じゃ、ここは装者絡みの色々が解禁出来るって事か」

「まぁ、俺が知ってるだろうし、何より聞かれたところで誰も何とも思わないよ。きっとよく練られた作り話だなって思うぐらいだ」

 

 何せそもそもそういうものだったんだ、ここでは。数多くある創作物の一つ。それが戦姫絶唱シンフォギアだったんだから。

 

 それが、どうやら雪音さんには衝撃だったらしい。分かってはいたけど改めて言われると色々思うんだろう。

 実は俺が言わないようにしている事がある。それは、彼女達を使ったエロい物があったと言う事。これ、絶対彼女達の心を大きく傷付ける。

 だから絶対この事は言わない。教えるつもりもない。創作物として彼女達の存在はこの世界にあった。この事からそこへ思い至る人間が出ないとも限らないけど、俺は絶対に認めない。

 

 ……例え、俺もそういうもののお世話になっていたとしても。

 

「ホント、ここはとんでもねーとこだな。でも先輩辺りは喜ぶかもしれねー」

「翼さんが?」

「あとはイヴさんもだろうね。ここならあの二人も有名人じゃなくただの一人の女性でいられる」

「あっ……」

「そういうこった」

 

 雪音さんはそう言ってこちらへ顔を向けた。

 

「なぁ、ホントに何か妙な事が起きたりしてないのかよ? その、シンフォギアってアニメがなくなった以外に」

「それがさっぱり。もしかしたら国家レベルとかになればあるのかもしれないけど、悲しいかな俺は何の権限もない一般人だ。得られる情報も新聞やテレビみたいに検閲される可能性が拭えない物ばかりでね」

 

 そう、国家レベルで隠蔽なんかされたら俺には知りようもない。勿論調べる事も出来ない。それはきっと目の前の少女達も同様だろう。

 

「……だとするとやべぇな。もしかするともう何か起きてるかもしれねーって事か」

「可能性はゼロじゃない。でも、変な話だけど君達が動くような事件って隠蔽が出来るレベルじゃないと思うんだ。必ず何らかの形で発表する事になると思う」

「…………例え誤魔化すとしても隠し通せないって?」

「多分。あっ、そうだ。雪音さん、響も、もし良かったらなんだけどちょっと協力してくれないか?」

「「協力?」」

 

 訝しむような雪音さんと疑問符を浮かべる響という違いはあったけど、二人共こっちの話を聞いてくれるようだ。

 と言っても大した事じゃない。俺の勤務先のコンビニで夕方勤務の人が足りなくなりそうなのだ。

 で、オーナーが頭を抱えているのを見て、俺は何とか力になりたいと思ったのだが、俺は俺で夜勤の要となっているので動かす事も出来ない。

 

「そこで、二人にこっちに来ている間だけでも助けてもらえないかと」

「あのな、あたしらがいつこっちに来るか分からねえんだぞ?」

 

 雪音さんの正論で返事をしようとしていたであろう響が口を軽く開けたままで止まった。

 

「分かってる。だから確認したいんだ」

「確認?」

 

 俺は雪音さんではなく響へ目を向ける。

 

「響、こっちで過ごした時間とそっちで流れてた時間はずれてた。これは間違いない?」

「は、はい」

「この前の時はそっちで一日がこっちでは三日。これも間違いない?」

「そ、そうですけど?」

「そういう事か……」

 

 どうやら雪音さんは察してくれたらしい。一方の響は首を傾げている。可愛い。

 

「最初に響がこっちで二時間ぐらい過ごした時、そっちは数分しか時間が経過していなかった。多分なんだけど、そうなるとこっちとそっちは時間の流れ方が違うって事じゃないと思う」

「ああ、だとすればその違いが一度目と二度目で違うなんてのは有り得ないからな」

「ええっ!?」

「もしかしたら、戻る時にその人が無意識で願う経過時間に設定しているのかもしれない。二人なら分かるんじゃないかな? あの同じ一日が繰り返される夏の出来事。あれに近いような感じ」

「えっ!? あ、あれと似てるんですか、ここの世界」

「んな事もあったな、そういえば」

 

 この二人共通の出来事で時間の流れが関係する事件、ヴァルキリーズ・エンドレス・サマー。あれと同じように、この世界だけが彼女達の世界の時間と切り離されているんだ。

 まだ確証が取れた訳じゃない。でも、何となくそんな気がする。じゃないと響の体験した経過時間のズレが説明出来ない。

 

「響、雪音さん、自分達がギャラルホルンを通った時間、覚えてる」

「私は本部に行った時間なら」

「あたしもだ。でも、それで十分だな」

「そうだな。じゃあ、二人で答え合わせをしてくれ」

 

 その間に俺は飲み物でも用意するか。立ち上がって冷蔵庫まで移動。中にはいつものように廃棄のシュークリームが一つ。ここに来るのは響だけだと思ってたからなぁ。これは……いや、きっとあの二人なら半分こするだろう。

 そんな事を考えながら家用に買ってるコンビニで置いてる安い紙パックの緑茶をグラスへ注ぐ。で、もう一つは湯飲みへ注ぐ。

 

 ……一人暮らしだから自分の分だけしかそういう物がないのが悲しい。いっそ百均でも行ってコップでも買うか? いや、どうせなら本人に選んでもらおう。

 で、グラスと湯飲みにシュークリームを持って戻ると二人がこっちへ同時に顔を向けた。

 

「あっ、シュークリーム!」

「そう。響大好きの廃棄品」

「廃棄?」

「コンビニって毎日なんやかんや捨てないといけない食べ物が出るんだよ。で、本来は捨てるんだけど、俺のとこみたいにこっそりともらってもいいって言うとこはあるんだ」

 

 本当は駄目な事なので大っぴらには言えない事だけど、俺みたいな人間にはこれが意外と生命線だったりする。だから今のバイトを辞められない。

 

「あれ? 一つだけ?」

「そりゃあたしが来るなんて予想出来ねーからな」

「そっか。じゃ、半分こしよう」

「はぁ? 別にいいっての。一人で食えよ」

「いやいや、クリスちゃん、これ本当に美味しいんだよ! 私、この世界に来る一番の楽しみになってるぐらいだもんっ!」

「お前はシュークリームを食いにここ来てんのかっ!?」

 

 うん、このまま見事な漫才をやってくれそうだけど、近所迷惑って言われると困るので止めに入る。

 

「そこまでにしてくれないか? ここ、見ての通り作りがそこまで良くないんだ。壁も薄いからさ。隣は今いないけど上はいるし、苦情来るかもしれないから」

「そ、そうか。わりぃ」

「すみません……」

「いいよ。で、雪音さん、悪いけどここは折れてくれない? 響の性格だと頷いてくれないとしばらく引きずるだろうから」

「うっ……それは……」

 

 俺の言葉を後押しするように肩を落としながら雪音さんを見つめる響。何というか、あざとい。

 雪音さんもそれは分かってるらしく、チラリと響へ目を向ける。そこにはシュークリームの袋を両手で持って見せつけるようにしている響がいた。

 

「……出来るだけ綺麗に分けろよ?」

「うんっ!」

 

 少し照れくさそうな雪音さんと嬉しそうに笑う響。何かこれはメモリアカードになりそうな絵だな。

 で、シュークリームを響が上手く割れなくて、雪音さんが呆れつつも小さ目な方を奪うように持っていった辺りに彼女の不器用な優しさが見えた。

 

 二人して美味しそうにシュークリームを食べる姿を眺め、俺は正直満足してた。

 何だろうな。まだ三十前だけど、気分は下手したら父親だ。まぁ親戚のおじさんが妥当だとは思う。

 

 その後、二人から互いの時刻に関しての話を聞いて複雑な気持ちとなった。

 

「そっか。やっぱりおかしいのか」

「はい。私が本部に来た時間とクリスちゃんが来た時間がそこまで変わらないんです」

「開いてるのが大体多く見積もっても五分程度だ。でも、お前らはデートやら何やらしててそれ以上の時間を過ごしてる。てなると……」

「もしかしたら、ここの時刻とそっちの時刻が合致してるのってその日最初にここへ来た人間だけかもしれない」

「じゃ、一旦戻ってみようよクリスちゃん。それで戻ったらクリスちゃんが本部に着いた時からほとんど変わってないかもしれないし」

「……それが一番検証には適してるか。うし」

 

 立ち上がる雪音さんと響が聖詠を唱えてギアを纏った。リアルで見ると本当に一瞬なんだよなぁ。アニメじゃ結構エッチな感じも受けたのに、現実はこんなもんだ。

 

「じゃあ、只野さん。すーぐ戻ってきますね」

「ああ、またすぐに来る」

「待ってるよ。でも、そこまで慌てないでいい。あと、出来れば一週間ぐらいこっちで滞在するかもって言っておいて」

 

 響だけなら泊まりは駄目だけど、雪音さんも一緒ならいいだろう。あと、夜勤明けの今の俺じゃ正直性欲よりも睡眠欲を優先すると思う。

 一人暮らし始めたばかりの頃なら危なかっただろうなぁ。ホント、体力落ちてるの実感するよ。徹夜とかもう出来ないし。

 

 そんな事を考えながらノートPCへ吸い込まれるように消える二人を見送り、俺は畳んであるペラペラな布団へ目を向けた。

 

「……布団、もう一組買おうかなぁ」

 

 さすがにおっさんの使っている布団を嫁入り前の女の子に使わせるのは気が引ける。そうと決まればネットで……あっ。

 

「そうだ。今、PC使えないんだった」

 

 仕方ない。スマホでやろう。画面やら何やらで面倒なんだよな、こっちだと。

 というか、気分が完全に親戚の女の子を預かるおじさんの気分だ。響とあんな時間を過ごしても、やはり年齢差を考えるとこういう風になるんだろうか?

 

 ……いや、これは女性経験がないのも影響してる。臆病なんだろうな、そういう事に。

 

「まっ、今はそういうのに臆病なぐらいで丁度いい」

 

 何せ当分ここに年頃の女の子二人を置く事になるんだ。問題は履歴書の記入だろうけど、まぁそこはネカフェの住所を借りるなり俺の地元の学校を書く事で何とかしよう。

 採用自体は俺が口添えすれば確実だろうし、何より二人して可愛い女の子だ。おそらく俺が何も言わないでもほぼ採用は間違いないと思う。

 

「っと、戻りました!」

「はやっ!?」

「よっと、戻ったぞ」

「お、おかえり……」

 

 体感五分ぐらいだ。てか、二人して何か荷物を持ってる? もしかして、あれってお泊りセットが入ってるんだろうか?

 えっ? もしかして本部へ戻って報告した上に宿泊用意までしてきたのか? あの短時間で? となると本気でこっちと向こうの時間の流れはおかしい。もしかするとこれもこっちの異変に関係してるのか?

 

「只野さん、やっぱり予想通りでした!」

「お前の言ったように、あたしらが一度おっさんのとこへ戻った時、あたしが本部に着いてから十分と経ってなかったぞ」

「ま、マジか……」

 

 自分で言っておいてなんだけど、いざそう言われると驚くもんだ。

 

「それで、師匠や未来にも許可をもらってきました」

「この時間の流れ方の検証もかねて、あたしらがこっちに一週間滞在してもいいってな」

「只野さんが心配してた事もクリスちゃんと一緒なら解消出来るだろうしって」

「あ、うん。そこはそうだろうけど……」

 

 問題は寝具がない事なんだよな。まだ寝ないといけない時刻まで時間もあるし、今から買いに行くか?

 

「よし、じゃあ二人共買い物に行こう。せめてもう一組布団を買わないといけない」

「あっ、そっか。私は只野さんと一緒でもいいけどクリスちゃんは」

「「は?」」

 

 響の言った事に俺と雪音さんの声が重なる。その瞬間、響が自分の言った事に気付いたのか、顔を真っ赤にして口を押さえた。

 俺と一緒でもって、そう言ったよな? え? 何? 俺みたいなおっさんと一緒に寝てもいいって……え?

 

「……まぁ今のは聞かなかった事にしてやる。でもいいのか? 正直そんなに裕福じゃねーだろ、お前」

 

 あまりの内容に頭がパニックになりそうな俺へやや申し訳なさそうな顔を向ける雪音さん。それで俺も意識を切り換える事が出来た。

 たしかに俺の財政はいつもギリギリだ。貯金もほとんど出来ていない。酒もたばこもギャンブルもやらないから生活出来てるけど、なぁ。

 

「そうだけど、少しぐらい男の見栄を張らせてくれ。何より可愛い女の子二人をおっさんの使い古した布団で寝かせるなんて出来ないし、床の上で寝かせるのなんてもっと気が引けるんだ」

 

 チラっと下へ目を向ければ、そこには色褪せたようなカーペット。雪音さんもそれを見て表情を歪めたので俺の言葉を拒否する事は出来ないらしい。

 

「と言う訳で、今から行こう。ホントはネットで頼むか色々見てからと思ったけど、すぐに必要になったから」

「そう、だな。悪いが頼む」

「お、お世話になります」

「いや、むしろこちらこそだ。ついでに百均にも行こう。二人共着替えなんかは持ってきただろうけど、コップとかはないんじゃないか?」

 

 俺がそう問いかけると二人は揃って失念していたって顔をした。いや、そうだろうな。今まではきっとそんな事を心配するような泊まりはなかったはずだから。

 

「だからそれも買わないと。で、二人には履歴書書いてもらうから」

「「履歴書?」」

 

 上がった疑問の声に俺は思い出す。そういえばこの子達ってちゃんとしたバイト経験とかないもんな。

 なので簡単に説明する。そこでついでに二人の簡単な設定も考える事に。

 まず二人は高校の友人で、色々訳ありのためネカフェ生活をしている。そこで俺と知り合ってバイト先を探していた事を聞いた俺から夕勤の人手不足を知って応募したと、こんなとこ。

 学歴に関してはクリスはつい最近まで外国暮らしだったので高校だけ書いてもらって、響は中学高校と書いてもらう事に。で、当然俺が卒業した高校にしてもらう。それもあって俺が口添えするって流れに出来るし。

 

「な、何だかちょっと無理ないですか? それに、嘘つくなんて……」

「仕方ないよ。二人はこっちじゃ存在しないはずの二人なんだ。学歴も何もかもでっち上げるしかない」

「そうだな。で、これまでと違って金銭的にも状況的にも余裕はねえ。なら、あたしらも多少は稼ぐ事をやらねーと」

「そ、そうだけど……」

 

 どうやらここに互いの育ちの差が出てるようだ。これまで一般社会の中で生きてきた響は、経歴や自分を偽るような事に抵抗感を覚え、一方の雪音さんは幼少の頃の経験もあるから、生きるためには汚い事や嘘も受け入れると腹を括れるんだろう。

 

「ごめんな響。俺がもう少しまともな仕事に就いてれば良かったんだけど……」

「只野さん……」

「しょうがねーよ。今回は色々異常事態だ。おっさんも金銭面の支援は難しいって苦い顔してたし」

「だろうね。何せ時代も違えば世界も違う。換金できる物で支援をしようにも、それも下手をすれば面倒事になりかねない」

 

 俺みたいな奴が金塊や宝石を持って換金へ行くなんてのは、周囲から警戒や奇異の目で見られる事請け合いだ。

 でも、正直このままだと二人にバイトしてもらったとしてもキツイ事に変わりはない。資金援助は無理でも、何か他に援助してもらえる方法は……あっ。

 

「そうだ! ならせめて食料で支援は無理かな? 野菜とかだけでももらえると非常に助かる」

「食べ物か……。多分それなら何とかなるだろ。今度戻ったらおっさんへ話してやるよ」

「ありがとう。最近野菜が高くてさ。おかげで栄養も偏る偏る」

 

 一応勤務時に野菜ジュースを買ってはいるけれど、やっぱり直接食べる事もするべきかなと思うのだ。

 

 とにかく、こうして俺は二人を連れて寝具やコップなどを買いに行く事になった。

 それにしても、まさかあの立花響や雪音クリスと、ど、同居する事になるとは夢にも思わなかった。

 今日はシフトに入ってるからいいけど、休みの日、どうなるんだろうな、これ。




例え話ですが、響とクリスが只野の世界で一年過ごしても彼女達の世界では下手をすれば一日程度になる可能性があります。
ご都合みたいに思えますが、これも一応理由があるのでご理解ください。

……そうしないと装者達の平和な日常とか描けないし(ぇ?
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