シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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一度全力(しかも魂を殺しかけた)までやった二人だからこそ、再戦は色んな意味で重たいものがあります。

今考えるとGって二組の仲良しコンビにえげつない展開だったんですね……。


ギザギザギラリ☆フルスロットル

 闇の道となったゲート内を通って、俺達は調の案内でゲームで言う“先覚の協力者”の舞台となった平行世界へやって来ていた。

 未来のアイギスとジュエルの合わせ技なバリアのおかげでヴェイグの鼻も前回程酷い状態にはされなかったが、それでも即座の感知は不可。

 

 なのでとりあえず調が切歌と別れたという場所を目指す事に。

 

「切ちゃん、無事でいて……」

「調ちゃん……」

「仁志さん、ここは移動力を重視して私と月読をライダーギアへしてください」

「そうだな。念のため、響と未来はエルとヴェイグと一緒に後から合流してくれ。俺は翼達と先行するよ」

「「「「分かりました(分かった)」」」」

 

 翼の提案に乗って俺は風月コンビをライダーギアへとドライブチェンジ。

 二台の新サイクロン号となった二人のアームドギアに思わず感嘆の息を吐いてから、俺は翼の後ろへと乗った。

 

「いくぞ月読」

「はい」

 

 唸りを上げるエンジン音。すぐに二台のバイクは凄まじい速度へと加速していく。

 俺は振り落とされないように必死に翼へしがみつくしかない。

 

「それで月読、どの辺りだ?」

「もうすぐです。この速度ならもう見えてきます」

 

 そんな中でも平然と会話出来る二人は凄い。

 ギアがあるからだとは思うけど、本当に仮面ライダーみたいだ。

 

「あそこです。あのビルとビルの間の隙間で別れました」

「よし、減速するぞ」

 

 その言葉からあっという間にバイクは速度を落とした。

 やっぱり、これって既存の技術じゃ無理だよなぁ。

 どれだけの速度が出ていたか分からないバイクがあっさりと急停止もせずに静かに止まり、俺は改めてツインドライブとギアの凄さを感じた。

 

「……いない」

「やはり、か」

 

 ビルの隙間というか、室外機を置いてあるようなスペースの道に切歌の姿はなかった。

 おそらくだがもう悪意の支配下にされてしまったのだろう。

 僅かな可能性として今も逃げ続けているというのもあるが、それがどれだけ有り得ないかを二人も分かっているはずだ。

 

「もしかしたら、まだどこへ逃げ続けてるかもしれない。悪意が切歌を追跡出来るからって絶対に捕まえられると決まった訳でもない。希望を捨てずに探そう」

「そう、だね。でも、一体どこから探すべきか……」

「なら、まずは響さん達と合流しませんか? 切ちゃんだけならいいですけど、マリア達までいたら……」

「だな。じゃ、とりあえず」

 

 来た道を戻ろうと、そう言おうとした時だった。

 依り代から通知音が鳴り響いたのだ。

 嫌な予感がして取り出してゲームを起動すれば、ステータスが更新されたとの文字。

 限りなく見たくないけど、そういう訳にもいかないので見てみる事に。

 

「……やっぱりか」

 

 切歌のアイコンがイグナイト状態になってる。

 どうやら今彼女は闇に堕とされたらしい。

 

「仁志さん、暁の事?」

「ああ。イグナイトになってる」

「切ちゃん……」

 

 こうなるとここに切歌だけと言うのは有り得ないな。

 切歌だけを放置して帰還するとは思えない。

 こういうものの定番は、かつての味方同士で争うのをどこかで眺めるか、共になって戦うかだ。

 

「翼、調、きっと切歌の傍には誰かいる」

「うん、おそらくマリア……」

「きっとそうです。私を追い駆けてきたし、切ちゃんが言う事を聞くだろうから」

「さすがに三人とは思えないし、俺もマリアの可能性が高いと思う。ただ、もし二人で行動されるとエル達が危ない」

「うん、響さんと未来さんだけなら何とかなっても、エルを守りながらは難しい」

「ヴェイグがミレニアムパズルを展開すれば安全は安全だが……」

「とにかく、今は合流を急ごうか」

 

 俺達は再びバイクで移動開始。すると程なくして響達と合流を果たせた。

 ただ、四人も切歌の事を聞くと表情を曇らせた。

 更に傍に悪意が最低一人はいると言うとその顔が険しくなる。

 

「マリアさんが……」

「あくまで可能性が一番高いんじゃないかってだけだよ」

「それでも私もそう思います。切歌ちゃんを闇に染めるにはこれ以上ない相手だし」

「うん、そうだね。只野さん、これからどうしますか?」

「向こうもこっちが来てるのは把握してるはずだ。なら、下手に分散するよりは……」

 

 考える。どうすれば相手の奇襲などへ対応出来るかを。

 出来ればこっちが気を配らずともいい方法が理想的だ。

 時代劇に出てくる鳴子とかだな。でも、そんな物は用意出来るはずもないし……。

 

「……あっ」

 

 ならこっちのパッシブスキルかアビリティで対処しよう。

 即座に俺は四人をリビルドギアへドライブチェンジ。

 

「これは……リビルド?」

「師匠、どうしてこのギア?」

「悪意が九人揃ってこれになっただけで苦しんだだろ? なら、半分近い四人でも平気には感じないんじゃないかなって」

 

 リビルドギアの光の波動みたいなものなら、少なくても無反応とはいかないんじゃないか。

 それが俺の出した考えだった。みんなもそうかもしれないと同意してくれ、そのまま切歌を探す事に。

 

 ヴェイグもゲート内の影響から脱して嗅覚が戻っており、俺とエルにヴェイグを中心にした集団はゆっくりと周囲を見回りながら切歌の捜索を開始したのだ。

 

「あの明るい切歌お姉ちゃんまで闇に染めるなんて……」

「翼でさえあの短時間で染めてみせたからな。時間をかければ切歌がそうなってもおかしくない」

 

 若干落ち込むエルへヴェイグが冷静に述べる意見に俺も頷く。

 いくら前々から仕込んでいたとはいえ、意志力の強い翼さえほんの少しで闇へ堕としたんだ。

 根っから明るくて強い心の切歌が相手でも、じっくりと時間をかければあの時の翼以上に出来るんだろう。

 

「切歌が出て来たらその主な相手は調にお願いするとして、問題は随伴員だ」

「マリアが有力だと考えてるけど、もし雪音や奏なら……」

「奏さんでも私が相手します。ただ、クリスちゃんの場合は……」

「遠距離戦、か。じゃあ私が頑張って抑えてみる」

「切ちゃんは私と翼さんならいいんじゃないでしょうか? 響さんと未来さんのコンビなら余程じゃないと押し負ける事はないと思いますし」

「そうだな。仁志さん、それでいい?」

「正直戦闘に関してはそっちの方が慣れてるからね。四人が納得出来るなら俺からは特にないよ」

 

 俺の指揮経験なんてスパロボ程度が関の山だ。

 今まで上手くいってるからってずっとそうだとは思わないし思えない。

 基本は戦い慣れたみんなの意見を尊重して、時々俺は疑問に思った事や浮かんだ考えを聞いてもらうぐらいがいいだろうし。

 

 先頭を翼と響、最後尾を未来、調は中団で俺達と一緒に歩く。

 あてもなく探すのなら、分散するべきだとは思う。ただ、既に切歌が悪意に飲まれてしまった以上、それは悪手でしかない。

 

「ヴェイグ、どうだ?」

「……とても嫌な匂いが二つ、こっちへ向かってきてる」

 

 ヴェイグの言葉に全員が息を呑んだ。

 

「ど、どこからくる?」

「……上だ!」

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

 ヴェイグが目を見開いた瞬間、俺達は一斉に上を見た。

 そこには色を無くした空や雲があったが、同時に何かが降り注いでくるのも見えた。

 

「させないっ!」

 

 未来が瞬時にアイギスの力にカーバンクルの力を掛け合わせたバリアを展開。

 それらが降り注ぐ刃や光線を弾いていく。それにしても、光線か。

 

「立花っ! マリアは任せたぞ!」

「はい!」

「月読っ! 行くぞっ!」

「はいっ!」

 

 バリアから飛び出していく三人。未来は上を見つめて苦い顔をしている。

 俺やエルも上を見つめて、そこに予想通りの相手がいる事を確かめた。

 

「切歌お姉ちゃん……姉様……」

 

 上空には漆黒のイーヴィルギアを纏った二人の装者がいた。

 その眼差しはこちらを見下すように冷たい。

 

「エル、辛いかもしれないが今は……」

「はい。二人を元の二人に戻すために僕も出来る事をします」

「ああ、それでいいぞエル。俺もセレナと会うために頑張る」

 

 マスコットな二人だけど、その決意と心は頼もしい。

 それにしても、あの二人も浮遊してるのか。イーヴィルギアはもしかして飛行能力持ちか?

 もしそうなら厄介だな。基本エクスドライブ以外でギアが飛行したのを見た事がない。

 ライダーだって空を飛ぶ怪人には苦労させられたし、リビルドギアツインドライブだって空は飛べないからな。

 

 それでも響達は果敢に向かっていく。それをどこか馬鹿にするようにマリアの体を使っている悪意が笑う。

 

「無様ね貴方達。こうやって空も飛べないなんて」

「マリアさんを返せっ!」

「返す? 何を言っているの? 私は自分の意思でこうしている。仁志を夫として、エルを娘にするために」

「そんなマリアさんじゃ仁志さんもエルちゃんも喜びませんっ!」

「ふんっ、現実が見えてないようね。そんな言葉で今の私は止められないわ」

 

 響の言葉へ吐き捨てるように返すと、悪意の背中に黒い翼のような物が出現する。

 あれは……もしかしてガングニールのマント?

 

「っ?! あいつ、もしかしてダブルドライブ状態なのかっ!?」

 

 依り代のないガングニールをイーヴィルギアと共に展開してる可能性がある。

 もしそうなら、あの悪意は強敵だ。下手すればリビルドギアツインドライブさえも上回る。

 

「響っ! 気をつけろっ! そいつはガングニールギアを併用してる可能性があるっ!」

「分かりましたっ!」

「さすがに気付くか。でも意味はないわっ!」

 

 黒い翼を使い、自由に空を飛ぶ悪意。

 その機動に響が翻弄される。チラリと見れば翼と調も切歌相手に苦戦していた。

 というか、切歌さえも羽のような物が見える。どういう事だよ、あれ。

 

「エル、マリアの方はガングニールってまだ納得出来るんだけど、切歌のあの黒い羽はどう思う?」

「……分かりませんが、どことなく切歌お姉ちゃんの方は姉様の物よりも邪悪な印象です」

「そうだな。実際マリアよりも切歌の方が匂いはキツイぞ」

 

 二人の意見を基に考える。おそらくだが、あの飛行能力は悪意が与えたものだ。

 そうなるとマリアはギアを応用している可能性が高い。

 対する切歌はイガリマにそういう能力がない以上、ギアを応用して云々は考えにくい。

 

 じゃ、あれは悪意そのものが羽のようになっていると考えた方が自然、か。

 

「只野さん、私も響の援護を始めます」

「分かった。じゃあ、俺達はどこかの物陰にでも隠れるよ」

「お願いします」

 

 エルの体を抱えると同時にヴェイグが消える。それを合図に俺はその場から手近な建物へと身を隠した。

 

「この時間停止状態、ある意味でディバイディングドライバーな役割だな」

「そう、ですね。調お姉ちゃん達でも触れないと解除出来ない以上、攻撃で壊す事はありません」

「ああ。そして悪意なんかはその解除さえ出来ない」

「兄様が以前の戦いで発見してくれたおかげで、響さん達も思い切って攻撃出来てますし、周囲への被害を考える必要もありませんから」

 

 エルの意見に頷きながら、俺は顔を少しだけ出して戦闘の様子を見つめる。

 やっぱり響と未来のコンビでも、あのダブルドライブもどき相手は苦戦しているようだ。

 翼達の方も切歌相手に苦戦をしてる。いや、あれは何か様子が違う?

 何となくだけど、切歌が調を集中的に狙っているような感じだ。

 

「ここからじゃ何も聞こえないから判断出来ないな……」

 

 だからと言って接近するのは特撮とかだけだ。俺はみんなの邪魔になりたくない。

 ただ、依り代の出番となったらその時は迷う事無く突っ走るつもりだけど。

 

「兄様、ヴェイグさんが姿を見せてもいいかって」

「ああ、勿論」

「っと、タダノ、一ついいか?」

「どうした?」

 

 エルから出てくるなりヴェイグが俺へ妙な顔を向けてきた。

 何だろうと思っていると、ヴェイグは俺のように建物から顔を少しだけ出して切歌を見つめた。

 

「……やっぱりだ。今の切歌は嫌な匂いが二つある」

「「二つ?」」

 

 どういう意味だ?

 

「一つはもう嗅ぎ慣れた悪意の匂いだ。で、もう一つはそれより濃い嫌な匂いだ」

「えっと、つまり嫌な匂いに濃淡がある?」

「ああ」

 

 何故切歌だけそうなっているんだ? しかも悪意の匂いよりも濃い?

 もしかして、それがあの黒い羽にも繋がるんじゃないだろうか。

 ただ、切歌の感情を大きく闇へ向けさせるものって何かあるか?

 あの子は周囲のために能天気であろうとしているような子だ。その心を歪めて、悪意よりも強い闇へ染める事なんて可能なんだろうか?

 

「……虎穴に入らずんば虎児を得ず、かもな」

 

 小さく呟く。前回もそうだったけど、悪意に染められたみんなを戻すには依り代が必須かもしれない。

 そのためにも、俺はまた危険の中へ飛び込まないといけない可能性がある。

 

 ……怖くないとは言わないけど、それよりも怖い事が今の俺にはある。

 死ぬ事も怖いけど、それを恐れて守りたい人達を失う方が俺は嫌だ。

 

「ヴェイグ、一応聞いておくな。パズルの中に隔離出来そうか?」

「無理だ。ただ、可能性があるのはマリアだろう。切歌の方は、今のままだと俺一人じゃ抑えきれない。セレナがいてくれれば出来ただろうが……」

「そうか……」

 

 前回やった作戦は現状無理、か。つまり、俺が動くのはそれが可能になった時、だ。

 

「みんな、頑張ってくれ……」

 

 祈る事しか出来ない自分に嫌気が差すが、今は仕方ないと受け入れる。

 

「っ!?」

 

 ズキッと、痛みが走る。今度は頭痛じゃなくて昨日負った怪我の部分に。

 朝にはもう痛みが引いていたから大丈夫だと思ったんだが、もしかして傷口開いたのか?

 

「どうかしましたか、兄様。汗が出てます」

「あ、ああ……昨日の傷口が軽く開いたかもしれない」

「大丈夫なのか?」

「まだ分からない。開いたと思ってるだけかもしれないしな」

「え、えっと、何か僕に出来る事はないですか?」

 

 オロオロするエルに小さく笑みを浮かべて、ならばと俺はある事を頼む事に。

 

「こ、これでいいんでしょうか?」

「うん、十分だよ」

 

 俺の左足に貼られている絆創膏へエルが手を当てている。

 手当の語源だ。心なしか痛みが和らいでいくような気がする。

 

「俺もやってやろうか?」

「じゃあお願いするよ」

 

 ヴェイグまで手当てしてくれて、俺はその光景に心が和んだ。

 更に本気で痛みが消えるだろうと思える事があった。それは……

 

「「いたいのいたいのとんでけ~」」

 

 エルとヴェイグがやってくれるおまじない、だ。

 気分は本気で父親だった。涙が出そうになるぐらい、嬉しかった。

 

 俺は二人の優しさに感謝しながら響達の戦いを見守った。

 自分が動けるチャンスがくるその時を待つように……。

 

 

 

「調ぇぇぇぇっ!」

 

 切歌の憎悪に満ちた声と共に普段以上に鋭く、また禍々しくなった鎌が調へと迫る。

 

「っ! これぐらい……っ!」

 

 エクスドライブと同等程度の出力を誇るリビルド。それに各完全聖遺物の力を乗せたツインドライブは、本来であればそう苦戦する事はない。

 

 それでも、今の調は若干力負けしていると感じ取っていた。

 

(切ちゃんの様子がおかしいのは覚悟の上っ! でも、でも何でこんなにも私だけ目の仇にするの……っ!)

 

 戦闘開始から今まで、一度としてぶれる事なく切歌の狙いは調に固定されていた。

 時折翼へも攻撃するが、それはあくまで自衛の範囲であり、積極的に狙うあるいは排除する事はなかったのだ。

 

「月読っ!」

「っ! 邪魔するなデスっ!」

「くっ!」

 

 調が押し負けると読み、加勢しようとする翼へ切歌の背にある羽が漆黒の光弾を放つ。

 それらを手にした剣で払い、斬り裂く翼だが、止まる事のない攻撃に一向に調へ近付けない。

 

 そう、実は切歌は悪意とタッグを組んでいるようなものだった。

 あくまで切歌の体を動かしているのは切歌自身の意思なのだ。

 ただし、その意思を悪意によって誘導されてはいたが。

 

「切ちゃんっ! お願い! 元の明るくて優しい切ちゃんに戻ってっ!」

「黙るデスっ! 調は、調はっ! アタシを置いてししょー達と幸せな時間を過ごしてましたっ! アタシを捨ててっ! 一人だけあったかい場所で笑顔になってたデスっ!」

「っ!? 切ちゃん、それはっ!」

「憎いっ! 憎いデスっ! アタシは調が憎いデェェェェスっ!」

 

 切歌の叫びと共に背中の羽が鋭く、禍々しさを増していく。

 切歌の負の念を吸って成長変化しているのだ。

 

「切ちゃん……そこまで私を……」

 

 悪意による誘導だとは分かっている。それでも、あの切歌が自分をそこまで憎んでいる事が調には衝撃だった。

 かつてフロンティア事変の際に激突したのとは意味が違う。

 あの時は小さな切っ掛けから切歌が勘違いを起こし、それが巡り巡って戦う事へと至った。

 

 だが、今回は誘導されたとはいえ切歌が調を明確に憎み、殺意を持って戦っている。

 その事が持つ意味は調には大きい。これまでケンカもした。言い争う事も、口を利かないようにする事もあった。

 しかし、それでもどこかで互いに相手を思う気持ちはあった。それが、今や一方通行となったのである。

 

「傷付けてやるデス! ボロボロにしてやるデスっ! メチャクチャにしてやるデェェェェェスっ!」

 

 半狂乱に近い絶叫をし、切歌は調への憎しみを露わにする。

 その声に思わず翼だけでなく響達さえも意識を向けてしまう程に。

 

「アタシを、アタシを一人にして、暗くて冷たい場所に置き去りにして、そんな調は、調は……この手で同じ場所に落としてやるデスよっ!!」

「っ!?」

 

 目を見開いて睨み付けるような切歌へ調は思わず言葉を失っていた。

 

(切ちゃん……本当に闇に飲まれちゃったんだね……)

 

 あの逃避行で調へ切歌が告げた言葉。したくないという意味で告げた事を、今の切歌は進んでやろうとしている。

 だが、それで調は覚悟が決まった。最後に切歌の告げた言葉に想いを同じくしたのだ。

 

「分かったよ切ちゃん。そうだね。一人で辛い所にいたんだから私を憎むのも分かるよ。私が師匠達と一緒にいた時、切ちゃんは一人で闇と、悪意と戦ってたんだから」

「月読っ!? 何をしてる! ギアを展開し直せっ!」

 

 両手をゆっくりと広げ、調はギアを解除して切歌の前に立つ。

 敵対する気もなければ抵抗するつもりもないと示すように。

 

「今更何のつもりデスか。そうやってアタシを騙す気デスか?」

「ううん、違うよ切ちゃん。ごめんね切ちゃん。一人で辛かったよね。私も、その暗くて冷たいものを一緒に飲み込んであげたいんだ」

 

 一人にされた事。それが切歌が闇へ堕ちる切っ掛けだ。

 そう調は感じ取り、切歌が抱えてる闇を減らそうと決意した。

 

 しかし、それを周囲が止めないはずはなかった。

 

「調ちゃんっ! ダメだよっ! そんな事したら調ちゃんまでっ!」

 

 当然響など考え自体へは理解が出来ても納得出来なかった。

 

「響っ! 前っ!」

「っ?! マリアさんっ!?」

「余所見とは随分と余裕ね」

 

 未来の声に響が気付いた時には、既に目の前に色黒のマリアの顔があった。

 その表情は不敵に笑みを浮かべていて、響は直感的にダメージを覚悟した。

 だが、悪意はニヤっと笑うと響の腹部へ手を押し付ける。

 

「っ!?」

(な、何っ!? 何か体に……この感じはっ! 不味いっ!)

 

 痛みなどもほとんどないそれにおぞましい何かを感じ取った響は、かつてマリスシードと呼ばれる物を埋め込まれたのに近い感覚だと思い出した。

 

「未来っ!」

 

 即座にギアを解除しながら未来の名を呼ぶ。

 そうなった瞬間、悪意は苦い顔をしてその場を離れた。

 それと時をほぼ同じくして響の胸から下を鮮やかな閃光が貫いた。

 

「響っ! 大丈夫っ!?」

「ありがと未来……。今の、ちょっと危なかったよ」

「やってくれる……っ!」

 

 ギアペンダントを効果範囲から外しながら、未来は響の体へ入り込もうとしていた悪意の種を神獣鏡の光で貫いてみせたのである。

 さしもの悪意の種も根付く前なら神獣鏡の光に耐えられるはずもない。

 この辺りも翼や調の話を聞いていたからこその判断だ。

 

 ギアを再展開させ、響はツインドライブとなるのを見て一瞬だけ笑みを浮かべた。

 

(仁志さんはやっぱり私達を常に見てくれてるんだ)

 

 グッと拳を握り締め、響は悪意を睨み付けた。

 

「私達を争わせようとしてるのは分かってる! もう、簡単には闇に染まらないっ!」

「私達の気持ちや想いを好き勝手にさせないからっ!」

「ふんっ、言ってなさい。それに、こちらの目的は果たせたもの」

「? っ!? 調ちゃんっ!」

 

 何故自分が悪意にしてやられそうになったのかを思い出し、響は視線を調の方へ向ける。

 

 そこには切歌の背にあった羽を模していた悪意に包まれていく調の姿があった。

 翼は切歌と戦闘中であり、それを阻止する事が出来ないでいた。

 

「暁っ! お前は、お前は本当にこれでいいのか!?」

「とーぜんデス! これで調もアタシと同じ事になります! やっと、やっとアタシと調を同じ目にあわせられるデスよ」

「そこまで悪意に、闇に見初められてしまったか……っ!」

 

 悔しさと悲しみが怒りに変わって翼の力となる。

 上位世界での日々で、翼はこれまで深く関わる事の出来なかった切歌と調の持つ様々な顔を知った。

 学院では先輩後輩の関係となる事もなく終わってしまったため、日常の二人を、普段の二人を見る事も知る事も中々出来なかったためだ。

 

(お前はあれ程明るく、どんな時も誰かを楽しませようと、笑顔にしようとしていた! 月読との依存性のある関係を進化成長させ、正しく手を取り合って支え合えるようになっていた! それなのに、それさえも悪意は、闇は、こうも変えてしまうのかっ!)

 

 エルフナインを相手に姉のような振る舞いをするようになった後は、翼も感心するようなぐらいに切歌も調も頼もしい面を見せていた。

 奏と二人で旅行先で行動を共にした時は、その無邪気さにも似た素直さに自然と笑みが零れてしまう程だった。

 

 その事を思い出して、翼は怒りを力へ変えて刃を握る。

 

「暁っ! お前のその陰我、私が断ち斬ってやろうっ!」

 

 その言葉と共に翼のギアが金色の光を放つ。

 その眩しさに切歌が思わず顔をしかめた。

 

「ま、まぶしーデス……」

「この剣は、敵を斬るのではない! この刃は、闇を斬るためにあるのだっ!」

「黙るデスっ!」

「黙るものかっ! 暁っ! 私はお前を信じているっ! その在り方を、心の光を、暁切歌を信じているんだっ!」

「ぐっ!? そ、そのまぶしーのを止めろデスっ!」

 

 翼の心の光に切歌の心が呼応するように、ギア同士がぶつかる一瞬だけ金色の輝きが生まれる。その度に切歌のギアが軋み、表情が歪む。

 きっとここに仁志がいれば息を呑んだだろう。それはある意味でとある作品での黄金騎士に酷似していたからだ。

 

 一方、仁志達は遂に動き出そうとしていた。

 

「ホントなんだな?」

「ああ、今の切歌なら隔離できる」

「兄様っ!」

「依り代を使って切歌を元に戻す! エル、ヴェイグ、行こうっ!」

「「はい(おう)っ!」」

 

 悪意が調を染めるために切歌から離れた事により、ヴェイグ単体でもミレニアムパズルでの隔離が可能となった。

 それを聞いて仁志は動くならここしかないと踏んだのだ。

 

 こうして事態は次なる局面を迎えようとしていた。

 

 その頃、とある平行世界に奏の姿があった。

 

「やっぱりこの世界か……」

 

 奏の目の前にあるのは、時間停止した世界に似つかわしくない可愛らしいドア。

 色を失ったかのようになった世界に不釣り合いなそれは、人の目を忍ぶ様にひっそりと存在していた。

 

 奏がドアノブへ手をかけるも、それは一向に回る事はない。

 

「ま、そりゃそうか」

 

 あっさりとドアノブから手を離すや、奏はその手にアームドギアを構えて勢いよく突き出した。

 それさえもドアを開ける事は叶わない。ただ、奏は笑っていた。

 

「ははっ、いいねいいね。こうなってから全力を出せないで困ってたんだ。セレナ、あんたの心のドアを相手に存分に力を振るわせてもらうよ」

 

 そう言い放つと奏はその身に溢れる力をアームドギアへ集中させ、ドアへ向かって何度も攻撃を繰り返し始める。

 

 その重たく沈むような攻撃の振動にセレナはただ一人で耐えていた。

 

(大丈夫……。きっと、きっとエルがお兄ちゃんを連れて助けに来てくれる……っ!)

 

 たった一人、孤独に震えながらセレナはかつてのヴェイグに似た環境でいつか来る助けを待つ。

 以前であれば耐え切れなかったかもしれない状況で、セレナはあの上位世界での暮らしから得た強い心でただただ助けを信じ続けた。

 

――エル、お兄ちゃん、ヴェイグさん、私、待ってるからね。

 

 

 

「っはぁ……はぁ……」

「響、大丈夫?」

 

 少し息が上がってきてる響へ声をかけつつ私はマリアさんを、ううん悪意を警戒する。

 とても不気味で怖い漆黒のギア。只野さんはイーヴィルギアって呼んでるそれを纏う悪意は、多分だけどあのダブルドライブに近い状態みたい。

 

 ガングニールをベースに悪意がギアとなって装着されてるせいか、リビルドギアツインドライブでさえ互角がやっとだ。

 

「う、うん。でも……」

「分かってるよ。攻撃当てると力が吸われるみたい、なんでしょ?」

「分かってるんだ。さすがだね、未来」

 

 響が何度か攻撃を当てる度に顔を顰めるのが見えたからそうじゃないかなって思ったんだけど、どうやら間違ってなかったみたい。

 こうなると、間違いなくあの状態のクリスや奏さんを相手にするならツインドライブじゃないと不味いね。

 

 特に響は直接自分の手で触れるからかもしれない。

 それにしても悪意がリビルドギアにさえ対応してきてる事に恐怖を感じる。

 これ、今度決戦になった時、私達に有効な手段、あるのかな?

 

「中々やるじゃない。さすがコンビを組むと一番強いかもしれないと言われるだけあるわね」

「「マリアさんのような顔をするなっ!」」

 

 響と気持ちを合わせる。もう私達は知ってるから。

 それに私はああなってた時があるから余計に。

 自分で喋る時なんてあるようでない。あれもマリアさんの意思で言ってる事じゃない。

 

 響が言うには、クリスを真似た悪意はシェム・ハの名前を出したらしいけど、たしかにあれに近い。

 ぼんやりと自分の意思はある。見ているものや聞いているものを認識出来ない事もない。

 だけど、それが全部ぼやけてるんだ。なのに時々それが消える時がある。それは、私の心を良くない方へ転がせる時だけ。

 

「私は私よ。マリア・カデンツァヴナ・イヴよ」

「違うっ! マリアさんなら切歌ちゃんと調ちゃんを戦わせないっ!」

「お願いですマリアさん! 悪意にいいようにされないで! 心を強くもってっ!」

「ふふっ、何を言っているの? 私は心を強くもっているわ。それに、切歌と調はやっと一緒になれるのよ?」

「「っ!」」

 

 思わず奥歯を噛み締める。響も拳をキツク握ってた。

 こっちを馬鹿にするみたいな声と顔。やっぱり悪意だ。マリアさんへ私達の声が届いてないみたい、だね。

 

「響……」

「何?」

 

 悪意から目を逸らさず隣の響へ小声で声をかける。

 

「やっぱりマリアさんを戻すには依り代の力が必要なのかも」

「……そう、かもね。私の声が未来へ届いたのは、元はと言えば仁志さんが依り代を使ってくれたおかげだし」

 

 きっと只野さんもどこかでそう思ってるはず。なら、きっとまた無茶な事をする。

 その時、今度は私が守ってみせる。傷付けてしまったからこそ、今度は守る力として。

 

「でも、もしかしたら依り代なしでも届くかもしれない。ううん、届かせてみせるっ!」

「響……」

 

 らしいなって、そう思った。

 拳を握って悪意へ向かっていく背中を見ながら、私もそれを届かせるために手助けする。

 あの頃は出来なかった事だ。

 響は、私へこれからは一緒に戦おうって言ってくれた。おかえりって言ってくれた。

 もう今の私は出迎えるだけの存在じゃない! 響と一緒に誰かへ手を差し伸ばせるようにもなったんだっ!

 

「届けぇぇぇぇぇぇっ!」

「無駄な事を……」

 

 響の言葉を悪意が鼻で笑う。

 でもその表情が一瞬で驚きに変わる。

 響がどいた瞬間、私の放った閃光が現れたからだ。それを何とか避けて悪意が私を睨んだ。

 

「小癪な真似をっ!」

 

 それで確信出来た。やっぱりそういう事なんだ。

 

「響っ! やっぱり神獣鏡の攻撃は痛手にはならないけど効果はあるみたいっ!」

「分かった! 行くよ、未来っ! マリアさんをここに釘付けにするっ!」

「うんっ!」

 

 詳しい話はいらない。打ち合わせもしない。それでも、今の私と響は通じ合ってる。

 だって見えたから。切歌ちゃん達の方へ向かう男の人の姿を。

 エルちゃんを抱えて懸命に走る、初恋の人が。

 

 きっとあっちは大丈夫。切歌ちゃんと調ちゃんの事は、翼さんと只野さん達に任せよう。

 

「だからっ!」

 

 私と響でマリアさんを、悪意をここに足止めする。

 向こうの邪魔はさせない。させる訳にはいかない。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

「出来るものならやってみるがいい。私はお前ら如きに止められはしない」

「くっ! もっと高くへ……」

 

 響の攻撃を上昇する事で悪意がかわす。これも響が苦戦している原因。

 空中戦は基本不利だ。相手は上下左右に動けるし、高度だって自由自在。対する響は細かな調整は出来ない訳じゃないけど簡単じゃない。

 このままじゃ若干こっちが押されてる。私は飛べるけど、それだって相手程の柔軟性はないし……。

 

 でも、出来ないからって諦めるつもりはない! 何か、何か考えないと。響が相手の動きについていける方法を。

 

「……そっか!」

 

 只野さんが読んでた漫画。そこで似たような話をやってた。

 ジャンプ力を活かして戦うライダー。それがそのジャンプ力を使えない空間で戦う事になった時、怪人を倒した手段。それを応用すれば……響も!

 

「響っ!」

「未来?」

 

 落下しないようにギアの反動で何とか滞空してる響へ接近する。

 こっちを響が見た瞬間、私は叫んだ。

 

「私が足場になるからっ!」

「っ!? でも!」

「今やらないといけない事は私を気遣う事じゃないでしょっ!」

「っ!」

 

 息を呑む響へ私は笑みを浮かべて頷いた。

 

「ありがとう、未来……っ!」

 

 滞空するのを止めて落下してくる響。その響の足元へ私は回り込んで、アームドギアを展開して足場に変える。

 

「何?」

 

 ズンっと重さを感じる。けど、これぐらい今の私なら……っ!

 

「「はっ!」」

「なっ!?」

「いっけぇっ!」

 

 私の押し上げるタイミングと響の飛び上がるタイミングが一致して、凄い速度で上昇していく。

 その速度は悪意を超えて、その体を僅かに掠める。これならいける。

 

 だから私は続けて叫んだ。

 

「絶対拾うからっ! 響は相手の動きだけ注意してっ!」

「うんっ! お願いっ!」

 

 響よりは自由に飛べる私が足場役になって、攻撃力に長けた響をサポートする。

 それと……

 

「くっ、忌々しい……」

 

 勿論私だって攻撃出来る時はする。神獣鏡の光で少しでも悪意へダメージを与えれば、それだけマリアさんへ私達の声が、手が、届くはずだから。

 

 

 

「翼っ! 切歌は一旦俺達に任せてくれ! 君は調を頼む!」

「仁志さん……」

「ししょー……やっと会えたデス……」

 

 切歌お姉ちゃんの背中にあった羽が調お姉ちゃんを包んだ事でヴェイグさんが隔離出来るようになった。

 だから僕らは今、翼さんと戦う切歌お姉ちゃんの傍へとやってきている。

 

「切歌、そんな黒ギャルみたいな見た目になって欲しくなかったよ」

「くろぎゃる? ししょーは相変わらず色んな事を知ってるデスね。でも、これはこれでイケてないデスか?」

 

 どこか無邪気に笑う切歌お姉ちゃんは、僕の良く知る顔だった。

 見た目は大きく異なってるけど、未来さんや翼さん程の乖離を感じない。

 

「悪くはないよ。でも、俺はいつもの切歌の方が大好きだ」

「っ……大好き、デスか」

「ああ、大好きだよ。今の切歌も悪くはないけど、普段の切歌がやっぱり一番だ。だから……」

 

 兄様の言葉と同時にヴェイグさんが僕から出てミレニアムパズルを展開する。

 翼さんは既に距離を取っていて、今もまだ闇の繭に包まれたままの調お姉ちゃんの傍にいた。

 

「……よし、これでいい」

「ヴェイグさん、ありがとうございます」

「ああ。ただ、維持し続けるのが厳しいかもしれない。今は大人しいが、切歌が暴れ始めたらどうする?」

「それは……」

 

 さっきの様子を見るに切歌お姉ちゃんは兄様へは以前と同じような雰囲気だった。

 でも、何故か大好きって言葉に若干嫌そうな顔を見せたけど、あれは一体どういう事なんだろう?

 とにかく今は兄様を信じて待つしかない。そう思って僕はヴェイグさんと何もない空間を見つめる。

 

「っ!? 月読が出てくるかっ!」

 

 そこへ聞こえた声に僕は思わず振り返る。

 翼さんの傍にある闇の繭にヒビが生じて、まず腕が出て来た。次に頭、そして体だ。

 

「調、お姉ちゃん……」

 

 姉様達のように黒い肌となって禍々しいギアを纏った調お姉ちゃんが僕の視線の先にいた。

 けど、どこか様子がおかしい。翼さんへ見向きもせず、調お姉ちゃんは僕らの方へ向かって歩き出した。

 

「っ! 待て月読! エル達に手出しは」

「エルやヴェイグには用はありません」

 

 歩みを止めず、調お姉ちゃんはそう返した。僕はこっちへ近付いてくる調お姉ちゃんを見つめる。

 すると、一度だけ目が合って小さく頷いてくれた。

 

「どういう意味だ?」

「私の目的は、切ちゃんです。だから邪魔しないでください。邪魔するなら」

「邪魔するなら、どうする?」

 

 そこで初めて調お姉ちゃんは足を止めた。それと同時にアームドギアが展開されて凄まじい音を上げる。

 

「翼さんでも切り刻みます。エルやヴェイグだって邪魔をするなら同じように」

「月読……お前は、もしや……」

「ヴェイグ、私をパズルの中へ入れて」

「ダメだ。今の調を入れたら、俺一人ではパズルが維持できない」

「入れて」

「無理だと言ってる」

「……これが最後だよ。パズルに入れて」

「無理なものは無理だ」

「ぼ、僕が手伝います! それなら、それならどうですか!」

 

 無言で鋭利なノコギリをヴェイグさんへ突き出そうとしたのを見て、僕は慌ててその間へ体を入り込ませて叫んだ。

 

 ヴェイグさんは自分だけではってそう言った。なら、僕が手伝えば少しは変わるんじゃないかってそう思った。

 

「……それなら今より少しはマシか」

「じゃあ」

「待て。ただ、それはエルもパズルの負荷を背負う事だ。それでもいいのか?」

「構いません。それで、お姉ちゃん達を元に戻せるのなら」

「エル……」

 

 翼さんが僕を見て驚いたような顔をしてる。

 もう僕は見てるだけじゃない。今、僕に出来る事を精一杯やるんだ。それが成長に繋がるって、そう兄様は言ってくれたから!

 

「ヴェイグさん、一緒に頑張りましょうっ!」

「……分かった。ただ、限界だと思ったら言え」

「はい!」

 

 諦めるようなヴェイグさんだけど、最後に言ってくれた一言には優しさを感じた。

 姉さんみたいには出来ないかもしれないけど、僕にだって多少はやれるはずだ。

 

「調お姉ちゃん、今、ドアを出します。そこから中へ入ってください」

「うん、分かった」

 

 ヴェイグさんの言葉に従ってドアをイメージする。すると、本当に調お姉ちゃんの前にドアが現れた。

 そこを開けて調お姉ちゃんは中へと入る。それを見届けて僕はドアを消した。

 

「エル、月読はもしかして……」

「きっと、切歌お姉っ!?」

 

 ギシリと、僕の中で音が聞こえた。それと共に体を何とも言えない脱力感が襲う。

 

“エル、大丈夫か?”

 

 聞こえる声に僕は声に出す事なく心で思う。

 

“はい、何とか大丈夫です”

“そうか。これが今の切歌と調を入れた場合の負荷だ。辛くなったら言え。無理をし過ぎて気を失うと困るからな”

“はい、ありがとうございます”

 

 正直声を出すのも億劫に感じる程だ。

 きっと、ヴェイグさんはパズルの制御に慣れてるからそこまででもないんだろうけど、僕には未知の感覚で体が少しずつ悲鳴を上げ始めてる気がする。

 

「エル? どうした?」

「い、いえ、何でもありません。その、調お姉ちゃんは、切歌お姉ちゃんに……近い状態です。っ悪意を、その身に取り込んで……ますけど、制御される……程ではないのか……っ。あ、あるいは、意図して制御下に置かれていないかと……思います」

「そうか。それと、もう喋らなくていいぞ。答えてくれて、ありがとう」

 

 優しい微笑みと共にそう告げると、翼さんは後ろを振り返った。

 多分だけど響さん達が苦戦してるんだ。なら、今はそっちへ行って欲しい。

 

「つ、翼さん……っ! 僕らはいいので、今は姉様をお願いしますっ!」

「…………分かった」

 

 辛そうな表情を見せながら、翼さんはそう言ってその場から飛び去った。

 僕はヴェイグさんと一緒になってパズルの維持へ意識を集中する事に。

 でも、凄く辛い。ギアの補助があった姉さんでさえも世界蛇相手には苦労していた。

 

 今の僕には、何もない。それでも、それでもやるんだ!

 あの時の僕は、何も出来なかった。しようともしなかった。

 ただ言われるままに逃げる事しかなかった。だけど、だけど、だけどっ!

 

「今は違うっ!」

 

 勇気があれば、諦めない心があれば、いつだって奇跡は、希望は、そこにあるっ!

 例えギアを纏えなくても、ファウストローブがなくても、僕にはこのキャロルからもらった体がある! 兄様からもらった言葉がある! 皆さんからもらった思い出があるっ!

 それに何より……っ!

 

「僕はっ! みんなと生きるのを諦めたくないっ!」

 

 こんな負荷がなんだ! こんな苦しさがなんだ! こんな辛さがなんだ!

 生きてるから負荷がかかるんだ! 苦しいんだ! 辛いんだ! だったら、これさえも生きてる証だ!

 もう僕は逃げない! 諦めない! 例え何も出来ないでも、勝利を信じる事が、平和を願う事が、力になるって、そう今の僕は知っているからっ!

 

「ぐっ……ま、まだだっ!」

 

 感じる負荷が大きくなった……っ。

 中で何が起きてるのか分からないけど、きっと良くない事が起きたんだと、思う。

 兄様、大丈夫だろうか……っ! お姉ちゃん達ならっ、兄様を……殺す事は、しないだろうけど……っ!

 

“エル、もういい! これ以上は危険だ!”

 

 ヴェイグさんの声が聞こえる。けど、今僕が止めたらヴェイグさんがどうなるかも分からない。

 

「だとしてもっ! 僕は最後までヴェイグさんと一緒に戦いますっ! これが、僕に出来る精一杯の戦いなんですっ!」

 

 忘れない。あの時の気持ちは。

 姉さん達が僕を逃がすように戦ってくれている背中を見ながら、ギャラルホルンへと飛び込んだあの日。

 僕だけでも逃げて。そう姉さん達が叫んでくれた事。託された想い。

 もう、僕は嫌だ。託されるだけは、守られるだけは、嫌だ!

 

 例えどれだけ惨めで情けなくてもいい。僕は、戦う! 戦ってみせるっ!

 

 もうっ、大事な人達を目の前で失う事なんてごめんだっ!

 

――よく吼えた。なら、少しだけ力を貸してやる……。

 

 キャロルの声が聞こえたと思った瞬間、僕の半身が勝手に動いて何かを空間の中から呼び出した。

 それが僕の体を包んでいく。これは……ファウストローブ?

 

 それも、キャロルのダウルダブラだ!

 

“え、エル、それは何だ?”

「……僕の、一番大事な相手からの借り物です」

“一番大事な相手……?”

 

 不思議な力が湧いてくる。キャロル、やっぱり君は僕の中にいるんだね。

 そっと胸に手を当てて、僕は目の前をキッと見つめる。

 キャロルのように戦えないけど、それでも僕に出来る精一杯をやってやろうと思って。

 

「ヴェイグさん、やりましょう! 今の僕らなら維持ぐらい余裕のはずです!」

“ああ、そうだな。今のエルからは強い力を感じるぞ”

 

 そうだ。今の僕らは二人じゃない。キャロルも入れた三人だ。

 三つの心が一つになれば、一つの勇気は百万パワーなんだから!

 

「兄様、調お姉ちゃん、切歌お姉ちゃん。次に会う時は笑顔を見せてください……っ!」

 

 小さく呟いて僕はパズルの維持へ全力を注ぐ。

 あの平和な日々で出来た、僕の新しい家族達へ祈りを込めるように……。

 

 

 

「調……っ!」

「切ちゃん……っ!」

 

 どういう事だ? 何で調がって、そう思っていたのも束の間、俺の目の前ではザババの二人が睨み合うようにして互いのアームドギアで火花を散らしている。

 

 切歌を何とか言葉で説得して近付き、依り代でその悪意を取り除こうとしたんだが、不思議な事に依り代が切歌には反応しなかったんだ。

 

――あ、あれ?

――ししょー、どうしたデスか? 早く大人のキスするデスよ。エッチなキス、教えて欲しいデェス。

 

 ま、まぁ説得というか何というかな内容ではあったけど、接近して密着するまで出来たのに、だ。

 

 で、どうすればいいんだと、そう思って頭を抱えたくなった俺へ切歌が強引にキスをしようとしたところに、黒ギャル化した調が登場となって現状へ至る。

 

「どうして、どうして邪魔するデスか! アタシとししょーがやっと二人きりになれたデスのにっ!」

「分からないの? どうして私が切ちゃんを止めに来たのか! どうやって今みたいになっても私のままでいられるかっ!」

 

 その調の言葉にハッとした。

 そうだ。どうして切歌も調も未来や翼のように悪意らしくない雰囲気のままなんだ?

 こればっかりは悪意の演技やら芝居じゃない事ぐらい俺にも分かる。

 じゃないと俺の言葉にあそこまで素直な反応を返さないし、依り代を押し付けるはずの俺に自分から接近してこない。

 

「何を言ってるデスか!」

「今の切ちゃんをそうしてるのはっ! 私への嫌な気持ちだから! 私を包んだ悪意は全部切ちゃんへの憎しみや恨みを持てって迫ってきた。こんな暗くて冷たい場所へ私を追いやった切ちゃんを許すなって!」

 

 そういう事か。つまり、切歌に関して悪意はこれまでのやり方を変えたんだ。

 自分が主導権を握ると依り代によって強制剥離されると知って、ならばと剥離されない方法を探った。

 それが切歌自身の思考誘導。これまでもクリスやマリアにやってきた事の強化版だ。

 主導権を切歌自身が握り続けるから依り代で元に戻す事は不可。だけどギアへは影響力を発揮して、イーヴィルギアへ変質させる。

 

 で、それを調も受けてああなっている訳、か。

 

「って、ちょっと待て! じゃあ今二人は!?」

 

 互いを憎み合ってる状態じゃないかっ!

 

「なら分かってるデスね! 今っ! アタシがどうしたいかっ!」

「分かってるよ! 今っ! 切ちゃんがどうしたいかっ!」

「「調ぇぇぇぇぇぇ(切ちゃぁぁぁぁん)っ!」」

 

 どこかで似たような光景を見た事があると思ったら、これ、まんまGの時の衝突になりつつあるじゃないか。

 あの時はお互い正気のままでの対決だったけど、こっちはそれより性質が悪い。

 何せ互いへの憎しみが……ん?

 

「さっき、調は妙な事言ってたな」

 

 たしか、今の切歌をそうさせてるのは自分への嫌な気持ちだって、そう言った。

 それを切歌は否定しなかったからある意味事実なんだろう。

 でも、それっておかしくないか? こう、何て言うか、調なら嫌な気持ちなんて言わずに嫌悪感とか、あるいは憎悪とか表現出来そうなのに。

 

「…………憎悪、か」

 

 ふと思い出すのはそれを使ったクウガのサブタイトルだ。

 あれで漆黒の姿で黒い目のクウガが初登場だった。

 

「ん? 何だ? 何か引っかかる……」

 

 俺は今まで見た悪意に飲まれたみんなの姿を思い出す。

 未来も翼もマリアも切歌も調も、みな同じように禍々しいギアを纏い、際どいインナー姿だった。

 でも、調と切歌は何かが異なっていた気が、する。

 

「…………あっ!」

 

 気付いた。二人だけ、あの禍々しいギアなのにマイクユニットがあった。

 あれって、つまりそういう事だよな。まだザババの二人はシンフォギアのままの部分、残ってるって事だ。

 多分だけどそれが主導権を切歌と調へ与え続けている証拠なんだろう。

 もしくは、悪意が主導権を握るには依り代の力を完全に沈黙させるしかないんだ。

 

 そして、切歌と違って調は短時間故に思考誘導が完全じゃない。

 だから調は切歌へ強い言葉を使わないんだ。

 

「なら俺にも出来る事はある!」

 

 俺は依り代の画面をステータスからメインへ戻し、ミュージックボックスをタップする。

 そしてソート機能で調と切歌を選択し、二人が使える曲を表示させた。

 

「どこだ? どこにある? ……あったっ!」

 

 目当ての曲を見つけ出して、俺はそれをタップする。

 

「「っ?!」」

 

 すると予想通り二人のギアから音楽が流れ始めた。状況には少し似合わない明るくアップテンポな感じの曲が。

 

 そのタイトルは“ダイスキスキスギ”だ。

 

「調っ! その歌を唄ってくれ! 切歌の心へ君の歌声に乗せた想いをぶつけるんだっ!」

「師匠……」

「切歌は黒い目の状態だけど、君は赤い目の状態のはずだ! なら、塗り替えろ! 黒い太陽に暁の光を取り戻させるんだっ!」

「……うんっ!」

 

 調の声が流れている歌と重なる。当然それからは切歌の歌声も微かではあるが流れている。

 まるで切歌の良心が歌っているかのようだ。調は二つの声に想いを乗せて、自分への憎しみを燃やして迫る切歌へと向かっていく。

 

「くっ……その耳障りな歌を止めるデスっ!」

 

 心なしか切歌の動きが鈍り始めた気がする。

 相手をする調は歌声を震わせる事もなく、切歌の攻撃を全て捌いて歌い続けていた。

 

「止めろって言ってるデェェェェスッ!」

 

 鎌の刃の部分が巨大化し、しかもそのまま切歌が思い切り振ると調へ向かって飛んでいく。

 あんな巨大な状態にして投げ飛ばすとか真ゲッターかよ!

 

「くっ!」

 

 さすがにそれには調も歌を中断するしかなかったらしい。

 二つの回転刃で受け止めて弾き返したけど、既に切歌はそこにはいなかった。

 

「「いないっ!?」」

 

 俺と調の声が重なる。慌てて周囲を見回すけど切歌はどこにもいない。

 

「……そこっ!」

 

 そんな中でも調はすぐさま切歌の位置に気付いたらしく、お返しとばかりに回転するノコギリを無数に上へ向けて射出していく。

 

「こんなもん、ナンボのモンデスっ!」

 

 そう言って大量に迫る回転ノコギリを手にした鎌で薙ぎ払うように切り刻んでいく様は、まさしく死神。

 魂まで刈り取るイガリマの装者らしい感じがした。ただ、見た目が黒いせいで本気で死神っぽいけど。

 

 けれどそこへ調がノコギリを射出しながら接近していく。

 それに気付いて切歌が表情を険しくした。

 

「アタシの邪魔ばかりしてっ! 調なんて大っ嫌いデスっ!」

 

 その言葉に若干調が表情を歪ませた気がしたけど、それでも彼女は意を決したように……

 

「それでも私は大好きって言い続けるっ! 好き過ぎるぐらい、切ちゃんの事を大好きだからっ!」

「っ!? 大好きなんて言うなっ!」

 

 思わず絶句。そこまで同じ言葉を返すのかって、そう思った。

 だけど、切歌もそう言った後で息を呑んだみたいな顔をした。

 多分フロンティア事変の時の事を思い出したんだろう。

 

「思い出した? 私、あの時も言ったはずだよ。切ちゃんの事、大好きだって」

「し、らべ……」

「何度でも何度でも言うよ。切ちゃんがどれだけ私を嫌っても、遠ざけても! それでも私はっ! 切ちゃんが大好きだってっ!!」

「っ!?」

 

 切歌が怯んだ。間違いなく調の声に初めて弱気になった。

 

「憎んでくれていい! 恨んでくれて構わない! それで切ちゃんの気持ちが、心が晴れるならっ!」

「しら、べ……」

「私だけがみんなと一緒にいたのは事実だから! 切ちゃんを置いて、一人だけあったかい場所で幸せになってたのは事実だからっ! だから、だからごめんね切ちゃんっ! ごめんねっ!」

「し……ら……べぇ……っ!」

 

 ゆっくり切歌へ近付き、最後には抱き締める調。

 俺からは見えないけど、声の感じから察するに泣いてるんだと思う。

 対する切歌もその顔が歪んでいる。

 

「え?」

 

 そんな時、依り代が鳴った。画面を見ているとステータスが更新されたとのメッセージ。

 一体何だと思ってステータス画面を開いて、おそらく切歌や調だと思うので、まず切歌のアイコンをタップ。

 

「……これって……」

 

 そこにはあのロボと合体する事でしかなれないはずのギアが追加されていた。

 続いて調のアイコンをタップすれば、そちらにも同じギアの追加が確認出来た。

 

「…………よし」

 

 物は試しとばかりにメカニカルギアをタップ。だが、一向に変化が起きない。

 

「もしかしてまだ悪意の支配下から脱してないからか?」

 

 だけど、それなら何故追加された?

 と、そこで思い出す。あれは切歌ロボや調ロボと合体する事で可能になったギアだ。

 それがいない今、依り代からの遠隔で出来るとは思えない。

 外部的なエネルギーでなったんじゃなく、あれは明確な付属物があっての変化だからだ。

 なら、それを可能にするとしたら……互いのギアにくっついてる悪意を利用するしかない!

 

 一種のダブルドライブだっ!

 

「よしっ! やぁぁぁぁってやるぜっ!」

 

 気分はもう獣を超え、人を超え、神を超えるアレに乗るキャラな感じだ。

 俺は依り代を片手に涙を流しながら抱き合う二人へと駆け寄っていく。

 すると当然のようにその音に気付いて二人が体を離してこっちへ顔を向けた。

 

「二人共、悪意を、イーヴィルギアを利用するぞっ!」

「「えっ?」」

「光と闇を繋ぎ合わせてくれっ!」

 

 依り代を二人の間へ差し込むと、予想通り光り始める。

 その輝きが二人を包み込んで俺の前から姿を消す。

 だが、調と切歌の声だけは聞こえてきた。

 

「切ちゃん、これ……」

「あったかいデス……」

「うん、あったかい」

「……調、アタシ、バカだったデス。調はアタシの頼みを聞いてくれたデスのに、それを……」

「ううん、いいの。あのね切ちゃん。私、師匠のお母さんとお父さんに会ったんだ」

「何デスと?」

「そこで、思ったんだ。このあったかい場所にずっといたいって。切ちゃんの事を一瞬忘れちゃうぐらいに」

「調……」

「だから、おあいこ。私も切ちゃんもダメダメだった。それで、許し合おう?」

「……デスねっ! おあいこデスっ!」

 

 二人が互いを許し合った事を切っ掛けにするかのように、光の中から依り代が弾かれるようにして俺の手へと戻ってきた。

 そして次の瞬間光が弾けて消えて、俺の目の前にはメカニカルギアを纏った二人の姿があった。

 

「これは……?」

「メカニカルギア、デスね」

 

 ならばと、俺は早速ツインドライブを起動させる。

 すると、二人の姿が変わって……え?

 

「え? 光竜……?」

「闇竜、デスか……?」

 

 そう、メカニカルギアツインドライブとなった二人は、見事なまでの勇者ロボチックな姿となっていたのだ。

 

 それにしても、どうして光竜が調で闇竜が切歌だ?

 もしかしてあれか? 立場的には光竜が姉だから調なのか?

 いや、これはあれだ。闇に堕ちたのが切歌で、光を失わなかったのが調だからだ!

 

 と、そこで周囲の空間が元に戻る。で、何故か二人が俺の方を見て驚いた顔をした。

 

「「えっ!? キャロルっ!?」」

「へっ?」

 

 どういう事だと思って振り向けば、そこにはダウルダブラを纏ったキャロル、じゃない!?

 この優しい目付きはエルだ! どうなってるんだ!?

 

「良かった……。兄様達が無事で」

「エル、その格好は一体どっ!?」

 

 どういう事だって聞こうとしたら、エルが目を閉じて体を揺らしながら倒れそうになった。

 慌てて駆け寄ってその体を支えると、眠っているだけと分かった。

 

「「エルっ!?」」

「大丈夫。眠ってるだけだ。きっとかなり疲れたんだろう」

「「ほっ……」」

 

 お姉ちゃんズは揃って息を吐いた。本当にすっかりエルのお姉ちゃんだよな。

 

「タダノ、悪いが俺も少し休む」

「ああ、エルの中でゆっくり休んでくれ。後は何とかするよ」

「頼む」

 

 疲れたけど、どこか嬉しそうな顔でヴェイグはエルを見つめて姿を消した。

 それを合図にしたかのようにエルの体からダウルダブラが外れて良く分からない空間へと消えた。

 

「「ししょー(師匠)」」

 

 聞こえた声に目を向ければ、そこには凛々しくこっちを見つめる二人の装者。

 

「私達でマリアを止めます」

「だから、最後の仕上げはししょーにお願いしたいデス」

「分かった。エルのお姉ちゃん二人の頼みだ。必ず叶えるよ」

 

 俺が言った言葉に二人は小さく微笑んで頷くとその場から跳んでいく。

 俺はその向かう先へ顔を向け、思わず息を呑んだ。

 

「……三人相手にやや不利で済むのかよ」

 

 イーヴィルギアダブルドライブはどうやらかなりのポテンシャルを持っているらしい。

 今も響達三人を相手に何とか渡り合っている。

 俺もあっちへ行かないとな。

 

「と、その前にっと……」

 

 エルの体を優しく抱き上げて歩き出す。

 きっとこの小さな体で頑張っていたんだろう。

 ダウルダブラをどうやって使ったのかは知らないけど、おそらくエルの中のキャロルが目覚めてくれたんじゃないかな?

 

「起きた時には、マリアも微笑みかけてくれるようにしてみせるからな」

 

 密かに誓いを立てて俺は顔を上げる。

 

「二人のお姉ちゃん達が、頑張ってくれるし」

 

 そこではイーヴィルギアダブルドライブ相手に攻勢をかける、白と黒の輝きを放つ竜がいた……。

 

 

 

「な、何なのこの力はっ!?」

 

 アタシ達の攻撃にマリアのフリをする悪意が慌ててるデス。実際、今のアタシと調は凄いと思うデスよ。

 声に出さなくても、視線さえ合わせなくても、まるで心が繋がってる感じがしてて、とっても心強いデスから。

 

 響さん達には休んでもらってるデス。今まで頑張ってもらってた分、アタシ達が頑張る番デスからっ!

 

「たった一人で響さん達を相手によくやったと思うデスが!」

「でも、それもここまで!」

「「アタシ(私)達二人が揃えば悪意なんかに負けない(デス)っ!」」

「くっ! ほざけぇぇぇっ!」

 

 悪意の手にしたアームドギアが展開して、そこにエネルギーが集まってく。

 これは光線を撃つつもりデスね。

 でも、無駄デス。それならこっちには……。

 

「プライムローズの月っ!」

 

 同じような事を、もっと強力に出来る調がいます!

 

「死ねぇぇぇぇぇっ!」

 

 激突するピンクと真っ黒な輝き。互角、デスか。さすがはダブルドライブデス。

 

「なら……っ!」

 

 アタシの意思に応じてギアが展開してくれます。

 今の悪意は動けません。チャンスデス!

 

「シェルブールの雨っ!」

「なっ!?」

 

 クリス先輩のお得意なミサイル攻撃デス!

 マリアを痛めつけるようで心が痛いデスが、ここで迷ったら余計悪意がマリアの事を好き勝手しちゃうデスっ!

 

「ここだっ! 最大出力っ!」

 

 って、何デスとぉぉぉぉっ!

 ま、まさかの調は全力じゃなかったデスか!?

 アタシのミサイルが当たる直前に調のビームが悪意の攻撃を押し込むように進んで、結果二つの攻撃が悪意へ直撃デス。

 

 ……お、恐ろしいデス。本当に容赦ないデスね、今の調。

 

「切ちゃん、どうしたの?」

「え、えっと、このギア凄いなって思ったデスよ」

 

 誤魔化しながらある意味の本音を言ったデス。

 ダブルドライブ相手に互角どころか若干有利デスから。

 

「そうだね。でも、これはユニゾンしてるようなものだからじゃないかな?」

「ほえ?」

 

 ユニゾン、デスか?

 

「うん、シンパレートが上がってるんだと思う」

「デデデ!? し、調、今アタシの心を読んだデスか?」

 

 口に出してないのにアタシの思った事へ頷いたデスよ!

 

「何となく分かった。切ちゃんもきっと出来るよ」

「わ、分かったデス……」

 

 とは言っても調の心を読むなんて……どうすればいいデスかね?

 とりあえず調の事を考えていればいいデスかねぇ。

 

――今はマリアの体を使う悪意を弱らせないと。ある程度のダメージは……仕方ないかな。

 

 っ?! き、聞こえた、デス。ならっ!

 

「今はマリアを元に戻す方が重要デスからね!」

「……うん!」

 

 笑みを向け合って二人揃って動き出す。

 

――上下の動きを私が牽制するっ!

――なら左右はアタシにお任せデス!

 

 どんどん調の考えが伝わってくる。言葉さえもいらないなんて凄すぎるデスよっ!

 本当に今のアタシ達は同調してるんデスね! メカニカルギアツインドライブ、凄いデスっ!

 

「ど、どうしてだ!? 何故声も視線も使わず意思疎通が出来るっ!?」

 

 悪意が動揺してますがアタシ達は何も口にしません。

 アイコンタクトを越えた、ハートコンタクトなアタシ達に、“HEART TO HEART”なザババの刃に、勝てる者はいないんデスっ!

 

「はっ!」

「くっ!」

「ほっ!」

「がっ!? 既に回り込んで!?」

「見え見えっ!」

「ぐふっ!? こ、こんなはずは!」

「そこデスっ!」

「せ、競り負ける、だとっ!?」

「競りもしないっ!」

「しまっ!?」

 

 どれだけ強くても一人きりじゃ勝てないデス。届かないんデスよ。

 だからアタシと調は手を取り合ったんデス。あの環境で生きて行くには、誰かと支え合うしかないって分かったデスから。

 でも、それだけじゃない。それだけじゃないデス。

 始まりはそうでも、今のアタシ達はただ生きて行くために手を繋いでる訳じゃないデスから。

 

 それが分からない悪意に、アタシ達を倒せるはずはないデス。

 

 支え合わないといけない弱さは、支え合える強さでもあるって分からない悪意にはっ!

 

――決めるよ切ちゃんっ!

――分かってるデスよっ!

 

 調と手を繋ぎ合って指まで絡める。

 

「「シンメトリカルドッキングっ!」」

 

 その言葉にアタシと調のギアがパージされて、一つに合体していきます。

 アタシ達はギアインナーになったですけど、体を守る様に周囲を金色の淡い光が包んでくれてますね。

 まるでアマルガムのアレみたいデス。

 

「切ちゃん、出来上がったら分かってるよね?」

「モチロンデスよ」

 

 ギアがなくなったせいでもう調の心は聞こえないデスけど、それならちゃんと声に出せば大丈夫デス。

 

「嘘ぉ……」

「ふ、二人のギアが……合体して……」

「な、何かの形を作っていく、だと……?」

 

 下から聞こえる響さん達の声は驚きが混じってますね。

 気持ちは分かるデス。アタシもガガガを見てなかったら大きくお口を開けてたはずデスから。

 

 そう思ってる内に合体完了デス。じゃあ……

 

「「天・竜・神っ!」」

 

 アタシと調の声に合わせて完成した天竜神ギアがポーズを取ってくれました。

 これでもう仕上げデスね。

 

「ひ、人型ロボットっ!? これはまさかっ?!」

「「天竜神! 光と闇の舞い(デース)っ!!」」

 

 悪意が天竜神ギアを見て大きく驚いたデスが、もう遅いデス。

 むしろ知ってるのなら大人しく負けを認めてマリアを返して欲しいデスよ!

 

 そう思ってる間にまずはミサイル攻撃が悪意を襲います。

 だけど、その意味を知ってるからか悪意は反撃せずに逃走しようとしました。

 

「その攻撃は知っている! みすみすやらせるものかっ!」

 

 ゲートのある方へ逃げようとする悪意デスけど、アタシと調は慌てません。

 だって、もうそっちには……

 

「どこへ行こうと言うのだ?」

「なっ!?」

 

 巨大な剣に乗って腕を組む翼さんがいます。

 

「もう逃げられません」

「くっ!」

 

 睨むように悪意を見つめる未来さんがいます。

 

「そんな速度なら振り回されないっ!」

「ちぃ!」

 

 気合十分って感じの響さんがいます。

 

「後方に注意せよ」

「何?」

 

 その足元ではししょーがニヤリと笑ってました。

 で、悪意はその言葉の意味を分からずに戸惑ったようデスが、すぐにある事を思い出して後ろを振り返ったところでミサイルが爆発してその煙が悪意を包み込みました。

 

「これで終わり……」

「デスね……」

 

 あの中ではもう悪意の戦力をとことん奪うように天竜神ギアが戦ってくれてます。

 その後はししょーにお任せデスね!

 

 

 

「くっ、しまった。完全に奴らの術中にはまったか……」

 

 黒煙の中、悪意はこれから始まるだろう攻撃を回避するべくそこからの脱出を図った。

 周囲は響達装者が囲んでいた事を覚えていたため、仁志がいた足元、つまり下方へと移動を開始したのである。

 

 切歌と調による攻撃で悪意の状態は既に継戦不可に近付きつつあり、その移動速度は目に見えて低下していた。

 

 それでも、十分に脱出できる速度は有していたのだ。

 

 普通なら。

 

「っ!?」

 

 死角から襲い来る閃光。それを間一髪回避する悪意だが、それが始まりに過ぎない事を悪意はよく知っていた。

 

「ま、不味い……っ!」

 

 悪意が包まれている煙はただの煙ではない。

 その中には微小な大きさの鏡のような物が含まれていて、それらを使って高出力レーザーを反射させて攻撃するのが“光と闇の舞い”であった。

 

 そう、それは悪意が邪悪龍となった際、応用しようとしていた攻撃法と同じである。

 

「ぐあっ! こ、このままではっ!」

 

 ありとあらゆる角度から襲い来る閃光を防ぐ術はなく、攻撃している相手を探ろうにも反射を利用しているために正確な位置を割り出すのは不可能に近い。

 闇雲に攻撃すれば、実弾攻撃や直接攻撃でない限りそれが反射させられて自分への牙となるのだ。

 しかも、今悪意が相手にしているのは二つのギアが合体したギアロボットである。

 その息遣いなどあるはずもないし、生物でない以上悪意が精神へ影響して操る事も気配を探れるはずもない。

 

「ならばっ!」

 

 どうやってもダメージを負うのなら、それを覚悟でこの中から脱出すればいい。

 そう決めて黒煙の中を下へ向かって移動する悪意。その動きを執拗に閃光が追い駆ける。

 それらにギアを焼かれ、傷付けられても悪意は動きを止めず、遂にそこからの脱出に成功した。

 

「これでっ!」

「終わりだっ!」

「なああああっ!?」

 

 ようやく抜け出した悪意を待っていたのは、依り代を突き出す仁志だった。

 その背後には天竜神ギアが立っていた。つまり、既に悪意がどこから脱出するかを天竜神ギアが仁志へ教えていたのである。

 

「マリアっ! 聞こえているか! いつまでそんな奴の言いなりになってるつもりだ! ウェル博士よりも嫌な相手だろ、そいつっ! そんな奴に自分の体、好き勝手させてて平気かよっ!」

「アアアアアアッ!?」

「そいつはなっ! 君の体を使って、切歌を悪意に染めさせ、調を追い回し、エルとヴェイグを疲弊させたんだ! それでもまだそいつに体を使わせるのか? マリア・カデンツァヴナ・イヴでいさせるのかよっ!」

“いや……そんなの、絶対にイヤっ!”

 

 仁志には聞こえていないが、マリアの眠らされていた深層心理が目覚め始める。

 悪意が家族愛を利用してマリアに寄生しているのなら、同じ物を揺り動かして追い出そうと仁志は考えたのだ。

 

「ガアアアアッ! ニ、ニドモオナジテヲッ!」

「「ダブル・リム・オングル(デス)っ!」」

 

 依り代の干渉に耐え悪意が仁志へ抵抗を試みるも、それは切歌と調の意思を受けたギアが阻止する。

 その両手に光の刃を出現させ、それで悪意そのものでもあるイーヴィルギアを斬ったのだ。

 勿論、その刃は正真正銘のザババの刃である。即ち魂を刈り取る刃。

 悪意に魂はないが、代わりに強烈な自我がある。

 それをザババの刃は一気に消耗させたのだ。

 

「ッ!」

「うぷっ!?」

 

 だが、それでもマリアに根付いた悪意を刈り取る事は叶わなかった。

 悪意はイーヴィルギアを分離させてその瘴気を周囲へ撒き散らしたのだ。

 それに包まれる形となった仁志を見て、五人の装者は表情を凛々しくした。

 

「ギアの光で瘴気を祓うぞっ!」

「「「「はい(デス)っ!」」」」

 

 翼の声掛けに響達が応じてツインドライブギアから依り代の輝きが放たれる。

 それによる浄化の力が瘴気をすぐさま消し祓った。

 

 が――。

 

「……逃げられたかっ」

 

 目くらましを兼ねたそれが晴れた時にはもう悪意の姿はなかった。

 仁志はその翼の言葉を聞きながら手にした依り代へ目を落とし深くため息を吐いた。

 

(エルの奴に、残念なお知らせしないといけないな……)

 

 あと少しでマリアを悪意から取り戻せる。

 そう思えてた仁志にとって、この逃亡はかなり悔しさの残るものだった。

 

「翼さん、マリアさんを追い駆けちゃダメですか?」

「それはダメだ。手負いの相手を追い駆けると思わぬ反撃を喰らう事もある。今はその時ではない」

「それはそうかもしれませんけど……」

「響、気持ちは分かるけど切歌ちゃん達も疲れてるし、私達だって万全じゃないんだよ?」

「そう、だな。もしあいつを追い駆けて奏とクリスが出てこられたら不味い。エルとヴェイグだって疲れ切ってるんだ」

「あっ……」

 

 響はそこでエルフナインとヴェイグの事を思い出したのか小さく声を漏らした。

 結局追撃は中止となり、仁志達は素早くその場からの撤退を開始する。

 

 そうして仁志達が上位世界のゲートへ辿り着こうとしていた頃、根幹世界にあるS.O.N.G本部内発令所へ奏が満足げな顔で戻ってきていた。

 

「今帰ったよ」

「おう、どうだった?」

「収穫あり。セレナの居場所は完全に分かったよ。それであいつは?」

「まぁ言わなくても分かってんだろ? 大方それで一旦戻ってきたんだろうし」

「ははっ、そんなとこさ。それにしても情けないねぇ。色々と考えた結果、結局負けてんだから」

 

 奏の表情は嬉しそうな笑顔だ。マリアの失態を心から喜んでいるのである。

 それがどういう想いからの笑顔かを察しているクリスは、どこか呆れたような眼差しを向けていた。

 その眼差しを気にもせず、奏は発令所を見回してマリアの姿がない事を確認して首を傾げた。

 

「で? 負け犬はどうした?」

「戻ってくる訳ねーだろ。今頃どっかでリベンジの機会を窺ってるはずだ」

「けっ、そういう事か。こうなるとあたしの動きに合わせてくるかもしれないって事かよ」

 

 心底嫌そうに呟き、奏はため息を吐いた。自分が仁志達と事を構える時にマリアが乱入してくると確信しているのである。

 

 実際今のマリアは体のダメージを癒しながら再戦への闘志を燃やしていた。

 

「まさかあれだけの力を発現させるなんて……。こちらのした事を逆手に取る、か。厄介な光の力め……っ!」

 

 忌々しいとばかりに呪詛を呟き、マリアは目を閉じてその場で眠る。

 一方では、奏とクリスの瞳が闇に染まっていた。

 何も映し出さない虚空の様なその瞳のまま、二人は口を揃えて呟く。

 

――順調にいけば、残す必要情報は神殺しのみ。閉じこもった娘へは、あの手段で十分だろう……。

 

 不気味なその呟きが発令所内に響く。

 段々と戦力を失っているにも関わらず、悪意は嗤う。

 まるでそれも最初から計算の内と言わんばかりに……。




きりしらのメカニカルギアは、ゲームだとある意味心象変化ではなく物理的強化でした。
故に依り代だけでは今まで使用出来なかったと設定しています。

それと、セレナ救出は少しだけ後になります。
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