シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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セレナ合流話は次回で。


アカツキノソラ

「父さん、母さん、短い間だったけど三人を置いてくれてありがとう」

 

 そう言ってから頭を下げる。

 今日は日曜日で時刻は午前七時半過ぎってとこか。

 父さんは休みだけども母さんは日勤だから早めにやってきた。

 勿論響達を迎えに来たのと同時に、その事への感謝を告げるためだ。

 

「別にいい。私達も貴重な経験をさせてもらった」

「響ちゃん、エルちゃん、ベー君、仁志がまた何かやらかしたらすぐに教えてね。しっかり注意しておくから」

「あはは……はい、ありがとうございます」

「おじいちゃん、おばあちゃん、本当にありがとうございました。僕、初めてグランパやグランマが出来て嬉しかったです!」

「ぱぱさん、また機会があったら色々教えてくれ。ままさん、タオルありがとう。大事にする」

 

 頭をゆっくり上げると、そこには笑う母さんと笑みを見せる父さんがいた。

 それが一瞬俺の記憶にある昔の姿と重なる。けど、やっぱり当然だけど老けたよなぁ。

 

 ……少しでも、恩返しできるように俺なりに頑張ろう。

 せめて、二人を見送るぐらいはしないとな。

 

「それじゃあ、もう行くよ。母さん、仕事頑張ってな。父さんはタバコ、控えろよ? 響達がいた間は大分抑えたらしいじゃないか」

「無理よぉ。お父さん、仕事場の方でその分吸ってたみたいで」

「余計な事は言わなくていい。とにかく、エル達の事をちゃんと見てやれ。兄様、なんだろう?」

「……ああ」

 

 父さんの言い方に含まれた意味合いを感じ取り、しっかりと頷いた。

 それに満足そうに笑みを見せた父さんは、幼い頃に俺が良い事をした時の顔と一緒だった。

 

 こうして俺は響達と一緒に実家を後にし、車ではなくあの日来た時と同じで電車で帰る事に。

 

「何だか、たった数日なのに寂しいです……」

「そうだね。おじさんもおばさんもあったかい人達だったもんね」

 

 ヴェイグを抱えて歩くエルの寂しそうな言葉に響も同意しながら後ろを振り返る。

 そこには三階建てのアパートがある。その最上階の右側へ二人の視線はきっと向いているはずだ。

 

「もうこれで会えない訳じゃないさ。何かあったら頼ってくれていいって言ってくれたんだろ?」

「「「はい(ああ)」」」

 

 顔をアパートへ向けたまま、響達が返事を返す。

 ヴェイグもどうやら寂しさを感じているらしい。

 どうやら父さんの趣味の話が気に入ったらしく、エル曰く寝台特急に乗って北海道へ行きたいと言い合っていたそうだ。

 

 ……実の息子さえ持ちかけられた事のない旅行なんだが、もしかしてヴェイグなら表向き旅費は一人分で済むからか?

 

「エルや響の使ってるスマホにも父さんと母さんの番号登録してあるし、翼のも登録してもらってる。こっちにいる間はいつでも頼ればいいさ」

 

 きっと、それを父さんと母さんも望んでいるはずだ。

 すっかり響達三人を家族のように扱ったあの二人なら、きっと……。

 

「……はい、そうですね」

 

 響がそう言ってエルの肩へそっと手を乗せた。

 

「エルちゃん、今はみんなと合流しようよ。おじさんとおばさんには、また会いに来れるしね」

「……はい」

 

 こうして俺達は実家からの最寄駅へ向かい、そこから電車で暮らしている街の最寄駅へと移動する。

 

 その道中はもう響もエルも明るい顔を見せてくれ、ヴェイグも声を出す事は出来ないが時折周囲の目を盗んで笑みを見せてくれた。

 駅に到着し、新しく借りた一時的な住居へと向かう。

 もうエルに哀しさや寂しさはないように見える。でも、一応念のために聞いておく事にした。

 

「エル、一ついいか?」

「はい、何でしょう?」

「寂しいや悲しいって気持ち、言ってくれていいからな。客観視すれば正解だとしても、それが主観になっても納得出来るとは限らないんだからさ」

「兄様……」

「ワガママ言ってくれていいって事だ。子供の内しかワガママを好き放題言える時期はないんだしな。もし俺に言えないなら響達でもいいから。癇癪って言って分かるか? エル、あまり我慢しなくていいぞ。せめてその、俺達には遠慮なく思った事や言いたい事を言って欲しいんだ」

 

 実家に居てくれと、そう俺が言った事でエルは少なからず我慢をしてくれた。

 いや、俺が我慢をさせてしまったとも言える。その事を父さんと母さんは俺へ教えてくれた。

 子供に我慢をさせる事は必要だ。だけど、それは仕方ない時であり、しなくてもいい我慢をさせるのは違うって。

 

 同じ失敗をしないためにも、俺はもう一度ちゃんとエルと向き合おうとの、その想いで言葉をかけた。

 

「ありがとうございます、兄様。でも、それなら僕はもう昨日の夜、それを言ってます」

「……そっか」

 

 可能なら父さんや母さんも入れてみんなで暮らしたい。あれはエルの紛れもない本音なんだ。

 

「おじさんやおばさんも一緒にいてくれたら、マリアさん達を元に戻した後も仁志さんの負担減りますね」

「代わりに精神的負担は増えそうだよ」

 

 特にマリアと奏なんて父さんと母さんが知れば間違いなくからかってくる。

 で、あの二人だと下手すりゃ本気で俺の妻になろうとして、余計父さんと母さんが喜びそうだ。

 

「でも、響さんはおばあちゃんからお料理を教えてもらおうとしてましたし……」

「え、エルちゃんっ!?」

「母さんから料理?」

 

 何故だ? 本人も言ってた通り、母さんは料理が得意でもなければ好きでもない人だ。

 どうせ教わるなら未来や調の方がよっぽどいいと思うんだが……?

 

「はい。兄様が慣れ親しんだ味を覚えたいって」

「俺の……」

 

 理由が納得出来て響へ目を向けると、そこには赤い顔で下を向く可愛いお日様がいた。

 

「……別に俺の慣れ親しんだ味を知らなくてもいいよ。むしろ、俺が響が慣れ親しんだ味を知りたいぐらいだ」

「え?」

「えっと、夫婦が揉めやすい事って色々あるらしいけどさ。その上位に入るのが互いの家庭の味の違いなんだって。カレーや味噌汁、雑煮など色んな食べ物の味付けやら入れる物やらの違いだ」

「あっ、そういえばマリアさん達が作るカレーと、未来が作るカレーは入ってる物が違ってました」

「きっと響のお母さんが作った物もそうじゃないか? で、きっと俺の母さんが作るのもだ。それらが家庭の味ってやつなんだよ」

 

 そこで一旦俺は言葉を切って鍵を取り出す。目の前にはまだ見慣れないドアがある。

 

「夫婦ってのは、赤の他人同士が家族になる事だ。なら、一方だけが合わせてもダメなんだと思う。互いの味を教え合って、そこから新しい味を作るんだ。その家だけの、味をさ」

「新しい味……。その家だけの、味……」

 

 これも色んな漫画やアニメからの受け売りに近いけど、俺もそう思う。

 食事は絶対に必要なものだ。そこの差異を放置したらきっと揉める。

 だからこそ、最初にお互いでそれを教え合って妥協点みたいなものを探すんだ。

 これ、言うなれば人生の教訓だよなぁ。譲れないところは譲らず、譲れるところは譲る。

 これが出来ない事の、何と多い事か。俺もそういう意味ではまだまだなんだろう。

 

 鍵を開けてドアを開ける。まずエルが中へ入り、響がそれに続いて入るのだけど……

 

――仁志さん、今の話って、私と新しい味作りたいって事で、いいですか?

 

 なんて赤い顔で聞かれてしまい、俺は答えに困ってしまった。

 無意識にプロポーズのような事を言ってたんだと気付いて。

 響は俺が答えない事で何かを察してくれたみたいに苦笑して家の中へ入ってくれた。

 

「……何やってんだよ俺」

 

 これ響だから今みたいな感じで終わらせてくれたけど、セレナだったらもっと厄介な事になってたかもしれないぞ。

 ホント、気が抜けてるにも程がある。あのゲートの中へ入ってからずっと続いてる倦怠感もあってか、本当に体の調子が良くない気がする。

 

 翼や未来には喜んでもらえたみたいだけど、俺自身はあんな風に弱いところを見せる事への罪悪感や抵抗感はまだある。

 

 だけど、そう思っても弱くなってしまうぐらい、今の俺は精神的に疲弊してるんだろうな。

 

 その原因は、おそらくあの夢。俺が一番心を病んでいた頃の記憶。

 何でそんな事を思い出すんだと不思議だったけど、翼と切歌の話で理解した。

 あれは、悪意が俺に見せているんだと。ただ、困った事にそれが分かったところで打つ手がない。

 

 実は、昨日寝る前に未来へ頼んで神獣鏡の光を当ててもらったんだが、それでも寝てる時に悪夢を見た。

 途中でそれが終わってくれたから良かったけど、あれはおそらく調が手を握ってくれてたからだと思う。

 

 朝、起きた時に調と手を繋いでたからな。

 

「ただいま」

「「「「おかえり(なさい)(デス)」」」」

 

 エルや響に遅れる事少しで俺も玄関へと入ると同時に声を出すと、翼達の声が返ってくる。

 それに笑みを浮かべながらドアを閉めて鍵をかけると靴を脱いでリビングへと向かう。

 そこにはこっちを見つめる五人の装者と二人の支援役がいた。

 

「……ある意味、あの平屋を超えたな」

 

 そう告げるとエルとヴェイグが頷き、響達は苦笑した。

 

「デスよ。ただ……」

「うん、今は師匠しか働けない……」

「私達は、もうバイトしない方がいいからね」

 

 未来の言葉に切歌と調が小さく頷くのを見て、俺は五人が金銭面を心配しているだけではないと察した。

 俺だけが勤務し、その上で悪意とも戦う事を申し訳なく感じているのだろう。

 

「いいよ。それなら歌を唄ってくれ。動画配信の“戦姫絶唱シンフォギア”はちゃんと残ってるんだ」

「そっか! 歌があるんだっ!」

「それなら今の状況でも協力出来るな」

 

 忘れてたとばかりに笑顔になる響へ翼も似たような顔を見せた。

 そう、今の響達なら戦闘曲とは異なる歌を唄えるはずだ。

 それをアップしてもらえば多少なりとも収入となるだろう。

 

「兄様、なら僕にやり方を教えてください。今の僕は何でもいいので役に立ちたいんです」

 

 エルの言葉は俺の言葉でもあると思った。だから笑顔で頷いた。

 

「ああ、いいよ。でもエル、これだけは忘れないでくれ。エルが笑顔でいてくれる事で、俺達も笑顔になれるって事を。エルがこうして元気でいるだけでも、十分役に立ってくれてるって事をさ」

「……はいっ!」

 

 元気な笑顔で嬉しそうに頷いてくれたエルを見て、俺だけじゃなく響達も笑顔になった。

 だが、ここで新しい問題が……

 

「冷蔵庫、か……」

「はい。あと洗濯機も欲しいです」

 

 未来の口から告げられた内容に俺はため息を吐きたくなった。

 当然の事だが、俺の部屋には洗濯機がない。冷蔵庫も一人用の小さな物だけだ。

 それをどうにかするために以前は翼が根幹世界で家電を購入し持ち込んでくれたのだが、それらはもうゴミとして処分済み。

 マリア達が使っていた物は売却処分したため手元にない。要するに大人数で暮らすための家電がないのだ。

 

「……よし、分かった。買おう。で、俺の部屋にある物をとりあえず全部こっちへ持ってくる」

 

 腹を括ろうと、そう思った。決断の時だとも。

 この借家へ完全に引っ越し、みんながいなくなった後もここで暮らす。

 俺は今、そう決めた。

 

「それはいいですけど……」

「ししょー、アタシ達が帰った後、またお引越しデスよ?」

「いや、しない。俺はここで暮らすって決めた。で、あの部屋を引き払う」

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

 ヴェイグ以外が驚きの声を上げたけど、俺はもう決めたとばかりにキッチンへと向かった。

 そこには洗濯機を置ける場所が設置されている事を知っていたからだ。

 

「……これなら馬鹿でかい奴じゃない限り置けるな」

「ひ、仁志さん! 本気ですか? ここ、家賃だけで仁志さんの収入の半分ぐらいあるんじゃ……」

「それでもいいよ。むしろ、そうなれば仕事へもっと励む理由になる。芸人さんの中じゃ、暮らす場所を自分の収入ギリギリにしろって言う人もいるぐらい、家賃を理由に仕事へ精を出させるって考えは珍しい事じゃないんだ」

「で、でも……」

 

 不安そうな響へ俺は笑みを見せる事にした。

 俺だって不安がない訳じゃない。でも、今は心機一転を図るべき時なんだと思う。

 それに、父さんに金を出してもらう以上、ここを借り宿のようには扱いたくないとも思うんだ。

 

「だ~いじょうぶ。それに、考えてみればさ、みんなが今後遊びに来た時、ここだったら寝る場所にも困らないだろ? いい物件だと思うよ」

「仁志さん……」

「だから、心配よりも応援してくれないか? 大丈夫。俺ならもっといいとこにもいけますとかさ」

「……はいっ! 仁志さんならきっともっと綺麗で新しいとこに行けます!」

「うん、ありがとう。出来れば四十を超える前にはそうなりたいな」

 

 お日様の笑顔を俺に向けてくれた響へ感謝するように言葉を返す。

 と、そこへ切歌と調が顔を出した。

 

「ししょー、お部屋の鍵、貸してくださいデス」

「私達が荷物運んできます」

「あっ、じゃあ俺も一緒に行くよ。大家さんとも話をしておきたいし」

 

 こうして俺はザババコンビを連れて部屋へと向かう事に。

 とりあえず未来には響と共にコインランドリーへ行ってもらい、今日のところはそれで何とかしてもらった。

 翼にはエルとヴェイグと一緒に留守番を頼んだ。ついでにすっかり忘れていた動画のコメントチェックなどもお願いしておいた。

 

「で、何で手を繋ぐ事に?」

 

 現状俺の両手はザババコンビと繋がれている。

 嫌じゃないし嬉しくもあるのだが、何故だろうと首を傾げたい。

 

「ししょー、やっぱり夜うなされてたって調から聞いたデス」

「だから、少しでも長く私達が触れておかないと」

「ああ、そういう事か」

 

 寝てる時だけじゃなく起きてる時も可能な限り人の温もりを与えておこうと、そういう事らしい。

 二人らしい考えと気持ちに心があったかくなる。

 

 そのまま二人と手を繋いだまま部屋へと到着し、早速とばかりに切歌と調は荷物を運び出す。

 まずは切歌が冷蔵庫って……え?

 

「き、切歌、それ一人で平気なのか?」

「デスっ!」

「師匠、私達の頭をよく見て欲しい」

「へ?」

 

 調の言葉で二人の髪をよく見れば……あっ、南国風な髪飾り。

 

「……ギアを展開してるのね」

「そういう事」

「だから安心してくださいデス」

 

 水着ギアを仕込んでいるのなら俺よりも今の二人は力持ちだ。

 なら過度な心配はいらないか。

 

「分かった。でも気を付けるんだぞ?」

「はいデス」

「うん、分かってる」

 

 切歌に続いて調が運び出したのは……折り畳みテーブルか。

 ギアがあるとはいえ、それらを平然と運び出していく二人を見送り、俺は十年以上過ごしてきた部屋を眺めた。

 

「……あまり物増えてないなぁ」

 

 初めて引っ越してきた時とそこまで変わらない部屋に乾いた笑いを浮かべて、俺はため息を吐いた。

 思い出がない訳じゃない。むしろこの半年近くは忘れられない思い出だらけだ。

 響と出会い、クリスと出会い、翼と出会った。その三人とここで過ごし、奏さえも一晩泊めた事がある。

 セレナ、切歌、調を招いた事もあるし、マリアとエルに初めて会ったのもここだ。

 未来に手料理を作ってもらった事もある。本当に、思い出が沢山出来た。

 

「…………あ~、ダメだなぁ。涙もろくなってる。これも歳か?」

 

 涙を我慢する事無く流して、俺は一人笑う。

 やっぱあの時一人で泣いたのを契機に心が弱ってる気もする。

 これが悪意のせいなのかもしれないけど、現状打てる手はないに等しい。

 

「そういえば、未来が力じゃ倒せないって言ってたのもそれかもしれないな」

 

 俺の体へ悪意が手を出してるとすれば、それは力でどうこうなるものじゃないはずだ。

 悪意が力を増す前はたしかに力で何とかしてきた。神獣鏡の光で祓ったり、ギアを展開する事で依り代の力を増して弾き飛ばしたりと。

 

 だけど、あのイグナイトギアへ変化した辺りからそれだけじゃ悪意をどうこう出来なくなってた。

 いや、正確にはそれで何とかしても同じ事の繰り返しになってるんだ。

 神獣鏡でも依り代でも、出来るのは一時的な事で根本的な解決にはなってないんじゃないか?

 

「……それがどうにか出来るとすれば、やっぱり愛なんだろうか?」

 

 そう思った瞬間、ズキっと頭が痛む。

 けど、以前のような膝を付く程じゃない。

 

「…………この事を考えられると都合が悪いってか」

 

 どうやら悪意はやっぱり駆け引きとか出来ないみたいだ。

 思い出せば最初の激痛も悪意の事を考えてた時だった。

 

「っと、いけないいけない。大家さんへ電話しないと」

 

 そのまま部屋の中で大家さんとやり取りを始め、今月いっぱいで解約したい旨を告げると何と納得されてしまったのだ。

 何でも大家さんも年齢のためか色々と考える事があるらしく、そろそろこのアパートも処分する事を考え始めていると教えてくれた。

 考えてみれば、俺がここへ来た時からおじさんじゃなくておじいちゃんだったしなぁ。

 

「さてと……どうしたもんかな?」

 

 行き当たりばったりに近い行動だけど、思い返せば俺ってそういう生き方をしてたっけ。

 響と出会ってからが人生で一番頭を使ってた気がする。

 

 まぁそれは今もかもしれないけど……。

 

「俺も何か運びたいけど……」

 

 誰もいなくなった部屋の鍵を開けっ放しはさすがにどうかと思う。

 なので切歌や調が戻ってきたらどちらかに少し休んでもらって、俺が物を運ぶとしよう。

 

「…………今日は晩飯を食べずに寝るとしよう」

 

 こうなってから初めての勤務だし、オーナーに心配させたくない。

 元気な感じで仕事しておかないとな、うん。

 

 

 

「今日のところは、ちゃんとお昼と夕方それぞれで買い物へ行ってご飯を作らないといけないね」

「そうですね。師匠が冷蔵庫と洗濯機を急いで設置してくれるように頼んでくれるみたいですけど、それでも当日は無理ですし」

 

 キッチンで話す未来と調。その視線は揃って本来物が置かれるはずの場所を見つめていた。

 排水口や水道などが完備されているそこは、洗濯機を置くための場所である。

 

 そしてその視線が別の場所へと向いた。そこには仁志が使っている一人用の小さな冷蔵庫が置かれている。

 

「冷蔵庫は……とりあえずこれを使うとしても、入れられて精々飲み物だね」

「ですね」

「調味料とかは只野さんが使ってた物が少しあるけど……」

「新しく買うとしたら、どれだけの大きさ買うか迷います」

「そうだね。そこは、今後次第って事にしよう」

「はい。じゃあ……」

 

 この家の家事を主に担当する事になるだろう二人の打ち合わせがキッチンで行われる中、リビングではゲートであるノートPCを見つめるエルフナインとヴェイグの姿があった。

 

「この状態なら匂いはしないんですよね?」

「ああ」

「じゃあ、こうやって閉じている時はあの裂け目は悪意に見えなくなってると考えていいんだ。そして、おそらくだけど時間の流れ方さえも異なってるはず……」

「だが、裂け目はゆっくりと閉じていってる。いや、この場合は閉じられようとしてるかもしれないな」

「まさかっ!? じゃ、あれは悪意がやっているんですか!?」

「可能性はある。星の声は悪意の力が増してるから時間停止へ力を多く向けてるんじゃないか?で、その結果ゲートである裂け目の維持が難しくなってきてると考えれば色々と納得出来る事は多い」

 

 ヴェイグの意見にエルフナインは息を呑んだ。

 あの悪意に勝利したと思った時に見た裂け目の変化。それが既に悪意の次なる動きの予兆だったのかと思ったのだ。

 

 そこから二人は悪意が裂け目を閉じようとしている理由を考え始める。

 悪意にとって上位世界との行き来はもう出来なくなっても構わないと考えているのか。

 あるいはそうする事で自分達を焦らせるためかもしれないなどと、色々と意見を述べ合う二人。

 

 一方、二階の寝室とされた場所には仁志を始めとする四人がいた。

 

「じゃ、お願いするな?」

「はい」

「デス」

「任せて」

 

 体の気怠さが取れない仁志はこれまでの事を踏まえ、響達三人に頼んでうなされないで眠れる方法を模索しようとしていたのだ。

 翼に膝枕をしてもらい、響と切歌に手を握ってもらうという形で目を閉じる仁志。

 ある意味では羨ましいと言われるかもしれないが、本人達にとっては真剣な問題であった。

 

 仁志が悪意に何かされている。

 これはもう仁志達全員の共通認識であり、疑いようのない事実であったからだ。

 事実、響達は気付いている。今朝の仁志はどこか元気がないと。

 

「……もう寝っちゃった」

「早いデス……」

「ああ、やはり疲れが取れていないのだろう」

 

 目を閉じて五分と経たずに眠りに落ちた仁志を見て、響達は小さな驚きを浮かべていた。

 そのまま仁志を見つめていた三人だったが、次第に彼の寝顔が苦しそうなものへと変わり出すのもすぐだった。

 

「ううっ……ああっ……」

「仁志さんっ!?」

「立花、起こす方向ではダメだ。何とか落ち着かせるんだ」

「ししょー、大丈夫デス。アタシ達がついてるデスよ」

「ぐっ……はぁはぁ……っ!」

 

 強く手を握り締める切歌の想いも虚しく、仁志のうなされ方は酷くなる一方だった。

 翼が昨日のように仁志の髪を優しく撫でるも、それでさえ沈静化させる事が出来ず、響達は表情を曇らせる。

 もう起こすしかないのではないか。そう誰もが思うも、それでは今後仁志は体を休める事が出来なくなるのと同義であると考え、何とかしようと知恵を巡らせた。

 

「……そうデスっ! もしかしたらこれで……っ」

 

 何かを思い付いたように切歌は仁志の頬へと顔を近付け、その頬へそっと口付ける。

 

(ししょーがゆっくり寝れますように。アタシの気持ち、届いてくださいデス……)

 

 仁志が言っていた愛の力が悪意を倒す方法ではないかとの言葉を思い出し、切歌は心の底から仁志を想って優しい気持ちを伝えるようにキスをしたのだ。

 

 すると、その瞬間仁志の表情が若干ではあるが和らぐ。

 切歌の真っ直ぐな想いがギアペンダントに埋め込まれた依り代を通じて仁志の体へ作用し、その悪夢を弱めたのだった。

 

「凄い……。切歌ちゃんがほっぺたにキスしたら仁志さんが少しだけ落ち着いた」

「暁、どうしてキスを?」

「えっと、ししょーが悪意を倒すには愛の力が必要じゃないかって言ってたのを思い出したんデスよ。それで、ならししょーがゆっくり寝れるようにって思ってキスしたら伝わらないかなって、そう思ったんデス」

 

 少しだけ照れながらの言葉に響と翼はそういう事かと納得し、ならば自分もと気持ちを込めて仁志の頬へ口付ける。

 

(仁志さんが楽しい夢を見れるように……。この想い、届いてっ!)

(仁志さんが体をちゃんと休める事が出来ますように。私のこの心が、その一助となって欲しい)

 

 響や翼の強い想いもギアペンダントに埋め込まれた依り代を通じて仁志へと注がれ、何とその表情を穏やかなものへと変える事に成功する。

 

「……本当に、効果があるのか」

「ししょー、やっと静かに眠れてるデスね」

「うん。翼さん、思い出してみると私達がリビルドギアを手に入れた時って……」

「そうだな。あの時も切っ掛けはキスだった。そう考えれば仁志さんの考えは的を射ているかもしれないか」

「じゃあじゃあ、ししょーをこうやって寝かせてあげるためには、今みたいな事してあげればいいデスかね」

 

 愛の力。そんな抽象的な言葉をこれまで形にしてきた事もあり、三人は互いの顔を見合って頷く。

 自分達の間で眠る男の穏やかな寝顔。そのために今後も真っ直ぐな気持ちを込めたキスをしてやろうと、心に誓って。

 

 だが、この時彼女達は気付いていなかった。最初は膝枕だけで良かったものがすぐに触れるという行為を必要としたように、手を繋ぐ事で良かったはずが頬へキスをしなければいけなくなっている事を。

 

 それが意味する事は、仁志の安眠を阻む力が強くなっているという事だ。

 つまり、いずれ今のような行為でさえ無力化されるという可能性を秘めていた。

 

 しかしそれにまだ誰も気付く事なく、ただただ仁志が穏やかに眠ってくれている事を喜ぶように響達は微笑むのだった。

 

 

 

 翌朝、気怠そうに道を歩く仁志の姿があった。

 

(何だろな、この脱力感……。勤務中は何とかなったけど、終わった途端ガクッとくるみたいに疲れがきたし……)

 

 まるで体の状態が響と出会う前に戻ったぐらい体力が落ちている。

 そう感じながら仁志は新しい家とも言える借家へと向かっていた。

 

 同時刻、その借家では調が仁志のために簡単な朝食を作り始めていた。

 

「何だか懐かしい気もする……」

 

 当分朝早い時間に起きて食事を作る事はないと思っていた調にとって、仁志のために朝食を用意するのは若干の懐かしさを感じさせる事だった。

 ちなみに翼も起きているが、彼女はリビングにてトースターを前にし食パンが焼き上がるのを今か今かと待っているところである。

 

 そのトースターは翼があの部屋で奏や未来と暮らしている時に使っていた物だ。

 これなら自分も使えると仁志が譲り受けたため、今もこうして残っていたと言う訳だった。

 

「あっ、焼けた。って、そういえばバターも何もない……」

 

 上機嫌でトーストを手に取った翼だったが、そこでバターやジャムなどがない事を思い出してガックリと肩を落とした。

 

 きっとそれを仁志が見ていれば笑みを浮かべただろう。

 それ程今の翼は愛らしさに溢れていたのだから。

 

 その頃二階の寝室では未来が目を覚まそうとしていた。

 

「んっ……ふふっ」

 

 ゆっくりと瞼を開けて見えてきた光景に未来は思わず笑みを零した。

 何故ならそこには可愛らしい寝顔を見せる響や切歌、そしてエルフナインやヴェイグがいたのだ。

 

「……マリアさんも、こういう気持ちだったのかな?」

 

 この寝顔を守りたい。この温かさをずっと見つめていたい。そんな気持ちでいたのだろうかと、そう思いながら未来は体を起こすと大きく伸びをした。

 

 そしてパジャマのままで静かに動き出して階段へと向かった。

 

「ただいま……」

 

 そこで仁志が玄関へと姿を見せた。ただ、その雰囲気は未来が初めて見る程疲労困憊と言えた。

 

「只野さん、おかえりなさい。お疲れ様でした」

「ああ、おはよう未来。うん、かなりお疲れだよ」

 

 力なく笑う仁志に未来は思わず息を呑んだ。

 これまで彼女が見てきた中でも、ここまで仁志が疲れているのは初めてだったのだ。

 

(やっぱり悪意の影響が出てるんだ……)

 

 もしこれが夏場であれば本当にバテていただろうと思い、未来は靴を脱いだ仁志へと近寄るとその体をそっと抱きしめた。

 

「未来……?」

「只野さん、やっぱりお仕事しばらく休んだ方がいいです。今のままだと、いつか倒れますっ」

 

 朝早い時間であるため未来は若干声を抑えたが、許されるのなら叫んでいただろう。

 一緒にジョギングしていた時でさえ、今のような疲れた顔を見せた事はなかったのだ。

 だから未来には分かったのだ。今の仁志の状態が異常である事が。

 

「悪意が絶対何かしてます。只野さんを弱らせてしまえばマリアさん達から自分を引き剥がす事が出来ないって分かってるんです。今一番悪意が警戒してるのは私でも響でもない。只野さんなんです」

 

 事実、今まで悪意に染め上げられた装者達を助け出す際、依り代は全てに関わっている。

 それは、現状の悪意を弾き飛ばすにはギアに埋め込まれた依り代の力だけでは足りないという事だ。

 

「未来……」

「それだけじゃないです。只野さんが倒れでもしたら私達全員落ち着いていられません」

「仁志さんおか……小日向?」

 

 二人の気配に気付いてリビングから翼が顔を出したが、玄関先で仁志へ抱き着いている未来を見て首を傾げた。

 

「翼さん、やっぱり只野さん、疲れ方が変です。私とジョギングしてた時だってここまで疲れた顔してませんでした」

 

 そう言われて翼は仁志の顔をじっと見つめた。

 顔色は悪くはないが生気があまり感じられず、漂う雰囲気もどこか弱々しい感じがあり、翼は表情を少しだけ歪めた。

 

「……仁志さん、まずは朝食を食べて。月読が作ってくれたから」

「分かった。いただくよ」

「小日向も顔を洗ってくるといい」

「……そうします」

 

 リビングへ向かう仁志に続く形で歩き出す未来と翼。

 ダイニングに置かれた折り畳みテーブルには、まだ温かさを持つチーズオムレツと市販のコーンスープ、それとトーストが置かれていた。

 

「おかえり師匠。お疲れ様」

「ただいま調。飯、ありがとな」

「ううん、今の私に出来るのはこれぐらいだから。あっ、でも手を洗ってきて」

「ああ、そうだな。じゃ、手を洗って来るよ」

 

 フラフラと表現するような足取りで歩き出す仁志を調は不安そうな眼差しで見送る。

 

「……師匠、やっぱり疲れが取れてないんだ」

「調ちゃんもそう思うんだ」

「……未来さん」

 

 後ろから聞こえた声に調が振り返ると、そこには少しだけ影がある顔をした未来と不安げな翼が立っていた。

 二人の視線は調ではなく仁志が歩いて行った方を見つめている。

 

「月読、仁志さんが食べ終わったらとりあえず今後の事を私達で話し合おう。仁志さんの事も含めて、な」

 

 その言い方で調は一瞬にして真剣な表情へと変えて頷いた。

 彼女にも分かっていたのだ。今の仁志の疲弊度合が普段と異なる事を。

 

(今の師匠の状態だと本当にお休みの日じゃないと悪意と戦わせられない。ううん、下手したら連休じゃないと無理かも)

 

 明けの状態では危ない上に翌日仕事があるなど、今の仁志の様子を見ている限りとてもではないが戦いに連れ出せるはずがない。

 

 そう調は考え、洗面所の方から聞こえる水音に顔を動かした。

 

「今は師匠が私達の中心ですからね」

「そうだな。仁志さんがいなければ今の私達は悪意に打ち勝つ事は厳しい」

「だからこそ悪意は只野さんを狙ってるんですよね。それも、あたかもマリアさん達の手でやるように見せる形で」

「ああ。本当に悪逆非道なやり方だ」

 

 そこへ手を洗い終わった仁志がフラフラと戻ってきて、テーブルに置かれた食事の前へ座って笑みを見せた。

 

「あ~、本当に美味そうだ。調、ありがとう。じゃ、いただきます」

「どうぞ。それとトーストは翼さんだから」

「そうなのか? じゃ翼もありがとう」

「大した事してないから。でも、そう言ってもらえると嬉しい」

「未来、もう洗面台使えるから。待たせてごめんな」

「あ、いえ。別に気にしてませんから」

 

 まだ力が感じられないが、それでも仁志の声に込められた気持ちに三人はそれぞれ笑顔を返した。

 

 そして朝食を食べ終えた仁志は、幾分か気怠さが薄れたような気がしながら翼達と共に今後の事を話し合い始めた。

 

 まず、仁志は日課でもある散歩をしようと思っていたのだが、それさえも億劫な程の倦怠感を覚えており、それ故に翼達は余計散歩へ行くべきと考えた。

 

「仁志さん、私が付き添うから少しでも運動した方がいいよ」

「……やっぱり?」

「悪意が狙ってるのが只野さんの弱体化なら、運動量を減らすのは避けた方がいいですよ」

「それは、そうだけど……」

「師匠、辛いかもしれないけど頑張って。散歩から戻ってきたらシャワーで汗を流してすぐ寝れるように準備しておくから」

「……分かった。じゃ、翼、付き添い頼むな」

「うん」

 

 こうして仁志と翼が連れ立って散歩へと出かけ、調と未来はそれぞれで後片付けや着替えなどに動き出す。

 

「おはようございます、調お姉ちゃん、未来さん」

「「おはよう、エル(ちゃん)」」

 

 そうこうしているとエルフナインがリビングへと姿を見せて、顔を洗うべく洗面所へと向かう。

 ちなみにヴェイグは起きてこそいるが寝惚けた響に捕まっていた。

 

「クリスちゃん……」

「……まぁ、もうしばらくこうさせてやるか」

 

 これまでほとんど共に暮らしていたクリスの名を寂しげに呟いた響に、ヴェイグは微かに悲しそうな表情を浮かべて脱出する事を止めていたのだ。

 

「……マリアぁ」

 

 切歌は切歌で枕を抱き締めるようにしてマリアの名を呟いていた。

 普段能天気に見える二人だからこそ、その内面に秘めた寂しさや辛さは大きいのかもしれない。

 

 結局響と切歌は仁志が汗を流して寝室へ現れるまで眠り続けた。

 勿論、それをある意味で仁志が羨ましいと思ったのは言うまでもない。

 

 

 

 正午を少し過ぎた頃、寝起きに近い仁志が玄関で靴を履いていた。

 

「じゃあ、行ってくる」

「ついでにお昼の買い物もしてくるから」

「留守番、お願いします」

「「「いってらっしゃ~い(デス)」」」

 

 まだ眠そうな仁志と共に未来と調が外へと出て行く。

 三人はこれから電気屋へと向かい、冷蔵庫や洗濯機を選んでくるのだ。

 そのために一番良く使うだろう未来と調の意見で選んでもらおうと仁志が考えたのである。

 

「翼、タダノは大丈夫なのか? さっきはうなされてなかったみたいだが」

「ああ、やっと仁志さんにちゃんと寝てもらえるようになった」

「そうか。だがこうなると、あのゲートの目的は俺の嗅覚をダメにするよりもタダノが狙いな気がしてくるな」

「……かもしれない。悪意は、あの決戦の時から既に現状を想定して動いていたのかもしれないな」

 

 ヴェイグの言葉に悔しげな顔でそう言葉を返し、翼はゲートであるノートPCを見た。

 

(そう考えると雪音達が悪意に魅入られたのは……リビルドを得た後と考えるのが自然か……)

 

 依り代が悪意の存在をある程度感知できる事を考えれば、ギアの追加をする際にその存在に気付かないはずがないと翼は考えたのだ。

 故にあの海へ行った日以降から悪意が自分達をつけ狙っていたと思い、その執念深い部分に悪意たる所以を感じて翼は嫌悪感を抱いた。

 

 嫌な顔をする翼に気付かず、仁志達を見送った響達はこれからどうするかを話題に会話を始めていた。

 

「僕、リビングの掃除をします」

「じゃあアタシはお布団干してくるデスよ」

「私は……お風呂掃除?」

「ならエル、ここが終わったら二階の使ってない部屋も掃除しよう。俺も手伝うぞ」

「使ってない部屋、ですか? 構いませんけど……」

 

 ヴェイグの意見の意図が分からないエルフナインだが、そんな彼女へヴェイグは力強く頷いてみせた。

 

「ああ。マリア達が合流したらあの部屋だけじゃ足りないだろ?」

「っ! そうですねっ!」

 

 一瞬にして輝く笑顔を見せるエルフナイン。

 今はここにいない悪意に捕えられたマリア達もここに来るのだと、そう強く告げたヴェイグの気持ちに応えたのだ。

 

「その場合、どうなるデスかね?」

「うーん……翼さんと奏さんで一部屋?」

「じゃあ、姉様と僕に姉さんで一部屋です」

「そうなるとぉ……」

「響さん、未来さん、クリス先輩、アタシ、調でししょーデス」

「……タダノは寝れるのか、それで」

「「「あ~……」」」

「ふふっ、今ならむしろそうじゃないと寝れないだろう。ただ、そうなる頃はリビングで寝ると言って逃げそうだが」

 

 聞こえてきた三人の声に小さく笑みを浮かべて翼が会話へ参加した。

 あまりの和やかさについ反応してしまったのだ。

 

 響達は翼の言葉にその状況を想像し、揃って苦笑した。

 容易に想像出来たのだ。困った顔で両手を左右に動かして勘弁してくれと言っている仁志の姿が。

 

 その後、エルフナインは掃除機を手に持ちリビングの掃除を始め、切歌は翼と共に二階へ上がり布団を干しに行き、響は風呂場へ向かってスポンジ片手に掃除を始める。

 

 ヴェイグはクッションに座ってエルフナインの事を眺め、ふと思い出したかのように問いかけた。

 

「エル、そういえばあの時言ってた大事な相手とは誰だ?」

「えっと、キャロルって言って、僕の……双子のお姉ちゃんです」

「双子の姉?」

「その、そういう風に呼んでいいのか分かりませんが、僕としてはそういう認識です」

「そうか。もし良かったら教えてくれ。エルの姉の事を」

 

 そう言われればエルフナインが黙っていられるはずもなく、どこか嬉しそうにキャロルの事を話し始めた。

 となれば当然掃除の手は止まる事となり、ヴェイグの向かい側にエルフナインがクッションを置いて座れば、もうそれはあの平屋での日常に近いものとなる。

 

 そして、それは仁志の実家でも珍しい光景ではないので、ある意味で二人にとっては何の代わり映えもない日常風景だった。

 

 キャロルの事を話すエルフナインは、どこか悲しそうで寂しさもありながら、それでも嬉しそうに語っていた。

 そこには、あのミレニアムパズルを維持していた時の出来事が大きく関係している。

 

(キャロル、君は僕の中にちゃんといるんだね。きっとまだあの時のように主導権を握る事は出来ないんだろうけど、あの時ダウルダブラを貸してくれたようにいつかまた僕らの前に姿を見せてくれるんだよね?)

 

 はっきりと聞こえたキャロルの声。エルフナインだけしかそれを知らないが、だからこそ彼女は強く実感しているのだ。

 

 キャロル・マールス・ディーンハイムは、今たしかに自分の中に存在していると。

 

「あれ? エル、休憩デスか?」

「あまり掃除が進んでいるようには見えないが……」

 

 布団を干し終わった切歌と翼がリビングへ戻ってくると、当然クッションに座って話し込んでいるエルフナインとヴェイグを見て小首を傾げた。

 

「あっ! えっと……ごめんなさい」

「俺がキャロルの事を聞いたからだ。悪いのは俺だ」

「「キャロル?」」

 

 ヴェイグの口から挙がった名前に二人が同時に疑問符を浮かべるも、切歌はすぐにどうしてかを気付いた。

 

「ああっ! そういえばあの時エルがファウストローブを着てたデス!」

「そうか。それでヴェイグがキャロルの事を知りたがったのだな」

「まぁそういう事だ。エルの双子の姉とは思わなかったが……」

「「双子の姉?」」

「あっ、えっと、僕がそういう風に思ってるって事です。キャロルも、僕の家族ですから」

 

 胸へ両手を当て、噛み締めるように告げられた言葉。それに翼も切歌も一瞬だけ驚きを見せるも、すぐに優しく微笑みを浮かべて頷いた。

 

 二人も知っているのだ。シェム・ハとの戦いの際にキャロルの協力がなければ今の状況はない事を。

 それもエルフナインを守るようにキャロルが目覚めた事もだ。ならばエルフナインの姉という例えや考え方も分からないではなかったのである。

 

「エル、ヴェイグに話の続きをしてやってくれ。掃除は私が引き受けた」

「で、でも……」

「いいんだ。暁、後で私に教えてくれ」

「りょーかいデス!」

 

 翼の配慮に切歌は元気よく返事をしエルフナインの近くへ腰を下ろした。

 

「エル、アタシにもお話を聞かせて欲しいデス。エルの知ってるキャロルの事、全部教えて欲しいデスよ。後で翼さんに教えないといけないデスからね」

「はいっ!」

 

 切歌の言葉に感謝するように笑顔を見せ、エルフナインは再び話を始める。

 それを聞きながら翼は掃除機のプラグをコンセントから外して、それを手に二階へと向かった。

 掃除機の音が話の邪魔になると考え、先に二階からやろうと思ったのだ。

 

「お風呂掃除終わったよ~って、あれ?」

 

 翼が階段を上がり始めたのと入れ替わるように響がリビングへと姿を見せる。

 彼女も想像していたのと異なる状況に小首を傾げるも、エルフナイン達が笑顔を浮かべている事に笑みを見せた。

 

(良かった。マリアさん達の事や仁志さんの事でみんな若干暗かったけど、少しは明るくなってきてるみたい)

 

 その要因にムードメーカーである切歌の合流があると思い、響は小さく頷いてエルフナイン達の近くへと歩き出す。

 

 その頃、仁志達は電気屋で家電製品を眺めていた。

 

「姉さん、これとかどうですか?」

「うーん……ちょっと大き過ぎない?」

 

 人目を気にして、以前インターネットカフェへ行った時と同じ兄妹設定の状態であったが。

 

「でも、マリア達も合流したらこれぐらい必要です」

「そっか。今よりも増えるんだもんね……」

 

 難しい顔で冷蔵庫を前に話し合う二人を仁志が少しだけ疲れた顔で見つめている。

 本来であればまだ寝ている時間だからというのもあるが、やはり体の不調がまだ尾を引いているのだ。

 それでも、今後を考えれば冷蔵庫と洗濯機は必要不可欠。仁志があの家で今後も暮らしていくなら用意しなければならない物だった。

 

 だから彼は仮眠を切り上げてここに来ていた。全ては、自分と響達のためにと。

 

「二人共、あまり後の事を考えないでいいよ。どうせ大人数でいるのはそう長くはないんだから」

「「っ」」

 

 仁志のその疲れた声と言い方に未来と調が息を呑んだ。

 まるでもう自分達と過ごす事がそこまでないと言っているような内容だったためだ。

 マリア達を助けたとして、彼女達とこっちで暮らすのは短期間。だからそこまで悩む必要はない。

 それはある意味では正しい見立てかもしれない。ただ、これまでの仁志であれば思っても言わないか、あるいはもっと違う言い方をしたはずの内容だった。

 

「お兄ちゃん、今の、どういう意味?」

「え?」

「あの、今の言い方だと私達と兄さんが一緒に過ごす事がもうそこまでないって聞こえました」

「…………ごめん」

 

 未来の言い方で仁志も自分の発言が持つ意味合いをようやく察し、申し訳なさそうに項垂れた。

 その様子はこれまでの仁志が見せてきたものであるが、だからこそ二人は彼が疲れている事を痛感していた。

 

「調ちゃん、只野さん、やっぱり本調子じゃないね」

「はい。でも、師匠の言いたい事は分かりました。マリア達全員を助け出したら、その時こそ本当に決着です」

「うん、そうだね。じゃあ、それなりの大きさでも十分か」

「はい」

 

 項垂れた仁志を見ながらのひそひそ話。それが仁志には何とも居心地の悪い印象を与えた。

 

(嫌だなぁ。まるであの頃みたいだ……)

 

 自分を見て女性が何やらこそこそと話す。

 それがもっとも思い出したくない頃の光景を連想させ、仁志の気分を重くしていく。

 

「お兄ちゃん、もう気にしてないから顔上げて?」

「っ……そ、そうか……」

 

 調の優しい声で仁志が頭を上げた。そこには彼の事を見つめて小さく微笑む二人の少女がいた。

 

「兄さん、これがいいと思います」

「あ、うん。分かった」

「洗濯機はさっきのでお願いするね、お兄ちゃん」

「了解」

 

 やっと意見がまとまった事に安堵し、仁志は店員へと声をかける。

 その交渉が始まるのを眺めて、未来と調は少しだけ悲しそうな表情を見せた。

 

「悪意が師匠の心を弱らせてるのは間違いないです」

「うん」

「でも、そうだって思っても、結構辛いですね」

「そう、だね……」

 

 そこで未来は何か思いついたような顔をして椅子に座って話す仁志へと近寄る。

 そしてその右肩へそっと手を置くとニッコリと微笑んでみせたのだ。

 

「えっと、未来?」

「兄さん、ごめんね。仕事で疲れてるのにこんな事頼んで」

「……ああ、そういう事か。いいんだよ。自分がやりたくてやってる事だしさ」

 

 一瞬面食らった仁志であったが、未来の言葉で何事かを察して小さく嬉しそうに笑った。

 そのやり取りを見て調も未来の意識した事を察したように頷き、仁志へと駆け寄るとその左肩へ手を置いた。

 

「お兄ちゃん、本当にありがとう」

「調もか。いいんだって。俺のためでもあるんだから」

「それでも。お兄ちゃん、ありがとう」

「うん、ありがとう兄さん」

 

 二人は妹と言う設定を崩さない形で仁志を労ったのだ。

 心が弱っているからこそ優しく癒してあげたい。

 ただし、周囲に男女関係と思われると色々と面倒になる。

 そこで未来が取った行動から調もその流れに乗ったのだった。

 

 その想いを仁志も感じ取り、疲れてはいるが嬉しそうな笑みを返したのである。

 

「妹さん想いなんですね」

「まぁ、大事な家族なんで」

「「っ!」」

 

 さらりとではあるが告げられた表現に未来と調が顔を少しだけ照れたように赤める。

 それが店員には臆面もなくそういう事を言う兄に妹が恥ずかしがっているように映った。

 

 冷蔵庫と洗濯機の設置は交渉の結果明日の午後となり、仁志達はそれに礼を述べて店を後にした。

 

「じゃ、私と調ちゃんはスーパーへ行きますから」

「師匠は部屋に戻ってゆっくり休んで」

「ああ、そうさせてもらうよ。二人共、気を付けてな」

 

 未来と調と別れ、仁志は一人借家へと向かう。

 すると、少し歩いたところで珍しい相手と出会ったのだ。

 

「あれ? 茂部君?」

 

 そこにいたのは勤務先の夕勤バイトである茂部だった。

 ただ、妙だなと仁志は思った。

 まだ時刻は午後一時前であり、茂部の勤務時間にはあまりにも早過ぎる上、そこは勤務先であるコンビニがある通りとは違う場所だったのだ。

 

 何故そんな場所に茂部がいるのか。仁志がそう疑問を浮かべていると、彼は人を不快にさせるような表情を見せた。

 

「店長って結構やり手だったんですね」

「は?」

 

 ニヤニヤと下品な笑みを浮かべる茂部に仁志は理解出来ないという表情を返した。

 だが、その表情が一瞬にして強張る事となる。

 

――いやぁ、まさかあの店を最近辞めてった女の子達が店長のお手付きだとは思わなかったっすよ。

 

 仁志は心臓が止まるかと思った程の衝撃を受けた。

 知られたくない事を知られてしまったと、そう思ったのだ。

 しかも、よりにもよってもっとも知られてはいけない相手に。

 

「も、茂部君、それは」

「いつから口説いてたんですか? いや、それよりもやる事大胆っすよねぇ。昼勤だった未来ちゃんに、たしか朝勤だった調ちゃんっすよね、あの子。二人の女の子手籠めとか、すっげぇっすよ」

「違う。俺は別に二人を」

「は? じゃあ何で電気屋なんてとこにあの二人連れて一緒にいたんすか? 姉妹でもないし、そもそもあの子ら高校が同じだっただけの繋がりっすよね?」

「っ……」

 

 茂部のしらばっくれるなと言わんばかりの表情に仁志は返す言葉がなかった。

 一緒に歩いていただけならまだ言い訳もつくが、電気屋に三人でいたところを見られては言い訳のしようがなかったためだ。

 

(どうすればいい? このままじゃ、俺は仕事を失うかもしれない。いや、失わないとしてもそこまで広くない町だ。噂はあっという間に広がる……)

 

 コンビニ店長が立場を利用してバイトの学生達へ手を出したと、そんな風に言われてもおかしくないのだ。

 そしてそれは、仁志の中であの悪夢を思い出させるに十分な状況と言える。

 

「まっ、いいっすよ。じゃ、俺はこれで」

 

 黙り込んだ仁志へ興味を失ったように背を向け、茂部は歩き出した。

 その背中を見つめ、仁志はどうしたものかとあまり回らない頭で考える。

 

(どうする!? 引き留めたら余計厄介になる! でもだからってこのまま放置すれば、オーナーの耳に入って俺の信用はなくなるだろうし……)

 

 どんどん遠くなっていく茂部の背中。

 が、そこで仁志はふと閃いたのだ。

 

「そうだ……。これなら何とかなる」

 

 もう遠くなった茂部の背中を見つめ、仁志は凛々しく表情を引き締めるやその場から急ぎ足で歩き出した。

 

「茂部君、ちょっと待ってくれ」

「なんすか?」

「いや、誤解を解いておこうと思ってね」

「誤解?」

 

 訝しむ茂部へ仁志は小さく頷くと以下の様に話し出した。

 

 事の発端は未来が一人暮らしを計画した事から始まる。

 それをコンビニバイトで親しくなった響へ話したところ、一人暮らし歴が長い仁志に色々聞いてみたらとなった。

 ちょうど引っ越しを考えて家電などを買い替えようとしていた事もあり、もし良かったら見学も兼ねて一緒に行ってみるかと話が転がり、そこへテスト期間になる事もあって暇を持て余していた調も合流してきた。

 

 そう説明をし、仁志はどこか苦笑混じりにこう続けた。

 

「月読さんは、色々事情があって立花さんの家でお世話になってる居候みたいなものらしくてね。彼女も高校を卒業したら一人暮らしを考えてるんだそうだ」

「へぇ、つまり店長はあの二人と付き合ってるとかじゃない?」

「逆に聞くが、どこの世の中に二股をオープンにしてる男へ入れ込む女性がいる? しかも俺はしがないコンビニの雇われ店長だぞ?」

「ま、それもそうっすよね。な~んだ、折角面白いネタが出来たと思ったのになぁ」

「趣味が悪いぞ茂部君。まぁ、別にオーナーへ話してくれてもいいよ。何も問題はないし」

 

 暗にやましい事は何もないと告げる仁志。

 実際にやましい事はないのだが、話されると面倒な事になる事は事実である。

 それでも仁志は開き直ってそこまで口にした。

 下手に止めると怪しまれると踏んだのだ。

 

「そうすか。そこまで言うって事はマジでそうじゃないって事か」

「ああ」

「ならもういいっす。じゃ、俺はこれで」

 

 去っていく茂部を見送りながら仁志は内心で安堵の息を吐く。

 だが、同時にある不安を抱き始めてもいたが……。

 

――このままじゃ、下手すれば俺と響達が同じ家に住んでいる事が露見して面倒な事になりかねない。何とか、何とかしないと……。

 

 

 

 帰宅した仁志を出迎えた響達だったが、彼の様子が出かける前よりも疲れている事に気付いて疑問符を浮かべる事に。

 何かあったのかと響が問いかけると、仁志は疲れた声で茂部との一件を話し出した。

 それはある意味で悪意よりも恐ろしく、また厄介な事と言えた。

 

 何せ悪意は依り代などで何とか出来るが、茂部の口から話される言葉は防ぎようがないからだ。

 それも、仁志の現状はある意味では致命的と言えた。何せ茂部の想像と似ているのだから。

 

「仁志さん、とにかく今は休んだ方がいいよ。ね?」

「……そうだな。疲れた頭じゃろくな考えも浮かばないし、そうするか」

 

 仁志の疲労度を考え、翼はその手を掴んでリビングから連れ出す。

 その背中を見つめ響はどうしたものかと考えた。

 

(茂部さん、か……。私、結局苦手なままで避けちゃったからなぁ。クリスちゃんがいれば少しは違ったんだろうけど……)

 

 あのコンビニで働き始めてすぐに響は茂部との関わりを避けた。

 そのため、響の中では彼は苦手なタイプで終わっており、その情報などは仁志よりもないと言えたのだ。

 

「響さん、その茂部って人、どんな人デス?」

「えっと……一言で言えば可愛い女の子に目が無い人、かな」

「つまりどういう事だ?」

「その、私やクリスちゃんを彼女にしようとバイト中に色々迫ってきたんだ。それと、よく胸とかお尻を見られてた」

「サイテーデス」

 

 切歌は幸いバイト先でそんな経験はしなかったが、もし似た事を経験していればと考えると響からの情報は軽蔑するしかないものだった。

 

 エルフナインとヴェイグは響と切歌の嫌悪感はよく分からなかったが、あまり気分のいい行動ではないとは分かるため、二人の反応に対しては納得をしていた。

 

「でも、私が辞める時にはある程度そういうの減ったって聞いてたんだけどなぁ」

「スケベじゃなくなったデスか?」

「うん。クリスちゃんからもそういう話を聞く事なかったし……」

 

 一時期は毎回のように勤務を共にすると愚痴を零していた事を思い出し、響はそう告げた。

 

(クリスちゃんがそういう事言わなくなったのって、いつ頃だったっけ? たしか……海に行った時には言わなくなってたっけ)

 

 実際その頃辺りから響自身も近藤からそういう話を聞かなくなったので覚えていたのだ。

 

「ですが、今回の事は由々しき問題です。兄様がもし仕事を失うと僕らは一気に苦しくなります」

「ああ。今俺達が悪意の事だけ考えていられるのもタダノが働いているからだ。もしタダノが仕事を失ったら、響達がばいとをしないといけなくなる」

「いえ、下手をすれば響さんや未来さん、調お姉ちゃんはこの街では働けません」

「「えっ!?」」

 

 エルフナインの言葉に響と切歌が驚きを見せる。

 だが、ヴェイグはそれでエルフナインの不安を悟ったのだ。

 

「そうか。タダノが仕事を失う以上、響や調の事をあの店の人間達が知るという事か」

「「っ?!」」

「はい、そういう事です。兄様はあのコンビニから自分達の事が噂として流れる事を危惧しているんだと思います」

 

 その締め括りに響と切歌は顔を見合わせた。

 現状、仁志は一人で寝ると悪夢を見てうなされ、疲労してしまう。

 それを避けるために自分達と共に暮らしているが、今度はそれを見られてしまうと仁志の仕事や生活が壊れてしまうと気付いたために。

 

「ど、どうするデスか響さん。ししょーの生活が大ピンチデス」

「そうだね。だけど、どうすればいいかなんて私じゃ……」

「「ただいま~」」

 

 そこで聞こえるのは未来と調の声。

 天の助けとばかりに響と切歌はリビングから動き出して二人を出迎えに行った。

 

「未来、調ちゃん、知恵を貸して」

「「え?」」

「ししょーが色んな意味で大変なんデスよぉ」

「「どういう事?」」

 

 一先ず買った物をある程度冷蔵庫へ片付け、調が切歌を助手として昼食を作り始める事に。

 未来はその間響達から何があったかを聞かされ、思わず口元を両手で隠す程衝撃を受けていた。

 

「……つまり、私達の事を見られてたって事?」

「うん……。仁志さんが何とか機転を利かせて誤魔化してくれたけど……」

「そっか。今までは只野さんは一人あの部屋で寝泊まりしてたもんね。それだったら何とか誤魔化しも出来るかもしれないけど……」

 

 そこで未来の表情が曇る。今の仁志は一人で寝ると悪夢にうなされてしまうのだ。

 悪意によるそれは、響達が強い気持ちで触れ合う事でしか緩和する事が出来ないため、現状で仁志を一人にする事は不可能と言えた。

 

「今兄様に一人寝をさせるのは悪意の思うつぼです。ですが、そのために今の暮らしを続けるのは違う意味で兄様の暮らしを危険に晒すかもしれません」

「難しいところだよね。だからって短期決戦を挑む事は出来ないし」

「そうだね。仁志さんの体の事もあるし」

「今のタダノは明らかに弱ってる。あのゲートのせいだ」

 

 憮然とした表情でそう言い切るヴェイグ。明らかに怒りを静かに燃やしている口調だ。

 響達もそんなヴェイグを嗜める事はない。彼女達も仁志の不調の原因の一つは間違いなくあのゲートの状態にあると思っていたのだから。

 

「ん? 小日向、帰っていたのか。おかえり」

「ただいまです」

 

 そこへ仁志がうなされず眠れた事を確認して二階から下りてきた翼が現れた。

 

「翼さん、仁志さんはどうでした?」

「ああ、やはり疲れているんだろう。すぐに眠ってくれた。やはりうなされるようなので、先程のように頬へ口付けたところ落ち着いてくれた。ただ、その、一度では効果がなくて何度かする事になったが……」

 

 最後には少々気恥ずかしさを表情に浮かべ、翼は言葉を締め括った。

 頬ではなく口ににしようかと迷った挙句、やはりそこはどうだろうと思って頬へ何度も口付けた結果、余計に恥ずかしくなったという純情っぷりだったのだから。

 

「翼さん、それも問題ですけど、今回の事、どうしたらいいんでしょうか?」

「今、私達はここで一緒に暮らしてますけど、これって客観的に見たらあまり良くない状態ですし」

「そうだな……」

「兄様の生活基盤はあのコンビニ勤務で成り立っています。しかも今や店長という立場です。年齢を考慮すると、ここから別の仕事へ就くのは難しいと思います」

「ままさんが資格を取れと言ってたが、それも難しいのか?」

「ものによる、としか言えないな。ただ、仁志さんの年齢では中々厳しい事も多いと思うが……ん?」

 

 ヴェイグの疑問にやや難しい顔で返す翼だったが、そこへ食欲をそそる匂いが漂ってきた。

 それはキッチンからの匂い。それも醤油の焦げるような香りだった。

 

「未来、今日のお昼って何?」

「豚肉が安かったから生姜焼き」

「おおっ!」

「ヴェイグさんの大好物ですね!」

「あ~、お腹空いてくるなぁこの匂い」

「まったくだ。日本で育った者には堪らない匂いと言えるな」

 

 朝は簡単にスクランブルエッグとトーストにお湯で溶かすコーンスープだったため、響だけでなく翼達も空腹を覚えていたのだ。

 

 そして、この食費というものも以前と違って仁志の財政を直撃してくる問題であった。

 以前まではそれぞれのグループでの収入もあった上で、食事をそれぞれ別々に取っていた。

 それが今は仁志だけの収入となり、なのに食費はかつてのマリア達の家を超える金額となる事が決定しているのだ。

 いくらこれまでの貯蓄があるとはいえ、この数日で仁志が支払っている金額は決して少なくはない。

 

 だが、きっとそれでも彼は何も文句も不満も愚痴さえも言わないだろう。

 この世界と響達の世界を守るために全財産を投げ打つと決めたのだから。

 

「お待たせデース!」

「お昼ご飯、出来ました。ご飯は各自でお願いします」

「分かった。では食事にしよう。空腹のままではいい考えも浮かばない」

「賛成ですっ!」

「はいっ!」

「そうだなっ!」

「クスッ、響だけじゃなくてエルちゃん達もお腹ペコペコなんだね」

 

 途端に元気になる響に負けじと声を上げるエルフナインとヴェイグに苦笑し、未来はその場から動き出してダイニングへと向かう。

 炊飯器から炊き立てのご飯を切歌が茶碗へと盛っていく中、調がポツリとリビングを見つめて呟いた。

 

「やっぱり師匠は食べないんだ……」

「ああ、今は睡眠を優先してもらっている。仁志さん自身も眠りたいようだったしな」

「ですよね。電気屋さんでも眠そうでした」

「師匠、よく眠れてないんでしょうか?」

「かもしれない。ただ、暁が発見してくれた手段でかなり落ち着いて眠れるように」

 

 なったと、そう翼が言おうとした時だった。

 

――っ!? 嫌な匂いがしたぞっ!

 

 ヴェイグが弾かれたように顔を上へ向けるやそう告げたのだ。

 すぐに響が二階へと上がると、そこでは仁志が顔面蒼白で横になっていた。

 

「仁志さん!? 何かあったんですか!?」

「…………響、か」

 

 安堵するように響の名を呼び、仁志はゆっくりと体を起こした。

 その様子は明らかに帰宅した時よりも疲弊しているように響には見えた。

 

「仁志さん、無事ですか!?」

「ししょー、大丈夫デスか!?」

 

 そこへ翼達も遅れて現れるも、その目が仁志の顔を見て息を呑んだ。

 

「……みんな、いるか。そうか、そうだよな……」

 

 そう呟いて仁志は力なく笑った。

 もうそれだけで誰もが理解していた。また仁志が何か悪夢を見たのだろうと。

 

 それも自分達関係で。

 

「兄様、もし良ければどんな夢を見たか教えてください」

 

 そんな中、エルフナインが単刀直入に切り出す。

 仁志はその言葉に苦い顔をするものの拒否するような言葉は言わず、一度だけ深呼吸をして話し始めた。

 

「実は……」

 

 

 

 兄様の語った話に僕らは言葉がなかった。

 何も内容が問題と言う訳じゃない……とは言い難いけど、一番はその内容が持つ意味だ。

 

「つまりタダノが見せられたのは全てを失う夢って言う事でいいのか?」

「ああ、そういう認識でいいよ。みんなとの暮らしが露見して、それが切っ掛けで噂が立って、俺は仕事を失って、次の仕事が決まらなかったり、あるいは続かなかったりで収入が減っていって、ならいっそ仕事に就かずに悪意と決着を着けようとした結果、みんなは勝つんだ。だけど依り代が砕けて、ゲートは消えて、もう俺には何も残されない」

 

 淡々と話す兄様だけど、その顔色は一向に優れないままだ。

 まるで生気が抜け切ったようなその顔は、見てるだけで辛い。

 

「只野さん、その、夢みたいになるなんて私は」

「俺もそう思いたいよ。でも、今回はさすがに参った。有り得ないと言えないんだ。心が弱るとダメだって分かってる。それでも、さすがに今回の悪意のやり口はキツイ……」

 

 ああ、兄様が沈んでる。誰よりも笑顔を、明るさを、強さを保とうとしてた兄様が、暗くなっている。

 

「兄様っ!」

 

 気付けば勝手に体が動いてた。兄様の体へ抱き着いて、思い切り抱き締めてた。

 

「エル……」

「大丈夫です! 絶対、絶対僕らは兄様を一人なんてさせませんっ! 僕だって約束を、一度口にした事を破るつもりはありませんからっ!」

 

 あの別れだと思った時のやり取り。依り代を僕に貸してくれた兄様。

 その時、こう言ってくれた。貸したって事は? あれが僕の心にどれだけ響いたか。

 だから、返しに来る。必ず悪意との決着をつけ、依り代を分析・研究してここを訪れてみせるんだ!

 

「ししょー、アタシもエルと同じデスよ。永遠のお別れなんてしたくないデス」

「うん、私も。師匠、元気出して」

「切歌……調……」

 

 切歌お姉ちゃんと調お姉ちゃんが兄様の手を掴んで微笑みかける。

 

「仁志さん、きっと空腹なんじゃない? 月読達が生姜焼きを作ってくれたんだ。一緒に食べよ?」

「それがいいです。只野さん、食欲はどうですか? あるのならみんなで食べません?」

「翼……未来……」

 

 翼さんと未来さんは兄様に優しい声をかけて笑いかけた。

 

「タダノ、それがいい。みんなで食べる食事が一番美味いと教えてくれたのはお前だ」

「そうですよ仁志さん。さっ、一緒にご飯にしましょう」

「ヴェイグ……響……。そう、だな……。うん、そうだ」

 

 ヴェイグさんと響さんの言葉に兄様が少しだけ笑ってくれた。

 

「うし、寝るのは止めた。みんなと一緒に飯にするよ。代わりに今日は夜を食べないでギリギリまで寝る事にするか」

 

 空元気だとは思う。けれど、その兄様の言葉で僕らはみんな笑顔になれた。

 まず切歌お姉ちゃんや響さんが階段を下りて、次に未来さんや調お姉ちゃんが続く。

 翼さんはヴェイグさんを抱えて下りていって、僕は兄様を先導する形で階段を下りた。

 

「お~っ、良い匂いだなぁ」

 

 リビングへ入ると兄様がそう言ってフラフラとテーブルへ近付いていく。

 でも、やっぱりこれだけの人数になってくると兄様が使ってるテーブルじゃ狭い。

 

「仁志さん、その、ちゃんとしたテーブルを買わない? せめて五人掛け程度で」

「あー、そうだなぁ。じゃ、悪いけど父さんを頼ろう。響、君から連絡取ってくれるか? 俺抜きでも動けると思うし」

「分かりました。おじさんにお願いしてみます」

「頼む」

「はい師匠、ご飯」

「ありがとう」

「ししょー、お茶どうぞデス」

「ああ、助かるよ」

「お箸どうぞ」

「どうもどうも」

 

 す、凄い。お姉ちゃん達と未来さんが兄様の世話係みたいになってます。

 

 この後のご飯は少しだけ静かに進んだ。

 兄様がやっぱり疲れているみたいで、ご飯も一杯食べるのがやっとだったからだ。

 それでもお姉ちゃん達にお礼を言って、翼さんに頼んでリビングへ布団を持って来てもらって、ここで寝る事になった。

 

 階段の上り下りが辛いからって、そう言って力なく苦笑した兄様は、本当に弱っている感じがして胸が苦しかった。

 

 後片付けを翼さんと響さんが引き受け、お姉ちゃん達と未来さんはと言うと……

 

「あ~……何だか癒されるよ」

 

 兄様の腕の中で抱き締められて嬉しそうに笑ってました。

 

「ししょー、もっと強くてもいいデスよ?」

「うん、構わない」

「でも、これで只野さん、本当に元気出ますか?」

「厄介な方の元気は沈黙してるけど、代わりに嬉しい方の元気は活性化してるんだ。だからこのまま幸せに浸らせてくれるか?」

「それはいいですけど、もう少ししたら響と翼さんも来ますからね?」

「ああ、そっかぁ。もっと幸せ度が上がるんだなぁ」

「兄様、僕とヴェイグさんもいますよ」

「あ~、じゃあ翼と響には背中から抱き着いてもらおう。じゃ、エル、ヴェイグ、来てくれるか?」

「はい(ああ)!」

 

 僕は未来さんと隣り合って兄様の胸へ抱き着いて、ヴェイグさんは背中にくっついていた。

 そこへ洗い物を終えた響さんと翼さんが来たみたいで、僕らの状態を見て苦笑する声が聞こえた。

 

「ふふっ、人気者だね仁志さん」

「ですよね。私達もやりましょうよ」

「是非お願いするよ。ただ、二人は背中側でよろしく」

 

 心なしか少しだけ兄様の顔色が良くなってきた感じがする。

 もしかして、本当にこういう触れ合いで兄様の事を癒せるのかもしれない。

 兄様は未来さんが夢で聞いたという“悪意は力で倒せない”との言葉から愛の力が悪意を完全に倒すために必要なのではと考えているらしい。

 そう思えば、こういう触れ合いで悪意の影響を弱く出来るというのはその説を裏付けている気がする。

 

「ししょー、マリア達よりも先にセレナを助けてあげたいデス」

「セレナ、か……」

「多分セレナは自分の世界にいると思う」

「俺もそう思うぞ。マムの傍にいるはずだ」

「だろうなぁ……」

 

 どこかフワフワした声の兄様。よく見れば目を閉じて幸せそうに笑ってる。

 これ、もしかして半分寝てないかな?

 

「セレナちゃん、大丈夫ですかね?」

「分からない。ただ、セレナはミレニアムパズルという緊急避難が可能だ。なら、私達の誰よりも安全を確保する事は容易いだろう」

「そっか。仁志さん、今度のお休みっていつですか?」

 

 響さんがそう問いかけても兄様は答えない。

 見上げれば兄様が幸せそうに俯くような状態で寝ていた。

 

「響、只野さん、寝ちゃった」

「え?」

「本当です。とても幸せそうに寝ています」

「……そのようだ。なら、このまま布団へ寝かせよう。立花、ギアを。私は足を持ち上げる」

「はい」

 

 こうして兄様はお二人によって布団へと寝かされました。

 頬へキスしなくても悪夢を見る事は阻止出来ると分かり、翼さん達はどこか残念そうに、だけど安堵するような顔をしていた。

 

「……仁志さんは当分ここで寝てもらう方がいいだろうな」

「はい。階段の上り下りが辛いって、きっと本音です」

「ししょー、本当に体力落ちちゃってるデスね」

「悪意のやり口は本当に酷い。師匠に悪夢を見せて心を弱らせるなんて」

「睡眠を妨害し、疲労を重ねさせ、心身ともに衰弱させる。悪意は兄様を本当に一番排除したいようです」

 

 殺すとしても、一気にじゃなくてこうしてジワジワといたぶるようにやるなんて……。

 

「翼さん、只野さんが言った事、実はそれが一番いい気がしてきました」

「短期決戦、か。私もそう思う。だが……」

「今のタダノを見てると、それも危ない気がしてくるな。ただ、このまま時間が経っても良くなるとも思えない」

 

 ヴェイグさんの言葉に誰も何も言えなかった。

 あのゲートを通るだけで兄様は少しずつ悪意の影響を受けるとしたら、何度もあの中を通るのは問題だ。

 なら、出来るだけその回数は減らすべきだ。

 

 この後は兄様をゆっくり寝かせてあげようとなり、相談などは二階かキッチンで行う事となった。

 僕は兄様の傍で寝顔を見つめる事にした。

 少しでも誰かが傍にいた方がいいんじゃないかと思って。

 すると、僕と同じ事を思ったのか切歌お姉ちゃんも兄様の傍に座って寝顔を眺めてくれた。

 

「ししょー……」

「悪夢を見ないようにするには、僕らで兄様に心の光を送る事かもしれません」

「心の光、デスか」

「はい。愛の力とはきっとそういう事です」

「……じゃあ、やっぱり悪意に勝つには愛の力を、心の光をぶつける事が必要なんデスね」

「おそらくですが……」

 

 兄様は僕らの物語でも最後の勝利の鍵は愛だと言ってくれていた。

 なら、今回だってそのはずだ。人の心の光。それこそが勝利の鍵になる。

 

「だけど、どうやったらいいデスかね? 正直あの時だってアタシ達は心の光で戦ってたと思うデス」

「そうなんです。リビルドギアは間違いなく心の光のギアでした。入手方法が兄様と皆さんの絆の強化でしたし」

「デスよ。こうなると、やっぱりエクスドライブが必要なんデスかね?」

「エクスドライブ……」

 

 ギアの単体で至れる最強状態。思えば、リビルドは出力こそエクスドライブと同等だけど、それはギアが単体で至れるはずのないものだ。

 なら、やはりそういう事なのかもしれない。まだ兄様と皆さんの絆は上の力を引き出せるんだ。

 それが出来た時、初めて悪意を完全に倒す事が出来る。そんな気がしてきた。

 

「何の話してるの?」

「あっ、調。えっと、悪意に本当に勝つにはエクスドライブを使うしかないかもって話デス」

「エクスドライブ……」

「依り代は兄様とお姉ちゃん達の絆が深まると力を貸してくれました。あるいは、兄様の機転によって意図しない力を授けてもくれます。ダブルドライブやメカニカルギアはそれです」

「うん、そうだね。あれはあの子達がいないとなれないギアのはず」

「そう考えると、やっぱり依り代がエクスドライブを出してくれないのは変デス。だって、あれがギアの中で一番強いんデスよ? それを何で出してくれないデスか」

 

 たしかにそうだ。もし依り代が悪意の完全撃破を願っているのならエクスドライブを授けてくれてもいい。

 兄様が言っていた“ダブルドライブやツインドライブも本来はシンフォギア自体で実現可能かもしれない”という考えがもし当たっているのなら、既に皆さんが実現したエクスドライブは何故再現してくれないんだろう?

 

 切歌お姉ちゃんがあの時言った、最後にはエクスドライブを可能にしてくれるという考え。

 あれは意外と的外れではないような気がする。ただし、それには想像もつかないような厳しい条件があるとは思うけど。

 

「切ちゃん、強い力に最初から頼ったらダメ。ヒーロー達はいつも自分に出来る事を精一杯やって、その結果新しい力を得てきた」

「うっ……そ、それはぁ」

「師匠も言ってた。ギリギリまで頑張って、それでも届かない時にヒーローは現れる。最初からその存在を頼りにするのは間違ってるんだって」

「ぁぅ」

 

 そうだ。今までの皆さんもそうだった。

 最初からエクスドライブに頼るとか思わず、その時その時を精一杯もがき足掻いていた。

 生きる事を諦めない強い気持ちが奇跡を起こし、エクスドライブやリビルドなどのギアの変化を掴み取ってきたんだ。

 

「なら、やっぱり今の僕らに出来る事を続けていくしかありません。もしかすれば姉様達を悪意から解き放てば何か起きるかもしれませんし」

「デスね。マリア達を助け出したら救出ボーナスとか出るかもしれません」

「本当にゲームみたいな考えだね。でも、ないと言い切れないのが依り代の凄いところかも」

「デスデス」

「ううっ……」

 

 そんな時、兄様がうなされ始めた。

 するとすかさず切歌お姉ちゃんが兄様の頬へキスをした。

 それだけで少しだけ兄様の表情が和らぐ。でも、少しだけだ。

 

「だ、ダメデスか」

「切ちゃん、ちょっとどいて。私もする」

 

 今度は調お姉ちゃんが頬へキス。

 それも兄様の表情を和らげた。だけど、まだ苦しそうだ。

 

「私もダメみたい」

「いえ、効果は出ています」

 

 と、そこで思いついた。

 

「そうです。二人同時に両頬へキスするのはどうでしょう? もしかすればその方が効果は高くなるかもしれません」

「「成程(ナルホド)」」

 

 そう言ってお姉ちゃん達は左右に別れて兄様の頬へそっとキスをした。

 

「あっ!」

 

 それを合図にしたように兄様の表情が安らかなものへ変わっていく。

 それと、お姉ちゃん達のギアペンダントが微かにだけど光った気がする。

 

「「……上手くいった(デス)ね」」

 

 嬉しそうに微笑むお姉ちゃん達だけど、その頬が少しだけ赤いのは照れてるんだと思う。

 

「けど、あんなに幸せそうだったのにうなされるなんて……」

「悪意がししょーを本気でダメにしようとしてるデスよ」

 

 兄様が見せられた悪夢。それは現状で考えられる最悪だ。

 しかも、その要因となりそうな出来事が起きた事がその引き鉄になってる。

 

 あれ、でも兄様がうなされていたのは今日からじゃない。

 なら、悪夢の内容は同じだったんだろうか?

 

「あの、切歌お姉ちゃん」

「どうしたデスか?」

「兄様が最初に見た悪夢は今日のと同じなんですか?」

 

 その質問に切歌お姉ちゃんだけじゃなく調お姉ちゃんも何かに気付いた顔をした。

 

「聞いてないデスけど……多分違うはずデス」

「どうしてそう言えるの?」

「だってもしそうならししょーが苦しむはずないデスよ。さっき教えてくれた内容は、今の状況になったからの嫌な夢デス」

「何の話をしてるんだ?」

「あっ、翼さん。ヴェイグも」

 

 僕らの前に翼さんとヴェイグさんが姿を見せた。

 響さんと未来さんはいないところを見るとまだ二階にいるみたいだ。

 

「翼さん、兄様の見ていた悪夢ですが、先程とそれ以前では内容が異なるはずなんです」

「内容が異なる?」

「はい。兄様はさっき起きた時にこう言ってました。ここで僕らと暮らしてる事が露見してと。それは、この状況になり、しかも調お姉ちゃんや未来さんといるところを知り合いに見られたからです」

「……そういう事か」

 

 僕の言いたい事を翼さんは分かってくれたようだ。

 もし兄様の見ていた悪夢がさっき教えてくれた内容なら、きっと兄様はそこまで苦しむ事はなかったはずだ。

 何故なら、兄様が僕らとしばらく寝食を共にすると決めたのは本当に最近で、うなされるのはその前からあったのだから。

 

「タダノが起きた時に教えてもらうべきだ。今はどんな些細な事でも注意するに限る」

「ヴェイグの言う通りかもしれない。よし、仁志さんが起きたら見ていた悪夢の内容を教えてもらおう」

 

 そう言って翼さんは兄様を見つめた。静かに眠る兄様の寝顔を見て心配そうな表情をする翼さんは、どこか儚い感じに見えた……。

 

 

 

 夜になって晩ご飯を食べ終わった辺りでししょーが起きてきて、後片付けを終わらせたところでエルが思った疑問を翼さんが聞くとししょーは辛そうな顔をして黙り込みました。

 それを見て翼さんが言い辛いなら構わないって言ったら、ししょーは静かに首を横に振って息を吐くと……

 

――いや、いいよ。聞いてもらったら楽になるって経験で知ってるからさ。

 

 って言ってポツポツ話してくれました。

 

 今から五年ぐらい前、ししょーはあの水着を買った百貨店で働いてました。

 そこでちょっとした揉め事が起きて、ししょーはそれで泣いた同僚さんのために店長さんへ文句を言ったそうデス。

 だけど、その言い方が悪かったみたいでししょーだけじゃなくその同僚さんもそこに居辛くなったそうで、結局その同僚さんが辞めて、ししょーはそれに関して文句を言われたらしいデス。

 

「……そんな事があって、俺もそこで働き続けるのが嫌になったんだ。で、翌月仕事を辞めて、色々考えた結果生きるのが辛くなった」

 

 その言葉にアタシだけじゃなくみんな息を呑みました。

 

「死のうと思った。自分自身に見切りをつけたんだ。今にして思えばとんだ自惚れだよ。自分がヒーローだと、そうなれると思っていたって事なんだ。自分が良かれと思ってした事で誰かが不幸になった。しかも助けようと思った相手から恨み言をぶつけられた。あれが、致命的だった。本気で自分なんていなければ良かったのにと、そう強く思ったんだ」

 

 言葉がありませんでした。ししょーに、そんな事があったなんて……。

 

「でも、兄様は生きる事を諦めなかったんですよね」

「っ」

 

 そのエルの言葉に頷くししょーに響さんがすっごく驚いてました。

 きっと今の言葉に何か響さんだけが分かるものがあるんデスね。

 

「……ああ。でも、こうして話してると悪意の狙いが分かってきたよ。あいつは俺の心が一番病んでた頃に戻したいというか、闇に引きずり込みたいんだ」

「仁志さん相手じゃ私達のように瞬時の堕落はさせられないから、夢を使ってジワジワと侵食してる?」

「うん、そんな気がしてきた。で、クリスを使って送り込んだ自分の分身を、ゲート内に溢れさせた力で少しずつ活性化させて影響力を強大にしているんだろうな」

「それじゃ、ゲートを通る度に師匠の中の悪意が大きくなるって事?」

「おそらくね」

 

 そう言ってししょーは息を吐きました。

 まるで体の中の嫌なものを吐き出すみたいに。

 

「神獣鏡の力でも浄化出来ないものが、みんなとの触れ合いで弱体化出来る以上、やはり悪意の弱点は人の心の光。幸福感や愛情などだと思う。きっとそれに負けないように、奴はこの世界で何らかの方法を使って自分を強化したんだ。だから単なる浄化じゃ効果がないんじゃないかと思う」

「この世界で、ですか?」

「だと思うんだ。思い出してくれよ。あの決戦で悪意はどこから現れた?」

「上位世界のゲート、だと思われます。そうか、あれはこの世界に滞在していただけじゃなく、ここで何かをしていたからなんだ……」

 

 深刻そうなエルの声にししょーは深く頷きました。

 見れば翼さんもヴェイグも真剣な顔デス。

 響さんや未来さんも、調さえ暗い感じデスよ。

 

「だがタダノ、あの時悪意はみんなの負の感情で成長したような事を言っていたぞ」

「うん、それは間違いない。だけど、それだけであそこまで強くなれるとは思えないんだよ。幾多の平行世界を滅ぼして強化されていた世界蛇の残滓としても、だ。一時は消滅の危機に瀕していたところからシンフォギアの存在の消去なんて大それた事をして、そこからみんなの負の感情だけであそこまで肥大化出来るものか。きっと、何かあるんだ。特にあの決戦前のカルマ・ノイズの召喚だよ。あれだってかなりの力を使うはずなのに、悪意は惜しげもなくデータ収集に使い捨てた」

「そうです……思えばそれだけの力を使う事に躊躇がなかったのが妙でした」

「じゃ、本当に悪意はこの世界で自分を強化出来る方法を見つけ出したのか?」

「だとしたら、もしかしたら今もここにその痕跡があるかもしれません」

「ヴェイグ、どうデス? 何か分かりませんか?」

 

 悪意の探知ならヴェイグにお任せデス。

 今ならゲートも閉じてますし、この世界の匂いも分かるようになってきたみたいデスから、もしかしたら何か分かるかもしれません。

 

 でも、ヴェイグは難しい顔をして首を横に振りました。

 

「無理だ。俺に分かるのは、この家の近くに嫌な匂いはしないって事ぐらいだ」

「デスか……」

 

 残念デスが仕方ないデス。

 でも、でも、とりあえずこの家は安全って分かって安心デスね。

 

 そこからししょーは汗を流しにお風呂場へ行って、未来さんは残しておいたご飯でおにぎりを作り始めました。ししょーの夜食にって持たせてあげるみたいデス。

 

 響さんはエルに何かを聞いてますし、調は翼さんと相談中。

 ヴェイグはアタシの膝の上に座って、ぼんやりと天井を見上げてコクンと首を動かしました。

 

「ヴェイグ、どうかしたデスか?」

「ん? ああ、ふと考えたんだが、一体悪意はいつ切歌や調の負の感情を食べたんだ?」

「ふぇ?」

 

 どういう意味デスかね?

 

「いや、タダノの言葉で思い出したんだ。悪意はたしかにみんなから負の感情を吸収したと言った。でも、クリスやマリア、奏に未来以外は悪意に飲み込まれてない。じゃあ、一体いつそれを吸収してたんだ?」

「…………ああっ!」

 

 そうデス! アタシと調が悪意に入り込まれてたのはこっちに来たばかりの頃デスっ!

 なのに、そこからどうやってアタシ達の負の感情を吸収なんてするデスか!

 自慢じゃないデスが、アタシはあの後一度も悪意に操られも乗っ取られもしてないデス!

 

 ……こ、この前のはあの言葉の後だから関係ないデス。うん、そういう事にします。

 

 だけどこのヴェイグの疑問はじゅーよーな気がします。

 なので早速みんなへ話してみる事にしました。

 すると、みんなが揃って顔を驚きに変えました。やっぱりアタシと同じで気付いてなかったんデスね。

 

「ヴェイグの言葉から考えると、悪意はもれなく我々の中に入り込んでいた事になる」

「でも、あの決戦の時にはクリス先輩達限られた人の中だけにいた……」

「じゃあ、どうして私達は悪意がいなくなってたのか、だね」

「はい、きっとこれは重大なヒントです。僕たちは知らない内に悪意を倒していたんです」

「あっ!」

 

 エルの言葉で未来さんが口を大きく開けました。

 すっごくビックリしてます。何かありましたかね?

 

「ど、どうしたの未来?」

「今の言葉で、思い出したの。夢で聞いた言葉の一つ」

「例の悪意は力で倒せないという、あれか?」

「はい。その、もう何度か私達は悪意を倒してるんだって、そう言われた気がします」

「もうアタシ達は悪意を何度か倒してる、デスか」

「神獣鏡や巫女ギアでって、そういう意味じゃないんですよね?」

「うん、多分そうだと思う。じゃないと力でってとこが納得出来ないから」

 

 これはどういう意味デスかね? アタシ達が悪意を倒してる?

 えっと、多分デスけどリビルドを手に入れた時は悪意がアタシ達に入り込んでたはずないデスから、あの後のはずデス。

 

 そうなると、有力なのはいつデス? バーベキューの時デス? あるいは旅行の時デスか?

 

 だけど分かりません。考えても心当たりがないんデス。

 思えば、最初の時に操られてた時もアタシと調にそんな感覚はありませんでした。

 

 で、どうやら翼さん達も同じみたいデス。

 

「さっぱりしたぁ」

 

 そこへししょー登場デス。

 

「ん? みんなしてどうしたんだ?」

「ししょー、アタシ達一体いつ頃悪意に入り込まれてたと思うデスか?」

「へ?」

 

 そこでししょーへ事情説明をします。

 ……翼さんやエルが、デスけど。

 

 ししょーはその話を聞いて難しそうな顔をしていきます。

 多分デスけど、ししょーも見当がつかないんだと思うデスよ。

 

「一つだけ確かなのは、リビルドギアが追加された時はみんなは悪意の影響下にないって事だ。で、そこから考えると、クリス達四人はその後悪意に魅入られてあの時を迎えている」

「うん、それは間違いないと思うよ。ただ、私や立花達はその後悪意に魅入られてないのかが分からないんだよね」

「そこが厄介なんだよなぁ。悪意をギアじゃなくて心の光で排除したとして、それは一体何だって話だし」

「き、キスじゃないんですか?」

 

 響さんが少しだけ恥ずかしそうに言った言葉に、ししょーは困った顔である事を例に挙げてくれました。

 それは、キスしただけではリビルドギアが増えなかった事デス。

 つまり、ただキスするだけじゃ悪意は倒せない。悪意を倒すにはもっと別の何かが必要だとししょーは言いました。

 

 たしかにキスだけで悪意が倒せるならラクショー過ぎます。

 でもでも、アタシ達がししょーのほっぺへキスしたらうなされる事を止められました。

 

「ししょーししょー、だけどアタシ達がししょーのほっぺへキスしたらうなされなくなったデスよ?」

「あー、らしいな。だから、きっと大事なのは想いだと思うんだよ。相手への強い正の想い。それを伝えて、ぶつける。この前の切歌と調のぶつかり合いもそれだったろ?」

「「あっ……」」

 

 思わず調と顔を見合わせます。

 たしかにあの時のアタシと調は自分達の想いをぶつけ合って、悪意に操られてたアタシへ調が大好きって言う強い想いをぶつけてくれました。

 

「じゃあ、悪意が強化されたのは強い負の念を吸収したから……」

「しかもこの上位世界で、だよね。私達以外から、かな?」

「その可能性はないと思いたいが、正直この世界でも人間同士の内紛などは存在している。そういう意味で言えば悪意の餌となり得る感情は渦巻いていると言えよう」

「とにかく、だ。今は俺の次の休みまでそれぞれの出来る事をして備えておいて欲しい。この事はまた明日話し合おう。で、調。父さんには頼んでみた?」

 

 そこからは家具の話に変わりました。

 今、この家にはししょーの折り畳みテーブルしかなくて、せめてちゃんとしたテーブルを置こうと決まったんデスが、そのためには家具を見に行かなければならないのデス。

 でもこの近くに家具を扱うお店はないし、ししょーは夜勤な上車もないデス。

 だからパパさんの力を借りて、何人かで見学に行って決めてきてもらう事になりました。

 

「あ、うん。エルのスマホからメールを送ったら明日お仕事を休んで行ってくれるって」

「は?」

「ホントデスよ。パパさん、どうせ今は仕事も落ち着いてるからって言ってたらしいデス」

「はい。これがそのメールです」

 

 エルがスマホを見せるとししょーはその文面を見て大きくため息を吐きました。

 いやぁ、パパさんはホントに優しいデス。それと、エルに甘々デスなぁ。

 

「……あの馬鹿親父め。どこまでエルに甘いんだよ」

「それで、家具を見に行くのは誰がいいかなって。エルは絶対連れて行きたい。パパさん、喜んでくれるから」

 

 それは間違いないデス。

 

「ならば暁と月読も行くといい。ヴェイグも連れていけばおじさまがより喜んでくれるはずだ」

「ああ、うん。それがいいよ。で、翼も行ってやってくれるか? 一応監督役というか父さんだけじゃ切歌達に甘くなるから」

「ふふっ、うん、分かった」

「響と未来は留守番と家事を頼める?」

「「はい」」

 

 こうして明日の予定は決まりました。

 ししょーの次のお休みは木曜日。つまり三日後デス。

 そこでししょーはセレナを探しに行こうと決めました。

 

 だけどししょーの体が心配デス。でも、そう言ったアタシ達へししょーは少しだけ笑ってこう言いました。

 

――俺の体が弱り切る前にセレナ達を助け出さないとダメなんだ。進んでも立ち止まっても苦しいなら、少しでも前に進むんだよ。そうすれば、出口が見えてくるかもしれないだろ?

 

 その、ししょーらしい言葉にみんなで黙るしかありませんでした。

 やっぱりししょーは強いデスよ。これがギアがない代わりに魂だけでも装者のようにって、そういう事なんデスね。

 

 その後は、ししょーがお仕事に行くまでみんなでししょーへ抱き着きました。

 お昼の時、それでししょーがしばらくうなされずに済んだからデス。

 お仕事頑張ってくださいって気持ちでみんなでししょーへくっついたデスけど、ししょーはそれにずっと照れてたのが印象的でした。

 

「じゃ、行ってくるよ」

「「「「「「行ってらっしゃい(デス)」」」」」」」

 

 未来さんの作ってくれたおにぎりを持ってししょーはお仕事へ向かいました。

 アタシ達はそれを合図に順番にお風呂へ入る事に。

 まずはエルとアタシ。次が調と未来さん。最後が翼さんと響さんにヴェイグデス。

 

「ここのお風呂場、広さはあの家とそんなに変わらないデスね」

「でも、湯船自体はそこまででもないから、大人だと二人が限度だと思います」

 

 まずエルがシャワーを使って体や頭を洗います。

 その間、アタシとそれを手伝ってあげて、エルをピカピカにしてあげます。

 

「うん、これでいいデスね。エル、お湯に入って50数えるデスよ」

「はい」

 

 エルがどいたらアタシが体を洗い始めます。

 きっとセレナがいたら、これはセレナの役目だったはずデス。

 

「切歌お姉ちゃん」

「ん? 何デスか?」

 

 体をアワアワにしたところでエルがアタシへ声をかけてきたので振り返ります。

 そこには不安そうな顔のエルがいました。

 

「兄様は、大丈夫でしょうか?」

 

 どういう気持ちでエルがそう聞いてきたのかアタシにはすぐ分かりました。

 だってマリアや奏さんさえも悪い状態にする悪意デス。それがししょーの体の中にいるなんて、不安しかありません。

 

「大丈夫デスよ! アタシ達みんなでししょーを心の光で照らしてあげればいいんデス!」

 

 だから、お姉ちゃんとして妹を元気づけないといけません!

 アタシはエルのお姉ちゃんで、ししょーの一番弟子デスから。

 

「心の光で……」

「デスデス。エルが元気に笑顔でししょーと一緒にいてあげる事もそれデスよ」

「そう、なんですか?」

「とーぜんデス! アタシ達だってエルの笑顔で元気をもらってるんデスよ?」

「僕の笑顔で……」

 

 こっちに来てからエルはみんなの妹みたいになりました。

 ヴェイグと二人でいやし担当の可愛い存在デス。

 エルフナインだった頃よりも可愛くて、も~っと守ってあげたいって思うような感じになりました。

 

「エル、ししょーが今みたいに頑張っていられるのはエルがいるからデス。だから難しい事をあまり考えないでいいデスよ。そういう事を考えて欲しい時は今じゃないデスからね」

「……はい!」

 

 とびっきりの笑顔を見せてくれたエルにアタシも笑顔を返しました。

 その後エルが湯船から出てきて、アタシの背中を流してくれました。

 

――切歌お姉ちゃん、どうですか?

――いいカンジデスよ。その調子でお願いするデス。

 

 調と洗いっこするのとは違う感覚で、何だかとってもあったかくて幸せな時間でした。

 セレナは、こういう事をいつものようにしてたデスか。じゃあ、エルのお姉ちゃんは自分だって思うはずデス。

 アタシだってこんな事されたらエルの事、今よりもっと大事な妹って思っちゃうデスから。

 

 早く、セレナとも合流しないとデスね。

 アタシはエルと二人でお風呂から上がって、タオルで髪を拭いてあげながらそんな事を思うのでした……。




只野の状態が悪化したのは悪意が撤退時に撒き散らした瘴気を吸いこんでしまったからです。

只野への悪意の影響力が増していくといずれ……。
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