シンフォギアの消えた世界で 作:現実の夢想者
「未来は仁志達の護衛を! 残りで悪意を、闇を叩くっ!」
「「「「「「「「了解(デス)っ!」」」」」」」」
マリアの言葉と共に金色の輝きが八つ、宙に現れた邪悪な龍へと向かっていく。
その大きさは前回よりも大きい。それだけ悪意が力を増したって事なんだと思う。
「只野さん、私の傍から離れないでくださいね?」
「ああ、分かってる。頼りにしてるよ未来」
そう言うと未来は小さく頷いてくれた。
エルはヴェイグと共にパズルの維持へ全力でその場から動けないため、俺は未来と一緒にエルの傍に立っている。
それにしても、どうして悪意が龍になったのかがこれで納得出来た。
あいつ、世界蛇を模してたんじゃない。俺から得た仮面ライダーSPIRITSの情報で龍を選んだんだ。
太古の昔に地球へやってきた三人の宇宙人。神と崇められた彼らが乗っていた乗り物こそが龍だ。
正確には竜と書くべきだろうが、そこは別の知識もあって龍になってるんだと思う。
より攻撃的なイメージを持っているのが龍だ。
日本の竜神様は基本的に人の役に立つ事もあるが、西洋では龍は基本人に害を為す存在。それを俺の記憶や知識から得て、悪意は龍をイメージしているんだと。
悪意が変化した邪悪龍は、響達の輝きに若干怯んでいるものの前回程の弱体化は見られない。
鱗が溶ける事もないし、周囲の瘴気が消し飛ぶ様子もない。
つまり、確実にリビルドギアツインドライブへ対処していると言える。
「……リビルドギアじゃ押し切れないかもしれない、か」
悪意の言った飲み込んでみせるとはそういう事なんだろう。
とはいえ、九人揃って展開出来るギアはあとは水着やサンタぐらいしかない。
それでは邪悪龍に有効打を与えられるとは思えない。
そして、もう一つの問題は例の特訓によって色々と見つけただろう戦法や攻撃法も、空中戦となるとどこまで使えるか分からないという事だ。
「もしかして、これも考えてあいつはここを戦場に選んだのか?」
ゲート内の戦いは例えるなら空間戦闘だ。空中ではないが地上でもない。いわば不安定な空間での戦い。
そこなら飛行能力の有無は問われないから前回は響達も邪悪龍相手に互角に立ち回れた。
ただ、ここだと邪悪龍は浮遊しているがみんなには飛行能力はない。
リビルドギアでもそれは変わらない。こうなると一気にみんなが不利になる。
「只野さん、何かいい方法ありませんか? 以前は私が足場になって響を援護したんですけど……」
色々と考えていると未来が悔しそうな顔でそう聞いてきた。
唯一装者の中で飛行能力を持つのが未来だが、それも飛行出来るだけであり空戦能力に優れるという事とはちょっと違う。
それでも響達よりは空戦能力は高い。だけど未来は戦闘経験がみんなに比べると圧倒的に少ない上、防御力が優れているために俺達の護衛役が最適だ。
そんな彼女さえ悔しさに唇を噛むような表情で空を見上げていた。
そこでは響達が邪悪龍を相手に苦戦を強いられている。
クリスは射撃攻撃だからまだいいが、響などは近接攻撃の上格闘戦のために瘴気が邪魔になって攻めあぐねていた。
「何とか空中でも戦えるように……か」
翼や奏、マリアも苦戦している。ザババコンビもやはり空中戦は不得手だからか動きにキレがない。
セレナはおそらく空中戦自体経験がないのか戸惑いが隠せていない。このままじゃ遅かれ早かれ追い詰められる。
現状で有利な点と言えばパズルの中に閉じ込められている事ぐらいだろう。
もしそうじゃなかったら、今頃あのゲートの瘴気を吸いこんで強化とかやってきたはずだ。
「……ん? パズルの中……?」
何か、何かが引っかかる。
今まで俺はこのパズルの中で何度も悪意と対峙してきた。
それだけじゃない。悪意に染められたみんなともだ。
思い出せ。何か、何かがあったはずだ。何かみんなの役に立てる要素がきっと……っ!
「そうかっ! その手がある!」
俺は驚いた顔をする未来を無視して、苦しんでいるセレナへ顔を向ける。
「セレナ~っ! 攻撃じゃなくて支援に回るんだ~っ!」
俺がそう叫ぶとセレナがこっちへ顔を向ける。どうやら聞こえたらしい。
「みんなの足場になるようにブロックを展開してやってくれぇぇぇっ!」
「分かったっ! やってみるっ!」
セレナがそう返した直後、邪悪龍の周囲にブロックが出現する。
見た感じはまるでアクションゲームのようだ。
「みんな~っ! そのブロックを足場にして体勢を整えたり邪悪龍へ攻撃をするんだ~っ!」
「「「「「「「了解(デス)っ!」」」」」」」
よし、これで多少はマシになるはずだ。
だけどまだ足りない。これでは互角にするのが精々だろう。
「それに……」
クリスを助け出した時からずっと気になっている事がある。
これまで悪意は響を除く装者全員を一時的とはいえ支配下に置いた。
それを依り代を使い、これまで助け出してきた訳だが、二度の例外を除いて必ず起きていた事がある。
それは、装者から弾き出された悪意が彼女達の姿を模して襲い掛かってきた事。
これが起きなかったのはこれまで二度。
一度は切歌と調の二人を助け出した時。
あれはおそらくだが二人の体に同化していただろう悪意を、依り代がギアパーツとして利用しメカニカルギアへと変われるようにしたためだ。
二度目は奏。依り代とギアに埋め込まれた欠片の相乗効果でも弾き出せなかったため、俺がいちかばちかでキスをした事で撃退あるいは浄化出来たと思われる。
そこで気になってるのがクリスの時だ。
クリスの時も悪意がクリスを模してこなかった。そのまま現状へと至ってる。
それが、どうも俺には気になってる。あの時、たしかにクリスは聖詠を唱えた。
だけど、あの時依り代はもう力をかなり失ってたはずなんだ。なのに悪意を追い出した。
……あれ、本当に追い出したんだろうか?
もしかしたら追い出したんじゃなく逃げ出したとしたら、どうだろう?
しかもその前に俺が奏とキスした事で悪意を完全撃破したからな。
あれで悪意は悟ったのかもしれない。
下手にクリスの中に居座ろうものなら、依り代のバッテリーが少なかった俺が賭けに出てキスするかもしれないと思ったんだ。
そう考えるとここで悪意を倒す事は出来ないんじゃないかと思う。
邪悪龍になった悪意を前回のようにギアの力で倒しても、あいつはどこからか復活を遂げるんじゃないかって。
「もしそうだとしたら…………」
どこが復活の要かと考える。
でも、そこまで考えるまでもなく浮かんだものがあった。
「ゲートだ……」
今のゲート内は瘴気に満ちてる。もしかするとあれも一種のバックアップかもしれない。
なら、ここで邪悪龍を倒すよりもゲート内の浄化を優先するべきか?
ただ全員でここを離れたらゲート内で邪悪龍と事を構える事になる。瘴気溢れる中で、だ。それは避けないといけない。
「……よし、こうなったらいちかばちかだ」
ここで戦力分散は厳しいし、何より響達の負担が増えるだろうけどやるしかない。
「一旦全員集合してもらうしかないか。未来っ!」
「何ですかっ!」
たまにこちらへ流れてくる邪悪龍の攻撃を未来は防いでくれているのだが、その表情に余裕はない。
これは、ちょっと無理かもしれないな。そう思いながらも俺は思い切って切り出した。
「少しの間でいい。ここにみんなを集める間、邪悪龍の攻撃を防ぎ続けてくれないか? ジュエルギアに変えるから」
俺のその言葉に未来は少しだけ黙った後で口を開いた。
「分かりました」
「……ありがとう」
凛とした表情と声で応えてくれた未来に感謝し、俺は大きく息を吸って声としてそれを吐き出した。
「みんな集まれぇぇぇぇぇぇっ!」
若干緊迫感に欠ける呼びかけだがなりふり構っていられない。
即座に俺は依り代を使って未来をジュエル、響、奏、マリアをソルブライトギアへ変えた。
響達光槍トリオはその変化にどこか驚きながら、翼達もここにきてドライブチェンジさせた事に疑問を抱きながらもそれぞれにこっちへ向かってきてくれる。
「何をするつもりか知らないが簡単に出来ると思うなっ!」
「それはこっちの台詞だからっ!」
邪悪龍の瘴気ブレスを鏡の盾で受け止め、凶祓いの力を付与して跳ね返す未来。
その間にまずはセレナがこっちへ合流した。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「セレナ、パズルの維持を手伝ってくれないか? あるいはセレナもパズルを展開してくれ。それでエル達の負担が減ると思うんだ」
「分かったっ!」
パズルの二重展開なんて考えた事もなかったけど、おそらく単純に効果が重複するか倍加するはずだ。
「ぐっ……お、おのれぇ……小癪な真似を……っ!」
邪悪龍の声が苦しげなものへ変わった。
どうやらパズルの二重展開はあいつも負荷を感じるらしい。
「エル、どうだ? 負荷は減ったか?」
「は、はい。ヴェイグさんも楽になったと」
「よし」
とりあえず第一段階は成功だ。エルの知恵を借りる事が出来るようになったのは大きい。
「仁志、一体どうしたってんだ?」
「ちょっと相談したい事が出来たんだ。それも別々じゃなく全員に」
「全員に?」
「ししょーっ!」
「どうしてマリア達だけドライブチェンジ?」
クリスの疑問へ答えていると切歌と調が合流。
行きがけの駄賃とばかりに邪悪龍へ同時に刃を投擲する辺りが恐ろしい。
ただ、それは邪悪龍の瘴気に阻まれて弾かれていたのがより恐ろしいけど。
リビルドの攻撃が簡単には通用しなくなってるって事だからな。
「それを今から説明する。悪いけどそれまでは防御に」
「仁志さ~んっ!」
聞こえた声に顔を動かせば残る響達が一斉に合流してくれた。
最前線で戦っていたんだろう。四人の顔には疲労の色が見える。
「遅れました」
「ごめんよ。さすがにさ」
「連戦になっているから疲労が、ね」
そうだった。みんな、多かれ少なかれ前哨戦で疲弊してるんだ。
これも前回との違いか。もしかしてこれも悪意は企みの中に組み込んでいた?
……だとすればいやらしい事してくれる!
「いいか、よく聞いて欲しい。このままだといたちごっこだ。悪意をここで倒しても、あいつは復活する可能性が極めて高い」
その瞬間、全員が息を呑むのが聞こえた。
未来とセレナが邪悪龍の攻撃を防いでいる中でも、それだけはしっかり聞こえた気がした。
「悪意に本当の意味で勝つには力じゃダメなんだ。おそらくだけど、ここでギアの力で押し切れたとしてもあいつはゲートの中の瘴気を使って復活する」
「っ! そうかっ! あれはそういう目的でもあったんだ!」
「仁志さんへ植え付けた分身の育成、ヴェイグの嗅覚阻害だけでなく自分の復活用の瘴気か……」
「用意周到にも程があるわ。だけど、言われてみれば納得しかない」
「だから光槍トリオにはこれからゲート内の浄化をお願いしたい。そのギアに秘められた日輪の力なら、きっとあの場所を元の状態に戻せるはずだ」
三人でツインドライブを使用すれば最終的に金色の輝きを放つソルブライトギア。
おそらくだけど、あれは太陽の光でもある。古今東西太陽の光は闇を払い、夜明けを告げる神聖なものとして扱われてきた。
なら、哲学兵装の観点からもこの上なく瘴気に有効なはずだ。
「で、でも……」
俺の言葉に響が躊躇いを浮かべる。
その理由は簡単だ。現状総力戦で互角に出来るか出来ないかなのに、ここで戦力を減らして大丈夫だろうかと不安なのだ。
「へっ、お前らがゲートの中を綺麗にしてくる間ぐらい、あたしらで十分だっての」
「クリスちゃん……」
「そうだな。立花、心配はいらない。それに奏やマリアと一緒ならそこまで時間もかからないだろう?」
「翼さん……」
「響さん、こっちはアタシ達に任せてくださいデスっ!」
「師匠達を守って響さん達の帰りを待ってます」
「切歌ちゃん……調ちゃんも……」
「戦う事は苦手でも守る事なら得意です!」
「響、お願い。私達は響を信じるから、響も私達を信じて!」
「セレナちゃん……未来……」
残留組の言葉に響の目が若干潤んでいく。
と、そこでその両肩へ二つの手が乗せられた。
「ここまで言われたらやるしかないだろ?」
「奏さん……」
「行きましょう。三本のガングニールで瘴気を全て祓い清めるの」
「マリアさん……」
ゆっくりと色が変わりつつある三人を見て、俺はそっとエルの肩へ手を置いた。
するとエルがこっちへ顔を向けたので、笑みを見せて頷いてみせる。
きっとこれで俺の言いたい事は伝わると思って。
エルもその頷きを見て小さく頷いてくれ、すぐに響へ顔を向けた。
「響さん、ここは僕らに任せてください! ヴェイグさんも、頼むと言ってます!」
「エルちゃん……ヴェイグさん……」
「ここが正念場だ。踏ん張りどころなんだよ。だから頼む」
「仁志さん……はいっ!」
響の表情が凛々しさを戻す。うん、これで大丈夫だって、そう確信出来る何かがある。
パズルの外へ出られるようにエルがドアを出現させ、そこから三人のガングニールが出て行った。
こうなると後は三人が戻ってくるまで耐え凌ぐだけか。
「何をやろうとしているか知らないが、何をしようと私には勝てない事を教えてやろうっ!」
そう宣言すると邪悪龍が分裂した。
しかも、その分裂体は黒い影の状態から姿を変えていき、あろう事かカオスビーストへと変化していく。
「嘘だろ……」
「まさか、この人数で五体のカオスビーストを相手にしなくてはいけないとは……」
「くそっ、やってやらぁ!」
「セレナはここで俺やエル、ヴェイグの護衛を頼む! 翼っ! 残りの五人それぞれでカオスビーストを一体ずつ抑える事は可能か!」
正直無茶を言っている自覚はある。いくらツインドライブとはいえ、カオスビーストを一人で相手するなど危険極まりないと。
だけど、翼は笑みを浮かべた。それだけじゃない。クリスも、切歌も、調も、未来さえも不安そうな表情ではなく笑みを見せたのだ。
「任せて。今の私達なら、例え相手がカオスビーストだろうと負けはしないから」
「ああ、むしろ丁度いいハンデだ。これぐらいじゃねーと全員の見せ場がないしな」
「アタシ達のギアはししょーの気持ちが込められてるギアデス。カオスビーストなんかに負けないデスよ」
「師匠、私達の歌を聞いてて。闇に負けない光の歌を」
「響達が戻ってくる頃には私達も悪意を浄化してみせますから」
「……ありがとう」
それだけしかかける言葉がなかった。
ある意味で死地へ俺は彼女達を送り出すしかないからだ。
これが、これが弦十郎さん達が味わってきた苦しみか。情けなさか。
俺に出来るのは、笑みを見せてくれた五人の装者へ感謝を伝えて頭を下げる事だけだ。
それが、直接戦う事の出来ない俺に出来るせめてもの事だった。
「行くぞ! いいか、欲張るな! 倒そうとするのではなく負けまいとすればいい! そうすれば自ずと状況を有利に出来るっ!」
「了解だっ!」
「目にモノ見せてやるデスよっ!」
「ツインドライブギアならカオスビーストにも負けないっ!」
「響達の分まで頑張るんだっ!」
変化を完了したカオスビースト達へ向かっていく翼達を見送り、俺は依り代へ目を向けた。
「……残り3%か」
正直よくもったと思う。クリスを助け出すのにバッテリー全て使い切ると思っていた。
ただ、おそらくだがこの分だとこの戦いが終わった時にはバッテリーが切れるだろう。
その時、俺はどうなるのだろうか。いや、よそう。今は不安など抱いている余裕はない。
今はただ目の前の戦いを見守るだけだ。見ている事しか出来ないのなら、最後まで見届けるために……。
「さて、どうやってこのゲートの中の瘴気を消し飛ばす?」
奏さんの言葉に私はマリアさんへ顔を向けた。
「仁志さんは私達なら出来るって言ってくれました。だけど、さすがにゲートのあちこちへ行ってたら時間がかかり過ぎます」
「そうね。なら……」
少しだけ考え込むような顔をしてマリアさんは……笑った。
「歌いましょう。フォニックゲインを高めて、このギアの出力を上げるの。そして、その輝きで、太陽の光でこの中を照らす」
「それしかないか。よし、やるよ!」
「はいっ!」
三人で手を繋ぐ。それだけで何故か胸の奥があったかくなる。
それと、頭の中に音楽が流れてくる。これは、あの時の歌だ。
今の私達はこの歌の名を知っている。教えてもらったから。見せてもらったから。
「「「光槍! ガングニールっ!」」」
そう告げた瞬間、ギアから音が流れ始める。
ギアが完全に金色となって、その光が周囲を照らす。
瘴気が消えて、私達の回りだけまるで朝日が昇ったみたいに明るくなっている。
私達の歌声と共にその光は広がっていって、どんどんゲートの中が明るくなっていく。
それに感化されるみたいに私達の歌声も明るく、大きくなっていく。
歌を唄う事が楽しいってギアをまとったままで思うのは久しぶりだ。
最後は動画のために唄った時だからもう一か月は前だから。
「こんな時に言う事じゃないって分かってるけどさ、楽しいね」
そんな時、奏さんが言った言葉に私は反射的に頷いた。
「はいっ! この歌をこんな気分で唄う事があるなんて思ってませんでした!」
「そうね。激しく戦うために唄うのではなく、信頼出来る相手と手を取り合って闇を照らすためだけに唄うんですもの」
歌を止めてもゲートの中はかなり明るくなった。
気のせいか本来の時よりも明るいって感じるぐらいに。
「だけど、まだ足りない気がします」
「そうだね。まだきっと瘴気は、闇は残ってる」
「もう一度唄う?」
「おいおい、二度も同じ歌、しかも連続なんてライブでやるか?」
「それは……」
「じゃあ、やってみませんか? 私達の胸の歌を合わせて、新しい歌を唄う事」
ユニゾン曲って言えばいいのかな?
だけど戦うためじゃない。このゲートの中を元の姿に戻すためだけに唄うんだ。
奏さんとマリアさんが不思議そうな顔で私を見つめて、やがて同時に苦笑した。
「ははっ、いいね。うん、出来る気がしてきた」
「本当よ。ええ、きっと出来るわ。今の私達なら」
「絶対出来ます! やってみせましょうっ!」
両手から感じる温もりと両側から向けられる微笑み。
それに私の胸の奥があったかく、ううん熱くなる。
ギアから音が流れ始める。それは初めて聞く音楽だ。
それに気付いて私達は顔を見合わせる。
そして合図した訳じゃないのに同時に頷き合った。
「「「ひかり~あ~れ~っ!」」」
そう唄った時、ギアが一瞬眩しい光を放った。
ゲートの中全てを照らすぐらいの、輝きを。
それを合図に私達は手を離して動き出す。
私はその場に留まって、マリアさんと奏さんはそれぞれ左と右に散って進み始める。
「そう、神様が人にくれたのは力? 知恵? そのどちらでもない」
「みんな持っている可能性こそが体に宿す奇跡の光」
「希望こそが、夢見る事が、生きると言う意味なら」
「「「生きる事を諦めず進もう!」」」
ギアの輝きがどんどん強く、温かくなっていく。
本当に今の私達は太陽みたいだ。心なしか体の疲れも消えていく。
「正義なんてものを振りかざすのはダメ」
「今を変えるため足掻こう」
「勇気のその先で闇が笑っている」
「飲まれるな。希望を」
「「「いつだって力は自分のためじゃなく!」」」
「誰かの笑顔を守るため」
「「「解き放てぇぇぇぇぇっ!!」」」
太陽の輝きがゲート中を包んでいく。
闇を包み、瘴気を消し飛ばしていく光が進んでいく。
何となくだけど感覚で分かった。もうゲートの中に瘴気は残ってないって。
奏さんとマリアさんもそう感じたんだと思う。こっちを見て満足そうに笑顔を見せてくれた。
「急いで戻りましょう。みんなが心配です」
「ああっ! 超特急で戻るよっ!」
「私達のこの行動で多少でも悪意が困ってくれればいいけど……」
マリアさんの言葉に同意するように頷いて、私は再び奏さんの世界へのゲートをくぐった。
ゲートを出てすぐ私達はあのライブ会場へと向かった。
普段なら飛び越えられないようなビルを足場に、みんなが戦っている会場を目指す。
ツインドライブじゃなかったらきっと無理だったね、この動き。
おかげでかなり早く戻れる。
上空にあがった時に会場内を見てみる度に、パズルが突破されてないから何も見えない事に安心しながら。
「そういえば私達が戻った事をどうやって伝えればいいんですか?」
「歌を唄えばいいんじゃないか?」
「いい考えね。このギアが輝けばヴェイグが気付いてくれるかもしれないわ。あまりギアを変化させない方がいいだろうし」
「え?」
どういう意味ですかって、そう聞こうとしたら奏さんが苦い顔をした。
「そっか……。依り代のバッテリーはもう少ないんだった」
「ぁ……」
そうだ。仁志さんが使えなくなってもいいって、そう思ってクリスちゃんを元に戻すために依り代を使ったんだ。
「ええ。おそらくだけど、もう頻繁にギアを変更させる事は出来ないはずよ」
「成程ね。じゃあ余計このままであたし達が戻ってきたって察知してもらわないと」
「そうですね!」
今は暗くなってても仕方ない。むしろ明るくしていないといけないんだ。
ライブ会場へ戻った私達はドアで出て来た場所近くで歌を唄った。
それはあの歌。新しい胸の歌だ。
そうだ、この歌の名前を仁志さんに付けてもらおう。きっと良い曲名を付けてくれるはず。
「見て。ドアが出て来たわ」
「よしっ! 中へ戻るよっ!」
「はいっ!」
出て来た時と同じドアが目の前に現れたので一旦歌を中止してパズルの中へと戻る。
するとそこには……
「「「カオスビーストっ!?」」」
倒したはずのカオスビーストが五体もいて、それぞれと翼さん達が戦っていた。
一体どういう事だろう。そう思いながら私達は仁志さん達へ合流した。
仁志さんも私達に気付いてくれて、安心するように笑顔を見せてくれた。
「響っ! 奏もマリアも無事で良かった!」
「仁志、これは?」
「悪意が、邪悪龍が分裂したんだ」
「姉さん達が出て行った後からずっと翼さん達が食い止めてくれるんです!」
「それで、ゲートの方はどうですか?」
「バッチリ!」
「元の状態に戻せたわ」
「そういう事。じゃ、あたし達も翼達の援護に入るよ!」
「「はい(ええ)っ!」」
「頼むっ!」
仁志さんの声に背中を押されるように私達はそれぞれ別れて援護へと回る。
私は未来、マリアさんはクリスちゃん、奏さんは翼さんだ。
当然あの歌を唄いながらだ。
「響っ!」
「未来、お待たせっ!」
私のギアが放った光にカオスビーストが怯んだおかげで未来がこっちにすぐ気付いてくれた。
やっぱり悪意はリビルドギアと同じぐらいこのギアが苦手なんだ。
「一緒に戦おう!」
「うんっ!」
それだけで良かった。未来とはそれだけで通じ合えるから。
あの歌のおかげで私達光槍となったガングニールは絶好調だし、その光がカオスビーストを弱らせてみんなを元気にしてるような感じだ。
奏さんとマリアさんもギアが輝いていて、私達で三つの太陽みたいになってるからか翼さん達も勢いを取り戻してきてる。
「「「「「お、おのれぇ! まさかそのギアにそこまでの力が秘められていたなんてっ!」」」」」
悪意の声が重なって聞こえる。
五体のカオスビーストが全部悪意なんだってよく分かるね。
「一気に押し返すよっ! あたし達の輝きに続けっ!」
「「「「「了解(デス)っ!」」」」」
私達のギアの光が未来達のギアへ当たって共鳴するみたいにキラキラしてる。
もしかしたらソルブライトギアが太陽のギアだから、他のギアにその光を与える事が出来るのかもしれない。
そのおかげなのか未来とのコンビが今まで以上に噛み合った。
何をしたいのか何をしようとしてるのか何をするのか。それら全てが声に出さずとも分かるような、そんな感覚があったから。
ソルブライトギアもずっとフル稼働って感じで、クリスちゃんを相手に戦ったのにその疲れが完全に消えてた。
お日様の光を浴び続けてるからかもしれないって思いながら、私は目の前の悪意へ拳を振るう。
手を繋ぐ事が出来ない相手。ううん、ある意味では繋ぐなんて考えもないのかもしれない。
みんなの心の中に入り込んで、憎しみや恨みを大きくする悪意。
……私も仁志さんへの気持ちを利用された事がある。
初めての恋を、想いを、もてあそばれた。
それだけじゃない。悪意はクリスちゃんの体さえも自分のために利用した。
許せない。許せる訳がない。きっとこの気持ちはみんな同じだ。
あれを自分がされていたらって思えば、悪意のした事は決して許せる事じゃない!
「「「「「「「「「解き放てぇぇぇぇぇぇっ!!」」」」」」」」」
私達の歌に未来達も合わせてくれた。
九つの声が重なり合って凄い力を感じる。
繰り出す攻撃が一斉にカオスビーストへ直撃して一気にその巨体を押しやった。
「「「「「こ、こんな事で負けるものかぁぁぁぁぁっ!」」」」」
その言葉でカオスビーストが一か所に集まっていく。
これは、もしかして……
「集合は合体フラグ!」
「させるものデスかっ!」
「もう一度さっきのいくよ!」
奏さんの言葉に頷いてもう一度唄いながらフォニックゲインを高める。
だけど、その前に五体のカオスビーストが集まって混ざり合うみたいに一つになっていく。
早く攻撃しないとって焦りがみんなにも浮かぶ。
「焦っちゃダメだっ!」
そこへ仁志さんの声が響いた。
「こういう時焦って動いたらダメだっ! 相手が合体するならさせてやれっ! どんな時も冷静さを失ったら負けるっ! みんななら何があっても大丈夫だからっ! へいき、へっちゃらの気持ちを忘れないでっ!」
その言葉で頭が冷えた。心が落ち着いた。
きっと仁志さんは沢山のヒーロー物でこういう状況を見てきたんだ。
だから私達の気持ちが分かったんだ。そしてそれがどれだけ危ないかも。
「相手が合体した直後にみんなの全力の一撃を加えてやればいいっ! 自分達の力を! 歌を! シンフォギアを信じるんだっ!」
本当に、仁志さんがいてくれて良かった。
この状況でみんなの心を落ち着かせて、一つにしてくれるんだもん。
だからもう大丈夫。目の前でカオスビーストがよく分からない姿へ変わり出しても焦らない。
そうだよ。何が出て来てもみんな一緒なら大丈夫。これまでだって何とかしてきたんだ!
「「「「「「「「「解き放てぇぇぇぇぇっ!!」」」」」」」」」
さっきよりも気持ちを込めた一撃を放つ。
みんなの攻撃が一つに重なって悪意へと向かっていって、直撃するのが見えた。
その威力で爆発が起きて光が広がる。その光で視界が満ちて何も見えない。
「ど、どうなったんだよ?」
「分からん。私もまだ何も見えない」
クリスちゃんと翼さんの声が聞こえる。
二人もまだよく状況が分からないみたいだ。
「だけどさっきの一撃はかいしんの一撃でしたっ!」
「うん、あれが通じてないとは思わない」
切歌ちゃんと調ちゃんの声がする。
二人も元気そうでまずは安心。
「それにしてもセレナ、貴方はどうして?」
「お兄ちゃんが姉さん達が帰ってきたら一緒に攻撃に参加して欲しいって言ってたから。戦力のちくじとうにゅう?はダメだからって」
「仁志先輩って部隊とか指揮した事あるのかね? 理には適ってるよ」
マリアさんとセレナちゃんの声に奏さんの声も聞こえてきた辺りでやっとぼんやりと視界が戻ってきた。
だけど、そこに見えたのは信じられない相手だった。
「響……あれって……」
未来の怯えるような声。私も気持ちは分かる。
でも、そんな事って、そんな事ってないよ……。
「どこまで私達の、仁志さんの想いを踏みにじるんだっ!」
拳を握りしめて私は叫ぶ。目の前にいる、銀色の巨人へ……。
「マジかよ……」
仁志は悪意が取った姿に天を仰ぎたくなっていた。
何せその姿はある意味で彼が予想していたものに近かったのだから。
「に、兄様、あれはウルトラマンですか!?」
エルフナインの問いかけに仁志は首を横に振った。
「違うよエル。あれはウルトラマンなんかじゃない。言うならばそれを模したカオスウルトラマンと呼ばれるものだ」
返された声には静かな怒りが宿っていた。
悪意を、銀色の巨人を見つめるその眼差しには悔しさが宿っていた。
仁志にとって“ウルトラマン”とは大好きなヒーローの一角である。
それを、よりにもよって模しただけでなくシンフォギア装者と戦わせるという状況に、彼は怒りと悔しさを覚えていたのだ。
「悪意は俺の記憶からどんな姿が一番みんなに、そして俺に怒りや憎しみを抱かせられるかを考えたんだろう。そして、見つけたんだ。光の象徴でありながら闇に染まったように見える、アンチヒーローとも言える存在を」
「それが、カオスウルトラマン、ですか?」
「きっとな」
そこで仁志は一人心の中で呟いた。
(かつて神の力に飲まれた響がウルトラマンに似た姿になった事がある。悪意はそれも知って余計ウルトラマンの姿を模したんだ。俺の世界じゃ、ウルトラマンは神にも近い捉え方をされているしな……)
視線の先で始まった響達九人の装者と悪意の戦いに無力さを噛み締めながら、仁志は拳を握り締める。
ソルブライトギアの光を浴びて怯むどころかむしろ勢い付くその姿に仁志だけでなく響達も息を呑む。
「くそっ! 怯みやしねぇっ!」
「かえって威圧感が増していないか!?」
「神獣鏡の光さえも平気な感じですっ!」
「さっきまでとは大違いデスよっ!」
「こいつっ! もしかしてこっちの光を吸収してるのかっ!?」
「しかもそれを力に変えているみたいよっ!」
「そんなっ! 見た目だけじゃなくて能力までウルトラマンになったって言うのっ!?」
「闇のウルトラマン……」
「そんな……そんな事って……」
ソルブライトギアが三つ揃って放つ金色の輝き。
太陽の光とも言うべきそれを、あろう事か悪意は吸収し己が力と変えていたのだ。
「ハハハッ! もうお前達の光とやらは全て理解した! 最早その光も、私には無意味ッ! 無価値ッ! 大人しく我が力の前に屈し、無様な屍を晒せッ!」
勝利宣言をしながら悪意はその両手を動かしていく。
それが何を意味するかを即座に察したのは仁志だった。
「っ!? スペシウム光線だっ!」
「「「「「「「「「「っ?!」」」」」」」」」」
仁志の告げた単語で響達全員も表情を強張らせる。
それはウルトラマンの必殺技の代表格ともいえるものだったのだ。
響達へ叫ぶその間にも、仁志は残り少ない依り代のバッテリーを消費してドライブチェンジを敢行する。
それによりマリアとセレナのギアが変化を起こし、白銀の輝きを放つ揃いのギアへと変わった。
「これは……姉さんっ!」
「ええっ! 未来っ!」
「分かりましたっ! 響達も早くっ!」
「うんっ!」
レゾンナスギアとなったイヴ姉妹は即座に合流すると手を繋ぎ、未来も二人の前へ立つように位置取りを変えた。
それは仁志とエルフナインを守る位置だ。更にそこへ響達も合流した瞬間、三人が守りの力を解放する。
「「「守り切るっ!」」」
「消し飛べぇぇぇぇぇッ!」
放たれる漆黒の光線。それを受け止めるは守護に特化した二つの力、レゾナンスとジュエルギア。
それらの力を以ってしても悪意の放つ光線は強力であり、その展開したバリアへ亀裂が入っていく。
「不味い……っ! このままじゃ……っ!」
「レゾナンスギアでもダメなのっ!?」
「アイギスにジュエルの力だけじゃない……っ! レゾナンスギアの力も加わってるのにっ!」
「こうなったら少しでも威力を殺すしかねぇっ!」
「そうだねっ! やれるだけやろうっ!」
「アタシ達の攻撃がどこまで通用するか分かりませんがっ!」
「やらないよりもマシっ!」
「合わせるぞ!」
「いいかい? 3……2……1……0っ!」
カウントと同時に六人の表情が鬼気迫るものへと変わる。
「「「「「「行けえぇぇぇぇぇっ!!」」」」」」
繰り出された一斉攻撃は漆黒の光線と拮抗する事もなく消滅。だがその少し後で何故か光線も止んだのだ。
「ちっ、小賢しい真似を……」
それは悪意の頭部へ殺到したミサイル攻撃によるもの。
光線を放っている間は無防備になると踏んだクリスが、正面だけでなく側面からも攻撃を送り込んでいた事による結果であった。
「まぁいい。所詮死ぬのが少し伸びただけにすぎない」
悪意の見つめる先では疲弊し切ったような未来達三人と、それを支えるようにしている響達の姿があった。
その様子に悪意はほくそ笑むように体を休めるようにその場で立ち尽くす。
先程の攻撃は響達の光を吸収した上で自身の力を加える攻撃のため、その負荷や反動が大きい。
それ故の行動だった。生憎と仁志達には、それが余裕を見せつけるようなものにしか見えていなかったが。
「未来っ、大丈夫っ!?」
「な、何とか……」
「マリア、しっかりしな」
「立てるか?」
「な、何とかね……」
「セレナ、よく頑張ったデス」
「ありがとう」
「い、いえ、これぐらい……」
たった一撃。それだけで先程までの優勢は崩され、一気に劣勢どころか敗色濃厚となったのだ。
「仁志、どうすんだよ……。正直今のをもう一度やられたら……」
「分かってる。分かってるけど……」
チラリと仁志は依り代へ目を落とす。バッテリー残量は1%。もう何も出来ないに等しいと言えた。
(どうする? 正直現状は手詰まりだ。歌を唄ってフォニックゲインを高めたところでソルブライトギアのあれ程の光を克服した悪意にリビルドギアも通用しないだろう。レゾナンスやメカニカルも同じだ。今必要な爆発力を持つギアが俺達には残されて……)
そこで仁志は思い出す。まだ一つだけ残されたギアがあると。
だが、残りバッテリーではそれが何を確認している余裕はない。
選んだが最後そのギアから別のギアへ変更など出来ないのだ。
「……響」
「え?」
だからこそ仁志は響の名を呼んだ。
最後の希望は、彼女なのだから。
「俺達の最後の切り札に、なってくれるか?」
その問いかけの意味を分かったのは奏とクリス以外の者達。
しかしその二人も仁志の雰囲気と言葉で何かを察して息を呑んだ。
響は、無言で仁志を見つめ返している。
「正直それが依り代の最後の力だ。失敗だったとしても変更は出来ない。それでも、やってくれるか?」
仁志の声は凛々しいものだった。
仁志の表情も凛々しいものだった。
だけどその眼差しだけはそうではなかった。
それを理解し、響は思わず苦笑する。
(仁志さんらしいや……)
最後の最後に見せた仁志の弱くも彼らしい部分。それに好ましいものを覚え、響はしっかり頷いてみせる。
「はい。私は依り代を、そして仁志さんを信じます」
「……分かった。ありがとう」
依り代は最後の力を使って仁志の想いに応えるように響のギアを変える。
それは、黄金の輝きでギアを包んでいく。
金色ではなく黄金。金を錬成していくようなそのギアは、奏とセレナは知らないギア。
「これは……」
「そういう事かよ……」
「あの時のギア、デスか……」
「アダムを倒した時の、ギア……」
「黄金のギア、再びね……」
「何て輝きだよ……」
「キレイ……」
「兄様、このギアの名はあるんですか?」
「アルケミックゴールドだよ。まさかこのギアが出てくるなんて……」
「響、どんな感じ? 大丈夫そう?」
以前身に纏ったとはいえ、その時とは状況などが大きく違う。
それを考えての未来の問いかけに響はゆっくりと手を握ると息を吐いた。
「……うん、大丈夫。あの時よりも強い力と安心感を感じるから」
そう響が答えた瞬間、ギアの形状が変化した。その姿を見て仁志達一部の者達が息を呑む。
「こ、これは……」
「「「「「ゴッドガンダムっ!?」」」」」
アルケミックゴールドギアツインドライブ。それはある意味でバーニングエクスドライブさえ越える最強のギアかもしれなかった。
シンフォギアとファウストローブ。その両方が融合したかのような特性を持ち、黄金錬成という力と依り代という未知なる力が宿ったギアなのだから。
「また新しいギアか……。だが、まぁいい。どうせ今の私には無駄な事。その力も蹂躙してくれる」
仁志達の好意を悪あがきとしか思わず、悪意は体の疲れも抜けた事もあり再び光線を放とうと腕を動かした。
だが……
「させるかぁぁぁぁっ!」
「何っ!?」
まるで瞬間移動でもしたかのように響がその目の前に現れたのだ。
背中にある六枚の羽が展開してフィールドを発生、それによる推進力で一気に加速したからだ。
“ゴッドフィールドダッシュ”と作中で呼称された技である。
その加速を乗せて繰り出される拳を咄嗟に腕を交差させて受け止める悪意だが、その瞬間両足が震えた。
これが通常の状態であれば、ライブ会場は大きく窪む様に凹んでいた事だろう。
響の拳による一撃の衝撃を逃がす事が出来なかったため、悪意はその両足へダメージが直接走ってしまったのである。
「こ、これは……っ!」
「まだまだぁっ!」
交差している腕をこじ開けるように響の蹴りが炸裂する。
蹴りは単純に拳の三倍の威力と言われている。それ故当然……
「なっ!? あ、足がっ!?」
先程の衝撃から抜け切れていない悪意の両足は崩れるように膝を折ったのだ。
体勢が崩れれば防御も崩れる。何とか腕の交差は崩れなかったものの、腕自体が下がってしまえば意味がない。
「オラオラオラオラオラッ!!」
「ば、ばかなああああッ!?」
今の悪意は巨人となっている。さすがに40メートルとはいかないが、それでも20メートルはあるだろう。
本来であれば、2メートルにも満たない響がそんな相手へ痛打を与える事など不可能だ。
それを可能とするのがアルケミックゴールドギアツインドライブである。
黄金錬成という錬金術の中でも最高位に位置する秘術。
その輝きをその身に宿し、共に宿すミョルニルの力は雷、即ち神鳴である。故にゴッドガンダムという神の名を冠したガンダムの姿となったのだから。
言うならば神の力を宿している今の響は何が相手だろうとそのサイズ差をものともしないのだ。
そして、かつてアダムを相手にした時とは違う点がまだある。
「立花に続けっ!」
「一人だけ美味しいとこ持ってくんじゃねーってのっ!」
「アタシ達もっ!」
「続きますっ!」
「相手がウルトラマンを模してると言うならっ!」
「弱点は胸のカラータイマーっ!」
「もし弱点じゃないとしてもそこが脆い事は間違いないはずっ!」
「光の巨人を闇が真似しても本物には及ばないって教えてあげましょうっ!」
あの頃は、仲間達が全てを託すように響をアダムへと向かわせた。
その背を見守る事しか出来ない者もいた。その戦いさえ知らない者達もいた。
だがしかし、今はその仲間達が全員揃っている。揃って響の背ではなく肩を並べて戦ってくれている。
それが、響にとっては小さな、けれど最大の違いであった。
(私は一人じゃないっ! みんなが、みんなが一緒にいてくれる! 戦ってくれるっ! それにっ!)
悪意の繰り出す拳を両腕でしっかり受け止め、響は一瞬だけ後ろを見た。
「響~っ! 負けるな~っ!」
「みなさ~んっ! 頑張ってくださ~いっ!」
もうミレニアムパズルは必要ないと思ったのか、エルフナインの腕の中でヴェイグまでも大声で声援を送っていたのだ。
当然彼もそんな二人の横に立って依り代を握り締めながら真っ直ぐ響を見つめていた。
「響……信じてるよ」
二人のように叫ぶのではなく祈る様に呟いて。
「はぁっ!」
その呟きが届いたように響の目が見開かれ、悪意の拳を力いっぱい蹴り上げた。
更に響は地面へ下りるや両足でそこを蹴り弾丸のような速度で悪意へと再接近し、顔面へ思い切り拳を突き出そうとしたのだ。
「っ!」
「このっ、調子に乗るなぁ!」
だがそうはさせまいと悪意も蹴り上げられた拳を振り下ろして反撃する。
しかしその一撃は響へ届く前に花弁のようなバリアによって阻まれる。
「「させないっ!」」
「おのれっ! こんなもの砕いてくれるっ!」
それでもバリアを悪意は力任せに砕こうと拳へ力を込める。
やはり力の差は覆せず、レゾナンスギアのバリアは無情にも砕かれてしまう。
そのままの勢いで悪意は拳を響へと振り下ろした。
が……
「そうはっ!」
「させないデスっ!」
「邪魔をするなっ!」
拳を何とか受け止める調と切歌。
ならばと悪意は残る片手を振り払うように動かそうとして、別の存在にそれを阻まれる。
「たった一人でもっ! このギアは強いんだよっ!」
「虫けらがっ!」
アームドギアを両手で構えて奏は悪意の腕を辛うじて受け止めたのだ。
「もらったぁぁぁっ!」
(くっ、もう間に合わない! いや、待て。足の痺れが消えたぞ)
眼前へと迫る響を見た悪意は、両足が動くようになった事に気付いてその場から立ち上がろうとした。
けれど、その行動は実行に移される事はなかった。
「か、体が動かないだとっ!?」
「ふっ、この攻撃は何度もお前を封じたはずだぞ、悪意っ!」
「こ、この程度でぇぇぇぇっ!」
「なっ!?」
悪意の影へと突き刺された巨大な剣。翼による影縫いが身動きを封じたのだ。
だがそれで諦める悪意ではなかった。
なんと悪意は影縫いを無理矢理力でねじ伏せるように打ち破り、ギリギリで立ち上がって響の攻撃をその大胸筋で受け止めてみせた。
「か、硬いっ!」
ウルトラマンはその鍛え上げられた大胸筋で何度も相手の攻撃を受け止めてきた。
大胸筋バリアと呼ばれる程の強度を持つそれを悪意は忠実に再現してみせたのである。
予想だにしない強度に響の表情が歪んだのを見逃さず、悪意は更に大胸筋へと力を入れてみせたのだ。
「吹き飛べっ!」
「うあっ!?」
弾き飛ばされるように悪意から離れて行く響。
が、その体が落下する前にミサイルによって受け止められる。
「何っ!?」
「もってけダブルだっ!」
響を受け止めたのとは別のミサイルが悪意へと飛んでいく。
その狙いは悪意の胸部にあるカラータイマーだ。
「させるかっ!」
飛んできたミサイルを手で叩き落とすように爆発させた悪意だが、続けて響を乗せていたミサイルが向かってくる。
それさえも手で叩き落として爆発させた悪意へ、クリスは空を見上げるようにして不敵な笑みを浮かべた。
「何を笑っている? お前達の希望とも言うべき存在は死んだ。そのあまりの絶望に気でも触れたか」
「へっ、違うっての。やっぱお前は何も分かってねーって実感出来ただけさ」
「何?」
「姿形だけ真似したところで意味はねーんだよ。大事なのは魂、心なのさ」
仁志から学んだヒーローの条件。それを思い出しての言葉を悪意は鼻で笑った。
「はっ、馬鹿馬鹿しい。何が魂だ。心だ。そんな事を言っているお前達は私の掌で踊り続けたではないか。絆? 愛? 信頼? 無駄な事だ。所詮人間は欲望の塊に過ぎないのだっ!」
「だとしてもっ!」
「っ?! な、何だと? 馬鹿なっ! どこだ!? どこにいるっ!?」
響き渡ったのは響の声。
だが彼女の乗ったミサイルは悪意の手によって爆発四散したのだ。
響が生きているとしても、声は下から聞こえなければおかしい。そう悪意が思った時、クリスが見ていた先を思い出して顔を上へ向けた。
「……そこかっ!」
悪意が目から光線を上空へ向かって放つ。
それが何もないはずの空へ当たり、未来の姿を出現させる。
「響っ! あとはお願いっ!」
未来が鏡面のバリアを展開して周囲と同化させていたのだ。
そのカモフラージュを失った事で悪意の視線の先に響の姿が現れる。
「くっ……」
色を失った空に、眩いばかりの黄金の輝きがあった。
日輪を背負い、悪意を見つめるその姿は神か仏かと見紛う程の神々しさだ。
「持って行け立花っ!」
「仕方ねーからこれも貸してやるっ!」
「役立てて頂戴っ!」
「どうぞっ!」
「アタシのもデスっ!」
「使ってくださいっ!」
「持ってけっ!」
「響に力をっ!」
その輝きへ八つの色が集まっていく。
温かくも優しい光が、響のギアへ引き寄せられるように。
「みんなの光の力、借りますっ!」
力強い言葉を合図に響の全身へ装着されていく八つの異なる輝き。
それらが彼女のギアへ装着される度に黄金へと変わっていく。
剣が、銃が、二振りの短剣が、鎌が、鋸が、槍が、鏡が、黄金の輝きへと変わって響の力となる。
「そんなこけおどしでぇぇぇぇぇっ!」
両腕を交差させて悪意は響へと漆黒の光線を放った。
その奔流を見ても響は怯えもしなければ緊張もしなかった。
「未来、マリアさん、セレナちゃん、三人の力、借ります」
二つの短剣と鏡が重なり合い、響の前に三角形のバリアを創り出した。
そこへ漆黒の光線が直撃するも、ヒビさえ生じさせる事無く受け止めてみせる。
「クリスちゃん、翼さん、奏さん、三人の力、借ります」
銃がライフルの形へ変わり、剣と槍がそこへ合体して巨大なキャノンとなる。
そこから放たれた閃光がバリアを通過すると増幅されて光線と衝突したのだ。
しかも、ゆっくりとではあるが閃光の方が押し返し始めた。
「切歌ちゃん、調ちゃん、二人の力、借りるね」
鎌と鋸が合体し、まるで飛行ユニットのようになって響の背中へと装着される。
そして鋸部分が回転を始め、プロペラのような推進力を生み出した。
背中の六枚の羽が稼働し日輪の如きフィールドが展開。それらからの推進力を乗せた響はまるで光のようになって、あろう事か自らバリアの中を通過して閃光の中へと入っていく。
「馬鹿めっ! 焦って自ら攻撃の中へ飛び込むなどとっ!」
このままいけばもしかすれば光線が押し負けたかもしれないと、そう悪意も思っていた事がそこから分かる。
響の行動を嘲笑うように悪意は全力を注ぐように光線を放つ。
漆黒の光線は勢いを強め、黄金の閃光を僅かに押し返したその次の瞬間だった。
「っ?!」
何かが砕けるような音が響き渡ったのだ。
それが何なのかを最初に理解したのは仁志だった。
「やった……っ!」
彼の目でも分かるように、悪意の胸部にある半球状の出っ張りのような物が砕けていたのだ。
勿論それをやってのけたのは一人しかいない。
「ば、馬鹿な……何故……」
自身の重要な器官を破壊された悪意はゆっくりと後ろを振り返った。
するとそこで見たのは黄金の球のようになっていた響であったのだ。
黄金の鎌が羽のように柔らかく響を守るように包んでいたため、あの光線の中もダメージを負う事無く突き進んでこれたと言う訳だった。
「あ、あれで無傷で移動出来た、だと……」
「ふぅ……これで後は」
愕然とする悪意に対して響はウィングを展開し直すとその場で向き直り、未だ動いている銀色の巨人へその拳を高々を掲げてみせた。
それに呼応し、響のギアの胸部のカバーが展開、エネルギーマルチプライヤーと呼ばれる“気”の増幅機関が作動する。
その光景が意味する事を察し、仁志はここぞとばかりに叫んだ。
「みんなっ! 響へギアのエネルギーを集中させるんだっ!」
仁志の狙いが何なのかを察して、奏とセレナを除いた六人がその右手を突き出すように動かしながら叫ぶ。
「天羽々斬っ!」
「イチイバルっ!」
「アガートラームっ!」
「イガリマっ!」
「シュルシャガナっ!」
「神獣鏡っ!」
六人の行動を見て奏とセレナもどういう事をすればいいのかを理解する。
今は響に文字通り全てを託すべきなのだと。
「成程な。じゃ、やるか?」
「はいっ!」
「ガングニールっ!」
「アガートラームっ!」
八つのギアのフォニックゲインが響の拳へと集束する。
黄金のギアを纏う響の右拳が虹色を創り出して鮮やかに輝いた。
だが、そこで響は何かを思い出したかのような顔になった。
(このままこの拳をぶつけても……)
自分の右拳に宿った力を叩き付ければ悪意を倒す事は出来る。
そう響は確信しながらそれを行った後の事を考え、意を決した表情で仁志へと顔を向けた。
「仁志さんっ!」
「へ?」
このタイミングで声をかけられると思ってなかったのだろう。
仁志は完全に間の抜けた声と顔を響へ返した。
「最後まで、私を信じてくださいねっ!」
「えっと……」
何故今それを言うのだろうかと、そう思う仁志の視線の先で響は悪意へと向かっていく。
そしてその虹色の拳を悪意へ突き出さ――なかった。
――えっ!?
しかもあろう事か響はギアを解除して砕けたカラータイマーの中へと入ったのである。
理解が追いつかない仁志達を他所に悪意はその姿を維持できなくなったのか収縮していく。
やがてその姿は消え、響だけがその場に残る。
「どうして……」
日焼けをしたような肌の色となった響が。
――ふふっ、ははっ……あははははっ! 遂に最後の一人を取り込んだぞ!
悪意の勝ち誇るような声を聞きながら、仁志はただ目の前の響だった相手を見つめる。
その真意を探るように、汲み取るように……。
次回、METANOIA。