シンフォギアの消えた世界で   作:現実の夢想者

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翼が収入を得るのならそれしかない。


防人ノ歌

 風鳴さんの来訪に動揺していた俺だったが、三人が荷物を置いてギアを解除したのを見てまず懸念していた事を聞くと、やはり彼女達の世界では一日経過しているらしい。

 その一日で響だけじゃなく雪音さんも一緒になってこちらの状況を説明、その内容にどうやら旧F.I.S組が同情するような反応を見せたそうだ。

 で、問題はここから。雪音さんと響がこちらでバイトしていると聞いて小日向さん達は言葉を失ったとの事。

 

「凄かったですよ。質問がわ~ってきました」

「特に後輩二人が凄かったな。コンビニだって言ったら目をキラキラさせてよ」

「そんなにいいものじゃないって教えてくれた?」

 

 紛れもない本音を告げると二人は苦笑して頷いてくれた。

 どうやらそれを聞いて暁さんと月読さんはがっかりしたらしい。でも、一度やってみたいと言い、ついでに働いてる二人を見てみたいとも言ったそうだ。

 

「話しているところすまない。雪音、まずあの解析結果から伝えるべきではないか?」

「っと、そうだな。スマホを調べてもらった結果、ある物に似てるってのが分かった」

「ある物?」

「えっと、ミーナさん達が持ってた物って言って分かります?」

「スクルドの……もしかしてデュプリケーターとかってやつ?」

「そう、それです。完全に同じではないですが、似たような物という結果が出たのです」

 

 風鳴さんが頷いてスマホを差し出した。

 

「何故そうなったのかは分かりません。ですが、エルフナインが言うにはあれはギャラルホルンの中を、即ち平行世界を行き来出来るようにする道具でした。それに似ている事から、この携帯端末はこの上位世界へ我々がいられるようにしてくれているのではないかと」

「要はお前が表現した依り代ってのがピッタリって事だ」

 

 告げられた言葉に頷きながら俺は肝心の質問をする事に。

 

「で、君達が独自行動出来るように出来た?」

「えっと……」

「エルフナインちゃんが言うには複製は無理そうだって」

「え?」

「正確にはそれ自体を複製は可能だけど今の状態と同じには出来ねーって事だ」

 

 その結論で納得。要はこのスマホがどういう物になっているかは分かったけど、それと同じ効果を持つ物を作る事は不可能って事か。

 困ったな。これじゃ風鳴さんが調査に行けない。そして響と雪音さんがバラバラに行動も出来ない。

 

「ただ、依り代を増やす事は出来ました」

「どういう事?」

 

 風鳴さんの言葉に思わず顔を上げる。そこには凛々しい表情の美人がいた。

 

「それと同じ効果を持つ物を作り出す事は出来ませんでしたか、逆を言えばその携帯端末自体が依り代となっている事が分かりました」

「なので、ごめんなさい! スマホ、少し壊しました!」

「は?」

 

 まったく話が見えない。壊したって、見た感じ別にどこも変わってないように感じるんだけど。

 

「スマホよく見てみろよ。ほら、少し直された場所があるだろ?」

「え? あっ、ホントだ」

 

 言われて見れば、ほんの少しだけど四隅に修復したような跡が見える。

 

「その欠片を私達のギアへ組み込みました。これでおそらく行動出来るはずです」

 

 そう言って風鳴さんはギアペンダントを見せた。

 たしかによく見ると、一部分だけ色が異なっている箇所がある。

 それにしても、ギアへの組み込みかぁ。

 

「何だか愚者の石みたいな使われ方だな」

 

 俺がそう言った瞬間、三人が軽く驚き、すぐに響と雪音さんが苦笑した。ただ、風鳴さんは俺をまじまじと見つめてきたけど。

 

「そんなもんもあったなぁ」

「懐かしいね」

「そうだな。それにしても、本当にご存じなのですね?」

「まぁ。っと、そうだ。じゃあ早速試してみてくれるか? スマホはここに置いておくから」

 

 その言葉に三人は頷くと揃って玄関へと向かって行き、ドアを開けて外へ出た。

 

「お~……」

 

 部屋の外で響が嬉しそうに飛び跳ねているし、雪音さんが安堵するように息を吐いていた。で、風鳴さんは動けなかった経験がないためによく理解出来てないらしい。

 ふむ、じゃあギアペンダントを風鳴さんだけ回収してみようか。

 

「響、風鳴さんからペンダント回収してみて」

「はーい。翼さん、という訳でお願いします」

「あ、ああ」

 

 俺の考えた事が分かったのか響は風鳴さんへ手を差し出す。

 まだ半信半疑の風鳴さんはギアペンダントを首から外してそれを響の手へ落とした。

 でも、何も変わっていないぞとばかりに首を傾げた。

 

「先輩、そこから動いてみろよ」

「動く? 造作も……っ!?」

 

 足をきっと上げようとしたんだろう。その瞬間、風鳴さんの表情が強張った。

 で、二人がニヤニヤと笑い出す。こらこら、それじゃあ悪者だよ君達。

 

「こ、これは……」

「影縫い喰らったみたいだろ。それが依り代なしって事だぜ、先輩」

「私も足上げたとこでそうなったんで気持ち分かりますよ翼さん」

「くっ……た、立花、もう分かった。分かったからペンダントを」

「はーい」

「んだよ。もう返すのか? あたしはそのまま十分ぐらいは放置されたんだぞ」

 

 仲が良いような感じを受けるやり取りだ。風鳴さんはペンダントを受け取ってホッとするような表情をしていた。

 でも、これでやっと彼女達が自由行動出来る訳だ。スマホをもう一台持とうと思ったけど、どうやらそれはせずに済みそうだな。

 

 で、その後は部屋に戻って三人が持ってきた荷物開封。

 響は食糧、雪音さんは食器などで、風鳴さんは……寝具と……ノートPC用のマイク?

 

「これは?」

「はい。二人の話からここでは収入を得る事が肝要だと思い、不肖この風鳴翼、歌にて稼ぐ事をしています。なので、こちらでもそれをと」

「動画配信、でしたっけ。それで翼さんの歌をって事らしいです」

「それならここでも可能だろ?」

 

 成程、いい考えだ。それに、ここにはもうシンフォギア関連の楽曲は存在しない。つまり著作権云々はなく面倒な揉め事も有り得ない訳だ。

 そして風鳴さんの歌の上手さは言うまでもない。だが、そこで俺はある事を思い付いた。

 

「風鳴さん、それは良い考えだと思う。でも、いくら君の歌が凄くても、それだけじゃ釣り針が小さい」

「どういう事でしょう?」

「ここじゃ君は名も無い一人の女性だ。ツヴァイウィングだった風鳴翼ではないんだよ。そんな状況で歌を唄っても簡単に衆目は集まらない」

「……宣伝が大事と言う訳ですね?」

 

 さすがは芸能関係で生きてる女性。俺の言いたい事をすぐ察してくれたらしい。

 そう、そうなのだ。風鳴翼は歌が上手い。ただ、それを知っている人がこっちには皆無だ。

 そうなると、まず上げる歌動画へアクセスしてもらうように工夫しないといけない。そして、意外とそれは彼女の場合簡単に出来る方法がある。

 

 一種卑怯ではあるけどね。

 

「そういう事。で、実はこれが君の場合は簡単に出来る。と、言う訳でちょっと遠いけどカラオケへ行こう。そこで可能なら動画も撮ればいいし」

「分かりました。お願いします」

 

 水樹奈々の、もとい今は芸名が変わってるのでその通りではないか。

 とにかく彼女が歌っている曲を風鳴さんに歌ってもらう。

 そうすれば否応なく話題になるはずだ。彼女は紅白歌手でもある訳だし。

 

「ちょっとぉ、只野さーん。翼さんだけですか?」

「あ、あたしらは留守番とは言わないよな?」

「勿論。ただ、優先するのは風鳴さんの方だからね?」

「そうだぞ二人共。これは遊びに行く訳では」

「いや、それでいいんだけど?」

「なっ……」

 

 目的は風鳴さんへ奈々さんの有名どころの歌を覚えてもらいそれを歌ってもらう事だけど、若干響と雪音さんへの息抜きも兼ねている。

 思えば装者になってから平和な、それこそ普通の女子高生みたいな時間を彼女達はろくに過ごしてないんじゃないか?

 そう思えば、こっちにいる間は少しでもそれらしい事や時間を過ごしてもらいたい。

 

「風鳴さん、今は難しい事を考えず、楽しむ気持ちでいてくれないか? 今から行くのは世界を救うためじゃなく、見知らぬ歌を知って、聞いて、歌ってみるってだけ。レコーディングとかじゃなくて、さ」

「見知らぬ歌を、知り、聞き、歌う……ですか」

 

 俺の言葉に風鳴さんは小さく俯いて、少しだけ間を置いて顔を上げた。

 

「分かりました。今は気楽にいようと思います。ここでの私は歌手でさえないと」

「うん、それでもいいよ。ただの歌う事が好きな女性。それがここでの風鳴翼でいいんだから」

「……はい」

 

 少しだけ、ほんの少しだけ風鳴さんの表情が柔らかくなった。

 その微笑みに安堵し、俺は財布やスマホを持って外へと出る。

 風鳴さんに続いて響と雪音さんが出て来たところでドアの鍵を閉めた。

 

「で、カラオケはいくらかかるんだよ?」

「えっと……この時間なら……」

「翼さんとカラオケなんてあの時以来ですね」

「そうだな。もう懐かしく感じてしまう」

 

 真っ先に料金を心配する辺りが雪音さんらしい。それと、響達の会話を聞いて俺も懐かしい気持ちになった。

 始まりは一期の頃の話だもんなぁ。とにかくあそこは飲み物とかないのでそれも用意するべきか。

 

 そんな事を美少女三人を連れながら考える。平日の昼過ぎにある意味で凄まじいリア充に見えるだろうが、残念ながら財政はボロボロなんだよな、これが。

 

「只野さんはよくカラオケとか行くんですか?」

「たま~にかな」

「どんなジャンルが好きなんですか?」

「ほとんどアニソンや特撮ものばかりだよ」

「ガキっぽいんだな」

「雪音、そんな言い方をするものじゃない」

「いいよ。でも、最近はそういうジャンルもメジャーアーティストが関わってるから馬鹿には出来ないんだ。それと、こう言いたくないけど君達の歌も本来アニソンだったんだからね?」

「うっ……」

 

 してやったり顔で告げた言葉に雪音さんが呻いた。そう、君の尊敬する先輩の歌も馬鹿にする事になるんだよと暗に告げたからだ。

 

「私達の歌、ですか?」

「ギアを纏った時のやつとかね」

「ええっ!? あれ、カラオケに入ってたんですか!?」

「そう。俺もある程度で良ければ歌えるよ」

「では、少し聞かせて頂いても?」

 

 まさかの風鳴さんが食いついた。でも、よく考えれば彼女が一番歌への情熱があるんだった。

 なので若干気恥ずかしさもありながら、俺は“正義を信じて、握り締めて”を一番だけ歌う事に。

 

 それを聞いて三人が見事に目を見開いたのはちょっとだけ楽しかった。

 

「凄い……ホントに私が歌ったやつだ……」

「な、なぁ、まさかあたしのも?」

「そらで全部歌えはしないけどね。挨拶無用のガトリング~とかは」

「うえっ!? ま、マジかよ……」

「ツヴァイウィングの歌も、ですか?」

「こっちには二曲ぐらいしかなかったけどね」

 

 何せそれだけしかリリースされてないし。まぁアレンジ変えた逆光が出たっけ。たしかゲーム楽曲のアルバムで。

 そこからは三人からの質問攻め。何て言うか、予想はしてたけどここまでとは。

 やっぱりみんな戦闘曲が歌詞まであって歌えていた事が衝撃らしく、雪音さんは若干恥ずかしそうにしていた。

 まぁあれって本人達の心情だもんなぁ。そりゃそうもなる。なので具体的な歌詞を教えるのは止めておいた。

 

 途中で百均に寄って紙コップとペットボトル飲料を四本購入。

 俺がコーラ、響がオレンジジュース、雪音さんがストレートティーで風鳴さんが緑茶という、いかにもな感じだ。

 その足で学生御用達のルーム料金だけで利用出来るカラオケへ到着。そこで料金を支払い移動開始。

 

「こ、ここって持ち込みOKなんですね」

「代わりに一切何もサービスしないんだ。食べ物も飲み物も」

「成程なぁ。それで人件費を削減って事か」

「だが、理に適っている。正直こういう場所での料理は期待できないしな」

「そうそう。っと、ここだ。じゃ、まずは入って入って」

 

 ドアを開けて女性陣を先に中へ入れ、最後に俺が入る。

 長椅子と一人掛けの椅子が一つ、か。なら俺は一人掛けだな。

 

「只野さん、こっちこっち」

「え?」

 

 だというのに、何故か響が自分の隣を手で叩いていた。

 

「折角なんですからみんなで座りましょうよ」

「いや、でも……」

 

 たしかに四人が余裕で座れるけど、男の俺がいると嫌じゃないか?

 

「只野さん、立花はこういう性格ですので」

「時間がもったいねーからさっさと座ってくれ」

「そ、そっか。分かった」

 

 二人の許可まで出てしまっては拒否するのもあれだ。なので大人しく響の横へ座る事に。

 ちなみに入口近くに俺、響、雪音さん、風鳴さんの順番で座ってる。

 

「じゃ、早速風鳴さんに歌って欲しいやつを入れるから。ガイドボーカルが流れてくるんでそれで覚えてくれ」

「はい」

「どんな歌か楽しみだなぁ」

「そもそもどんな歌を先輩に歌わせる気だ?」

 

 奈々さんファン以外も反応しそうな曲がいい。となるとまずはパチスロで有名になってるWILD EYESとかだな。

 後は……まぁETERNAL BLAZEがいいか。遠藤さんが歌ってくれたし。まずはその二曲だろう。

 

 で、一回ずつ流してみた結果、風鳴さんは「やってみます」と言ってその二曲へ挑戦。

 その結果は、何て言うか贅沢な時間だなと俺は思った。何せ間近で奈々さんが歌っているようなものなのだ。

 こんなライブ、いくら支払えばいいんだろうか。それと、たった一回聞いただけで完璧に歌える辺り、さすが世界で活躍するアーティストだ。

 

「……どうでしょう?」

「いや、凄いとしか言えないって。たった一回でよく覚えるよ」

「はい! お手本よりも上手かったですっ!」

「それは当たり前だろ! こっちはプロだぞ!」

「ありがとう。だが、あのガイドもプロだ。おかげでかなり助かった」

 

 このようにガイドボーカルへのフォローまでするのだから出来た女性である。

 で、この後は響が知ってる歌がないと嘆き、雪音さんがそれに呆れた表情を見せて、風鳴さんは俺の入れた歌が一人のアーティストの物だと知ってそれをデンモクで検索。

 その間、俺は盛り上がるだろう歌を、要は知らないでもサビを一度聞けば歌えるやつを歌う事に。

 いやぁ、やっぱ一緒に殴りに行く歌はいい。俺が歌える限られた一般向けの歌だし。

 

「テンション上がりますね、今の歌っ!」

「そうだろ? ライブ向けの歌だしな」

「こうなるとあたしらからすれば古い歌しかないんだな」

「そうだな。だが、歌謡曲や演歌は同じ物が多い。それだけは救いだ」

「どちらにしろ、私は知らない歌ばかりです……」

「いっそギアを使って歌うかい?」

「その手があった!?」

「あのなぁ……」

「ギアを単なるカラオケ機器として使う? その発想力は凄いですね」

 

 褒められてるような、そうじゃないような微妙な感じだけど、考えようによっては今俺って凄い恵まれた面子といるんだよなぁ。

 いっそ響や雪音さんに中の人の楽曲覚えてもらって歌って欲しい。てか、その気になったら三人曲とか歌ってもらえるんだろうか?

 

「じゃ、次は動画撮影しながら歌ってもらえる?」

「分かりました」

 

 備え付けのカメラを使って風鳴さんだけが映るようにしての歌唱。

 そしてそこで俺はさっきの歌が全力ではなかった事を知る。

 

「……マジかよ」

 

 どうやらさっきの歌唱は風鳴さんも探り探りだったらしい。一度歌った事で彼女の中ではもうあの二曲が持ち歌のようになったのだろう。

 本人と間違える事請け合いの、いや下手をすればこちらの方が迫力があるように感じられる歌声に俺は言葉がなかった。

 

 それが終わった後、俺はならばと甲賀忍法帳を聞いてもらってそれも歌ってもらう事にした。

 風鳴翼ならばこの和風なテイストの漂う楽曲が似合うと思ったのだ。

 ガイドボーカルを聞き、一度歌って、再び本番。

 

「……すげぇ」

 

 圧巻とはまさにこの事。歌手本人とはまた違う味というか良さが出たそれに俺は確信めいたものを感じていた。

 間違いなく話題になると。これなら収益化も狙える。まずこの三曲で名前を売り、その後に風鳴さんの個人曲を歌ってもらえばいける!

 

「……どう、だろうか?」

「凄いっ! 凄いですよ翼さんっ!」

「さすがだぜ先輩! 歌の感じとドンピシャって感じだっ!」

「只野さんはいかがですか?」

 

 こちらの感想を求める風鳴さんには、微かな不安が見えた。多分だけど本人の中ではまだ納得出来ない部分や不満があるんだろう。

 

「……多分今ので問題なくみんなから響達と同じ感想はもらえると思うよ。実際、俺もそう言うしかない」

「そうですか」

「でも、風鳴さんが納得出来ないなら納得出来るまで歌ってくれ」

「えっ……」

 

 こちらを見つめる風鳴さんは微かに驚いてた。響と雪音さんも似た感じだけど、すぐに何かを察して苦笑に変わる。

 

「やっぱり歌手、になってしまうんだろ? じゃあ出す物はどんな形であれ自分の作品になる。いくら割り切ろうと思っても、そこに妥協はしたくないんじゃないか?」

「それは……」

「向こうじゃ色々あって考えないといけない事は多いかもしれないけど、今の君は装者としての仕事も歌手としての仕事もある状態じゃない。だからここの利用時間内なら何度も歌い直してくれていい。歌う事だけ考えていいんだ。まぁカラオケだから音響や曲の品質はお察しだけどね」

「…………分かりました。なら、もう一度いいですか?」

 

 凛々しくもどこか嬉しそうに笑う風鳴さんへ俺は頷きを返す。

 彼女はそのまま響や雪音さんへも同じ問いかけをし、二人も当然頷き返した。

 そうして風鳴翼歌唱の甲賀忍法帳が再び始まる。先程よりも情感や雰囲気を掴んだそれに、俺だけでなく響と雪音さんまで沈黙。

 何というか、これを歌いながら戦う姿さえ幻視出来る程に、風鳴翼の持つ防人の部分と女性の部分へ合っている気がしてくる。

 

 最後のフレーズのビブラートが余韻を残して消えていくのを聞きながら、俺は生まれて初めての感覚に陥っていた。

 これがライブでしか味わえない感覚、というものなんだろうか? どう表現していいか分からないが、深い感動っていうのはこういう事なんじゃないだろうか。

 

「……どうだろうか?」

 

 満足げな笑みを見せる風鳴さんの声で俺はやっと我に返った。

 

「その、言葉にすると陳腐になってしまうんだけど……良かった」

「私もです……すっごく良かった」

「ホント、言葉にするのが難しいな。でも、すげぇよ先輩。それだけだ」

「そうか。ありがとう、みんな。私も新曲を唄ったような気分だ。ああ、そうだな。まさしくそうだ」

 

 噛み締めるようにそう言って風鳴さんは俺へ顔を向ける。

 

「只野さん、どうやら貴方は本当に私の事を御存じのようですね。それがどこか不気味で不快でもありましたが、こうも言えます。それ故に貴方は私の気持ちを汲んでくれるのだと。先程の言葉、胸に沁みました。ここでは、私は防人でいる必要がない。それを言われ、心が軽くなったような気がしました」

「そっか。なら良かった。ここにいる間は、心の洗濯だと思って羽を伸ばしてくれ。また本来の場所で飛び回れるように」

「……はい」

 

 そう言って微笑む姿は、俺がゲームなどで見た本来の風鳴翼の笑顔だった……。

 

 

 

 翼の歌った動画は、仁志の予想通りすぐに話題になった。

 何せ歌声だけならかの有名声優にして歌手と同じである。

 そんな翼の動画専門チャンネル“戦姫絶唱シンフォギア”は何と初日にして登録者数十万人を達成する事となる。

 

 それを受け、翼は仁志のアイディアやクリスの助言を参考に、水着ギアを展開し服を着る事で彼女の戦闘曲も動画配信する事に成功する。

 それにより僅かではあるが広告収入が望めるようになり、仁志達はそれを喜び合った。

 

 響とクリスのバイトも研修期間が終わり、他の夕勤バイトと組む事も発生したが大きな問題はなかった。

 ただ、やはり仁志が心配したように大学生の茂部からのアプローチは発生。クリスはそれとなくあしらえるのだが、響はやはりそういう事が不得意なため若干苦手となってしまったのだ。

 

――只野さん、私、あの人苦手です……。

――分かった。まずオーナーに相談するといい。このままじゃ続けていけないかもしれないって。大丈夫。もし言い難いなら俺からも言っておくから。

 

 仁志の言葉を受け、響はオーナーへ相談。結果、響はクリスか女性の近藤としか組まないシフトとなった。

 ただ、そうなるとクリスはクリスで不満が生まれるもので……

 

――あいつ、本気でぶちのめしていいか? 仕事中あたしの胸ばっかり見てくんだよ。

――……分かった。そっちは俺から言っておく。

 

 業務引き継ぎの際、仁志は茂部へそれとなく忠告する事にしたのだ。

 

――お前、視線だけでも今の世の中下手したらセクハラで訴えられるぞ? 気持ちは分かるけど、雪音さんからオーナーの耳に入る前に自重しろ。

 

 同じ男故に同調を見せつつ現実味ある結末をちらつかせ、仁志は茂部の視線へ警告を促した。

 それでもクリスの胸元を見る事は減らず、仁志は苛立つクリスを宥め、最後にもう一度だけチャンスをと説得したのだ。

 

――雪音さんから相談されたんだが、どういう事だ? 何とか俺が頼んでオーナーへ言うのは待ってもらったけど次はないぞ?

 

 それを最後通牒と受け取った茂部はやっとクリスの苛立ちを起こす行動を減らした。

 

 そうして彼女達が平和な世界と関わるようになって一か月が経過したある日の事……。

 

 

 

「「「引っ越し?」」」

「ああ、そうだ。店からは遠くなるけど、まだ歩いて通える距離にいい場所があったんだ」

 

 ニコニコ笑顔で俺が見せたのはスマホの画面に表示された1DKの見取り図。

 

「シャワーとトイレ別で家賃は今と八千円しか変わらないんだ。まぁ部屋の広さは四畳半になるけど十分だろう」

「シャワーがあるんだぁ」

「やっとネカフェ通いとおさらばだな」

「そうだな。ただ、只野さんはそれで構わないのですか?」

 

 正直店まで歩いて二十分は辛い。でも、今の暮らしじゃ彼女達への負担が大きいんだ。

 

「むしろ俺が響と雪音さんに聞きたいよ。ここに住むとなると店まで最低片道二十分はかかる。今の大体三倍強だし、下手すればもっとかかるかもしれない。往復するだけで一時間弱って考えた場合……」

「私は構いません」

「あたしもだ。それぐらいの方がいい運動になるってもんだ」

 

 二人が頷いてくれたので俺は風鳴さんへ目を向ける。

 

「風鳴さんはどうかな? 駅まで三十分以上かかるけど」

「私も正直構いません。ただ、ここよりも狭いというのが不安ではあります」

「あー、うん。それは分からないでもないよ」

 

 今は六畳あるので何とか大人四人でも寝られていた。

 これが四畳半となれば結構苦しい。ギリギリ寝られない事もないだろうけど、それはノートPCを置かない場合だ。

 それを風鳴さんは心配しているんだろう。だが大丈夫。俺はちゃんとその事への解決法を考えてある。

 

「でも心配いらないよ。ほら、ここに押入れがあるだろ? ここに布団を敷いて俺が」

「「「それは駄目です(だ)」」」

 

 何故だろう。まさかの三人一致で反対を食らってしまった。

 

「家主である只野さんを押入れで寝かせるなど心苦しいです」

「そうですよ。今だって若干狭そうに寝てますし……」

「あたしらへ気ぃ遣うのは分かるけどな、少しぐらい触れたって大丈夫だっての」

 

 そう、風鳴さんが来てから寝る時は玄関近くが俺、風鳴さん、雪音さんと響だ。

 

 そうそう、風鳴さんの部屋を散らかす癖は何とか発動を免れていた。

 というのも、そもそも物を散らかせる程広くなく、更に俺と言う他人の異性がいるというのが風鳴さんの羞恥心を刺激し服などを散らかす事を抑制させていたらしい。

 

――し、下着を男性に見られるのは私とて恥ずかしいんです。

 

 緒川さんはという俺の問いかけに、風鳴さんはもう一種家族に近い故に平気なのだと言った。

 

 そしてそれもあってか、雪音さんには割と真剣に頼まれたのだ。

 

――これを機に先輩の悪いとこを矯正してくれ。

 

 まぁ、俺も正直下着を見るぐらいの役得はと、そう思わないでもなかったので正直に風鳴さんへ言う事で自覚を促したのだ。

 

――俺、風鳴さんの下着とか片付けてもいいよ?

――け、結構ですっ! 私だってやろうと思えばやれますっ!

 

 真っ赤な顔でそう言い放ち、風鳴さんは割とまめに片付けを行うようになった。

 そもそもずっと一人でいた事も原因なのだろうと思う。

 実際俺達と暮らし出したら、衣服をあちこちへ脱げないし、下着も出しっぱなしは出来ない。

 そもそもバイトがある俺達と違い、風鳴さんは基本フリー。なので調査として新聞やテレビなどの情報を探ってくる以外はやる事がない。

 そうなった風鳴さんの日課は掃除などの家事となった訳だ。

 

 ズバリ、部屋の中ではポンコツ可愛い女の子と化したのである。

 

――た、只野さん、そろそろ洗濯物を洗うべきだと思うのですが……。

――そんなに下着の余裕ない?

――そ、そういう訳ではありません。ただ、四人分ですし天候も不安ですので出来る時にするべきかと。

――正直に言いましょうよ翼さーん。元々持ってきた下着、少なかったんですよね?

――っ!? た、立花ぁ!

 

 まず洗濯が常に出来ると思っていた事から発生した“替えの下着不足事件”。

 

――あ、あの、掃除はどうすれば?

――悪いけどこれでお願い。

――こ、こんな小さなローラーで?

――百均で色々賄ってるからね。

――わ、分かりました。では、掃除はお任せください!

 

 で、見事にコロコロの用紙を使い切ってくれた“コロコロ瞬殺(シュンコロ)事件”。

 

――洗い物ぐらいは出来るよな?

――馬鹿にするな雪音。これしきいくら私でも失敗などしない。見ろ、綺麗になっているだろう。

――……えっと、風鳴さん? お椀の表面が剥げてるんだけど……?

――わわっ! 翼さん、ダメですよ! 金属たわしは金属にしか使っちゃ駄目なんですってっ!

――そ、そうなのか? よく汚れが落ちるから……。

――汚れじゃなくてその物落としてどーすんだ!?

 

 木製品やプラスチック製品へ傷を付けた“金ダワシゴシゴシ事件”など、たった数日で面白おかしい、けどある意味笑えない事をやってくれたのだ。

 

「な、何を笑っているんですか?」

 

 そんな事を思い出していると風鳴さんが恥ずかしそうにこちらを睨んでくる。

 

「いや、風鳴さんの奮闘を思い出してね。コロコロ瞬殺事件とか」

「わ、忘れてくださいっ! い、今ではちゃんと考えてコロコロを使っています!」

「それが普通だっての」

「翼さん、本当に家事苦手なんですね」

「ううっ、これでも一人暮らしは長いのに……」

 

 シュンとしょげる風鳴さんは可愛いけど、一言だけ言わせて欲しい。

 

「あのね風鳴さん。一人暮らしって言うのは緒川さんにも頼らずに生きる事なんだよ?」

「うっ!」

「ですよねぇ」

「掃除に洗濯、どんだけ甘えてるか分かったか先輩」

「くっ、認めたくないがその通りだ。私は一人暮らしをしているつもりで緒川さんにおんぶにだっこだったと」

「まぁ、そんな風鳴さんも可愛いけどね」

「かわっ!? そ、そうでしょうか?」

「俺は気にならないよ。正直稼いできてくれる奥さんや彼女なら、俺が家事やって支えるのが筋だしさ」

 

 それに風鳴さんはなんだかんだで女の子というか女性らしい。

 それに俺が思っていたよりもよく笑うし、やはり音楽に関心が強いらしくこの世界の流行やアニソンなどへも興味を示していた。

 つい昨日なども給料が入ったから四人でカラオケに行き、俺が歌う特撮ソングを一緒になって歌ったのだ。

 

 いや、やっぱ鎧武のOPはいいな。三人も本編映像に興味持ってくれたし、これを機に彼女達へ布教を……なんて思ってそこから立て続けにライダーソングやウルトラソングを聞かせてしまったのだ。

 まぁ、そちらも思ったよりも好評だった。特に響は分かり易い歌詞のウルトラソングに盛り上がってくれた。あとは夢のヒーローだろうか。グリッドマン映ったから雪音さんや風鳴さんもテンション上げてくれたし。

 

「むっ、只野さん、今は大事な話の途中ですよ!」

「ごめんごめん」

 

 響に注意されたので素直に謝る。今は引っ越しに関して話さないといけないもんな。

 

「でも、正直これ以上の条件は厳しいんだ。部屋の広さを求めると家賃は当然上がる。で、それを下げようとすると店への通勤が辛い」

「なら、私達のお給料もありますしもう少しいい場所へ」

「響、気持ちは嬉しいけどそれはずっとじゃない。そうなった時、俺が一人でも暮らしていけるように考えないといけないんだ」

「っ……」

 

 俺がそう告げると響が辛そうな表情を見せた。本当に優しい子だ。

 たしかに今は二人の給料と風鳴さんの動画による収入が見込めるから財政は上向いた。

 ただ、それは一時的なもの。この事件を解決すれば彼女達はいなくなる。

 俺はその後もここで生きていかないといけない。だからオーナーからの店長就任要請を受けるかどうか悩んでいるんだ。

 もし受ければ俺は夕方から早朝まで最悪週六勤務となる。というか、ほぼほぼそうなるだろう。

 今なら響と雪音さんがいてくれるから夕方は免除になるだろうけど。

 

「な、ならそうなった時にここへ戻ってくればいいだろ」

「雪音さん、それは俺も考えた。でも、ここだっていつまであるか分からない。見て分かる通り、かなり古いからね。実際取り壊しになってもおかしくないんだよ」

「雪音、立花も聞いてくれ。只野さんはこれまで一人で生きてきて、その辛さと苦しさを知っている。この人なりの考えがあって私達へ話をしてくれているんだ」

「翼さん……でも……」

「情けねぇ……。ホントにこっちじゃあたしらはただの小娘だ……」

「二人共……ありがとう」

 

 悔しそうな、悲しそうな、そんな顔をする響と雪音さんに心が熱くなる。

 ほんの半月弱の生活だけど、二人は俺の事を本気で心配し慕ってもくれてると分かる。

 

「ですが只野さん、私も先程のやり方でしか無理なら考えがあります」

「え?」

「押入れで寝るのは私が引き受けます」

「いやいやっ! 女性にそんな事は!」

「それと同じ気持ちを私達は貴方の言葉に抱いたのです。分かって、いただけませんか?」

 

 そうこられると弱い。でも、さすがに四畳半でノートPCだのを置いて大人四人で寝るのは辛い。

 

「あ、あの、四畳半だと大体ここから……ここまでぐらいです、よね?」

「え? そう、だな」

 

 響が立ち上がって体を使って四畳半を示す。

 

「なら、クリスちゃんと翼さんに一緒に寝てもらって」

「却下」

「まだ何も言ってないのにっ!?」

 

 いや、言わなくても分かるよ。見れば雪音さんも俺と同じ顔をしてる。

 

「あのなぁ、お前がバカなのは知ってるが、あたしが前に言った事忘れたのかよ?」

「覚えてるけど、このままじゃお金がかかり過ぎちゃうもん。今だとシャワーだけで一日九百円だよ?」

「「「うっ……」」」

 

 響の告げた現実が俺達の胸を突き刺す。そう、シャワーがある部屋へ引っ越すのは実は家賃以上にプラスがあるのも大きいのだ。

 

「私なら只野さんと同じお布団でも平気だから!」

「いやいや、俺が怖いんだって」

「だよなぁ」

「立花は無意識に雪音を抱き締めているからな」

 

 そうなのだ。響はよく寝ている雪音さんを抱き締めている事がある。あれを俺にやられたら正直色々自信がない。

 何せこの状況になってから、俺は所謂性欲処理が出来ていないに等しいのだ。

 俺がバイト休みで響と雪音さんがバイトでも風鳴さんはいる訳だ。なら三人が動く朝はと言うと、俺の体力がそこまでもたない。

 

「分かった。なら俺はDKで寝るよ。テーブルは今みたいに畳んで置けば寝るぐらいのスペースはあるから」

「ホントか?」

「ああ」

「信じて良いのですね?」

「もちろん」

「……只野さんのニブチン」

「はい?」

 

 こうして俺達は引っ越しを決め、新居への荷物の移動を始める事に。

 一か月分とはいえ二ヶ所の家賃を支払うのは厳しいが、まず三人だけ新居の方へ移動してもらい寝泊りをそちらでしてもらう事にしたのだ。

 

 ……おかげで性欲処理が出来るからな。

 

 そして、今の俺達には一つ大きな利点がある……と言えるのかな?

 

「冷蔵庫を少し大きめのにしましょう」

「だな。先輩、報告ついでに買い物してきてもらっていいか?」

「任せてくれ。洗濯機も買ってこよう」

 

 新居へ初めて訪れた際の会話である。

 ゲートとなっているノートPCを使った家電の世界間輸送だ。風鳴さん曰く稼いでいるので心配いらないとの事。

 本気で自分の情けなさで辛くなった。ちなみに小さい冷蔵庫も捨てずに取っておく事にした。まぁ、俺が一人に戻った時はこれでいいからな。

 

 それと、新居で初めて過ごす事になった日の夜、俺は三人へあの予想を話した。

 あの時は風鳴さんの登場とそれに付随した色々ですっかり忘れていたのだ。

 ただ、今まで思い出さなかったのもどうかと我ながら思う。

 疲れてるのかな? 最近歳のせいか物忘れも増えてきたんだよなぁ。

 一番直近だとベアトリーチェの傍付きみたいな眼鏡の名前を忘れたし、歳は取りたくないもんだ。

 

「えっと、実は俺なりにこの状況を考えてみたんだけど……」

 

 この状況はベアトリーチェの中にすくっていた悪意が引き起こしたものじゃないかというそれに、三人は驚くのではなく納得するような表情を見せていた。

 

「ベルちゃんが……」

「響……」

 

 が、当然響がそれに沈んだ表情を見せた。彼女は最後までベアトリーチェと手を繋ごうとしていたから当然だろう。

 だからこそ、俺は伝えなければいけない。ちょっとズルいだろうけど、俺の存在にある一つの事実を使って俺は嘘を真実として響へ思い込ませるんだ。

 

「響、よく聞くんだ」

「只野さん……」

「この状況を引き起こしたのはベアトリーチェであってベアトリーチェじゃない」

「「「え?」」」

「彼女は最期に言ったはずだ。もうベアトリーチェの魂もフィーネの魂さえも塗り潰されたと」

「……はい」

「つまり、この状況は彼女を歪めた悪意が引き起こしているんだ。そして、ベアトリーチェは最期の最後までそれに抗って消えたんだ」

「っ!? ど、どういう事ですか!?」

 

 食いついた。ごめん響。これは真実じゃない。だけど、君が強くあれるためには俺はこの嘘を真実だとばかりに言い切ってみせる。

 

「考えてみてくれ。ベアトリーチェは世界蛇を使って平行世界を滅ぼそうとしていた。その途中で君達と出会い、付け狙うようになった」

「は、はい」

「だけど、本来なら邪魔者の君達を最後に回して、先に障害のない世界を全て滅ぼしてからでもいいはずだ。むしろ確実性を取るならそうだろう?」

「たしかにな。わざわざ面倒なあたしらを相手にする必要はねぇ」

「それこそが悪意に塗り潰されながらもベアトリーチェという少女が抗った結果なんだ」

「……そうか。逆転不可能の状況になる前に挑ませる」

「で、でも、ベルちゃんは私に悪意の種を」

「響、ベアトリーチェは幼い女の子だったんだ。そんな子が幾多もの平行世界を潰して取り込んだ悪意へ完全に抗える訳はない。だから、彼女に出来たのはほんの僅かな、悪意の望む方向での些細な抵抗だったんだよ」

「悪意が望む方向での、些細な抵抗……」

「本来であれば殺せるはずの立花を敢えてじわじわと侵蝕する。それは希望を最後まで残す事、か……」

「そう言われると納得出来なくもないけどよ……」

 

 腑に落ちないって感じの顔の雪音さんだけど、まったく信じてないって訳じゃないらしい。

 これが俺がみんなの事を知っていると言う事実がもたらす効果だ。つまり、三人は俺が曖昧な言葉や表現を避ける事であたかもそれが真実であったように感じてくれるのだ。

 

「響、あの最期の言葉はベアトリーチェの言葉じゃない。悪意の残した言葉なんだ。そして忘れないで欲しい。君の世界のフィーネが、櫻井了子さんが残した言葉を」

「私の世界の了子さんが……」

 

 そこで俺と響の目が合う。そして同時に頷いた。

 

「「胸の歌を信じなさい」」

 

 もう響に沈んだ様子はない。なら、最後の確認だけしておこう。

 

「君の胸の歌はこんな事を引き起こすのがベアトリーチェだと叫んでいるか?」

「……いえ」

「あんな言葉を残すのがベアトリーチェだと叫んでいるか?」

「いえ」

「君達が出会った時のベルと名乗った姿こそ、きっと本当の彼女だった。違うか?」

「いえっ! 私も、私もそう思いますっ!」

 

 力強い表情で答える響に俺は安心した。これで大丈夫だろう。

 

「只野さん、私達は今の話を司令に報告してきます」

「あいつに巣食ってた悪意ってなると、ちょっと事情が変わってくるしな」

「分かった。気を付けて」

 

 風鳴さんと雪音さんが立ち上がってギアを纏う。

 

「只野さん、その、私も行ってきます」

「うん。忘れ物はない?」

「はい」

 

 そう言って響は胸を、多分かつてあのf型の痕があった場所を触った。

 

「そっか。なら、鍵は閉めておくよ。もし必要になったら明日の朝悪いけどあの部屋まで取りに来て」

「はいっ!」

 

 こうして俺は三人を見送って新居を後にした。ドアの鍵を閉め、見慣れぬ道を歩いていく。

 途中で一旦止まって振り返る。電気が消えたままなのでまだ帰ってきてはないらしい。

 

「……何だろうな。たったこれだけで一人ぼっちが寂しくなるもんだな、人って」

 

 折角色々と解消出来るとテンションが上がるはずだったのに、今の俺にはそれよりも彼女達がいない方が辛いらしい。

 そんな事を思いながら俺は住み慣れた部屋へと戻る。夜道を一人、静かに歩きながら……。




奈々様本人?! 期待の新人歌い手現るっ!?

まぁ、きっとこんな感じの煽り文句に翼の歌っている姿がサムネイルでしょう。
それはともかく、奈々さんが歌う甲賀忍法帳、聞いてみたいなぁ。
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