「にしても、本当に素敵な家ね!」
「気に入ってくれたのなら良かったよ」
ノーツがルーシィに勧めたのは、彼女が今の家を建てる前に住んでいた家である。レンガ造りの暖炉や竈がついて家賃7万J。間取りも広くて商店街も近い。大家さんが少し怖いが、家賃さえ払えば彼女も何も言わないので、実質問題は無いだろう。
いい家紹介して貰っちゃった、なんてはしゃいでいるルーシィは一目でこの家を気に入ったらしい。正直ここまで好条件の物件のため部屋が空いているか不安ではあったが、ノーツが退居して以来数年、誰も入居していないらしい。
それからは荷物を移して家具を買いつけて、とそれなりに忙しく過ごしたが、作業を始めて四日目にはすっかり引越しも終わり、五日目には人が住めるくらいに家の中の整理をすることが出来た。
引越し作業が終わってから、ルーシィはノーツにひたすら礼を言っている。
ギルドに早いうちに馴染めたのはメンバーの気質もあるだろうが、ノーツの存在が大きかった。家を紹介してくれて、頼めばルーシィ好みのデザインの食器や家具を作ってくれたり、一緒に買い物に行って街をいろいろ案内してくれたり、家具たちとは別に新居祝いだって貰ってしまった。善意で数日間自分にとことん付き合ってくれたノーツに、ルーシィは感謝しか出来なかった。
この数日で二人はすっかり打ち解けて仲良くなっていた。ノーツの方がルーシィよりも一つ年上で、彼女の面倒見のいい真面目な性格もあって親友と言うよりも姉妹といった関係の方が近いかもしれないと、それ程までに親しい間柄になっていた。
そもそも、ルーシィからしてみれば貴重なギルド内の常識人である。仲良くなるのに長い時間は必要なかった。
「ほんっとーにありがとね、ノーツ!!色々とお世話になっちゃった」
「気にしないで。また何かあればいつでも頼っておくれ」
「~~~っ!ほんっとにありがとう!!いつでも遊びに来て!」
「ああ、勿論。ウチにもまた遊びにおいで」
「もちろんよ!」
そう言うと、ノーツはギルドに行くからと言って手を振ってから歩きだした。ルーシィはそんなノーツを見送ってから、一つ伸びをした。ようやく引越しも終わったし、今日は一日のんびりしようと彼女も家に入っていった
──────
「んー……」
所かわってギルド内のリクエストボード前。ルーシィと別れたノーツはいくつかの依頼書を見比べてしばらく迷ったあと、そのうちの二枚を取ってバーカウンターへと歩いていく。今日の目当ては食事ではなく仕事なので、ミラに軽く手を振りながら前を素通りする
「マスター、この仕事受けるよ」
「ん?おお、これか。わかった、気ぃつけて行ってこい!」
「うん。行ってきます。」
昼間から杖を片手に酒を飲むマスターに声をかけ、依頼書を受理してもらう。
久しぶりの仕事だ……!と伸びて気合い入れをしていると、横からひょっこりと黒髪の変態が顔を出した。
「ん、ノーツ仕事行くのか?」
「そうだよ変態。朝から脱ぐな、服を着ろ」
「うお!」
言われて気づいたのか自分の体を見て驚いている変態──グレイにため息をひとつ。何故、彼は服を着ていないのに自分の荷物だけはしっかりと握っているのか。
グレイは自分で脱ぎ散らかした服を拾い集めて着直すと、律儀にも戻ってくるのを待っていたノーツの持つ依頼書を指さして一言
「俺も着いてっていいか?」
「いいよ。早いうちに列車に乗りたいからもう出るけど、大丈夫かい?」
「おう」
許可しなくても着いてくるのは知っている、と間を置かずに彼の言葉に答えたノーツは少し伸び上がってミラに「行ってくるね」と手を上げたあと、くるりと踵を返して歩き出した。
行き先を聞かずについて行く宣言をするグレイと、それに疑問を抱いていない様子のノーツ。さっさと踵を返して外へと歩いていくノーツとそれを少し慌てて追いかけるグレイ、というなんとなく微笑ましい構図は、ギルドの面々からすれば見慣れたものである。
「あいつら、相変わらず仲良いよなあ」
「グレイもいつまでノーツの金魚のフンやる気なのかねえ」
「姉離れできねえ弟かっての」
「あ、ほんとそんな感じだな。……シスコンってか?」
彼が聞いていたら氷漬けにでもされそうな言い様であったが、幸い本人はもうギルドを出ている。ガハハと笑うメンバーのいる酒場は、相も変わらず賑やかだ。
後ろでギルドの面々に笑われているとはつゆ知らず、グレイはノーツの隣を歩く。
ノーツは元の背が高く、履いているブーツにそこそこの高さのヒールがついていることもあって、普通に立つとグレイと目線が近い。この少女に長い間対抗心を燃やし続けている彼としてみればもう少し差を広げたいところである。
彼自身、金魚のフンとは言われるくらいには同い年のこの少女について回っている自覚はある。
元々それは前記の通り、彼女への対抗心からの行動だった。自分がギルドに加入した頃から既に優秀な魔導士として居た同い年の少女に、少年が負けたくないと思うのは自然な事だろう。魔法の技量にしても、身長のことにしても。
喧嘩を売る事も少なくなってなんやかんや落ち着いたのにも関わらず、グレイが未だにノーツについて回るのをやめないのは、彼女といる事がすっかり“いつものこと”になってしまったからなのだが。
閑話休題
程なくして駅から列車に乗り込んで席を確保すると、グレイが依頼書を見ながら口を開いた
「そういやここ何日かギルドで見なかったけどどうしたんだ?遠方から指名でも入ってたのか?」
「いや?ルーシィ……新人ちゃんの引越しの手伝いをしてたんだ」
「ああ、また世話焼き発動したのか」
「……まあ、そうだね」
依頼書を読むようにとグレイに押し付けてからは車窓の縁に肘をついて外を眺めていたノーツが視線をグレイにやる。読み終わったかと尋ねると応と返事が返ってきた。
「ハスの街周辺に出没する山賊退治と、近辺の林道の整備……とりあえずハスの街まで列車で移動か?」
「そうだね。その後は依頼人二組と顔合わせして……依頼自体は別々でやろうか。その方が効率がいい」
「おう。俺が山賊退治でノーツが林道の整備だな」
「早く終わった方がもう片方の手伝いに入ることにしようか。……あまり物を壊さないでおくれよ?アジトがどこにあるか知らないけれど、壊れた道路とか建物とか直すのは私だから。あと、くれぐれも街中で脱がないように」
「流石にやらねぇよ」
「前科持ちが何を言うか。この間もマスターに言われていただろう、人さまの下着を盗るなんて論外だぞ」
「……へーへー」
分かっているのかいないのか……前者だと期待しておこう。脱ぎ始めたら即殴ればよし。脱ぎ癖があるのはよく知っているが、許容するかどうかは別である。
「そういえば確認せずに連れてきて今更だが、今回は日も跨ぐことになるけれど大丈夫かい?二人だからあまり長期にはならないだろうけれど……元々今日は街に泊まって、明日から動こうと思っていたんだ」
「ああ、別にかまわねぇよ。んじゃ、着いたらまずは宿取るか」
連れてきたというよりも着いてきたというのが正しい。だが、二人ともそれについては触れずに話は進んでいく。
グレイは最初からついて行く気だったし、ノーツも依頼書を選んだ時からグレイが着いてくるのを見越していた。仕事を選んでいる時にお互いがギルドにいれば一緒に仕事に行くことは、二人にとっていつもの事なのである。
そんな訳でグレイはいつでも仕事用に荷物をまとめているし、ノーツもそれを知っている。先程のやり取りも、もはや形だけとなった確認作業である。
「そうだね。今からなら向こうにつくのは昼頃になるだろうし、依頼人と会ったら情報収集がてら少し街を観光してまわろうか。」
「お、いいな!ハスの街って言えば、確か酒が有名だったよな?」
「そうそう、果実酒が特に有名だね。酒好きとしては一応行っておきたい街のひとつだったんだけど……誰かさんが次から次へとものを壊すせいでなかなか暇がなくてね、実際行くのは初めてだよ」
相変わらずの遠い目をして窓の外を眺めるノーツ。ギルド内の誰かさんが壊したものを直すのも、もちろん彼女の仕事である。
哀れなものを見る目で見てくるグレイを、君もその
──────
「だあーー!!!やっと終わったぜ……あのじいさん、話くっそ長かったな……」
「言いたいことは分かるけど……声が大きいよ、グレイ。」
グチグチと不満をこぼし続けるグレイとそれに苦笑を漏らすノーツ。二人が歩くのは今回の目的地であったハスの街である。
澄んだ川と青々とした木々が特徴の自然豊かな街で、豊かな水と土壌に恵まれた果実酒の名産地である。
「にしても、山賊退治の依頼が出てるってえのに賑やかなもんだなあ。」
「ああ、それは私たちと同じように列車でくる客が多いからだろうよ。山賊達は山道を通る馬車しか襲わないって話だし。
果実酒の名産地なだけあってこの街は酒場が多いらしくてね。わざわざ酒を飲みに遠方からここまで来る人もいるくらいで、昼間から酒呑んで騒ぐ陽気な酔っぱらいも多いからいつでも賑やかなんだってさ」
宿の女将に貰った簡易マップを見ながら答えるノーツに、まるで
「そんで、今はどこに向かってるんだ?」
「女将のイチオシだっていう酒屋だよ。なんでも果実酒はそこのが一番美味しいらしくてね」
お店自体も素敵らしいよ、と隣を歩くグレイを見て続けるノーツ。グレイもまた酒は好きな方なので、楽しみにしておくぜ、とニヤリと笑った
しばらく行くと、ノーツは大通りから少し逸れた立派な造りの酒屋の前で立ち止まった。一見するとアンティークの雑貨でも扱っていそうな洒落た店だが、表の看板には果実酒だろうか、酒の入ったグラスが色鮮やかに描かれている。
「確かにいい雰囲気の店だな。」
「そうだね。ここで立ってるのも邪魔だろうし、早速入ってみようか」
僅かに目を輝かせた、いつもよりも少しばかり落ち着きのないノーツが扉を開くと、カランコロンと涼やかな音が鳴って二人の入店を伝えた。カウンターの中に座っていたブロンドの男性が顔を上げて二人の姿を見ると、彼は穏やかに笑って座っていた椅子から立ち上がった。
店内を見回すと、木製の棚には凝った装飾の酒瓶が納まっていて、店主のいたカウンターの後ろにも色とりどりの果実酒が並び、それぞれが店内の照明に照らされて柔らかく光っている。
「いらっしゃいませ。なにかお探しでしょうか?」
店内を見回す姿をなにか探していると捉えた店主らしき男性が二人に声をかける。思わず内装に見入っていたグレイをよそにノーツがその問いに答えた。
「いえ、特に何を探している訳でもないのですが……
今回初めてこの街に来まして。このお店の果実酒がいちばん美味いと勧められたのですが、買っていこうにも知識がなくて……なにかおすすめのものを教えて頂けると」
「う~ん、どれも当店自慢の果実酒ですが……そうですね、若い女性に人気なのはこの辺りでしょうか」
早速話し出す二人を見てから、グレイは店の中を歩き回る。果物だけでなく花やその蜜を使った酒も置いてあり、酒だけでなく一部にはジュースも置いてあった。
中には聞いたことも無い花や果物の酒もあり、なかなか楽しみながら店内に並ぶ品々を眺めていた。
「それじゃあイチジクとハチミツを一本ずつにサクラを二本と……オリジナルを三本お願いします」
「かしこまりました。」
どれだけの間それらに見入っていたのか、いつの間にか話は終わっていたようで、グレイが戻る頃には店主が並べた酒を箱に入れいていた。店主は酒を入れる手を止めずにちらりと視線をグレイに向けると再度ノーツに話しかけた。
「お二人はご旅行か何かで?」
「いえ、仕事です。最近この辺りに出没する山賊の退治と荒らされた林道の整備の依頼を受けて来ました。」
「なんと、魔導師さんでしたか!助かります……最近は彼らのせいで街の外へ酒を送ることが出来なくて、どの店も外からの発注を受けられずに困っていたんです」
穏やかな表情を少し曇らせて話す店主に疑問を覚えたグレイが改めて彼に向き合って口を開く
「貨物列車使えばよかったんじゃねえか?近くに駅もあるし、山賊は馬車しか襲わねぇっていうじゃねえか。酒場の客もオレたちも列車で来れてるし、安全に輸送できる手段だと思うが」
「!!」
「おいマジか!?“気付かなかった”みてえな顔すんな!!」
グレイの言葉を聞き、先程までの穏やかさは何処へやら。店主は目と口を大きく開いて顔全体で盲点だったと表している。かと思えば、店主は早々にノーツが頼んだ酒を全て箱に入れて会計作業を済ませると、グレイの手を取って礼を言った
「ありがとうございます魔導師さん!私は酒屋の皆さんに早速このことを伝えに行ってきます!!
ルーファス!私は少し店を開けるから店番を頼んだよ!!!」
カウンター内にある扉を開けて奥に叫ぶと、彼はカウンターから出て店の正面の扉から飛び出した。その背中を呆然と見送ると、グレイが後ろ頭を掻きながら口を開く
「オレたちが山賊退治に来たから、もうその必要も無くなるんだがなあ……」
「…………店番の人が出てくるまでは待っていようか」
「……そうだな」
二人が酒の入った箱を足元に置いたまましばらくその場で待っていると、先程の扉の奥からパタパタと足音が近づいてきた。カチャリと音がして扉が開くとそこからは先程の店主によく似たブロンドの少年が出てきた
「まったく……父さんはいつも急なんだから」
ため息をつきながら言う少年は、顔を上げて二人を見るとお客がいたことに驚いたのか一瞬目を大きくした後、すぐさまにっこりと笑っていらっしゃいませ、と言った。その表情も先程の店主とよく似ており、親子だろうと優にに想像が出来る。
「すみません、今は父……店主は留守でして。お探しのものがありましたら僕がお手伝いします。」
「いや、買い物はもう終わったんだ。店主さんが出ていってしまったから、代わりの人が来るまで待っていようと思って」
すると少年は申し訳なさそうな顔になって頭を下げた
「父がご迷惑をおかけしたようで申し訳ないです。それと、店をありがとうございました。お待たせしてすみません」
「ただ立ってただけだから気にすんな。むしろ悪ぃな、オレが余計なこと言ったみたいで」
グレイの言葉を聞いて不思議そうにこちらを見る少年に、ノーツは一通りの出来事を説明した。少年も貨物列車のくだりで“盲点だった”というような顔をしたので、ノーツは再度この親子は似ていると感じた。
加えて自分たちが山賊を退治しに来たことも話すと、少年はまたもや父への呆れのため息をこぼした。
「本当、人の話を聞いているんだかいないんだか……」
「店主さんが戻ってきた時に君からも伝えておいてもらえると助かるよ」
「はい、もちろんです。本当にありがとうございました」
頭を下げて再度感謝を告げる少年に、そんなに畏まらなくても、と苦笑する二人。
「つかぬ事をお伺いしますが、お二人は魔導士なんですよね?」
「ああ、フェアリーテイルの魔導士だ」
「フェアリーテイル……この国でも随一の魔道士ギルドだと記憶していますが」
「その辺は分からないけど……まあ、確かに物壊すことにかけたら随一のギルドだね」
遠い目をして自ら傷を抉りに行くノーツは気にとめず、少年は輝く瞳で二人を見つめる
「僕も将来は魔道士になりたいと思っているんです!もしよろしければ、お仕事のお話を聞かせていただけませんか……?」
顔を見合わせてぱちくりと瞬きをするノーツとグレイ。一拍おいてグレイが楽しそうにニヤリと笑う。ノーツも心なしか嬉しそうだ
「ああ、いいぜ!一人で店番してるだけってのもつまらねえだろうしな」
「うん、私も構わないよ。色々話そうか」
楽しそうにカウンター越しに話す三人。ノーツは彼とこの間のロメオを重ねて、年頃の男の子はやはり魔導士の仕事の話を聞くのが好きなようだと薄く微笑んだ。
結局店を閉める時間になっても彼の父は帰ってこなかった。閉店作業まですませると、話のお礼に街の案内がてら宿まで送っていくと言う少年の言葉に、二人は首を横に振った。
もうすぐ日が落ちて暗くなる。子供を一人で歩かせる訳にはいかないという理由だったが、少年は自分も魔法を使えるから自衛くらいなら出来ると頑として譲らず、結局帰りは人通りが多く明るいところを通って帰るという約束でノーツ達が折れた。
「今日は本当にありがとう!まさか魔法の練習まで見てもらえるなんて……」
「こちらこそ。私としても同じような魔法を使う人に会うのは初めてだったからね、いい勉強になったよ」
少年──ルーファスは記憶の造形魔法の使い手で、なんでも見た事のある魔法を元に自ら魔法を作り出せるのだという。物の構造を知っていれば基本的になんでも作れる錬成魔法の使い手のノーツ、氷の造形魔法の使い手のグレイ。この二人とはなかなかに魔法の相性がよく、店の中で軽くルーファスの魔法の練習をみていたのである。もちろん酒瓶の納まった棚の近くにはグレイが壁を造形したため、売り物には傷一つ付けていない
「にしてもルーファス、お前すげえな。あんな魔法その歳で使いこなすなんて」
「いえ、まだまだ練習不足で……瞬時に想像が固まらないし、想像が不完全だと先程のように魔力が暴発してしまうんだ」
「慣れ、というのもあるからね。少しずつ練習していけばもっと強力な魔法も発動できるようになるさ」
ぽんとノーツが軽く頭を撫でると、ルーファスは嬉しそうに笑った。この短時間ですっかり打ち解け、最初の頃は接客用に使っていた敬語もいつしか抜けていた。
「あ、あの店の果物はどれも鮮度がよくておすすめだよ。ウチの果実酒の材料はだいたいあの店で仕入れているんだ」
「そっちの店はワインが美味しいよ。僕はまだそのものを飲んだことは無いけれど、ここの赤ワインで作ったりんごのコンポートはとてもおいしいんだ」
などなど……
街の案内も張り切ってしてくれるルーファス。ノーツはそれらをガイドマップに書き加えては頷くことを繰り返す。が、ここでひとつ問題が起きた。
「それでこっちが……って!グレイさん!?なんで脱いでるんだい!?」
そう、ノーツがグレイの様子を見るのをすっかり忘れていたのである。ルーファスの説明に気を向けていたのに加え、今日は一度も脱ぎだす素振りを見なかったために完全に油断していた。
往来のど真ん中、いつの間にか自分の知り合いが上裸になれば誰でも驚くだろう。ルーファスが声を上げてからその事に気がついたノーツは見知らぬ街を案内されて浮ついていた気分が一気に冷えきり、気のせいか僅かに冷気を纏うと迷わず手刀をグレイの脳天に叩き込んだ。
「いっ……!」
「拳骨じゃないだけありがたく思ってくれ。ほら、さっさと服を集めてこい」
あまりに淡々とした返しに周りが呆気に取られているうちに、ノーツはさっさとルーファスの手を取って宿への道を進んでいく。
ルーファスの記憶に、グレイには脱ぎ癖が有るということとノーツを怒らせてはならないということが刻まれた。