魔法の世界で錬金術を   作:紅茶烈伝

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帰還と出発

 

 グレイとの仕事を終えて帰ってきた翌日、ノーツはハスの街で買った酒を数本入れた木箱を持ってギルドを訪れていた。珍しく静まり返ったギルドを不思議に思いながらも開かれた大扉からひょっこりと顔を出して中を覗くと、何やら見慣れない物が視界に映る。

 

 

「おはよ……う?」

 

 ギルドに入ると、通路のど真ん中に装飾された魔物のものと思われる巨大な角がそびえ立っていた。思わず眉間に僅かに皺を寄せた状態で絶句し、抱えていた木箱を落としてしまったが、それは角の向こうから飛んできたハッピーに拾われた。

 

「おはようノーツぅ!さっきエルザが帰ってきたんだ!!」

「お、はようハッピー。ああ、だからこの時間なのにギルドが静かだったのか……」

 

 酒の入った木箱をノーツの足元に置いたハッピーは状況を説明しながら彼女にしがみついた。それと同時に、角の横に立っていた緋色がぱっと振り返る。

 ハッピーを受け止めたノーツはと言うと、ため息をつきながらも片手でハッピーの頭を撫で、もう片方の手をひらひらと振った

 

 

「おお、ノーツか」

 

 きっとまた緋色の彼女──エルザが連中にお小言を言ったのだろうと思えば、ギルドの静かさにも納得出来る。

 

 再度木箱を持ち上げようと屈むと、それに合わせてハッピーはノーツの頭にポスンと乗った。そこそこ大きい猫が頭に乗って重くないわけでは無いが……そこはまあ、慣れである。ハッピーを頭に乗せたまま、彼女は難なく立ち上がった。

 

 

「おかえり、エルザ。大きな怪我もなさそうで安心したよ」

「ああ、ただいま。お前も元気そうで何よりだ」

 

 エルザの方へと歩きながら話しかけると、振り返った彼女は柔らかく笑ってそれに応じた。

 ちなみに、ハッピーは未だノーツの頭の上にいる。先程の一連の流れは久しぶりに帰ってきた彼女を迎える際の恒例のやり取りである。ハッピーは心底エルザを怖がっているわけではないし、エルザもそれを知っているため怒りはしない。ノーツも呆れながらも毎度それに付き合うのだ。

 

 

閑話休題

 

 

 

 肩を組んだナツとグレイや静まり返るギルド内はそのままに、エルザと和やかに話し始めるノーツ。その様を見て目を剥くルーシィ。

 そんなに怯える必要も無いのに、と周囲のメンバーに思いながらも互いに近況報告をして、その後にそういえばとエルザが話を切り出した。

 

「実はお前に頼みがあるんだ」

「ん、珍しいね。仕事のお誘いかい?」

「ああ、そんなところだ。ノーツと……ナツにグレイ、お前たちの力を貸してほしい。ついてきてくれるな」

 

 

 エルザの放った言葉に急にどうしたんだと周りがざわつく。ノーツはがっしり肩を組んでいたナツとグレイが息ピッタリに驚きの声をあげるのを聞きながら、目で何かあったのかとエルザに尋ねる。それを見て一つ頷いた彼女は再度口を開いた。

 

「仕事先で少々やっかいな話を耳にしてしまった。本来はマスターの判断を仰ぐところだが、早期解決が望ましいと私は判断した」

「そうか……。まあ、私にできることがあるなら手伝うよ」

 

 エルザの言葉に頷くノーツとは反対に、ナツとグレイは見るからに不満そう、というか弱々しく文句を言っている。

 それが聞こえているのかいないのか、はたまた聞こえないフリをしているのか、エルザは「出発は明日の朝だ、準備しておけ。詳しくは移動中に話す。」とそれだけ言うとくるりと踵を返して歩き出した。

 

 そのまま巨大な角の横を通り過ぎて大扉へと向かうエルザに待ったをかけたのはノーツだった。

 

「待って、エルザ」

「む、なんだ?」

 

 なんだと振り返るエルザを真っ直ぐに見つめたノーツは、巨大な角を指さして言った。

 

「これ、置いて帰られると困るんだけど」

 

 

 誰も言えなかったことをはっきりと言ってのけたノーツに、場の空気が固まった。多くがエルザの顔色を伺い、ナツとグレイは普段の仲の悪さを引っ込めて抱き合っている。

 

 

「……迷惑か?」

「うーん、綺麗だとは思うけれど……乱闘にでも巻き込まれたら確実にギルドを壊すだろうし、この角自体も壊れてしまうかもしれないからね……出来れば置いておいてほしくはないかな」

「そうか……そうだな、ギルドを壊すのは私とて本意ではない。」

 

 怒らなかった、とほっと息をつく面々にノーツはまた呆れた。彼女の沸点はそこまで低くないだろう、と。

 少し肩を落として角を持って帰っていくエルザを見て申し訳なく思うが、角によって引き起こされる惨劇とその修理に駆け回る自分が安易に想像できたため、言葉を撤回することはなかった。

 

 

「エルザとノーツにナツとグレイ……」

「え?」

「今までに想像したこともなかったけど…………これって、フェアリーテイル最強チームかもしれない」

「ええっ!?」

 

 出入口でエルザを見送っていたノーツにミラの声が聞こえることはなく、振り返った時に目に入ったルーシィの唖然とした表情に首を傾げるのだった。

 

 

「ノーツって、そんなに強かったんだ……」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──翌日、マグノリア駅

 

 

「何でエルザみてーなバケモンがオレたちの力を借りてえんだよ」

「知らねえよ。つーか“助け”ならオレ一人で十分なんだよ」

 

 桜髪と黒髪が至近距離で睨み合っている。この二人、実は仲が良いのではないだろうか、とはその二人の近くにあるベンチに腰掛けているルーシィが思っていることである。

 

 

「じゃあお前一人で行けよ!オレは行きたくねえ!!」

「じゃあ来んなよ!後でエルザに殺されちまえ!!」

「迷惑だからやめなさいっ!!!」

 

 前言撤回、仲がいいわけがなかった。ついに近くの売店まで巻き込んで殴り合いを始めた二人を見たルーシィが重たい腰を上げて怒鳴ると、二人はピタリと動きを止めて彼女の方を見た。

 

「もおっ!アンタたち何でそんなに仲悪いのよ!!」

「…………お前、何しに来たんだ?てかなんでいるんだ?」

「今!?」

 

 あたし結構前からアンタたちの横に居たんですけど……と軽くうなだれるルーシィ。

 ノーツを通して伝えられた集合時間よりもだいぶ早いのにも関わらず二人(と一匹)は既に来ていて、うだうだ言いながらもちゃんと来るんだ……と感心していたその矢先、二人の口喧嘩が始まったわけである。何度か制止を試みたが聞こえていなかったのだろうか……怒鳴るまで存在にすら気づかれていなかったとは思わなかった。

 

 気を取り直してなぜ自分がここに居るか説明しようと再び彼らに向き合ったところで、ナツたちの後ろから見慣れた白緑色が歩いてくるのが見えた。

 

 

「私が誘ったんだよ。エルザから少し話を聞いた感じだと人数は居た方が良さそうだったし、何より私が彼女と一緒に仕事に行ってみたかったから……」

「ノーツ!」

「おはよう。みんな早いね」

 

 眠そうな目をして合流した彼女は、手に持っていた鞄をルーシィに預けるとそのままフラフラとナツたちが壊した売店の方へと歩いていった。……眠そうな目ではなく呆れ果てた目だったのかもしれない。目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、表情の変化がほぼ無いノーツも、慣れてくると目を見れば大まかな感情は読み取れる。

 

「ウチの馬鹿どもがすみません。今直しますね」

「おおノーツちゃんか、助かるよ。喧嘩はいいけど店壊されちゃたまんねえ」

「毎度ご迷惑おかけしてすみません」

「いいんだよ、壊れてもノーツちゃんが直してくれるじゃねえか」

 

 気のいい男でよかったと店を直したノーツがほっと息をついたその時、今度は真後ろからボゴオと火が吹き出す音がした。

 そこにはエルザを前に物理的に燃えあがるナツが居て、彼女は思わずため息をついた。それは相変わらずの大荷物を携えたエルザに対してのものでもあったし、人の多い場所で火をおこしたナツに対したものでもある。

 

 とりあえず消火だとノーツは手を合わせて水を錬成した。

 

 

 

──────────

 

 

 顔面に水をかけられて濡れたナツを引き摺り、列車に乗り込んだ一行は、列車が動き出した瞬間に酔ったナツを空いていた四人席に寝かせ、通路を挟んだ向かい側の四人席に座った。ハッピーはしばらく気持ち悪そうに呻くナツを眺めていたが、結局はナツの近くの座席ではなくノーツの膝の上に腰を下ろした。

 

「なっさけねえなぁ、ナツはよォ……」

「毎度のことだけど辛そうね……」

「まあ、どうせ止まればすぐに元気になるんだから、ナツは一旦放っておこう」

 

 隣の座席を見て眉を顰めるグレイと心配そうにするルーシィ。ノーツはバッサリと言い切ると車窓の縁に肘をついて外に視線を向けた。彼女は先程の売店の件からずっと不機嫌である。冷えた彼女の雰囲気に原因の一人であるグレイの背筋が伸びた。

 そんな微妙な空気を何とかしようと、ルーシィが話を切り出した。

 

 

「そ、そういやあたし……フェアリーテイルでナツとノーツ以外の魔法見たことないかも……」

 

 スっとノーツの目線がルーシィに向き、気を使わせてしまったようだと彼女はため息と共に怒りを散らした。それにグレイがほっとすると、再度ルーシィが口を開いた。

 

「エルザさんはどんな魔法を使うんですか?」

「エルザでいい」

「エルザの魔法はキレイだよ。血がいっぱい出るんだ!相手の」

「それってキレイなの……?」

 

 笑顔で話すハッピーに微妙な顔をするルーシィ。それにノーツはゆるりと笑って返答した

 

「いや、エルザの魔法は綺麗だし、かっこいいよ?色んな意味で」

「色んな意味って何よ……」

「たいした事はない……。私はグレイの魔法の方が綺麗だと思うぞ」

「そうか?」

 

 エルザにそう話を振られると、グレイは片手の拳と手のひらを合わせて氷のギルドマークを作り上げ、それを見たルーシィが感嘆の声をあげた。

 

「氷の魔法さ」

「氷って、アンタ似合わないわね」

「ほっとけっての」

 

 すると、ルーシィは無言でグレイとナツの顔を見比べるとぽんと手を叩いた。

 

 

「火と氷……あ!だからアンタたち仲悪いのね!!」

「え、そんな単純な理由で……?」

「そうだったのか?」

 

 しばらくの沈黙

 

「どうでもいいだろ!?そんなこたァ」

 

 冷や汗をかいている。図星なのか、実際のところは知られたくないのかは分からない。

 

「つか、そろそろ本題に入ろうぜエルザ。一体何事なんだ、お前ほどのやつがオレらの力を借りたいなんて。」

「そうだね。あと十分もすれば駅に着くし、私も詳しい話を聞いておきたいな」

 

 そう二人が言うと、エルザはひとつ頷いて事の経緯を話し始めた。

 曰く、仕事の帰りにオニバスの酒場に寄った時に見かけたガラの悪い連中の話の内容が気になったらしい。大声で怒鳴り散らす男たちの話を聞いていると、ララバイの隠し場所がどうだとか封印がこうだとかと話していたらしい。そしてその中の一人が三日以内にララバイを持って帰るとエリゴールに伝えてほしいと言っていたという。

 

 男たちの会話の中に出てきたという言葉、“ララバイ”と“エリゴール”。それを知っているような気がして、ノーツは顎に指を添えてどこで知ったか、どんなものだったかを思い出そうと思考を回しだした。

 

「ララバイ?」

「子守唄……眠りの魔法かなにかかしら」

 

 グレイとルーシィも同じところが引っかかったようで、疑問の声を上げた。

 

「わからない。しかし、封印されているという話を聞くとかなり強力な魔法だと思われる。」

 

「話が見えてこねえなァ……得体の知れねえ魔法の封印を解こうとしてる奴らがいる……。だがそれだけだ。仕事かもしれねえし、なんてこたァねぇ」

「そうだ、私も初めはそう気にかけてはいなかった。“エリゴール”という名を思い出すまではな」

 

 そこでノーツはハッとして顔を上げた。思い出したのだ、エリゴールという男のことを。

 それと同時に列車は止まり、四人と一匹は席を立った。

 

「魔道士ギルド鉄の森(アイゼンヴァルト)のエース、死神エリゴール」

「し、死神!?」

 

 物騒な呼び名にルーシィが震え上がり、ノーツは頷いてエルザの言葉を引き継いだ。

 

「そう、思い出したよ……。暗殺系の依頼ばかりをこなしてついた(あざな)で、本人は風の魔法を使う。……本来、暗殺依頼は評議会が禁止しているんだけれど、彼らは依頼料の高さを選んだ」

「ああ。その結果、六年前に魔道士ギルド連盟を追放……現在は闇ギルドというカテゴリーに分類されている」

 

 「闇ギルドぉ!?」と大量の冷や汗をかくルーシィ。彼女を誘ったのは間違いだったかとノーツは申し訳なくなった。

 

 彼女が事前にエルザから聞いていた話は大人数の中に殴り込むから人手が欲しいといった内容で、それならナツたちに振り回されている彼女のストレス解消になるのではと思い、誘ったのだ。思っていた以上に事が大きくて、新人を連れてくるべきではなかったかと少し後悔した。

 

 

「なるほどねぇ……」

「ちょっと待って!追放……って、処罰はされなかったの!?」

 

 ルーシィの疑問も最もである。評議会の決めた規則を破って殺しの仕事ばかりを受けていたとなれば、処罰もなくギルドとしてやっていけるハズがない。

 

「いや、処罰は勿論されたんだ。当時の鉄の森のマスターは逮捕されて、ギルドは解散命令を出された。」

「それならどうして……!」

「……闇ギルドの大半は、解散命令を無視して活動し続けてるギルドだからね。正規ギルドの頃から評議会の定めた決まりに反してたんだ、解散命令なんて聞くわけがないだろうさ」

 

 ノーツの言葉に身震いをするルーシィをよそに、エルザの方は表情に怒りを溢れさせていた。

 

「不覚だった……あの時エリゴールの名に気づいていれば、全員血祭りにしてやったものを…………!」

「ひいいっ!」

 

 怒りの形相を浮かべるエルザに再度ルーシィが震え上がった。すると、これまで黙って話を聞いていたグレイが口を開いた。

 

「なるほどな。その場にいた連中だけならエルザ一人で何とかなったかもしれねえ。だがギルド丸ごと一つ相手となると……」

「ああ。奴らはララバイなる魔法を入手し、何かを企んでいる。私はこの事実を看過する事はできないと判断した」

 

 その言葉に真剣な顔をして頷くノーツとグレイ。

 

「鉄の森に乗り込むぞ」

「面白そうだな」

「確かに、早いうちに潰した方が良さそうだ」

「……来るんじゃなかった」

「ルーシィ汁出すぎだよ」

「汁って言うな。汗よ汗!」

 

 

 そのまま駅を出て町に出る一行。鉄の森の本拠地を探ろうと町の酒場にでも行こうかと歩を進める中で、突然ルーシィが立ち止まってキョロキョロと辺りを見渡した。

 

「ルーシィ、どうかしたかい?」

「やだ、待って嘘でしょ!?ナツがいないんだけどっ!!」

 

 

 ──沈黙──

 

 今気がついたと目を見開くエルザ、グレイ、ノーツ。先程までの勢いはどこに行ったのか、三人揃って冷や汗をかいて思うことはひとつ……『やってしまった』だ。

 

「い、急いで駅に戻るぞ!」

「私は魔導四輪を借りてくる!!」

 

 きっとエルザは列車を止める気だろう。だが列車を止めようともアレが発車したのは随分前だ、追いつくのにも足が必要である。

 

 幸いオニバスには仕事で何度も来たことがあるからとエルザたちとは反対方向、魔導四輪の貸し出しを行っている店までノーツは一人走った。

 

 

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