魔法の世界で錬金術を   作:紅茶烈伝

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鉄の森

 

「飛ばすよ、乗って」

 

「ノーツ!?」

 

 無理やり列車を止め、ナツを追うぞと意気込むエルザたちの目の前に勢いよく停車したのは、ノーツが運転する魔道四輪*1だった。

 

 

 ルーシィが(勝手に)ギルドの常識人代表だと思っていたノーツが魔導四輪を勢いよくかっ飛ばして街中を走ってきた事にも驚いたが、彼女が何より驚いたのはその口調だった。

 

 いつもはもう少し気取った、というか全体的に柔らかい口調で声のトーンも若干高めだったはず。だが、他の三人(二人と一匹)は特に何も反応せずに魔導四輪に乗り込んだ。急がなければいけないことには変わりないため、彼女もそれについては後で聞こうと急いで魔導四輪に乗り込んだ。

 

 

 エルザは近くに居た民間人に荷物を預けていたが、ルーシィとグレイは持ったまま。屋根にノーツの荷物が括りつけてあるのを見つけて二人もそこに荷物を括ると、それらが落ちないようにとグレイは屋根に乗った。

 

「グレイ、落ちないでね。落ちても拾いに行かないから」

「わーってる!さっさと出せ!!」

「……そんじゃ行くよ」

 

 ノーツがハンドル代わりのレバーを持つ手に魔力を込めると同時、再び魔道四輪はギュギュンと音をたてて走り始めた。速さと勢いはとてつもないのに車内ではあまり揺れを感じない。

 本当にノーツはなんでも出来るんだなぁなんてルーシィが考えていた時、再び先程のノーツの口調が気になり始めた。いつもよりも幾分か素っ気なく、不機嫌そうに聞こえる女性にしては低めの声。

 そういえば乗り込んだら聞こうと思っていたんだ、とポンと手を打ってルーシィが口を開いた。

 

「ねえエルザ、ノーツの口調がさっきからいつもと少し違うみたいだけど、アレってあたしの気の所為じゃないわよね?」

 

 もしかして、ノーツって乗り物に乗ると性格変わっちゃう人だったり……?と続けると、エルザは数回瞬きしてから薄く笑んで首を横に振った。

 

「いや、そういう訳ではない。ノーツの口調はアレが素なんだ」

「素?」

「…………私、普段からあまり表情が変わらないだろう?それに加えてあの口調だと常に不機嫌なように思われてしまってね……怖がらせるのは本意じゃないけど顔は変えられないから、せめて口調だけでも柔らかくしようと思ってね」

「……あまりどころか全く変化しないような……」

 

 エルザの言葉を繰り返すルーシィに、中の会話が聞こえていたノーツが顔を前に向けたまま答えた。普段の彼女を思い浮かべて、確かにちょっと怖いかも、と呟いたルーシィ。それにエルザが少し笑って、再度口を開いた。

 

「だがあまり定着もしていないらしくてな、よく崩れる。ギルドでの喧嘩が悪化して怒る時、不意をつかれて焦った時……恥ずかしがっている時にも素が出るな」

「……余計なこと言うな。舌噛むよ」

「ふふ、揺れが無さすぎて舌を噛むどころか寝ることすらできそうだぞ」

「…………」

 

 完全に黙ったノーツの耳は僅かに赤い。どこに恥ずかしがる要素があったのかルーシィにはよく分からなかったが、ノーツの新しい一面を見れたようでほっこり嬉しくなった。

 

 

「……!!列車が見えたぞ!動き始めた!!」

「了解。……運転荒くなるからちゃんと捕まってておくれよ!」

 

 グレイの言葉を受けて、速度がさらにぐんと上がった。

 追いつくまでの道中、ずっと線路沿いを走っていたがまだナツは見かけていない。きっとまだ列車から降りていないのだろうと思いながら魔導四輪をとばす。

 

 早く出てこい、とノーツが念じたその時だった。緩やかに走り出した列車の窓を突き破ってナツが飛び出して来たのである。

 

 

「確かに早く出てこいとは思ったけどね……!?」

「ナツ!?」

「何で列車から飛んでくるんだよォ!」

「どーなってんのよ!!」

 

 ノーツは急いでブレーキをかけたが、遅かった。

 咄嗟にとんできたナツを受け止める体勢になったグレイの頑張りも虚しく、二人は盛大に頭をぶつけた。

 

 二人の叫び声が聞こえたノーツが咄嗟にレバーを捻って車体ごと振り返ると、そこでは既にいつもの言い争いが始まっていた。エルザたちが魔導四輪から降りたのを確認して自分も二人の方へ行こうとSEプラグ*2を外そうとした時、ノーツの視界がぐらりと揺れた。

 

 先を急ぐあまり、魔力の消費のことを考えていなかったのである。

 魔導四輪は、速度を出せば必然的に消費する魔力も多くなる。そのことをすっかり忘れて、ただでさえ少ない自分の魔力のことを全く考慮せずに突っ走っていたのだ。

 

 魔力を消費しすぎたとき特有の倦怠感を感じながら立つことすらできず運転席に座り込んでいると、先程までエルザの抱擁(とても硬い)を受けていたナツが同人物に殴り飛ばされるのが見えた。

 一体何の話だとそのまま話を聞いていれば、ナツが列車の中で鉄の森(アイゼンヴァルト)のメンバーに会ったのだという。

 

「さっきの列車に乗っているのだな、今すぐ追うぞ!ノーツ、運転を変わろう。久しぶりで忘れていたが……そろそろ限界が近いだろう」

「いや……うん、そうだね。お願いするよ」

 

 大丈夫だと続けようとしたのを取り消してノーツは大人しくプラグをエルザに譲った。このまま自分が運転しても後々足手まといになるだけだと思い直したためである。

 前記のとおり、元々ノーツの魔力量はだいぶ控えめなのだ。錬成魔法は()()()使う上では魔力をあまり必要としない為に、控えめな魔力量でも十分に戦えるのだが、こういった魔力を燃料に動かすものは魔力量がものをいうために相性が悪い。ここまであの速さを保てたのも火事場の馬鹿力のようなものである。

 

 いざという時に足手まといになるのは本意ではないと大人しく車内に乗り込もうとした時、鉄の森メンバーが持っていたという“笛”の特徴を聞いたルーシィが青ざめているのに気がついた。

 

「どうしたんだ、ルーシィ」

「三つ目のドクロの笛……その笛がララバイだ!!呪歌(ララバイ)、死の魔法!!」

「何!?」

「さっきの話の……あ」

 

 ノーツがあげた声に他が振り返るが、彼女は首を横に振ってルーシィに先を促した。不思議そうにノーツを見返したルーシィだが、やがてひとつ頷いて話し始めた。

 

 

「あたしも本で読んだことしかないんだけど……禁止されてる魔法のひとつに呪殺ってあるでしょ?」

「ああ……その名の通り、対象者を呪い、“死”を与える黒魔法だ」

「呪歌は、もっと恐ろしいの」

 

 誰もが真剣な顔でルーシィを見る中、ノーツは一人下を向いていた。しばらくは揺れる瞳で足元を眺めていたが、ゆっくりと目をつぶって一つ深呼吸をする。

 開いたその瞳に、強い決意を湛えていた。

 

「呪歌は、その音色を聞いた人全てを殺してしまう……集団呪殺魔法」

「!!」

「なっ!?」

「……集団呪殺魔法、ララバイ。黒魔道士ゼレフが作り上げた魔笛にして…………奴が生んだ“ゼレフ書の悪魔”だ」

 

 小さく呟かれた言葉に反応して全員が勢いよくノーツの方を振り返ると、それを気にも留めていない様子の彼女は強い瞳で睨むようにどこか遠くを見つめていた。

 

「本格的に急がないとね……手遅れになる前に」

「──ああ……全員乗れ!急ぐぞ!!」

 

 

 ナツ、ハッピー、ルーシィ、ノーツが車内に、グレイが屋根に乗り込むと、既にプラグを装着して運転席に座っていたエルザは、砂埃を立てながら魔導四輪を走らせた

 

「集団呪殺魔法……そんなものがエリゴールの手に渡ったら……。おのれ!奴らの目的はなんなんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──所変わってオシバナ駅

 

 駅舎からは煙が立ちのぼり、その周囲を大勢の野次馬が取り囲んでいる。

 

『みなさん!お下がりください、ここは危険です!!ただ今、列車の脱線事故により駅へは入れません!』

 

 駅員が拡声器を持って呼びかけているが、野次馬が引く気配はない。中にはテロらしいと話している者もいて、危険なのが分かっているのなら引けと、大勢の野次馬に辟易しているノーツは思った。鉄の森の仕業であろうとアタリをつけたノーツたちは、行かない訳にはいかないとそれぞれが人ごみを掻き分けて駅へと進んでいく。

 

 

『内部の安全が確保されるまで、駅は封鎖します!』

 

「行くぞ!」

「でも封鎖って……」

「いちいち聞いてられっかよ!」

「うぷ」

「やめてナツ、つられる……」

 

「てめぇら人酔いしてんじゃねえ!!つかノーツ、お前いつも人酔いとかしねぇだろ!?」

「いや、まだ魔力が戻りきってなくて……気持ち悪い…………」

「いつもの薬はどーしたよ!!」

「即効薬じゃないからね、あれ……」

 

 

 二人の不調者(ナツとノーツ)が完全にダウンしたためにそれぞれグレイとルーシィが背負って進んでいく。

 ようやく人の波を抜けると、一足先に抜けていたエルザが駅員に詰め寄っているところだった。

 

「駅内の様子は?」

「な、なんだね君!!」

 

 

 不審な顔でエルザを見た駅員には、彼女から頭突きがひとつ贈られた。

 次々と対象を変えて同じことをしていくエルザに、グレイとルーシィは冷や汗をかきながら引いている。

 人ごみを抜けたからかほんの少し顔色が良くなったノーツがルーシィの肩から少し頭を上げてエルザのやっていることを確認すると、弱々しい声でエルザの次の標的になるであろう駅員に声をかけた。

 

「あの、私たち……魔導士ギルド、フェアリーテイルの者です……テロリスト捕縛の、お手伝いに来ました…………現状把握のために……中の様子を…………」

「あ、ああ、魔導士か!軍の応援ならそうと言ってくれれば……」

「駅内の様子は?」

「ひっ!こ、答えますから!!」

 

 言い終わった途端、ガクリと再びルーシィの肩に凭れたノーツ。やはり調子が悪そうである。

 周りの会話や駅舎の状態を見聞きして現状を予測し、瞬時に駅員の納得するだろう理由を作り上げたノーツ。駅員が混乱していたのもあるだろうが、ノーツの言い分(それ)はすんなり信じられ、駅員はエルザに怯えながらも駅内の様子を話し始めた。

 

 穏便に、かつ迅速に事が運んだことに「やっぱりノーツは常識人だわ……!」とルーシィが感動していたとかなんとか。

 

 

──────────

 

 

『軍の小隊が突入したんだが、まだ戻っていない。テロリスト達もまだ出てきていないんだ!おそらく中では戦闘が……!』

 

 

 駅員から話を聞き、一行は直ぐに駅の内部をホームに向かって走る。

 

「ひいいっ!」

「全滅……!」

 

 駅のホームへと向かう途中には、ボロボロの軍の兵士の姿が。彼らが先程駅員が言っていた軍の小隊の兵士なのだろう。

 

「相手はひとつのギルド、すなわち全員が魔導士だ。軍の小隊ではやはり話にならんか……」

「う、ん……魔法が使えない相手に、手加減する奴らじゃないだろうし、ね……」

「急げ!ホームはこっちだ!!」

 

 気を失ったナツを背負うグレイ、エルザ、ハッピー、走れないノーツを背負うルーシィの順で駅内を走る。

 

 ホームに着くと、そこには列車を背後に鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士たちが立っていた。少なく見積もっても三十人以上は確実にいる。

 その中で、一人列車の上に座る鎌を持った男がニヤリと笑って口を開いた。

 

「やはり来たな、フェアリーテイル。待ってたぜぇ……」

「な、なに、この数……」

 

 グレイがどさりとナツを下ろすのと同時に、ノーツはルーシィの肩を軽く叩いて下ろしてもらう。

 少しふらついたが立てないことはない。車内で飲んだ魔力回復の薬が効いてきたのだろう、多少回復しているから今ならなんとか戦えるとノーツは前に出るエルザとグレイに並んだ。ルーシィは未だに倒れたままのナツを起こそうと呼びかけている。

 

 

「貴様がエリゴールだな。貴様らの目的はなんだ?返答次第ではただでは済まさんぞ」

「あそびてぇんだよ。仕事もねぇしヒマなもんでよォ」

 

 そう、男──エリゴールが言った途端に鉄の森の面々は笑い始める。それに合わせてエリゴールが浮かび上がり、鎌に乗って移動しながら話す。

 

「まだわかんねぇのか?駅には何があるよ。」

「駅……?」

 

「ぶー」

 

 

 時間切れ、とでも言うように呟くと、エリゴールはスピーカーをコツンと叩いた。それにノーツたちが目をむくと、エリゴールは心底面白いとでも言うように笑った。

 

呪歌(ララバイ)を放送する気か!?」

「ええ!?」

「なんだと!?」

 

 一層楽しそうな笑い声を上げたあと、再びエリゴールは話し始めた。

 

「この駅の周辺には何百、何千もの野次馬どもが集まってる。いや……音量を上げれば町中に響くかな、死のメロディが」

「大量無差別殺人だと!?」

 

 叫ぶエルザなど眼中に無いとでも言うように、エリゴールはくるくると空中をまわり、気分良さそうにニヤリと笑った。

 

「これは粛清なのだ。権利を奪われた者の存在を知らずに権利を掲げ生活を保全している愚か者どもへのな!

 この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ。よって、死神が罰を与えに来た……“死”という名の罰をな!!」

「そんな事したって権利は戻ってこないのよ!」

「ここまで来たら欲しいのは“権利”じゃない、“権力”だ。権力があれば全ての過去を流し、未来を支配することだってできる!」

 

「……過去は過去だ。隠すことは出来ても過ぎたことを無かったことにはできないし、権力に縋る独裁者の末路には破滅しか存在しない」

「今はンなことどうでもいいんだよ。オレらは粛清を果たし権力を手にする……そうすりゃ後は思いのままさぁ!」

「あたし達の話聞いてた!?あんたバッカじゃないの!?」

 

 

 愉快そうにノーツたちを見下ろすエリゴール。どこまでも狂ってる、とエリゴールを睨みあげながら各々魔法を発動させようと構えたところで、列車の前に立っていた男の一人が急にしゃがみこんで地面に手をついた。

 

「残念だな、妖精(ハエ)ども……」

 

 男の声を聞いたナツがピクリと反応する。それと同時に、男の構えに反応したノーツが咄嗟に男と同じように地面に手をついた。

 

「闇の時代を見ることなく死んじまうとは!!」

形状変化(シェイプチェンジ)石壁(ストーンウォール)

 

 男の言葉と同時に影でできた手がルーシィを襲い、ノーツが錬成した石壁がそれを阻んだ。造形魔法辺りの使い手だと守りの構えをとっていたのが幸をなした。

 

「やっぱりお前かぁあぁぁあっ!!」

 

 しかし、飛び起きたナツは石壁ごと影を殴り、石壁の破片が辺りに散らばった。……まさかこのタイミングで起きるとは思っていなかった皆が瞠目し、意図せず仲間の防御魔法を内から破ったナツを見ては微妙な空気が流れる。

 この場合ノーツが余計なことをしたのか、ナツが余計なことをしたのか……判断に困る。

 

「んお!?何だこの壁!!」

「私が作ったんだ。……余計なことだったみたいだけどね」

「な、なにはともあれ、ナツも完全復活ね!」

 

 

 驚くナツから顔を背けて軽く拗ねるノーツを見て、ルーシィはパチンと手を叩いて場違いな明るい声を出し軌道修正を図った。

 ひとつため息をつくと、ノーツはそのまま相手と向かい合って睨みつけた。感情の表現は苦手なくせに、眼光を鋭くするのは得意なようである。

 

 

「お!なんかいっぱいいる」

「敵よ敵!ぜーんぶ敵!!」

 

 

 戦闘開始まで、あと───

 

 

 

*1
操縦者の魔力を原動力に動く車

*2
魔力を魔導四輪に送るための管

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