コードインリバース ~護士の因子~   作:偽薬

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ボイルとミセルが引き起こした惨劇によって大幅に数が減った戦造人間。
その心配を払拭するかのように新たな才能を持った新人が参入した。
彼らもまたリバース獣との戦いに身を投じるのであった。


第6話 ~発揮される力~

講堂に、先日訓練課程を修了したばかりの新人が集められていた。

 

「……私からは以上だ」

 

コーディンの号令によって、就任式は終了した。

 

この時をもって、彼らも正式な戦闘員となったのだ。

 

「早速だが、君たちにはこれからリバース獣討伐に向かってほしい。我々も同行する」

 

「おぉ……!」

 

ファラデーは興奮した。

 

これまで自分たちは対人戦などによるシュミレーションしかしたことがなかった。

 

これからようやく本物のリバース獣と戦えるのだ。

 

その実感が、ファラデーの心の底の使命感を滾らせていた。

 

「それでは、チーム分けを行う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーディン、ファラデー、ゾル、ロクショウの四名は山奥の湿地帯に向かっていた。

 

「じゃあお前、ホントは非戦闘員になるはずだったのか!」

 

「いやまぁ、ギリギリ及第点だったんで」

 

ファラデーはロクショウの奇妙な経歴に興味深々なようだ。

 

戦造人間にとって、戦いはあくまで職務にすぎない。

 

しかし、このファラデーの思想は違った。

 

リバース獣を殲滅し、人々の平和を守る。

 

そんな所謂模範的なヒーロー像というものを信じ切っており、正義感に溢れていた。

 

それに対してロクショウは本来非戦闘員になるはずだった。

 

しかし戦闘力指数が戦闘員加入条件に達していたために急遽戦闘員に加えられることになったのだ。

 

戦うことはあまり好きではない。

 

面倒だから本当はやりたくないとさえ思っていた。

 

しかし、与えられた職務を遂行しようとする気高い前向きさも持ち合わせている。

 

それがロクショウという男だ。

 

「それにしても、他の班は10人単位なのに俺達だけ4人だけとはな」

 

「最強の隊長(リーダー)コーディンさんが一緒なんだ、妥当な班分けだと思うぜ」

 

ファラデーとロクショウが話し合っている間、ゾルは終始不満げな顔をしていた。

 

(冗談じゃない……まさかこの俺がてめぇら二人と同レベルだとでも……?)

 

ゾルは自分がコーディンの次に強い、ナンバー2に相応しい男だと思っていた。

 

だからこそこんな二人と同じ扱いを受けることが許せない。

 

異常なまでにプライドが高いのだ。

 

「着いたぞ、降りろ」

 

ビークルから降りた四人は周囲を警戒した。

 

下位種とはいえリバース獣だ。

 

どこかに潜んでいる可能性もある上に、不意打ちを食らえば致命傷を負いかねない。

 

「この辺りの様子は?」

 

コーディンがビークル内に駐在する非戦闘員に問いかける。

 

「高感度センサーの反応によると、ここら一帯は大丈夫です。どうやら少し先で同じ場所をぐるぐる回っているようですね」

 

「そうか……お前たち、行くぞ」

 

「はっ!」

 

四名は注意深く奥地へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「BUMOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「……なるほど、あれか」

 

その先にいたのは、草木を蹴散らしながら走り回る巨大な猪、ファングロウだ。

 

その目は血走っており、完全に闘争本能に支配されているようだ。

 

「総員配置につけ!」

 

その号令を合図に四人は散らばってファングロウを取り囲んだ。

 

下位種は理性的な行動をしない。楽な相手だ。

 

「BUFUUUUUUUUUUUUUMM!!」

 

「……!?」

 

しかしその思い込みが罠だった。

 

今までただ円を描いて走っていたファングロウの軌道が変わり、ロクショウに突進し始めたのだ。

 

「しまった!ロクショウ!!」

 

ファラデーの悲痛な叫びも空しく、ファングロウはロクショウに突っ込んでいく。

 

「ふん、成り上がりらしいあっけない最後だな」

 

それを見ながらゾルはロクショウを嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「”富久”」

 

「!!」

 

ロクショウはファングロウに平手を突き出した。

 

力が込められているようには見えないその手が、ファングロウの体に触れる。

 

次の瞬間、ファングロウの軌道が逸れた。

 

まるでサルスベリの木に登ろうとする子供のようにツルリと滑ったのだ。

 

(力を外側へと逃がしているのか……!)

 

柔よく剛を制すという言葉を体現するかのような拳法による戦闘スタイルにコーディンは思わず関心した。

 

「すげぇ!お前そんなこと出来るんだな!!」

 

「これが非戦闘員から抜擢された理由ってわけか」

 

ファラデーは大はしゃぎし、ゾルはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

勢いの向きを変えられて、ファングロウの巨体は地面にめり込んだ。

 

「……”バルクアップ”」

 

「KUUFUUUUUUUUUU……」

 

苦し気に起き上がろうとするファングロウ。

 

しかし、その足が伸びるよりも早く、ゾルの飛び蹴りが炸裂し、再び吹き飛ばされることになった。

 

バルクアップ。それはゾルが独自に編み出した体術で、全身の血流を急激に促進することによって過剰なパワーとスピードを発揮できるようになるというものだった。

 

「はぁっ……はぁっ……くたばったか……?」

 

だがファングロウは倒れなかった。

 

吹き飛ばされながらも大地に踏ん張り、やがてゾルに逆襲せんと走り出したのだ。

 

「……なんだとォ!?」

 

「KUBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAARR!!」

 

ゾルは恥じた。死を恐怖するよりも先にだ。

 

バルクアップは自分を特別たらしめる技だという自負があった。

 

しかし弱点である燃費の悪さを見て見ぬふりして実践投入したのは大失敗だ。

 

そのことは、ゾルのプライドに傷を残すのに十分であった。

 

「……お前、何を!?」

 

顔を上げたゾルは目を疑った。

 

ファラデーが自分を庇うように立ちふさがっていたからだ。

 

「ゾルは俺の仲間だ!!こんなところで死なせるかよッ!!!!」

 

「あぁ!?脳ミソ溶けちまってんのかてめェはよォォォォ!!犠牲者が増えてるだけじゃあねえかッ!!」

 

「くそッ……!」

 

コーディンは二人を助けるべく駆け出した。

 

「……ん!?」

 

しかし、何かに反応して突然立ち止まった。

 

「あいつ、まさか……!?」

 

隊長(リーダー)!なぜ止まるんです!」

 

ファングロウの勢いは止まらない。

 

このまま放っておけばファラデーとゾルに激突するのは誰の目にも明らかだった。

 

「ンンンンンスパァァァァァァキンッッッッッッッ!!!!」

 

その時、不思議なことが起こった。

 

ファラデーが突き出した拳から、突如電流が流れ出たのだ!

 

「BUWWWWWWWWWWWWWNNNNNN!?」

 

理屈では説明のつかないその力に、ファングロウもたまらず怯んだ。

 

「驚いたな……だが今は奴の始末が先だ」

 

そう言うとコーディンは地面の割れ目に手を突っ込み、中から専用武器、”フラクチュア”を取り出した。

 

丸みを帯びた棍棒を片手に、敢然と立ち向かう。

 

それを目視したファングロウは自慢の巨大な牙を振りかざした。

 

「ずあっ!」

 

すかさずコーディンもフラクチュアを振るう。

 

ゴキャアという鈍い音がが響き渡った直後、ズンッと大地に震動が走った。

 

フラクチュアは無傷。

 

そしてファングロウの牙は……根元からへし折られていた。

 

地面にはさっきまで牙だったものが突き刺さっている。

 

「……!?BUHIYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」

 

口元から血液を滴らせながらファングロウは泣き叫ぶ。

 

すかさずコーディンはフラクチュアを槍投げ選手のようにファングロウめがけて投げつけた。

 

鈍器は頭蓋骨に直撃。

 

支柱である牙を既に折られていたためか、その骨は脆かった。

 

「qawsedrftgyhujikolp;@:」

 

震動で脳を壊されたらしく、ファングロウは断末魔のうめき声をあげながら息絶えたのだった。

 

「ふぅっ……さて、と……」

 

コーディンは新人三人に目をやった。

 

今回の件で確信した。

 

この三人には特別な力があるのだ。

 

特殊な拳法を扱うロクショウ。

 

急激にパワーアップしたゾル。

 

そしてファラデーは自分と同じ能力者ときた。

 

(まさか今期の新人にはこのレベルの実力者がまだいるのか……?)

 

隊長(リーダー)、リバース獣の死亡確認ができました」

 

胸部のヴァイタルコア越しに、ビークルに残してきた非戦闘員の声がした。

 

「……そうか。」

 

先が思いやられる。コーディンは内心そう呟くのだった。




「テルミットが呑み込まれた!!」

「俺の”弾”は、壁をすり抜ける」

「そろそろ下位種で抑えるのも限界だ……」

「あいつも新人か……?」

「ダセェんだよォォォォォッお前らのやり方!」


次回  『その男、驕傲(きょうまん)につき』

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