魔法の話   作:犬屋小鳥本部

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少しだけ、「私」について話しましょうか。


レイブンクローの失われた砂時計

魔法界で有名な彼のロウェナ・レイブンクローの血縁である魔法使いの中に、このような研究者がいた。

 

時はハリー・ポッターが生まれる約500年前に遡る。

一人の男性の魔法使いがいた。

聡明で研究熱心な彼のテーマは「時間」であった。

彼の遺した記述の中には、後の逆転時計を生み出すヒントともなったものもある。

逆転時計と異なるのは、過去ではなく未来へいくという考えであった。

過去を変えるのではなく、確定している未来を経験した上で現在に戻ってくるというものである。

 

言い方を変えようか。

 

逆転時計では、現在の結果を変えずに過程を変える。

彼は現状から辿り着く未来を知ることで、未来の結果を変える要素を得るということだ。

なぜ過去ではなく未来を直接変えようとしたのかは、誰も知るところではない。

 

彼には妻がいた。

 

入籍後の名前はブランカ・レイブンクロー。

純血の魔法使いであり、すでにある知識を利用するだけでなくそれらを応用した奇抜な発想が目立つ女性であった。

感情豊かで誰からも好かれるような、人としても申し分のない性格をしていた。

 

しかし、彼女は自らの出生にだけ恵まれていなかった。

彼女はいわゆる「アルビノ体質」であった。

白い髪、白い肌、赤みを帯びた瞳。すぐに病気になる虚弱体質。

異端とも思えるその外見を恐れた両親は育児を放棄した。

彼女は捨て子であったのだ。

 

そんなことを露とも感じさせないような明るい笑顔を振り撒くブランカを彼は愛し、妻として迎え入れた。

二人は研究者として、夫婦として、そして人として足りない部分を互いに補っていた。

 

入籍して数年後、ブランカは妊娠した。

 

彼は彼女が出産するのを強く反対した。

この時代、母子共に生きて出産を終えること自体が困難であった。

そして、彼女が持つ虚弱体質。

二人の子がこの世に生を受けた瞬間、愛する妻であるブランカはこの世を去ったのだ。

 

ブランカを失った彼は、子に対して愛情を向けることはなかった。

育児を放棄された子は、親戚の大人たちによって最低限の管理をされた。

唯一の救いであったのは、子には既に名前がつけられていたということである。

子どもの名前、そして外見的特徴は間違いなく両親が誰であるかを示していた。

わずかに青みがかった黒色の髪、紫みがかかった黒色の瞳は父親譲りのものである。

名前は母親の「白」を表す「blanc」にあやかり、「黒」を表す「noir」が使われた。

 

 

この子どもこそ「ノワール・レイブンクロー」である。

 

 

妻を失った彼はますます研究に入れ込むようになった。

そして、ある日1つの砂時計を作り出すことに成功した。

この砂時計を使って未来へ行き、現在に帰ってくるという仕組みである。

さあ、あとはこれを使って実験をしようというところで彼は思い付いてしまった。

そういえば、ちょうどいい被験体がどこかにあったはずだ。

と。

 

生物であり、時間が経っても存在しているであろう若いもの。

時間の経過が分かる成長の早いもの。

なにより、失敗していなくなってもかわらないもの。

生まれたばかりの赤ん坊、それも自分が自由にできる「自らの子」。

 

彼は実験に自らの子を使用した。

そして、結果…

 

 

失敗した。

 

砂時計と子どもは未来に行ったっきり戻って来なかったのである。

 

 

 

彼は3日・1週間・1ヶ月・1年待ってやっと自分が取り返しのつかないことを仕出かしたのだと気づいたのである。

彼の研究机の上に消えたはずの砂時計が戻ってきた頃には、既に彼自身は部屋から姿を消していた。

 

彼の心は絶望し、壊れてしまっていたのである。

 

彼のその後を知る人は誰もいない。

ある人は自殺したと、ある人は施設に入ったのだと、またある人は再婚して2度目の幸せを見つけたのだと言う。

 

 

砂時計は間に小さな小さな赤ん坊を詰まらせ、砂を落とすことは出来なくなっていた。

時間を刻むことのできなくなった命はただ眠り続ける。

 

 

「時間」という研究に生涯を翻弄された彼の名前は、奇しくも「クロック・レイブンクロー」であった。

 

彼自身も「クロック(時計)」の歯車の1つであったのだ。

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