起きると家に人がいなかった。父も母も兄も全員出払っている。
何やら蔵のほうが騒然としていた。蔵とは仕入れてきたばかりの美術品やまだ取引されていない在庫を保管している場所である。
蔵の前で父と兄と母と数名の従業員が蔵の前に簾をひいてその上に蔵から出してきた美術品を並べ数えている。
俺は近づいていき種水という小姓頭の壮年の男に話しかける。
「どうされたのですか」
「ああこれはお坊ちゃま、おはようございます」
「何をされているんですか」
「商品の数を確認しているのです」
この仕事に関わるようになってから1年だがこんなこと今までなかった。まあ俺が知らないだけかもしれないが
「在庫確認ですか?通常父上が一人で蔵の中には行ってやるんじゃないんですか?」
「ああお坊ちゃまはまだ知りませんでしたね、実は昨晩蔵の番をしていた正一と兵蔵が逃げまして」
ああなるほどそういうことかと俺は納得する。
「番が夜のうち盗人まがいのことをするのはよくあることなのですよ。でも盗みを働けば庄吉さまが朝の在庫確認をするときばれてしまうものですから朝までに盗った商品を持って逃げてしまうのです。ですから今何を盗られたか壊された商品がないか確認するためすべて一つ一つ出して確認しているわけです」
庄吉とは父の名である。
「そうななのですか、正一さんも兵蔵さんも盗みを働くような人には見えなかったのですが残念です」
実際に話したことがあるが本当に盗みを働くようには見えなかった。兵蔵は父に拾われた古参の部下だし、正一は新しく方向に来た少しお調子者の若者であったが誠実で、二人とも真面目な印象だった
「うちは他所と違い従業員が盗みを働くことが少ないのです。それもこれも庄吉様が私たちを家族のように大事にしてくださるおかげ、賃金も低くない額もらっているし、本当に恩知らずの阿呆ですよ」
種水はもう正一と兵蔵が盗みを働いたと完全に決めつけていた。まあもうこのこのような状況だと経験上盗みを働いた以外ないのだろう
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数十分後
すべての在庫を出し終わりまた蔵の中に戻す作業が始まっていた。
父が不思議そうな顔をして在庫リストとにらめっこしている。
「父上何が盗まれていたのですか」
「空次か、それがな実は何も盗まれていなかったのだよ」
はて話が違う。
「何も盗まれていない?そんなことあるのですか?」
「ない、ないのだが…奇妙だ」
「なぜ二人に何かあったのではないのでしょうか?」
「何かとは?」
「わかりませんが…」
「そうなのだ、わからないんだよなあ」
「家を訪ねて事情を聴いてみたらいかがですか?」
「ああもう行かせた午後には戻ってくるはずだ。でもまあわからないものはしょうがない遅くなってしまったが店を開けるぞ」
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店を遅くに開けた以外は滞りなく営業は終了した。
そして家に帰ると母がいつも通りご飯を作り、いつも通り僕たちは食卓に着いた。
「「「いただきます」」」
なんと今日のメニューは大好きな揚げ出しだ最高にうれしい勢いよくがっつくと母は穏やかな笑顔で俺を眺めていた。うっ恥ずかしい///
「父様そういえば正一さんの家はどうでしたか」
兄が父に思い出したかのように唐突に質問した
「それが別に変わったことはなかったそうだ」
結局二人は何をしたかったんだろうと考えてしまう
「変ですね非常に奇妙だ」
兄がおかまを始めてみた幼稚園児並みに不思議がりすぎている
「あのー今日の番はどうされるのですか?」
俺が口を挟むと兄がそりゃそうだという顔して父に「どうするのですか」と確認する
「ああ知り合いの美術商の小姓を借りた、気のおけない仲の美術商の小姓とは言え少し信用できないからうちの小姓頭と組んでもらって番に当たってもらおうと思っている。」
種水さんのことだ。彼なら信用できる。
「それなら大丈夫ですね。種水さんなら絶対に重要な番を放っておいて消えたりしませんから」
種水への全幅の信頼を口にしておく
「そうだな」と父も気のない返事をする。
少しの沈黙の後兄が思い出したかのように口を開く
「そういえば例の掛け軸を見たいというのでお得意さまが明日訪ねてくださるそうですよ」
ああ昨日の続きか
「なんだまだ怖がってたのか」
父が昨日一通りいじったにもかかわらずまたいじろうとする
「怖がってませんてば!今日集金でお家にお邪魔したときに掛け軸の話になったので紹介したまでです」
父がなーんだというと続いて何時に来るのかとかどの程度説明したのかと聞くとお得意様のご機嫌伺いはどうだったという話に移っていった
一通り終わると
「よかったですね、買いたいって人が現れて」
と兄がひとこと言った
そうすると父は不思議そうに
「なんでだ、あのレベルの作品なら買いたいって人はごまんといるぞ」
といった
「だってあの絵が来た日に蔵の番をしていた者たちが失踪したんですよ。」
「なんだ怖がってんじゃねえか」
うむその通り
「怖がってません!けど不吉です」
「確かにその通りかもな、まあ買った時の値段も大したことなかったし、結構高い値をつけていたんだが、通常の値段より割り引いて売ってもいいかもしれん、お得意への点数稼ぎになるしな」
父がそういうと兄はとても安心したように深い呼吸をした。
「本当に鬼がいてお二人をさらってしまったのではないのでしょうか」
話がひと段落ついたにもかかわらず母が突拍子もないことを言った。
「ハハハハハ聖子お前までどうした。」
「だって考えられませんわ、あの二人が姿を消してしまうなんてしかも何も盗まれていないし何の痕跡も残さず消えてしまうなんて…」
「鬼に喰われたとでもいうのか?…確かに曰くつきの物品は何度も扱ったことがあるが大体がデマだったろ、確かに不思議なことには出会うが人がいなくなるなどあり得ない」
母は言い返そうとしたが不毛だと思ったのか「そうですね」とそっけない返事をした。
「まあ今日番の様子を見に行ってさ知れでもしてやるか。聖子握り飯でも作ってくれ」
父がそういうとこの話は終わった
∴∴∴∴∴
夕食が終わり俺は寝る準備を整えると兄のところへ直行した例の短刀を見せてもらうためだ
途中廊下を歩いていると母が前から来た
「空次今日は一緒に寝ましょうか」
母は不安なのか俺の添い寝をご所望らしい
「お母さまわかりました。兄上のところに行ってから寝室に伺います。」
なんか言った後だけどエロイな
兄の部屋に行くと兄が寝床にはいっていた「なんだ?」とけだるそうに言うと刀を見せてほしいと頼んだ
兄が引き出しから脇差を取り出すと俺に渡した。脇差を鞘から外すと本当にきれいな空色の刀身が怪しく光った。
それにしても本当に美しい刀だ。根本の悪鬼滅殺とはどういう意味だろうか鬼を斬るための刀とでもいうのか?だが美しい神聖さすら感じる確かにこの刀ならば鬼も斬れてしまうかもしれない
十分ほど刀を見つめている兄が早く寝たいのに寝れないことに苛立ちの様相を見せたため、俺はチャキンと、刀を鞘にしまうと兄に返す。礼を言って母の部屋へ向かう。
母の部屋に入ると母がベットに入っていたさあ来なさいと言われると俺はベットの横に入るとすぐに目を閉じた。しばらくすると母はおれの頬にキスをすると「空次守ってあげるからね」といった。
そういわれると俺の体の中はあったかくなってすぐに眠りに落ちた
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起きるとやっぱり誰も家の中にいなかった。そして外に出るとやっぱり蔵の前に人が集まっていた
番の二人がいなくなっていた。そんなことあるのかと思うがいなくなっていた。普通じゃない借りてきた小姓はわかるだが種水さんは消えたりしない。昨日の態度から見て間違えない何かあったに違いない。
「もしかしたら誘拐にあってるのかも」
従業員の話し声がふと耳に入った。その瞬間昨日の鬼の話が頭をよぎった。
「おかしいな何が起こっているのか」
父の不安が伝わってくる
今日の営業は中止になった。警官に来てもらい現場検証をしてもらうことになったのだ。もはやただの夜逃げではないとの判断だった。しかし来た警官と父が話すが事件性はないとのことだった。普通に考えればそうかと納得する自分とそんなことはないという警鐘を鳴らす自分がいた。父もおんなじ気持ちだったの「わかりました」といった割にはとても難しい顔をしていた。
警官が返るとやることもないので俺は店の前を掃除していた。俺はよく掃除をするストレス解消になるし、実用を兼ねた趣味みたいなものだ。午後になるとひげを生やしたスーツの痩せた老紳士が「すみません」と話しかけてきた。
「美しい掛け軸を見に来たのですが」
というと俺は理解した。
「佐々木様でございますか?」
「はい、その通りです」
「お初にお目にかかります。庄吉のむすこ空次と申します。今父を読んでまいります。」
「これはこれは礼儀正しい子だ」
父を読んでくると父が蔵からあの掛け軸をもってきた
「佐々木様こちらが今回はいったものになります。」
「ほほーうこれは…」
俺も掛け軸を見た黄金色のお釈迦様の手の上で鬼が手を挙げて踊っていた。たしかに見事だ。素人にも美しいだがどこか怪しさもある。
「いいものですね。見入ってしまいました。いい掛け軸ですね買いましょう。」
鬼収家である佐々木は当然のように値段も聞かず掛け軸を買った。
「ありがとうございます。このまま包んで持って帰られますか」
「いや持ち合わせがない、それに仕事帰りによったものでね。手荷物がいっぱいでね。それにこの作品を飾る場所をつくるため家をかたずけたい、明日取りに来るよ」
「わかりました。」
それではと軽い挨拶をして佐々木は馬車に乗って帰っていった。僕たちは姿が見えなくなるまで頭を下げて見送った。
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今日も一日が終わり夕食になった
「今日の番はどうされるのですか」
恐怖心と苛立ちを込めたような言葉で母が訪ねた
「倉庫の番は見つからなかった俺と空也で今日は番をする夜、すまないが子の刻になったら夜食とお茶を持ってきてくれ」
母は「わかりました」と返事をした。
何とも言えぬ不安感が襲ってきた
「気を付けてください!」と俺が言うと父はえがおで「ああ」と言って頭をわしゃわしゃと撫でた。
眠る前に脇差を見たくなってしまい兄の部屋に忍び込んで引き出しを開けた。あの脇差が入っていたその刀を手に取るといつもどおり抜いたり閉まったりして脇差の優美さにのめりこんでいく、この刀を振るったらどんな感じなのだろうかと思い。斬る真似をした。自分が侍になった気がした。
しばらく振って一時間くらいたったころだろうか。夢中になっていたが誤って机に切り傷をつけてしまい我に返る。そうすると妄想に浸っていた自分が恥ずかしくなって刀を閉まって自分の部屋に戻り眠った。
しまったなー机に傷をつけてしまった。兄さまに怒られちゃう
今まだこの時はまだ知らなかった。眼前に死が近づいてきていることに…幸せがバラバラと崩れ行く音に
二話目です。次はいよいよ鬼登場です