木々の隙間から見える青い空。雲ひとつない、晴天といってもいい程晴れ渡った空。
見上げる視界は酷く眩しく、また想像よりものが大きく周りの背が高く感じた。
風に靡く度に頬に揺れた草が触れる。
自分は今寝ているのだろうか。
それにしては違和感が残る。
足に力を入れ立ち上がる素振りをみせたけれど、視界は一切変わらなかった。
何時もより遠く高い空、木々が生い茂っている森の中。
何故森の中にいるのかも、こんな場所で寝ていることも不可解で、これは夢なのだろうかと考えていた。
ふと空が陰る。見上げた空にはとても大きな影がみえた。
鳥…いや、それよりもっと大きい…。ならば飛行機?否、形が全く違う。
太陽光に反射して輝く紫色の体。体ほどの巨大な翼を広げ羽ばたく度、台風のような風が草木を大きく揺らした。
鰐のように鋭い牙のはえた口、手足には強堅な爪、血のように真っ赤な瞳は睨んだ者を怯ませる程の眼光を携えていた。
架空上の生物。
よくゲームや小説に出てくる、ファンタジーの王道的な存在。
───ドラゴン。
え、嘘だぁ。
「ピキ…」
思わず口から漏れた声。しかし何故か全く知らない言葉となって口から飛び出す。
「ピ…ピキ…?」
喋れない。…いや、喋れるけれど、口から出る言葉は日本語ではなく寧ろ人の言葉でもない。
慌てて走る──走っているのかもわからない、体を地面に擦るようにして動くことしか出来なかったのだ──案外近くにあった川辺を勢いよく覗き込めば目に写ったのはギョロリとした大きな目ににんまりと笑った口。
頭はに尖りがありプルプルとプリンのように揺れる体は後ろの風景が透き通って見えるくらい透明で、少しだけ橙色掛かっている。
人間とはまるで違う生き物。鏡のような綺麗な川面を見つめ唖然とする。
腕もないので体をペタペタと確認するように触ることが出来なかったが、この川面に写る生き物が自分であることは何となく理解出来た。
──これは、夢?
「ピキー…」
情けない声が口から漏れる。
声と共にふよふよと体が揺れる。そんな体に反射して古ぼけた、しかし大きな城が映りこむ。
川からほんの少しだけ目線を外せば気付かなかった周りの風景が瞳に入ってきた。
川辺を挟み反対側の陸地。遠くに見える岩場の上に中世時代に建てられた様な立派な城が見える。しかし城壁は崩れ、大地はおどろおどろしい沼が広がり城の周りは荒れ果て緑のひとつも見当たらなかった。
自分がいる大地とはまるで正反対のように思える。
後ろを見れば森が、山が、綺麗な城が町が広がっていた。町や城から人々の楽しげな営みの声が聞こえてくる。
きゅぅぅ…。
声と共に町から美味しそうな匂いが漂ってきて知らずに腹の虫が鳴く。お腹が減った。
「ピー…」
そのお腹を擦る手も、この小さな体の何処がお腹にあたる場所なのかどうかも分からないけれど。
でも、これは…本当に夢?
頬を摘まむ手もなく未だ覚める感覚もしない夢に途方に暮れる。
きゅるるる…と先程よりも大きく鳴った腹の虫にピキと悲しげな声が出る。お腹減ったなぁ、と真上にある太陽を仰いだ時だった。
「スライムベス…か」
後ろから不意に聞こえた声。
それは低い男の…そして人間の声だった。
その冷めた声色に嫌な予感がして慌て振り返ろうとした。瞬間、冷たい何かが体に突き刺さる感覚。痛みは一瞬、次には体がドロリと溶け形成が出来辛くなる。
体に反射して見えた男は兜を深々と被り顔がよく見えなかったがただ口許には笑みを携えていることは見てとれた。
次第に意識が遠退いていく。
これは夢…きっと悪い夢だ。
きっとこれは夢から覚める合図。
視界が狭まり、ゆっくりと自分の存在が世界から消えていくのを感じ取り意識を手放した。