「ピキ?」
起き上がる。
空は相変わらず晴天で雲ひとつない。
気が付けば最初に目覚めた場所にいた。
小さな森の中。風のざわめき。微かに木々の間から入る木漏れ日だったり、それは最初と何一つ変わらないものだった。
「…ピ?」
何故?と体を震わせる。
多分死んだ。男に殺された。剣が体を貫いていた。
自分は死んだ筈だった。でも生きている。ならばあれは夢だった?
さてそれは何処から?いや、これも夢なのか?
混乱する頭。いくら考えても考えても答えは見付からず唖然とした時、大きな羽ばたく音が耳に入った。
巨大な影が頭上をゆっくりと過ぎていく。
…やっぱり…同じ、だ。
まるで時を繰り返しているかのような感覚に襲われる。
ならば…自分はまたあの男に殺される?
訳がわからない。恐怖からか体を震わせ思わず頭を抱えたくなるも腕がないのでそれすら出来ないのだ。
「ピキー…」
出たのは情けない声だけ。
ぶわり。
ふと、強い風が吹く。踏ん張らなければ飛ばされるような強風に、実際少しだけ飛ばされながらも草木に必死にしがみつきながら地面に不自然な影が出来ていることに気が付いた。
次第にそれは大きくなり、そしてドスンと目の前に頭上を飛んでいた巨体の持ち主…ドラゴンが降り立つ。
紫色の固そうな鱗。頭から生えた二本の角、手足の爪は鋭く尖っている。
眼は赤く血液の色。開いた口からは分厚い舌がチロリと覗いていた。
目の前の迫力に圧倒され逃げることさえもせずただドラゴンの行動を見ていることしかできなかった。
「ピ…ィ…」
唖然とする。
遠目で見てわかっていたが、なんと綺麗なドラゴンだろうか。
…架空上でしか見たことのない、伝説的生物。
それが今目の前にいる。
…圧巻。圧倒。凌駕。知り得る言葉を頭に並べてみる。
怖くない、とは言わない。面前にいる巨体は大迫力で自分より何百センチも高い。
しかしそれよりも、何よりも美しさが勝る。紫色の鱗は太陽に照らされキラキラと輝き、此方をみる真っ赤な瞳はルビーやガーネットなんかの宝石にも例えられるだろう。
…ああ、なんて美しい…ドラゴンだろう。
吐息すら口からもれてくる始末でうっとりと目の前のドラゴンを見つめていれば不意に声が聞こえた。
空気を通す声ではない、心から直接語り掛けてくるような不思議な声だった。
(…着いてくるか?)
酷く落ち着いた声。真っ赤な瞳は睨むこともせずに静かに凪いでいる。
声主は面前のドラゴンなことくらい理解している。否、この世界には自分とドラゴンしかいないと思えるくらい彼に盲目的になっていた。
自分はその美しいドラゴンの言葉を否定など出来るわけもなく小さく頷いた。