常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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第十五話 私は戦艦が好きだ!

 パーパルディア皇国が事実上の活動停止に追い込まれてから約一年の歳月が流れる。

 神聖ミリシアル帝国の港町カルトアルパスには先進十一ヵ国会議に参加するために世界各国の軍艦が次々と訪れていた。

 

「第一文明圏、トルキア王国軍様御一行。いらっしゃいました。戦列艦七、使節船一、合わせて八隻になりま~す!」

「いらっしゃいませ~! 第一文明圏エリアへご案内して下さ~い!」

 

 港湾管理責任者ブロンズはひたすら愛想を振りまく。オーバーリアクション気味に手を振り回しては頭を深々と下げる。

 

「続いて第一文明圏、アガルタ法国様御一行。お着きになりました。魔法船団六、民間船二」

「お待ちしておりました~! ご相席お願いしま~す!」

 

 とにもかくにも決して笑顔をだけは絶やさない。それが彼の処世術なんだからしょうがない。

 笑顔とお辞儀はタダなのだ。使わんと勿体ない。

 

 それにしてもどいつもこいつも代わり映えせんなあ。

 暗い闇の底で二年もの間、先進十一ヵ国会議を待ち続けてきたブロンズにはただの軍艦ではもはや足りない!!!

 軍艦! 軍艦! 軍艦!

 

 我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする軍艦だ!

 情け容赦のない糞の様な軍艦を望むか? 鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す嵐の様な軍艦を望むか?

 

 よろしいならば大戦艦だ! 一心不乱の大戦艦だ!

 

「もしもここに第零式魔導艦隊があったらなぁ~ 世界中のどんな軍艦だってガラクタみたいに見えるはずなのに」

 

 普段は港町カルトアルパス近所の基地を有している第零式魔導艦隊は今日に限って留守だ。なぜならば軍艦でごった返すお祭りの日にはいつもここを逃げ出すかのように西方群島へ訓練に行っちまうんだもん。

 

 とにもかくにも軍艦フェチっていうかマニアっていうか三度の飯より軍艦が大好き? って言うか、軍艦だけでご飯が三杯は行ける港湾管理者ブロンズはwktkが止まらない。

 

 そんな彼が今年の参加国の中で最も注目しているのは第八帝国ことグラ・バルカス帝国。

 ついでにムーに航空機の技術提供を行ったとかいう噂が独り歩きしている四井…… じゃなかった、日本だ。

 

 なんでも風の噂によればパーパルディアが参加辞退、っていうか行きたくても行けないって泣き付いたんだそうな。それにムーがやたらと強く推薦したもんで日本の参加が決まったというのがもっぱらの噂だ。

 

 とにもかくにも、この二カ国は初参加なので事前情報が全く無い。予想屋の見立てもバラバラで誰を信用したら良いのか分からん状態だ。

 高まる一方の期待と不安でブロンズは胸が押し潰されそうになって来る。

 

 その時ふしぎなことがおこった! じゃなかった、歴史が動いた!

 不意に監視員たちが狼狽えたように大声を上げる。

 水平線から姿を現した船が想像を絶する巨大さだったからだ。まだ数十キロも離れているというのにあの大きさだと! 近付いたらどうなっちまうんだろう?

 凄く大きいです! しかも速いです! ブロンズは開いた口が塞がらない。

 

「グラ・バルカス帝国様、戦艦一隻。おいでになりました~!」

「お一人様でしたらカウンターの方にお願いいたしま~す!」

 

 グラ・バルカス帝国が満を持して派遣した最大の戦艦グレードアトラスター。

 

 全長は263.4メートル。実はコンパクトに作るための工夫が凝らされている。例えばバルバスバウがなければ三メートルは長くなっていたかも知れないんだとか。

 だが、そんなことを知る由もないブロンズはあまりの巨大さに目眩がしそうだ。

 全幅はパナマ運河を通ることができない38.9メートルもある。

 満載排水量は72,800トンだ。

 艦本式タービン四基四軸の出力は十五万馬力にも達する。

 

「なんちゅうどでかい砲を積んではるんや!」

 

 思わずお国言葉が出てしまう。

 そのあまりの大きさのせいで隣近所の戦列艦や魔法船団が超精巧なミニチュアに見えてしまいそうだ。

 港湾関係者たちは全員が全員、ただただ圧倒されるしかない。

 

「ブロンズ所長、次のお客様が来られました!」

 

 部下に言われてブロンズは巨大戦艦から視線を外して振り返る。だが、視界に入って来た物はといえば…… 巨大戦艦、巨大戦艦、巨大戦艦、巨大戦艦。わけがわからないよ……

 

「な、なんじゃこりゃあ!!!」

「日本国様御一行、参られました! 戦艦四隻、空母一隻、巡洋艦四隻、他一隻、計十隻になります!」

「阿呆かぁ~! こんな大艦隊、いったいどこに案内すれば良いんだよぉ~! 入港許可は二隻まで。他は外洋で停泊するようにお伝えしろ!」

 

 ブロンズは部下に当たり散らしながらも双眼鏡を覗いて日本の戦艦を観察する。

 

「日本国の巨大戦艦は…… どこからどう見てもグラ・バルカス戦艦にくりそつ(死語)だぞ。まさか劣化コピーじゃなかろうな。とは言え、同型艦が四隻とは恐れいったぞ。それにコピーが本家を上回ることだって良くある話だし。よくよく観察すると細部がちょっとずつ違っているぞ。みんなちがってみんないい。これはこれで興味深いな……」

 

 大きな声で独り言を言いながら双眼鏡で舐め回すように戦艦を見ているその姿は変質者そのものだった。

 

 

 

 

 

 当初、日本国政府は先進十一ヵ国会議にこのような大艦隊を派遣する予定は毛頭無かった。

 そもそも参加するつもりすらなかった。なぜならば日本は未だにクイラとクワトイネ以外を国家承認していないばかりか人間とすら認めていなかったのだ。

 しかし、パーパルディアがまさかの参加断念。さらにはムーに泣き落としで懇願された結果、嫌々ながら参加することになったのだ。

 

 それでも政府は当初、派遣艦は巡洋艦か駆逐艦が数隻もあれば十分だろうと考えていた。

 ところが偵察衛星からの報告が事態を急変させる。それはグラ・バルカス帝国が大和にくりそつ(死語)な戦艦を保持しているという偵察写真だった。

 しかもどうやらグラ・バルカス帝国はその巨大戦艦を先進十一ヵ国会議に派遣するつもりらしい。

 

 この情報をいち早く察知したのは独自の情報網を持つ大和型戦艦保存会だった。会長の豊中元総理は政界へのコネを総動員する。そしてなんとびっくり、動態保存されていた大和型戦艦四隻を親善航海の名目で派遣艦隊に随伴させることを認めさせたのだ。

 

 かつて、大和型戦艦たちは実戦において何度か地上目標に対する艦砲射撃を行った。だが、本来の目的とされた敵戦艦との砲撃戦を行う機会は一度も経験したことがない。そして高額の維持費が問題視されて二十世紀の終わりに除籍となっていた。

 その後は熱心な愛好家たちが立ち上げた保存会に払い下げられる。活動資金をクラウドファンディング等で集めては全国でイベントを開いて回る日々を送っていたのだ。

 

 

 

「よっしゃよっしゃ、ええ感じやで。グラ・バルカスのグレードアトラスターとか言うたかな? アレはホンマに大和とくりそつ(死語)やな。ええか、バンバン撮っとけよ。ウチらの大和と一緒に並んだ絵を抑えとくんや」

「わかってます、わかってます。まかせておいて下さいな」

 

 何でも仕切りたがる豊中元総理はテレビカメラマンの仕事にまで口を出していた。みんなは揃ってあからさまに迷惑そうな態度を取る。だが、他者への共感能力に問題でも抱えているんだろうか。元総理は全く気にする様子が無い。

 

「会議の後にでもグラ・バルカスに頼み込んで並走する所を撮らせてもらえんかなあ。もし出来るなら艦内の様子も撮らせて欲しいし。あと、四十六センチ砲を斉射してもらえんもんじゃろかなあ? うわぁ~! wktkが止まらんぞぉ~!」

「どうどう、元総理。餅付いて下さいな」

「えぇ~っ! 逆に何でお前はそんなに落ち着いてられるんだ? 大和型戦艦が四隻揃い踏みしてるだけでも凄いのに五隻目がいるんだぞ。これが興奮せずにいられるかってんだよ!」

 

 大はしゃぎする元総理を乗せた大和はカルトアルパス港に静かに停泊した。

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス 帝国文化会館 一階大会議室

 

 四井物産の富田林、四井商事の枚方、四井建設の放出(はなてん)、四井不動産の喜連瓜破(きれうりわり)、エトセトラエトセトラ…… 

 日本国外務省が頑として出席を拒んだため、四井グループにお鉢が回ってきたのだ。

 

 一同は入り口でもらったチケットの番号を見て銘々の座席をチェックする。

 良かった! 四井グループだけでちゃんと一纏まりの席を確保してくれていた。一人だけ離れた席とか当たったら最悪だもん。

 いったんロビーへ出ると物販コーナーを一巡りしてお土産を買い込む。

 紙袋一杯の戦利品を抱えた一同は自販機で飲み物を買い、ベンチで雑談しながら時間を潰す。

 入口でもらったリーフレットに目を通しながら富田林が口を開いた。

 

「もうすぐ始まるこの会議っていったい何を決めるんだろうな?」

「事前に何のテーマも決めない会議なんて聞いたことも無いですよ」

「もしかしてアレかな。ブレインストーミング的な何かをやるのかも知れませんよ」

「でも近年はブレインストーミングは役に立たないっていうのが定説みたいですよ。批判厳禁だと碌なアイディアが出ないんだとか」

「「ですよねぇ~~~!!!」」

 

 思わず全員の声がハモった。一同は周囲の目も憚らず一頻り大笑いする。

 暫しの後、静寂が戻るのを見計らったかのように変テコな格好をした三人の男たちが近付いてきた。

 

「アガルタ法国外交庁のマギと申します。四井のみなさんでしょうか?」

「いいえ、ケフィアです」

「け、けひあ?」

 

 唖然とするマギを放置して四井の面々は会議室へ戻る。

 

「良かったんですかね? 富田林さん」

「かめへんかめへん。あんなんいちいち相手にしとったら……」

 

 その時、ふしぎなことがおこった。天井のスピーカーからアナウンスが流れたのだ。

 

「ご来場の皆様、本日は先進十一ヵ国会議にご来場いただき誠にありがとうございます。開会に先立ちましてご出席の皆様にお願い申し上げます。お席でのご飲食はご遠慮下さい。 また、全館禁煙となっております。魔信やアラーム付時計等は他のご出席者様のご迷惑となりますので必ずお切り下さるようご理解とご協力をお願いいたします。また、許可のない魔写撮影、録音、録画は固くお断りいたします。まもなく開会でございます。ホワイエにおいでの出席者様はお席についてお待ち下さい」

「ホワイエって何ですか? 富田林さん?」

「ロビーのことだろ。確かフランス語で暖炉とか団欒って意味だぞ。しかし何でまたフランス語なんだ? 異世界の言語変換システムのバグかも知れんな」

「会議の先行きが心配になって来ましたね」

 

 一同は先ほど確認した席へと戻る。幸いなことに席に知らない人が座っていたりはしない。新幹線で何度かそんな目に遭ったことのある富田林はほっと安堵の胸を撫で降ろす。

 豪華絢爛に飾り付けられた椅子は見栄えは立派だが座り心地はイマイチだ。一同は念のために用意していた座布団を敷いた。

 

「お待たせいたしました、只今より先進十一ヵ国会議を開催いたします」

 

 会議室内に女性の声で開会を告げるアナウンスが流れる。

 その瞬間、会場に集う全員が一斉に盛大な拍手を始めた。

 何だかコミケみたいだなあ。富田林は吹き出しそうになったが空気を読んで我慢する。

 郷に入っては郷に従え。四井の面々も薄ら笑いを浮かべながらおざなりな拍手をした。

 

 

 

 議長の指名によりエモール王国が発言する。

 

「空間の占いの結果を発表します。古の魔法帝国ラヴァーナル帝国は今後三十年以内に七十~八十パーセントの確率で復活し、前回を大きく上回る被害が想定されています」

「な、なんじゃそりゃあ~!」

「前回よりも酷いんじゃね?」

「予報が的中すれば経済に与える影響は計り知れないぞ」

「うひょひょひょひょ! げはははは! いひひひひ! ぎゃはははは!」

 

 騒然とする会場の隅っこから突如として下品な笑い声が聞こえてくる。

 声の主はと目を見やれば二十代前半から後半、あるいは三十代前半から後半、もしくはそれ以上の女。女性の年齢は分かりにくいのだ。特に化粧が濃い場合は。

 とにもかくにもそんな女が大口を開けて豪快に笑いながらパチパチと手を叩いていた。

 いくら楽しいからってそこまではしたない笑い方をしなくても良いのになあ。そこそこ美人さんだというのに実に勿体無い。

 

 会議室内の全員が全員、ドン引きの顔をしているのに気付いた女は不意に真顔に戻ると口を開いた。

 

「失敬失敬、私はグラ・バルカス帝国外務省、東部方面異界担当課長のシエリアだ。魔帝とやらは知らんけど、そんな昔話を真面目に怖がるだなんて君らは子供か! ちょっとばかしびっくこいたぞ。占いの結果を世界首脳会議で議論するだなんて正気を疑うな」

「いやいや、占いって言葉のイメージに引っ張られてはいかんぞ。予知魔法とか予言魔法って言い換えれば随分とそれっぽく聞こえるだろう?」

「そもそも魔法だなんてお前たちはそんな御伽話を本気で信じているのか? 話にならん!」

「話にならんのはこっちだ! 貴様はこの天井の照明が何で光ってるのか知らんのか? 空調だってそうだろ。この世界は全部が全部、魔法で回ってるんだぞ。現実を直視出来ていないのは貴様らの方だろが!」

 

 真面目な議論かと思っていたらいつの間にか子供の言い争いへとレベルが下がって行く。

 

「ち~が~い~ま~す~~~! 高度に発達した科学は魔法と区別が付かないんです~! あんたらのいう魔法だって原理を解明すれば絶対に何らかの科学的な現象のはずなんです~!」

「いやいや、だったら予知魔法や予言魔法だって何らかの科学だろうが。お前の方こそ言ってることが矛盾してるじゃんかよぉ~!」

「いやいや……」

「そんなことは……」

 

 これはもう駄目かも分からんな。四井の面々は適当な理由を付けて中座しようかと互いに顔を見合わせる。

 だが、それより一瞬早くグラ・バルカス帝国の女外交官シエリアがヒステリックに怒鳴り散らした。

 

「黙らっしゃい! そもそも我がグラ・バルカスは話し合いに来たわけじゃない。全世界へ宣言するなら丁度良い機会だと思っただけだ。グラ・バルカス帝国は帝王グラルークスの御名において宣言する。我らに降伏せよ。お前達を我々と同化する。お前達の文明は我々の一部となる。抵抗は無意味だ!」

「こ、幸福?」

「いやいや、降伏だ。降参、お手上げ、負けましたってことだ。どうだ、この場で降伏しようという殊勝な国は無いのか? 最初に降伏した国にはいろいろとお得なインセンティブが付与されるぞ? さあさあ、今なら早い者勝ちだぞ?」

 

 一瞬の沈黙。と思いきや意外と長い沈黙の後に会場がざわつく。

 

「お得だと言ってるけど美味い話には裏があるっていうよな?」

「綺麗な薔薇には棘があるみたいな例えだよな」

「一番じゃなきゃ駄目ですか? 二番じゃ駄目なんでしょうか?」

 

 突拍子も無いシエリアの言葉に一同はどう反応すれば良いのか意見が纏まらない。

 不規則発言が飛び交い速記者がパニックになりかけた。

 

「思った通りか。まあ、私も初めての営業がそんなに簡単に行くはずがないと覚悟はしていたんだ。それに戦わずして降伏されても興醒めだしな。ちなみに帝王様はのんびり屋さんだぞ。一戦交えた後でも全然オーケーだから降伏したくなったらいつでも連絡して下さい。二十四時間三百六十五日、オペレーターが受け付けております」

 

 グラ・バルカス帝国の連中は立ち上がると中座しようとする。

 

 だが、その時ふしぎなことがおこった。じゃなかった、歴史が動いた。

 豊中元総理が突如立ち上がると許可も得ずに発言したのだ。

 

「ちょっと待った、グラ・バルカス帝国のお方々! 今の発言を宣戦布告と受け取って宜しいか?」

「そう受け取ってもらって結構だ。諸君らの戦艦も大きさだけは我が国に引けを取らぬようだが見掛け倒しでないことを祈っているよ。クックックッ……」

「だったら、今この瞬間にあなた方の戦艦を砲撃しても何の問題も無いわけですね。それを聞いて安心しました。では今すぐにやりますんでちょっくら待ってて下さいね」

 

 豊中元総理はスマホを取り出すとタッチパネルを操作する。

 

「あぁ~っ、もしもし。儂や儂。豊中や。オーケーが出たで。今すぐやってくれ……」

「ちょ、おま…… 少しだけ待ってもらって良いかな。何せ我々がまだ乗ってませんから。グラ・バルカスが負けることなどあり得んが、この場所が戦火に巻き込まれたら困っちゃうでしょ? 主に我々が。ね? ね? ね?」

「そ、それもそうかも知れんな。それにこんな至近距離で撃ち合ったら一瞬で決着が付いて面白く無いし。だったらこういうのはどうじゃろう。お互いに相手の姿が見えなくなるまで距離を取ってから開戦。これで如何かな?」

「そ、そうか。こちらもそれで不満は無いぞ」

 

 弱みを見せるわけには行かん。シエリアは内心の動揺を必死に抑えながらも平静を装う。

 一方でノリノリの豊中元総理は大はしゃぎで詳細を詰めて行く。

 

「ルールはデスマッチ。リングアウトも反則も無しで宜しいか? 降伏や捕虜も無しですぞ。まあ、逃げるのは勝手ですが後ろから撃つのも自由ってことで」

「う、うむ。依存はないぞ」

「では、互いにベストを尽くして良い戦闘を!」

「よ、良い戦闘を……」

 

 予想外の展開にシエリアは引き攣った笑顔を浮かべると逃げ去る様に会議室を後にした。

 四井の面々もそそくさとその場を後にする。

 

「しまったぁ~! 座布団を忘れてきたぞ。取って来るから先に行っててくれ」

 

 富田林はあたふたしながら駆け戻って行った。

 

 

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国の南部にある港町カルトアルパスの東西から南北方向に細長い半島が伸びている。その距離は六十キロにも達する。最大幅は十四キロほどの細長い小さな内海というか大きな湾というか。とにもかくにもそんな地形だ。

 

 グラ・バルカス帝国が誇る巨大戦艦グレードアトラスターは脱兎の如く港から逃げ去る。後を追うように戦艦大和も錨を上げた。

 

 

 

 

 

 同時刻、神聖ミリシアル帝国の西方群島において訓練中だった神聖ミリシアル帝国の第零式魔導艦隊を悲劇が襲った。

 突如として現れた謎の集団からの攻撃を受け、一方的にボコられたのだ。

 

 

 

 報告を受けた神聖ミリシアル帝国は侃侃諤諤だか喧喧囂囂だか分からないが物凄い議論の

末に開催地を東のカン・ブラウンへ移すことを決定した。

 

 だが、やる気満々の日本国に刺激を受けた各国艦隊も何となく戦わざるを得ないという状況になってくる。

 なにせ集団での意思決定は責任感が分散されるから危険な選択肢を選びやすくなるのだ。この現象をリスキーシフトと呼ぶそうな。

 

 

 

 一方そのころ戦艦大和のCICでは豊中元総理があっちこっちに電話を掛けまくっていた。

 

「ああ、儂や儂。聞いてくれ。大和型戦艦四隻が同型艦とマジバトルやど。どや? おもろいやろ? あぁ~? 何やと? 時間をきっちり決めろやと。いやいや、それは無理やで。これから大砲を撃ち合うのに十九時から初めまひょとか決めへんやろ? そんなん無理やで」

「大体で結構ですよ。何時に始まるかも分からん物を中継し続けられないでしょう? こっちは四隻で挟み撃ちに出来るんですから適当に距離を取って時間を稼げばある程度の調整は難しくないはずですよ。こっちのゴールデンタイムにやって下さいな。そっちでは朝だから映像的にもベストですし」

「うぅ~ん、あと十六時間以上もあるぞ。どうやって時間を潰そう」

「いやいや、こっちは今から放送枠を取ったり告知したり。中継やアナウンサーの手配とかもあるから大忙しですよ。じゃあ頼みましたよ。しくよろ~(死語)」

 

 電話を終えた豊中に岸和田は遠慮がちに話しかける。 

 

「だけども元総理。撃ち合いなんかして大丈夫なんでしょうか? 貴重な大和や同型艦を傷付ける恐れがありますよ。保存会の人達に怒られないっすかねえ」

「そのことならば心配には及ばんよ。戦艦は戦ってこと華、負けて沈めば泥。たとえ轟沈されようとも、それが戦によるものならば本望というもんだ」

「そんなもんですかねえ。私なんかにはさぱ~り理解できん世界ですよ」

「ジェイムズ・F・ダニガンの本にこんな話があるぞ。1906年から1945年の間に全世界で建造された戦艦は百七十隻にも上る。その費用は二十一世紀の貨幣価値に換算すると三千億ドルにも達するそうな。だけども戦艦同士が砲撃戦をする機会は全くと言って良いほど起こらなかった。二度の世界大戦やその他の戦いで沈んだ戦艦は五十五隻。そのうち戦艦に沈められたのは五隻だけだったんだ。他は何だと思う? 二割弱は事故で沈んだ。潜水艦や魚雷艇とかに一割ほど。残りの四割は航空機の攻撃によるものだ」

「つまりその…… 元総理は航空機による攻撃を警戒しておられるのですか?」

「いやいや、お前は人の話をちゃんと聞いてたのか? 俺は活躍の機会を得られなかった大和型戦艦に一花咲かせてやりたいだけなんだよ。これまで大金を投じて動態保存してきたのもこんな日を夢見ていたからなんだ。いいか? このショーだけは絶対に成功させねばならん。絶対ニダ!」

 

 豊中元総理はスマホを取り出すと新たな相手に電話を掛けた。

 


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