常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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最終話(嘘) 最後の戦い

 グラ・バルカス帝国が誇る巨大戦艦グレードアトラスターの艦長ラクスタルは憤慨していた。

 会議から戻って来た外務省のシエリア課長とかいう偉そうな女は艦を直ぐに湾外へ出せと命令しやがった。しかも日本の戦艦が視界から消えた所でUターンして戦闘に突入せよとのことだ。

 

 いやいや、軍人なんだから命令とあれば戦闘は厭わない。帝国を後にした時から、って言うか軍人となったその日から戦闘任務をwktkして待っていたのだ。本来ならば楽しみでしょうがないところだろう。

 だけどもどうして外務省の女課長ごときに命令されなきゃならんのだろう。いつから軍は外務省の下部組織になったんだ? そもそも命令一元性の原則に反するじゃないか。もし消防署長や税務署長に命令されたら聞かにゃならんのか? 保健所や裁判所の命令だったら? 何で外務省だけが特別扱いされなきゃいかんのだろう? そもそもこの命令に法律的有効性ってあるんだろうか? 後になって違法行為だって言われたらどうしよう。分からん、さぱ~り分からん!

 

「ラクスタル艦長! 大変です、前方二十海里。湾の入り口を敵と思しき艦隊が塞いでいます。

戦艦三、巡洋艦三、駆逐艦二。強行突破されますか?」

 

 パニックになりかけた艦長は副長の声で我に返る。

 

「ちょっと待て。あの三隻の戦艦はグレードアトラスターと同じくらいの大きさがあるぞ。単艦での突破は危険が危な過ぎるな。沖合に待機している空母艦隊に支援を要請しようよ。って言うか、お願いしてくれ。それもなるべくなら丁重にな」

「了解いたしました」

 

 ラクスタル艦長は考えるのを止めた。

 

 

 

 

 

 停める場所が無いと言われてカルトアルパス入港を断られた大和型戦艦三隻は港から南に六十キロ行った海峡出口に停泊していた。

 大和型二番艦武蔵、三番艦尾張、四番艦紀伊の三隻だ。

 

「艦長、五十海里ほど南から航空機が多数北上して来ます。数は…… 約二百です」

「何で今まで気付かなかったんだ?」

 

 大和型戦艦保存会副会長の淀川は四番艦紀伊の艦長という肩書を任されていた。もちろん本物の軍人ではない。だが、保存会の会員規約でそれ相応の待遇と権限が与えられている。

 

「たった今、空母から発艦させたとかじゃないですかね?」

「だったら何でその空母が発見できんのだ?」

「いくら水平線が遠いといっても五十海里離れてたら本艦のレーダーには映りませんよ。ヘリを上げておけば良かったですね」

 

 人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべながら答えて来るのは保存会若手の鶴橋という男だ。

 

「んじゃ今からでもヘリを上げてくれ。敵艦隊の位置が不明じゃ戦いようがないからな」

「アイアイサ~! って、それよりも航空機はどうすんですか? 二百ですよ、二百。もしかしたら大半は雷撃機かも知れないですよ」

「そんじゃ撃ち落とすか? 戦艦同士の対決は明朝まで待てって言われてる。だけどもそれ以外に手を出すなとは聞いてないし。とは言え二百とは参ったな。一発一億のESSMを使ったら二百億も掛かっちまうじゃんかよ」

 

 口を尖らせた淀川は不満そうにボヤく。

 

 ちなみに大和型戦艦は1980年代の近代化改修の折、対空兵装が徹底的に強化されていた。

 さらに今回は四井重工のご好意でSAMやSSMをVLSに満載してもらっている。ただし、使った分は後で精算する富山の薬売り方式なのだ。

 この戦闘をテレビ中継する放送権料やDVD・ブルーレイの販売収益などでそれなりの収入が期待出来る。とは言え、二百億も使ったら絶対に赤字だ。何とかせにゃならんぞ。

 

 淀川は頭を抱えて小さく唸る。だがその瞬間、通信士が振り向く嬉しそうに口を開いた。

 

「防空巡洋艦生駒から入電です。『航空機の対処は我らに任せて大和型戦艦は敵戦艦との戦闘に注力されたし。とある大和型戦艦ファンより』とのことです」

「ラッキー! 海軍さんがやってくれるんなら大助かりだぞ。やっぱファンは大切にせんといかんな。ちゃんと礼を言っといてくれよ」

「了解!」

 

 直後、少し離れた所に停泊していた防空巡洋艦と防空駆逐艦から二百発のESSMが発射された。二分足らずでレーダーから全ての反応が消える。

 続いて十数発のハープーンが発射され空母、巡洋艦、駆逐艦が葬られた。

 

 

 

 

 

 ラクスタル艦長は前方の艦隊から打ち上がる花火の様な光をぼぉ~っと見詰めていた。

 何だか知らんけどとっても綺麗だなあ。

 

 暫くすると副長が遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「艦長、空母艦隊との通信が突如として途絶えました! 直前に二百の航空隊もレーダーから消えています。最後の通信が切れる直前には爆発音や悲鳴が聞こえたとのことです。何やら予想外の事態が起こっているのではないでしょうか?」

「あるいは『ドッキリ大成功』みたいな展開かも知れんけどな。いずれにせよこのまま前進するのは危険が危ない。反転してカルトアルパスに残った戦艦一隻を相手にするのが吉じゃなかろうか?」

「ですよねぇ~ まずは一対一で敵戦艦を葬るべきです。ついでに港町を火の海にしちゃいましょう。敵の混乱さえ突ければ外洋へ脱出するチャンスも生じるかも知れんし」

「そんじゃあ回頭してくれるかなぁ~? カルトアルパスに戻るぞぉ~!」

「アイアイサ~!」

 

 ぐるりと艦首を巡らすとグレードアトラスターはたったいま来たカルトアルパスへ向かって全速で進む。

 一時間足らずで敵戦艦が見えて来るだろう。見えて来るはずだったのだが…… いないんですけどぉ~!

 

「いったいどこに行ったんだ、あの戦艦は? まさか怖気づいて逃げたんじゃなかろうな? あんなに戦いたがっていた癖に。あのやる気は嘘だったのかよ。俺はいったい誰を信じたら良いんだ? もうすぐ日が暮れるぞ。レーダーはどうなってる?」

「それが先ほどから全く何も映りません。この星に特有の電磁波か何かがアレをアレしてるのかも知れません。知らんけど」

「うぅ~ん、照明弾や探照灯を使うとこっちの位置が先にバレちまうからなあ。こうなったら地道に目で探すしか無いのか。参ったぞ。取り敢えず手の開いてる奴を見張りに立ててくれ。敵艦を見つけた奴には賞金を出すぞ」

「分かりました。みんな張り切りますよ」

 

 グレードアトラスターは日本の戦艦を探して湾内を当てもなくグルグルと放浪する。だが、幅十四キロで奥行き六十キロの湾内のどこを探しても見付けることはできない。

 それもそのはず、戦艦大和はレーダーでグレードアトラスターの位置を正確に把握して逃げ回っていたのだった。

 

 

 

 

 

 翌日の早朝、寝ぼけ眼を擦っていたラクスタル艦長はけたたましい叫び声に驚かされた。

 

「敵戦艦発見、後方二十海里! 空母一隻と共にこちらへ向かって三十ノットで航行中」

「海峡入口を封鎖していた艦隊の姿が見えんぞ。脱出するチャンスではないのか?」

「罠かもしれません。下手をすると囲まれてタコ殴りされますよ。やはりタイマンで一隻沈めてからの方が宜しくありませんか?」

「分からん、さぱ~り分からん。だが、逃げ回っていた奴が急に姿を現したんだ。こっちの方がよっぽど罠っぽいぞ。どのみち外洋に出なければ国にも帰れんし。だったら損害を受けていない今のうちがベストだろう。このまま湾外に出ろ」

「了解!」

 

 グレードアトラスターも二十七ノットまで加速して一気に海峡を抜ける。外洋に出ても昨日の艦隊が待ち伏せしていたりはしない。

 良かったぁ~! ラクスタル艦長はほっと安堵の胸を撫で下ろす。

 副長も半笑いを浮かべながら話しかけて来た。

 

「艦長、どうやら無事に外洋に出られましたね。でも、ここからどうすんですか?」

「このまま逃げ回ってばかりじゃ任務が達成できん。あのシエリアとかいう女に舐められっぱなしなのも腹が立つしな。最低でも一発は当ててやらにゃあ気が済まんぞ。んで、敵戦艦との距離は…… アレ?」

「艦長。何か知らんけど敵さん、めったやたらと凄い勢いで逃げて行きますよ」

 

 艦橋の端っこまで行って双眼鏡を覗くと猛スピードで東へ向かって疾走する敵戦艦の後ろ姿が小さく見えた。

 

「ほ、本当だ…… あいつらいったい何がしたいんだ? シエリア課長の言ってた話だと向こうから吹っかけて来たんだよな?」

「もしかしてアレじゃないすか、アレ。釣り野伏せ? 逃げると見せかけて追っかけて行ったら敵艦隊が総出で待ち伏せてるとかかも知れませんよ。そんな嫌な予感がするんですけど?」

「俺はもう何だかどうでも良くなってきたぞ。ぶっちゃけ寝不足で意識が朦朧として来たんですけど? 戦わずに済むんならそれに越したことないじゃんかよ」

「そ、それもそうっすね。それに向こうは三十ノット出てるんだから全力で逃げられたら絶対に追いつけませんし。諦めるなら早い方が良いですよ」

「んじゃ尻尾を巻いて逃げるといたしますか。ずらかるぞぉ~!」

 

 西を目指してグレードアトラスターはひた走る。あっという間に日本の戦艦との距離が広がった。三十分もしない内に六十キロ以上も距離が開いてしまう。

 赤道一周が十万キロもあるこの惑星では水平線が遠い。それでも六十キロも離れてしまうと敵艦の船体部分は水平線の下に隠れてしまった。艦橋の一部が見えるのみだ。

 その時、ふしぎなことがおこった! 艦橋後部の見張り員から叫び声が上がる。

 

「敵艦発砲! 巨大な爆炎が見えました」

「な、なんだってぇ~っ? 既に六十キロ以上も離れているんだぞ」

「前方でもほぼ同時に幾つもの光が見えました。もしや昨晩の敵戦艦ではありますまいか?」

「だけども六十キロだぞ。届くわけがないだろ? もし届いても奇跡でも起こらん限り当たるはずが無い!」

「万が一ということもあります。念のため回避行動を取りましょう」

「そ、それもそうだな。面舵一杯!」

 

 操舵手が舵輪を回す。だが大和型戦艦の追従性は非常に悪い。転舵しても実際に艦首が振れ出すのに九十秒も掛かるのだ。間に合うのか? こんなんで間に合うんだろうか? 間に合わなかったら困るなあ。だけども六十キロだぞ。仮に届いたとしても初弾が命中なんて絶対に無い。絶対ニダ!

 ラクスタルは自分に言い聞かせるように心の中で絶叫した。

 

 

 

 

 

 戦艦尾張の艦長箕面はCICでテレビモニターに映る映像を眺めながらお茶を飲んでいた。

 戦艦大和の豊中元総理から連絡があったのはついさっきの事だ。間もなくテレビ中継が始まる。圧倒的な遠距離から先制攻撃を掛けるからタイミングを合わせてくれとのオーダーだった。

 

 いくら二十一世紀の技術を持ってしても六十キロ離れた二十七ノットの目標に命中させるのは至難の技だろう。って言うか、目標がランダムに回避行動を取るとなれば運を天に任せるしかない。だけどもそれじゃあテレビ映えしない。そんな理由から今回、大和型戦艦保存会会長の豊中元総理は清水の舞台から飛び降りたつもりで取って置きのスマート砲弾の使用を決断した。

 

 重さ二トンを超える四十六センチ劣化ウラン弾が秒速千メートル近い初速で砲口を飛び出す。

 大和型戦艦が搭載している四十六センチ砲は三連装三基の九門だ。砲弾は相互の干渉を避けるための発砲遅延装置の働きで0.3秒ほどのズレを持って発射される。三連装の左右が先で真ん中が後だ。

 他の三隻もほぼ同時に斉射を行ったことがテレビ画面の中で見て取れる。着弾が同時になるように絶妙のタイミング調整がなされているはずだ。

 発射された三十六発の砲弾は一定の距離を飛翔した後、低下した弾速をロケットアシストで補う。弾道の頂点を越えた砲弾が下降に入り標的をセンサーが捉える。誘導フィンが砲弾の進路を目標に向けた。目標の真上に近付いた所で弾道が急激に真下に曲がる。加えてロケットアシストが駄目押しとばかりと砲弾を再加速した。

 

 

 

 四十六センチ砲弾は音速の二倍ほどの速度でグレードアトラスターに垂直に近い角度で命中した。砲弾の半数命中界(CEP)は僅か数メートルしかない。船体に万編無く当たるように割り振ったりしていなかったため砲弾は全て艦橋付近に集中した。

 

 大和型戦艦の前と後ろの砲塔を結ぶ船体中心線から左右へ一メートルの所にはバーチカルキールが設けられている。そしてその真上に船体中心縦隔壁が設置されていた。

 三十六発の劣化ウラン弾は艦橋を原型を留めぬほどに破壊する。五百ミリの装甲板に護られた防御指揮所を突き破り艦底にまで達した。

 ズタズタにされたキールではとてもではないが船体を支えられない。グレードアトラスターは七万トンを超える自らの重さに中央でポッキリ折れるとみるみる内に沈んで行った。

 

 

 

 

 

 副調整室に籠もって中継映像を見ていたテレビプロデューサーの玉造は開いた口が塞がらなかった。

 

「ちょ、おま…… あいつらは阿呆かぁ~っ! 放送が始まって三分しか経ってないんですけどぉ? 取り敢えずCM入れろ、CM! 轟沈する瞬間の映像は色んな方向から撮れてるよな? 水中ドローン撮影は上手く行ってたか? それじゃあCM開けはリプレイ映像で時間を繋げてくれ。その間に豊中元総理のインタビューの準備をするんだ。急げ、急げ、急げ!」

 

 その後の放送はまるで1ラウンドKOのボクシング中継のようだった。

 だが、視聴率は思っていたよりは悪くはなかった。もちろん、それほど良くもなかった。

 

 

 

 

 

 この戦いにおけるグラ・バルカス帝国側の生存者は一人もいなかった。

 だが、大和型戦艦保存会が動画配信を行ったためグラ・バルカス艦隊の最後は全世界の耳目に晒されることとなる。

 一部からは日本国のやり過ぎだとか弱い者虐め格好悪いとかいった批判も見られた。しかしレイフォルに置ける残虐行為が問題視されてグラ・バルカス帝国を擁護する者も非常に少なかった。

 やがてムーと神聖ミリシアル帝国が手を組んだグラ・バルカス帝国ネガティブキャンペーンが功を奏す。

 全ての列強国が参加した多国籍軍によるグラ・バルカス殲滅戦が展開されたのだ。

 

 この戦いにおいて大和型戦艦四隻は再び活躍の機会を与えられる。砲身命数が尽きるまで四十六センチ砲弾を撃ちまくったのだ。

 建造当初の大和の砲身命数は二百発程度だったと言われている。だが、その後の冶金工学の発達やトリプルベース火薬の登場。また、装薬への緩燃剤や焼食抑制剤、消炎剤の添加によって千数百発にまで延びていた。

 そのうえ、陸上砲撃に際しては通常の半分の弱装薬や通常の三分の一の減装薬を使う。この場合、砲齢計算は四分の一とか十六分の一で換算するのだ。

 そんなわけで大和型戦艦四隻に搭載されていた三十六門のそれぞれから一万発以上が発射された。

 

 およそ一週間に渡って隙間なく砲弾を叩き込まれた首都ラグナはあらゆる建物が爆破解体されてしまった。それどころか地面という地面が徹底的に掘り返さてしまう。その風景はさながらクレーターだらけの月面みたいだったそうな。

 

 

 

 

 

 日本へ凱旋した大和型戦艦は全国を巡って各地で熱烈歓迎を受けた。その後も暫くの間、日本中が戦艦ブームで沸騰する。

 だが、人の噂も七十五日。熱しやすく冷めやすい日本人はあっという間に大和たちの活躍を忘れてしまった。

 

 

 

 郷里の大阪に戻った豊中元総理は冬の大阪湾をぼぉ~っと見詰めながら誰に言うともなく呟いていた。

 

「あのグレードアトラスターが最後の一隻だとは思えない。もし人類が愚かな戦争を続けて行うならば、あのグレードアトラスターの同類がまた世界のどこかへ現れてくるかもしれない……」

 

 その言葉は誰の耳に届くこともなく、風に乗って消えて行った。

 




 尻切れトンボみたいな終わりでスミマセン。
 まあ、原作継続中の二次小説なんて綺麗に終われるわけないですもんね。

 とは言え、この終わり方は自分でも不完全燃焼なので先進十一ヶ国会議の辺りからのやり直しを書かせていただきます。
 15話と16話は原作でもあったボツ編って扱いでお願いいたします。

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