常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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前回の終わりがあまりにも酷かったのでリメイク版と言うか書き直しというか……
十一ヶ国会議スタートで違う世界線の話を書かせていただきます。
こっちは帝国海軍ではなく海上自衛隊なので大和型戦艦は出てきません。
護衛艦とかの艦名もひらがな、階級も大佐じゃなくて一佐とかになります。


第17話 再びカルトアルパスへ

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 皇宮一階 大会議室

 

「只今より帝前会議を開会いたします」

 

 殺風景でだだっ広い会議室に女性の声が響いた。

 パチパチパチパチ……

 参加者全員がコミケみたいに拍手をする。

 拍手が収まるのを待って帝王グラルークスが口を開いた。

 

「カイザル、ミレケネス。もうすぐ先進十一ヵ国会議だよな? 用意とかはちゃんと出来てんのか? ギリギリになってから慌てても知らんぞ」

「え、えぇっと、皇帝陛下。大丈夫です。多分ですけど……」

 

 イマイチ自信が無さそうに二人は口籠る。

 こいつはフォローが必要か? モポール外務省長官が助け舟を出した。

 

「皇帝陛下。もし、此度の作戦が上手く行けば全世界は再びラピュタ…… じゃなかった、我らの元にひれ伏すことになるでしょう」

「再び?」

「マジレス禁止です!」

 

 モポール外務省長官はピシャリと言い切る。

 だが、皇帝陛下はイマイチ納得が行かない顔だ。ちょっと不安げな顔で小首を傾げる。

 

「まさかとは思うけど神聖ミリシアル帝国とやらに負けはせんだろうな? 世界ナンバーワンの名を欲しいままにしてるって聞いたぞ?」

「いやいや、向こうの世界基準ではそうなんでしょう。向こうのね。ですけど我々とは住む世界が違うんですよ。なんせ異世界ですから」

「う、うぅ~ん…… しょうがないなぁ~ それじゃあ本案を承認するよ。くれぐれも宜しく頼んだからね」

「御意!」

「帝前会議を閉会いたします」

 

 女性のアナウンスが流れ、一同は再び盛大な拍手を行った。

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス

 

「第一文明圏、トルキア王国軍様御一行が到着されました! 戦列艦七、使節船一、合計八隻になりまぁ~す」

「第一文明圏エリアへご案内~!」

 

 続々と入港する船が適当に割り振られて行く。

 

「第一文明圏、アガルタ法国様御一行がお着きです。魔法船団六、民間船二、合計八隻になりまぁ~す」

「こちらにお名前をお書きのうえ少しだけお待ち下さいませ~!」

 

 港湾の管理責任者ブロンズは先進十一ヵ国会議が好きだ。先進十一ヵ国会議が好きだ。先進十一ヵ国会議が大好きだ!

 

 世界中の国と地域が参加者の護送を言い訳にして最新鋭の軍艦を派遣する。もしかして本当は新兵器を見せびらかしたいだけなんじゃないのかな? とにもかくにも世界中の軍艦が一同に会する二年に一度の絶好の機会なのだ。

 軍事マニア? っていうか軍艦フェチのブロンズにとってこのイベントは趣味と実益を兼ねた天職とも言えた。

 

「もしここに第零式魔導艦隊がいたらなあ。きっと世界中の軍艦だって粗末に見えたのに」

 

 普段、カルトアルパスから遠くない基地に第零式魔導艦隊は駐留している。だが、この会議の期間中だけは訓練を名目にどこかへ逃げるように出かけている。何でかはまでは知らんけど。

 

 それはともかくブロンズはwktkが止まらない。

 なぜならば参加国中に注目している国が二つもあるのだ。

 

 一つはレイフォルを瞬殺したというグラ・バルカス帝国。

 いま一つは第三文明圏の列強国パーパルディア皇国を屈服させた日本国。

 どういった艦隊がやって来るんだろうか。ブロンズのwktkは最高潮に達する。

 

 その時、ふしぎなことがおこった! じゃなかった、歴史が動いた! 監視員に電流走る……!

 常識外の巨大さ。まるで島みたいな船が水平線から姿を現すしたのだ。

 当たり前だが船は接近に従って徐々に大きさを増す。大丈夫なのかよ、この大きさは。座礁したら笑っちゃうんですけど。

 

「グラ・バルカス帝国様御一行…… じゃなかった、戦艦一隻のお一人様です」

「あ、あぁ…… 一番手前にお願いしまぁ~す!」

 

 その場にいる全員が全員、口をあんぐりと開けて呆けている。

 

「どんだけ大きな大砲を積んでるんだろうなあ」

 

 ブロンズはショーウィンドウのトランペットを眺める少年の様に羨望の眼差しで戦艦を見つめる。

 

「もしもし、ブロンズ所長。もしもし、もしも~し! ブロンズ所長ってば!」

 

 第八帝国の戦艦に夢中になっていたブロンズの意識が現実に引き戻される。

 

「へぁ?」

「へぁ? じゃないですよ。仕事して下さいな、仕事を。日本国のご到着ですよ。巡洋艦七、空母一、民間船二、合計十隻ご到着です!」

 

 ブロンズは双眼鏡を覗く。

 こいつは大きい船だなあ。明らかにグラ・バルカス戦艦より大きい。

 特に大きなのが三百メートルはありそうな船だ。この形状はタンカーだろうか。

 空母もグラ・バルカス戦艦と遜色ないほどの大きさに見える。

 その他の船もミリシアル基準で見れば巨大と言っても差し支えないだろう。とは言え……

 大砲ちっちゃ! 豆鉄砲もいいところだな。しかも一隻に一門しか積んでいない。

 もしかして日本って貧乏なのかなあ? だったら船の数を減らしてでも一隻当たりの大砲を増やせば良いのに。わけがわからないよ……

 

「アレ? あの変わった形をした船は何じゃらほい?」

「本当だ! アレも一緒に動いてるんだから船なんでしょうねえ」

 

 真っ黒で光沢の無い円筒形の船体。先っぽは丸く、後ろは艦尾に向かって斜めに下がっている。最後尾にはV字型に羽根の様な物も見える。だけれど空中にヒレを出しても意味無いじゃん。ブロンズは心の中で突っ込んだ。

 直径は十メートル、長さは八十メートルくらいだろうか。船体の真ん中より少し前方寄りに真っ直ぐに立ち上がった部分がある。高さは五メートルくらい、前後方向は十メートルくらいだろうか。上には細い棒の様な物が何本か立っている。

 

「分からん、さぱ~り分からん。何なんだろな、あの船は」

 

 港湾管理者ブロンズは暫しの間、謎の真っ黒な船を観察していた。だが、いくら観察してもその船の正体には見当も付かなかった。

 

 

 

 

 

 先進十一ヵ国会議に際してどういった艦船を参加させれば良いのか。日本国政府は大いに迷った。迷って迷って迷いまくった。

 対パーパルディアでは初見で舐められたお陰で出さなくても良い犠牲を双方が払うことになった。

 同じ失敗を繰り返す奴は馬鹿だ。絶対に失敗を繰り返さない。絶対にだ!

 羮に懲りて膾を吹く。何事にも極端から極端に振れるのが日本人の数少ない美点の一つなんだろう。多分。

 

 そんな時に入って来たニュースがグラ・バルカスという国の蛮行だった。

 ムーを経由して届いた情報を整理すると…… 平和で豊かな微笑みの国。地上最後の楽園とも言われるパガンダ王国に突如としてグラ・バルカスが襲来したんだそうな。連中はパガンダの王族にとっても無礼極まりないことをしたらしい。その結果、無礼討ちだか不敬罪だかで殺されたんだとか。悪は滅びた。めでたしめでたし。

 

 と思いきや、話はそこで終わらなかった。

 逆ギレしたグラ・バルカスはこともあろうにパガンダを滅ぼしちまったのだ。

 あのソクラテスも言ってるぞ。『悪法も法なり』って。

 いくら不満があるからと言って他国が正規の司法手続きに沿って下した判決を軍事力で覆そうだなんておよそ文明国のやることではない。

 

 これって生麦事件やアヘン戦争と全く同じ構図じゃないか! 新聞やテレビ等のマスコミに加えてネット界隈までもを巻き込んで国内世論は沸騰する。

 まるで『江戸の敵を長崎で討つ』といった感じでグラ・バルカス討伐を望む声が日本中を覆い尽くすのに然ほどの時間は掛からなかった。どっとはらい。

 

 

 

 そんなこんなで政府は空前絶後とも言える大艦隊を送り出すことになった。

 

 F-35Bを十二機積んだヘリコプター搭載護衛艦、イージス艦、護衛艦、補給艦、潜水艦、エトセトラエトセトラ。

 カルトアルパスに護衛隊群が一個群。それとは別に湾の外にも護衛隊群が一個群待機している。

 潜水艦も港に一隻、湾内に一隻、湾外に二隻という大盤振る舞いだ。

 こんなんで本国の守りは大丈夫なんだろうか。ちょっと…… いや、本気で心配になるレベルだ。

 とは言えパーパルディアが無力化された今、日本の周辺に差し迫った脅威は存在しない。いざとなれば陸自と空自に頑張ってもらおうということになった。

 

 実は偵察衛星でグラ・バルカスの不穏な動きは判明している。そのため、今回の派遣部隊は完全に準戦闘体勢と言っても良い状況であった。

 

 

 

 

 

ムーの空母 トウエンの艦橋

 

「あの大きいのを何て呼んでるんだって? 日本の連中は」

 

 ムスッとした顔で艦隊司令のブレンダスが艦長のマシガに話しかけた。

 

「確かヘリコプター搭載護衛艦ですね。実際には超音速飛行が可能な短距離離陸・垂直着陸戦闘機(STOVL)を十二機積んでいるそうですけれど」

「そんな物が空母じゃ無いなんて屁理屈も良いところだな。酷い欺瞞じゃないか」

「日本人は直接的な表現を避け、間接的な表現を好むんだそうですよ。たとえば早く帰って欲しい客に『ぶぶ漬けでもどうどすか?』とか言うそうですね」

「ぶぶづけ? なんじゃそりゃ。やっぱり日本人の考えておることはさぱ~り分からんな」

 

 ブレンダスは不機嫌そうに口元を歪めると小さくため息をつく。

 抑えて抑えてといった風に両手を動かすとマシガ艦長は宥める様に口を開いた。

 

「マリン改の最高速度が時速六百キロにまで向上したのは全て日本のお陰なんですよ。間違っても日本の…… 特に四井の人たちの前でそんな事を言わんで下さいね」

「それくらいのことは分かっておるわ。だがなあ、何でアレがヘリコプター搭載護衛艦なんだ? それだけはさぱ~り分からんぞ」

「日本という国は一事が万事そういう国なんだからしょうがないでしょう! メロンパンにメロンが入ってますか? チキンラーメンにひよこは入っていないでしょう? カニカマにカニは入っていない。サンタさんの正体はお父さん。それと一緒なんです!」

「……」

 

 とうとう逆切れしたマシガ艦長は早口で一息に捲し立てる。その勢いに気圧されたブレンダスは一段と不機嫌そうな顔になると黙り込んでしまった。

 

 

 

 

 

 ヘリコプター搭載護衛艦ひよりの艦橋で艦長席にちょこんと座った門真一佐は窓の外をぼぉ~っと眺めていた。

 ちなみに艦名の『ひより』は宮城県にある日本一低い日和山から取られたそうな。

 その標高はたったの三メートル。それまで日本一を誇っていた大阪の天保山を上回る? 下回る? とにもかくにも日本一低い山なのだ。そんな船の艦長になれた俺は幸せ者だなあ。もし天保山だったら……

 

「どこからどう見ても大和にくりそつ(死語)ですね!」

「うわぁ! びっくりしたなあ、もう……」

 

 急に背後から掛けられた声に門真艦長は心臓が止まりそうになる。

 血走った目で振り向くと副長の鶴見三佐が双眼鏡でグラ・バルカスの戦艦を食い入るように見詰めていた。

 

「そ、そうかなあ? だけど細かい所は結構違うみたいだぞ。高射機関砲…… じゃなかった、旧軍では二十五ミリでも高角機銃って言うんだっけ? あの戦艦の奴はボフォースの四十ミリみたいに大きいじゃん。それにレーダーとかは同時代の英米艦に似てる感じだし」

「ムー経由で入った情報によればあいつの五インチ砲にはVT信管が使われているかも知れんそうですね。技本の連中が言うには電子工学に関しては二十世紀半ばレベルだそうな。音響追尾式魚雷や核兵器を保有している可能性すらあるようです」

「とは言え七十年の技術力の差は如何ともし難いだろうな。ミサイルに関しては初歩的な物すら持ってなさそうだし。仮に核兵器を持っていたとしても巨大爆撃機が亜音速で飛んで来るんなら大した脅威にはならん」

「ですけど腐っても戦艦ですよ。あいつはハープーンでは沈められんでしょうね。まあ、射程五十キロの長魚雷を艦底で起爆させればイチコロですけど」

 

 人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべながら鶴見副長が鼻を鳴らす。

 門真艦長は思わずイラっとしたが強靭な精神力で平静を装う。

 

「そ、そうだよな。巨大戦艦など恐れるに足らん。だってあれが本当に役に立つんなら現代でも生き残ってるはずなんだもん。むしろ我々にとって最大の脅威は物量の方だ。だって、偵察衛星によると奴らの作戦艦艇は千隻を超えているらしいんだもん。これって第二次世界大戦時の米軍に匹敵しているそうだぞ。ちなみに戦時下のアメリカは艦艇を千百隻ほど建造し、航空機も二十二万機くらい生産したんだとさ。ついでに言うと商船も五千隻以上作ったそうな。ミサイルや魚雷が一発一億円だとしてこれに対処しようとしたらいくら掛かると思う? ミサイルは百発百中じゃない。それに敵がいつ何処にくるのか前もって分かるわけじゃない。だから余裕を持って対処するには何倍もの量が必要になる。仮に百万発用意するとしたら百兆円も掛かるんだぞ、百兆円!」

「どうどう、艦長。落ち着いて下さいな。そんだけ大量生産したら単価だって下がるんじゃありませんか? きっと半額とか三分の一くらいに出来ると思いますよ。って言うか、出来たら良いですねえ」

「いやいや、半額でも五十兆円だぞ。それに敵だって馬鹿じゃないんだ。安価で粗末な航空機やボートを大量生産するかも知れんぞ。って言うか、絶対にそうするな。間違い無い!」

「ご安心下さい、艦長。そのために我々がいるんです」

「うわぁ! びっくりしたなあ、もう……」

 

 またもや背後から掛けられた声に門真艦長は椅子からずっこけそうになる。

 引き攣った顔で振り返ると視線の先にはひょろっとした中年男性が立っていた。巨大なポケットがたくさん付いた青っぽい作業服の胸には井桁の中に横線が四本入ったシンボルマークが刺繍されている。

 

「ああ、天満さんじゃないですか。あんまり驚かさないで下さいな」

「失敬失敬、艦長がゴルゴ13みたいに神経過敏だとは思いませんでした。それはともかく、あれがグラ・バルカスの戦艦ですか。見れば見るほど大和にくりそつ(死語)ですね」

「その話はもう沢山ですよ。それより天満さん。四井ならアレを何とか出来るんですね? 信用しても良いんですか?」

「戦艦大和の建造費は当時の価格で一億数千万円。現在の価格に換算すれば千数百億円にもなります。一発一億円の魚雷を使っても十分にペイできるでしょう。ただし、魚雷のキャリアーたる潜水艦が七百億円くらいするし維持費も馬鹿になりませんけどね」

 

 そこで天満は一旦言葉を区切ると艦長と副長の顔を交互に伺った。

 二人の男は互いに顔を見合わせた後に軽く頷いて先を促す。

 同意が得られたと判断した天満は話を続ける。

 

「それより問題なのは戦闘機や雷撃機でしょう。連中の戦闘機は零戦にくりそつ(死語)だそうな。零戦の価格は昭和十五年に六万六千円、昭和十八年に五万五千円したらしいですね。これは機体だけの価格ですからエンジンやプロペラ、車輪、武装、装備品、エトセトラエトセトラを含めたら倍くらいになるでしょう。現在の価値に換算すると数億円。一発一億円のミサイルと単純比較すればお得に見えるかも知れません。でも、イージス艦は千五百億円もします。それに維持費だって糞高い。そんなわけで信頼性や確実性を多少は犠牲にしつつも画期的にコストダウンを図った対空兵器が要求されたのです」

「そ、そうですね……」

「彼らの装備は極めて粗末で原始的。この戦いは所謂、低強度紛争…… と言うレベルにすら当たりません。害虫や害獣の駆除に高価なハイテク兵器を使いますか? 使うわけがない。反語的表現! 今回の戦いでは我社はそれを証明してご覧に入れましょう。特等席に座ってご覧下さい」

「……」

 

 お呼びでない? お呼びでないね? こりゃまった失礼いたしました!

 天満は心の中で絶叫するとヘリコプター搭載護衛艦ひよりの艦橋を後にした。

 


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