常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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第二話 死ぬにはもってこいの日

中央歴1639年4月25日 マイハーク港

 

 ロウリア王国の四千隻からなる大艦隊が向かってくるという情報にマイハーク港は殺気立っていた。

 この国家存亡の危機に際してクワトイネ公国海軍第二艦隊は総力を上げて迎え討たんと準備に余念がない。ないはずだったのだが……

 艦船の数は小型の補助艦艇を加えたところでたったの五十隻。一対八十って凄いよなあ。

 提督パンカーレはまるで他人事のようにぼぉ~っと海を眺めて佇んでいた。

 

「なんとも壮観な眺めだな。そう思わんか? な? な? な?」

「もしかして私に言ってるんですか? だけども敵は四千隻って聞きましたよ。それって縦横に六十隻以上ですよね? 正面戦力的にはこっちの五十隻とそんなに変わらないかも知れませんね」

「ただし、こっちは倒しても倒しても後ろに新たな敵がいるんだけどな。鮫の歯みたいに次から次へと新しいのが出てくるんだぞ。やってられんわぁ~!」

 

 真面目に相手をするのが馬鹿らしいと思ったんだろうか。副官は返事もせずにどこかへ行ってしまった。

 と思いきや、捨てる神あれば拾う神あり。紙切れを手にした若い側近、ブルーアイが息を切らせて駆けてくる。

 

「提督、提督! 海軍本部より魔信が届きましたよ」

「読んでくれるかな」

「えぇ~っと、どれどれ…… 本日夕刻、四井海運に所属せる貨物船一隻がマイハーク沖合いに到着せんとす。彼の船は我が海軍に先んじてロウリア艦隊に対する攻撃を敢行せしめんがため、観戦武官一名を彼の船に搭乗させるように命ず。以上です」

「わぁ~い、船が一隻だって~! とっても頼もしいなぁ~! って、何じゃそりゃぁ~~~?! たったの一隻だと?! しかも貨物船?! わけがわからないよ……」

 

 パンカーレ提督はプロ顔負けの見事なノリ突っ込みを披露する。だが、ブルーアイの採点は厳しい。提督の体を張ったノリ突っ込みを華麗にスルーすると糞真面目な顔をしながら紙片をくるりと回して提督の眼前に翳した。

 

「間違いありません。まあ、これが敵の謀略でニセの魔信って可能性も無くは無いですけど」

「それか炙り出しか何かになってるんじゃないのか? 炎で熱したら一が百になるとかさ。やってみ? 騙されたと思ってさ」

「いやいや、そんなわけが無いでしょうに。って、ほんまやん。百ってなりましたよ」

「え、えぇ~っ! マジかいな、冗談で言ったのに」

「冗談ですよ。そんなん出るわけありませんやん」

 

 ブルーアイの顔が急に真剣な表情に戻る。慌てて提督も空気を読んで真面目な顔を作った。

 

「しっかしやる気はあんのかね、連中は…… それも観戦武官だと? たったの一隻しか出さないなんて観戦武官を人身御供か何かと勘違いしてるんじゃなかろうな? いったい何が目的なのか理解に苦しむぞ」

「連中だって馬鹿じゃないんですから何かしら目的があるんじゃないですかね? 船を一隻沈められ、クワトイネの観戦武官が死ぬことがメリットになる何かがあると思いますよ。そうじゃなかったら…… さぱ~り分かりませんな。とにもかくにもその役目、私にお任せ頂けませんか?」

「え、えぇ~っ! 死ぬかも知れんっていま言ったよな? 言わなかったっけ? 言ったような気がするんだけどなぁ……」

「私は剣術にだけは覚えがあります。恐らくクワトイネでも一二を争うか三番、四番くらいには。ひょっとすると五番目くらいかも知れませんけど。そんなわけで生存戦略を考えれば私は適任でしょう。それにギムの街を丸焼けにした日本の事です。ひょっとすると信じられないような奇策が飛び出すかも知れませんよ」

「そ、そうなのかな? そうとは思えんのだけど。まあ、どうしても行きたいって言うんなら止めはせんよ。そのかわり自己責任で頼むぞ」

「ははぁ~」

 

 

 

「オラ、こんなおおきな船は初めて見たゾ。ワクワクすっぞ!」

 

 数時間後。マイハーク沖に現れた巨大な船を目にしたブルーアイは腰を抜かさんがばかりに驚いていた。まあ、抜かしてはいなかったんだけれども。

 いったいどのくらいの大きさなんだろうか。あまりにも大きくて目測が付かない。付近に対比できるような物がないのでスケール感が沸かない。

 初めて日本と遭遇した第一海軍が二百メートルの船を見たって話は耳にはしていた。していたのだが…… 大きすぎるやろ~!

 待つこと暫し。聞いたこともない妙な音を立てて小さな船がとんでもない速さで近付いてくる。あれは全力疾走する馬よりも早いんじゃなかろうか。ブルーアイがそんなことを考えている間にも小舟は岸壁にピタリと寄せると急に静かになった。

 

「お待たせいたしましたかな? 商船四井の交野と申します。以後お見知りおきのほどを」

 

 三十代後半から四十代前半と思しき男が長方形の紙切れを両手で持って差し出しながら頭を下げた。

 ブルーアイも同じように頭を下げながら紙切れを受け取る。だが、何が書いてあるのかさぱ~り分からない。と思いきや、裏返して見るとクワトイネの文字が書かれていた。

 いや、書いてあるのでは無いな。まるで測ったようにきっちりとした等間隔で奇妙に細かい文字が並んでいる。これが噂に聞いた名刺という物なんだろうか。

 

「交野殿、これはいったい何なのでしょうか? 見たところ……」

「ブルーアイさん。すみませんが取り敢えず乗って頂けますか。お話ならば移動中にいくらでも時間がありますので」

「ああ、これは申し訳ないことをした。さあ、出して頂いて結構ですぞ」

 

 小舟は来た時と同じくらいの速さで沖の巨大船へ向かって走り出した。

 

 

 

 一同はエレベーターで六階まで上がった後、えっちらおっちら階段を登る。

 

「安全対策でエレベーターはブリッジに直結していないんですよ。ご不便をおかけして申し訳ないですな」

「いやいや、このエレベーターと申す仕掛けには驚きました」

 

 ブリッジに案内されたブルーアイは船乗り達の出迎えを受けた。

 

「船長の箕面と申します。大船に乗ったつもりでお寛ぎ下さい。十五万トンくらいの」

「十五万トンと申されましたか? 余りにも大きすぎて私には良く分かりません。いったいどれくらいの大きさなのでしょう?」

「ああ、お国では排水量や積載量を使わないんですかな? この船は全長三百メートル、幅五十メートルといったところです。プロダクトタンカーとしては大型の部類ですね。 カテゴリー的にはLRⅡ型 (Large Range 2) という八万~十六万重量トンの船に属します」

「そ、そうですか。これだけ大きければ兵もさぞや多く乗っておるのでしょうね。その代わりトイレとか大変ではありませぬか?」

 

 気になるのはそこかよ~! 船長は心の中で絶叫するが決して顔には出さない。人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべると立板に水のように流暢に喋り出した。

 

「いやいや、この船の乗員は二十三名ですよ。船長の私、機関長、航海士が三人、機関士が三人、甲板部員が六人、機関部員が六人、事務部員が三人。合計二十三人です。通信長は航海士が兼務しております」

「こ、こんなに大きな船をたったの二十三人で動かしておられるのですか! これは驚きました」

「もちろん三交代制ですよ。航海士と甲板部員の三班編成が四時間交替で当直します。まずは一等航海士と甲板部員が朝四時から八時と夕方四時から八時までブリッジに詰めます。二等航海士達は夜の零時から四時と昼の十二時から四時まで。三等航海士達は朝と夜の八時から十二時といった感じですな。昔は機関士達も機関室で当直していたんですけど最近のエンジンは自動運転ですから常時エンジンを監視したりはしません。もちろんトラブルが起これば真夜中だろうと叩き起こされますけどね。それと事務部員の三人っていうのは料理を作る人です。長い船旅では食事だけが楽しみですからね。とにもかくにも、乗組員は僅か二十三人。しかも夜に起きているのは当直の二人だけなんですよ。とっても寂しいんですよ」

「そ、そうなんですか…… って、そんなんで戦が出来るんですか? 相手は四千四百隻の大艦隊ですよ!」

「どうどう、餅付いて下さい。ブルーアイさん。もろちん…… じゃなかった、もちろん戦闘チームは別口で用意してあります。安心して下さい。後でご紹介しますから」

 

 

 

 富田林と枚方に両脇を抱えられたブルーアイはエリア51で捕らえられた宇宙人のようにブリッジを後にした。

 娯楽室のような部屋に連れて行かれたブルーアイはまたもや驚愕する。

 船内が明るいだと!

 

「何か燃やしているのですか?」

「火気厳禁ですよ。このプロダクトタンカーはガソリン満載なんですから。それはそうとロウリアの艦隊? でしたっけ? アレはここから西に五百キロほどの所にいるようですね。五ノットくらいで接近中らしいです。明朝に接触できるよう船足を調整して行く予定です。何かご質問はありませんか?」

「ほ、本当にこの船だけで四千四百隻の大艦隊を相手にされるおつもりでしょうか? 勝算はあるのでしょうな?」

 

 駆け引きは一切無しで単刀直入に問い掛ける。って言うか、さっきからそれが気になって気になってしょうがないのだ。

 この船は鉄船らしいから火矢やバリスタを弾き返せるかも知れん。それに舷側が恐ろしく高い。まるで城壁のような高さだ。長い梯子でもなければ乗り移ることすら難しいだろう。とは言え、たった一隻で四千四百隻を相手に出来るものだろうか。いや、出来まい。反語的表現!

 ブルーアイは心の中でガッツポーズ(死語)を作る。

 

 だが、富田林から返ってきた答えは意外なものだった。

 

「ブルーアイさん。貴方にアメリカインディアンのことわざを一つ教えて上げましょう。それは『今日は死ぬのに一番いい日だ』って言葉です。いつ死んでも後悔することのないように。そう思って一日一日を大切に生きて下さい」

「え、えぇ~っ!」

 

 次の瞬間、富田林と枚方が堪え切れないと言った顔で吹き出す。ブルーアイは狐に摘まれたような顔で口をぽか~んと開けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 翌朝、まだ陽も暗いうちからブルーアイは目が覚めてしまった。

 顔を洗って歯を磨き…… って、水が使い放題だと! 海の上では水は貴重じゃないのか! 

 

「いやいや、ブルーアイさん。やっぱり水は貴重品ですよ。とは言え、潜水艦みたいに三分間のシャワーが週三日だけなんてことはないですけどね。それはそうと、もうすぐロウリア海軍とやらが見えてきますよ。食堂に行きましょう」

 

 富田林に連れられて通された部屋はさほど広くもなかった。壁に掛かった大きな板には魔写と思しき動く映像が写っている。細長い机の上にも小さいが同じように動く魔写が何枚も置かれている。その前では枚方と助手らしき若い男が忙しげに手を動かしていた。

 正面の巨大な板に写っているのは青い大海原の上をゆらゆら漂っている帆船だ。映像がずぅ~っと引いて行くと周囲にも似たような船が等間隔で並んでいる。一隻一隻が豆粒のように小さくなっても画面一杯に船が犇めく。

 

「このソフトによれば四千四百十二隻だそうですよ。確かめる気にもなりませんけど」

「まあ、そんなもんなんじゃないのかな。取り敢えず途中で二手に別れたとか別働隊がいるとかは無さそうだな。んじゃ、やりますか」

「ところで警告とかしなくても良いんですかね?」

「もしかしてアレか? 『ロウリア艦隊に告ぐ。ただちに降伏せよ。馬鹿めと言ってやれ。はっ? 馬鹿めだ!』みたいな?」

 

 富田林は沖田艦長になりきってモノマネを披露する。枚方にはヤヤウケといった感じだ。

 

「あはは、意外と似てましたよ。八十五点ってとこですかね」

「案外と厳しいな。それはともかく降伏勧告なんて要らんだろ。だってあいつらはクワトイネの農作物を荒らす害獣って扱いなんだもん。下手に降伏されても扱いに困るぞ」

「いやいや、絶対に降伏しませんって。するわけが無いでしょう」

「分からんぞ。冗談で降伏するって言われたらどうすんだ? 降伏しろって言った手前、攻撃できなくなっちゃうじゃんかよ」

「うぅ~ん…… じゃあこうしましょうよ。無線で降伏勧告しましょう。向こうには聞こえていないはずですもん」

「はいはい、分かったよ。やりゃあ良いんだろ、やりゃあ。いまやろうと思ったのに言うんだもんなぁ~」

 

 そんなお馬鹿な遣り取りをしている間にも枚方と助手は手を休めない。タンカーの甲板上からは無数のドローン飛行隊が発艦して行く。

 その主役は前回に使ったような小型ドローンでは無い。クワトイネで種子散布や物資輸送に使おうとして持ち込んでいた特大ドローンを全て掻き集めていたのだ。

 ペイロードは驚くべきことに二百キロ。最高速度は時速百二十キロ。航続距離は六百キロにも達する化け物だ。

 もちろん全機がそんな大型機では無い。ペイロード数十キロの中型機も多数が一定間隔を開けて行儀良く飛び立って行く。

 

「電波法とか煩いこと言う輩が居ないって良いよなあ」

「これって何機くらい同時に制御できるんだ?」

「千機くらいは余裕なはずですよ。2017年に中国企業が千機のドローンを飛ばしたって記録がギネスに載ってるそうですね。その技術を使っているんだとか」

「ふ、ふぅ~ん」

 

 ぽか~んと口を開けて呆けるブルーアイを無視して作戦は進んで行く。

 モニターの中ではドローンに気付いたロウリア兵たちが盛んに弓を射掛けている。だが、高速で飛び回るドローンたちには擦りもしない。待つこと暫し。大艦隊の外周に位置する船に万編なく液体が振り掛けられるのを待って火が放たれた。

 燃え盛る業火に炙られて哀れなロウリア兵が次々と海に飛び込んで行く。

 

「怖っ! なんだかウィッカーマンみたいだな」

「それってニコラス・ケイジ主演の変てこな映画ですよね。2006年のラジー賞で五部門にノミネートされたけど一つも取れなかったんでしたっけ」

「いやいや、酷い映画ほど沢山受賞するんだぞ。取れて無いってことはマシだったってことなんじゃね?」

 

 そんなお馬鹿な話をしている間にも炎は一段と燃え盛る。ファイヤーストームを形成していよいよ手が付けられない状態になってしまった。海の上だから延焼の心配が無いのが不幸中の幸いだ。

 と思いきや、好事魔多し。水平線の向こうからゴマ粒みたいな飛行物体が次々と現れる。

 

「警報! 警報! 方位二百六十五、距離四十。数は…… いっぱい!」

「お前は二より大きい数を沢山って言う原始人かよ! さっきのソフトは使えんのか?」

「今やってますってば。いまやろうとおもったのに言うんだもんなぁ~! って、出た! 三百五十くらいですかね。たぶんですけどアレはワイバーンとかいう奴じゃないですか?」

 

 緊張感の欠片も無い口調で枚方が答える。途端にブルーアイが血相を変えて食い付いてきた。

 

「ワ、ワ、ワイバーンですと! と、と、富田林殿! 如何なさるおつもりで?! ワイバーンは一騎落とすだけでも至難の技。それが三百五十ですぞ! いったいぜんたいどうすれバインダ~~~!!!」

「餅付け、ブルーアイさん。慌てない慌てない。一休み一休み。枚方くん、例の奴は大丈夫だよね?」

「富田林さんがそう思うんなら大丈夫なんじゃないっすか? 富田林さんの中ではね」

 

 人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべながら枚方は馬鹿の一つ覚えのようにエンターキーを押す。って言うか、こいつって本当に仕事してるんだろうか。ボタンを押すだけなら俺にもできるんじゃね? ブルーアイの脳裏に微かな疑念が浮かんだ。

 

 だが、ワイバーン部隊に突如として悲劇が襲いかかる。それまでみるみる近付いて来ていたワイバーンたちの編隊が突如として乱れ始めたのだ。

 フラフラと蛇行し始める者。回れ右して引き返そうとする者。高度を落として海に突っ込む者。エトセトラエトセトラ。

 みんなちがってみんないい。金子みすゞの理解者がこんなにもいただなんて嬉しいなあ。富田林は柄にもなく感動を禁じ得ない。

 

「富田林殿、これはいったいどういうことでしょうか? 何が起こっているのか教えては下さらぬか?」

「お尻になりたい…… じゃなかった、お知りになりたいですか? どうしても知りたいって言うんなら、教えてあげないこともないですぞ?」

「いや、そこまで知りたいってほどでも無いですかな。どうしても教えたいってことなら聞かないでもないですけど」

「そ、そうですか…… アレはアレですよ。工業用のキロワット級レーザーをカメラと連動させて照射しているんです。ここは異世界だし奴らは人間じゃない。だから特定通常兵器使用禁止制限条約で禁止されている失明をもたらすレーザー兵器も使いたい放題ってわけですな」

 

 

 

 いきなりのレーザー照射で大半のワイバーンは状況も理解できぬ間に視力を失った。

 運良く明後日の方向を見ていた僅かなワイバーンは数十騎しか残っていない。

 それでも残存部隊はパニックになることなく果敢にプロダクトタンカーへと接近する。

 

 彼らが今まさに船に襲い掛かろうとした瞬間、空中で幾つもの爆発が起こった。

 背景に溶け込むよう明るい空色に塗装された自爆ドローンの体当たり攻撃を受けたのだ。

 ワイバーンは次第に数を失いながらもプロダクトタンカーへと更に詰め寄る。

 なんとか火炎弾の射程に辿り着くころには僅か十数機騎にまで減っていた。

 

 ようやく巡ってきた反撃の機会に竜騎士たちは心を奮い立たせる。ワイバーンの口中に火球が形成されていく。

 だが、火炎弾を放とうとした瞬間にプロダクトタンカーのあちこちから轟音と共に小さな光が煌めいた。

 

 

 

「アレは何ですか、富田林殿」

 

 あんたはどちて坊やかよ! 富田林は内心で毒づくが決して顔には出さない。にっこり微笑むとタブレットに画像を表示させた。

 

「害獣駆除にご協力を頂いている猟友会の方々ですよ。今回は鳥獣被害防止特措法の例外規定でキャリバー50”の対物ライフルを使っていただいております。ワイバーンは頑丈だって聞いていたので心配していましたが何とかなっているようですね」

「で、ですが火炎弾が何発も当たっているようですよ。早く消さねば」

「心配いりません。自動消化装置がありますから」

 

 モニターに目を見やればポンプで組み上げられた海水が船全体を水浸しにしている様子が見て取れた。

 ブリッジは大丈夫なのだろうか。いや、分厚いシャッターで覆われているから問題は無さそうだ。

 そこからは退屈な時間が続いた。無尽蔵に汲み上げられる海水の前で火炎弾は無力に等しい。

 猟友会の人達は一匹三万円の報奨金を着々と稼いで行く。ちなみに弾代は四井商事の負担だ。

 最後の一騎が海に落ちたのは午前九時を少し回ったころだった。静かな海には無数の漂流物が浮かんでいた。

 

 

 

「もしかして生存者とかいるのかな?」

「こんな状況で生きてる奴がいたら怖いわ! そんなのがいたら異能生存体じゃろ」

「わはははは……」

 

 一同が大爆笑し、ブルーアイも釣られて愛想笑いを浮かべる。一つの海戦が終わった。

 


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