常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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第20話 やってみよう!なんでも実験

 不幸な事故で脱落したプリンセスダイヤモンドを放置して護衛隊群は突き進む。海峡を南西方向へ抜けるとそのまま外洋へと向かった。

 あいつら元気にしてるんだろうか。元気にしていたら良いなあ。思い出の中のプリンセスダイヤモンドは紅蓮の炎と真っ黒な煙を上げて燃え続けている。

 

 だが、一寸先は闇。油断すれば自分たちだっていつ同じ目に遭うか分からん。イージス艦まやのCICにもピリピリした空気が張り詰める。

 こんなお通夜みたいな雰囲気は嫌だなあ。艦長の羽曳野は居心地が悪くて悪くてしょうがない。何か冗談でも言って場を和ませた方が良いんだろうか。でも、滑ったら最悪だしなあ。

 

 しかし、下手な考え休むに似たり。全く何も思いつかない。と思いきや、意外な所から救いの神が現れた。

 水平線の向こうから一隻の巨大戦艦が小型艦を三隻伴って颯爽と現れたのだ。まあ、レーダーにはさっきから映っていたんだけれども。

 

「例の大和モドキと駆逐艦が三隻。単縦陣で真っ直ぐ向かって来ます。距離四十海里。速度二七ノット」

「敵さん、殺る気なんですかねえ?」

 

 副長が小首を傾げながら呟く。言葉とは裏腹に満面の笑顔はwktkを隠そうともしていない。

 

「雷撃隊が撃退されちまったから仕方なく突っ込んで来たんだろうな。対空兵器には負けたが砲戦では無敵だ。とか何とか考えてるんじゃね? お誂え向きですね、天満さん」

「そうですねえ。良い感じのテスト環境ですよ」

「んじゃ、予定通りに。三十三海里まで近付いたら左十六点逐次回頭。両舷第一戦速で頼む」

「了解しました」

 

 数分の後、艦隊はぐるりと反転する。船足は一番遅いタンカーに合わせるしかない。その速度は十八ノットだ。

 プリンセスダイヤモンドの姉妹船、プリンセスエメラルドの巡航速度は十六ノットしか出ない。だが、荷が空に近い状態なので十八ノットを無理矢理に絞り出しているのだ。

 

 

 

 

 

 グレードアトラスターの昼戦艦橋で艦長席にちょこんと座ったラクスタルは双眼鏡を覗いていた。

 

「距離三十三海里で敵艦隊が反転したぞ。逃げるつもりか? でも、湾内に戻ったら行き止まりなんだけどなあ」

「もしかして潜水艦が待ち伏せしている所までおびき寄せるつもりではないでしょうか? 釣り野伏せって奴ですよ」

「う、うぅ~ん。駆逐艦を先行させた方が良いのかな? いざとなったら奴らに盾になってもらえるしさ」

「いやいやいや、無茶苦茶を言いますね艦長。でもナイスアイディアですよ。やりましょう。しかし連中は何で十八ノットしか出さないないんでしょうね? いや、出せないのか? まあ、お陰で直ぐに追いつけそうですけど」

 

 駆逐艦は三十五ノットまで一気に加速してグレードアトラスターの前に出る。出ようとしたのだが……

 突如として先頭を行く駆逐艦の煙突から轟音と共に爆炎が吹き出した。少し遅れて物凄い量の蒸気がそこらじゅうから吹き出すとみるみる船足が落ちてしまう。

 五秒ほど後、二隻目の煙突でも爆発が起こる。こちらは一隻目より運が悪かったらしい。大爆発を起こすと真っ二つになって沈んでしまった。

 三隻目は一隻目とほぼ同様だ。いや、少しだけ重傷だったらしい。瞬時に機関が停止してしまった。

 

 

 

 

 

「たかが駆逐艦とは言え一発ではなかなか沈みませんね。まあ、ほとんど無力化は出来たみたいですけど」

「あとで時間があれば二発目を撃ち込んで様子を見てみましょう。それより先に大和モドキを片付けちゃわなきゃいけませんから。住吉君、目標変更だ。ガンガン行ってくれ!」

「アイアイサ~!」

 

 プリンセスエメラルドの甲板上に据え置かれた二両の19式装輪自走155mmりゅう弾砲が仰角を微調整する。二両はそれぞれ最初の一分に十発、以後毎分四発ほどの速さでロケット補助推進弾(RAP)を次々と発射した。

 

「しっかし、よくもまあ六十キロも先の目標に当たるもんですねえ」

「そりゃあ一発五百万円もするスマート砲弾ですからね。今のは赤外線センサーを使ってるタイプですよ」

「ご、ご、五百万円ですと! 普通の砲弾なら十万円くらいなんでしょう?」

「それは砲弾だけの値段ですよね? 発射薬や信管だってそれぞれ数万円はするんですよ。合計したら二十万円くらいじゃないですか。だけど、通常砲弾だと最大射程に近い距離で回避行動を取られたら命中率は一パーセントもありません。って言うか、揺れる船の上から砲安定装置の付いていない榴弾砲を撃って船に当たる確率なんて宝くじレベルですよ。そもそも四十六センチ砲の射程内で撃ち合うなんて真っ平ご免の介でしょう?」

 

 天満の説明に反論の余地もない羽曳野艦長は禿同といった顔で頷くしかない。

 待つこと二分。偵察ドローンの望遠レンズが捉えた敵戦艦の煙突から爆炎が上がり始める。

 

「命中ですね。でも全く効いていないみたいですよ」

「そりゃそうでしょう。大和の煙路防御は厚さ三百八十ミリの装甲板に百八十ミリの穴を蜂の巣状に開けた物を装甲甲板の高さに設けているんですから。たかが百五十五ミリ榴弾なんて蚊に刺されたみたいなものでしょうね」

「それじゃあ何の意味があるんですか? このテストには?」

「人間は何匹くらいの蚊に刺されたら死ぬんでしょうね? これはそういう実験ですよ」

 

 

 

 

 

 それからおよそ十分の間に百発ほどの百五十五ミリ榴弾がグレードアトラスターの煙突に命中した。だが、三百八十ミリの装甲板は伊達ではない。傷一つ付かないとまでは行かないが大きなダメージは発生していなかった。

 とは言え、無傷というわけにも行かない。煙突本体が大きく破損してあちこちから煙が漏れ出している。

 それに蜂の巣状に開けられた直径百八十ミリの穴を運良く…… グレードアトラスターにとっては運悪く通り抜けた砲弾も数発あったのだ。

 とは言え、煙突の真下がボイラーになっているわけでもない。多方向から集められてきた煙路が集合しているだけなのだ。偶々そこに到達することが出来た百五十五ミリ榴弾は高温の煙が通るパイプをズタズタに引き裂いた。引き裂いたのだが…… 別にどうということもなかった。

 

 

 

 艦長ラクスタルはイライラしながら双眼鏡を覗いていた。

 

「もう百発くらい命中弾を受けているはずだぞ? 豆鉄砲が一門だと馬鹿にしてたけど機関砲かよってくらい無茶苦茶に撃って来るよな。もしかしてあの巨体の中には弾がぎっしり詰まってるのかも知れんぞ」

「一発一発が弱ければ脅威にはなり得ません、艦長。駆逐艦を前に出したのは失敗でしたが貴重な戦訓が得られました。戦艦を前にして戦えば彼らは雑魚ですよ」

「しかしなあ、いくら豆鉄砲だからって何百発も食らったら今に行動に支障が出るはずだぞ。例えば煙突の中が砲弾の破片で塞がったらどうするよ? 何とかこっちからの反撃は出来ないのかなあ」

 

 艦長の口から弱気な意見が漏れ出す。こんなのを兵に聞かれたら士気が下がるぞ。副長は苦虫を噛み潰しながらも景気の良い話で誤魔化す。

 

「我々は相対速度九ノットで追い付きつつあります。五十五分後には四十二キロにまで接近できますから四十六センチ砲の射程に入るでしょう。それまでの辛抱です。物凄い反撃を食らわせてやりましょう」

「あのなあ、四十二キロで撃って当たるわけが無いだろうに」

「見た感じでは敵艦の装甲は非常に薄いかと思われます。対空弾を撃ち込んでやれば少なからぬ損害が与えられるはずです。しかも、敵艦はカルトアルパスの港内に追い詰められています。三十分もあれば二十キロまで接近出来ますからこちらの砲撃も当たるようになるでしょう。時間は我々の味方ですよ、艦長」

 

 副長はそう言うと人を小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 イージス艦まやのCICでも羽曳野艦長と副長は同じ話題で盛り上がっていた。

 

「あと五十五分くらいで敵の射程に入りますよ。そうなると不味いんじゃありませんかね、艦長」

「って副長が言ってますよ、天満さん。時間内に何とかなりそうですか?」

「分かるわけありません。分からないからこそ実験してるんじゃありませんか。だけど百五十五ミリ榴弾の重さは四十キロ以上あるんですよ。既に百発撃ち込んだってことは四トン近いの鉄の破片が煙突の中に散らばってるはずでしょう? 残り五十五分間、同じ事をやれば二十二トン。今あるのと合わせて二十六トンを煙突に放り込めるってことなんです。これで排煙を完全にシャットアウトできれば……」

 

 天満は冗談とも本気とも付かない様な口ぶりで話を続ける。

 これはもう駄目かも分からんな。まあ、完全に他人事なんだけれども。

 取り敢えず保身の策は取っておこう。羽曳野艦長はちょっと引き攣った笑みを浮かべながら話に割り込んだ。

 

「あの、その…… 天満さん。そんな馬鹿なテストのために一発五百万円のスマート砲弾を六百五十発も使おうって言うんですか? それって三十二億五千万円も掛かるんですけど? ちょっと費用対効果が悪すぎるんじゃないでしょうか? それに成功するって決まったわけでもあるまいし。よくもこんな馬鹿なテストに承認がおりましたね? 正気を疑いますよ」

「どうどう、艦長。餅付いて下さいな。大和型戦艦の建造費は現代の貨幣価値に換算すると千数百億円以上なんですよ。もしも三十数億で行動不能に出来るなら安い物じゃありませんか? あなた方ならハープーンとかで同じ事が出来ますか?」

「対艦ミサイルでは難しいでしょうね。でも潜水艦の長魚雷なら一発で……」

「それだと沈んじゃうでしょうが! アレは七万トンの鉄の塊なんですよ。キロ十五円としてもクズ鉄だけでも十億円の価値があるんですから。浮かべたまま無力化。それが絶対条件なんです!」

「そ、そうなんですか。まあ、上手く行ったら良いですねえ……」

 

 羽曳野艦長はモニターに映った敵戦艦を見詰めながら想像の翼を広げる。

 グラ・バルカスとかいう敵国の連中はどんな思いを持ってこの地に来ているんだろうか。

 愛する祖国や大切な家族を守るため? 戦場で手柄を立てて立身出世するため? 命懸けの戦いにスリルや興奮を求めて? みんな違ってみんないい。

 だが、どうだ。この四井アーマメントシステムズの天満という男は。目の前にいる巨大戦艦を敵だとすら認識していない。リサイクル可能な屑鉄としか見ていないんだとか。

 チャーチルは近代兵器の登場によって『戦争からきらめきと魔術的な美が奪い取られてしまった』って言ったんだっけ。だが、この男がやろうとしていることは戦争でも殺戮でもない。ただのスクラップとリサイクルなのだ。

 良かったなあ。自分がグラ・バルカスの軍人じゃなくて。羽曳野艦長はほっと安堵の胸を撫で下ろした。

 

 

 

 さっきはあんな威勢の良い事を言った天満であったがちょっと考え直した結果、作戦を少しだけ練り直す事にした。

 

 まずは砲弾をレーザー誘導タイプに変更する。照準は偵察のために飛ばしている大型ドローンからのレーザー照射で行えるのだ。

 煙突を狙うのを止めにして缶室吸気口を潰して行く。それから艦橋周辺に林立するレーダーや通信のアンテナを片付けた。

 イージス艦が強烈なECMを掛けてくれてはいる。だが、一応は念のためだ。

 

 お次は艦橋その物と光学照準器、そして本命の対空砲だ。ずらりと並んだ対空砲をプチプチを潰すように一つひとつ丁寧に始末して行く。

 対空戦闘能力さえ奪えば大型ドローンで爆発物を砲身に直接取り付けるといった方法で戦闘能力を奪う事も可能だろう。

 続いて主砲の付け根辺りを重点的に狙う。大砲の腔圧が最も高いのは根本のはずだ。その辺りを傷付けることが出来れば砲を使用不可能に出来るかも知れない。あるいは砲塔基部の旋回機構が損傷する事もあり得る。そうそう、砲塔に付いている光学照準器も忘れずに壊さなきゃならん。

 

 二十分ほど掛かって二百発ほど撃ち込んで見る。だが、見事なまでに手応えが感じられない。

 効いてるんだろうか。それとも効いていないんだろうか。それが問題だ。

 天満はリア王になったつもりで苦悶の表情を浮かべる。

 

『それはハムレットだよ!』

 

 羽曳野艦長は心の中で激しく突っ込むが空気を読んで口には出さなかった。

 

 

 

 

 

 艦橋に砲弾が降り注ぎ始めたタイミングで艦長ラクスタルたちは瞬時に重要防御区画(バイタルパート)への退避を決意した。

 なぜ今まで狙ってこなかったのかは分からない。だが、百発百中で煙突を狙える奴らなのだ。数分後には艦橋が蜂の巣になっているのは間違いない。艦橋の防御力は貧弱そのものだ。なにせ大きな窓ガラスがあるんだもん。

 取るものも取り敢えず昼戦艦橋直下にある作戦室への階段をダッシュで駆け下りる。艦長、副長、シエリア、航海長、通信長が乗り込むと定員五人のエレベーターは一杯になった。

 後の連中は幹部だろうが士官だろうが外のラッタルを降りてもらうしかない。

 甲板へと降下するエレベーターを不規則な振動が襲う。聞こえてくる爆音からして砲撃が続いていると見て間違いない。下に降りて頭上を見上げると艦橋は既に原型を留めていなかった。エレベーターが途中で止まらなかったのは正に奇跡だろう。

 

 ラッタルを降りた連中はどうなったんだろう? どうやら一人も生きてはいないらしい。

 だけど、逃げるのがあと数秒ほど遅かったら全員死んでたかも分からん。本当に運が良かったなあ…… って本当に運が良かったのか? 今の状況で?

 主砲射撃指揮所、防空指揮所、測距所、第一艦橋(昼戦艦橋)、第二艦橋(夜戦艦橋)、後部電探室、高射指揮所、予備指揮所、エトセトラエトセトラ…… み~んなぶっ壊れちまったぞ。

 豆鉄砲だと馬鹿にしてたけど非装甲部分に対しては強烈な破壊力があったんだなあ。

 

 取り敢えず一同は第二艦橋の下にある司令塔へ這う這うの体で避難した。ここなら厚さ五百ミリのVH装甲鋼板が護ってくれる。

 司令塔の中は操舵室、防御指揮所、主砲司令塔射撃所の三区画に分かれている。航海長は操舵室へ入って行く。艦長ラクスタルたちは防御指揮所の入り口を潜った。

 砲戦をするつもりなんだから初めからここにいれば良かったな。後悔先に立たずとはこの事だぞ。いまさら反省しても手遅れも良い所だ。

 

 艦長ラクスタルは偶然にも防御指揮所にいた僅かなスタッフたちから報告を聞く。

 

「煙路と缶室吸気口を徹底的にやられましたが缶室本体の損傷は軽微の模様。二十五ノットを維持しております。ただ……」

「ただ何だ? 悪い話か?」

「ご存知とは思いますがレーダーと十五メートル測距儀は無論のこと砲塔測距儀まで全損しております。艦橋に登れないため二十キロ程度に接近しないことには敵の姿を見ることすらできなくなりました。いかがなされますか?」

「……」

 

 だ、誰か代わりに指揮を執ってくれる奴はいないかな? 艦長ラクスタルはきょろきょろと周りを見回す。

 だが、目が合いそうになった途端に副長は素早くそっぽを向いてしまう。その顔は人を小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべていた。

 

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