常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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第21話 天満博士の異常な愛情

 イージス艦まやのCICを陰鬱で淀んだ空気が満たしていた。

 切っ掛けは十分ほど前に四井アーマメントシステムズの天満が指示を変更したことに遡る。

 プリンセスエメラルドの甲板上に据え置かれた二両の19式装輪自走155mmりゅう弾砲は目標をグラ・バルカス戦艦の艦橋周辺へと変更した。

 次々と放たれる砲弾はスマートで格好良かった艦橋を瓦礫の山へと変えて行く。ぎゅうぎゅうに詰め込む様に配置された対空砲群も今や見る影もない。

 だが、グラ・バルカス戦艦は僅かに速度を落としつつも悠然と向かって来る。決して退くつもりは無いようだ。

 艦首を真っ直ぐこちらに向けて相対速度七ノットで徐々に徐々に近付いて来る。

 

「なぜだ! なぜ止まらない? 奴は不死身なのか?」

 

 半ば悲鳴の様な天満の声が狭苦しいCICに響き渡る。

 ほとんど効き目の無い百五十五ミリ榴弾をひたすら撃ち続ける姿はカイジで沼を攻略しようと無駄な努力をするギャンブラーを彷彿させる。

 

 もしかしてこの人、何かレスして欲しいのかなあ。何となく心の声を感じ取った羽曳野艦長は恐る恐る声を掛けた。

 

「やっぱ第二次世界大戦っぽい戦艦に百五十五ミリ砲では威力不足なんでしょうかねえ。ネットで読んだ話だと扶桑型戦艦の場合は十四センチ砲弾百十六発で廃艦にできるって書いてありましたよ。でも扶桑と大和じゃ防御力が段違いですからねえ。少なくともバイタルパートは絶対に抜けませんよ。どうせ狙うんなら主砲より前か後ろをチクチクやった方が良かったんじゃないですか?」

「え、えぇ~っ! 何で今ごろそんなこと言うんですか? だったらもっと早くに教えてくれたら良かったのに……」

「いやいや、最初の方で言いませんでしたっけ? って言うか、言わんでも分かりますやん。普通に考えたら」

「どうしましょう? もう、二百発も撃っちゃいましたよ。これって十億円くらいですかねえ? こんだけやって何もデーターが得られなかったら会社に大損害を与えたってことになっちゃうんですけど……」

 

 さっきまでの威勢はどこへやら。天満が借りてきた猫の様に? 違うな、そもそも誰が猫なんて借りて来るんだろう。いやいや、レンタルペットって商売は普通にあるんじゃなかったっけかな?

 妄想世界に逃避しかけた羽曳野艦長を天満の絶叫が現実に引き戻した。

 

「助けて下さい! 助けて下さい! 助けて下さ~い!」

「いやいや、天満さん。そんな大声を出さんでもちゃんと聞こえてますから。要は意味のあるデータさえ取れれば良いってことですよねえ? だったら百五十五ミリ榴弾では戦艦の無力化は不可能っていうデータにだって価値はあるんじゃないですか? アルカリ電池の開発で一万回失敗した時、発明王エジソンは言ったそうですよ。『私は失敗したんではない。一万通りの上手く行かない方法を見つけたんだ』ってね。天満さんも上司に言ってやれば良いんです。戦艦は百五十五ミリ榴弾では無力化出来ないことを証明したってね」

「十億円も使ってですか? うちの上司はそんなに甘く無いんですけど……」

 

 土気色をしていた天満の顔色が一段と暗くなった。こういう色を何色って言うんだろうなあ。

 それはそうと、別に十億円が個人の借金になるわけでもないんだろうに。親方日の丸の羽曳野艦長には社畜の苦労なんてこれっぽっちも分からない。分かりたくもない。そんなんだから気軽に言ってのける。

 

「だったら今からでも何とかする方法を見付けるしかありませんね。まだ時間は四十五分も残っているんですよ。下手な考え休むに似たり。ブレインストーミングだと思ってやってみましょうよ。ね? ね? ね?」

「う、うぅ~ん。しょうがないなあ。例えば…… 例えば水中弾ってありますよね。目標より手前に落ちた砲弾が水中を進んで喫水線下に命中するって奴ですよ。すると水圧のお陰で空中で爆発するより大きな破壊効果を上げるとか何とか。いま使ってる砲弾は精密誘導が可能ですから艦尾を狙ってスクリューや舵をピンポイントで破壊することは出来ませんかね?」

「そんなん無理に決まってますよ。水中弾っていうのは徹甲弾ですもん。榴弾が海に落ちたらその瞬間に爆発しちゃいますって」

「だったらもう、だったらもう…… 核兵器! 核兵器を使っちゃいましょう。機会があれば使っても良いって許可は得てあります。戦艦長門を沈めたクロスロード作戦みたいに我々の核爆弾がグラ・バルカス戦艦に効果があるかどうか試すんですよ。本当の事を言うと後で別働隊の戦艦に試すつもりだったんです。順番が逆になっちゃいますけど先に片付けちゃいましょう」

「か、核兵器ですか……」

 

 いきなり飛び出したたパワーワードに羽曳野艦長や副長はドン引きしていた。

 

 

 

 

 

 グレードアトラスターの艦長ラクスタルは五百ミリの装甲板に護られた防御指揮所に引き籠もって震えていた。

 既にレーダーや十五メートル測距儀はおろか、砲塔測距儀まで失われている。今や砲戦は非常に困難…… って言うか、不可能に近い状態だ。だけども、一発の砲弾も撃たずに撤退なんて許されるんだろうか。

 たぶん許されないんだろうなあ。少なくとも俺だったら許さんな。そうだ、閃いた! 距離も方位も分からんけれど取り敢えず適当に撃っちまったらどうだろう? 無駄弾でも何でも良い。撃ったっていう実績が大事なんじゃなかろうか。

 艦長ラクスタルはそんな馬鹿げた考えで気を紛らわせる。そんな事でもしていないと恐怖で気が変になりそうだ。

 

 そのときふしぎなことがおこった! ずっと黙んまりだった無線機が突如として音を発したのだ。

 つい先ほどまでどことも連絡を取ることが出来なかったというのに。電波状況が急に改善したんだろうか? だが、その喜びは聞こえて来た声に無残にも打ち砕かれてしまった。

 

「あぁ~っ、あぁ~っ。テステス、ただいまマイクのテスト中。聞こえますか…… 聞こえますか…… 私はいま…… あなたの心に直接話しかけています……」

 

 言葉は分かる。だが、その内容がさぱ~り理解出来ない。防御指揮所の面々はお互いに顔を見合わせて首を傾げるのみだ。

 そんな一同の気を知ってか知らずか、声の主は一方的に話を続ける。

 

「私は四井アーマメントシステムズの天満です。グラ・バルカス戦艦に告げる。直ちに撤退せよ。ここで手を引いてくれねば我が方は核兵器を使用する用意がある!」

「か、かくへいきだと! なんだそりゃ?」

 

 艦長ラクスタルは咄嗟に問い掛ける。だが、通信は返事をすることなく一方的に切られてしまった。

 防御指揮所に集う面々は思い思いに意見を口にし始める。

 

「あんな言い方するっていうことは、いま撃って来ている砲弾より凄いんじゃないでしょうかね?」

「だけどそんな物があるのならどうして始めから使わんのだ?」

「きっと値段が凄く高くて躊躇してたんじゃないですか?」

「そうは言うがな、大佐。敵はすでに六十キロも遠くから百発百中の砲弾を二百発も撃って来ているんだぞ。それを今更になって違う砲弾を使うのはどういう理由なんだろう。始めから使えば良かったんじゃないのか?」

「単に射程が短かったんじゃないですかねえ」

「だったら何で急に警告して来たんだ? 今までは黙って撃って来たのにさ。やはりなるべくなら使いたくない理由があるんじゃね?」

 

 皆の話を一通り聞いた後、シエリアが口を挟んで来た。

 

「いずれにしろ戦わずして撤退などという選択肢は無い。帝王陛下の命令は朕の命令と心得よ! 軍人勅諭にあるだろう」

「そ、そうですね……」

 

 軍人勅諭って何だろう。艦長ラクスタルは気になって気になってしょうがない。だけども馬鹿だと思われたら困るので澄ました顔で知ったかぶりをした。

 いやいや、いま重要なのはそんなことではない。重要なのは敵がわざわざ通告して来た『かくへいき』の正体だろう。そして、何より重要なのは撤退した方が良いのかどうかだ。

 

「私も前進するべきだと考える。もし撤退するとしても『かくへいき』なる物の正体を確認しなければ上に提出する報告書が書けん。だって『敵が何か知らんけど凄い物を使うぞって脅して来たから撤退しました』なんて言えるか? 本物の馬鹿だと思われちまうぞ」

「それは『思われちまう』じゃなくて正真正銘の本物の馬鹿ですよ。行きましょう。最低でも『かくへいき』に関する情報を持ち帰ればギリギリ何とか世間体が立ちますもん」

「よし、全員一致だな。このまま前進し、敵が『かくへいき』を使った途端に一目散で逃げ帰る。航海長、宜しく頼む」

「アイアイサ~!」

 

 それまで黙って話を聞いていた航海長はここぞとばかりに大声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 イージス艦まやのCICは先ほどとは打って変わって和気藹々とした明るい雰囲気に包まれていた。

 羽曳野艦長は一番気になる事を真正面から質問する。

 

「四井では核兵器を開発していたんですか? 一民間企業の分際で?」

「いやいや、核兵器と言ったのは言葉の綾ですよ。正しくは核分裂発破と呼んで下さいな。建前上は鉱山開発や大規模土木工事での使用を目的としています。なので四井鉱山や四井土建が管理しているんです。まあ、実態はお察し下さいってことですけど。目的外使用になりますが害獣駆除での使用もちゃんと認められていますから」

「し、しかし核兵器…… 核分裂発破? よくもまあ、そんな物を民間企業で開発することが出来ましたね。ウランとかプルトニウムはいったいどこから? まさか自前じゃないですよね? 兵器級プルトニウムを作ろうと思ったら重水炉か黒鉛炉を作る所から始めなきゃなりませんよ。何年前から作ってたんですか? まさか転移前から作ってたんじゃないでしょうね?」

「5MWe、熱出力が20~30MWの黒鉛型原子炉を建設中です。しかし完成は一年以上先ですね。1MW当たり日産一グラムほどのプルトニウム239の生産を目指しています。稼働率八十パーセントなら年間七、八キロは生産が出来るでしょう。プルトニウム239の臨界量は十六キロと言われていますが中性子反射材やタンパーを用いてやれば少ない量で核爆弾を製造可能です。最新技術を使えば一発二キロくらいだそうな。そんなわけで二年後には三、四発の核爆弾が製造可能だと言われていますよ」

 

 全然ダメじゃん。羽曳野艦長は苦虫を噛み潰した様な顔で天満を睨みつけた。

 だが、目の前の痩せすぎた中年男は薄ら笑いを浮かべている。四井マークが刺繍されたポケットからスマホを取り出すと何だか良く分からん画像を表示させた。

 

「あはははは、そんな顔しないで下さいな。実は動燃が始末に困っていたMOX燃料を格安で譲ってくれたんですよ」

「で、ですけど核爆弾を作るためにはプルトニウム239が九十三パーセント以上の兵器級プルトニウムが必要じゃなかったでしたっけ? 燃料級、原子炉級ですらないMOX級で核爆弾なんて作れるわけがないでしょうに。自発核分裂による過早爆発、放射線、発熱、エトセトラエトセトラ。簡単に作れるとは思えんのですけど?」

 

 途中から話に割り込んできた副長が早口で捲し立てる。

 こいつ、もしかして核兵器オタクなんだろうか。羽曳野艦長は副長の意外な一面に驚きを禁じ得ない。

 

「四井アーマメントシステムズの技術は世界一ィィィィ~! 出来んことは無ィィィィ~! ですからね。みんな過早爆発、過早爆発って言いますけどそれって結局は爆発ですやん。過早爆発するから爆弾は作れないだなんて矛盾してません? ぶっちゃけ過早爆発でも威力は一、二キロトンくらいにはなるんですよ。そして解決方法なら幾らでもあるんです。爆縮レンズの精度を向上させたり爆薬の威力を増して爆縮速度を向上させることで改善可能です。そして実はもっと簡単な解決策があるんですよ」

「まさか重水素と三重水素の核融合反応を利用したブースト型核分裂とか言いませんよね?」

 

 せっかく盛り上げようとしていた矢先に話の腰を複雑骨折されたぞ。天満は忌々しげに鼻を鳴らすと副長を睨みつけた。

 

「素晴らしい! こうも簡単に正解されるとは思ってもいませんでしたよ。ファットマンみたいなベリリウムとポロニウムの中性子点火器では過早爆発は避けられません。ですがD-Tコアさえあれば無問題なんですね。残る問題は……」

「プルトニウム240の臨界量は八十キロくらいですよね? 反射材やタンパーを使っても四十キロくらいでしょう。そうなると核弾頭の小型軽量化はとっても困難ですよ。それに自発核分裂による発熱量だって数百ワットに達するはずです。排熱設計をきちんとやらないと非常に危険ですね。だってプルトニウムの周囲は火薬で囲まれているんですもん。そうなると……」

「うわぁ~~~っ! 何であんたは私の言いたい事を先に先に言っちゃうんですか? 私が…… 私が核爆弾の事を一番愛しているんだぁ~~~っ!」

 

 狭っ苦しいCICに天満の絶叫が響き渡る。

 騒々しい奴だなあ。一同は顔を顰めて聞き流した。

 

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