常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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第24話 終わりの始まり

 日本へ帰った四井アーマメントシステムズの天満は報告書を書かされた上で戒告処分を受けた。

 本当ならもっと重い処分が下っても不思議ではない所だ。だが、それをやってしまうと上の人にも処分を下さざるを得ないんだそうな。

 

 一方で護衛隊群の面々には特にこれといった賞罰は無かった。まあ、何も悪いことをしていないんだから当然の事なんだけれども。

 ただ、全員に海上警備等手当として日額二千円が支給されたそうだ。

 さらにフォーク海峡周辺でグラ・バルカス艦隊を相手にした一日だけは特例として害獣駆除手当の二万四千円が加算されたんだとか。

 

 

 

 四井鉱山や四井土建が管理していた核分裂発破は安全性に問題ありとして全てが回収された。

 だが、徹底的な調査にも関わらず不発と暴発の根本的な原因は解明することが出来ない。調査委員会は放射線シールドと放熱対策を対処療法的に強化してお茶を濁した。

 

 この発破は非常に強力だが使用する所をミリシアルやムーに見られると古の魔法帝国のコア魔法だと誤解される恐れがある。

 別にミリシアルやムーにどう思われた所で痛くも痒くも無い。だが、世間体を気にした四井鉱山や四井土建は後始末を四井アーマメントシステムズに押し付けてしまった。

 

 面倒ごとを嫌ったのは四井アーマメントシステムズも同じ事だ。散々無い知恵を絞った挙げ句、丸っきり別物に作り変える事でお茶を濁す事にする。

 マタイによる福音書九章十四-十七節にもある『新しいぶどう酒は新しい革袋に』という奴だ。

 重水素化リチウムを燃料としたセカンダリーと共に重金属容器の中に格納。タンパー・プッシャー蒸発圧力法による核融合発破へと作り直すことに決める。

 この改造により核出力は一メガトン程度に向上することが期待された。

 

 

 

 

 

 フォーク海峡海戦…… と言うのも烏滸(おこ)がましい一方的虐殺から一週間ほど後のある日の午後。

 ムーの駐日大使ユウヒの元を四井アーマメントシステムズの天満は訪問していた。

 一人だけだと心細いのでお供に子分の住吉と守口を従えている。

 

 大使ユウヒの方も一人では不安だったんだろうか。マイラスとラッサンを伴っていた。

 二人はたまたま休暇で東京に来ていた所を運悪く捕まってしまったそうだ。

 受け取った名刺に目をやりながらユウヒは言葉のジャブを打つ。

 

「始めまして天満さん。カルトアルパスでのご活躍、お噂は伺っておりますよ」

「そ、それって良い噂ですか。それとも悪い噂でしょうか?」

「両方ですね。ですがあくまで噂ですから。実際には何があったんでしょう。詳しく教えていただけませんでしょうか?」

「まあまあ、済んだ事は水に流しましょうや。覆水盆に返らずって言うでしょう? ムーでは言わないんですか?」

「こぼれた水はまた汲めばいい。それだけですよ」

 

 横から話に割り込んで来たマイラスが良い事を言ったという風にドヤ顔で顎をしゃくった。

 ラッサンも禿同という顔で激しく頷いている。

 だが、ユウヒと天満はガン無視を決め込む。もちろん『トップをねらえ!』ネタであることは理解した上でだ。

 

「貴重なお時間を無駄にしては申し訳がありません。早速ですが本題に入らせていただきます。ムーさんはレイフォルからグラ・バルカスを一匹残らず駆逐したくはありませんか。あんな奴らと国境を接していては気が静まらんでしょう?」

「無論、我々としても様々な対策を考えております。もしかして日本国…… 四井さんもお手伝いしていただけるんでしょうか?」

「手伝いというよりは一括請負契約させていただきたいのです。あの規模の勢力に対して軍事作戦で決着を付けようとした場合、どれくらいの費用が掛かるとお思いですか? 失礼ながらムーさんの空軍力だけではレイフォルの地上戦力を片付けるのは非常に困難かと思われます。とは言え、万単位の地上部隊を動かせば莫大な費用が掛かるでしょう。我々の試算では日本円換算で一千億円以上は掛かると想定しています。ムーさんはどのようにお見積もりで?」

「私は軍人ではありませんので詳細な数字は持っておりません。ですが、四井さんならそれを安く上げられるというのですか?」

 

 営業担当と聞いてある程度は覚悟していたのだが思わぬ方向へ話が進むぞ。大使ユウヒは何とか話に付いて行こうと頭をフル回転させる。

 一方の天満は予定通りの話を淡々と進めるだけだ。タブレットに表示させた資料を大使ユウヒに向けると立て板に水の様に話し始めた。

 

「先日、カルトアルパスでグラ・バルカスがコア魔法を使用したのはご存知でしょうか? アレに対抗するには我々も同様な兵器…… じゃない、爆発物? 何かそんなのが必要ですよね? だって向こうが使ってるんだからこっちも対抗しないと一方的にやられちゃうじゃありませんか。ね? ね? ね?」

「しかし日本は…… 四井さんは魔法と無縁だと聞いておりました。コア魔法ってそんなに簡単に真似が出来るような代物だったんですか? 初見からたったの一週間で作れるような物とは思いも寄りませんでしたよ」

「いやいや、アレをそっくり真似るわけではありません。似たような物と申し上げましたでしょう? それにまだ完成はしておりません。もちろん目処は付いておりますけどね」

「それで? そのコア魔法モドキを使えばレイフォルからグラ・バルカスを駆逐することが出来るんでしょうか。出来るとしても空軍や陸軍を使うより安上がりにですよ」

 

 大使ユウヒは魔法に関しても技術に関しても専門外だ。マイラスとラッサンのコンビもコア魔法に匹敵する爆発物なんて見当も付かない。だが、馬鹿だと思われるのが嫌なので黙って話を聞いていた。

 

「結論から申し上げましょう。日本円で百億円相当をお支払いいただければ一週間でレイフォルからグラ・バルカスを駆逐してご覧にいれます。我々の作った核融合発破を用いてグラ・バルカスの基地を焼きます。ただし、一匹残らずとは参りません。たまたま離れた所にいた奴は取り逃がすかも知れませんのでそれはご容赦下さい」

「日本円で百億円ですか…… 安い金額ではありませんな」

「駆逐艦一隻といった額ですかな? しかし近代戦では一個師団を一日動かしただけでその程度の費用は発生するでしょう。ましてやグラ・バルカスを相手に戦えば装備や人員にも大きな損害が発生するはずです。金で方が付くならその方がよっぽど良いと思いますけどねえ」

 

 卑屈な笑みを浮かべた天満は上目遣いでユウヒの顔色を伺う。

 暫しの沈黙の後、小さくため息をついた大使は両の手のひらを肩の高さで掲げた。

 

「うぅ~ん。いずれにしろ私の一存で決定できる話ではありませんね。本国と相談の上で回答させていただきます」

「分かりました。良い返事をお待ちしておりますよ。ああ、それともう一つお願いがあります。もし決行となった場合、ムーで一番西の端に三百トンの航空機が離着陸可能な四千メートル級滑走路を一つ作っていただけますか」

「分かりました。なるべく急いでお返事いたしますので楽しみにお待ち下さい」

 

 

 

 ムー大使館を出た天満は小さくため息をつく。住吉と守口が口々に声を掛けて来た。

 

「上手く行ってくれたら良いですねえ」

「もしこれが駄目だったら別の作戦を考えなきゃいけませんよ」

「どうやるにしてもムーの協力は必要不可欠だしな。だってグラ・バルカスが遠すぎるんだもん」

「ですよねえ。タンカーの艦隊を送って空爆なんて四井だけじゃ絶対に無理ですし。ドローンの航続距離なんてたかが知れていますもん」

「まあ、多少の値引きに応じてでも滑走路だけは作らせてもらいたいな。滑走路建設はムー側にもメリットがあるはずだ。最悪、こっちが建設費を負担してでも作らせてもらおう」

 

 三人はその足で四井建設へ向かうと細かな打ち合わせを進めた。

 

 

 

 

 

 帝都ラグナのとある会議室で東方艦隊司令長官カイザルは特務軍だか監察軍だかの女司令長官ミレケネスと密談をしていた。

 人を小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべながらミレケネスが口を開く。

 

「クックックッ、東方艦隊が破れたようだな。奴はグラ・バルカス四艦隊の中でも一番の小物……」

「野蛮人共に返り討ちにあってしまうとは情けない…… って、いやいやいや! あんたも作戦には散々と口出しして来ただろうに。いまさら他人事みたいに言うなよなぁ~っ!」

 

 カイザルは激しいノリ突っ込みをかました。その様子にミレケネスは手を叩いて喜び、大口を開けて笑う。暫しの間、二人は我を忘れて大笑いする。散々に大笑いした後、不意に真顔に戻った。

 

「んで、ミレケネスさんよ。東方艦隊は本当に破れたのかな? その二日前にはミリシアルの最強艦隊を一方的にボコったんじゃなかったのか?」

「現時点では行方不明としか言えんな。通信が途絶える直前までは異常な兆候は全く無かったそうだ。事件と事故の両面から調査中だが情報が少なすぎる。ただ……」

「ただ何だ? 何か知っているなら包み隠さずに教えてくれるかな?」

「ミリシアルが全世界に向けて流しているニュース番組によれば東方艦隊を全滅させたと主張しているそうだ。戦艦、巡洋艦、駆逐艦を合わせて五隻鹵獲。残りは沈んだと言っておる。捕虜は千人ほどだったらしい」

 

 どうやってプリントしたものだろうか。ミレケネスは写真を何枚か取り出すと机の上に並べた。

 

「空母四隻を含めて二十隻以上も沈めただと? 馬鹿も休み休みに言え。奴らにそんなことが出来るわけが無いぞ。それに戦艦は四隻もいたんだ。捕虜千人は少な過ぎるだろう。海戦でそこまで死傷者が出るはずがない」

「戦艦は二隻拿捕されたが二隻とも全焼していた。写真を見てみろ。これでは生存は絶望的だろうな」

「戦艦を丸焼きにでもしたと言うのか? いったいどうやって? 奴らの言う魔法とやらにはそんな力があると言うのか? 信じ難い話だな」

「とにもかくにも捕虜と艦艇の返還要求を行わねばならん。レイフォル地区と連絡を取って…… いや、私が直接出向いて状況を視察しよう」

「何だか嫌な予感がする。くれぐれも気を付けてくれ」

 

 これがカイザルの最後のセリフになるとは。神ならぬ身のミレケネスには知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 ムーから正式な受注を受けた四井建設は昼夜を分かたぬ三交代の突貫工事で既存の空港を拡張する。

 僅か半月で立派な滑走路を完成させた四井建設の手際の良さにはムーの誰もが驚きを隠せなかった。

 

 ボーイング737-700を一ヶ月間契約でレンタルする。返却時に現状復帰するのを条件に特別改造を施させていただいた。

 下げたくもない頭を下げてミリシアルの空港を燃料補給に使わせていただく許可も得た。

 

「良くもまあ民間機にこんな事をさせようだなんて思いつきましたねえ」

「どうってことないよ。ボーイング747なんてスペースシャトルを背負って飛んだんだ。アレに比べたら些細な改造だろ」

 

 レンタル料金は一億円近く掛かった。整備費も同じくらい掛かるはずだ。

 パイロットも交代要員や予備を含めて四名を用意したため人件費も一千万円以上掛かった。

 燃料費も安くはなかった。二十六キロリットルの燃料を満タンに入れると三百万円も掛かるのだ。

 

 五月晴れの良い天気の朝、ボーイング737-700の特別改造機は二発の核融合発破を重そうに抱えて飛び立った。

 マッハ0.78で飛んでレイフォル国境のバルクスル基地を目指すと高度一万一千メートルから核融合発破を投下する。

 一発目は設計に重大な問題があったらしく百キロトン程度の核出力しか発揮する事が出来なかった。

 

「設計出力は一メガトンでしたよね?」

「うぅ~ん、もしかして大失敗なのかな?」

 

 残念ながら四井アーマメントシステムズの面々にはWikipediaで読んだ以上の知識は無い。

 どこをどう直せば良いのかもさぱ~り分からないのだ。仕方がないので技術者たちは適当に部材の厚みやスチレン重合体の配合を変えた物を作った。

 

 それらを一日に二発のペースでレイフォル内にあるグラ・バルカス基地に適当に投下する。

 五百キロトン、二百キロトン、一メガトン、三百キロトン、八百キロトン…… みんな違ってみんないい!

 

 理由はさぱ~り分からないがテストした中で最大の威力を発揮した一メガトンをベストと判断して残りの核融合発破は改修された。

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝王府

 

 お通夜の様に重苦しい雰囲気の会議室。

 その場に集うのは帝王府長官カーツ、帝国軍幹部、外務省幹部、エトセトラエトセトラ……

 東方艦隊司令長官カイザルは手に持った報告書の内容を棒読みしていた。

 

「先週からあらゆる手段を講じてレイフォルとの通信を試みておりますが全て失敗に終わっております。偵察や連絡に出した航空機、艦船も全て消息不明。真に残念ではありますがレイフォルは既に敵の手に落ちた可能性が高いのではないかと思われます」

「それで? グラ・カバル皇太子殿下の消息に関して何か情報は無いのか?」

「一切の情報がありません。ただ……」

 

 外務省事務次官のパルゲールが遠慮がちに口を挟んできた。

 帝王府長官カーツは藁にも縋る思いで身を乗り出す。

 

「ただ何だ? 何でも良い、どんな小さな事でも良いから報告しろ」

「昔から頼りが無いのは良い便りと申します。『無沙汰』という言葉も同じ意味です。知らせが何もないのは無事だからってことなんですよ」

「……」

「それにほら、可愛い子には旅をさせよって言いますでしょう? あと、獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすとも言いますし。若い時の苦労は買ってでもせよですよ」

「……」

 

 会議出席者のほぼ全員がグラ・カバル皇太子殿下の生存は絶望的だと考えていた。

 問題は誰がそれを皇帝グラルークスに報告するかだな。

 帝王府長官カーツは会議出席者全員の顔を見回す。だが、みんなそろって俯いたりそっぽを向いて視線を合わせてくれなかった。

 


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