常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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第七話 一番じゃなきゃ駄目ですか?

神聖ミリシアル帝国

 

 港町カルトアルパスのとある安酒場。そこに集う酔っ払い商人たちは情報交換と言う名目の噂話に興じていた。

 関取の出来損ないみたいな体型に白い髭。サンタの紛い物みたいなおっさんが大阪のおばちゃんみたいに大げさな身振り手振りを交えて話し始める。

 

「しかしまあなんですなぁ~ 近々で面白かった話と言うたらやっぱ第二文明圏の列強レイフォルが第八帝国とかいう聞いたこともあらへん国にこてんぱんにされた事かしらん。誰でもええから詳しい話を知っている奴はおまへんか?」

 

 戸愚呂を巻いたうんこみたいな帽子を被った末成り瓢箪みたいに貧弱なおっさんがやたらと小さな声で呟くように話し出す。

 

「第八帝国ちゅうのんは渾名みたいなもんやな。ほんまはグラ・バルカス帝国とかいうんやで。ワイはレイフォルの首都レイフォリアで香辛料を商とったんやけんども……」

 

 中略……

 

「そういうたら東の方にロウリア王国ってあったやろ?」

「おう、第三文明圏外の蛮国やな? あんなん人数だけの原始人どもやんなあ?」

「そうそう、それそれ。たまたまワイが交易に行ったころ、そいつらが隣国クワ・トイネ公国へ戦を吹っかけてたんだよ。亜人を皆殺しにするとか言ってな」

「ふ、ふぅ~ん。流石は原始人やな。やることがエグいで」

「ところがぎっちょん! クワトイネの更に東にある日本とかいう国の四井って連中が現れた。お陰で前にも進めなきゃ後ろに下がることもできなくなっちまったんだとさ。四千四百隻の大艦隊や三百五十騎のワイバーンもどこでどうしているのか行方不明らしい」

「それってホンマに四井とかいう奴らのせいなんか? ロウリアの連中が不甲斐ないだけなんちゃうやろか?」

「そうかも知れんな。そうじゃないかも知らんけど」

「まあ、なんぼグラ・バルカス帝国やら四井やらが強うても神聖ミリシアル帝国には敵わへんで。やっぱ歴史と伝統が違いまんがな。昨日、今日に現れたぽっと出の国が敵うほど帝国っちゅう商売は甘うないんやで。奴らは絶対に帝国に勝てまへんな。絶対ニダ! 中央世界は永久に不滅です! そうは言うても古の魔帝が復活したら別やけどな(笑)」

 

 酔っ払いどもの乱痴気騒ぎは明け方まで続くのだった。

 

 

 

 

 

第二文明圏 自称最強国 列強国ムー 統合統括軍 情報通信事業部 第二統合情報通信部 情報分析課 技術情報分析室 工学情報分析班

 

 工学情報分析班班長にして第一級情報分析官兼官邸連絡係兼広報担当のマイラスはレイフォリア襲撃の際に魔写されたグラ・バルカス帝国の超弩級戦艦グレードアトラスターの写真を分析しながら脂汗をかいていた。

 

 ちなみにここは世界各国から掻き集められた雑多な情報を分析という名目で興味本位に嗅ぎ回るという役に立ってるんだか立っていないんだかさぱ~り分からない部署なのだ。

 全世界から集まってきた根も葉もない噂話や流言飛語、胡散臭い儲け話、嘘くさいフェイクニュース、エトセトラエトセトラ。そんなゴミみたいな情報の中からちょっとでも役に立ちそうな話を見つけようと昼夜を分かたず涙ぐましい努力。見ように寄っては無駄な努力を重ねているのだ。

 

 軍人からは蔑まれ、政治家からは馬鹿にされ、他部門の役人からは嫌われ、一般市民には税金泥棒と石を投げられる体たらく。

 そんなわけで情報分析官はたいていの場合は身分を隠して活動している。もちろん防諜対策なんて立派な理由ではない。世間体が悪いとか、子供が学校で虐められるとかいった切実な理由によるものなのだ。

 

「こりゃあちょっとばかし不味いかも知れんな……」

 

 もしかしてもしかするとグラ・バルカス帝国はムーよりも優れた科学技術を持っているんじゃなかろうか?

 だけども正常化バイアスの権化みたいなお偉いさん方は絶対に信じないんだろうなあ。

『ビビってんじゃねえよ!』とか『馬鹿も休み休みに言えよ!』とか言われるに決まってる。

 狼少年とか預言者カサンドラみたいに思われるのは勘弁して欲しいなあ。

 

 とは言え、グラ・バルカスの戦艦に関する噂話を総合すると全長がムーの最新鋭戦艦ラ・カサミの倍以上もあるって話なのだ。嘘か本当かは知らんけど。

 アレの排水量は一万五千トン。長さが二倍ってことは体積は三乗に比例するから八倍の十二万トン? マジかよ! 計算を間違えていないよな? このサイズでこの重さって浮かぶのか? 沈んじまわないかな?

 

 そうか、閃いた! 軽合金で出来てるんじゃね? 鉄の比重7.9に対してアルミの比重は2.7だ。重さを三分の一にできるから四万トンくらいで作れるかも知れんぞ。

 別名、電気の缶詰とも言われるアルミ地金の価格は鉄よりもずっと高価だ。だけども、同一体積なら重量は三分の一で済む。航空機内の電線なんかにも銅より軽いって理由で使われているくらいだし。

 問題は防御力だな。同一重量で比較すれば確実に防御力が落ちるはずだ。ってことはグラ・バルカス戦艦の防御力は思ったほど強くはないかも知れんぞ。うん、そうだ。そうに違いない。グラ・バルカス恐るるに足らず!

 

 マイラスは心の中でガッツポーズ(死語)を作った。

 

 

 

 ついでにムーから離れ過ぎているので直接は関係無さそうな国の写真が何枚かある。

 遥か東の文明圏外国家ロウリア王国vsクワ・トイネ公国の因縁の対決。予想屋の見立てではロウリア圧勝で一致していた。だが、大金星を上げた四井とかいう会社に所属する船とのことだ。

 

 魔写した奴の話が本当だとすれば商船四井の『プリンセスダイヤモンド』とかいう変テコな名前の船なんだとか。

 

「うぅ~ん……  分からん、さぱ~り分からん!」

 

 まず船体はやたらめったらデカいのに武装を搭載していない。

 これでどうやったら四千四百隻の大艦隊を迎え撃ち、三百五十騎のワイバーンを撃退できるんだろう。皆目見当が付かない。

 

 大砲を買うお金が無いんだろうか。だけども一門も無いなんてどんだけ貧乏なんだよ。いやいや、だったらこんな巨大な船が作れんだろうに。

 そもそもこの巨体の中には何が詰まってるんだろう。もしかして無駄に大きいだけで中身は空っぽのハリボテだったりしてな。

 独活の大木。大男総身に知恵が回り兼ね。想像したマイラスは思わず吹き出してしまった。

 

「ぷぅ~、くすくす。わけが分からないよ……」

 

 技術士官マイラスは考えるのを止めた。

 

 

 

 

 

アルタラス王国 王都ル・ブリアス

 

 フィルアデス大陸から南に二百キロほど離れた島国、アルタラス。日本の本州くらいの面積に千五百万もの人が住むそこそこ大きな国だ。文明圏外としてはそこそこ豊かな生活水準らしい。

 気候温暖、風光明媚、世界幸福度ランキングとか調査すれば結構上位にきそうな国だ。

 だが、王城の自室に籠もった国王ターラ十四世は頭を抱えて唸り声を上げていた。

 

「これって正気(マジ)かよ?」

 

 目を通した外交文章には思わず首を捻りたくなるような事が列挙されている。

 

「一難さってまた一難、ぶっちゃけありえないな……」

 

『以下パーパルディア皇国を甲とする

 以下アルタラス王国を乙とする

 

1.乙は乙内最大の魔石鉱山を甲に献上すること。

2.乙は乙王女ルミエスを奴隷として甲へ差し出すこと。

 

 以上二点を二週間以内に実行すること』

 

 そして、最後に記載された一文

 

『納期限までに納めないと延滞金が徴収されます。

  延滞金は期別ごとに次の式で計算します。

  延滞金額=金額×延滞日数×延滞金の割合(年利)÷365

 (うるう年でも365日で計算します)』

 

 

 

 そもそもアルタラス王国最大の魔石鉱山っていうのはどこを指してるんだろう?

 何となく魔石鉱山シルウトラスの事を言ってるような気がせんでも無い。

 とは言え、最大っていう言葉の定義はどうなってるんだ?

 つまり、年間の産出量で見るのか埋蔵量で見るのかってことだ。

 

 仮に埋蔵量で比較するとしても『現在の市場価格』で技術的・経済的に掘り出すことが可能な埋蔵総量から既生産分を引いた経済可採埋蔵量のことを言っているんだろうか。

 あるいは既生産分を含めた究極可採埋蔵量の事を言ってるんだろうか。それとも経済総埋蔵量のことかも知れんぞ。分からん。この文面だけではさぱ~り分からん。

 

 もしかしてこれって謎掛け何じゃなかろうか。実は鉱山のことなんてどうでも良かったりしてな。我々が解釈に頭を悩ます様子をどこかから覗き見して笑ってるのかも知れんぞ。

 そう考えたら急に腹が立ってきたなあ。これって明らかにアルタラス王国を怒らせるためだけの文面じゃんかよ! どう考えても初めから戦争に持ち込もうとしているようにしか見えないんですけど!

 

 流石に瞬間湯沸かし器(死語)の二つ名は伊達では無いらしい。アルタラス王国の国王ターラ十四世はたったこれだけの理由で大国パールディアとの開戦を決意したのであった。

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国第三外務局 アルタラス王国 王都ル・ブリアス支所 ブリアス出張所

 

「待っていたぞ、アルタラス国王!」

 

 パーパルディア皇国第三外務局アルタラス担当大使ブリガスは然程は広くも無い応接室で肘掛けの付いた椅子にちょこんと腰掛けてターラ十四世を待っていた。

 

 王は大使の眼前まで詰め寄ると軽く顎をしゃくって上から見下ろす。

 こういう時、立たされていると思うと腹が立つけれど、高い所から見下ろしていると思えば優越感が沸いてこないこともない。要は気の持ちようなのだ。

 

『コップの水がもう半分しかない』って考えるんじゃなく『まだ半分も残っている』って考えよう、とか言うアレだ。元ネタはP・F・ドラッカーの説いたコップの水理論から来ているらしい。

 だが、最近では『自己防衛の思考は実際の効率をアップさせる』とか言って悲観的に物事を見る事を勧めている人も多いような。

 そう言えば京セラの稲盛さんも言ってたぞ。『楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する』とか何とか。

 

 国王ターラ十四世がそんなとりとめの無いことを考えているうちにもブリガス大使の話は終わっていた。

 でっぷり太ったおっちゃんは小首を傾げて返事を待っている。だけどもちゃんと話を聞いていなかったなんて正直に言い辛いなあ。馬鹿だと思われたら格好悪いし。

 

「それで? 我が国最大の鉱山というのは魔石鉱山シルウトラスのことでしょうか?」

「そ、そうなんじゃないのかな? そうじゃないかも知らんけど? だけどもそれが何か? 他に鉱山はあるだろう。それとも何か? 皇帝ルディアス様の意思に逆らおうとでもいうのんか?」

「いやいや、一位と二位じゃ大違いでしょうに。アルタラスで一番の鉱山である理由は何があるんでしょうか? 二位じゃダメなんでしょうか?」

「ならん!!!!」

 

 額に青筋を立てたブリガス大使が唾を飛ばして絶叫する。ターラ十四世は体を捩って紙一重のところで回避した。

 

 実際問題、ブリガスの言い分にも一理あるといえばある。たとえばゼネラル・エレクトリックの最高経営責任者(CEO)に就任したジャック・ウェルチはシェアが一位か二位が取れるビジネス分野のみを存続の条件としたそうな。この方針は大当たりし彼は『二十世紀最高の経営者』と称賛を得た。経営資源の選択と集中は企業経営に取って死活問題なのだ。とは言え、経営を引き継いだジェフ・イメルトは事業の取捨選択に失敗してしまったようだ。業界ではGEがITTと同じ轍を踏むのではないかともっぱらの噂になっているのだそうな。

 

「これはルディアス様の御意思なのですか?」

「ああ、そうだ! 何だその反抗的な態度は! 皇国大使の俺の意思は即ちルディアス様の御意思だ! 上官の命令は朕の命令と心得よって言うだろ? お前は軍人勅諭を知らんのか?」

「知るわけないやろが! って言うか、お前はいったいどこ帝国の軍人なんだよ?」

「貴様ぁ~! これ以上、陛下を愚弄いたすなら刀の錆にしてくれるぞ!」

「いやいや、遠慮しときますよ。って言うか、ステンレスの刀を使えば錆びないと思いますけど?」

 

 売り言葉に買い言葉。超低レベルの言い争いはどんどんボルテージが上がって行く。

 とうとう我慢の限界に達したターラ十四世は黙って後ろを向く。

 

「だるまさんが転んだ!」

 

 超早口で捲し立てたターラ十四世がぱっと振り向く。ブリガスは石像の様に固まっている。

 

 ターラ十四世は再びくるりと向きを返ると今度は振り返ることもなくブリアス出張所を立ち去った。

 

 

 

 

 

ル・ブリアス王城

 

「あのデブ大使をパーパルディア皇国へ強制送還しろ! ペルソナ・ノン・グラータに指定して再入国も禁止だ! ただし要請文に関しては検討する時間を欲しいから回答期限の延長をお願いしてくれ。土下座外交と言われようとこれだけは何とかせねばならん」

 

 国王は駄々っ子のように喚き散らす。彼は瞬間湯沸かし器(死語)ではあるが熱しやすく冷めやすい性格でもあるのだ。

 

「直ちに動員令を発令。予備役を緊急召集せよ。それと…… 王国の金融資産ポートフォリオを見直せ。軍需関連と金に集中投資だ。あとは…… 足の速い船を二隻用意して水と保存食を積んでおけ。あと、トイレットペーパーもな。二枚重ねの奴だぞ」

 

 たとえ頭に血が上がろうと国王は決してリスク管理を忘れない。自分と王女が別々に逃げれば助かる確率だって二倍だし。

 

「いいえ、お父様。倍ではありませんわ。RAとRBをそれぞれのシステムの信頼度とした場合、並列システムの信頼度を計算する計算式はR=1-(1-RA)(1-RB)になるのです」

「つまり儂とお前が逃げられる確率が五分五分だとすれば二人のうちどちらか一人でも逃げられる確率は七十五パーセントというわけじゃな」

「そのかわり二人とも逃げられる確率は二十五パーセンしかありませんが」

「まあ、無事に逃げ果せるかいなかはどれだけ早めに見切りを付けるかが鍵じゃがな。とは言え、あまり早くに逃げ出すと兵の士気が下がって勝てる戦も勝てなくなるし。タイミングが肝要じゃ」

 

 国王と王女は互いに相手の顔色を伺いながら腹の中を探る。

 

「ルミエス、裏切るなよ?」

「父上こそ信用して宜しいのですね?」

 

 お互いに疑心暗鬼となった二人は猜疑心を隠そうともしない。こんなんで戦に勝てるんだろうか。側近達も不安げに顔を見合わせている。

 そんな微妙な空気を敏感に感じ取った国王は薄ら笑いを浮かべて口を開く。

 

「案ずるな。逃げる時はお前たちも一緒じゃ。決して置き去りになどせぬから安堵して励むが良いぞ」

 

 これ以上の士気低下は致命的影響を生じかねない。国王は平気で嘘を吐く。

 全ては王国の利益を最優先にした結果なのだ。諸君らの犠牲は決して無駄にしないぞ。迷える側近たちの魂よ安らかに眠りたまえ。国王は沈み行く夕陽を見詰めながら心の中で合掌した。

 

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