常識を犠牲にして大日本帝国を特殊召喚   作:スカツド

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第九話 撃て!動く標的を

撃て!動く標的を

 

アルタラス王国首都 ル・ブリアスから真北に四十キロの海岸

 

 国王ターラ十四世とルミエス王女を相手に大日本帝国空母打撃群の艦隊司令を務める岸和田少将が行ったプレゼンテーションは大不発に終わった。

 慣れないこと何かやるもんじゃねえな。所詮、俺は軍人だ。商売人の真似なんてできるわけも無い。岸和田は暫しの間、自己嫌悪に陥る。

 

 だが、捨てる神あれば拾う神あり。惨状を見かねた四井物産の富田林支店長と四井商事の高槻部長が咄嗟にフォローを入れてくれたのだ。

 

「岸和田さん。需要が無いところに価値は存在しませんよ。ちゃんとユーザーニーズを把握して……」

「ちょっと待って下さいな、富田林さん。需要が無いところにこそ需要があるとも言いますよ。裸足の国で靴を売る例え話をご存知ですよね?」

「いやいや、あの話のビジネスマンは三流も良いところでしょう。事前調査も無しにいきなり現地入りするのはお話だからまあしょうがない。だけど、誰も靴を履いていないから売れるに違いないだなんて阿呆みたいな報告をされたら上は困っちゃいますよ。だって誰も靴を履いていない原因を何にも分析していないんですもん。需要が無いのか? それとも供給が無いのか? あるいは需要はあるけど購買力が無いのか? もしかしたら宗教的な理由かも知れんし、ファッションとして裸足の方が格好良いなんて変わった価値観かも分からない。そこまで調べてからちゃんと需要予測を立てることができてやっと二流。一流ビジネスマンと呼ばれたいのならば…… 例えば現地人の購買力が無いのなら現金収入を得られる機会を提供するとか、現地の産物なり鉱物資源なりとの交易を……」

 

 駄目だこいつら、早くなんとかしないと……

 フォローしてくれるのかと思ったら突然わけの分からん話を始めやがったぞ。ここは国王と王女の面前なんですけど?

 軽空母天保山の艦長中百舌鳥(なかもず)は心の中で苦虫を噛み潰す。

 艦隊司令の岸和田はと言えばさっきから虚ろな目をして何かブツブツ言ってるし。どうすれバインダ~!

 潜在需要を掘り起こすためには…… 閃いた! 本人に直接聞けば良いんだ!

 

「失礼、私は軽空母天保山の艦長をしておる中百舌鳥大佐です。畏れながら国王陛下と王女殿下にお伺い致します。何か今、欲しい物とかありますか? それかやって欲しい事とか? コストとか労力とか抜きにして何でもありだとしたらどうします?」

「……?」

「これはブレインストーミングっていう思考法なんですよ。まあ、騙されたと思って何でも言って見て下さいな。どうぞどうぞ、ほれほれ」

「そ、そうさのう。儂は……」

「私は日本国の力が見たいわ。日本国の力を見せては頂けないかしら?」

 

 こいつらもかよ~! 野蛮人っていう奴らは本当に力こそ全てなんだな。『力が正義ではない、正義が力だ!』とかいう理論というかナニをナニしてるんじゃなかろうな。まあ、それならそれで別に良いんだけどさ。中百舌鳥は考えるのを止めた。

 

「んで、何をぶっ壊せば良いんですか? 国王陛下、王女殿下」

 

 

 

 

 

 三十分後、防空巡洋艦摩耶のCICに戻った岸和田はぼぉ~っと呆けていた。中百舌鳥の馬鹿が勝手な事を言ったお陰でフェン王国に続いてパフォーマンスと言うかデモンストレーションと言うか実弾演習を披露する羽目になっちまったのだ。

 岸和田の存在を無視するかのように艦長と副長は和気藹々と話をしている。

 

「そんで、副長。標的の数は三百以上だってさ。全て撃破しろってオーダーだ」

「それって本当に標的機なんでしょうね? フェンの時みたいな伝達ミスは真っ平ご免の助ですよ」

「いやいや、今回の標的は木造船舶だ。くれぐれも間違えんでくれよ。ただし、確変からフィーバーに突入すると百機ほどの標的機が現れるかも知れんそうだ。もし出たら絶対に一機も逃すな。とにもかくにも北東から来る奴は全て撃破して問題無い。って言うか、撃破しなくちゃならん」

「え、えぇ~っ! さ、三百ですと。ハープーンはそんなに積んで無いですよね。いったいどうすんすか?」

 

 大口をあんぐりと開けた副長が目を剥いて驚く。

 なんぼ何でもびっくりし過ぎだろ。中百舌鳥は思わず吹き出しそうになったが空気を読んで何とか我慢した。

 

「あのなあ、相手は粗末な木造船なんだぞ。んなもん使ったら勿体無いお化けが出るわ。五インチ砲で十分お釣りがくるぞ」

「それだとしても三百は多いですね。五艦で六十ずつとしても即応弾では足りませんよ。ゴールキーパーも使いましょうか? うちの艦隊のアレは対小型船舶にも使える奴ですから」

「いやいや、標的の足はとっても遅いそうだ。距離を取り直して補充する余裕くらいあるだろう。CIWSは標的機が現れた時のために温存する。それで良いですよね、司令?」

「はいはい、好きな様にやってくれ。儂ゃもう知らんよ……」

 

 

 

 

 

 天気晴朗なれど波高し。とっても良い天気の五月晴れの空の下。パーパルディア皇国軍に所属する艦隊三百二十四隻は意気揚々と南西方向へ進んでいた。

 大砲を山ほど載せた戦列艦やワイバーンをぎっしり詰め込んだ竜母、雑多な物をたっぷり積んだ揚陸艦、エトセトラエトセトラ。みんな違ってみんないい。

 質はともかくとして量に関してだけは大した物だろう。

 

 将軍シウスは船縁にもたれ掛かってぼぉ~っと海を見詰めていた。

 

「もしもし、もしもし将軍。起きてますか? もうちょっとでアルタラス王国軍ワイバーンの戦闘行動半径なんですけど?」

 

 ちょっと遠慮がちに顔色を伺いながら副官が声を掛けてきた。

 せっかくの憩いの一時を邪魔された将軍シウスはイラっと来る。だけどこいつもこれが仕事なんだろう。内心の不快感を抑え込んで卑屈な笑みを浮かべた。

 

「まだ来ないのかなあ。ちょっとでも反応があったらすぐに直援騎を上げるんだぞ。って言うか、もう上げておいた方が良いかも知れんぞ。いざという時にバタバタ慌てんで済むんじゃね?」

「そうかも知れませんね。そうじゃないかも知れませんけど」

 

 副官は人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべると逃げる去るようにその場を後にした。

 

 そのとき、ふしぎなことがおこった! 十二隻しか無い虎の子の竜母の飛行甲板で大きな爆炎が吹き上がったのだ。事故か事件か? 分からん、さぱ~り分からん。

 毎秒二、三回の割合で起こる爆発はほんの数秒で皇国自慢の竜母を全滅させる。続けて爆発は他の雑多な艦に移って行く。何が? 何が起こっているんだ。わけがわからないよ……

 

 将軍シウスの絶叫は辺り一体を覆い尽くす轟音で掻き消され、誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 艦隊司令の岸和田は相も変わらずぼぉ~っと呆けていた。

 

 さっき立てたスケジュールの通りに巡洋艦二隻と駆逐艦三隻は五インチ砲の砲弾を標的へ次々と叩きこむ。

 五隻合わせた発射速度は毎秒二、三発にも達する。その轟音はまるで機関砲のようだ。

 距離は十キロ以上離れているが標的の船足は遅い。百発百中で命中する多目的榴弾はほぼ一撃で粗末な木造船を沈めて行く。

 話に聞いていた標的機はいまだに姿を現さない。もしかして確率が辛めに設定されているんだろうか。

 

「だけども司令、何で遠くの的から先に撃てって言ったんですか? 勝手に近付いてくるんだから近くの奴から撃った方が良いと思うんですけど」

「ああ、アレか。アレはヨーク軍曹っていう映画で主演のゲーリー・クーパーが言ってたんだよ。遠くの奴から先に撃てってな」

「それはやっぱアレですか? 『絶対に敵を逃さないぞ!』みたいな?」

「そんな感じだな。獲物はみんな前しか見てないから後ろの奴から仕留めれば逃さずに済むみたいなことを言ってた気がするぞ。本当を言うとあんまり良く覚えていないんだけどさ」

「そうは言っても相手は標的なんですけどね」

「訓練で汗を流しておけば実戦で血を流さんで済む。とか何とか言うだろ。まあ、騙されたと思ってやって見てくれよ」

「誰も嫌だなんて言ってませんよ。ただ、変だなあと思ったから聞いてみただけですから」

 

 そんな阿呆な理由で貴重な竜母を真っ先に潰されたとは。パーパルディア皇軍の連中は最後の最後までその事に気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 戦いとも言えない一方的な虐殺は僅か数分で終わった。

 また詰まらぬ物を撃ってしまったな。十キロほど先に漂う大量の海洋ゴミを見詰めながら岸和田は相も変わらずぼぉ~っと呆けていた。

 いやいや、こんなんじゃ駄目だろ。世の中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ。それも嫌なら…… 閃いた!

 

「富田林さん、高槻さん。ちょっと思いついたんですけど聞いてもらえますか? 近年、海洋ゴミが問題になっていますよね。一説によると2050年には海の魚よりゴミの方が多くなっているんだとか。でも、私は一人の海の男としてそんなことは許しておけません。今こそクリーンアース計画を発動する時です。今やらんでいつやると言うのだ? 今でしょ!」

「いやいや、岸和田さん。ここは地球じゃないですから。とは言え、あのゴミを放ったらかしにはできませんな。回収して使えるものは建築材に、それ以外は燃料用にでもリサイクルしてやれば……」

 

 防空巡洋艦摩耶のCICでは早くも事後処理に関する話し合いが始まる。だが、言い出しっぺの岸和田はまたもや蚊帳の外に置かれてしまった。

 どうしてみんな俺の話を聞いてくれないんだろう。本当に艦隊司令というのは孤独な仕事だ。何だかもうどうでも良くなってきたぞ。勝手にどっか行っちゃおうかしらん。

 いやいや、司令官が勝手にいなくなっちゃ駄目だろ! 誰も突っ込んでくれないので岸和田は自分で自分に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 軽空母天保山から呼び寄せたオスプレイは一同を乗せると南へ向けて飛び立った。

 

 国王ターラ十四世の怖がりようは見ているだけで笑ってしまうほどだ。まるで迷子のキツネリスみたいだな。岸和田は心の中であざけり笑うが決して顔には出さない。

 それとは対照的にルミエス王女は小さな窓にべったり顔を押し付けて大はしゃぎしている。まるで幼稚園児みたいなその表情は興味津々といった感じだ。

 

「はやいはやい! ワイバーンよりずっとはやい!!!」

 

 この糞ビッチめ。岸和田は心の中で苦虫を噛み潰すが決して顔には出さない。

 とにもかくにもミッションはコンプリートできた。あとは野となれ山となれ…… じゃなかった、本来の商売の話を無事に纏められれば万々歳だ。

 これ以上、国王や王女が変な事を言い出しませんように。岸和田は心の中で神様にお願いした。

 

 

 

 先ほどの海岸から南へ四十キロの距離を十分足らずで飛行したオスプレイはアルタラス王国の王都ル・ブリアスへと到着する。

 王の従者が事前に魔信で連絡を入れていてくれたお陰でパニックにはなっていないようだ。

 だが、王宮に集う無数の人々は揃いも揃って大きな異音を発する謎の飛行物体を注視している。

 オスプレイは地上からの指示に従って王宮正面の広場に着陸した。

 

 

 

 一同は豪華な調度品で埋め尽くされた貴賓室らしきだだっ広い部屋に案内される。

 岸和田や富田林、高槻らが何から話そうかと顔を見合わせた。機先を制するようにルミエス王女がまずは口火を切る。

 

「岸和田殿、先ほどの見事な戦い振り。私は感服いたしました」

「た、戦い?」

「いえいえ、演習でしたね。真の戦かと見紛うばかりの迫力に、思わず言い間違えてしまいました。あれだけの的を一つも外さぬとは。日本の兵は皆、さぞかし手練の集まりでなのしょうね」

 

 ルミエス王女は少しも慌てずにっこり笑って言い直す。ぼんくら揃いの日本の面々は美女の微笑みにコロッと騙されてしまい何の疑問も抱かなかった。

 

「礼には及びません。仕事ですから」

 

 まるで一同を代表するかのように岸和田が屈託のない笑みを浮かべる。

 この國村隼さんの物真似って自衛隊で流行ってんのかな。富田林は笑いそうになるのを必死で我慢した。

 

「時に国王陛下、王女殿下。我が四井グループは貴国に対して……」

「岸和田閣下、貴殿は英雄です。大変な功績だわ。是非とも我が国と国交…… いえ、同盟を結んではいただけませんでしょうか。アルタラス、四井のどちらかが他国と戦になった折は相互に手を結んで戦うのです。ねえ、お父様。良いでしょう? 岸和田閣下も良い考えだとは思われませんか。ねぇ、ねぇ、ねぇ?」

 

 こともあろうかルミエス王女はつかつかと近付いてそっと優しく手を握る。真正面からじっと目を見詰められた岸和田は思わず目を反らしてしまった。

 見かねた高槻が助け舟を出す。出したつもりだったのだが…… 何と言ったら良いのか分からなかった。

 

「ケネディ大統領は申された。『貴方の国が貴方のために何ができるかをではなく、貴方が貴方の国のために何ができるのか問うてほしい』と。ぶっちゃけた話、我が国を守るために貴国はいったい何が出来るんでしょうか?」

「そ、それはその…… 魔石! 魔石があります! それもその…… いっぱい!」

「ああ、例の魔力を持った石ですな。どれくらいあるんですか? もしお差し支えなければ産出量、種類、品質、エトセトラエトセトラ。詳しく聞かせていただきたい。そうそう、一番大事な経済可採埋蔵量や究極可採埋蔵量。それと経済総埋蔵量を教えてはくれませんか?」

「うわぁ~! またもやそれかよ~! もう埋蔵量の話は沢山だ! いい加減にしてくれよん!」

「どうどう、お父様落ち着いて。もう怖くないですからね。怖くない怖くない。一休み一休み」

 

 そっと背中を擦られた国王がだんだんと大人しくなる。

 

『不思議な力じゃ……』

 

 ちょっと草臥れてきた富田林はユパ様みたいな月並みな感想を漏らすと考えるのを止めた。

 

 

 

 

 

 それからの数時間は双方に取って実りある時間と言えた。一同は熱意を持って様々なことを話し合う。

 

 まずは日本とアルタラスの間に防共協定が結ばれた。もちろん正式な物では無い。そもそも日本はクイラとクワトイネ以外を国家承認していない。するつもりすら無いのだ。

 だからこの防共協定モドキは実際には四井グループが信用保証をする企業間の契約みたいな物といえた。

 

 続いて魔石に関連する様々な取り決めが定められる。

 ヒアリングの結果、アルタラスの国家収入の大半は魔石関連ビジネスで支えられていることが分かった。

 期限付きの魔石採掘権の交付、道具のレンタル、そして魔石取引税。この三本柱だ。

 その中でも特に道具のレンタルは割の良いビジネスらしい。

 そう言えばカリフォルニアのゴールドラッシュでも確実に利益を上げていたのはレンタル業者だったそうな。

 とにもかくにも四井鉱業や四井金属、四井化成といったグループ企業からエンジニアの派遣が決まった。行く行くはアルタラスに魔石精錬所を建設するという壮大な計画だ。

 

 海軍からの要望としては滑走路。もし可能ならば海軍航空基地の建設が打診された。

 すでにアルタラスに空港らしき物があることは写真偵察によって判明している。

 王女の話によればそれはムーという国がアルタラスから土地を借りて建設したとのことだ。

 ムーに作らせたんなら四井にも作らせてもらえるんじゃね? 迅速かつ確実に防共協定を履行するためには航空機の往来が不可欠だ。

 これは四井建設の仕事だろうか。早速にも建設予定地が決められる。

 

 そんな話をしていると遠慮がちなノックの後、従者の声がした。聞けば夕飯の支度が出来たとの話だ。何だかとっても有意義な会合だったなあ。少なくとも日本側の参加者はそう信じていた。

 

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