貴方の夢の先に何があるのかしら。
第1話 経緯
始まりの話
私はその日、なんだか朝から胸騒ぎがすると思った。
なんでこんな気持ちになるのだろうと思ったけれど、別に今日が特別な日というわけじゃあ無いし、いつも通り、6時に起きてご飯食べて歯とか顔とか髪とかやって家を出た。朝からシュークリーム食べて家を出た…………
いつもと違うことといえば、お友達のイチコちゃんがジョウタロウ君がうんたらかんたら………ジョウタロウ君と言うのは同じクラスの男子の名前であり、我が校の王子様の名前である。
イチコちゃん曰く、雄々しい肉体と知的なグリーンの瞳がたまらない!らしいが、正直言って私にはジョウタロウ君もジローラモ君もジョンソン君も変わらない。さらに言えば、これは個人的な意見なのだが、寡黙な男は全然話してくれないから絶対離婚率高いと思う、私は将来絶対に寡黙な男とは結婚しないと誓っている。
……………付き合っている時だけだ。そういうのは付き合っている時だけクールに感じて、本当に結婚して子供が生まれたら苦労するのだ。
「ハナコちゃん聞いてるの?今日ジョウタロウ君が来る日なのよ!頑張って待ち伏せすれば、取り巻きの子達よりも早くジョウタロウ君に会えるのよ〜!」
「イチコちゃん…どうせジローラモ君には取り巻きの子たちがもう居るって…」
「ジローラモ誰よ、ジョウタロウよ!」
「………ジョウタロウ君ね。」
この子とは一年生の時からの付き合いだが、ちょっとお馬鹿な、頭の弱い女だ。
その後、無事にイチコちゃんはジョウタロウ君を拝めたが、取り巻きの女には睨まれた。
真に馬鹿な女とは、他人に迷惑をかける厄介な女の事である。昼休みに私はイチコちゃんとご飯を食べていた。
「ハナコちゃんジョウタロウ君かっこよかったね〜!」
「そうね。」
「やっぱり取り巻きの子たちには敵わなかったけど、絶対コッチ見てくれたわよ!」
「そうね。」
イチコちゃんは頭はゆるゆるだけど、明るくて友達思いなところは好きだし、何やかんや言ってこの子は感覚の鋭い女である。
「でもちょっと、取り巻きにヨウコちゃんがいたから……………何かされないか心配だなぁ…」
「そうかしら。」
所詮私たちはカースト下位の人間である。ジローラモ君にくっ付いているのは上位の人間たちだ。
イチコちゃんは天然で嫌われてるし、私は気味の悪い女だと思われているため、時たまいじめの対象になるのである。最近イチコちゃんに目をつけているのがヨウコという女で、昨日の席替えで私がジローラモ君の隣になったから、私も目をつけられている。
女というのは、めんどくさい生き物である。
その後、5時間目6時間目と終わり、この日は普通に学校を終えた。
***
放課後の話
人生なにが起こるか分からないと言うのはこの事である。
ハナコの人生のサイコロは家に帰って、その瞬間にその家にいじめっ子たちが押しかけてきたところから、ゴロンゴロン回って移動し始めた。
その移動距離は、日本列島よりも長い。どんだけ転がってんだと。だってエジプトに行かないといけなくなったんだもの。長いわよ。
そしてそれは、良い方向に向かっている気がしない。このまま私は人攫いにでもあって、きったねぇ男どもの性奴隷にでもなってしまうんじゃあないか。
というか、身包み剥がされそうな方向に回っている。
怖い。
ハナコは不安でいっぱいだった。
同行者は浮かぶ胎児だ。屈強な男だったら少しは安心できたかも知れないが、そんなうまい話ではない。
突然なのだが…ハナコは高校2年生の5月から海外逃亡しなければいけなくなった。
ここで、5月4日、冒頭の「胸騒ぎがする朝」の1日に何があったか説明すると、
ハナコは久しぶりに部活のない放課後に、早めに家に帰った。
が、友人であるはずのイチコちゃんが、ヨウコちゃん達の脅しに遭って、自宅の場所を売られてしまった。家の場所が結構近かったので、ヨウコちゃんの鬱憤ばらしの相手に定められてしまった。
ハナコ家に入ろうとした瞬間にヨウコちゃん達4人の女子が私を半ば押さえつけながら家に上がり込んできた。
それが全ての原因だ。
本人たちは、
「ハナコちゃんのお友達で〜す」
「すみません、ハナコちゃん体調悪かったみたいで送って来ました〜」
だとか、「母親がいるだろう、バレないようにリンチしなきゃ」という計算のもと脅して家に上がり込んできた。が、想定した母親の返事が無いと家に私しかいない事を悟り、調子に乗った。ハナコを荒々しく中に引き摺り込んで蹴りを入れられた。
何故家にあがられるのが問題なのかをここで説明する。
ハナコは、実は2年前に父親と引きこもりデブの兄を計画的に殺している。1ヶ月前には母親を事故死させてしまっていた。この三人の死体は完璧に処理したが、弟の死体だけは残っている。しかも相当臭い。
なので、部屋に上がり込まれるというあの状況は、非常〜にまずかったのである。
結果から言うと、ハナコは逆上して、女子3人を殺し、1人を取り逃して、警察に通報されることとなる。
ここでハナコ身の上話を話したいと思う。
ハナコの家はアパートの角部屋で、酒乱の父と精神的に問題のある母親と、ストレスゆえの爆食いからの引きこもりメタボな兄とともに生活していた。
幼少期はゴキブリの混ざった食事とゴミ袋だらけの異臭の中で育った。
とてつもなく臭いので私のあだ名はウンコだったし、部屋の隣と真下には誰も住もうとしない。その辺の犬のウンコ食えって言うイジメにもあったし、ウサギ小屋の水を飲まされたこともあった。
……………つまり何を言いたいかというと、ハナコは特殊な家庭環境により、いじめられたりして、精神的に問題がある女性に育ってしまったと言うことである。
多少の良心や必要程度の常識を兼ね備えてはいるが、やっぱりちょっとおかしい女の子なのであった。
12歳になる頃には父は私ハナコを性的な視線を送るようになった。母は私のまつ毛を抜いて目玉のオブジェと魔法陣の手拭いに捧げるようになった。
兄はハーブやってる。百円玉がないと黒電話とポストの結婚式に出れず、肝臓にマンダラキノコを植えつえられるらしいので百円をあげていた。
その辺でハナコは、「この家族の保護がなくても生きていけるというか、私が生かしているようなものだぞ」、と気付いたので、家を飛び出した。が、運悪く補導されたので、家から家族を排除してしまおうと考えた。
…そんな矢先、どっか行ってた父が大金を持って家に帰ってきた。
父が持ってきた大金によって我が山田家は少し潤った。それでも、あいも変わらずバカしかいないのであった。
ハナコはパクった金で、ホームレスのような生活をした。シャワーを浴びたい時は銭湯に行った。
実家に比べればとてつもなく平和で清潔な日々であった。
だから「家族を排除するの、ちょっと後でもいいかな?」って気持ちになったのである。お金があるとはとても素晴らしい事である。
……………で、そんな生活がなぜ家族殺害という急変を迎えたかというと、それは、母の妊娠である。
それを知った時、ハナコに何かよく分からない物が込み上がった。母のお腹に宿った命、私が守らなくてはと謎の使命感が湧き上がった。
それは、イカレ女の母がお腹をさすって笑っていたからかもしれないし、裁縫をして赤ん坊の服を作っていたからかも知れない。
大きくなった母のお腹を撫でた時、ハナコの時もこうだったのよ、あんたの兄弟よ、ハナコお姉さんになるのねぇ……………と、母はハナコの名前を呼んだのである。その時、母が物凄く清らかに感じ、また、愛されて生まれて来たのだと嬉しくなって、どうしても弟を守ってあげたくなったのだ。
そこからの行動は早かった。
母が臨月に入ると私は酒に睡眠導入剤を入れて眠っている父を刺し殺し、爆音でイヤホン聴いてる兄の首を縄で締め殺した。
それからは2人を金槌やら、ノコギリやらでバラバラにしてスパイスやら醤油やらをブチ込み、圧力鍋で茹でて、最後はゴミ収集車に任せた。
我が家から血痕が出ないようにとブルーシート引いたりだとか大変だったが、これで何も心配いらないと安心したのだった。
清らかな弟を迎えるために父と兄は悪影響すぎるのである。
さて、いよいよ母の出産……………と、なりたいのだが、そこでまたアクシデントが起こった。
赤ん坊が生まれないのである。
ハナコは2年弟を待って、痺れを切らして自己流帝王切開を実行したら、母が死に、やっと取り出した弟はちょっと腐っていた。死産だったのである。
ハナコはその時凄く、悲しんだ。どれくらい悲しかったというと、オリンピック出場の決まったスポーツ選手が、交通事故に遭った時くらいの悲しみである。
(が、本人は自殺しようとか考えていないので、立ち直りは早い。)
あんまりに悲しいので、ハナコは母の死体は近くの山に埋めて弔い、弟は諦めきれないのでクーラーボックスに入れて置いた。
で、弟腐ってた事件はつい1ヶ月前のことである。
先に結果を述べてしまったが、家に押しかけてきた女子4人に私は取り押さえられ、暴行を受けたのち、弟を見られてしまった。
これは殺すしか無いと、衝動的にヨウコやらを3人仕留めたが、最後の最後で1人に逃げられ、警察に通報されたのである。
以上が5月4日に、この山田花子に起こった平穏な日常をぶち壊す災難である。
「これは国外逃亡するしかない」と腹を決めたのは、2年前に父を殺してから途絶えたディーアイオー(ラジオネーム??)さんという人物からの手紙を見つけた事がきっかけである。
巨額の金はこの男からのようで、エジプトと日本の中継を父のスタンド(?)がしていて、案外重宝されていたらしく、うんたらかんたら…………そこで触っていなかった父の机をあさったら、なんとエジプトのとある座標が精密に書かれたメモ書きや、でっかい屋敷の写真が出てきた。
ハナコはピン!と来た。よし、ここで雇って貰えばいいじゃないか!と。あの酒乱が雇ってもらえたのだから、私なら楽勝だ!と。
その時の彼女は、物凄くハイになっていたのでバカだった。
それからは早かった。エジプトに行ってやろうとすぐに空港に向かった。
凄くバカなのだが、この時チケットやら何やら全く考えておらず、荷物もボストンバックに下着と、何故か制服を冬夏全部突っ込み、乾パンを突っ込み、サバイバルナイフ…ではなく包丁を突っ込み、売れそうなダイヤ?みたいなきキラキラしたものを突っ込み、物凄くアホなのだが凄く満足して家を出た。
服、よし!
食い物、よし!
武器、よし!
多分金になるもの、よし!
いけるッ!
こんな感じで家を出たのである。
おいおい、お前~そんなんで飛行機に乗れるわけねえだろ嬢ちゃんよぉ〜と。
ところがどっこい、ハナコは何故か空港を素通り出来て、エジプト行きの便に飛び乗れた。隣のシートに座っていた外国人らしき、ハンサムガイは自然に握手を求めて来た。また、機内食も普通に配られた。
そこまで来て私は飛行機の機内で流石におかしいと思い始めた。
そういえばパスポートだって持っていないんだぞ私は……………
ラッキーというにはおかしすぎる現状に私はキョロキョロと機内を見回した。気が気でなかったから脳汁出すぎてたのか、ハイになりすぎてノリで飛行機に乗ってしまっているけふこのころ……………
すると、どこからか赤ん坊の声がした。真剣に耳を済ませてみると、なんと、上から聞こえてきるのである…ホラーだ。
怖くて如何に図太いハナコあろうと、すぐに上を向けなかった。仕方ないので私は隣のナイスガイに尋ねた。これでも私、英語は学年十位以内の中々に頭の良い女であるはずなのだ。
「すみません、私の頭上に何か居ませんか?」
「…? いいえ、何も居ませんが、虫か何か見たのですか?」
「……………ありがとうございました。大丈夫です。」
隣の男性は何も居ないよと言うのでそれを信じた。ハナコは自分の真上を見た。
『オギャャャャアアァァァ!!!』
いた。
間違いなくいる。
その赤子は今まさに母親の胎内から生まれ落ちたかのように、血に塗れて、それがハナコの顔に垂れている。
また、ハナコの手には何かを握っている感触がある。それは赤ん坊から垂れ下がっているへその緒だった。ヌルついていて気持ちの悪い……………赤ん坊は風船のようだった。浮いてる。泣き声は私にしか聞こえておらず、姿も私にしか見えていないようだ。だからみんな驚きもしない。風に揺られているのかゆらゆら踊っているようである。
私はもう一度ナイスガイにこの子が見えていないか尋ねるために、彼に話しかけようとした。
「うっ、な、な、なんだこれ、エエエ、大丈夫…じゃ、絶対無いわね。」
彼の両方の黒目がくるくる回っており、何かぶつぶつ言いながら髪の毛を抜いていた。彼は情緒不安定になったのかなんだかヤバくなってきていた。
異常な状態である。
「駄目だ………ストーブの虹色の炎が消える前に運動会で一等賞を取らないと僕に明日は無いし、フィリピンにいる僕の弟と妹の子供にウェルカムドリンクを用意するために鈴虫の親子に連絡しないと…ゴキブリを混ぜた中華料理店で働きたくなかったらイカレ坊主の葬式の助手をするのが条件ってもんさ…アッアッアッアッ、もう駄目だっ!!隣の家がミートボールを温めているっ!!!殺される!!!アッアッアッアッ、助かったぞ、奥さんが孕んでいたのは子供との子じゃなくて火星人のお爺さんだ……」
この人度でかい声で叫んでいるのだが、全く周りの人は加減な顔をしていないし、全然聞こえてませんって感じだ。
なに言ってるんだこいつ………!!!
まるで兄みたいに、やばい薬でもやってるかのような呟きだ。流石のハナコと怖すぎてちょっと涙が滲んできた。
頬には紅葉のような小さな赤ん坊の手形が墨のように黒くペイント?されていた。
あれ、この人こんなペイントしてたっけ?
赤ん坊からまた血が垂れて来た。今度は青年のおでこにかかった。そうするとまた黒い手形が浮かび上がって来た。青年は小刻みに痙攣を始め、皮膚が黒く染まり始めた。
これは、どう考えてもいきなり出現したこの赤ん坊と関係あるんじゃあ無いか………
「……………全部この子がやっていたの…?私が空港に入れたのも…この人が…こんなふうになったのも…全てこの子の魔法のようなものなの??」
まさに驚き。脳がガンガンしている。我ながらこのパニック時に驚きの理解力。不思議なこと全部こいつが原因だよ、絶対。
しかし、このハナコ自身には何の効果も現れておらず、ちょっと守護されているかのような心地だ…
皮膚全てが黒く染まったのか、そこから男性は縮んでいき、黒い赤ん坊になって血みどろの赤ん坊の隣に浮いた。へその緒は二股になった。
今後黒い赤ん坊が増えたら百股、千股にもなるのだろうか…
恐ろしい赤ん坊であることには間違えないのだが、ハナコにはどうにもこの子を殺す気にはなれなかった………そうしたら自分を否定することになるような、いや〜な感じがしたのだ…
血みどろの赤ん坊はハナコの方を見つめて、それからキャッキャと笑った。
なんだ、本人自体は普通の赤ちゃんじゃ無いか…
黒い方は目も口も分からなかったけど。
ハナコはちょっと、おかしくなっているのでおそるべきポジティブ思考を展開した。
この子は守護霊かも知れない!!
神様が授けてくれた弟かも知れない!!
エジプトに行きなさいって神様がいってる!!
「あなたがどこの子か…私には分からないけど……………神様が、私にくれた…弟の代わり、かも知れないから…大切にする…」
『キャッキャ』
「その力でお姉ちゃんを守ってね…」
『キャッキャッキャッ』
それに応えるかのような、赤ん坊の笑みに安心して、ハナコは気絶した。疲れすぎた。
それからは寝て寝て寝て………エジプトの空港はまた幻覚を見せる赤ん坊の魔法で乗り切ったのだった。
ちょっと人生舐めすぎじゃね?
と言うぐらい簡単に、人生の転機5月4日から5日後、無事にエジプトに着いたのだった。
同行者は、頼りない……というかむしろハナコが守るべきかも知れない赤ん坊である。
そして、今、ハナコは日本よりも明らかに治安の悪い街中を頑張って現地の人に聞きながら、目的の館を探して彷徨い歩いているのである。