花京院典明 ③
「おかしいと思っていましたよ、私だってッ!」
「はいはいはい、貴女最初から胡散臭すぎたんですよ。」
「だってッ!全然チョロいと思ってたんですってッ!」
「それを慢心というのですよ。」
「クソッ………殺してやる…」
「いい能力のスタンド使いなら、貴女の能力で引っ張って来なさいな。」
「内臓の隙間を、管みたいな細いものが這い回るあの気持ち悪さ………許せないわ…」
あの後、ハナコはボロボロになって帰って来た。そして、あまりの惨めさから、今、テレンスに泣きついているのである。
日本から家族旅行に来た男子高校生、花京院典明にスタンドで体を操作され、数時間放置されたハナコは、脱水症状を抱えて館に戻ったのだった。
少し休み、現在体調は回復した。
そして、思い出す失態の数々…恥ずかしくて、悔しくてたまらなかった。また、その理由が、自身の慢心ということも、原因であった。
しかし、1番悔しいのは、花京院の用意周到すぎる対応である。戦闘初心者に出し抜かれたのが気に食わなかった。ハナコの脳味噌は、餌に入れ食いする鯉のように、荒立っていた。
「どうしてあんなに迅速に対応出来たのかしら………スタンドを出現させてからのスピードが流石におかしすぎる…」
この女は、案外物事を追求するところがあるので、府に落ちない点には敏感であった。つまり執念深いのである。
確かにハナコは、胡散臭くて、「この人犯罪者なんじゃ…?」「エ、何でこんな死線潜ってきたような事話してるの?」と、ちょっと関わってはいけないギャングの様な雰囲気を漂わせた語り口をしてしまったが、いくら何でも花京院の対応の早さは異常だと考えていた。
あの時、ハナコがスタンドを出現させて、フォークを振り下ろすまで、3秒もかからなかった筈だ。3秒で緊急事態に対応出来る人間なんて、特殊な訓練を受けてる人間でもなけりゃあ、絶対無理な筈である。ハナコはそう考えていた。
「………ハナコさん、1つ私が考えた事を話しても良いですか?」
テレンスが紅茶を差し出しながら言った。
「是非、お願い致しますわ。私、もう奴をDIO様の毒牙にかけてやらないことには、腹の虫が収まりません。」
ハナコは、いつもの冷静沈着な姿とは程遠く、とても苛立っていた。その原因は、女性特有なモノであるから仕方ない。
ハナコの月経症候群は普通より重い方であるが、いつも立場をわきまえて、人前では冷静を保っている。しかし、今回の事件で、自らの平和ボケしたような慢心を自覚し、イライラに拍車がかかっていた。
「DIO様の毒牙…それ、ヴァニラの前では言ってはいけませんよ……………コホン、1つ思うのですが、ハナコさんが目をつけたその少年、最初からスタンドを仕込ませていたのではありませんか?」
「………エ、どういう事ですか?」
「だからですね、その少年はそもそも仕込むだけで害が無いなら、スタンドを最初から仕込ませておいて、万が一にも誘拐やリンチに合わないようにと予防線を張っていたのでは無いですか?」
「………ア、たし、かに。」
「ハナコさんが出現させたから、彼もスタンドを出したという認識から間違っているのでは?申し訳ないですが………初手と王手もとっくに取られていたということですね。」
「くうぅぅぅう…」
テレンスの言い方は、少々馬鹿にしている感じが含まれているが、本当のことなので、甘んじて受け入れた。
確かにそれで辻馬は合う。
ハナコは「どうせ私の能力で強制的に従えるんだから、少し犯罪者っぽくても楽勝。」と馬鹿みたいな慢心をしていたが、花京院は「ここで誘拐でもされたらたまったものじゃない」「やられる前に予防線だ!」と言う考えの元、己の能力でしっかりと対策をしていたのだった。
「アァ………そりゃあ異国の地で怪しい女に言い寄られたら、対策しますわ……」
「でしょう?彼はきっと、怪しいと感じ始めた辺りから、バレにくいというスタンドの特徴を活かして、自己防衛策を練っていたのですよ。」
「つまる所、私の敗因は………」
「やはり慢心。」
「………………っううううぅぅぅぅ…」
机に突っ伏して声にならない声で叫んだ。テレンスは、あまり見たことの無いハナコの年相応な姿に、この子もまだ子供なのだな、と思った。
どんなに考えても、やはりハナコの敗因は慢心であった。
ハナコは、腑抜けた精神に自分自身で嫌気がさした。最近は荒々しい戦闘も無かったせいか、よく切れる中華包丁の様な鋭さが失われつつある様な気がして不安になった。
………余談であり、個人的な会見だが、ハナコの鋭さはナイフの様なチマチマ切るものではなく、中華包丁や鉈の様な一刀両断という類の案外豪快な物であると思っている。
「………自分自身が許せません……人を殺さないといけないと思いました。」
「相変わらずのぶっ飛び思考ですけど、確かに最近は穏やか過ぎましたね。少し分かりますが、平和が1番ですよ。私も人形のコレクションが3体も増えてほのぼのしてます。」
「私、DIO様に稽古でも付けてもらおうかしら……」
「やめた方がいいですよ。」
「冗談です。」
ハナコは更なる強さを求めて、自らを追い込む作戦で行こう、と考え始めたのであった。
また、本日悔しい思いをした花京院チャレンジだが、今度は主であるDIOにチクるという形で、完遂させようと考えるのであった。
***
DIO様に告げ口する話。
「………確かに、面白そうな能力者ではあるな。」
「はい、本人の判断能力も凄まじく………ゆ、有能な部下になると、思い"ま"す"。」
「……お前を一杯食わせるだけの能力者ならば、十分だろうな。」
「不甲斐ない私をお許しください…」
ハナコは、DIOに対しては、「一応」下手に出る。
一応上司であるし、リストラされない為にも敬う心は少しばかりでも必要だと考えていた。また、アイが最近DIOに懐きつつあるので、アイの前で機嫌を損ねたくないと言うのも理由であった。
「パパ、姉やを、いじめちゃ、め!」
頭を下げるハナコを見たアイは、DIOの頬をペチンと叩いた。
「虐めちゃあいないさ、アイよ、ハナコは私の大切な部下だからな。」
「なら、よいぞ。」
「少し生意気になってきたなあ?誰に口を聞いていると思っているのだ?」
「姉や〜!」
「………まだ言葉が難しかったか…」
「姉やがいい!だあっこぉ〜!」
DIOの腹の上で暴れるアイは既に4歳位の姿になっていた。言葉も達者になり、文字の読み書きも覚え始めた。
ハナコの予想通り、成長の速度は徐々に増していき、食べ物も完全に獣や人の生肉と血となった。
「お呼びだ、ハナコ。」
「はい、坊ちゃんハナコが抱っこしてあげますよぉ。」
アイが、吸血鬼と人間よ中間の生き物であるという認識は、主に食べ物などからである。
アイは血だけでは満足せず、絶対肉まで欲しがるようになった。そこは、吸血鬼より、人間的な物を感じさせるし、何より個性が出てきた事がハナコをとても喜ばせた。
また、太陽の光は、浴びると廃になる程では無いが、火傷を負う程の怪我となる障害になってしまった。そうなるとアイは自然と、DIOと同じく夜行性の生活習慣になるのだった。これに対しては、ハナコはアイに構う時間が減ってしまい、とても残念がっている。
「姉や〜!」
「何ですか?」
「大好き!」
「私もですわ。アイ坊ちゃんの事1番大好きです。」
アイとハナコが一緒にいる時間は減ってしまったが、それでも殆どの世話を焼いているのはハナコであり、アイが母親として慕うのはハナコただ1人であった。No. 1の地位は、不動の物である。
「アイよ、私は?パパはどうだ?パパは好きか?」
そしてDIOはパパ嫌期を怒れていた。
この男、何気に言葉達者になって来たアイを好いていのである。自分の父親、ダリオと同じようなクソ野郎になってたまるかと、イクメンパパを目指して努力した結果、そこそこ息子を気に入る事に成功したのだった。
「パパ………パパも好きぃ〜!」
「パパ嫌期じゃないな、パパ嫌期じゃないな?」
「アイ坊ちゃんはパパ嫌期になんかならないですわ。」
「そうだな?」
「好きぃ〜!」
DIOは満足した様子で、ハナコの肩も抱きながらアイの頬に口付けた。ハナコの頭を軽く撫でて、彼なりの柔らかい笑顔を向けた。
2人は数秒見つめ合って目配せした。ハナコの目は本当に笑っていた。
しかし、こういう時のハナコは、DIOには悪魔の様な顔に見えるのだ。この女に命令されると、DIOは何も断れないような気がしていた。
ハナコは最近浮気性が治ったDIOを気に入っていた。
浮気性が治ったと言っても、子供を産ませたりせず、直ぐにヤったら食べる様になっただけであるが……
兎に角、アイが育ってから、腹が膨れた妊婦を殺す事は無くなった。DIOの管理不足で妊娠した女性は3人居たが、腹が膨れた女を見るとこの男は最近、何故か、軽い吐き気を覚える様になっていた。
これは実はハナコの催眠効果なのだが、それでも3人子供が出来たのは、DIOの女癖の悪さが催眠術を超えたからなのであった。
「DIO様……あの、花京院典明の事は……」
「……ア‥嗚呼、今すぐにでも行こう。」
「フフフ、腕が鳴りますわ。」
楽しそうにアイをあやすハナコを、DIOは不気味に感じた。
アジア圏の女は、童顔が多い。DIOは18歳は大人だと思っていた。しかし、ハナコの見た目は白い肌と高さの無い頭や、重めの前髪から、少女の様に見えた。
「お前がセーラー服を脱ぐ姿が見てみたいなァ。」
決してイヤらしい意味では無く、いつもセーラー服を着ているハナコは、永遠に少女であるような気がして、「大人にいつなるのか」と言う意味で、言ったのだ。
「子供の前でよく卑猥な言葉が吐けるな、次にそのような言葉を漏らしやがったらぶち殺すぞ。」
「やってみろ、自意識過剰め。お前の様な女に発情する男が見てみたいわ。」
「黙れ、私でマスかく男はいたぞ。」
「誰だ、名前を言え、名前を。片腹痛い。」
「誰が言うものかッ!私は墓まで秘密を持って行くと決めたのだッ!アイ坊ちゃん、パパに死ねと言うのです、し、ね、と。」
「止めろッ!止めんかッ!」
この2人、いつまで経ってもこんな調子であった。仲良くなったり、イチャイチャしてると感じる時…それは気のせいである。
***
花京院典明 ④
「典明君、貴女が虐めた女は、テロリストやスタンドを利用した人身売買組織の一員よりもモット厄介な女だったと知りなさい。」
「………」
「今度喋れないのはお前のほうよ。」
ハナコは花京院一家の泊まるホテルのトイレに忍び込み、ドグラ・マグラをけしかけた。風船を贅沢に四つも割り、花京院の動きが完全に止まった頃、トイレから出て花京院をベランダに引っ張り出した。
ちょうどよくDIOが現れ、ハナコと花京院を抱えて街の路地裏に連れ去った。花京院は絶望的な顔をしていた。それに対してハナコはエジプトの空を飛ぶのを満喫していた。
「ハナコ、スタンドを解除してやれ、あともういいぞ。帰ってアイに食事を用意してやれ。」
路地裏に着地したDIOは、ハナコにそう命じた。ハナコは正直、いきなり1人で帰れと言われて驚いだが、主の命令なので大人しく従った。適当にタクシーでも呼ぼうと思った。
路地裏を抜ける頃に、花京院がゲロを吐いていたのでザマアミロと思った。
ハナコが館に帰るとアイがわざわざ出迎えてくれた。
これには思わずハナコは昇天しそうになったが、なんとか耐えて朗らかな笑みを保つ。
「姉や、お帰り、なさい!」
「アイ坊ちゃん、お出迎えありがとうございます…はぁ、可愛い……お腹空いていませんか?」
「すいた!」
「くふふ……柔らかいお肉が食べたいですねぇ…テレンスさんに頼んで用意してもらいましょうね。その間に、お風呂を済ませてしまいましょうね。」
「姉やと入るの!」
アイは、無邪気な笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねている。可愛らしい笑顔にハナコは破顔したし、柱の影にいたヴァニラ・アイスは鼻血を吹き出した。
アイはDIOに似て美しい少年へと成長しているので、廊下を歩くだけで、館に居る者達は心を奪われるのであった。そして、ヴァニラは相変わらず怖い。
「姉や、ね〜?」
「いかがなさいましたか?」
「僕、ね、姉や大好きぃ。パパも好きぃ。いつも、ありがとうって思って、るの、皆んなにも。」
「アイ坊ちゃん…」
「アイ様…」
「天使……」
「罪深い少年だ……」
「ヴァニラヤバい…」
「犯したい…」
幼い子の感謝の言葉には親の大半が涙する物だが、アイが発する感謝の言葉が繰り出すのは、涙ごときでは無い。一瞬で周囲の常人は骨抜きになり、血を吐き、ヴァニラは変態になる。
ハナコは幼い内からこんなにも可愛いアイが、将来大きくなったらどうなってしまうのかと、とても心配していた。
「みんなだ〜い好きぃ♡」
「くふふふふふ、早く姉やとお風呂に入りましょうねぇ…」
決して、ハナコはやましい気持ちをアイに抱いている訳では無い。決して………
***
DIOの息子
アイは本当は1歳にも満たない赤ん坊である。しかし、姿は既に、3歳か4歳ほどのしっかりと二足歩行をし、言葉を発する幼児に成長している。
何故成長速度がこんなにも早いのかと言うと、それは確実に、父親DIOの血が原因だろう。アイは他の子供と比べても、髪や顔つき、肌の色など、DIOのものをよく受け継いる。また、太陽の光を長時間まで浴びると、皮膚が火傷の様な炎症を起こしたり、食べ物も、生肉と血を好んだり、吸血鬼の生態を強く引き継いでいた。
それでも、中身は見た目通りの無邪気で、可愛らしい男の子であった。楽しいことが有れば笑い、嫌な事は泣き、父と乳母が好きで人見知りを少々する、男の子である。
「パパ好きぃ〜。」
「姉や大好き〜。」
「テレンスは、ご飯、お上手。」
「ヴァニラは……ヴァニラ……う…」
「お姉ちゃん、は、可愛いです、ね〜」
「鳥さんカッコいいカッコいいかっこいい〜!」
と言った具合に、言葉達者で興味を持った物には単純で、館のアイドル的存在である。
皆、アイを可愛がり、子供が嫌いな者でもDIOの息子である為、丁重に扱った。DIO本人も何気にアイを大切にしていた。そして、アイも健気に父親に気に入られようとしていた。
まさに天使である。
しかし、天使と言うのは間違いである。
例えば、アイが父親に対して抱いている感情は下の通りだ。
「初めはアイに見向きもしなかったくせに、虫のいい男よ。我が父は吸血鬼の癖に、とても人間臭い、執着心が強く、力を求めるなど、人間の極みであるな。あのような男にアイはならない。人間はどこまで行っても人間だということを知るが良い、愚か者め。」
………天使だと思っているのは周りの人間と父親とハナコだけである。
本当に成長が早いのは、脳味噌の方であったのだ。寧ろ体の方の成長が追いついていないくらいだ。この少年すでに野心を持ち、己がどう見られているか熟知している。
どの様に行動すればどう思われるか、自分の身の程をわきまえ、父を見下している。父は、分かるの者には分かる馬鹿であると思っている。カリスマ性は有るが、小心者でつけ上がり加減もいいところな男だと、アイは思っていた。
また、ハナコの事を深く愛していた。
1人の母親として愛しているのでは無く、将来自分の妻となる女として愛しているので、他の兄弟にハナコを取られるのはあってはならない事だ。他の兄弟が館に居ないのは、アイの策略なのである。何かしらの妨害をして、己以外の子供を館に置いておかないようにしているのは実はアイだったのだ。
ちなみに、ハナコの事を母親として呼ばないのは、詰まるところ、そういう事である。
「姉や〜お風呂入る!」
「ちょっと待ってくださいまし〜、アレ、髪ゴム…」
「これ?」
「それですわッ!」
「後で、結んであげるね?」
「はぁ〜、有り難き幸せですわぁ………」
「えへへへ。」
愛情の種類は何であろうと、真剣にハナコを愛している。
しかし、まァ、下半身は父親に似ているらしい。こいつは、生後1年のくせに、女に一緒に風呂に入る事をねだったり、添い寝したいと思ったりする。
やりたい放題である。
「僕ね〜」
「何ですか?」
「将来は姉やとねぇ、結婚するのぉ」
「や〜ん♡アイ坊ちゃんに私なんて勿体ないですわ〜!」
「本気だも〜ん!」
本気である。
アイちゃんの可愛い話 ②
「私でマスをかく男はいたぞ。」
おい、ハナコでマスかいた男。
絶 対 に 殺 し て や る か ら な。
アイ坊ちゃんそいつパパの宿敵ですーーーーーー☆