お名前が欲しい話
「ほほう、それで息子さんにお名前が欲しいと。」
「いや、息子では無いのですけど、私が育てることになりまして………その、私子供の名前とか疎くて…日本では子供の名前をお寺さんに考えてもらう事とかあると聞いたので…すみません…」
ハナコはエジプトのよく当たると噂の占い師の元を訪ねていた。
テレンスさんに「で、その子のお名前は?」と聞かれるまで全然気づかなかったが、この子には名前が無かった。カナエはふわふわした女だった。私も名前について質問したことがあったが、「まだ迷ってるの〜」と返されていた。それもしょうがないかもしれない。カナエも初めての子供だったし、彼女はすごく元気だったが何気に3日しか、息子と過ごしていなかったのだった。
じゃあ、ハナコがつけるか………と言われると、この女はそんな重大な事私決められないわ。と変な所で事を重大に捉える女であった。
「………ちなみにそのお子さん、両親はエジプト人?」
「………うーん、多分イギリス人と、日本人ですわ。」
「ならば、どちらよりの名前をつけたいのですか?」
「そうですね………イギリス寄り…うーん、日本のでもいいですけど、ほら、金髪じゃないですかこの子。」
「確かに。」
「なら、小太郎とか虎徹とか日本らしい名前より、外国っぽい名前の方が良いかな、と。父親の方は一応生きてますから…」
「………そうですか…失礼ですが、貴女は乳母…-?」
「はい。私しか面倒を見る人が居なくて……この子の母親は死にました。」
占い師は赤ん坊を見て複雑な顔をした。
占い師は少し考えた後に数秒ハナコと目を合わせた。ハナコの意思やら何やらを静かに読み取ろうとしているようだった。そして、ゆっくり顔を上げ、考えを述べた。
「うーむ、私の考えなんですがね、そもそも占い師が名前を授けるという文化は無くてですね。」
「………確かに。」
「貴女とお子さんの事情に踏み入ったことは聞けません。それに、私はただの占い師ですから、やはり占いが十八番でしてね。出しゃばったことは言えませんが、これだけは貴女に伝えてあげたい。その子の隣にいてあげられるのが、貴女しかいないならば、貴方が考えてあげて下さい。」
占い師は優しそうに微笑んだ。見た目は背の高い威圧感のある男性なのだが、ハナコと赤ん坊に対して親身になってくれていることはよくわかる。
「………私が?」
ハナコは少し戸惑った。名前をつける事を重大な事だとは思っていたが、内心、誰かに決めてもらえればそれでいいかもしれないと思っていたのだ。
「その子の事を大切に思ってあげているならば、ずっと一緒にいてあげたいと思うのなら、貴女がつけてあげなさい。」
占い師はしっかりとハナコを見ていた。
それは、よく澄んだ真っ直ぐな意思が受け取れる、美しい目だった。ハナコはそんな目を向けないで欲しいと思った。
自分の目は濁っていると感じていたからだ。人間、嫌いな事をされる事を願うなんて無い。極力避けていきたいと思う人間が殆どだろう。
ハナコは、子供を育てるというのはそういうことなのだろう。とも思った。
嫌な事だってきっとこれからたくさんあるし、自分の生まれの悪さに嫌気が差す事だってあるだろう。でも、それを通っていかないと乗り越えられない事もある。子育てなんて、そんなことの連発だろう。自分から嫌な事も、子供のためにしなきゃ行けない。我慢する事だって増える。私はやっと実家から解放されて奉公先を得たばかりなのに、すぐにあの子の面倒を見る母親の変わりになることになってしまったのだ。
この占い師の人はきっと優しい。
「………………私、外国の名前の付け方は知りません。かと言って、日本の名前の付け方に詳しい訳じゃありません、漢字の画数によってなんたらっていうのは分かりません…」
「はい。それでも貴女も同じように、名前は子供が初めてもらう贈り物なのですから。」
「………私、ハナコって名前なんですけど、この名前……私の両親がめんどくさがって付けた名前なんです。父が言っていました。」
「…それは、失礼しました。…………女性に年齢を聞くのは失礼なのですがね。お若いレディー、お幾つですか?」
「17です。両親はいません。親族は全て死んでいます。」
「………そうですか……なら、尚更貴女が付けるべきです。その子は貴方が授けた名前を一生誇っていけるように、心を込めて付けてあげなさい。」
ハナコは腕の中で眠る子を見た。
父親に似た彫りの深い顔、金髪………きっとこの子はDIO様に似る。青い瞳が綺麗な子。
私の目は濁ってしまっている。
この子にはDIO様の様にはなって欲しくない……あんなに性格悪く育ったら泣いてしまう。でも、私の様な半曲がり方も駄目。この子は私の心の残り少ない良心。この子の目は濁らないで欲しい。
考えれば考えるほど、この子に対する想いは溢れていった。
「………この子には、幸せでいて欲しいです。」
「そうですか。」
「この子には、愛情をたっぷり受けて育ってほしいです。」
「そうですか。」
「………私の持っているもの全てを与えて、真っ直ぐに生きてほしいのです。」
「貴方のその子を思う気持ちを、名前の意味に込めて上げては如何ですか?」
「………そうします。」
ハナコの言葉に悩みは無かった。本人は未熟ながら、この子を愛してあげられるのは私しかいないのだ、という自覚がハナコの意思を固くしたのだった。
「悩みは解決出来ましたか?」
「大丈夫そうですわ。」
「なら良かった。」
「なんだかもう、数通りは考えられますわ。子育ては大変だろうけど、私この子の為だったら何でも出来る気がして来ました。」
「それはそれは、貴女は立派な母親になりますな。」
「ほほほ、ありがとうございました。」
「本業の占いは全くやってませんがね。」
占い師の男は自分の事のように嬉しそうにな笑っていた。やっぱりこの人はいい人だ。目に嘘が無い。私もこういう人と結婚したいわ、とハナコは思った。
「では、ありがとうございました。お代は…」
「こちらになります。」
「ありがとうございました。………えっと、お兄さん。」
「アヴドゥルですよ。お嬢さん。」
「ホホホ、いやですわお嬢さんだなんて…また来させて頂きますね、アヴドゥルさん。」
ハナコは清々しい気持ちで店を出た。アヴドゥルはいい男だった。ハナコは久しぶりに善意の化身のような男に会った気がしたのと同時に、腕の中の子がいっとう愛しく思えた。
「うふふ、帰りましょうね。姉やときみはずっと一緒よ。姉やはもっと強くなるわ………さあ、今日もDIO様の食べカスをお掃除しましょう………ふふ…あら、嬉しいの?可愛い子ね。」
夜道をゆっくりと歩く姿は、微笑ましくもあるがどこか不気味でもあった。
そうして今日もハナコは今日も仕事に励むのだった。放っておく訳にはいかないから、おんぶ紐でおぶって仕事をする。
ここで、ハナコの仕事を振り返ってみよう。この女、死体処理がメインで与えられた仕事である。今この女は死体を黒い赤ん坊に変えるのを、愛しい我が子を抱きながら行っているのだ。
「うふふふ、人は脆いわ。だから大切にしてね。ア、そいえば貴方の名前、姉や凄く考えたの。」
「きゃきゃ」
「嬉しい?姉や朝から100も書き出したのよ。それでね………私、決めたの、貴方にぴったり。」
「きゃっきゃっきゃっ」
ハナコがいくら純粋な思いを与えていても、そもそもハナコ持つ純粋そのものがねじ曲がっているのである。
ハナコはおんぶ紐を解き赤ん坊を胸に抱き直した。
夜風が冷たかったので、しっかりと守るように抱いた。
「愛。貴方の名前はアイよ。シンプルイズザベストって言うでしょ、貴方には私の愛をあげるわ。貴方は愛されて育ってほしいから、その意味を込めたわ。姉やは貴方が大好きよ。アイのためならなんでも出来るし、誰にも負けない。だから、私を強くして頂戴………愛してるわ。」
赤ん坊を桜吹雪の下で抱く、というのは美しい、微笑ましい情景だ。けれども、今は黒い赤子の赤ん坊風船に囲まれる赤子と少女という非常に不気味な絵であった。
その後、アイは直ぐに日に当たると火傷の様な赤っぽいアザが出来る様になり、太陽の元に出られなくなった。
まだ食べ物はミルクで間に合っているが今後輸血パックになる事も考えなきゃいけないな、とハナコは思った。
そういえば、生後3日の時点で直ぐに首が据わるのもおかしな話である。歯だってすでに生え揃っている。
館中の皆が思った。この子は父親の血を色濃く引き継いでいる、と。ハルノは黒髪で吸血鬼的な要素は全く無かったが、アイには父親の面影しか無かったのだった。
「ねぇ、アイ坊ちゃん、お父様が貴方に会いたいって言っていたのよ。でも私、お断りしたわ。だってお父様に貴方を合わせたら貴方のこと殺してしまいそうだったんだもの………子供の事、1番に考えられるのが良い母親よね。」
「ねぇ〜あ、きゃっきゃぅ」
父親があんなののせいか、ハナコは更にアイに対して過保護になっていくのだった。
季節はもうすぐ11月である。
***
ポルナレフに会う話
「あら、見慣れないお顔の方ですね。どうしました?お腹が空いたなら、今使用人の手が空いてませんから、外食をお願いします。」
「いや、そうじゃ無いですよ。何というか、迷ってしまいましてね〜、あの、便所は……?」
「突き当たりを右に、その次は左に曲がってから階段を降りてまた左ですわ。その方が近いトイレです。」
「メルシイ、お嬢さん。」
「ハナコですわ。日本人です。お兄さんはフランスの方?」
「そうだぜ。」
最近、肉の芽を埋められた人や金で雇われた人が多く館に出入りする様になった。
何人か顔見知りになった人もいる。彼女、彼らは総じてDIO様に忠誠を誓っており、盲目に信仰している。そもそも、私の様に彼のカリスマ性に惹かれない悪の方が珍しいらしい。
さて、このフランス人のお兄さん肉の芽を埋められている方の方だ。つまり性格の根っこは善人。そんな人をも虜に出来るなんて、DIO様色々とハイスペックなのね。
肉の芽を埋められるとDIO様に無条件に忠誠を誓うらしくて、彼曰く気に入ったスタンド使いを強制的に下僕にするのにちょうどいいらしい。彼は被害者という事である。
「それにしても驚いたぜ。お嬢さんみてーな女の子もDIO様に仕えているんだな。」
「彼のカリスマ性は絶大ということですよ。」
この男、ハナコにトイレを案内させた上に、年下だと分かるとペラペラ話してくるタイプだ。今は初対面だから紳士ぶっているけれど、回数を重ねるごとに馴れ馴れしくなる男だろう。
「はい、ここですよ。」
「メルシイ!」
ハナコは何だか今の数分の会話で疲れたような気がした。余り身近にグイグイくる男性がいないせいか、あのような男性のタイプは少し苦手なのだと思った。DIOは何気に、本を読んでいるだけの時が多いから静かである。
人間不思議なことに、苦手だな、避けたいな、と思った人間にこそ、ばったり顔を合わせてしまうものである。
「よぉ!昨日のお嬢さん!」
「…………おはようございます…」
「ね〜あ…」
この日はアイを連れている時に先日の男とばったり会ってしまった。この男、肉の芽を入れられている割にはお調子物である。ハナコは殆ど表情をかえなかった変えなかった。普通の男は真顔の女の前でペラペラ話を展開する事はしないと思うが、この男は凄まじい速度でハナコに話しかけて来たのであった。
「お兄さん、今日もお元気ですね。」
「お〜、お嬢さんも元気そうで良かったぜ。それに今日は可愛い坊やも連れて、かわいいでちゅね〜」
「きゃっきゃっきゃっ」
「息子さん?か?」
「いえ、DIO様のご子息ですわ。」
「へぇ〜!じゃあ将来は大物になるなぁ…」
「健やかに育ってくれれば十分ですわ。」
子供は好きなようだった。この館にいる悪の中には子供が好きな奴と嫌いな奴それぞれいるが、子供が好きな人は根っこに優しいところが残っている気がする。ハナコはうるさいなと思っているこの男でも、アイの事を褒められると嬉しいのだった。
「………あんた見てると妹を思い出すぜ。」
「あら、妹さんがいらっしゃるのね。」
「いや………」
「………失礼しました。」
「いいんだ。お嬢さん、あんたもここにいるって事は色々あったんだろうが、気を付けろよ。」
「ご心配感謝致します。お兄さん、貴方いい人だわ。」
「ハハ…俺も復讐の為に生きているようなもんだからな。」
「そうね、でもお兄さんもう手遅れよ。この館に頼ってきてしまったなら、せめて妹さんに対する未練を断ち切るように努めることね。」
「ひぇ………あんたみたいな鋭いお嬢さんに言われるとびびっちまうぜ。………まァ、ありがとな、あんたも坊やも元気にな。」
「ご武運を。」
「ああ、またな。」
男は去っていった。久しぶりに人間に会った様な気がした。
ハナコは男が見えなくなった後、名前を聞いていなかった事に気づいた。しかし、男の髪型がまるで電柱のような縦長の逆立った髪型だったので、2度目に会う時は必ず分かるだろうと思い、仕事に戻ることにした。
この男が、後に敵対するポルナレフだということをハナコは全く知らなかったが、少なからずともポルナレフの優しさにハナコは内心少しだけほっこりしていたのだった。
「ね〜あ」
「姉やです。お父様がチーズを買ってこいって言ってましたから、今から買いに行きましょうね。」
***
目撃者 その①
「なァ、ハナコよ。」
「なんですか、DIO様………アイ坊ちゃんはDIO様に会いたく無いとおっしゃっていましたよ。」
「フン、違う用件だ。お前の過去について部下に調べさせた。」
「………………私が殺人鬼だなんて事、分かりきったことじゃあ、ありませんこと?」
DIOとハナコの間に鋭い空気が流れるのは、およそ半年ぶりである。この2人、あのギャンブルが原因の喧嘩の仲直りをした後上司と部下という形で良好な関係を築いていた。しかし、今DIOが「過去について調べた」と、態々ハナコが嫌悪しているプライベート的ものを話題に挙げたため、ハナコはDIOに憤慨していた。
なぜ、この男、態々私の過去を調べた……?意味がわからないし、凄く嫌だわッ………!!
と、ハナコは怒ると同時に、軽くショックでもあった。過去は封印したいものの1つであり、海外逃亡は自分は母国に帰らない、という覚悟があっての行動である。今更日本での話を取り上げられるのは、恐れでもあるのだ。
「おいおい、勘違いするなよ。お前が日本で本当に警察に追われる身なのかを調べたんだ。ただそれだけだ。」
「………当たり前です。私は殺人現場を同級生に目撃されているんですもの…」
「そうだよなァ……私はお前を疑っている訳じゃあないさ。だがな、お前の立場を調べておくのは必要だ。指名手配でもされているなら、お前がもし日本に戻らないと行けない時動きが限られるだろう?」
「………戻る気はありませんよ…」
「まァまァまァ待て、何も無かったらお前にわざわざ教えはしないだろう。」
「では、何かあったというのですか?」
「そうだとも」
DIOが何か企んでいる事をハナコは訝しんだ。
こういうDIOが何か企んでいる時は、素早く逃げなければいけない。とんでもないことに巻き込まれる、とハナコはギャンブルの件で思い知っていた。
しかし、今のハナコにはアイがいるため、逃げるという選択は考えられないので、嗚呼…今度はどんな死線を潜らないといけないのかしら…と心の中で覚悟をしたのだった。
「日本で警察をしている部下に調べさせた。そうしたらなァ、お前のクラスメイトが3人行方不明だそうだ。お前を含めると4人か………殺人事件なんて単語は全く出て来てないぞ…お前、本当に殺したのか?」
ハナコは驚いた。
「ど、どうして…私3人殺して死体処理はしっかりしましたから、見つからなくて当たり前です…でも…なんで…4人目を取り逃したんです私………」
「しかしお前は殺人鬼ではなく、行方不明扱いだな。」
それと同時に、もしかしたら自分は無駄にエジプトに逃亡したのかもしれないという考えが頭をよぎった。
「お前が焦ってエジプトに来ただけで、お前のスタンドはその目撃者と言うのを攻撃していたのではないか…?」
「………ア…致死量に達していなかっただけで、まだ生きているって事…?」
「………お前のスタンド、ドグラ・マグラはその時すでに目覚めており、敵を排除するために動いたが、殺すには至らなかった。」
「なら、消さないと………黒い赤子汁は一滴でも一週間は頭を狂わす事が出来るけど、もしかしたら………ふ、不安…!こうしてバレて無いって分かると完全犯罪にしたいわッ…」
こうしてハナコは、日本に戻り同級生抹殺に動くことになったのだった。
なぜすんなりDIOが日本に戻ることを許したかと言うと、それは、アイを人質にとっていればハナコはDIOの元に帰ってくるのかを知りたかったからだ。
日本での一人暮らしに味をしめて帰って来なかったら、DIOはハナコの額に埋めた、保険としての肉の芽でハナコを殺すつもりなのである。
ハナコの気がかりはアイの面倒をDIOを中心として見るという事であったが、ヴァニラがDIOの息子であるアイを溺愛しているので、少し安心している。
愛する子と数日わかれる事に、後ろ髪を引かれる思いだったが、ハナコは偽パスポートを使い飛行機に乗ったのだった。
アイちゃんの可愛い話 ①
アイちゃんが1番最初に言った言葉はね〜あ(姉や)だお☆
将来は美少年に育つ予定………