バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

1 / 39
 皆さんこんにちはアステカのキャスターです。
 今日はですね!何とコラボ小説!『ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ』の作者『エクソダス』さんとコラボ致しました!!

 エクソダスさん、本当にありがとうございました。
 『ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ』にもフィールとは違うエルレイの終わり方があるので是非見てください。

 良かったら評価・コメントよろしくお願いします。

 初のコラボ小説!では行こう!!




番外編
番外編 フィールとエルレイの出会い


フィール「疲れた……」

 

 

 帝国宮廷魔導師団としての仕事が終わり、フィールはセラの家に帰ろうとしていた。鬼畜上司イヴのせいで色々と疲れが溜まって仕方がない。学生をしながら宮廷魔導師団としての仕事、今回は軽い調査だったがそれでも時間がかかった。

 

 

フィール「……あの女狐、いつか殺す」

 

 

 少し漏れ出る殺気を抑え込み、ポストを開ける。

 いつも大したものは入っていない。光熱費やらの手紙が多いが、そこには何故かフィール宛の一通の手紙が入っていた。

 

 

フィール「…………?」

 

 

 この世界にフィールに手紙を届ける程、仲のいい人間は居ない。

 罠か注意して調べても魔術の形跡はない。どうやら大した内容ではなさそうだ。そう思っていたが、手紙にはこう書かれていた。

 

 

『未来から来た2人の娘さんへ』

 

 

 その内容に目を見開いた。

 宛先は書いておらず、ただ名前とその言葉だけが書かれていた。

 

 

フィール「っっ……!? まさか……『天の知恵研究会』……いや、魔術の形跡はないし、どうやってそれを知った?」

 

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 どの道、魔術的罠や、呪術的罠は存在しない。念の為、【トライ・レジスト】を付与して手紙を開ける。

 

 

フィール「なっ……!?」

 

 

 開いた手紙が突如、光だして輝き始めた。

 そして次の瞬間、フィールはセラの家の前から姿を消していた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 私は未来から来た人形だ……だからこそこれから起こることは知っているし、誰が誰でどんな人間がどんな行動をするのかも理解している、そう、基本的にはその筈なのだが……

 

 

フィール「…………」

 

エルレイ「学園の前に、知らない学院の制服を着た少女がいる時は……どうすればいいか……」

 

 とりあえずエルレイはその女の子を担いで医務室へと足早に向かった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

フィール「…………っ……」

 

 

 目が覚めるとそこは知らない天井だった。消毒液や薬品の匂い、白いベッドにフィールは寝かされていた。宮廷魔導師団のコートは脱がされて白いワイシャツになっている。近くに立て掛けてあるコートのポケットに入ってる物を確認する。

 

 

フィール「【女帝の世界】起動のブラックストーンと、『愚者のアルカナ』はある……隠しナイフもあるし」

 

 

 警戒心が薄いのか、助けられたのか分からないが、敵意はこの部屋の何処からも感じ無さそうだ。縄に縛られてるわけでもないし、フィールは安堵のため息をついた。

 

 

フィール「……誰か来る」

 

 

 保健室のような扉から気配が近づいてくる。

 念の為袖にナイフを隠し、扉が開くのを待った。敵意は無さそうだが油断は出来ない。だが、その扉が開いた時、フィールは驚愕していた。

 

 

エルレイ「思ったより、起きるの早かったね」

 

 

 扉が開いた先にいたのは青髪でアホ毛が少し目立つ魔導士礼服のような服を着ている20代くらいの女性だった。

 

 

エルレイ「気分はど? 悪くなってない?」

 

 

 その女性はいつの間にか持っていた水筒をコップに移し、フィールに差し出す。

 

 

エルレイ「君は誰? どこのクラス?」

フィール「リィ……エル……?」

 

 

 フィールは驚愕を隠せずにいた。そこにいたのは未来では量産兵、あの世界では同僚、帝国宮廷魔導師団の《戦車》として一緒に戦うリィエルと瓜二つの姿をした女性がいた。

 

 

フィール「いや、でも性格が少し大人びて……」

 

 

 その言葉に何故知っていると言わんばかりの顔を向けられる。頭が痛い。どう言う事だ。一体何が起こっている。

 落ち着こうとリィエルと同じ顔をした人から水を受け取る。毒は入っていない。安心して飲む。とりあえず落ち着いたはいい、一つずつ整理して行こう。この状況についてだ。

 

 

フィール「すみません。私の素性の前に一つ、ここは何処ですか?」

 

エルレイ「リィエルの名を……知っている、成程、別の世界線、把握」

 

 

 女性は少し驚いたがすぐに冷静になり、無表情に戻る。

 まるでいつもの事かのように無表情になっていた。

 

 

エルレイ「ここはアルザーノ帝国魔術学院、だけど君の知ってる学院とは違うと思う」

 

 

 女性は同じ学院だが君の知っている学院などと訳の分からないことを言って、ポケットからサクサクといちごタルトを食べ始めた。

 

 

フィール「……うん。やっぱりリィエルだ。いちごタルト食べてるし……世界線な違うって事はまさか……」

 

 

 ここは自分の知る世界ではない? だとするなら、『天使の塵(エンジェル・ダスト)』の事件はどうなった? ここは自分が介入していない世界なら、助けられなかった世界? リィエルは大人びているなら違う未来の世界? だがそれ以上に聞きたい事が存在した。

 

 

フィール「リィエル! おと……グレン先生とセラ先生は!?」

 

 

 エルレイはキョトンとした顔で首を傾げるが、フィールは何よりもそれが聞きたかった。あの2人は一体どうなったのか。

 

 

エルレイ「いちごタルト食べてるから私て……ま、いいや、落ち着いて」

 

 

 女性はそっとやさしくフィールの袖を触り、隠しを引き抜き、フィールの手に握らせる。気付かれたフィールは目を見開いて警戒する。

 

 

エルレイ「私が、リィエルじゃなかったとき、君は私を、暗殺できなくなっちゃうよ?」

 

 

 女性はフィールに強くナイフを握らせながら微笑んだ。まるで自分を殺しても構わないと言わんばかりに。

 

 握らされたナイフに少しだけ驚いて、それを仕舞う。

 敵意は無い。何かはあるが、今のフィールはリィエルに似た顔のこの女性を傷付けるのは得策じゃないと考えた。ここがアルザーノ帝国なら、この保健室で戦闘するのは後々の行動を考えれば危険だ。

 

 何より、今のフィールは未来にいた量産兵と割り切って殺したくないと心の何処かで感じてしまっているのだ。

 

 

フィール「……2人はどうなったんですか? それに、貴女は一体何者なんですか? 私の知っているリィエルからかけ離れてるし、感情もある。貴女は一体……」

 

エルレイ「私はエルレイ、しがない臨時教師の出来損ない人形、早い話、未来のリィエル=レイフォード、感情を‘‘得てしまった‘‘ね」

 

 

 エルレイは無表情のままフィールを見つめる。

 

 

エルレイ「グレンとセラなら、生きてるよ、どっかの私の、お人好しの初恋の人と、ルミアの旦那様のおかげでね」

 

 

 そんなことを言いながらエルレイは苦笑いをした。

 

 

フィール「……未来のオリジナルの方の……じゃああのリィエルが成長したのが今の貴女って事……貴女も未来から……」

 

 

 いや、正確に言うならば私の知るバッドエンドの世界から、違う世界に到達し、その違う世界からの延長線からこの世界があるのだろう。感情を持つリィエルはオリジナルを除いて他にいない。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()から来たリィエルなのだろう。

 

 未来からの逆行の術式はフィールを除いて使えない筈だ。

 

 

フィール「どうして未来の人が……こんな所に」

 

 

 いや、自分も人の事は言えない。

 現に逆行の術式はフィール自身が3年かけて編み出し、自分の血を触媒にしなければ使えない術式だ。あの手紙は一体何だったのか分からない。魔術の形跡は無かったのに気付けばこれだ。異能関連に間違いないのかもしれない。

 

 

フィール「いや、とりあえず私も自己紹介します。私はフィール、フィール=ウォルフォレンです。未来から来た……宮廷魔導師団の《愚者》です」

 

 

 グレン先生とセラ先生の2人の娘と言う事は言えなかった。

 この人は大丈夫だと思っていても、自分が逆行した世界でも言ったのはほんの数人程度だ。それくらい自分の素性は他人に知らせてはいけないくらいのタブーなもの。

 

 ただフィールは悲しくクスッと笑っていた。

 この世界が救われた世界ならもう自分は要らないんじゃないかって少しだけ自嘲気味自傷気味に笑っていた。

 

 

エルレイ「なるほど、《愚者》……グレンの子供か何か……か、道理でグレンの匂いがすると思った」

 

フィール「っっ……違います。私は……」

 

 

 2人の娘じゃないと言おうとして言葉が詰まる。

 どの世界でも、同じ姿、同じ性格であろうと、フィール=ウォルフォレンには別人なのだから……

 

 

エルレイ「……謝罪、深く掘り下げるつもりはない、安心して。フィーちゃん」

 

 

 何かを察したのか、エルレイは頭を下げながらそう言った。

 

 

エルレイ「言えない事情があるのは、私も同じだから、今は君の名前しか聞かないでおく」

 

 

 エルレイはそう言いながらフィールの頭を優しくなでる。

 ただ少しだけくすぐったくて、でも何処か安心する手付きにフィールは少しだけ……

 

 

『ははっ、フィールは偉いな。こうすると猫みたいだ』

『もうフィールちゃんったら、撫でられるの好きなんだね』

 

 

 お母さんとセリカ伯母さんの事を思い出させるようだった。優しくて、何処か安心する。未来ではあんなに殺すだけの殺戮兵器だったのに……今は何処か安心する。

 

 ただ、それが少し痛くて……やっぱり少しだけ寂しく感じてしまう。この世界は救われた世界なら、ただフィールはあの2人の他人として生きなければいけない。もう救う必要もない。

 

 ただ少しだけ、寂しいのかもしれない。

 

 

フィール「ありがとう……エルレイさん……」

 

 

 少しだけ弱々しい声でそう呟いた。

 

 

エルレイ「ん、どういたしましタルト」

 

 

 唐突、本当に唐突だった、撫でられてなぜか安心している時に目の前に急にいちごタルトが現れた。

 

 やっぱり少しだけ私の知るリィエルに似ている。クスッと笑っていちごタルトを受け取る。

 

 

フィール「……それ何処から出したんですか?」

 

 

 一応、収納魔術はあるがフィールでは8節も使う。

 何の詠唱も無しに魔術の気配もせずにどうして無尽蔵にいちごタルトが出てくるのか興味本位でフィールは聞いた。

 

 

エルレイ「これは完成度の高い魔術、難しい物……やったら精神すり減る……」

 

 

 エルレイは暗い声で、しかし声は尖らせている、するとエルレイは急に礼服の上を脱ぎだしその正体をあらわにする……!! 

 

 

エルレイ「魔術、次元ポケット(内側のポケット)」

 

 

 そこを見ると異様に膨れ上がった、内ポケットがあった。おそらく全部いちごタルトだろう。

 

 

フィール「……才能の無駄遣いですね」

 

 

 フィールは頭に手を当てて苦笑していた。

 

 

エルレイ「無駄じゃない魔術など、ない、魔術で火をおこしたい? 木を擦れ、電気を流したい? 発電しろ、食べものがないから、食材を取るため魔術を使う? じゃあおのれが死……」

 

 

リィエル「頂戴」

 

エルレイ「……わぁ!」

 

フィール「うわっ!?」

 

 

 エルレイの理不尽魔術論をかましている時に突然またもやリィエルらしき人間が姿を現した、気配を察知させることなく、エルレイはいちごタルトをリィエルに渡す。

 

 

リィエル「……」サクサクサク

 

システィーナ「エルレイ先生看病中のところ申し訳ありません」

 

 

 システィーナが申し訳なさそうに入ってくる。

 

 

エルレイ「なに?」

 

 

ルミア「あの……そろそろこちらのほうに戻ってきていただけると」

 

 

 ルミアが苦笑いをしている。

 教室で何があったのだろう。システィーナは頭を抱えていた。

 

 

エルレイ「馬鹿グレンが、バカし始めた? 了解」

 

システィーナ「察しがよくて助かります……」

 

 

 システィーナはそう言いながらため息をつき。少しだけフィールのほうを見る。

 

 

エルレイ「ん、今行く……丁度いい、ちょっと見学してかない? グレンに会わせるよ?」

 

 

 エルレイはそう言いながら微笑んだ。

 少しだけその事に動揺しながら質問する。

 

 

フィール「……いいんですか? 一応私部外者か不審者か疑われてますよね?」

 

 

 学院の前で倒れていた訳だし、宮廷魔導師団のコートを着ていたのならハッキリ言って怪しい筈だ。学院の制服は持ってないし、貸し出してもらう訳にもいかないし、先生のフリでもしろと? ハーレイ先生が待った無しだ。

 

 

システィーナ「エルレイ先生、この人は……?」

 

エルレイ「件の倒れてた子、名前はフィール」

 

フィール「どうも……こんにちわ」

 

ルミア「こんにちわ、フィールさん、でも本当に連れて行くんですか? 確かに部外者を入れるのは良くないんじゃ……」

 

システィーナ「私もルミアに同意見です。ここは事情聴取でもして適切な対処を……」

 

 

 そんなごく当たり前な事を二人とも言う。しかし……

 

 

エルレイ「うちのグレンやセラが、良い行動とか、適切な対処……取る?」

 

「「……………………」」

 

エルレイ「おい、目をそらすな」

 

フィール「ええぇ…………」

 

リィエル「……」サクサク

 

 

 リィエルはなんとなくフィールをじっと見ながら無心にいちごタルトを食べていた。

 

 

エルレイ「ていうわけで、ここでは常識は通用しない、あきらめれ」

 

 

 エルレイはそういうとフィールの手を引っ張り、保健室を出る。 システィーナ達も後を追うようにエルレイ達について行く。フィールは耳打ちでエルレイに聞いた。

 

 

フィール「大丈夫なんですかこの学院……」

 

エルレイ「…………」

 

 

 ただ沈黙するエルレイ。割と不安だ。

 あっちの世界でもセラ先生はまともに機能していた筈なのに。

 そうか、これが歪みか。私が介入したせいで性格が歪んだのか。後悔と自責の念にフィールは俯いた。

 

 そしてなんやかんやで教室に入った。とりあえずいつも通りなのだが……

 

 

カッシュ「……本当に……アンタと戦わなきゃいけねえのか……っ!」

 

グレン「俺だって、大切な生徒となんて戦いたくないさ……でもな、俺が勝たないと……一人の人間すら守れないクソ野郎になっちまうんだよ!!」

 

 

 その状況は一触即発と呼ぶにふさわしい、黒板前で、グレンがカッシュとにらみ合っている。

 

 

カッシュ「……すいません、感情を……出しちまって」

 

グレン「……こっちこそすまん……落ち着きがなかった」

 

 

 そんなことを言いながらピリピリした状況は続く、生徒たちはそれを悔しそうな顔で見ているものもいれば、もう見てられないと言わんばかりに顔を手で覆っている。

 そんな二人を横目に、二人の真ん中にいたセラが苦いものを口の中で転がしているかのような声で言葉を出す。

 

 

セラ「ふたりとも……準備はいいね……」

 

 

 すると突然、二人がこぶしを握り締め上にあげる完全に殴り合うようにしか見えない。

 

 フィールはすぐに駆け出して止めようとするがそれをエルレイに止められる。

 

 

「いくよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃんけん……」

 

「「ぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!」

 

 

「「「…………」」」

 

 

 エルレイ、システィーナ、ルミアはそのどうでもいいことこの上ないであろう(確定)の状況を呆然と見ている。

 

 

リィエル「楽しそう、混ざる」

 

 

 そういってリィエルが楽しそうだという理由で行こうとするのでエルレイは髪を引っ張って止めた。

 

 

リィエル「いたい」

 

フィール「…………」

 

 

 一体何をしているのだろう。

 馬鹿みたいに騒いでいるのはいつものグレン先生と変わらない。一応セラ先生が何故か審判やっている。

 

 

フィール「あの……すみません説明」

 

 

 エルレイの方を向くと首を横に振った。

 どうやらエルレイも理解不能らしい。フィールは少しだけため息をついていた。馬鹿やるのはいつもと変わらないのだが、色々セラ先生も感化されてしまったのかもしれない。

 

 エルレイはフィールの言葉に首を振り、自分も理解していなことを示す。全員硬直している中、またもやグレンとカッシュの雄たけびがこだまする。

 

 

グレン「っくっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

カッシュ「っしゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

セラ「はい、というわけでクッキーはカッシュ君にあげるね」

 

カッシュ「ありがとうございますぅぅぅっぅぅぅううううううううう!!!!!」

 

エルレイ「今理解した、ごめんね、フィーちゃん、こんなクラスで」

 

 

 エルレイは死んだ魚のような目でカッシュとグレン、セラの三人を見ていた。

 

 

フィール「……ハァ、《徒然なるままに・我が右手に奇跡を・万里の果てより招来せよ》」

 

 

 何故か相変わらずで安心したが、心配した此方の身にもなれと若干の怒りから意趣返しとして、フィールは白魔儀【アポーツ・クラフト】を使って皿に乗せられた最後のクッキーを自分の手に転移させた。

 

 

フィール「どうぞエルレイさん」

 

カッシュ「なっ!? 何すんだお前!?」

 

エルレイ「適応能力高い、感謝」

 

 エルレイはそのクッキーをいったん手に持ち、そのまま、フィールの口へと運ばせて割と強引に入れる。

 

 

フィール「むぐっ……」

 

エルレイ「……説明」

 

 

 エルレイはマジトーンになりその場の全員が凍り付く。

 

 

エルレイ「説明」

 

カッシュ「は……はいっっ!!! 実はセラ先生がクッキーを作ってきてくださって、それで最後の一枚誰が食べるか男子で論争になって」

 

グレン「何しやがんだ!! 俺の大切な食糧がああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 グレンはそんなエルレイなどお構いなしに叫び散らす。

 

 

セラ「え、えっと……ね、なんかこんなことになっちゃて、それで私も主犯だから見てるだけなのも気が引けたし……仕方なく……」

 

グレン「お前ノリノリで審判やってたろうが!!!!」

 

セラ「こ、こらっ!! 余計な事を‥‥」

 

エルレイ「《わが手に刃を》」

 

 

 エルレイは目にも止まらぬ高速詠唱でリィエルに似た大剣の少し小さいものを生成した。

 

 

エルレイ「とりあえず、騒いでたであろう男と、セラは……死」

 

「「「「「えっちょっま……ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」

 

 

 グレン他数名とセラはエルレイに剣を振り回されながら追い回され、叫び声をあげた。

 

 

システィーナ「……今聞くのもあれなんだけど……大丈夫? フィール……だっけ? ばかばかしくなったりしてない?」

 

フィール「んぐっ……ゴクッ、普通に呼び捨てで構わないよ。多分同い年だから。まあ……何というか……」

 

 

 少し安心した。

 馬鹿やってるのは相変わらずだが、笑いあってエルレイ先生が叱って、何処か安心している。

 

 私はあの世界では……叱る事も笑わせる事も出来なかったから。

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「と、言うわけで、今回急遽訪問された、子の紹介、どうしても未来の魔術師が見てみたいらしい、自己紹介お願い」

 

 

 そう言ってエルレイはフィールに振る。

 

 

フィール「魔術工学所属から来ましたフィール=ウォルフォレンです。階級で言うなら第四階梯(クアットルデ)の魔術師でもあります。魔導具の生成に自信がありますので分からなければ質問も構いません。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 

 丁寧な口調でフィールは答えた。

 まあ本当は未来で第六階梯(ローデ)だが、この世界に私の身分証明書は無いので誤魔化した。

 

 

「「「「………………」」」」」

 

 

 自己紹介した瞬間、沈黙がこのクラスを包む……。

 

 

エルレイ「……フィーちゃん、耳ふさいで」

 

 

 自己紹介をしたのになぜか無反応の生徒達を見た後エルレイはフィールにそう耳打ちをした。

 

 

フィール「は、はい」

 

 

 フィールは言われた通り耳を塞いだ。

 何かおかしな点でもあっただろうか? それとも容姿で私の事がバレているのだろうか? 次の瞬間、爆音のような音がフィールの耳に届いた。

 

 

「「「「「エルレイねえねが美少女連れてきたああああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

 

 そう、一部の男子共が叫んだのだ。

 

 

「ちょっ……ま……かわいすぎだろ……ていうかエルレイ先生が連れてきたってことは百合?! 百合なのか!?」

 

「やっば……マジで好みかもしれん、正直セラ先生以上の破壊力を持つ!!!」

 

「ぐぁぁ!! ……テレサ推しのこのおれがぁ……心を揺らしてるだとっ!?!?」

 

「ちょっとそこの男子うるさい!!」

 

 

 やっぱりかと言わんばかりにエルレイはため息をついた。

 

 

エルレイ「もういいよ、思ったより、うるさかったから、聞こえてるかもだけど」

 

フィール「エルレイ……ねえね?」

 

 

 何で姉呼ばわりされてるのかフィールはエルレイを見て首を傾げる。エルレイは頰を少し赤くしている。どうやら恥ずかしいようだ。

 

 

フィール「随分特徴的なクラスですね……」

 

 

 知っていたけど、私がいた世界よりクセが強くないか? 地味に男子達もグレン先生みたいになってるし。ギイブル君については不変で何故か安心している自分がいる。彼は将来本と結婚するのかもしれない。

 

 なんて下らない事を考えながら、クラスを見ると変わっていなくて少し安心もしたが……

 

 

エルレイ「~~~っ」

 

 

 特徴的なクラスと聞いてエルレイは頭を抱えていた、顔を赤く染めながら。

 

 

リィエル「ねえね、どうしたの? 疲れたの?」

 

エルレイ「この疲れ……リィエルのせいなんだけど」

 

リィエル「?」

 

ルミア「あ、あはは……」

 

システィーナ「え、エルレイ先生。お気を確かに!」

 

 

 ルミアは苦笑いをし、システィーナは腕でガッツポーズをした、リィエルは首を傾げた後、またフィールのほうに顔を向ける。

 

 

 フィール「えっと……エルレイ先生。私はどうすればいいですか? 質問タイムでも設けますか?」

 

 

 とりあえず一向に進んでいる気がしない。

 グレン先生やセラ先生はさっきの闘争と逃走でグッタリしてるし、ややそれを見て苦笑する。

 

 

エルレイ「……ん、じゃあ質問タイム」

 

 

 エルレイは呆れた顔になりながら生徒たちに質問タイムを設けた。

 

 

「はい!! 彼氏はいますか!!」

 

エルレイ「質問破棄、関係ない」

 

「はい!! 好きな男性のタイプは!」

 

エルレイ「質問破棄、異性恋愛×」

 

「はい!!! スリーサイズいくつ?!?!」

 

エルレイ「質問破棄、もう隠さない、死」

 

フィール「他にまともな質問はないんですか?」

 

 

 恋愛関係はスウィーツ並みに食いつくから却下したのはわかるのだが、他に無いのだろうか。得意な魔術とか、もっとこう普通の質問が。いやまあ恋愛は絶対にあり得ないけど。

 

 

エルレイ「他」

 

システィーナ「じゃあ、一つだけ」

 

 

 そう言ってシスティーナが手を上げた。

 

 

エルレイ「言ってみて」

 

システィーナ「魔術工学所属って言ってたけど……それって家族の意向?」

 

フィール「……っ……ごめんなさい。家族は私が魔術師になる前に亡くなってるから」

 

システィーナ「あっ……すみません失礼な事を聞いて」

 

フィール「まあ……私の家族の片方はちょっと子供っぽくて、母はそうだね……ちょっとお節介で犬みたいな人かな?」

 

システィーナ「えっ?」

 

 

 少しだけ視線をセラに向けて軽く笑う。

 まあその視線は誰にも理解する事はなく、フィールは続けた。

 

 

フィール「入った理由は……まあそうね……人生の副産物かな? どちらかと言うと、やらなきゃいけなかった事の為に学んで……まあその後にその道を見つけたって感じかな? 例えるなら……」

 

 

 フィールはポケットから黄色い球体のようなものを出した。

 両手でそれを重ねて持ち、詠唱を開始する。これは子供の頃、セリカ伯母さんに見せようと作った専用の魔導具だ。あの頃、帰るのを待っていたが、帰る事は無かったが……少し懐かしく悲しい顔をしながらも、それを起動する。

 

 

フィール「《私は世界を欺きし者・魔力を練り上げ知識を基盤に彼方を幻想せよ・真実のヴェールで覆いし者よ・今一度聖歌の幻想を・我が命脈に従い・奇跡と彼方の巡礼を》」

 

 

 するとフィールを中心に綺麗な花が咲く。それどころではない。教室全体が消えて、空には満天の星空にオーロラ、それを照らすかのように花は光り、幻想的な空間を生み出す。

 

 

「す、すげええぇぇ!」

「綺麗……!」

「ロマンチック……! これ魔導機で!?」

 

 

 生徒達はあまりの光景に驚愕する。

 教室は一転して花が咲く夜空に包まれて感激する。これ程綺麗な場所は見たことがない。

 

 

フィール「白魔【イリュージョン・スフィア】。それをこの魔導具を利用して範囲を広めたの。魔導具は傷付ける為にあった時があった。けど、捨てた物じゃないでしょ?」

 

 

 フィールは少しだけ得意げに笑った。

 

 

エルレイ「……」

 

グレン「へぇ、やるな、ここまでこの歳でできるなら大したもんだ」

 

セラ「うんうん、将来有望ってこういう子の事を言うんだね! ねっ! レイちゃん」

 

エルレイ「…………」

 

セラ「……レイちゃん?」

 

 フィールがエルレイのほうを向くと無表情に、本当に何も感じていないかのように無表情に、ただただ、光っている花ではなく、オーロラをじっと見つめていた、その目はとても濁っていて、同じ人間なのか疑うレベルにまで変わり果てた顔をしていた。

 

 

フィール「……エルレイさん、何かおかしかったですか?」

 

 

 フィールは少しだけ心配しながら聞いた。

 何かオーロラが気に入らなかったのか、軽く肩に触れてエルレイに問う。

 

 

エルレイ「ごめん、何でもない」

 

 

 エルレイはそう言って微笑んだがその顔は例えにくいが何かを隠しているような、何かを否定する笑顔のような、そんな印象を抱いた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 そんなことがあって夕方の放課後、フィールはいろいろと大人気(どんな感じで人気だったかはお任せ)だった

 授業が終わった後椅子に座っているとエルレイが話しかけてきた。

 

エルレイ「ちょっと、屋上まで、ついてきて」

 

フィール「……? はい、構いませんけど……」

 

 

 フィールはエルレイの後ろに小走りでついていく。屋上についた2人は向かいあっていた。長い黒髪が風に靡くようでまるで男子が女子に告白するかのような状況だ。

 

 

フィール「まあそんな事あり得ないけど」

 

 

 エルレイは下を向いてため息をついた後決心したように、フィールに向き直る。

 

 

エルレイ「単刀直入に聞くよ、フィール=ウォルフォレン」

 

フィール「……? はい」

 

 

 他人から見たら告白のように見えるが、フィールは少しだけ首を傾げて返答する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コ ピ ー と 人 間 、何 体 殺 っ た ? 」

 

 

 

 

 

 

 いつもと同じトーンだがエルレイのその言葉はどこか重く、悲しそうな印象を抱いた。

 

 

フィール「っっ……!? な、何で……!?」

 

 

 それはフィールしか知らない未来の出来事だ。人間ならまだ分かる。だが、コピーと言うのは既にフィールの脳裏に過ぎっていた。

 

『Project:Revive life』 

 人間の蘇生関連の魔術の中で世界初の成功例、それは本来ならリィエルを除いて他にいない。だが、未来ではその実験は確立された。リィエルと言う感情なき殺戮兵器、それが未来では量産されていた。

 

 

エルレイ「……あなたから、私のコピーの匂いがする、血なまぐさい匂いもね……」

 

 エルレイはフィールに近づき頭を撫でた。

 

エルレイ「そして、フィーちゃんの顔が、私の知り合いの、人間に絶望した人に、そっくりなの」

 

エルレイ「私には、こんなこと言う資格ない、でも、私みたいにならないでほしいの……感情を手に入れても……殺戮兵器としての本能が渦巻いて、斬ることしか快感を得られなくなった私みたいには……」

 

 

 エルレイは悔しそうな顔で話を続けた。

 

 

エルレイ「だから、私みたいにはならないで……このきれいな世界のはずなのに、何かを斬り殺して親友を助けたいと願っている……私みたいには……」

 

フィール「ごめんなさい、それは出来ません」

 

 

 フィールはそれを否定した。

 気持ちは分かる。グレン先生のように闇に堕ちていくのを見たくない気持ちは痛いほど分かる。だが、それは出来ない。

 

 

フィール「私はエルレイ先生じゃない。だから貴女の事が分からない。けれど、貴女がロクデナシであろうが、そうでなかろうと、私は守る為なら私を殺してでも殺戮兵器にでもなるつもりです。そう……未来に誓ったんです」

 

 

 そこに自分の幸せが含まれていなくとも。

 例え自分が絶望の全てを背負う事になっても、私は私を殺す。

 

 それが……未来を救う()()()なのだから。

 

 

エルレイ「なにかを守るためなら、自分を犠牲にする……本当にシュウとロクサスに似てる……」

 

 

 エルレイは目をつぶった後、目を開き言葉を出す。

 

 

エルレイ「……それは《守るための最善策》ではある、でも……仲間や家族、知り合いを悲しませる《最悪手》でもある」

 

フィール「なら……なら自分の我が身可愛さに指加えて地獄を見ろって言うんですか!? 私は私なんてどうでもいい。私がいるべき世界は未来しかない! 私は……!」

 

 

 感情的になり、声を荒げるフィール。

 その顔は泣きそうだが、まるで憎しみを糧に今を生きているように見える。

 

 

フィール「約束した! エルザと……ルミアさんと……! 私をここまで連れてきてくれた! だから……!!」

 

 

 フィールは本来()()()()()()()()()()だ。

 ifの世界から来た黄昏の幻想、あり得ざる結果から生み出された世界のバグ。だがバグ故に世界を変える力を持つ。そこに自分の感情は含まれてはいけないのだ。

 

 

エルレイ「……落ち着いて……私はフィーちゃんが、間違ってるとは思ってない」

 

 

 そういうと、エルレイはぎゅっとフィールを抱きしめた。

 

 

エルレイ「その自己犠牲の行動がとれる人間は……本当に強い人、でも、その犠牲で悲しむ人だっている、それを忘れないでほしいのと……殺したくなんてないっていう、感情を忘れないでほしいだけ」

 

 

 そう言いながらエルレイはフィールの頭を撫でた。

 

 

エルレイ「……ごめんね、辛い思いさせて」

 

 

 エルレイは優しく、抱きしめて、何度も頭を撫でた。

 

 

フィール「……っ…………ぅぅ……」

 

 

 ポロポロと涙が溢れ落ちていく。

 ただ、感情が決壊し、魔術講師のローブを掴んでただ泣いた。それはまるで子供が母親に泣きつくかのようで、その場所に夕日が2人を照らしていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

エルレイ「さて、そろそろ戻ろう」

 

 フィールが泣き止んだのを見計らってエルレイはフィールの頭をポンポンと叩いて、笑みを浮かべた。

 

フィール「そうですね……」

 

 

 フィールの目が微かに赤くなっている。

 エルレイの言った通りに屋上もそろそろ閉鎖される。

 

 

エルレイ「一応言っておく、泣くことはいいことだよ? 迷惑な事じゃないし、当たり前の感情」

 

 

 エルレイはそう言いながらフィールの頭を撫でた。

 

 

フィール「もう流石に恥ずかしいですよ」

 

 

 少し照れながら頭を撫でる手を触れて止める。

 年頃の女の子は母親みたいな人からのスキンシップに恥ずかしがる頃だ。

 

 

エルレイ「そして…………」

 

フィール「?」

 

「い ち ご タ ル ト を 食 べ さ せ た い の も 当 然 の 感 情 」(暴論)

 

フィール「…………プッ……フフ」

 

エルレイ「お・た・べ・?」

 

フィール「……ハハハ、因みにあと何個あるんですか?」

 

エルレイ「やった、普通に笑ってくれた……えっと……この間300作ったから……5個食べて……そのあと300作って……」

 

フィール「糖尿病になりますよ?」

 

 

 ポケットの神秘にも気になるが、いちごタルトを収納するだけの為に固有魔術(オリジナル)を作ったなんて聞いてみたらおかしくて笑ってしまった。

 

 

エルレイ「いいじゃん、『Project:Revive life』の成功例、死亡、死亡理由 糖尿病 なかなかインパクトある」

 

 

 エルレイはそう言いながら屋上から去ろうとしたその時。

 

 

エザリー「……話し終わった?」

 

エルレイ「え、わぁ!!」

 

 

 エルレイとフィールの目の前にエルザに似ているが少し大人びたメガネをかけた女性が扉の前でずっと立っていた。

 

 

フィール「エルザ……に似てるけど誰ですか?」

 

 

 フィールは少し驚いた顔でエルレイに聞いた。

 間違いなくエルザ本人だ。かつて共闘した私の世界では《戦車》を名乗った魔術師。

 

 

エザリー「エルザに似てるけど、エルザである、今はエザリーです」

 

 

 エザリーは微笑みながらそんなジョークのような事を言う。

 

 

エルレイ「その口ぶり、やっぱり最初から見てたんでしょ?」

 

エザリー「まあね」

 

 

 エルザは舌を少しべっとあざとく出した後。

 

 

エザリー「ところで、リィエル? ずいぶん子のこと仲良さそうだね?」

 

エルレイ「…………」

 

エザリー「目をそらさないで☆」

 

 

 成る程とフィールは察した。

 この世界で彼女を救ったのは、エルレイなのだと。

 

 

フィール「エザリーさんは、エルレイさんが好きなんですね」

 

 

 少しだけかつての親友と重ねながら、リィエルと言う量産兵と戦っていたエルザとエルレイが仲が良い事に少しだけ涙が溢れそうになる。殺し合った血みどろの世界が消えていくようで安心した。

 

 

エザリー「まあ……ね」

 

 

 エザリーは頬を染めた。

 

 

エルレイ「それで、なんで接触してきたの?」

 

エザリー「えっとね、簡単に言うと、ここにリィエルのコピーが30くらい来てるからちょっと狩りに行こうって、リィエ……エルレイにお願いしに来たの」

 

フィール「……はっ? 何で! 実験は凍結した筈じゃ!?」

 

エルレイ「なんで、そうなった?」

 

エザリー「現時点では不明です、騎士長」

 

 

 エザリーもエルレイもどうでもいいかのように、とても笑顔で話していた。

 

 

エルレイ「ごめん、フィーちゃん、先生、急用で来た、誰か先生いると思うから、その人と帰って」

 

 

 エルレイはニコっと笑みを浮かべた、まるで戦場がやってきたのがうれしくてたまらないかのような、そんな表情だ。

 

 

フィール「……ハッ、舐めないでくださいエルレイさん」

 

 

 帝国宮廷魔導師団のコートを着て、右手には魔銃ペネトレイターが握られていた。『愚者のアルカナ』に『魔銃ペネトレイター』を持ち、隠し武器を仕込んでいるフィールの姿はまるで……

 

 

フィール「私を誰だと思ってるんですか?」

 

 

 まるで帝国宮廷魔導師団にいた《愚者》グレン=レーダスと姿が重なっていた。

 

 

エルレイ「……面白い」

 

エザリー「あ、一緒にこさせるの?」

 

エルレイ「うん、《万象に希う・我が背に取り付け・大いなる翼となって羽ばたかん》」

 

 

 エルレイはそう詠唱すると、エルレイの背中から銀色をベースに蒼い色が各所についた羽がエルレイから生えた、よく見てみるとリィエルの大剣をつなぎ合わせ、羽にしたもののようだ。

 

 

エルレイ「のって」

 

フィール「分かりました。じゃあ私も、《駆けよ無窮の旋風よ》」

 

 

 風で押す事で進む【ラピット・ストリーム】をリィエルの羽に当てる事で推進力を引き出した。

 

 

フィール「行きましょう」

 

エザリー「この子……リィエルに適応早いなぁ‥‥」

 

 

 エザリーは苦笑いをしながら、フィールを支える形でエルレイの背中に乗った。

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「いるいる、いもうと」

 

 

 エルレイはそう言いながら無表情だが嬉しそうだった、今いるのは学院の一番近くの林で林の木の陰に隠れるようにコピー体が何体もいた。

 

 

フィール「どうするんですか? 殲滅か捕縛か」

 

エルレイ「突っ込む、ぶっ壊す!!」

 

 

 エルレイはそう言い残し、一目散に大剣を詠唱して、生成し2刀流にしてから考えなしに突っ込んでいく。

 

 

エザリー「えっと……違うリィエルを知ってるって言ってたから一応言っとくね、あの子リィエルだよ?」

 

フィール「そうだったよ。成長してるけど、成長してないのね……」

 

 

 フィールはため息をつきながら、エルレイの背中を追いかける。リィエルの基本性能は【フィジカル・ブースト】並に高い為、フィールは【フィジカル・ブースト】をかけて詠唱を始める。

 

 

フィール「《極滅の雷神よ・世界を駆けろ・彼方の果てへ》!」

 

 

 軍用魔術B級の攻性呪文(アサルトスペル)【プラズマ・カノン】をぶっ放し、リィエルのコピー体を殲滅していく。近づくコピー体はエザリーが弾き、遠距離から大剣を投げ付けるコピー体には魔銃ペネトレイターや【ライトニング・ピアス】で撃ち抜く。

 

 

フィール「《吠えよ炎獅子––––》《吠えよ》《吠えよ》!」

 

 

 黒魔【ブレイズ・バースト】を連射し、コピー体を吹き飛ばすが、大剣に防がれて致命傷には至らない。何人か大剣で襲い掛かってくるのをナイフでギリギリ捌きながら、至近距離で【ライトニング・ピアス】で撃ち抜く。あと何体いるかわからない為、ここはこの場所ごと消し飛ばした方がいいだろう。

 

 

フィール「エルレイさん、エザリーさん! 時間稼ぎお願い!」

 

 

 ポケットの中の赤い結晶を取り出し、右手を前に出し詠唱を始める。元より殲滅なら塵すら残さず消し飛ばす。この瞬間、フィールは動けないが、今の自分には……

 

 

フィール「《──―我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ》」

 

 

 仲間がいる。リィエルのコピー体の攻撃を弾くエルレイとエザリーの援護がこの場において最大の力を発揮する。

 

 

エルレイ「了解」

 

エルザ「時間稼ぎ……ねっ!!」

 

 

 二人の攻撃には目を見張るものがあった、早すぎる剣撃、圧倒的な二人一組の戦闘技術、息の合いすぎている二人、そして何より、これだけ、30体ものコピー体を2人だけで相手しているにもかかわらず二人とも‘‘まったく息が乱れていない‘‘寧ろ笑いながら戦闘をしている、敵だとしたら恐ろしいことこの上ないだろう。

 

 

フィール「《五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は解離すべし・いざ森羅の万象は須らく此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》

 –––––2人共、下がって!」

 

 その一声に2人はフィールの後ろに下がる。これは200年前の魔導大戦でセリカ=アルフォネアが生み出した神殺しの最大の魔術、概念を消滅させる最大の奥義。

 

 

「黒魔改【イクスティンクション・レイ】!」

 

 

 膨大なマナをかっ喰らいながら赤黒い魔術式を作り出したフィールはその魔術を行使した。音も消え、概念と言う概念が跡形もなく消滅する神殺しの息吹は、リィエルのコピー体はその威力の前に為す術なく消滅させていった。

 

 

フィール「ハァ……ハァ……これでざっと3分の2ぐらいは倒したでしょう」

 

エルレイ「ん、ちょうど全滅」

 

エザリー「お疲れ」

 

 その言葉に驚き周りを見てみると確かにもう1体たりとも残っていない、逃げられたか、そう考えたが、【イクスティンクション・レイ】で吹っ飛ばしたか所とは別に、エルレイとエザリーの戦っていた場所にコピーの死体の山が出来上がっていた、この二人は。詠唱という明らかに短い時間でフィールが気付かないうちに3分の1倒していたのだ。

 

 

フィール「流石、あんな短時間で全滅させられるなんて凄いですね」

 

 

 素直にその強さに驚いた。

 とりあえずやらなければならない事はリィエルのコピー体の死体は残すべきではないと言う事だ。『Project:Revive life』が明らかになっていない以上、これを公にすればリィエル本人が危ない。何故現れたのか知らないが、証拠は無さそうだから結局……

 

 

フィール「燃やすしかないか……流石にキツイけど【ブレイズ・バースト】を何回も使って焼却するしか……」

 

エルレイ「……ん《我目覚めるは・デウスと赤龍帝の力を信じし・殺戮人形なり》」

 

エザリー「! ……フィールちゃん、ちょっとさがってて」

 

フィール「聞いた事ない詠唱ですね……」

 

 

 見るからに危なそうだ。大気がどんどん熱されていく。

 エザリーは手をフィールの前に出し、下がるように合図をする。

 

 

「《我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》」

 

 

 エルレイが詠唱を終えると発生していた熱が一気になくなった、そしてコピー体の死体の山の下にチャックのようなものが空間が開いたように開いており、そこから大量の黒い手がめきめきと現れ、そのコピー体を空いた空間の中へ引きずり込んでいってしまった。

 

 

エルレイ「これで完了」

 

フィール「凄い魔術ですね……」

 

 

 まるで禁術の【ゲヘナ・ゲート】のようだ。

 だが、それはそんな物より更に上の次元の魔術だ。

 

 

エルレイ「……術?」

 

エザリー「……術……」

 

フィール「……へっ……違うんですか?」

 

「「…………」」

 

「「まあ術でいいや」」

 

 

 二人は沈黙した後、あきらめたようにため息をついた、すると空から一枚の紙が降ってくる。

 フィールがそれをつかみ取るとそこには。

 

『あの世界に戻りたいか?』

 

 そう書いてあった。

 

 

エルレイ「多分、それに強く願えば帰れると思うよ」

 

 

 エルレイは何かを確信したようにそう言った。

 その状況をエザリーは微笑みながら見ていた。

 

 

フィール「そうですか……ねえ、エルレイさん……いや、リィエル」

 

 

 フィールはその紙を掴んだ。

 すると、フィールの身体は光り輝き始めた。

 

 

フィール「リィエル……貴女は殺戮兵器じゃないよ……ちゃんと優しい……先生になったんだね」

 

 

 フィールは優しい顔をしてエルレイに笑う。

 エルレイを抱き締めて、胸ポケットの内側のいちごタルトを一個だけ貰う。お礼の時や別れの時はいつもいちごタルトを渡していたなら、これは多分……

 

 

フィール「リィエル、一つ貰うね。さよならタルト……だっけ?」

 

エルレイ「……ん、さようならタルト、今度会う時は、天国か地獄か……それともまたこの世か……また会お? フィーちゃん」

 

 

 エルレイ。いや、リィエルはフィールをしっかり抱きしめて微笑んだ。

 

 

エルレイ「私はフィーちゃんの手助けをすることはできないけど……でもいつでもどこにいてもフィーちゃんの、味方だから」

 

 

 最後に聞こえた言葉にフィールは優しく笑っていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……ここは」

 

 

 気が付けばアルザーノ帝国学院の屋上に居た。

 どうやら彼方では夕方だったのに、こちらは夜。時間の流れが少し違うらしい。

 

 

「夢……だったのかな」

 

 

 宮廷魔導師団のコートを着たまま屋上で倒れていた。

 気が付けば寝てしまったと言う都合の良い事は無い。

 

 

「あー!居たー!」

「フィール!大丈夫?!」

「フィールさん大丈夫ですか?!」

 

 

 校庭から声が聞こえるので下を覗くとそこにはセラ先生とグレン先生、システィーナ、ルミア、リィエルの五人が居た。フィールは【グラビティ・コントロール】を使って屋上から降りると全員に心配されていた。

 

「みんなどうして……」

「当たり前だ。授業1日サボりやがって」

「今日一日行方不明だったんだよ!?軍の人も知らないって言うし!」

「一日行方不明!?」

 

 

 時間の流れの影響かまだ半日しか経ってないと思っていたのだが……

 

 

「……ん?」

 

 

 自分の宮廷魔導師団のコートの中に何かが入っている。

 自分の内側のポケットに何か自分の知らない膨らみがあった。それを取り出すとその膨らみの正体は……

 

 

「いちごタルト?」

「黒猫、お前お腹が空いたからって内側のポケットにいちごタルトは……」

「………ぷっ……」

 

 

 フィールは堪らず笑い出した。

 何だ、ちょっとした魔法のようなものに笑わずにはいられない。

 

 

「で?黒猫、何があったんだ丸一日行方不明になって」

「さてね?強いて言うなら……」

 

 

 フィールは笑ってこれを渡した本人の顔を思い浮かべる。

 

 

「––––ちょっとした『正義の魔法使い』に会っただけですよ」

「………はぁ?」

「リィエル、あげるよ」

「いいの?わーい」

 

 

 そう。ちょっとした『魔法使い』に会ったのだ。

 フィールはこの時だけ、いちごタルトをあげた後、リィエルの頭を撫でながら、遙か彼方の未来のリィエル、エルレイに会える奇跡をただ月を見上げて無邪気な子供のように笑っていた。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。