バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 ペースが続くって凄くね!?
 と最近当たり前な事を褒め称えてる気がします。

 あっ、フィールちゃんのイメージ画を作ったので良ければ見てください!よかったら感想、評価をお願いします。では行こう!!




第2章 未来の愚者と過去の天使の逃避行
第5話


 

「フィールちゃん、いらっしゃい!」

「その……お世話になります」

 

 

 フィールは荷物を抱えてセラの家に訪れた。フィール自身、まだ反対していたのだが、セリカの正論に押し切られてしまいセラと一緒に住む事になった。

 

 

「その……荷物は何処に……」

「えっと左の部屋に纏めておいて!」

「……分かりました」

 

 

 セリカ叔母さんめ、と心の中で少し恨むフィール。

 本来ならあまり2人に関わらないように影から見守るのがフィールの心情だったが、何がどうなったら、フィールがセラの家に住む事になったのか。時は1日を遡る。

 

 

 ────────────────────

 

 

『未来の……グレンとセラの娘……だと?』

『はい……この世界で私は産まれませんが、未来ではお母……セラ先生とグレン先生が『天使の塵(エンジェルダスト)』の任務でグレン先生だけが亡くなって、セラ先生が生き延びました』

 

 

 未来の真実を告げると神妙な顔をするセリカ。

 もし本当だとするなら時期が合わない。フィールが産まれた時はセラが生き延びた『天使の塵(エンジェルダスト)』からそう時間がかからなかったなら、フィールを既に身篭っている筈だ。

 

 

『なら普通に考えるならセラはこの時期に身篭っている筈だ。2人は結婚どころか交際すらしていないんだぞ?』

『……その理由は分かりません。私がこの世界に来た影響なのか、私自身の未来がこの世界において並行世界なのかは私にも分かりません』

 

 

 例えるなら水面に小石を投げ込めば水面が揺らぐように、フィールと言う存在がこの世界に来てしまったせいで、世界そのものに歪みが生じたのかもしれない。

 

 

『【イクスティンクション・レイ】を教えたのは未来の私と言う事か。神殺しの術式を知らないと出来ない芸当だからな』

『はい……未来でセリカ叔母さん……セリカさんが少しだけ魔術を教えてくれた時に神殺しの術式を説明してくれたんです』

 

 

 セリカは再び目を見開いた。

 その頃のフィールは5歳とちょっとな筈だ。なのに神殺しの術式を理解出来るなんてセリカですら驚愕ものだ。グレンには一から教え込んだが、フィールはただ説明を受けただけで【イクスティンクション・レイ】をマスターしたと言う事だ。

 

 

『でもその後、セリカさんは行方不明になって、そこから『天の智慧研究会』が本格的に動き始めたんです。その後、正体不明の超高度な術式でフェジテが滅んで……宮廷魔導師団も大きな損害を負いました』

『…………』

『それで最後に……お母さんも……『天の智慧研究会』に殺されて……私は……』

『もういい』

 

 

 途切れ途切れの声になるフィール。

 膝の上で握られた拳からは血が出ている。後悔する程の未来に何も出来なかった自分に決死の覚悟で未来から過去に飛んで来たのだろう。

 セリカはフィールを優しく抱き締める。母親が子供を慰めるように優しくフィールを包み込んだ。

 

 

『セリカ……さん?』

『よく……頑張ったな。お前が誰とも一線を退いていたのは分かったよ。自分と関わっちゃいけないって思ったからなんだろ?』

『……私、未来で沢山の人を殺しました……帝国宮廷魔導師団の《愚者》として……数え切れないほどの人を殺したんです……! だから、私はこんな優しい世界に関わっちゃいけないんだって……!』

 

 

 この世界は眩し過ぎる。

 未来が辛く重く、悲しい世界だったフィールにとって、あんな壊れたような世界から来た人間がこの世界に触れて仕舞えば壊れてしまうんじゃないかといつも一線を退いていた。

 

 

『そう言う所はグレンそっくりだ。抱え込まなくていい、セリカ伯母さん……だったか? お前にとって、それが私の呼び方なんだろ?』

 

 

 俯いたまま、コクリと頷く。

 フィールにとって、セリカもセラもこの世界で変わらない存在だった。子供の頃と全く変わらない。

 

 

『よく話してくれたフィール。私はお前の味方だよ』

 

 

 駄目だ。こんな事理解したくない。こんな世界は私がいるべきでは無い。自分が居るならせめて他人の幸せを願う為にしか動けない《愚者》になると決めていた筈なのに、理解したくなかったソレを、しかし、どうしても自覚せざるを得なかったソレを、混沌状態にあった思考回路が結論を出して、自覚してしまった。

 

 力が抜けていく。表情が歪み、少女の気持ちが溢れ出す。

 

 

『っ……うっ…………』

 

 

 ───涙が、零れ落ちていく。

 この世界に依存したい自分と、昔のままで在り続けなければいけない自分。相反する想いが交錯し、行動に矛盾を起こし、涙を零しそうにさせて。硝子の心に罅が入る。罅など入れてはいけない、この世界で自分は赤の他人でなくてはならない。でもそれが何処か辛くて、悲しくて、抑え切れない気持ちが溢れ出す。

 

 

『ごめん……なさい……ごめん……なさい……』

『フィール……』

 

 

 フィールはただ強くあり続けなければならない。そうやって自分に言い聞かせて、仮面を被って、逃げて、目を覆って、眩しい世界から自分を遠ざけていた。闇が刺すなら闇を喰らってでもあの光を失わないと誓った筈だ。それなのに……

 

 

『私……やっぱり……寂しいよ……独りは辛くて……悲しくて……』

『……フィール……お前……』

『でも……託してくれた人が……居るのに……私なんかが幸せになっちゃ……いけないって……』

 

 

 人殺し、ただ正義の味方を張り続ける偽善者。《愚者》の体現者に幸せなど、呪いの枷でしかない。ただその幸せが何処か羨ましくて、求めて、そんな邪な心が毒のように蝕んで、抑えていた気持ちが決壊する。子供のように泣きじゃくって本音をポロポロと零す。

 

 

『大丈夫……もう、お前は独りなんかじゃないからな』

 

 

 セリカはフィールを抱き締める力を強くする。

 それは痛くなくて、暖かさと温もりを感じさせる。フィールはこの時だけ、仮面(フィール=ウォルフォレン)を外し、年相応の(フィール=レーダス)として泣き続けていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

『……すみませんでした』

『謝らなくていい。年相応のお前が見れて何処か安心しているよ』

『あ、アレは忘れてください!』

『はっはっは、どうだかな?』

 

 

 頰を赤らめて叫ぶフィールにセリカは笑う。

 やっと少しだけ、フィールの本当の姿が見れた気がするとセリカは少し安心する。

 

 

『しかし、どうするんだお前は?』

『別にやる事は変わりません。ただ『天の智慧研究会』からルミアさんを守って、あの2人も守りきる為に動く。その内、帝国宮廷魔導師団に入るのでやる事は変わりません』

『そうじゃない。グレンとセラについてだよ』

『あの2人には明かせません……だって、産まれてもいないのに2人の娘ですなんて……それに、私の未来とこの世界は並行世界の可能性があるので』

『まあ、そうだな』

 

 

 未だ付き合ってすらいない2人に私は2人の娘です。なんて言ったら普通に信じられない、と言われて疑いを持つ。けど、2人は狙われる理由が分からない。説明するにしても、『時渡り』からもしかしたら正体がバレるかもしれない。

 

 

『ちょっとついて来てくれ』

『はい……?』

 

 

 保健室から出てセリカについていくフィール。

 一体何処に向かっているのかと尋ねるが、すぐ着くと言われ黙って着いていく事になった。着いたのは教室で、フィールは困惑した。

 

 

『グレン、セラ、ちょっといいか?』

『あっ? セリカに……ああ成る程、分かった』

『ごめんね。ちょっとだけこの公式の復習しといて』

 

 

 グレンとセラが教室から出た。

 セリカの後ろにフィールは立っているが、セリカが2人を呼んだ事で少し嫌な緊張している。

 

 

『セリカ、どうだったんだ?』

『フィールについては白だ。私が保証する。狙われる理由だが、フィールの魔術特性(パーソナリティ)を知られたからだろう』

魔術特性(パーソナリティ)が?』

『フィールの魔術特性(パーソナリティ)は『万象の逆転、逆流』だ。ありとあらゆる物事をフィールは全て遡る力を持っている』

『『!?』』

『この力を使えば解明されていなかった古代の叡智、下手したら魔術の根源素(オリジン)の始まりすら知る事が可能だろう』

 

 

 セリカは敢えて使い方を古代叡智の解析の力と話した。間違ってはいない。古代の叡智を解析する事は原典クラスまで遡る事が可能だ。やった事は無いけど、魔術の規則性を逆転し、遡ると言う事に関してはフィールは誰よりも長けている。

 

 

『まあフィールも『天の智慧研究会』に狙われる事に変わりはない。だからセラ、済まないがフィールを引き取ってくれないか?』

『えっ?』

『ちょっ!? セリ……アルフォネア教授!?』

 

 

 フィールでさえ初耳で動揺する。

 セラやグレンから遠ざかる方がいいフィールにとって、その案だけは飲み込めないものだった。

 

 

『まあ詰まる所、護衛と監視だ。何せコイツには親が居ない。だから1人じゃ危険と言うのもあるしな』

『別に私1人でも問題無いです!』

『仮に生徒を人質に取られたら戦えないだろうが。今回それで気絶させられたと聞かされたぞ』

『ぐぬっ……』

『私は構いませんけど、フィールちゃんは……?』

『私は反対です。セラ先生を危険な目に合わせるかもしれないのに』

『馬鹿者、子供が見栄を張るな。こう言う時は大人に頼る事を少しは覚えろ』

 

 

 ペシッと頭を叩かれた。

 フィールはグレンみたいに抱え込む癖があるせいで、本音(フィール=レーダス)を押し殺して偽り(フィール=ウォルフォレン)を演じる事に躊躇しない。それは良くも悪くもフィール自身が人間として壊れているのもある。壊れた心はセリカでは治せる事に限界がある。だからセラの家に預かって貰うのだ。

 

 

『フィールちゃん! 一緒に住もう!』

『でも……迷惑なんじゃ……』

『気にしない! フィールちゃんはまだ子供なんだから!!』

 

 

 両手を取り勢いがあるような返答をされ、フィールは俯いたままその言葉が胸に刺さる。並行世界であろうと、未来にいた本当の母と重なったからだ。

 

 

『フィールちゃん……いい?』

『……はい』

 

 

 ただ、俯いたまま力無く首を縦に振った。

 

 

 ────────────────────

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院のテロ事件が来て数日が経ったある日。システィーナたち二年次生二組の教室では一週間後に控えた魔術競技祭への参加メンバーを決めていた。

 

 

「『飛行競争』の種目に出たい人ー?」

 

 

 黒板の前の壇上に立っているシスティーナがクラス全員に呼びかけるが教室内は葬式のように静まり返ってしまっている。

 

 

「『変身』の種目に出たい人はー?」

 

 

 システィーナは順番に種目を聞いていくがこれもまた無反応。このままでは誰が種目に出るか決めるのに一週間かかってしまう。

 

 

「困ったわね……来週にはもう競技祭なのにこれじゃあ全然決まらないわ……」

「ねぇ、みんな? せっかくグレン先生が『自由にして良い』って言ってくれたんだし思い切ってみんなで頑張ってみようよ! ほら、去年出られなかった人も出られる機会なんだよ?」

 

 

 ルミアはみんなに対して呼びかけるが誰も反応を示さない。フィールは魔術論文に夢中で見向きもしない。

 

 

「ん……、もう決まったの?」

「フィール、アンタもさっさと決めなさい!」

「『殲滅戦』で」

「うわ即答……」

 

 

 カッシュが呟くが即答過ぎて笑えてしまう。

 こうスパッと決められるのは才能か自信か羨ましい限りだ。

 

 

「無駄だよ、二人とも。例年通り他のクラスは成績上位者達で全種目を固めてるんだ。最初から負ける戦いをしたくないのさ」

「でも、せっかくの機会なのよ?」

「おまけに、今回の魔術競技祭にはあの女王陛下がここまでお越しになられるんだ。みんな、陛下の前では恥を晒したくないんだよ」

 

 

 ギイブルの口は悪いが今のクラスメイト達の心情を的確に突いておりクラスメイト達の視線はさらに下がる。

 

 

「それよりも、早く全競技を君や僕、フィール=ウォルフォレンみたいな成績上位者達で固めるべきだ。そんなんじゃ、ハーレイ先生率いる一組には絶対に勝てないよ?」

「勝ち負けが全てじゃないでしょ?!」

「いいや、全てさ。魔術の技比べが滅多にできないこの学院において、誰が優秀か明白にできる数少ない機会が魔術競技祭なんだ。それに、当日は魔導官僚や帝国軍からの来賓がいらっしゃる、その絶好のアピールの機会を僕ら成績上位者が多く貰えるのは当然の権利だと思うだろ?」

「貴方……それ本気で言ってる……?」

 

 

 システィーナは怒りを露わにしながらギイブルを睨みつける。しかし、ギイブルはそれを無視して弁論を続ける。

 

 

「それに、今回の優勝クラスには女王陛下から直々に勲章を賜る栄誉が与えられるんだ、これがどれほどの価値か君も分かるだろう? だからこのクラスのためにも成績上位者達で固めるんだ!」

「ギイブル……そろそろいい加減に……!」

 

 

 システィーナの我慢も限界だった。今この瞬間の空気が最悪になろうともギイブルに物を申したいと怒声を上げようとした時、廊下から駆け足のような音が迫って来たと思った瞬間、ばぁん! と教室の扉が勢いよく開かれた。

 

 

「話は聞いたぞ! このグレン=レーダス大先生にここは任せろ!」

 

 

 クラスの皆が目を向けると、人差し指を前に突き出し、不自然なほど胸をそらして、全身を捻り、流し目で見得を切るという謎めいたポーズをしたグレンがいた。

 

 

「…………ややこしいのが来た」

 

 

 呆然とするクラスメイトの中でシスティーナは頭を抱えた。

 

 

「喧嘩は止めるんだ、お前達。争いは何も生まない。それに─────」

 

 

 きらきら輝くような爽やかな笑みを浮かべて続ける。

 

 

「俺達は優勝という目標を目指して共に戦う仲間じゃないか」

「グレン先生、失礼かもしれませんがキモいですよ」

 

 

 クラス全員を代表するようにフィールが言った。

 即興改変した盗聴魔術で盗み聞きしていたのだが、フィールはうわぁと苦虫を噛み潰したようような顔でグレン先生を見ていた。

 

 

「おい黒猫、キモいとはなんだキモいとは、減点するぞ」

「ギャンブルでスッたから特別褒賞狙いで来たんでしょ?」

「……何で知ってんの?」

「さっき学長室から轟音がしたから聴覚強化の魔術で聴いてました」

「何という才能の無駄遣い!」

 

 

 名付けるなら【ポイント・ヒアー】って所かな? 

 いよいよグレン先生も苦笑とバレた事でクラス一同からの冷たい目が突き刺さる。オーバーキルもいい所だ。

 

 

「えっと……フィールは殲滅戦か」

「殲滅戦も得意ではありますし」

「じゃあ決勝戦だな」

「鬼ですか」

 

 

 話聞いてなかったのかこの人? 

 まあ構わないけど……、実を言えば殲滅戦は午前で終わるから後が楽だし、午前で全部終わらせたら午後は自由に少しだけ祭りを楽しもうと言う事だった。まあ決勝戦でもどの競技でも問題はないのだけれど。

 

 

「まあ嘘だ。殲滅戦はお前以外に向いてないし」

「じゃあそれで」

「黒猫が一番オールマイティだったから決めるの時間かかりそうだったが、案外簡単に決まったな。まず一番配点の高い『決闘戦』は白猫、ギイブル、そしてカッシュだ」

 

 

 競技祭の『決闘戦』は三体三の団体戦で実際の魔術戦を行う。目玉競技であり、各クラス最強の三人を選出するのが定石だ。成績順で選ぶならばフィール、システィーナ、ギイブルだ。しかし、指名されたのはカッシュであり、カッシュ自身もこの人選に戸惑っている。

 

 

「んで次は……『暗号早解き』はウェンディしかいないな。『飛行競争』は……ロッドとカイで。『精神防御』はルミアしかありえねえな。えっと、それから……」

 

 

 次々とメンバーが発表されていく。そして、この人選には使いまわされてる生徒は一人もおらず、グレンはクラス全員を出場させるつもりだと気づく。グレンの意図が読めずにクラス全員は困惑している。

 

 

「『変身』は、リン頼む。あとは……」

 

 

 ズバズバと決めていくグレン先生。フィールは変身についてはリンが少し自信がないから後で教典を貸そうと考えていた。リンの変身能力はクラスでは上位に入るし。

 

 

「よーし、その枠以外はとりあえず出場枠は全部埋まったな! 何か質問あるか?」

「納得いたしませんわ! フィールさんが居ないなら何で私は『決闘戦』の選抜から漏れていますの?!」

「あー、それなんだがな? お前、確かに呪文の数も魔術知識とかも凄えけど、ちょっとドジだからなぁ。たまに呪文噛むし」

「なっ……!?」

「だから、使える呪文は少ねえけど運動能力と状況判断の良いカッシュの方がお前よりも強いと判断した。気を悪くしたならすまん、だけどお前の【リード・ランゲージ】の腕前なら『暗号早解き』はお前の独壇場だろ? ここは任せたぞ」

「そ、そういうことでしたら……仕方ありませんわね……!」

 

 

 まあ、ウェンディは鈍臭いところがあるから仕方ない。

【ショックボルト】や術式が少なくとも勘がいいカッシュの方が実践的ではある。カッシュについては後で少し戦い方を教えておこう。

 

 

「……いい加減にしてくれませんかね? 先生」

 

 

 ギイブルは苛立ちを隠さず、そのまま成績上位者での編成を吐き捨てるように進言する。まあ確かに余裕があるフィールやシスティーナ、ギイブルは何回か使い回した方がいいだろう。

 それを聞いたグレンは編成を考え直そうとしたが──―

 

 

「ちょっと! 折角先生が考えてくれた編成にケチを付ける気!?」

「(ちょ──―)」

「皆が活躍できるよう、先生がここまで考えてくれたのに、いつまで情けない理由で尻込みするの!?」

「(頼むから余計なこと……)」

「先生はこのクラスを優勝に導いてやるって言ってくれたわ! 戦う理由はアレだけどそれは皆でやるからこそ意味があるのよ! ──―ですよね!?」

「お、おう……」

「た、確かに……」

「あぁ……システィーナの言うとおりだ……」

「やれやれ、好きにすればいいさ」

 

 

 システィーナの反抗と純粋な想いと朗らかな笑顔によって、全員参加の編成に決定した。噛み合わない事を途中から気づいたフィールは若干苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後…………

 

 

「給料三ヶ月分だ! 俺のクラスが優勝するのに給料三ヶ月分を賭ける!」

「貴様……正気か?! ええいならば私も給料三ヶ月分だ!!」

「(もうなるようになればいいや……このお馬鹿さん達)」

 

 

 フィールはため息をついて下らない争いの賭け事に付き合わされる事となる。未来でも偶にロクデナシと聞かされていたが、まさかこれ程とはと少しだけ呆れていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 昼休み、シロッテの枝を口に含みながらベンチで黄昏ているグレンにフィールは苦笑しながらも、近づいていく。

 

 

「グレン先生」

「あっ? どうした黒猫」

 

 

 フィールはバスケットを一つグレンに渡す。

 その中に入っていたのはお手製のサンドイッチだ。グレンは震える手でフィールから渡されたバスケットを手に持つ。グレンはバスケットを爆弾物を扱うかの様に慎重にベンチに置き、膝を降り頭を地面へとつける。土下座である。

 

 

「この前のお礼と、純粋に感謝の気持ちです。セラ先生も作ったので良かったらどうぞ」

「ありがとうございます女神様!」

「お礼はセラ先生にも言ってくださいね」

 

 

 これくらいなら構わないよね。

 ほんの少しの関わるくらいなら、未来を変える為にここに来た以上、思い出は些細な物でいい。私はそれだけで充分なのだから。

 

 この後、セラ先生が来たのを見計らってフィールは退散し、セラ先生がグレン先生の所に来て一緒にご飯を食べている所を屋上から眺めながら、フィールはサンドイッチを口にした。

 


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