バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 深夜テンションだぜヒャッハー!(白目)
『エクソダス』さんのエルレイちゃんが可愛かったので『ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ』も是非見てね!

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 ありがとうございました!

 良かったら感想、評価よろしくお願いします!!では行こう!!




第7話

 あまりの訳の分からなさにルミアは状況が飲み込めていない。フィールもあまりの現実離れした状況に少し頭が追いついていなかった。国家反逆罪の濡れ衣を着せられて、裁判も無しに即刻処刑だ。特例どころの問題じゃない。

 

 

「証拠は挙がっている。抵抗せず罪を認め刑に服することを勧める。さすれば我らとて苦痛を与えずに貴殿の命を絶つことを約束しよう」

「証拠? だったらその証拠とやらを見せてください」

「罪人である貴様らに証拠の開示義務は無い」

「……横暴って言葉知ってる?」

 

 

 弁明の余地すらない。どうやら、何か焦ってでも()()()()()()()()()()()()()()のだ。この状況がおかしい。わざわざ虚偽で女王陛下の勅命なんて持ち出してまで私達を殺そうとする理由。

 

 とは言え魔術を使おうとすれば首を掻き切られる。ため息を吐いて両手を上げる。

 

 

「はいはい。分かりました。とりあえず場所を変えましょう。ここだと路上が血の染みになるので、せめて木陰で受けましょう」

「フィールさん……!?」

「ルミア、両手を上げて。それが()()()だから」

「……いいだろう」

 

 フィールとルミアは拘束されながらも木陰へと移動した。

 

 

「ここに立て」

 

 そう言ってルミアとフィールは先程から少し離れた木の下に連れてこられた。手を縄で縛られ、四方から剣を突きつけられて身動きすら取れない。

 

 

「体の力を抜いて動かないことだ。そうすれば苦しまずに済む」

「…………はい」

 

 

 ルミアは深呼吸をして目を瞑る。いつかこのように自分が死ぬことを覚悟はしていた。しかし、覚悟はしていたがシスティーナやグレン先生と過ごす日々を思い出すとどうしようもなく悲しかった。

 

 

「最後に一つ、遺言をいいですか?」

「許可する」

「ありがとうございます。じゃあ一つだけ––––」

 

 

 フィールは諦めた表情を作りながら、縄に縛られたままと言う絶対的不利から起死回生の一手を打った。

 

 

「《どう考えても・それ・虚偽だろコラ》」

「なっ–––! ぐああぁぁぁ!?」

 

 

 黒魔改【ストーム・スタンプ】を即興改変し、風の衝撃波が周りの兵士全てを吹き飛ばす。縄で縛られた状態で抵抗するとは思わなかったようで、意表を突く事に成功した。

 

 

「実戦経験が足りてないですね。魔術耐性の鎧じゃ物理的な風圧や光は防げないんですよ」

「フィールさん……!?」

「ぐっ……貴様ら!? 我々に手を出す事は–––がっ!?」

「知るかって話です。ごめんなさい」

 

 

 起き上がった兵士を蹴飛ばした。

 フィールは改造した学院のローブから、例の3節以下の魔術を無効化するナイフを取り出して縄を切る。その瞬間、手首を少し切ってしまったが、大した出血じゃない。わざわざ隙を作るのに降伏を演じたはいいが、予想以上に隙を作るのに時間がかかった。

 

 

「いたぞぉぉぉぉ! 見ろ! 同志達が殺られている! あいつらを逃すなぁぁぁぁ!」

「いや、殺ってませんよ!?ッと…ルミア逃げるよ!アイツら問答無用で私達殺しに来てる!!」

「は、はい!!」

「《駆けろ》!」

 

 

 ルミアはフィールに掴まって、フィールは【疾風脚(シュトロム)】を起動させてルミアを抱えて柵を越え、街へと逃げる。王室親衛隊との命がけの鬼ごっこが始まった。笑えない冗談だと呟きながらも、フィール達は地の利があるため裏路地を使いながら巧みに逃げ切る。しかし、どこから兵士が来るかは分からないため警戒だけは怠らない。

 

 

「どうするルミア? 私達、国家反逆罪だって。私と駆け落ちする?」

「こんな時にふざけてる場合じゃないよ!?」

「まあ冗談だよ。とは言え、王室親衛隊は私達を殺したがってる。いや、正確にはそうせざる得ない状況に陥っていると言うべきかもね」

 

 

 どうにも王室親衛隊が暴走している。理由として考えるなら3つ。

 

 ① ルミアが異能力であるのが親衛隊に明かされ女王の名誉を守らんと行動し、その末の暴走し、ついでに異端者であるフィールを殺そうとする可能性。

 ② 私とルミアが暗殺計画という国家反逆罪をデマとして流し、焦った親衛隊が殺そうとした可能性。

 ③ 女王陛下が何者かに人質に取られている可能性。

 

 

「①、②は不敬罪起こしてまでする事じゃないし……理由に無理があるしね……」

「じゃあ、③のお母さんが人質に取られている……が」

「現実的に考えてそれしかない……っああ!」

 

 

 よくよく考えれば解決手段あるじゃないか。

 フィールの腕に蒼い宝石のついたブレスレットを見る。確かセリカ伯母さんが……

 

『もし緊急時、何があったらこれで連絡しろ。無理だと思ったら大人を頼れ』

 

 と言って渡してくれた連絡用のブレスレットを渡されていた。確かセリカ伯母さんは女王陛下の近くに居たはずだ。連絡すれば、直ぐに解決出来る筈だ。フィールは魔力を込めて通信を始める。

 

 

『……フィールか』

 

 

 宝石越しにセリカが応じた。

 良かった、通信阻害の魔術でもされていたら大変だったが、その様子はない。

 

 

「セリカさん! 王室親衛隊が暴走して、私達を狙ってきました。女王陛下の勅命であるかどうか確認してもらえますか?」

『…………』

 

 

 何故かセリカさんは無言だった。

 その沈黙にフィールは疑問を抱きながらも、首を傾げる。

 

 

「……セリカさん?」

『すまないフィール。私は何もできない』

「──っ⁉︎」

 

 

 即座に返ってきたのは、感情の読めない突き放つような言葉だった。訳が分からない。セリカ伯母さんが何も出来ない? 

 

 

「……どう言う事ですか? まだ何も──」

『すまない。私は何も言えない。フィール』

 

 

 その意味が分からないのか、フィールは再度質問しようとするが、セリカは言い直して再び同じ事を告げる。

 

 

『もう一度言うぞ、フィールいいか? 私は()()()()()()()()()()()()()()()()

「──ッ⁉︎」

 

 

 フィールはようやくセリカの様子が、どこかおかしいことに気付いた。どうやらこの一連の事態は、フィールの予想以上に一筋縄じゃいかないものだったらしい。セリカが動けない以上、必ず何かがある。

 

 

「……セリカさん。答えられることだけ答えてください。貴女は私達が置かれているこの状況を知っていますか?」

『……大体、知っている』

「知ってて何もできない、と?」

『ああ』

「女王陛下と一緒にいますか?」

『……ああ』

「何が起きたんですか? どうして王室親衛隊の連中が暴走しているのか説明出来ますか?」

『…………』

「なぜ、女王陛下は表向きルミアと私を討つ勅命を下したことになってるか説明出来ますか?」

『…………』

 

 

 どうやら最後の二つは()()()()らしい。

 一体、どんな状況なのか。何が起きたというのか。セリカさんは大陸屈指の第七階梯(セプテンバ)の魔術師なのだ。そのセリカさんにこれほどまでの制約をどうやって課したというのか。

 

 

「じゃあ最後に一つ、状況を覆せるのは()()()()()()()()()ですか?」

『……! ああ』

「……分かりました。これ以上は危険ですね。切ります」

『……すまないフィール』

「後は任せてください」

 

 

 フィールへ通信を切る。

 確信した。女王陛下が人質に取られている。それも魔術関連、となると呪殺具(カース)でも持たされたのだろう。

 

 

「やっぱり女王陛下が人質に取られてるね。多分、呪殺具(カース)で解呪条件は『私達の殺害』、発動条件は『一定時間の経過』、『第三者に報告』、『勝手に外そうとした場合』かな……」

「お母さんが……危ない……」

「つまりは女王陛下の下で【愚者の世界】を使わないと無理って訳ね。先生に協力を仰ぎたいけど、こればっかりは私の役割かな」

 

 

 と言うか中途半端に巻き込みたくない。

『双紫電』ゼーロスが陛下の隣に居るのに、接近戦に長けた先生達でも無理だろう。因みに私も勝てる気しない。今の私では、剣技で追い縋る事すら出来ないだろう。昔は剣の姫エリエーテに殺されない程度の剣技で追い縋っていたのに、鈍って絶対に勝てる気がしない。

 

 出来れば何も知らないまま事件を終わらせたいが……

 

 

「……っ!? 誰だ!」

「安心しろ、敵ではない」

「…………誰?」

 

 

 二人組の男女の内一人の男性とその同僚と思われる少女。だが、少女を見た瞬間、フィールは殺気立って、ナイフを構えた。

 

 

「(っっ!? Project:Revive lifeの量産兵!? 何でこんな所に!?)」

 

 

 アレは未来で『天の智慧研究会』が生み出した『Project:Revive life』によって生み出された人造人間。最終的には研究者全員をぶち殺し、資料を漁ったのだがシオンとイルシアの研究データから、それをライネルと言う男が利用して『天の智慧研究会』の兵力増大に貢献されていた感情なき殺人兵器。更に言えば【愚者の世界】を使うフィールにとって天敵だ。魔術戦ならまだしも接近戦は勝ち目が薄い。

 

 

「危害を加えるつもりはない」

「……なら、その子の大剣下ろしてくれますか?」

「ん、分かった」

 

 

 その少女は大剣を地面に置いた。

 確か『Project:Revive life』の唯一の成功例であるオリジナルは感情を持つため不完全と言われていたが……この少女がオリジナルなのだろう。

 

 

「場所を変える。ついてこい」

 

 

 フィールとルミアは青年達と共に路地裏の奥へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自己紹介が遅れたな。俺はアルベルト、帝国宮廷魔導師団特務分室所属《星》として活動している。此方は同じく《戦車》のリィエル」

「私はフィール=ウォルフォレン、此方はルミア=ティンジェルです。まあ2人とも異能者に近いものだと考えてください」

「『時渡り』の少女か」

 

 

 それを口にしたアルベルトをフィールは睨む。

 案の定『時渡り』がバレている以上、帝国宮廷魔導師団にはある程度情報を手に入れているのだろう。だが、それをグレン先生達に知られる訳にはいかない。

 

 

「それ絶対他人に口外しないでください。アルベルトさん、今回の件はご存知──」

「それについては俺たちも承知している。そして情報を加えるならば、今回の件は女王陛下の意思によるものではない」

「……ってことは、つまり」

「ああ。王室親衛隊……おそらくはその総隊長、ゼーロスの独断によるものだろう」

 

 

 王室親衛隊総隊長ゼーロス。

 40年前の奉神戦争において、その名を馳せた英雄。

 二刀細剣の達人であり、かつて執行者ナンバー8《剛毅》であった頃のバーナードと共に、敵国の将兵たちを震え上がらせた猛者だ。

 

 彼を一言で表わすのなら『忠義者』であり、その言葉通り彼の王室に対する忠誠心は生半可なものではなく、ある意味では狂気的とさえ見る者もいるだろう。

 

 

「そこのルミア嬢が噂の『廃棄王女』だとするのなら、それをどこかで聞きつけた親衛隊が女王の名誉を守らんと行動し、その末の暴走であると思えなくもない」

「それは無理があります。例えそうだとするならと不敬罪を犯してまでこんなことをしようとは思わないし、私も殺害対象になってますし」

「と言う事はつまり」

「『天の智慧研究会』が女王陛下を人質に取っているんでしょう」

 

 

 ルミアだけでなく私も殺害対象なのは『天の智慧研究会』が私を狙っているからだ。『時渡り』の実態は未だ解明されていない魔術を超えた()()の理論だ。フィールが3年かけて作り上げたあの術式は描く事と膨大な魔力、それを発動する鍵さえ有れば理論的に可能なものだ。連中はそれを欲している。

 

 

「とりあえず突破口は私です。女王陛下の近くまで行ければ事件は解決出来ます」

「その理由と根拠は何だ?」

「根拠はセリカ・アルフォネアの助言だからです。彼女は何故か動けませんが、あの人が状況を覆せるのは私とグレン先生だけって言ってました」

「グレン?」

「理由は多分……とりあえずコレで納得してください」

 

 

 フィールはポケットから『愚者のアルカナ』を取り出した。それを見たアルベルトやルミア、リィエルが目を見開く。【愚者の世界】を使えるのはグレン=レーダスを置いて他にいない。

 

 

「それを使えるのか?」

「はい。多分女王陛下に呪殺具を持たされてます。私なら起動を封殺出来ます。グレン先生と私にしか出来ないとはそう言う意味なんでしょう」

「……フィール=ウォルフォレン、何故貴様がそれを持つ? 何故それを起動出来る?」

「……今は言えません。けど、いつか必ず話します。グレン先生達にも、アルベルトさん達にも」

 

 

 未来の事はまだ話せない。この人は帝国宮廷魔導師団だ。上層部にはイグナイト家の魔術師、イヴ・イグナイトが居る。あの人に知られれば後々厄介になる為、今は話す事が出来ない。

 

 

「……いいだろう。しかしどうする? 女王陛下の近くまでたどり着くには、王室親衛隊を潜り抜けて競技祭に戻らねばならない」

「私、状況を打破する作戦を考えた」

「…………一応聞いてやる」

 

 

 渋い顔でアルベルトが聞こうとする。王族親衛隊の包囲網を突破して女王陛下の元にたどり着く為の作戦をリィエルが語った。

 

 

「まず最初に私が敵に正面から突っ込む。次にフィールが敵に正面から突っ込む。……そしてアルベルトが狙撃する。……どう?」

「…………」

「……苦労してるんですね」

「全くだ」

 

 

 僅かにフィールは同情の目をアルベルトに向けた。

 そんな脳筋な考え、無理に決まってるだろと誰か言ってほしかった。いや、オリジナルとは言えまだ子供だ。期待した私が馬鹿だった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 一方、グレン達はルミア達が戻るのを待っていたが、いつまで経っても戻って来ない。探しに行こうとしたが、この後の競技のアドバイスがある為、仕方なく生徒達の方を優先した。

 

 

「黒猫とルミア遅ぇな」

「何があったのかな? 私探しに行ってくる」

「その必要は無い」

 

 

 競技場の中の生徒達の前に長身の青年と小柄な少女が入ってきた。グレンとセラは驚愕した。2人の元同僚であるアルベルトとリィエルがこの場所に入ってきたのだから。

 

 

「なっ……アルベルト!? それにリィエルまで……! お前ら何でこんな所に!?」

「あの……一体どちら様ですか?」

「グレンの昔の友人のアルベルトだ。この隣の女はリィエル。魔術競技祭の後、旧交を温めようとグレンに招待された」

「ちょっ、お前何言ってんの!?」

「アルベルト君にリィエルちゃん? どうしてこんな所……」

「セラ、話は後だ。一先ず納得してくれ」

 

 

 その言葉を聞いて二組の生徒達は顔を見合わせる。動揺の色が隠せないでいる。しかし、アルベルトは淡々と生徒達に告げる。

 

 

「なに、俺はただ見ているだけだ。細かい指示は担任であるグレンに聞くといい」

「一体何のつもりだアルベルト? 外で何があった?」

「それは此処で話す事ではない。場所を変えるぞ」

「あっ、私も……!」

「私も行きます!」

 

 

 グレンとアルベルト、リィエルは場を外し、セラとシスティーナはそれを追いかけた。生徒達の前で話せば混乱を招く。フィールとルミアがこの場所に居るとバレたら王室親衛隊が直ぐにも抹殺しに来るので、とりあえず場所を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルベルト、一体何なんだ突然。外で何があった?」

「王室親衛隊の暴走で私とルミアが狙われたんですよ。グレン先生」

「なっ……!? お前!」

「フィーむぐっ!?」

「名前は出すな。今はアルベルトに変わっている。呼びたいなら黒猫と呼べ」

「お前、演技上手すぎだろ」

 

 

 役者として食っていけるんじゃ、と下らない事を考えてるグレン。セラが名前を言い掛けるのを、右手で押さえて止める。フィール=ウォルフォレンがこの場所にいるとバレた瞬間、王室親衛隊が殺到する。

 

 

「じゃあ黒猫、王室親衛隊の暴走って何だ?」

「ルミアとフィールが異能者である事がバレている。それにより王室親衛隊は暴走、一連の事件の首謀者は『双紫電』ゼーロスだ」

「!」

「2組には何が何でも優勝して貰わねばならん。女王陛下の謁見の機会に俺とリィエルが変身を解く。そうすれば女王陛下自らがゼーロスを断罪するだろう」

「……成る程、そう言う事か。アルベルトとリィエルは大方、お前らと入れ替わってるな?」

 

 

 そう、今外で逃げ回っているのはフィールとルミアに【セルフ・イリュージョン】で変装したアルベルトとリィエルだ。ちょっと命がけの鬼ごっこしている所だろう。

 

 

「ああ、これは伝言だが『いつか軍を離れた理由を言え』と『グレン、いつか必ず決着を着ける』だ」

「いいっ!? まだ諦めてなかったのかよ……リィエルの奴……」

「宿命だと思え。謁見には俺達が出る。異論はないな?」

「ああ、分かった」

「ねぇフィ……黒猫さん。貴女本当はアルベルトさんって人なんじゃ……」

「演技だと言った筈だ。システィーナ=フィーベル」

「大丈夫だよシスティ、必ずこんな事件止めてみせるから」

 

 

 アルベルトのフリをしているとは言えグレンやセラ、システィーナでさえ本人に思えてしまう。フィールの面影が全く見えない完璧な演技にグレン達はやや苦笑していた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 『変身』の競技ではリンが【セルフ・イリュージョン】で時の女神、ラ=ティリカに変身する事で最高得点を叩き出し、結界の陣取り競技『グランツィア』は条件起動型の結界で【サイレント・フィールド・カウンター】で逆転する事で競技は順調に進んでいきついに決勝戦。

 

 一組対二組の正真正銘の決勝戦、勝った方が優勝というドラマの様な展開となった。先鋒のカッシュは地力の差はあったものの持ち前の身体能力と我慢強さで持久戦に持ち込んだが一組のエナが唱えた【痹霧陣】によってカッシュは行動不能となり惜敗。

 

 続く中堅戦も持久戦となった。最初は互角だった二人だが一組クライスの方に疲れが見え始めその隙を見逃さなかったギイブルの【コール・エレメンタル】によって召喚されたアース・エレメンタルがクライスを拘束し投了を宣言しギイブルの勝利となり勝負は大将戦へともつれ込んだ。

 

 そして……

 

 

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》!」

「な、何だ! この呪文はッ?!」

 

 

 システィーナの改変呪文【ストーム・ウォール】がハインケルが体勢を崩し、その隙にシスティーナ渾身の【ゲイル・ブロウ】が炸裂する。

 

 

「そこっ! 《大いなる風よ》!」

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

 

 

 システィーナ渾身の【ストーム・ウォール】と【ゲイル・ブロウ】の突風によりハインケルの身体を場外へと弾き飛ばした。そして、一瞬静寂が訪れたと思うと次の瞬間には割れんばかりの大歓声が巻き起こった。

 

 全員の力で優勝した二組の生徒たちはシスティーナが勝った瞬間観客席から飛び出しシスティーナを胴上げし始めた。その中にはグレン先生やセラも混ざっており目元にはうれし泣きなのか涙も浮かんでいた。ハーレイ先生に至っては信じられないばかりに泡を吹いて気絶している。

 

 

 魔術競技祭閉会式は例年通り粛々と進んだ。過去に類を見ない大番狂わせの余韻で生徒達が騒がしい点と、来賓席に女王陛下がいることを除けば今までと変わりない閉会式である。

 

 ただし極一部の人間にとってはこの後の展開に命運が掛かる緊張の時間である。

 

 国歌斉唱やら来賓の祝辞、結果発表が恙無く終わり、いよいよ迎える勲章の下賜。王室親衛隊隊長と学院が誇る第七階梯(セプテンバ)魔術師を伴い、アリシア女王陛下が表彰台に立つ。今この時、これ以上になく強力な護衛に守られた女王陛下を害せる存在はそうそういないだろう。

 

 司会進行が指示をし、二組の代表者と担当講師が前へ出る。合わせて拍手喝采が上がり、一部の生徒や講師陣から羨望の溜め息が洩れた。一生に一度とない名誉を賜るチャンス、羨ましくない者などいなかった。

 

 だが奇妙なことに二組より出てきたのは担当講師たるグレンやセラではなくアルベルト、代表者も生徒ではなくリィエルである。学院では何故グレン先生達ではなく、見慣れない顔の二人に生徒と講師は困惑の声を上げ、二人を見知っているアリシアは戸惑いに首を傾げた。

 

 

「この馬鹿騒ぎはもうお終いにしましょう」

「何!?」

 

 

 妙な空気が蔓延する中、アルベルトとリィエルの姿がぐにゃりと歪む。蜃気楼に包まれたかのように輪郭があやふやになった後、そこに立っていたのは真剣な眼差しのフィールと緊張の面持ちでアリシアを見つめるルミアだった。

 

 

「なっ!? どういうことだ、フィール殿とルミア殿は今、町中にいるはずでは──!?」

 

 

 王室親衛隊からの報告でフィール達は未だ町中を逃走中と聞いていたゼーロスは、突如として目の前に現れた二人に驚きを隠せない。それは学院の生徒と講師、そしてアリシアも同様だ。唯一事の次第を把握していたセリカだけが面白そうに笑っている。

 

 

「どういうことも何も。2人と入れ替わったんですよ。セリカさん、お願いします──」

「《すっこんでろ》」

 

 

 冷静にフィールが目配せをすると、セリカが魔術を行使する。

 

 無数の光が地面を駆け抜け、表彰台を中心に結界が張られる。音すら中で何が起きるのかも遮断する断絶結界だ。これで邪魔者は一切介入できないし、外の人間に内部の会話が洩れ聞こえることもない。

 

 応援として駆けつけようとした衛士達を阻む結界を忌々しげに睨み、ゼーロスが怒りに吠える。

 

 

「此の期に及んで裏切るのか、貴様!?」

「…………」

 

 

 凄まじい剣幕で喰いかかられてもセリカは応じない。只管に沈黙を続ける。まるでそうしなければならないかのように。

 

 

「大丈夫ですゼーロスさん。私は()()知ってます」

「っっ!!」

「僭越ながら陛下、その首飾り、よくお似合いですね。綺麗ですよ」

 

 

 これはルミアが気づいた事だ。

 女王陛下が何よりも大切にしているはずのロケット・ペンダントの代わりに首元で輝く翠緑の宝石があしらわれたネックレス。恐らくそれが呪殺具だとフィールは理解していた

 

 フィールの唐突な賛辞にアリシアとゼーロスが目を瞠る。だがそれもすぐに嬉しそうな微笑みと苦虫を噛み潰したような顔に変化した。

 

 

「ええ、そうでしょう? 私の()()()()()()()()です」

 

 

 朗らかに、弾むような声音で答えるアリシア。アリシアが本当は娘を溺愛し、娘達と共に写った写真を入れたロケットを何よりも大切にしていることを知っていたフィールは、ここで確信を得た。

 

 

「了解です陛下。コレに誓って陛下をお助けします。ゼーロスさん、剣を退いてください」

「余計な事をするな!」

 

 

 フィールは右手に『愚者のアルカナ』を取り出し、アリシア陛下に見せる。だがゼーロスにはその意味が通じなかったようで細剣(レイピア)を鞘から二本抜く。

 

 

「っっ! 頭のお堅い騎士が……! 退けば全て解決出来るってのに……!」

「ならぬ! 陛下の為、私が直々に引導を渡してやろう!!」

 

 

 予想はしていたが、可能性は低いと思っていた。

【愚者の世界】を起動させるにはあと数歩は前に行かなければならない。そしてその先にいるのは……

 

 

「(問題はその一歩が途轍もなくヤバいと言う事……)」

 

 

 その数歩で立ち塞がるのが『双紫電』ゼーロスだ。戦えば絶対に負ける為、戦闘は避けるつもりだったのだが……

 

 

「(……万が一の為に()()()()()()()()()()とは言え、上手く作動する前に私が殺されたらルミアも私も終わる。保険頼りの戦闘なんて杜撰な賭けだけど……)」

 

 

 フィールは右手にナイフを構えてゼーロスの前に立つ。上手く間合いに入ろうとしても、踏み込んだ瞬間死のイメージが頭をよぎる。失敗すれば全て終わり、成功すれば全て解決。この大博打にフィールは足を踏み入れる

 

 

「……やるしかない! 《我が力の全てよ》!」

 

 

 フィールは白魔【フィジカル・ブースト】をかけてゼーロスの間合いに踏み込んだ。ゼーロスの間合いから放たれる一撃、二撃––––

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 フィールは一撃目を反応し、ナイフで逸らす。だが逸らし切れずに頬を切り裂き、ナイフも弾かれた。二撃目に放たれた細剣(レイピア)の一閃はフィールの身体の中心を深々と貫いた。

 

 

「がっ……!」

「フィールさぁん!!!!」

「終わりだ! フィール=ウォルフォ––––っっ!?」

 

 

 そこから心臓部を切り裂こうとしたゼーロスの()()()()()()()()()。フィールの最大の賭けは成功した。この間合いに踏み込んだ以上、一定効果領域内にアリシア陛下は居る。

 

 

「っっぅ!! 陛下! 今です!!」

「何を……! 陛下っ!?」

 

 

 フィールは細剣(レイピア)で貫かれたまま、【愚者の世界】を発動した。そしてフィールの合図と共に陛下の胸元に飾られていた首飾りは外され、投げ捨てられた。

 

 

「陛下っ! 何を……!?」

「ぐっ……! かはっ……!」

「フィールさん! 大丈夫ですか!? 今回復魔術を……!」

「大丈夫ですよゼーロス、全て終わりました」

 

 

 動けないゼーロスにアリシア陛下は告げる。

 フィールは胸元から抜いた細剣(レイピア)の一撃に血が流れ、吐血している。傷が深過ぎる為、【ライフ・アップ】では治す事が出来ない。ルミアは泣きながらどうすればいいか考えると、ルミアの肩に手が置かれる。

 

 

「大丈夫だ。《全ての傷よ・我が元に復元・回帰せよ》」

 

 

 セリカがフィールに白魔儀【リヴァイヴァー】をかけると、フィールに深々と貫かれた胸元の傷は消え去っていた。苦しんでいたフィールは立ち上がり、胸元の傷を確認する。あの時、脳天や心臓部、首を狙われていたら即死だった

 

 

「っっ……三節で【リヴァイヴァー】とかやっぱり無茶苦茶ですね。セリカさん」

「全く、無茶をするな。だが良くやったフィール」

「グレン先生と私の共通のヒントが無かったら分からなかったよ。【リヴァイヴァー】も含めて、ありがとうセリカさん」

 

 

 フィールがゼーロスに【ディスペル・フォース】をかけて動けるようにした。保険頼りの戦闘なんて2度とやりたくない。

 

 

「何故身体が動かなかったのだ……?」

「ああ、服に魔術を仕込んでたんですよ。条件起動型の呪具(カース)として黒魔改【ブラッド・リガーレ】を使って、神経を一時的に封じて動けなくさせました。『貫かれた原因の人間』と言う条件起動でなんとかなりました」

 

 

 ただ黒魔改【ブラッド・リガーレ】は本来なら七節詠唱な為、実戦的ではない。起動する条件も相手の身体に触れていなければ発動しない。あの時、弾かれナイフを失った右手で触れていたから出来たのだが、結構乱暴な賭けだった。

 

 

「なら何故呪殺具は発動しなかったのだ。勝手に外せば……陛下は……」

「呪いも魔術に変わりない。【愚者の世界】に入ってしまえば封殺可能ですよ」

 

 

『愚者のアルカナ』を見せるとゼーロスは驚いた。

 ゼーロスは漸く思い出したようだ。その『愚者のアルカナ』にどう言う意味が含まれていたのか理解したようだ。

 

 

「『愚者のアルカナ』に魔術を封殺する固有魔術、貴殿は一体?」

「内緒です」

 

 

 軽く舌を出して子供のようにはぐらかすフィール。

 だが、ゼーロスは「そうか……」と納得したようで、胸元を貫いた事に頭を下げた。やっぱりこの人は騎士だ。深々と謝罪するゼーロスを許したフィールはルミアを見る。

 

 

「ルミア、いい加減、腹割って話しなさいな。 今だけ、この時だけしか伝えようとして伝えられない事だってあるんだから」

「でも……」

「私は……出来なかった。今の貴女にはそれが出来るんだから。ほら、行った行った」

 

 

 軽く押し出されたルミアは不安げな眼差しを女王陛下に向ける。アリシアはアリシアで愉しげなセリカに何やら耳打ちをされ、おずおずと一歩踏み出していた。

 

 無言で見つめ合う母と娘。両者共にどんな言葉を投げかければいいのか、どんな態度で応じればいいのか分からず戸惑っているらしい。側から見ている者にとっては焦ったい事この上ない沈黙だ。

 

 それもアリシアが迷いを振り切るように一歩踏み出し、ルミアを力一杯抱きしめたことで終わる。

 

 

「へ、陛下……」

「ありがとう、エルミアナ。貴女を捨てた私などを助けてくれて、ありがとう。こんな親を、もう一度お母さんと呼んでくれてありがとう……!」

「──っ! ぅぁ、お母さん……」

 

 

 ルミアは泣き出してアリシア陛下に抱きつく。いや、今はただのアリシアとルミアの再会だ。陛下とか関係なく、家族としてアリシアは抱き締めた。

 

 

「私、本当はずっとこうしたくて……!」

「ありがとう……ありがとうね……エルミアナ……!」

 

 

 ずっと胸の内に溜め込んでいた想いが爆発し、ポロポロと涙と共に零れ出す。親娘揃って、よく似た泣き顔だ。

 

 抱き合ったまま二人は互いに秘めてきた想いを吐露し合い、涙を流しながら久方振りの親娘の触れ合いを続ける。その光景をゼーロスは少し笑った様子で見て、フィールは疲れたのか競技場に座り込む。セリカはフィールに近づいて優しく笑っていた。

 

 

「フィール……本当に良くやったな」

「うん、此方こそありがとう。––––セリカ……伯母さん」

 

 

 セリカはフィールの頭を撫でる。

 少し恥ずかしいような顔をしながら、2人のハッピーエンドを優しく笑いながら見ていた。

 

 私はこの為に戦ったんだ、とフィールはしみじみと思いながら自分の胸元にしまっていたロケット・ペンダントを見ながら。少しだけ急所からズレたのは、此れのおかげだった。

 

 

「ありがとう。––––お母さん、お父さん」

 

 

 フィールは少し傷付いたロケットを握りしめて空を見上げていた。

 

 

 

 


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