バッドエンドの未来から来た二人の娘 作:アステカのキャスター
第9話
昨晩にアルベルトさんから依頼の連絡を受けていた。
タオルで髪を拭きながら、通信用魔導具の応答に答えた。制服越しに貫かれた部分は血がついていたのでセラより早く風呂に入っていた。
『……フィール、お前に依頼だ』
『私に依頼……大方改まってのルミアの護衛ですよね』
『ああ、アリシア陛下直々の依頼を此方で受ける事になった。内容はルミア王女の護衛だ。本来ならお前も護衛対象に含まれるがエルミアナ王女と一緒なら問題ないとの事だ』
『つまり私達は囮、発案者はイヴさんですね?』
『鋭いな。その通りだ、あの女狐め』
そうですか、と冷めた口調で返答する。
まあそんな感じだろうとは考えていた。宮廷魔導師団に入って間もない得体の知れない人間だ。使い方が分からない以上、それが適任だろう。
『しばらくの間、そちらにリィエルを送る。済まないが世話役を頼む』
『分かりました』
感情のないフィールの返答にアルベルトが質問する。
『フィール……お前は何とも思ってないのか?』
『……何がですか?』
『イヴの決定と、宮廷魔導師団所属について』
『イヴさんについては殺したいと思いましたよ。まあ宮廷魔導師団はどの道近い内に入るつもりだったのでタイミングだけは有り難かったです』
手を汚す事さえ構わないようなフィールの覚悟に通話越しにアルベルトは顔を顰める。その覚悟は15歳の少女達に押し付けていいものではない。今の宮廷魔導師団が人手が足りないのは分かっているが、情けないと思ったのも否定できない。
『……人殺しの碌でもない任務もある。本当に何も思わないのか?』
『心配してくれてるんですね。けど、別に構わないです。今の私には守りたいものがあるから……だから、いいんです』
『……そうか。健闘を祈る』
フィールの答えにアルベルトは少しだけ、後悔した。
まだ15歳でここまで少女達を追い込んだ外道魔術師達に少女達は死ぬ覚悟も手を汚す覚悟も持っていると言う事に。
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先月あった魔術競技祭が終わり、何事もなく日々を過ごしていたグレン達。だが、突然校内放送でグレンが名指しで呼ばれたのだ。グレンは呼び出されることに心当たりがあったのか冷や汗をダラダラと流しながら全速力で学院長室へと走って行った。
学院長はグレンに封筒を手渡した。開けるよう促されたので中身を確認する。その中身を見てグレンは驚きを隠せなかった。
「これって鷹の紋……? って……女王陛下公認の帝国政府公文書?! そ、それに設定されてる秘匿等級が高い…… え、ちょこれって帝国軍の人事異動に関する最重要機密文書じゃないっすか?!」
「うむ、今回その軍からこの学院に編入生が来る。そこにはグレン君の担当クラスに編入させる指示が書いてあるんじゃ」
その事から推理されることは一つ。ルミアやフィールの護衛として帝国軍から派遣されてくるといったことだ。彼女の秘密を知る者は少ないが帝国政府、しかも女王陛下公認となればルミアのことを知っておりなおかつ信頼できる者でなければ護衛は任されない。
おそらくだが、帝国宮廷魔道士から派遣されて来るはずだ。グレン自身も元帝国宮廷魔道士だったため彼らの強さは理解している。その中の一人が護衛として来てくれるなら非常に心強い。
「えっと内容は?」
「ルミアの護衛だ」
「ルミアの……あれ? 黒猫……フィールは?」
ルミアの護衛と言われれば分かる。だが、フィールに護衛が無いのはどう言う事だ。
「続きを読めば分かる。誰が入るのかもな」
セリカは口にした。
グレンの予想では護衛の一人はクリストフだと考えた。彼は防御に関する魔術ならば帝国軍の中で随一と言って良いほどの鉄壁を誇る。年代も違和感がないし、これ以上の適任はいないと思いながらグレンは持っていた書類を流し見する。
だが、護衛人の欄の名前を見るとクリストフとは書いておらずそこには書いていた内容は……
『ルミア=ティンジェルの身辺警護の任務をフィール=ウォルフォレンに一任する。更には、アルザーノ帝国魔術学院へと派遣されるリィエル=レイフォードの指示、連携、補佐を命ずる物とする』
「……はっ?」
グレンはその情報が飲み込めなかったのか、混乱し頭を抱えた。フィールにリィエルの現場監督を一任と書かれていたのだ。
「待て待て、リィエルは兎も角、黒猫に一任……ってどう言う事だよ!?」
「聞いていないのかグレン君? 今のフィールちゃんは帝国宮廷魔導師団特務分室所属の執行官として入隊する事になったと」
「なっ!? んな馬鹿な! 何で……!」
「特務分室室長直々のスカウトと聞かされておる」
「っっ! イヴの野郎!!」
グレンは学院長室から自分の教室まで走って行った。
イヴの策略だと分かった以上、フィールは帝国宮廷魔導師団に入ったのだろう。このままだとフィールは自分のようになってしまう事を恐れ、止める為に既に足が動いていた。
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今の時間はセラの授業、グレンは急遽学院長に呼ばれた為、副担任だったセラに授業を任せていたのだが、フィールは肘を突きながら眠たそうに授業を聞いていた。
そんな中で教室のドアがピシャリ! と強めの音を出して開く。軽く息切れするグレン先生にセラも生徒達も戸惑う。
「黒猫、話がある。セラ、授業中悪いがお前も来い」
「……えっ? う、うん」
「何ですか急に……今授業中ですよ? 先生–––」
「お前ら悪いが少し自習しててくれ、分からなければ後で俺が見てやる。黒猫、ちょっと来い」
「はい」
真剣な表情のグレンに全員が戸惑う。
フィールとセラはグレンの元へ行き、それを見たシスティーナとルミアがこっそり跡をつけて行き、話し合いを別の場所へと移す事になった。校舎裏まで連れてこられたフィールにグレンは壁ドンし、声を荒げて質問する。
「どう言う事だ黒猫! 何でお前が帝国宮廷魔導師団に所属してんだ!?」
「どうもこうも室長のスカウトですよ。何か問題でも?」
「今すぐ除隊しろ! 分かってんのか! 帝国宮廷魔導師団が何やってるのか!」
「外道魔術師の排除、殺害ですよね。それくらい知ってます」
「わかってんなら今すぐそんなとこ除隊しろ! 俺からもイヴに言って──―」
「断ります」
グレンの言葉にただ冷たく返答をしたフィール。
グレンはその事に目を見開き、フィールは口を開く。
「宮廷魔導師団ならある程度の外道魔術師の牽制程度にはなるし、どの道狙われる事に変わりありません。だったら宮廷魔導師団を頼って根本的な早期解決でもしなきゃ私もルミアも狙われ続ける。それが
「そうかもしれねえ…………だがな、あの女はセラを見殺しにしようとした女だぞ!? お前の事だって利用価値のある駒としか思ってねえはずだ! それに、自分の生徒を血塗られた闇の世界に行くのを黙って見過ごせれるか……!」
ため息をつくフィール。
だがそれではまるで昔の自分のようになってしまうとグレンは恐れていた。笑顔が消え、殺す事にしか意義のない地獄。フィールはグレンの激昂に靡く事もなく淡々と口にする。
「黙って駒になる程、私は間抜けじゃありませんよ。単純に学校に通う事にルミアの護衛が追加された程度です。別に問題じゃありませんよ」
「だが…………!」
「しつこいですグレン先生。これは私自身が決めた事です。魔術の闇から逃げた貴方はすっこんでいてください。ハッキリ言って邪魔です」
「っっ……!!」
冷たく突き放す言葉にセラやシスティーナ達は驚きを隠せない。まるで自分が知っているフィールとは別人のようだ。グレンは黙っていられずに自分の手袋をフィールに投げた。
「先生!?」
「決闘だ! 俺が勝ったら宮廷魔導師団から除隊しろ! お前が勝ったら俺はもう何も言わない。だから受けろ!」
「いいですよ。その決闘、受けましょう」
断る素振りも無く、フィールは手袋を拾った。
システィーナやルミアは止めに入るが、フィールは正論を返すだけだ。
「もう止めてよ2人共!? フィールも何かおかしいよ!」
「私は宮廷魔導師団に入るだけ、それを止めようとしたのはグレン先生。別におかしくはないでしょ?」
「だからって2人が戦う事ないじゃない!」
「邪魔しないでシスティーナ。どの道、こうなる事は分かってたから」
グレンはきっと心から私のことを心配してそう言ってくれているのだろう。普段はロクでなしな講師ではあるもその心は誰よりも熱く、優しい心を…………それこそ正義の味方としての正義感を持っているのぐらいフィールも理解できている。
何を言っても止まらない以上、戦うしかないのだ。
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場所は校庭のグラウンド。
生徒達全員が使っていない時間帯だ。授業を放り出して決闘をする必要は本来なら無いのだが、フィールが帝国宮廷魔導師団に所属してしまった以上グレンも黙っていられなかった。
「ルール方式は非殺傷系呪文によるサブスト。模擬剣や徒手空拳による近接格闘戦もあり、降参、気絶、致死性を持って術者の敗北を決める。それでいいですか?」
「ああ、問題ねぇ」
学生レベルでよくある模擬魔術戦のルールの説明にグレンは文句はなく神妙な顔で頷いて肯定する。サブスト・ルール下では非殺傷系の
判定はセラ先生にやってもらうようだ。システィーナやルミアはその決闘を見守る。
「では––––始め!!」
「《雷精》」
フィールが魔術を使う前にグレンは【愚者の世界】を使って魔術を封殺する。システィーナやセラはこの戦いに関しては接近戦で挑めるグレンの圧勝だと思っていた。幾ら魔術師として優秀なフィールでも魔術を封殺されてしまえば勝ち目がない。そう思っていた。
だが……グレンの帝国式軍用格闘術をフィールは容易く受け流し、グレンの腹にフィールの渾身の蹴りが当たった。
「ぐっ……!?」
「甘いですよ先生。魔術を封じた私には接近戦が出来ないと思ってたんですか?」
グレンの一撃一撃を受け流し、フィールにカウンターに投げ技まで食らわされるグレン。セラやシスティーナは信じられない顔をしていた。グレンは魔術師としては三流だが、実戦経験はフィールより遥かに上の筈だ。鈍っているとはいえ、生徒に遅れを取る筈ないのに。
「帝国式軍用格闘だとっ!? フィール、お前何処でそれを……!」
「秘密です。降参してください先生」
「するかよ! まだ決着は着いてねぇ!!」
グレンは諦めるつもりはない。
それは単純に自分が経験した道をフィールに行かせたくないのだろう。フィールにとってその優しさは嬉しかった。けど、それでは守れない。守れないし救えない。手を汚す覚悟も無ければ救いたいものも救いたくない。
「……仕方ない。私の
「やれるもんならやってみやがれ! 魔術を封殺した以上、格闘術じゃ決め手にならねぇぞ!」
「いいえ、貴方はもう私の領域の中です」
フィールの魔術は既に完成されている。
グレンがフィールの近くに踏み込んだ瞬間、フィールの前から紫電が飛び出してきた。黒魔【ショック・ボルト】が【愚者の世界】の起動中にも関わらずに魔術起動されている。それも詠唱の素振りすらなく。
「ぐっああああああ!?」
「次です。受け身取ってくださいね?」
黒魔【スタン・ボール】を
「がっ……! ぐっ……!?」
「先生!? 何で……先生は【愚者の世界】を……!」
「これが私の
「【女帝の世界】? でも魔術に変わりないんじゃ……?」
フィールの右手に持つ黒いブラックストーンを取り出す。ブラックストーンの中には緻密な魔方陣が透けて見える。それは自分の領域を確立する為に作られた3次元的魔術の支配領域の構築だ。
「私の
「なっ……!?」
グレンやセラが驚くがシスティーナやルミアにはよく分からない。『過程』と『結果』の逆転と言うのはどう言う意味かよく分からないからだ。だが、この
「……『結果』を導かれた状態ならその後に『過程』が動くなら!? ……要するに因果の逆転じゃねぇか!?」
「そうですね。グレン先生自身に魔術攻撃を当てた『結果』を生み出せたなら、過程の魔術は意味をなさない。『結果』になぞる事で『過程』が生まれるのなら、詠唱も必要無い」
「なっ……!? それ無茶苦茶よ! じゃあ仮に相手を殺した『結果』を生み出せば、過程として動く魔術はその『結果』になぞられて発動するって事でしょ!? それじゃあ防御なんて意味も無さないじゃない!?」
正確には自分が出来る範囲での『結果』の決定権を得る事だ。
どれだけ堅い結界だろうが、どれだけ堅い金属だろうが、『結果』では斬れているなら『過程』はそれに合わせて結果に辿り着くようになる為、どんな物も切断出来るし、どんな攻撃も躱す事が出来ない。
『結果』では既に攻撃を食らっているなら防御出来ないし、『結果』に沿って過程が動くなら過程の動きに干渉も出来ない。
【愚者の世界】はあくまで術者の発動を妨害するもの、未来に進めば既に発動されている術式には効果がない。フィールは単純に言えば、未来を自分のシナリオに書き換えたのだ。
「防ぎたければ万象全てを停止でもさせないと無理ですよ。【変化の停滞・停止】の【愚者の世界】でも起こり得る事象が未来に既に反映されてる以上、術式は既に発動されている。未来を決め、未来の通りに運命を動かす
「だが、それ制約がデカい筈だろ……!」
「そうですね。私じゃあこの領域の維持は3分が限界です。けど、3分もあれば充分です」
この【女帝の世界】は未来で《愚者》だった頃に編み出した絶殺の領域。自分が行使可能な事象に干渉し、魔術に必要な過程である詠唱を省略し、結果を導き出す。
生み出したきっかけがフィールにとって憎いが、イヴ・イグナイトの
『
女帝が決めた事は絶対に起こり得る独裁者の領域、あの最悪な未来から生き延びたフィールだからこそ出来る芸当だ。
「要するに領域にさえ入らなければいいだけだろ! 効果領域だけなら【愚者の世界】より遥かに狭いだろソレ!!」
「いいえ、領域なんてあってないようなものです」
フィールがグレンの目の前から消えた。
次に気づいた時にはグレンの腹にフィールの拳が吸い込まれていた。
「ガッ……!? ……どう……やって……!?」
「この【女帝の世界】の本質は魔術を詠唱無しに重ね掛けする事、身体強化の魔術を5つ、見えなかったでしょ?」
自身に重ね掛けした強化魔術は【フィジカル・ブースト】、【ウェポン・エンチャント】、【ラピット・ストリーム】、【エレキ・フォース】、【タイム・アクセラレイト】の五つ。どれも詠唱なく発動を重ね掛けする事でその速度はグレンの反応速度を容易く超えた。
「く……そっ……い……くな……フィー……ル」
「……すみません」
グレンはなす術なく気絶した。
セラじゃなくても分かるフィールの圧勝だ。倒れたグレンにシスティーナやルミアが駆け寄る。
「私の勝ちですよねセラ先生。もう行きますよ」
「う、うん。グレン君大丈夫!?」
「先生! しっかりしてください! 今回復を……!」
【ライフ・アップ】を掛けているシスティーナ達を横目にフィールはグレンの前から去っていった。セラにはその背中が寂しそうで、何処か遠くに行ってしまうように感じていた。
アレではまるで……
「昔のグレン君みたい……」
感情を押し殺した機械的な殺人者だ。
だが今は倒れたグレンの方へ身体を向けていた。
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校舎裏にフィールは戻ると、【女帝の世界】の効果時間3分が経過した瞬間、フィールは胸を押さえて膝を突いていた。
「……っっ! ゴホッ……ゴホッ!!」
フィールの口から少なくない血が吐き出される。
無理もない。【女帝の世界】は自分の
この魔術は文字通り未来を改変するフィールの切り札であり、諸刃の剣である。
「……ごめんなさいお父さん。私は……」
血を吐きながらも空を見上げる。
私は私の成すべき事をする。それだけが未来に来た私の使命なのだから、それが例え血に濡れたとしても。
私は《愚者》として世界を生きるのがお似合いなのだから。
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次の日からグレン先生は何も言わなかった。
セラ先生はフィールを心配してくれていたようだが、「大丈夫です」と返答したフィールに何も言えなかった。いつも通り、グレンは態度を崩さずに教室に入ってきた。
「つーわけで、今日からこのクラスの一員になるリィエル=レイフォードだ。仲良くしろよお前ら」
朝のホームルームでは、グレンが教卓の前でリィエルの説明をしている。そのグレンとセラの横ではちょこんとリィエルが立っている。
「すっげぇ可愛いな!」
「お人形みたい!」
転入生の登場に浮き足立つ生徒達だが、ルミアとシスティーナはそれとは全く違う反応をしていた。
「ねぇルミア、本当にあの子大丈夫かしら?」
「だ、大丈夫だよシスティ。リィエルも宮廷魔導師なんだよ?」
「そうだけど」
ルミアの説得を聞くも、システィーナは今日の朝の出来事のせいであまり良い印象は得られていない。今日の朝、ルミア達と一緒にグレンとフィールが一緒に登校していたのだが、大剣を持ったリィエルは走る勢いを殺さずに、グレンへとその華奢な手に握られる大剣を振りかざそうとし、フィールは咄嗟に威力を改変した【ショック・ボルト】をリィエルに浴びせて倒したのが今朝の出来事。
「(アルベルトさん……地味に嫌な仕事押し付けたな……)」
ため息しかないフィール。
アルベルトに通信用魔導具でリィエルの性格を聞くと、「命令を待機している人形のようだから細かい動きに向いていない」だそうだ。笑えなかったので、リィエルの右耳に通信用のイヤリングを渡し、ある程度の指示を此方でする事になった。
「リィエル=レイフォード」
「…………」
リィエルはただそれだけ言うと、ペコッと頭を下げる。
自己紹介はそれだけだったらしい。
「グレン終わった」
「終わったじゃねぇぇぇ!! 趣味とか特技とか! お前自身の事を話せばいいんだよ!!」
「わかった」
それだけ返すと、リィエルはまたクラスメイトの方へと向き直った。これは嫌な予感がするとフィールはリィエルの左耳につけた通信用イヤリングにフィールがつけている右耳のイヤリングで通信を開始した。
「リィエル=レイフォード。帝国軍が一翼、帝──」
『ストップしてリィエル』
「……何か間違ってるの?」
『今から細かく言うからそれを答えて』
「わかった。将来わたしは帝国軍への入隊を目指して? イテリア地方から魔術を学ぶために、この学院に来ることになった? 趣味は読書?」
イヤリング越しにリィエルの紹介を語っていく。まあ適当なのだが、リィエルの場合は指示を出されれば秘密すら漏らすから、この際嘘でも構わない。グレン先生達は此方を見るがアイコンタクトで察したらしい。
「なんか、変わった子だな」
「まあ、可愛いけどな」
「め、めっちゃ可愛いなリィエルちゃんって……」
「決めた、俺無派閥はだったけどリィエルちゃん派になるわ」
「そこ! 男子うるさい!!」
ここには変な奴しかいなかったことを忘れてた。
フィールはため息をついて危機を乗り越えたかのような疲れに見舞われた。何故だろう、疲れが溜まって仕方ない。
「それじゃ、気を取り直して、質問タイム」
「では、一つだけよろしいでしょうか?」
手を上げ、質問してきたのはウェンディだ。
フィールはイヤリングを右手で隠しながら質問の応答の準備をする。
「ん」
「イテリア地方から来たとおっしゃっていましたがあなたのご家族はどうされてるんですの?」
「……家族?」
その問いにグレンが微かに目を見開き、リィエルが少し眉を動かす。フィールはこの時ばかりは応答出来なかった。
「兄がいた……けど」
「あ~、悪いが家族関連は避けてやってくれ。コイツ今身寄りがないんだ」
「え?! 申し訳ありません何も知らなくて……」
その重い沈黙がクラスの中に流れる。
フィールは少し疑問に思った。確か未来で見た資料にはシオンとイルシアの2人だった筈。性格にはイルシアのデータを元に作られたシオンの妹、ならシオンが兄と言うべきなのにグレン先生は何故それを教えないのだろう?
「じゃ、じゃあさ」
そんな空気を吹っ飛ばそうとカッシュが手を上げる。
君は英雄だとばかりにクラスがカッシュに感謝するが、カッシュの質問は飛び切りの爆弾発言だと後に気付く。
「リィエルちゃんとグレン先生とセラ先生って知り合いっぽいし、いったいどういう関係なんですか?」
「……わたしと、グレンとセラの関係?」
「う……それはだな……」
「ええっと……」
対処を考えてなかったのだろう、セラもグレンも考え込む。
こればかりはリィエルが考えた事を伝えた方がいいと思い、何も言わなかった。だが……
「セラは、わたしのお母さんみたいな人、グレンはわたしのすべて、わたしはグレンのために生きると決めた」
リィエルは迷うことなくそう断言した。
その言葉をフィールは止める事は出来なかった。
「きゃあああああ────ッ! 大胆~! 情熱的~!」
「ぐああああああ! もう失恋だあああああああ!!」
「夫婦なの!? 隠し子なの!? ご馳走様です!!」
皆が騒ぎ出す、禁断の恋やらセラ先生とグレン先生の子供とやらリィエルが行った大胆な告白を堂々と宣言したリィエルに対して、クラスメイトの女子達は黄色い悲鳴を上げて男子達は涙を流して雄叫びを上げた。
「ちょおま……なに言っちゃってんのおおおおおおおお!!」
「私がお母さんかぁ……えへへっそう言われると照れちゃうね」
「セラも恥ずかしがってんじゃねえええええええええ!! 否定しろ否定!!」
「? セラがお母さんみたいじゃダメなの?」
状況はカオスだった。
恋愛話に暴走する女子達に失恋と泣き叫ぶ男子達、夫婦認定されるグレン先生達に首を傾げるリィエル、額に手を当ててため息をつくシスティーナに苦笑いするルミア、ギイブルは我関せずと勉強をしている。
そして……
「……っ…………?」
ズキッと微かに痛みを感じたフィールだった。
今になって、その痛みを許容出来ずに気にしないとばかりに目を背けた。その痛みが今になって分からなくなり、フィールはため息をついて通信用の小型魔導具をポケットに入れていた。