バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 次から戦闘シーンです。
 とりあえず、早くジャティス戦を書きたい!!

 では行こう!!良かったら感想、評価お願いします。





第12話

 

 

 

 

『任務の報告は以上よ』

『ご苦労様……フィール』

 

 

 帝国宮廷魔導師団の本部で報告書を渡すフィールは無表情で《魔術師》のアルカナを持つイヴに渡す。

 

 

『今日の任務はこれで終わりなら、私は帰る』

『待ちなさい』

『……何?』

 

 

 イヴが呼び止めて振り返ると、イヴは小さいケースのようなものを投げていた。それをフィールは掴む。一体これは何だとイヴに問う。

 

 

『最高品質の傷薬よ。暫くすれば身体の傷も消えるくらいの、王族御用達のヤツよ』

『……何、くれるの?』

『ただの気紛れよ。傷を隠してるみたいだけど、ジャティスと戦って受けた傷、まだ完治してないでしょ』

『…………』

 

 

 傷薬をポケットに仕舞う。

 数少ない戦力でジャティスの対処は出来ない上、『天使の塵(エンジェル・ダスト)』に人員を割けなかったのは分かる。

 

 けど、唯一の親友が死んだのだ。本当はもう戦わなくてもいいくらい心に深い傷を残した。ジャティスは殺した、けど気が晴れない。唯一の光を失い、絶望が押し潰そうとしているのをただ憎悪と残った自分の正義感に従ってただ任務に従うソレは見るに耐えないくらい痛々しい。

 

 

『私が言えた義理じゃないけど、貴女も女の子でしょ。身体に傷を残さない方がいい、女として言えるのはそれだけよ』

『……まさか、貴女の口からそれを聞くとは思わなかったよ。イグナイト家の為だけに戦ってる貴女にね』

『……今になって家名が憎く感じるわ。セラもグレンもリィエル、アルベルト、クリストフ、バーナード、そしてエルザも……結局私の指示のせいで死んだ。けど、家名を捨てれば今の宮廷魔導師団は死ぬ』

『…………』

『だから結局従わなければいけないの。私は結局、鳥籠の中で縛られたまま、この場所を維持するしかない』

 

 

 内心舌打ちする。

 何で貴女がそんな顔をする。目の前で失った自分より悲しい顔をする。ただ戦わなかった人間が知ったかぶって悲しもうとしている。巫山戯るなと言いたい。けど……それは出来ない。同情じゃない、単純な話、この人はセラ=シルヴァースとグレン=レーダスが残した何かを持っているからだ。

 

 

『……そう。精々、使い潰されないように努力するんだね』

『あっ、そう言えば明日の任務、私と合同だから』

『……聞いてないんだけど』

『言ってなかったからよ』

 

 

 この女と合同なんて正直嫌だ。

 ただ殲滅力は私と同じくらいある。室長としての力は正直健在だ。ただ何処まで行っても反りが合わないのは、単純に互いが正反対の場所に居るからだろう。

 

 歪みを感じながらも居場所を守る者と、正しい未来を信じて敵を殺す者、互いに場所は同じでも歪みを許容できないフィールと歪みを許容してでも居場所を守らなければいけないイヴは何処まで行っても同じ所には辿り着けない。

 

 

『精々、足だけは引っ張らないでよ《魔術師》』

『誰にモノ言ってるのかしら? 《愚者》』

 

 

 だが、戦う意義だけは同じだ。

 それだけが、2人の共通点だった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「……え、『楽園』はここにあったのか……!」

「焦らずとも『楽園』はいずれ俺達の前におのずと現れるから今日のところは退け……全て、先生の言う通りでした……」

「ごめんなさい、先生……俺達が間違っていました……ッ!」

「なのに俺達ときたら……!」

「いや、あれは普通に君達が悪いでしょうが」

 

 

 フィールが男子の後悔に正論で突っ込む。

 まああの後、システィーナに1発ずつ【ショック・ボルト】の刑で怒りは治まったようだが、あれは完全に欲望丸出しの男子達が悪い。

 

 まあその後、女子達の水着を見て眼福のようだが……

 

 

「先生〜!」

「……ん?」

 

 

 2人は誰がやって来たのは声で分かったのだが一応目を開けて確かめるとやはりルミアとリィエルの手を引いているシスティーナの三人とその後ろからこちらの存在に気づいたセラがこちらに駆け寄って来ていた。

 

 

「あれ、ルミア達って向こうで泳いでたんじゃ……?」

「ちょっと疲れちゃって戻って来たんだ! それよりも先生! この水着どうですか?」

 

 

 そう言うとルミアは先生の目の前でくるりと回って見せた。ルミアは童顔だが体つきは同じ年代の少女達と比べても一際肉感的であり、その容貌の幼さとのアンバランスさが男性人を魅了しているようだ。

 

 

「似合ってるじゃねぇか」

「えへへ、ありがとう!」

「白猫も似合ってるな、意外とセンスいいんだな」

「んなっ……! そ、そんなお世辞言われても嬉しくないけど………まぁ、ありがと」

 

 

 ルミアは嬉しそうに笑いシスティーナは照れながらそっぽを向いた。それに頬を膨らますセラ。どうやら感想が欲しいようだ。だが、昨日の夜のせいか妙に変な意識をしてしまったグレンがたじろぐ。

 

 

「まあ……その……似合ってる……綺麗だ」

「ふぇ……!? ……あ、ありがとう……」

 

 

 付き合いたての恋人同士のようだ。

 フィールはそれを見て少しだけ笑っていた。

 

 

「ところでフィールさん? 貴女は水着を着ないのですか?」

「私は少し街に、自由時間だから構わないでしょ?」

 

 

 カッシュが水着を着ていない代わりに私服で緑のパーカーを着ているフィールに聞いた。嫌に丁寧に話すから気持ち悪いのだが。それを見たグレンがフィールに近づいて耳打ちする。

 

 

「おい黒猫」

「何ですかグレン先生」

「アルベルトか……?」

「……勘がいいですね。作戦と各自の情報交換程度ですよ。1時間もしたら帰ってきますから」

「……俺も」

「着いて来ないでください。てかアルベルトさんはグレンには伝えたって聞いているので」

「…………」

 

 

 アルベルトが言った言葉『リィエルに気を付けろ』と言う意味はグレンは一応理解していた。因みに理由はフィールも一応知っている。まあ、ある程度の作戦や確認は必要な為、待ち合わせの店に行くが。

 

 

「まあ、とりあえず何事もないようにしたいので」

「ハァ……分かった。行ってこい」

「ありがとうございます。あと……セラ先生にちゃんと男気見せてあげてくださいね?」

 

 

 勝負に負けた先生は何も言えないのだろう。

 グレンは「余計なお世話だ!」と叫んでいたのを聞き流し、フィールは約束の店へと足を運び始めた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 懐中時計で時刻を確認したグレンは慌てて立ち上がり旅籠へと小走りで向かい始めた。システィーナ、ルミア、リィエルが夜中に海辺で遊んでいる姿を見た後、グレンはそのまま寝落ちしてしまった。

 

 旅籠への帰路を急いでいるとふと、人の気配を感じグレンは足を止めた。目を凝らして前方を注視する。あまりにも気配を隠す気もなく、殺気の類も感じられないため危険な相手ではない。

 

 敵ではないがそこにいたのは……

 

 

「え、リィエル?」

 

 

 いつものように眠たげな表情のリィエルが現れた。

 

 

「どうしてここに……?」

「グレンが部屋にいなかったから探してた」

「いや、俺の部屋は鍵かかってたろ」

「扉切って入った」

 

 

 頭抱えて「また減給か……」と呟くグレン。護衛対象であるルミアやフィール、システィーナはどうしたのかと聞いてみる。

 

 

「白猫や黒猫、ルミアはどうした?」

「ぐっすり寝てる」

「お前なぁ……ルミアの側にいろって言ったろ? 護衛失格だぞ」

「分かってる。だけど……グレンに会いたかったから」

 

 

 そんなことをいつものように眠たげな表情で言い出した。

 だが、それでもそんな風に言われればいくらリィエルでも怒るに怒れない。旅籠が閉まってしまう為、早めに帰った方が良いと考えリィエルにすぐ戻ろうと促し、歩き始める。

 

 歩いている中、グレンはリィエルに対してこう尋ねた。

 

 

「なぁ、リィエル。ルミアや白猫、黒猫、クラスの連中と一緒に過ごしながら遊ぶのは楽しいか?」

「……よく、わからない」

 

 

 グレンの質問に数秒の間を置いてポツリと呟いた。

 その表情は相変わらず無表情だが、どこか戸惑っているような雰囲気だった。その感情はリィエルにとって初めてのモノだったから。

 

 

「あいつらと一緒にいて何も感じないのか? 何もなかったか?」

「グレンが私に何を期待しているのかはわからないけど……少しだけ……あの二人やみんなと……もっと一緒にいたい……そう思った」

「そうか。それがきっと楽しいっていう感情なんだよ。大事にしろよ?」

「……よくわからない」

 

 

 リィエルは外見以上に中身はとても幼いのだ。すぐに理解しろなどとは無理な話だろう。だが、少しずつ魔術の闇以外の人の心をリィエルが理解してくれれば、魔術の闇から抜け出す事が出来るかもしれない。

 

 

「なぁ、リィエル。もうこのまま帝国宮廷魔道士団から足を洗わないか?」

 

 

 グレンはそう提案をしていた。

 もし、年相応の生き方が出来るなら、そちらの方がいいのだ。今のリィエルは感情が薄いが、感情を真に理解すればそこに広がるのはただの絶望だ。

 

 

「まぁ、ちょっと色々面倒くさいだろうが……その辺りは俺やセリカ、セラで何とかしてやる。だから、例えばこのまま本格的に魔術学院の生徒にならないか? そうすりゃ、あいつらとずっと一緒にいられるぞ?」

 

 

 一瞬リィエルの表情が揺らいだ。それを見たグレンは畳み掛けるように話していく。

 

 

「お前が宮廷魔道士やってるのって天の智慧研究会から亡命して、その成り行きだからだろ? 別にお前が魔道士をやり続ける義理も義務もないさ。だから、そろそろ本気で足を洗わないか? あの三人も喜ぶぞ?」

 

 

 そうやって言うとふと、リィエルが足を止める。その気配を感じてグレンも足を止めリィエルの方に振り返る。

 

 

「どうした?」

「それは……できない。できないよグレン」

「……どうしてだ?」

 

 

 微かな失望と共に、グレンが問い返す。

 

 

「わたしは……戦わなければならないから。……グレンのために」

「おい、リィエル?」

「そう……わたしは……グレンのために戦うと決めた……」

 

 

 いつもリィエルが言っている事だ。しかし、それはかなり危険なのだ。グレンのために戦わなければならない。グレンのために生きる。グレンがいなければ生きる意味がないという歪みをグレンは感じていた。

 

 

「だから、グレン。戻ってきて……グレンがいないとわたし……何のために生きているのか……戦っているのかわからない……」

「一年前……俺が突然お前らの前から消えたのは何も言い返せない……。俺はお前らを見捨てた最低のクズ野郎だ」

 

 

 苦渋に満ちた顔でグレンは淡々と話していく。

 その依存が歪みの原因なのだ。自分の為ではない、他人の為に生きるそれは1番自分の命を大切にしない生き方だから。

 

 

「そんな俺がこんなことを言う資格なんてないが……戻ってきてくれと言うお前を責めることもできないが……。だが、あえて言わせてもらう。お前は……俺を…………」

 

 

 一瞬ためらうように言葉をつまらせた。

 こんな事を言うつもりじゃなかったが、現実を見て欲しかった。

 

 

「俺を……お前の亡くなった兄貴の代わりにしようとしてるだけだ」

 

 

 グレンはそう言い放つ。

 その瞬間、ぴくっとリィエルが肩を震わせた。その言葉が痛い程リィエルに突き付けられ、まるで叱られる子供のように怯える。

 

 

「そもそも、俺を守るために俺に命の危険がある世界にいて欲しいなんてその発想自体がおかしいんだよ。本末転倒じゃねえか……」

「…………」

「だから、もうやめろ。お前が守れなかった兄貴の代わりを俺に仕立て上げた。そこにあるのは希望じゃない。過去に取り憑かれた妄執と惰性だけだ」

 

 

 そんな歪な生き方は止めろと、リィエルに告げた。

 

 

「お前の意思でお前の幸せのために生きろ。お前の兄貴もそう望んでるはずだ」

「…………」

「今のお前なら戻ってこれる。あいつらと一緒に当たり前の日常を過ごせば…………」

「わからない……」

 

 

 グレンが必死にリィエルを説得しようと話しかけたがリィエルはその感情が理解出来ない。リィエルの逆鱗に触れてしまった。

 

 

「……わからない。わからないよグレン!」

 

 

 かつてないほど激昂していた。

 そうグレンが思った時にはもう何もかも遅すぎた。この話はリィエルにとっての逆鱗だった。リィエルが今存在するのはグレンが居るから、グレンの為に戦いたい。だが、グレンが言っている事はまるで親と一緒にいたい子供に自分を守るなと言っているようなものだった。

 

 

「グレンの言ってること、全然わからないよ! なんで? なんでダメなの?! グレンを守って戦うことの何がいけないの! どうして……? どうして……わたしの側にいてくれないの……?! グレンがいないと……わたしは……わたしは……!」

 

 

 リィエルの憤怒と悲哀と困惑に歪ませてグレンに対して溢れる言葉を叩きつけてくる。それはまるで……

 

 

「もしかして……あいつら? あいつらのせいなの?」

 

 

 リィエルは何か大切なものを奪われた気がした。

 自分の知るグレンは帰ってくる事はない落胆と焦り、守る意義が無くなったような、自分の存在意義が否定されたかのような。

 

 

「ルミアやフィール、システィーナ達……あいつらがいるから、グレンは戻ってこれないの? あの学院のみんながいるから……グレンは……」

 

 

 誰に奪われた? 

 グレンがいた居場所を奪ったのは……

 

 今のグレンを縛り付ける何かがあるから? 

 

 

「あいつらが……わたしからグレンを奪ったの?」

「待て! どうしてそんな結論になるんだ!」

 

 

 グレンは声を荒げて叫んだ。良かれと思って勧めたことが完全に裏目に出てしまえば、焦ってしまう。だが、もう遅い。

 

 

「うるさいうるさいうるさい! みんな……嫌い……大っ嫌い!」

 

 

 最後にそう叫び、その事実を受け止めきれなかったリィエルは別の方向へ駆け出してしまった。リィエルが消えてしまった先を見つめながらグレンは……

 

 

「はぁ……うまく、いかねえなぁ……」

 

 

 ぽつりとそんなことを呟いて、肩を落とし深いため息をついたのだった。ここまで歪だった事に気付けなかった自分の落ち度にただ落胆する。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 翌日、グレン率いるクラスは白金魔導研究所に向けて樹海の辛うじて開いていた荒い道を歩いていた。

 

 聞くところその研究所は研究内容が生物系のため、綺麗な水源のある所に建てられてるため、必然的に人気の少なく、複雑に入り組んだ道の先にあるという。

 

 そんなため、一部を除いてクラスメート達が半分も行かないうちに息を荒げていた。

 

 

「はぁ……はぁ……」

「リン、辛いなら荷物代わりに持つよ?」

「え、でも……」

「いいから。こんな荒れ道で無理したら戻りがより大変だしね」

 

 

 フィールはリンの荷物を持つ。

 こういう複雑な道も山登りもそうだが、大事なのは無理せずに休み、戻れる時はキチンと戻る事だ。山登りだって体力に限界があるのだから、無理して戻るくらいなら頼ってくれた方がいいだろう。

 

 

「う、うん……ありがと……」

「フィールさん、まだ余裕なのか、スゲェな」

「軽く魔術で軽量化してるからね。カッシュ君はそれ無しで凄いんだね」

 

 

 元々軍に入っていた上、あの世界以上に過酷な現実は無いと思う。

 一人分の荷物も重量にして大体四・五キロはある。それを二人分くらい持って山道を歩けているのが凄い。体力に自信があるフィールも少しだけ驚いている。

 

 

「まあ、みんなと比べて田舎育ちだからな」

「冒険家なんだね」

 

 

 一部を除けば魔術学院の生徒達は大体が都会育ちだ。当然ながら鍛える考えがない。魔術至高主義のクラスがいきなりこんな荒れ道に足を踏み入れて平気なわけがない。

 

 それからもちょくちょく休憩も入れながらフィールやカッシュ、他にもセラ先生など、体力に余裕のある者が疲れの目立つ奴の荷物をローテで負担しながら荒れ道を進むと、意外な光景が目に入った。

 

 ルミアが偶々安定の悪い石で足を踏み外しかけたリィエルを支えようと手を伸ばすが、その手をパン、と払い除けていた。

 

 

「……触らないで」

 

 

 次に聞こえたのは明らかに拒絶の意思が込められた言葉だった。

 

 

「ちょ、リィエル……今のはちょっと酷いわ。何があったのか知らないけど、ルミアは貴方の事が心配で──」

「うるさい……うるさいうるさい! 関わらないで! もう私に関わらないで! イライラするから!」

 

 

 リィエルが今までの人形のような寡黙さから一転して明確な敵意を剥き出しにして大声をあげていた。それには他のみんなも思わず足を止め、呆然と見入っていた。

 

 

「私は……あなた達なんか、大っ嫌い!」

 

 

 そう言ってスタスタとみんなから早く離れたいと言わんばかりに歩を早めて遠ざかって行く。

 

 

「な、何なのリィエル! 貴方──」

「待ってシスティ」

 

 

 リィエルの行動に流石に腹を立てたシスティが追おうとするも、ルミアが手を掴んでそれを止める。

 

 

「何があったのか知らないけど、今はそっとしておこう」

「……ルミアがそう言うなら」

 

 

 渋々とだが、システィはリィエルを追うのをやめた。

 今のリィエルは少し何かがおかしい。

 

 

「ねえ、やっぱり嫌だったのかな?」

 

 

 気不味い空気の中、ルミアが悲しげに呟きだした。

 

 

「リィエルは……私達と住んでる世界が違うのに……私は勝手にあの子を振り回して……本当は嫌だったのに、無理に付き合わせちゃったのかな? 私、お節介だったのかな……?」

「そりゃ違う。悪いな2人とも。実は昨晩、俺が余計な事口走った所為でリィエルを怒らせちまって……ちょっと今あいつ、情緒不安定になってんだ」

「何言ったんですかグレン先生?」

 

 

 ため息を吐きながらフィールはグレンに問う。だがグレンは沈黙する。どうやらリィエルの生い立ちに触れるからだろう。ため息を吐きながらフィールは予想した事を言った。

 

 

「……大方、先生の事だから、リィエルに宮廷魔導師団から足を洗えとでも言ったんでしょう?」

「……ああ」

「……確かに軍の方は魔術の闇が多いかもしれません。けど先生、リィエルの拠り所はグレン先生しか居ないんですよ? 親同然のような貴方がリィエルに何言ったかは知りませんが、貴方がそれを否定しちゃいけないですよ。あの子は見た目以上に幼いんだから」

「!」

 

 

 幾ら歪でも、見た目以上に幼いのだ。

 何故それを知っていると言う目で見るが、フィールは分かっているような眼で先生を見る。

 

 

「そうでなきゃリィエルが戦ってる理由が無意味になってしまうんですから」

「……すまん。アイツは見た目以上に子供だった。後でちゃんと謝ってくるわ」

「そうしてください」

 

 

 フィールは少しだけ、リィエルに同情する。

 戦う意義が無くなってしまうと言うのは、自分の存在意義がなくなってしまうのと同じようなものなのだろう。

 

 そんな事を話しながら目的地へ到着すると、

 

 

「ようこそ、アルザーノ魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労です」

 

 

 グレンとセラの前にローブに包んだ一人の男が現れた。セラはその男を前にして。

 

 

「こんにちわ、あなたがバークスさんですね? 私はセラ=シルヴァースです」

 

 

 笑顔をバークスに向け、挨拶した。

 バークスも笑顔で挨拶する。社交辞令とは言えとても朗らかに見える。

 

 

「はい、私がバークス=ブラウモンです。この白金魔導研究所の所長を任されているものです」

 

 

 グレンが登山で掻いた額の汗を拭いながら背筋を正し、バークスに開き直った。グレン先生も意外と体力ある。後ろで息を上げている生徒達を見れば一目瞭然だ。

 

 

「アルザーノ帝国魔術学院、二年次生二組の担当魔術講師グレン=レーダスだ。 本日はうちのクラスの『遠征学修』へのご協力、心から感謝します。生粋の研究方の魔術師であるバークスさんにとっちゃ、ひよこ共が所内をほっつき歩くなんて鬱陶しくて仕方ないでしょうが、まあ、今日明日は我慢してください」

 

「いえいえ。私も日夜研究ばかりでは気が滅入りますからな、こうして未来を担う若者と触れ合うのも良い刺激になりますからな。お疲れのところ大変でしょうが、ここまで来てくれた労いの代わりと言ってはなんですが……本日の見学は私がご案内しますよ」

 

「はぁ!? 所長のアンタが直々に!? アンタだって研究で大忙しでしょう!」

 

「構いませんよ。私の権限があれば普段一般の方が立ち入らない区域にも入れますし……やはり若者には最高の一日を送ってもらい、この日が将来この子達の糧になってくれるのならやはりこちらも相応のものを見せてあげたいものですから」

 

「はぁ……普通は自分の研究なんて他者には見せないもんだっつうのに、マジで人格者だな……いや、マジでありがとうございます」

 

 

 所長の案内だけでも破格な待遇なのが更に一般人の入れない場所まで見学できるもんだから最初は渋っていたみんなも研究所の見学が楽しみになって疲れが吹き飛んだかのようにバッと立ち上がる者も出て来てる。単純で少し笑ってしまう。

 

 グレンの微妙に丁寧じゃない物言いにも機嫌を損ねず、バークスは朗らかに応じた。だが、一瞬だけバークスはルミアとフィールを少しだけ見た。何故かそれは不快で、少し冷たい目で見た。

 

 

「ん? どうしたのルミア。フィール」

 

 

 だがそこでシスティーナが、少しルミアが強張った表情をしているのに気がつき後ろを振り向き、それに合わせてフィールも警戒していた。敵である事は分かっている。だからって証拠もないのに敵対すれば勘付かれる。

 

 

「ちょっとね.バークスさんが私の事見てたから気になって」

「まあ……大した事じゃないから安心して」

 

 

 バークスの案内のもと、研究所内を静かに歩く。生命の神秘を研究しているからか、いたるところに掘られた溝に清浄な水が絶やさず流れていた。そして壁や所々にある花壇にある木や草花に蔦が通路にびっしりと生えていた。

 

 研究所内にある様々な研究室を生徒を連れて練り歩く。

 

 あたり一面に様々な品種と効能の薬草畑が広がる、薬草改良を、試みている部屋。岩や結晶が法陣の上に並ぶ鉱物生命体を開発している部屋。

 

 多種多様の動植物がおさめられた巨大ガラスの円筒が所狭しと並ぶ、生命の肉体構造に関する研究をしている部屋、広い空間に出たらそこではあちこちに何かの薬品の詰まった円筒に様々な姿をした生物が閉じ込められていた。

 

 そしてその傍には妙な石版のようなものがあって、そこからあらゆる情報が次々と表示されていた。人体の謎、キメラの分析結果、構造など色々な情報が。

 

 バークスさんに聞いてみればあの石版はモノリス型魔導演算器であれで人や動植物の膨大な遺伝情報と魂情報を解析してるらしい。こっちではマギピューターと呼ばれるらしい。

 

 

「うわ〜……私、将来は魔術考古学を専門にしたいって思ってたけど、これを見てるとちょっと心が揺らいじゃうかも」

「そうかな……私は魔導官僚志望だから。それに、これを見てるとちょっと気がひけるなって……」

「気が引ける?」

「本来生物っていうのは気の遠くなる程……長い時間を掛けて進化するものだからね……それを人が勝手に弄って変な構造の生物を作ったり……捨てたり……人道的じゃない……」

「ちょ、ちょっとフィール……」

 

 

 研究者に聞こえるのを危惧してか、システィーナがフィールを嗜めるが、言わんとしてる事はわかるのか今度は色々考えながら施設を見渡す。だがシスティーナはある事に気が付いた。

 

 

「てかフィール……どうしたの? 気分悪そうだけど……」

「……っ、まあ……ちょっと()()()()()……っ…」

 

 

 システィーナは首を傾げるが、フィールは冷や汗と謎の息切れが続いている。さっきから身体に針を突き刺すように頭に直接流れ込む感情が暴走しているように、いや、進む毎に感受性が強くなっていく。

 

 

「っっう……!!」

 

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね!!!! 死ね助けて助けて助けて助けて助けて死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね助けて死ね死ね死ね死ね死ね憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い憎い憎い憎い!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね!!!! 死ね助けて助けて助けて助けて助けて死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね助けて死ね死ね死ね死ね死ね憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い憎い憎い憎い!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い助けて助けて助けて助けて!! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い殺す殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す憎憎憎憎!! 殺す殺す殺す殺す殺す助けて助けて助けて助けて殺殺殺殺殺殺殺助けて助けて助けて助けて助けて助けて助け憎い憎いて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い助けて助けて助けて助けて!! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い殺す殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す憎憎憎憎!! 殺す殺す殺す殺す殺す助けて助けて助けて助けて殺殺殺殺殺殺殺助けて助けて助けて助けて助けて助けて助け憎い憎いて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!! 

 

 

「ぐっ……! がぁ……!」

「フィール!?」

「おいどうした黒猫!?」

 

 

 右眼が熱い、流れ込む憎悪や憎しみの声に右手に呪詛のように赤黒いナニカが流れ込んでいく。意識が持ってかれそうになる。寒い、痛い、辛い、消えそうになる、吸い込まれそうだ。

 

 右眼がそれに呼応するかのように目の前の景色がモノクロへと変わっていく。そこに居たのは子供達が泣いている景色と、死んでいった後悔、憎悪の感情を撒き散らす大人の姿。

 

 

 

「お前、もしかして……霊障か!?」

「くっ……あああ…………!」

 

 

 霊障、霊や残留思念から生じるものを自分が発現してしまう事。憎しみや霊が体験した事が流れ込み、まるで自分が体験したかのように浮かび上がる障害。

 

 確かに未来でも霊障はあった事はあるが、一応持っていた十字のロザリオがそれをいつも阻害する為、安心だった筈。だが、コレは霊障と言うより……

 

 

「いくら合成獣の研究をしてるからって感受性が強いにも程が……」

「っっ……違う……」

 

 

 コレは間違いなく人の声だ。

 何かが流れ込んでくる。抑えきれない。背中から何かが突き出されるような感覚と動悸がまるでフィールの持つ『銀の鍵』に反応しているようで、右眼がそれを教えてくれるみたいだ。

 

 

「……おや、急病人かな? 人を手配しましょう」

「バークスさん、悪いがうちの生徒が強い霊障持ちだったみたいでな。霊草と洗礼詠唱された部屋はあるか?」

「えぇ、職員の中にも時折、体調を崩す者もいますからな。すぐに」

「助かる。生徒達の受け入れといい迷惑をかけるな」

「いやいや、稀にある事なので仕方ありません。こちらで引き受けましょう」

 

 

 違う。焼き付くような熱さで右眼が反応する。

 大人の憎しみが向いているのは間違いなく……

 

 

「さあ、此方へ、案内致しましょう」

 

 

 この男に対してだ。

 だが抵抗しようにも今のフィールはマナバイオリズムがカオスにまでブレている。今連れて行かれたら不味い。咄嗟にフィールはセラ先生の腕を掴む。

 

 

「お願い……一緒に……きて……」

「フィールちゃん?」

 

 

 弱々しく震える声でセラの腕を引く。

 その顔はまるで何かあるかのようでセラは何かを察した。

 

 

「……分かった、バークスさん。私も着いていきます。私もこの子が心配なので……」

「……ええ、分かりました。案内致しましょう」

 

 

 震える手にセラは放っておけない為、セラも同行する事にした。バークスは一瞬顔が歪み、セラはフィールを抱えたまま部屋まで案内された。コレで迂闊に手は出せない筈だ。フィールは少し安心して意識を手放していた。

 

 

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