バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 おや、フィールのようすが?
 感想くれた『坂田 歩』さんありがとうございました。
 
 それでは13話目、では行こう!良かったら感想評価お願いします!!


第13話

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね!!!! 死ね助けて助けて助けて助けて助けて死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね助けて死ね死ね死ね死ね死ね憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い憎い憎い憎い!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね!!!! 死ね助けて助けて助けて助けて助けて死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね助けて死ね死ね死ね死ね死ね憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い憎い憎い憎い!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い助けて助けて助けて助けて!! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い殺す殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す憎憎憎憎!! 殺す殺す殺す殺す殺す助けて助けて助けて助けて殺殺殺殺殺殺殺助けて助けて助けて助けて助けて助けて助け憎い憎いて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い助けて助けて助けて助けて!! 

 

 

 無情にも私の声は届かない。

 荒れ狂う絶望感が少女を押し潰すようで、未来で聞いた怨嗟より、その怒りと悲しみが少女の中に流れ込んでいく。

 

 

『……お願い……もう止めて……! それ以上は……!!』

 

 

 ただその怨嗟を見放す事は出来なくて、だがその怒りを許容出来ない自分が居る。そのままでは駄目だと、貴方達が壊れてしまうと、分かっているのに止められない。

 

 ここはあくまで精神世界、少女には何も出来ない。

 ただ押し潰すような絶望感にただ耳を塞ぐしか出来ない。

 

 

 耳も眼も塞いでいっそ楽になりたいくらいの苦痛に、経験した記憶が少女に対する厳罰のように肌を焼き、凍らせ、刺すような痛みを無慈悲に送らせてくる。

 

 

 

 

『…………』

 

 

 次の瞬間、自分の身体が光を放つ。

 それだけで赤黒い絶望の怨嗟は掻き消え、もう声も聞こえない。それはまるで聖なる炎のように世界を照らす。

 

 

『……白魔【セイント・ファイア】?』

『…………』

 

 

 

 目の前のそこには()()()があった。

 姿も形も見えず、魔力も無い。匂いも音も感じないその空間の先に何かが存在していた。ただそこに感じる懐かしさのようなものが自分の胸に突き刺さっている。

 

 

『……えっ? ……何……で……?』

 

 

 ただ分かるのは、それが()()と言う事と、勝手に自分の右眼から溢れていく涙がとても痛くて、悲しくて、切ない気持ちになる。

 

 右手が熱い、焼印を押されたような痛みに思わず顔を顰めて抑える。右手を見るとまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が押されていた。

 

 

 

 

 

『……ごめんなさい』

 

 

 

 それは誰に向けての言葉だったのか、誰の声だったのかも認識出来ない。けれどその謝罪がとても辛そうで……まるでそれは……

 

 

『貴女に……悲しい運命を背負わせてしまって』

 

 

 頰に触れる冷たい感覚。

 鏡のように現れた()()()()()()()()()()()

 その謝罪は誰のものでもない。自分に向けられたものだった。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「っっ……!?」

 

 

 右手を伸ばして何かを掴もうとしたような表情でフィールは目を覚ます。あの胸を刺す悲しみは一体何だったのか分からない。ただ、起き上がるとさっきより身体が軽い。

 

 

「あっ、大丈夫フィールちゃん!?」

「はい……何とか……」

 

 

 どうやらバークスに何かされた様子は無い。

 セラ先生がいたおかげで牽制になったのだろう。あの時セラ先生に頼ってなかったら私は何されていたか分からない。

 

 

「っっ……あれっ? 何だコレ……」

 

 

 右手の甲には蝶のようだが、片羽がもげているような……

 

 

「……っ!?」

 

 

 あの精神世界で見た紋章と同じ、だが魔力とか呪いみたいなものは感じない。だが、何か特別な意味を感じる、まるで……

 

 

『貴女に……悲しい運命を背負わせてしまって』

 

 

 あの時に見た自分そっくりの。

 いや、アレは自分では無い。あの時感じた()()()()()()()()()は……

 

 

「今は……っっ!?」

 

 

 しまった。気絶していた以上、リィエル達の事を忘れていた。

 セラ先生は首を傾げて此方を見ている。だがフィールが焦り出した瞬間、セラは「どうしたの?」とフィールに聞くが、それを無視して右腕につけている二つのブレスレットの内、一つに連絡を入れる。

 

 

「アルベルトさん!」

『フィールか……グレンが今危険な状態だ。そこにセラもいるなら、今すぐ旅籠へ来い。白魔儀【リヴァイヴァー】を使うにも俺だけじゃ魔力が足りん』

「っっ!? 分かりました! すぐ向かいます!!」

 

 

 何でこんな時に気絶していた! 

 多分、原因は『天の知恵研究会』だろう。何故こんな時に霊障なんて馬鹿みたいな事で足止め食らっていた!! 

 

 

「セラ先生! 着いてきてください! 【ラピット・ストリーム】くらい出来ますよね!?」

「えっ? う、うん……どうしたの?」

「グレン先生が危ないんです! 早く旅籠へ!!」

「なっ!? わ、分かった!! すぐ行こう!!」

 

 

 セラとフィールは急いで施設を出ようとするが、鍵がかかっていて出れない。蹴り破ろうとするがびくともしない。おまけにこの部屋は……

 

 

「っっ、バークスの奴!! 《天を撃ち砕け・彼方の流星よ》!」

「ちょっ!? フィールちゃん!?」

 

 

 黒魔【プロミネンス・ピラー】で灼熱の炎を扉に放つが、魔力が分解されていく。確か古代遺跡とかである魔力を分解する鉱石とかは存在するが、恐らくコレはその模倣だろう。

 

 

「魔力を分解するなら【ディスペル・フォース】で……!」

「いや、多分鉱石系だから無理です。ならこっちでやります」

 

 

 胸ポケットから掌より小さい剣のようなものを取り出し、【ディスペル・フォース】で解除する。魔術で武器を圧縮し小型にする事で持ち歩く事をしといて良かった。

 

 いい思い出はあまり無いが、自分の愛用していた3つある特殊装備の一つ。

 

 

「切り崩せ『魔剣エスパーダ』」

 

 

 持ち手から刀身までが黒く染まった長剣が扉を切り裂いた。魔力を分解しようが、結果は既に斬られているなら魔力を分解しようが意味はない。

『魔剣エスパーダ』は特殊な金属を使って造られたあの未来の形見。コレは自分の魔術特性(パーソナリティ)に接続し、その性質を取り込む特殊な剣だ。『万象の逆転、逆流』を持つフィールが持つそれは防御不可能の斬撃を生み出す。

 

 

「よし、行きますよセラ先生!」

「う、うん!」

 

 

 右手の紋章は気になるが、それよりも今は深く考えるよりグレン先生達の方が先だ。

 セラとフィールは研究所を抜け出し、【疾風脚(シュトロム)】で急いでグレン達のいる旅籠へ駆け出した。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 旅籠に到着し、走り出す2人。

 見かけた人影にフィールは声をかける。

 

 

「アルベルトさん!」

「フィールにセラ、協力してもらうぞ」

「グレン君は!?」

 

 

 アルベルトに担がれているが、呼吸もままならない状態だ。剣で貫かれた状態で仮死状態だ。まだ間に合う。セラとフィール、アルベルトは近い部屋に入っていく。

 

 

「……っ?!」

「邪魔するぞ」

 

 

 そこに居たのは泣き崩れたシスティーナが膝をついて泣いている。ルミアは連れて行かれてしまったようだ。

 

 

「システィーナ=フィーベルだな? 俺は帝国宮廷魔道士のアルベルト=フレイザーだ。顔と名前ぐらいは分かるな? 緊急のためお前に協力を要請する」

 

 

 突然現れてずかずかと部屋に入ったと思ったらいきなり協力しろと言われて何が何だか分からなかったシスティーナだが、アルベルトが背負っていた人物がベッドに寝かされたのを見た瞬間悲鳴をあげてしまった。

 

 

「いやぁぁぁぁ! 先生!」

「システィ! 落ち着いて!」

 

 

 叫ぶシスティーナにフィールは冷静に叫ぶ。

 心臓の部分にはリィエルの大剣で貫かれた跡、制服は血で染まっており肌の色は白くまるで死人のような姿だった。

 

 

「まだ息はある。だが……虫の息だがな」

「そんな……! 先生! しっかりして……早く治癒魔術を!」

 

 

 慌てて先生のそばへ駆け寄りシスティーナは泣き叫ぶ。

 

 

「止めろ、治癒魔術は無駄だ。今のグレンは死神の鎌に捕まっている状態だ」

「そんな……嫌よ! 死なないでよ……先生……お願いだから……!」

「フィーベル、俺達に力を貸せ。グレンを救うにはお前の力も借りたい」

「そんな……こと言ったって……。私なんかには……」

 

 

 ルミアを助けられず先生の死体同然の姿を見て思考能力が著しく低下しているシスティーナにはアルベルトが言っていることがよく分かっていなかった。

 

 

「俺は今から儀式の準備をする。その間……! ちっ……呼吸が完全に止まったか惰弱な!」

「そんな! 先生……!」

「落ち着け、まだ息が止まっただけで魂は肉体に繋がっている。しかし……まだ完全に儀式の準備はできていない……」

 

 

 アルベルトはナイフで自分の指を切り、流れた血で儀式に必要な術式を描いていく。システィーナは何をすればいいか分からないまま、フィールは的確な指示を出す。

 

 

「システィはそのままそこに居て! 魔力を使わせてもらうだけでいいからマナ・バイオリズムを整えて! セラ先生は人工呼吸でグレン先生をどうにか繋いで! アルベルトさん、術式構築の半分は私がやります!」

「……出来るのか?」

「出来ます!」

 

 

 フィールは右手首をナイフで斬り、血で床に必要な術式を描いていく。【ブラッド・キャタライズ】もアルベルトさんと2人なら早く終わる。2分もあれば十分だ。

 

 

「セラ先生! 早く!」

「う、うん!」

 

 

 地面に描く術式が構築されていく。白魔議【リヴァイヴァー】は複雑な術式かつ大量の魔力が必要だ。アルベルト、フィール、セラ、そしてシスティーナも居れば足りる筈だ。

 

 

「グレン君、帰ってきて……」

 

 

 セラは帰ってきて欲しいと祈りながらグレンの口と自分の口を合わせて人工呼吸を始めた。ただ、何も出来ないシスティーナは自分の弱さを呪った。もっと強くなりたいと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうぅぅぅ……ギリギリ間に合った」

「傷も塞がれ、呼吸や心拍に異常無し。何とかと言った所か」

 

 

 フィールとアルベルトはともかく、セラとシスティーナは魔力がごっそり持っていかれたらしい。システィーナの潜在的魔力容量ならアルベルトやフィールを超える。今使える魔力はそうでもないが、将来システィーナは下手したら魔術師の頂に登るかもしれない。

 

 

「セラ先生とシスティはとりあえずマナ欠乏症にまで陥ってるけど、命に別状無し。システィは寝ちゃってるけど問題無いかな」

「アルベルト君、今、何が起きているの?」

「リィエルが裏切った。そして廃棄王女を連れて行かれた」

「クソッ……何でそのタイミングで気絶してたんだ私!」

 

 

 右手の紋章が何を指すのか分からないが、今は余計な時間だった。だが起きてしまった以上はしょうがない。後の始末はつけるつもりだ。

 

 

「アルベルトさん、リィエルの居場所は?」

「お前の予想通りの場所だ。予想外な事があったが、結末は変わらないようだ」

「そりゃ良かった。まあリィエルについては私がどうにかします」

「……行くの? フィールちゃん」

「当たり前ですよ。ルミアとリィエルは救う、『天の知恵研究会』は潰す。それだけです」

 

 

 フィールは自分の部屋から帝国宮廷魔導師団のコートを着て、全ての切り札を持った。

 

 

「連中の潜伏先は既に目星がついている。俺はこれから王女を助ける。

 だがその障害としてリィエルが現れるのなら、俺はリィエルを殺す」

 

 アルベルトは静かに、だがその瞳に明確な意志を持ってそう言った。それはもう覚悟を固めているかのようにフィールには見てとれた。

 

 

「いいえ、それは私が止める。話を聞かせますよ」

「あの女が聞くと思うか? グレンにまで手にかけた女だぞ?」

「それでもですよ」

 

 

 フィールのその眼には覚悟があった。

 セラもその姿を見て、誰かと姿を重ねる。それは若かりし《愚者》を背負った1人の少年と同じ背中を感じ取っていた。

 

 

「リィエルが居るべき場所はあんな場所じゃない事を教えますよ。それは、グレン先生やセラ先生も同じ事を言った筈です。私は、()()()()()()()()()()()()()

「……確かに似ているな」

「アルベルトさん?」

「だからこそ、俺は()()()に期待するのかもしれん」

 

 

 アルベルトはフィールにあるものを投げ渡す。

『魔銃ペネトレイター』グレンの切り札が使える魔銃だ。銃身には幾つかルーン文字が刻まれており、月明かりによってより黒く輝きを放つ。

 

 

「条件は二つ。一つは、俺はあくまでも王女の救出を最優先する。二つは、状況がリィエルの排除を余儀なくした場合、俺はリィエルを討つ。以下の二点を邪魔しない限り、リィエルはお前に任せる」

 

 

 未だにアルベルトから渡されたそれに驚いているフィールを無視しながら、アルベルトは話始め、それが終わるとそそくさと部屋から出ていった。その内容は普通に聞けば、無慈悲な言葉だろうが……

 

 

「ふっ、要するにリィエルは勝手に救えって事か。ツンデレめ」

 

 

 フィールは少しだけ笑ってしまった。

 フィールはそれを腰のベルトに掛けて、セラの方を見る。少しだけ優しく微笑みながら。

 

 

「フィールちゃん……」

「大丈夫、セラ先生。必ず助けてくるから……グレン先生と生徒達をお願いします」

「……分かった。気を付けてねフィールちゃん」

「はい」

 

 

 私はアルベルトさんの後を追って駆け出していった。

 だが、セラにはフィールの後ろ姿がまるで……

 

 

「……グレン君」

 

 

 隣で眠っているグレンの頭を撫でる。

 それはまるで、一緒に戦っていたグレンを連想させた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 急いで部屋から飛び出た2人はロビーに到着し、急いでホテルを出ようとする。時間は限られているのだ。急いでルミアを取り戻しに行かなければ何をされるか分からない。ルミアの異能は特殊過ぎる。

 

 そんなフィール達の焦燥感を感じ取ったのか、カッシュを先頭にクラスメイト達が少し離れたところで心配そうにこちらを見ながら佇んでいた。

 

 

「カッシュ君……」

「な、なぁ……フィールさん……どこに行くんだ……? 一体、何が起きてるんだよ……?」

 

 

 生徒達の先頭にいたカッシュが、硬い声で聞いてくる。

 心配そうな顔をしてフィールに聞きたかった。今何が起きているのか。

 

 

「リィエルちゃんは帰ってこないし……ルミアも消えたし……フィールさんやセラ先生はもの凄い形相で旅籠に走って行っていたし……システィーナ達の部屋は、なんかボロボロだったし……先生もさっきまで半死人みたいだったし……」

 

 

 多感な年頃だ。漂う不穏なこの空気に気付かないはずもない。今何が起きているのか不安で仕方ないのだろう。

 

 

「あの長髪の怖ぇ人……先生の友人……なんだよな? あの人が『関わるな』って言うから……事情はさっぱりわかんねーけど……でも、何かあったんだろ……?」

 

 

 不安げに生徒達が目を伏せる。

 そんな様子の生徒達に、フィールはふっと笑いかけた。

 

 

「ねぇ、みんなはさ、リィエルのこと、どう思う?」

「……え?」

 

 

 深刻に沈んでいる自分達とは裏腹に、少し優しく生徒達に聞いた。まるでセラ先生のように、生徒達は戸惑ったように、顔を見合わせる。

 

 

「……どうって……言われても……」

「リィエルは、まだまだ短い付き合いだけど、その短い間なりに、リィエルのこと……どう思った?」

「それは……」

 

 

 一瞬口ごもりながら、生徒達は各々自分の思いを少しずつ言葉に変えていく。

 

 

「最初は……変なヤツだなぁって……」

「わ……私は……ちょっと……怖かった……かも……」

「初日のやつが、あれは俺もビビった。『うわ、ヤッベェのが来ちまったなぁ』って」

「……でも、まぁ、実際はそう悪い子ではなかったみたいですし……」

「むしろ話してみると、素直な良い子でしたわ」

「ちょっと……ていうかむしろ、かなり無愛想なやつだけどな……」

 

 

 すると皆、常日頃のリィエルの奇行を徐々に思い出し、段々と饒舌になっていく。

 

 

「でも、話しかければ、ちゃんと答えてくれるよ」

「ん、とか。そう、とか……一言一言、やたら短いけどな!」

「いつも眠そうで無表情だけど、慣れると案外、表情豊かな子に見えてくるしね」

「カードゲームとか教えてあげると、あの眠そうな表情は相変わらずでしたけど、結構、夢中になっていらっしゃいましたわね……」

「そういえば、ビーチバレーの時も普段のリィエルちゃんから考えれば、かなりノリノリだったのかもな!」

「あはは……でも、あの殺人スパイクだけは勘弁して欲しかったなぁ……」

 

 

 昨日のことを思い出したのか、生徒達がくすくす笑い始めた。

 やっぱり、リィエルは必要な存在だって事が分かって、フィールは笑った。

 

 

「ああ、安心した」

「へっ?」

「大丈夫だよ。リィエルが喧嘩別れしちゃってちょっと遠い所に行っちゃって、ルミアはそれを追いかけて二時遭難、だから今からリィエルの保護者と一緒にそこまで行くだけ、だから寝てて、明日になったら2人の水着と私の水着を拝むんでしょ?」

「あ……ああ、そうだよな! フィールさんの水着まだ見てないもんな! みんな寝るぞ!」

「おお! 明日に備えてみんな寝るぞ!!」

 

 

 カッシュを筆頭に生徒達は部屋に戻っていった。

 フィールはアルベルトと一緒に目的地まで走り出していくと、アルベルトは少し呟いた。

 

 

「……意外だな」

「何が?」

「生徒達が何も聞かずに戻っていく事だ。大方異変には気付いているだろう」

「……まあ、確かに。でも、私なら任せられるって直感的に感じたのかもしれません。自慢じゃありませんけど、主席なんで」

「それを自慢と言うのだ。まあいい、貴様にとって初任務だ。足を引っ張るなよフィール」

「誰にモノ言ってんですか?」

 

 

 《星》と《愚者》、今宵違う相方で再び組む事になる。

 互いに戦う意義は同じ、救出と殲滅、言葉で言わずとも2人は走り始めた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「俺は仕留めるつもりでエレノアと戦っておきながら、同時に二重、三重に予防線を張っていた。無論仕留めるつもりだが、あの女も中々やる」

「けど、それで出し抜く事に成功した……マジですか」

 

 

 感心したような、呆れたような顔でフィールは頬を引きつらせていた。正直、魔術を封殺出来るフィールでもこの人とだけは戦いたくない。

 

 

「白金魔導研究所に流れる資金の齟齬を追う過程で薄々予想は付く。奴はどうも極秘で秘密の地下研究所を造っていたようだ。確かにエレノアからの魔力発信は地下から発せられている」

 

「地下……でも範囲が広くないですか?」

 

「研究分野の性質上、バークスの秘密研究所には必ず地下水路が必要になる。別に樹海の何処かに魔術的な手段で厳重に隠されているであろう入り口から、ご丁寧に進入する必要は無い。研究所内に通じている水路から進入すればいい。大まかな場所が判明し、大規模な水路を用意出来る場所、土地の高低差、そして霊脈の条件。それだけ揃えば、必然的に進入路は絞られる」

 

「ああ成る程。湖に隠し通路でもあるんでしょうね」

 

 

 2人の行く先に立ち塞がる樹海が尽き、視界が一気に開けた。

 そこに広がるのは、周囲を深緑の樹木や山岳に囲まれた広大な湖だ。透き通った冷たい水を湛え、鏡のような水面に銀月が淡く映っている。

 

 その岸辺で、2人は一旦、足を止めた。

 

 

「この湖の南西方面に、バークスの秘密研究所に繋がる地下水路の入り口がある筈だ。不自然な水の流れを辿れば容易に見つかるだろう」

「成る程、じゃあ堅物同士で2人きりの海水浴と行きましょうかね……湖ですけどね」

「誰が堅物だ」

 

 

 2人は黒魔【エア・スクリーン】の呪文を唱える。

 2人の周囲に圧縮空気の膜が球体状に形成され、そのまま、2人が湖の中へ足を踏み入れると、周囲の水が球体状に2人を避けていく。

 

 そして、2人は空気の膜に守られたまま、湖の中に姿を消した。

 

 

 無事に用水路に辿り着き、2人は周囲を見渡す。

 まるで迷路のように入り組んだその通路には、無数のヒカリゴケが群生していた。

 

 

「……当たりですね」

「ああ」

「白金魔導研究所とそっくりだし、どちらかと言うと()()()()()()()()

「……来るぞ、構えろ」

 

 

 アルベルトがそう呟く。

 直後、目の前の用水路から大量の水が吹き上げ、巨大な水柱を形成した。

 フィールは『魔剣エスパーダ』を構え、アルベルトは軽い身のこなしで後ろに飛び下がった。現れたのは、巨大な蟹。人の倍以上の背丈を持つ、左右で三対ものハサミを持つ、蟹のクリーチャーだった。

 

 

「何この進化過程構造をガン無視したようなクリーチャーは、悪趣味な……《大いなる息吹よ》!」

 

 

 フィールは黒魔【ブラスト・ブロウ】の強風で進行を止める。

 そしてフィールは右に退き、アルベルトは術式を唱えた。

 

 

「《吠えよ炎獅子》!」

 

 

 黒魔【ブレイズ・バースト】で焼き焦がす。

 蟹のクリーチャーは黒焦げになり動かなくなった。何も言わずに射線から外れたのは大したものだ。

 

 

「成る程、戦場の勘は未来で培っているようだな」

「まあ、あの場所は地獄だったので」

 

 

 次々と防衛兵として湧き出るクリーチャー達にフィールとアルベルトは蹴散らしながら徐々に進んでいった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 地下室にてルミアは『Project Revive Life』の儀式の一部に組み込まれ、強制的に異能を行使させられていた。

 

 

「……っく……ぁ…………あぁぁ……!」

「ふははは! 成る! 成るぞぉ! 『Project Revive Life』はこのバークス=ブラウモンの手で完成するぞぉぉぉぉ!」

 

 

 ルミアの苦痛など意に介さずバークスは大量のデータの解析に夢中だった。そして、それを見ている青年は内心では冷め切っており……

 

 

「(当然だろう。僕が研究を丸々譲渡したんだ。今は精々自分が勝者だと思っていればいいさ。それにしても……)」

 

 

 バークスに向けていた冷ややかな視線を青年はリィエルへと向けた。

 リィエルは部屋の隅でルミアに背を向けており、かたかたと震えていた。ルミアが声を上げるたびに弱々しい背中がびくりと震え、儀式の様子を気にしていなかった。

 

 

「(はぁ……これはこれで好都合だが……この調子じゃいつ使い物にならなくなるか分からないな。情けない…………)」

 

 

 青年がそんなことを考えていると突然地鳴りのような音が聞こえてきた。

 

 

「何事だ?!」

 

 

 作業を止め、バークスが怒声を上げる。

 エレノアが冷静に研究所内に仕掛けられている遠見の魔術を確認する。そこに写っていたのはアルベルトとフィールだった。

 

 

「流石は帝国宮廷魔導士団特務分室《星》のアルベルト様……一杯食わせたと思っていましたが、一杯食わされたのはどうやら私の方だったみたいですわね。御見事」

 

 

 苦々しく、それでもどこか愉悦の表情で、エレノアが呟いていた。

 

 

「そ、それは一体、そういうことだ!? エレノア殿ッ!」

「さぁ、どういうことでしょうか? とにかく敵戦力は二名。帝国宮廷魔導士団、特務分室のエース、アルベルト様と、そして、帝国魔術学院の生徒である『時渡り』の少女、フィール様ですわ」

「……ッ!?」

「ふっ、はははははははははっ!? もう一つの目的がわざわざ自分から来よった!!」

 

 

 高笑いするバークス。

 何せフィール=ウォルフォレンは未だ知り得ない『禁忌教典(アカシックレコード)』に最も近い存在。それがわざわざ彼方から出向いてくれたのだ。

 

 

「いいだろう! 情報によると、奴らがいるのは、まだこの中央制御室からは程遠い第四区画──あそこならば、対処は容易い! 私の作品で蹴散らしてくれるわ!」

 

 

 バークスは、矢次ぎ早に、モノリスの表面上にルーンを描いていく。

 光の文字となって刻まれたルーンを切っ掛けに、表面に様々なルーンが一気に羅列し、モノリス表面上を上から下へ、左から右へとせわしなく流れていった。

 

 

「ふふふ、あの区画には私が作った無数の合成魔獣が封印されているのだよ。その合成魔獣どもの封印を解き放ってくれるわ!」

 

 

 歪んだ嘲笑を浮かべ、バークスが最後の操作をする。

 

 

 ────────────────────

 

 

 斬り裂く『魔剣エスパーダ』に貫く『魔術ペネトレイター』の銃剣使いとしてクリーチャーを的確に殺していくフィールに、魔術でクリーチャーを確実に仕留めていくアルベルト。

 

 

「《吠えよ炎獅子》!」

 

 

 近づく敵にフィールが炎の咆哮が消し飛ばす。

 前線のクリーチャーは黒焦げになり、残ったクリーチャーを『魔銃ペネトレイター』で撃ち抜く。爪で引き裂こうと迫るクリーチャーの行動を予測し、躱したカウンターで蹴りを入れる。

 

 

「フィール、伏せろ!」

 

 

 フィールはしゃがみ、後ろからアルベルトの【ライトニング・ピアス】がクリーチャーを貫いていく。頭を貫いて死なないクリーチャーはフィールが黒魔【アイス・ブリザード】で凍結し砕いていく。お互いにかなりの技量の使い手である以上、多彩な魔術を使え、フォローも速ければ、最適解が分かりやすくていい。

 

 

「流石アルベルトさん」

「正直驚いたぞフィール。俺も合わせやすくて助かる」

「まあオールラウンダー同士だと、クセがあるコンビに苦労しなくていい。それは同意ですよ。はあっ!」

 

 

 迫り来るクリーチャーの首を切断し、ここらにいるクリーチャーはもう居ないだろう。実際にフォローはあまりしなくてもいい上に、互いに似ている戦闘スタイルだ。次の行動が予測しやすいからいい。

 

 次の場所へと進むとそこに居た生物に思わず呟く。

 

 

「か、亀?」

 

 

 思わずといった風にフィールが頬をひきつらせる。通路を突破した先、大部屋に侵入したフィール達を待ち構えていたのは──

 

 

「ゥォオオオオオオオオオン!!!!」

 

 

 見上げるほど巨大な、大亀の怪物だった。その大部分が透き通る宝石のようなもので構成されている。

 

 

「宝石獣か。過去、帝国が密かに行っていた合成魔獣(キメラ)研究の最高傑作として、理論上の設計だけは為されていたとは聞いていたが.」

「性質とか分かりますか?」

「殆どの攻性呪文(アサルトスペル)が効かん。それに恐ろしく硬い」

「厄介過ぎる……《光の障壁よ》!」

 

 

 こんなモンスターは殺せなくはないが『魔剣エスパーダ』で斬り裂くと殺せはするが、後で刃こぼれしそうなので嫌だ。

 フィールが呻いた直後、大亀がその剛腕を振りかぶった。二人は左右へと散開する。そして直後に大亀の体に埋め込まれた宝石が帯電し始め──極雷の咆哮がフィール達を襲う。

 

 

「上手く撒いても野放しには出来ん。お前なら出来るな?」

「……ハァ、了解です。防御任せますよ」

 

 

 赤い結晶を弾き、右手で握り前に出す。

 熱くなる右手と共に詠唱を開始する。

 

 

「《──―我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ》」

 

 

 その間も、宝石獣は攻撃を続ける。

 図体に似合わない俊敏さで、生物の勘が危険と察知したのかフィールに向かって突進する。

 

 だがアルベルトさんが黒魔【ブレイズ・バースト】を放ち、注意を引いてくれている。

 

 

「《五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は解離すべし・いざ森羅の万象は須らく此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》」

「……ふん」

 

 

 アルベルトは軽く鼻を鳴らしながら、フィールの後ろに回り込んだ。詠唱は完成された。赤黒い三つの円環が亀の前に浮き出ている。

 

 

「消え去れ有象無象」

 

 

 黒魔改【イクスティンクション・レイ】

 セリカしか使えない最大威力の魔術。この世の森羅万象全てを、問答無用で塵と化す究極の破壊魔術により宝石獣の外甲も全てを砕け散り、言葉通り虚無の果てへと消え去っていた。

 

 

 

「っ……ハァ……ハァ……」

 

 

 口元から吐血するのを拭う。

 黒魔改【イクスティンクション・レイ】はフィールにとって負荷が1番かかる魔術だ。この世界に来てからA級やAA級の魔術は代償がかかる。【女帝の世界】も使い方によっては負荷がかかるからあまり使いたくはない。

 

 

「これを使え……」

「魔晶石……いいんですか?」

「この後使い物にならない為だ」

「言うと思いましたよ絶対」

 

 

 その皮肉を漏らし、アルベルトは魔晶石をフィールに渡す。

 魔力の相性がいいのか4割以下の魔力が7割くらいは回復出来た。大亀を倒した最深部、更に通路を進んだ先で声が響く。

 

 

「ここは?」

 

 

 大広間のような室内は薄暗い。床や壁、高い天井の所々に設置された結晶型の光源──魔術の照明装置の光はかなり絞られており、足元がよく見えない。そして、辺りには謎の液体で満たされたガラス円筒が、無数に、延々と規則正しく立ち並んでいた。

 

 それらガラス円筒の一つ一つが、部屋のあちこちに設置されたガラクタの塊のような魔導装置にコードで繋がれ、その装置は現在進行形で低い音を立てて稼働している。

 

 

「どんな場所……ぐっ!?」

「フィール?」

 

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね!!!! 死ね助けて助けて助けて助けて助けて死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね助けて死ね死ね死ね死ね死ね憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い憎い憎い憎い!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね憎い憎い死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね!!!! 死ね助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!! 

 

 

「っっ……! ここが1番……強い!」

 

 

 フィールは霊感に強く当てられやすい。

 何故自分にここまでの感受性があるか知らないが、この憎しみはこの場所から発せられているものだ。辺りを見渡し、その原因を調べようとしたがフィールは口元を押さえて絶句する。

 

 

「っっ!? これ……まさか!?」

 

 

 人の脳髄がそのままくり抜かれて円筒に保管されている。

 隣の円筒もそうだ。その隣もそう。その隣の隣もそうだ。

 延々と、標本のように──否、事実として標本にされている脳髄が陳列されていた。

 

 

「……『感応増幅者』……『生体発電能力者』……『発火能力者』……」

 

 

 アルベルトが読み上げていくのはガラス円筒につけられているラベルの文字だ。そう、標本の名前を示したラベル。

 

 

「全ての円筒に異能力名がラベルされているな。後は被験体ナンバーと各種基礎能力値データが少々……つまり、これは『異能者』達の成れの果てか」

「酷い……なんて事を」

 

 

 そう言ってアルベルトは足を止め、立ち並ぶガラス円筒へ鋭い眼差しを送った。これはもはや人間に対する扱いではない。

 

 右眼が熱くなる。まるで招いているかのような声にフィールは自然と足を運ぶ。その招く声の前に立つフィール。そこにあったのははフィールと同じくらいの年頃の少女だった。

 

 少女はたしかに人の形を保っている。だが、手足を切り落とされ、様々なチューブに繋がれ、無理やり魔術的に生かされている状態だった。ガラスの円筒の外に出れば、恐らく数分で死亡する。

 

 

「……これが…………」

 

 

 フィールはその円筒に触れる。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっ……!?」

 

 

 フィールの視界は真っ白になった。

 右眼は熱くなり、その先にいるのは涙を流しながら此方に振り向く女の子がいた。それは四肢が失われた筈のあの少女だった。

 

 

『どうして……こんな所に人が……』

「私にも……分からない……貴女は……」

『夢と現実の狭間で生かされているだけの死人だよ』

 

 

 少女はただ無感情に言った。

 ただ、その少女が痛々しくて、悲しくて涙が溢れていた。

 

 

『どうして……貴女が泣いているの?』

「分からない……けど痛いの……物凄く痛くて……涙が止まらない……」

『……そっか』

「私は貴女を救えない……私は何も出来ない……貴女を殺す事しか貴女を救えない……」

『……いいんだよ。それでいいの』

 

 

 ただ膝をついて泣いているフィールに少女も涙を流す。

 そんな言葉しか吐けなくて、体に触れてそれでも何も言えない。

 

 

『貴女は優しい人だから……私を終わらせて……』

「……うん……約束する……」

 

 

 涙を拭いて立ち上がるフィール。

 気が付けば自分に流れていた憎悪は薄れて、

 意識が遠のいたフィールに対してアルベルトはフィールの肩に触れる。

 

 

「大丈夫か? 右眼が蒼く変色しているぞ」

「……問題はないです。すみません」

「──私の貴重なサンプルの数々、お気に召されたかな?」

 

 

 唐突に、場違いに。声は聞こえた。

 振り返るとそこに居たのは邪悪な笑みを隠す気すらない。

 

 

「バークス=ブラウモンか」

「その通り」

 

 

 まるで実験動物を見るかのような眼でフィールを見下ろす。

 フィールは俯いたまま、バークスの言葉に耳を傾ける。

 

 

「軍の犬には死んでもらおう。小娘の存在は『禁忌教典(アカシックレコード)』に最も近いのなら、私が手に入れれば第三団《天位(ヘブンズオーダー)》も夢ではない!!」

 

 

 アルベルトはその言葉に目を細める。

禁忌教典(アカシックレコード)』に最も近い存在がフィール=ウォルフォレンだと言った。『時渡り』は知っていたが、実態が分からない。だが、近しい存在というのに引っかかる。

 

 

「……ひとつ聞きたい」

「何だ軍の犬?」

「この異能者達を攫う時、彼等の家族だけじゃなく、何の関係もない人達まで殺したそうだが……異能を手に入れるためにそこまでする必要があったのか?」

 

 

 アルベルトが鋭い眼光をバークスに向けて放つ。対してバークスは一瞬呆気に取られたような表情をした。

 

 

「何を抜かす……私の偉大な魔術研究の礎となるのだぞ。普通なら悪魔と罵られ、殺されようというところをこのバークスが助けようとしたというに、あの馬鹿共は愚かにも私に牙を向け、逃げ出そうとした。全くふざけた話だ……少しは感謝してもらいたいものを」

 

「……助けようと、だと?」

 

「偉大なる魔術師たる私のために身を捧げることが出来たのだぞ? 寧ろありがたく思って欲しいくらいだ。大体、どいつもこいつもまったく役に立たん魔術の崇高さを欠片も理解できぬ愚者共が……! 恥を知れ!」

 

 

 吐き捨てた言葉にフィールは怒り震えた。

 俯いた顔から流れていたのは涙だった。蒼い右眼が涙を溢している。

 

 

「そんな……理由で……」

「むっ?」

「そんな理由で…………!!」

 

 

 フィールの立つ場所から発せられる突風がアルベルトの目を見開かせる。フィールは何も詠唱していない、何もしていない。ただ怒りに震えているだけなのに感じる()()()()は何だ。

 

 

「っっ……!?」

 

 

 アルベルトは驚愕する。

 まるでフィール=ウォルフォレンそのものが高次元の存在に昇華されていくような圧倒的な存在感もあるが、それ以上に目に焼き付く()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。右眼が蒼くなり、右手の甲に焼きつかれたような紋章は紫色に光り出す。

 

 その姿はまるで片羽がもげた蝶のようで、その圧倒的存在感にバークスも訳が分からず後退する。

 

 

「な、何だその姿は……貴様は……っ!?」

 

 

 気が付けばまるで存在そのものが変わったようなフィールがバークスの目の前で手を翳していた。瞬間移動? それとも超加速による移動? 理解すら出来ない中で、フィールの右の蒼い眼はバークスを捉えていた。バークスは咄嗟に右手を出そうとするがもう遅い。

 

 

「貴様! 一体何を–––––!?」

「––––《ylqc殺mtk■■■■》!!

「ガァ––––––––––」

 

 

 その発した言葉は果たして詠唱なのか理解する事すら出来ずに、バークス=ブラウモンはフィールの右手から放たれた【イクスティンクション・レイ】の威力を優に超える威力の光に飲み込まれ、肉片の一つすら残さず、消し飛ばしていた。

 

 


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