バッドエンドの未来から来た二人の娘 作:アステカのキャスター
次からはジャティス編に突入だぜ!喜べ読者よ!
良かったら感想、評価お願いします!!では行こう!!!
同時刻、セラはマナ欠乏症の中、眠っているシスティーナを部屋に運び、グレンが寝ているベッドの隣に座ってグレンが起きるのを待っていた。
「……う、ここ……は……」
「グレン君! 良かった……目が覚めて……」
「セラ……っっ……!? 俺はリィエルのアホに斬られて」
「システィーナちゃんとフィールちゃん、アルベルト君に後で感謝するんだよ? 【リヴァイヴァー】を発動させるのに必死だったんだから」
「なっ!? 【リヴァイヴァー】だと!? アレは……いや、セラも手伝ってくれたんだな」
グレンは驚愕したが、居た人間が人間だ。
アルベルトとフィールは
「私は魔力と人工呼……とりあえず魔力を使ってマナ欠乏症、システィーナちゃんは部屋で寝てるよ」
「おい今人工呼吸って言わなかったか?」
「…………」
「おいセラ……?」
「……っっ〜〜///!! ……と言うかノーカンだからノーカン! フィールちゃんとアルベルト君が【ブラッド・キャタライズ】で手が離せなかったから私が……あうぅ///」
思い出して顔を両手で抑えるセラ。
顔から火を吹きそうなほど、今のセラの顔は赤かった。思い出してしまった羞恥心が今になって顔に出る。
「……っ–––///わ、悪ぃ、セラ。まあおかげで助かったわ」
「ああうぅ……///ど、どういたしまして。後で三人にお礼を言うんだよ?」
「ああ、って待て! アルベルトはどうした!」
「フィールちゃんと一緒に2人を助けに行った」
「いや止めろよセラ! アルベルトの性格ならリィエルは……!」
「大丈夫」
起き上がろうとしたグレンをセラは止める。
アルベルトは九を救い一を切り捨てる人間だ。リィエルが裏切ったとなれば殺すのも厭わないのだろう。けれどセラは大丈夫だと断言した。
「はっ? 何でそう言い切れる!?」
「フィールちゃん、必ず連れて帰るって言ってたから」
あの時のフィールちゃん、真っ直ぐなグレン君みたいだったよ? と言っていた。それを聞いたグレンが腰を下ろした。
「黒猫を信頼してんだな。セラ」
「うん。なんて言うか……赤の他人に思えないんだよね。フィールちゃんはそれに……」
ズウウウウウン!!
部屋にいる2人にめ聞こえる轟音と、地鳴りが2人の目を見開かせる。咄嗟に窓を開け、轟音がした方向へ視線を向けるとそこには……
「なっ、何だアレ……」
「光の……柱?」
研究所から天を穿つような光が空に放たれていた。
グレンは急いでそこに向かおうとするが、まだ胸の傷は完全に癒えている訳ではない。セラだって魔力はない。今出来る事はただ生徒達に危害が及ぶときの防衛程度だ。
「駄目だよグレン君! 安静にしてなきゃ!」
「だけど!」
「今のグレン君だって重傷だったんだから!!」
フィールが心配だ。
あの謎の光の柱は研究所から放たれている。あそこには恐らくフィールやリィエル、ルミア、そしてアルベルトが居るのだろう。
だが今のグレンには何も出来ない。場所は分かっても、血が少し足りない状態でふらつくグレンでは今行った所で、救出に行った2人の足手まといになりかねない。
「クソッ! あの場所で何が起きていやがんだよ!?」
ただ今の自分の無力さを壁に叩きつけていた。
────────────────────
右手から放たれた光はバークスを跡形もなく消し飛ばし、その余波は天井を軽々と貫き天にまで届いていた。アルベルトはフィールを見ると背中から飛び出ている蝶の片羽が消えていったのが見えた。
自我なく暴れ出したら……とアルベルトは右指をフィールに向けていた。
『─────』
「■■jnukmwb–––––ぐっ!?」
頭に流れた憎悪が消え、何かの声が聞こえた。
右眼から凄まじい痛みによって、崩壊していた自我を取り戻す。今の痛みがこれ以上は危険だと通達しているようだ。右眼から血が流れている。
「無事か!」
「ハァ……ハァ……何とかです……」
「フィール、今のアレは何だ……?」
「……ハァ……ハァ……分かりません。ただ、怒りに支配されて気づいたらコレですよ」
気が付けば右眼は金色に戻っている。
背中から生えた蝶のような片羽は無い。あの圧倒的な存在感は消えていた。謎の疲労感と右手の表面が少し焼き焦げているのを除いて、フィールは無事だった。
「魔力が減ってる訳じゃないし……異能?」
「フィール、お前は異能者か? あの力は何だ?」
「……わかりません。けど、『時渡り』に成功した私にも
「……そうか」
天井を突き破ってる。
右手の表面は白魔【ライフ・ウェイブ】で治した後、この場所の怨念、怨嗟はバークスを殺したが、未だに存在している。
十字架のロザリオを右手に持ち、フィールは手を合わせて祈りを告げる。
「《––––主の恵みは深く、慈しみは永久に絶えず、貴方は人なき荒野に住まい、生きるべき場所に至る道も知らず》」
アルベルトは目を細める。
異能者であるが故に救われず、迫害されてしまい、正しい生き方を知らなかっただろう。
「《餓え、渇き、魂は衰えていく。彼の名を口にし、救われよ。生きるべき場所へと導く者の名を》」
右手で十字を切り、フィールの右手を少女の額に向ける。
「《渇いた魂を満ち足らし、餓えた魂を良き物で満たす。深い闇の中、苦しみと鉄に縛られし者に救いあれ》」
悲しいが、もうこの世界では生きられない。
治せはしない、救えもしない、ただ出来るのは死の安らぎに導くだけしかできない。
「《今、枷を壊し、深い闇から救い出される。罪に汚れた行いを病み、不義を悩む者には救いあれ。正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を》」
けれど、少女はそれでいいと言った。
約束した。自分にはこれだけしか出来ない。だがせめて……
「《──
それだけが今のフィールに出来る最大の送迎だ。
フィールの右手から放たれた【ライトニング・ピアス】は少女の命を終わらせていた。
「…………終わったか」
コクリと頷くフィール。
その沈黙の中、アルベルトがその沈黙を切った。
「……ありがとうございます。待っててくれて」
「構わん。お前の気持ちを理解出来ないわけではないからな」
フィールは少しだけ悲しい顔をしていた。
だが、嘆いている暇などない。ルミアとリィエルを救う為にフィールは気持ちを入れ直した。
「行きましょう」
「ああ」
今ここで絶望なんて時間の無駄だ。《愚者》はただ救いたいが為に動けばいい。フィールとアルベルトは再び足を進め始めた。
────────────────────
「妙ですね……」
「クリーチャーが現れん」
「罠の可能性もありますけど、もう最深部ですよね?」
「ああ、エレノアに仕掛けた魔術反応は消えたが、消えた場所は目の前の扉の部屋からだ」
フィール達は警戒しながら進んで行ったが、一向に罠や襲ってくる人の気配は無い。それどころか、もう目的地の目の前の扉の前だ。フィールはアルベルトに視線を向ける。アルベルトは頷き、突入を許可する。
「《ぶっ飛べ》」
黒魔【ブラスト・ブロウ】で扉を吹き飛ばす。
扉の部屋の中には、天井から延びる鎖に拘束されたルミア、宮廷魔導士の礼服に身を包んだリィエル、そして魔導演算機の前に立つ青い髪の青年がいた。
「フィールさん!? それにアルベルトさんも!」
「助けに来たよルミア……そして」
今のルミアは衣服がボロボロで、あられもない姿にされている。同じ女としては許せない事をしたようだ。フィールは青年を睨み付けて、隣にいるリィエルに目線を移す。
「リィエル、貴女もね」
「それ以上……兄さんに近づかないで」
沸々と沸き上がる激情を必死に抑えながらも、フィールは怒気を宿して目の前の青年を睨み付ける。両の拳は相当堅く握られており、相当な怒りを抱いている事が窺える。
「リィエル、私も貴女に対して怒ってるから。グレン先生を刺した事とか。後で強く殴るから」
「なんとでも言って。わたしは兄さんのために戦う」
リィエルの意思は変わらなかった。
フィールは呆れた眼でリィエルを見て、一つ質問した。
「あっそ、なら一つ聞くよ? リィエル、貴女の兄の名前は?」
「……はっ? いきなり何を……」
「兄の名前を答えられたなら手を引いてあげる」
ただ簡単な質問でフィール達が手を引いてくれるなら安いものだろう。だが、リィエルには質問の意図の意味がわからない。
「…………わかった。そんな簡単なことでフィール達がそうしてくれるなら」
フィールの意図が理解出来ない。意図を考えようとしたリィエルだが、リィエルは頭脳派では無い為考えるだけ時間の無駄だ。諦めてフィールの指示に従った。
「わたしの兄さんの名前は……」
そう、普通ならそれは簡単なことだ。物心ついた時からたまに支え合って生きてきた兄妹の名前を言うなどリィエルに限らず誰にとっても造作のないことだ。
しかし……それだけなのに……
「わたしの……兄さんの……『名前』……は」
リィエルは言葉を詰まらせていた。
「どうした? 大好きな兄なんでしょ? 名前くらい造作もなく言える筈でしょう?」
「わたしの兄さんの『名前』……は……『名前』…………うっ……頭が……痛い……。な、なんで……?」
「耳を貸すなリィエル!」
「《黙ってろ》」
黒魔【ノイズ・カット】でリィエルの兄の声を遮断する。
リィエルは頭を抱えて剣を落としていた。しかし、いくら名前を言おうとしてもリィエルの口はぱくぱくさせるだけで、やがて表情を歪ませ頭を押さえて脂汗を浮かべていく。
「そりゃそうだよね。今のリィエルは記憶がグチャグチャ、感情もバラバラ、一体自分は何なのか理解できない」
そんなリィエルに対して淡々と言葉を連ねるフィール。幾ら考えてもリィエルの口から兄の名前は出てこない。頭を押さえながら、大剣を拾い、リィエルは刃をこちらに向ける。
「私は……私は……! 兄さんの為に!!」
錯乱したリィエルがこちらに突っ込んできた。
剣を拾い向かってきたリィエルにアルベルトは指を向けるが、それをフィールは右手で阻んだ。アルベルトはフィールを睨んだが、大丈夫と言わんばかりの視線を向け、魔術の起動を止めた。
「私は……! ぐっ!?」
突っ込んでくるリィエルはフィールとあと二メトラの地点で自分の体が地面に這い蹲っている事に気が付いた。フィールの右手には既に切り札であるブラックストーンが握られていた。
「黒魔改【グラビティ・プリズム】無理に動くと骨折れるよ」
「ぐううぅぅ……!?」
「驚いたな。いつ仕掛けた?」
「未来で結果を先に反映させました。詠唱も必要ないですからね」
重力の結界がリィエルを押し潰さんとする。無論加減はしているが、リィエルはこれくらいしないと動くからだ。
フィールのみが使える
魔術に必要な詠唱と言う『過程』は先に『結果』さえ生み出してしまえば詠唱せずとも『結果』を反映した未来を生み出す事が出来るのだ。
まあ最大3分までしか持たないし、3分も使えば魔力はかなり減る。だが数秒程度なら充分使える。キャンセルも可能だが、使い勝手がいいとは言えない。詠唱破棄の代わりに魔力とそれを支える脳の演算能力が必要だからだ。
「ぼ、僕のリィエルに何をする気だ! 離せ!」
リィエルの劣勢に焦った青髪の青年が。フィールに対して叫ぶ。【ノイズ・カット】の時間切れだ。
「黙れ兄を語る偽者、貴様の正体は割れている」
「ライネル=レイヤー。かつて、仲間と一緒に『Project:Revive life』を研究し、その仲間を殺した男、それが貴方の名前」
「……『Project:Revive life』? どういうこと……?」
這いつくばったままのリィエルがフィールに聞く。何故リィエルの正体に『Project:Revive life』が出てくるのか理解出来なかったからだ。フィールは重い口を開いた。
「そのプロジェクトの名前は通称『Re=L計画』」
「「!?」」
「そしてリィエル、貴方は『Re=L計画』の世界初の成功例、けど……それを生み出したシオンはライネルに殺され、その妹イルシア=レイフォードも殺された。そしてその後、リィエルをグレン先生が救った」
「あ…………っ!?」
バラバラになった記憶の
燃えるような赤毛の青年に、それに刃を突き立てた青髪の青年、そしてそれを見ていた同じ燃えるような赤毛の妹、まるでリィエルのような人間が刃を突き立てた青年に傷を負わせられた事。
グレンとアルベルトが二年前に天の智慧研究会が運営している研究所を強襲したこと。その支部にいたシオンという内通者と突如連絡が取れなくなったため強襲したのだがその道中にて大雪林に瀕死の重傷を負わされていた
その後、シオンの遺体も発見。と同時にガラス円筒に収まっていたとある少女を密かに回収し、保護した。上層部にバレないようにアルベルト達は隠蔽しながら。そして、その少女こそがイルシアの記憶を『Project:Revive Life』によって記憶を受け継いでいたリィエルだったということ。
リィエルの正体は世界初の『Project:Revive Life』の成功例であるが、シオンの妹であるイルシアの『ジーン・コード』である肉体情報と『アストラル・コード』記憶情報を引き継いだだけの魔造人間だ。
しかし、リィエルは納得できなかったのか唯一の味方である『兄』に縋るような視線を送るが……
「嘘……だよね……兄さん」
リィエルは真実か分からず兄へ目線を向ける。
だがその兄は髪をぐしゃぐしゃにして、本来の髪型に整える。
「……やっぱりあの時、シオンを安直に始末したのは
本来の口調でリィエルにそんな事を言い放っていた。
「……え?」
「術式はシオンの固有魔術オリジナル同然になったいたから、そのままでは使えないし……『イルシア』のコピー品であるお前の名前を『リィエル』と安直に設定していたからね。白魔には『キーワード封印』ってのがあって、シオンに関わる記憶を封印出来る筈だった。けど設定が間に合わず、ちょっとでも切っ掛けがあれば簡単に封印が解けるから、色々と小細工をしたのに……本当に上手くいかないもんだな」
邪悪な笑みを浮かべ、リィエルを見下す。
シオンを偽っていた兄。いやライネルは本性を現した。
「あ、ああ……」
「君は僕の妹だけど、もう要らないや」
「その口閉じろ! 《雷槍よ》!」
フィールは殺さない場所に【ライトニング・ピアス】を発動しライネルへと閃光を飛ばす、が。その閃光は不意に間に乱入した三つの影によって防がれた。その防がれた存在にアルベルトも目を見開く
その正体は…………
「だって、
無表情で大剣を持つ三人のリィエルだった。
三人ともからのボンテージを着用しており、錬金術で錬成した大剣を構えている。リィエルと全く同じ……リィエルのコピー体がそこにいた。
「……王女を攫った理由がコレか」
「はっ……どうせお前にはできないとか思っていたんだろうが……言っておくが今回は完璧だぞ? なにしろ、余計な人格や感情は念入りに削除! 後から記憶調整なんて面倒なことはせず、リィエルの凄まじい戦闘能力だけを受け継いだ、俺の思い通りに動く、俺だけの操り人形だ!」
アルベルトの反応を見て愉快そうにライネルが叫ぶ。
「もう『Project Revive Life』はシオンだけのものじゃない! このルミアとかいう部品のおかげで! 俺はもういくらでもリィエルを作り出せるんだ!」
「……っ!」
最初からわかってたが、バークスと同じくらいの屑だ。アルベルトは冷静ながらもその視線に静かな怒気を含み、フィールは俯いている。だが、ライネルはお構いなしに叫ぶ。自分の勝利を確信して。
「今回のリィエル達は完璧だ! 『アストラル・コード』から余計な人格や感情は予め徹底的に抜いたから僕の言葉に忠実に従う! 記憶の改変やら調整やら七面倒な真似などしなくても俺はリィエルの凄まじい戦闘技能だけを受け継いだ人形を生み出せる!」
「い、や…………」
「もう兄だなんだ演じるのも煩瑣だったからな! 余計な感情を持って右往左往されるくらいなら最初から余計な心なんて無くして俺の思い通りに動く人形を作れればそんなガラクタなんていらないんだよ!」
「あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そうライネルは言い放ち、兄だと信じていた人に裏切られ、目の前に並ぶ自身と同じ顔をした存在。それらを前に、リィエルは力なく両膝を床につき、頭を抱えながら、生きる意味を失ってしまった。
「…………ぷっ」
「あっ?」
そんな中、誰かが吹き出した。
「ははは、あはははははははは!!」
リィエルが三体、明らかに状況は絶望的なのにも関わらず、そんな中でフィールは耐え切れず笑ってしまう。
その笑みはリィエルの感情の崩壊を見て笑ったものでは無い。滑稽さに笑っている訳では無い。
「ああ、安心したよ」
それは怒りだった。
バークスと同じ人間を何とも思わない屑に対する圧倒的な怒りにフィールの右眼は
「貴方達が、私の思った通りの外道だって事にさ。ついつい笑っちゃった、キャー恥ずかしい」
「な、何だお前、この状況で頭がイかれたのか?」
「そんな感情の無いガラクタなんて」
フィールは一瞬にしてリィエルのコピー体に近づいた。
【女帝の世界】を使い、決闘でグレンに迫った強化魔術の重ね掛けでリィエルのコピー体は反応すら出来ない。いや、直感や戦闘の勘がない以上、咄嗟に避ける事すら出来ないだろう
「…………へっ?」
「––––もう嫌と言うほど
それはまるで死神の鎌のようだった。
フィールの振るう『魔剣エスパーダ』はコピー体であるリィエルを容赦なく両断し、バラバラに斬り裂き、無詠唱の【ブレイズ・バースト】が肉片を跡形もなく燃やした。
それは余りにも呆気ない決着、気づいた時には既にリィエルのコピー体はこの世から姿を消していた。その事にライネルは酷く動揺した。
「ば、馬鹿なああああああああああっ!?」
「そもそもリィエルじゃ本気の私の相手にもならない。それこそ見ていたのに、何粋がってんの? せめて『剣の神』エリエーテのデータでも打ち込んで出直してきなよ」
「さ、三体だぞ! リィエルの同スペックが三体も!?」
「感情っていうのは偉大でね。何も知らない自分に何かを教えてくれる。今泣いているリィエルだって、辛いと学んだから泣いている。感情が有るから人は学び、成長する。それが欠落した人形なんて、獣にも劣る」
フィールはリィエルの前に立つ。
感情があるから人間だ。感情がなければ獣に劣る存在だ。リィエルは顔を上げ、涙を流していた。だが信じられないとばかりにライネルは動揺する。
「そ、そんな非常識な事……!」
「もう黙ってください。後はじっくり軍で聞くので」
「た、《猛き雷帝よ・極光の閃槍以って・刺し穿て》!」
ライネルが【ライトニング・ピアス】を放とうとするが、魔術を発動する事が出来ない。それに酷く動揺したライネルはフィールを見ると目を見開く。フィールの左手には『
「残念でした。魔術はもう使えないよ」
「『愚者のアルカナ』だと!? アレはグレン=レーダスにしか使えない筈!? お前は一体……!」
「ライネル、貴方の罪は3つ、シオンとイルシアを殺した事、ルミアを部品扱いし、リィエルを捨てた事、そして3つ目は––––––」
魔銃ペネトレイターがライネルの額に突き付けられる。
ライネルはただ恐怖して震える事しか出来ない。怒りに満ちた顔のフィールは最後の罪を告げた。
「先生をリィエルを使って襲わせた事だ」
「ひぃ……ま、待ってくれ!?」
「
「ま、待っ──!」
フィールは迷わず引き金を引いた。
ルミアやリィエルは目を瞑り、耳にはパァン! と鳴る銃声音が木霊する。銃弾は狂いもなくライネルの額に当たり、ライネルは倒れた。
「フィールさん……?」
「大丈夫だよルミア、リィエルも」
意識を失っているだけだ。よく見るとライネルの額は赤いなっているが、銃痕は見当たらないし、一切血が出ていない。アルベルトはため息を吐く。
「そんな事したリィエルだって僅かながら心を痛めるかもしれないし」
「非殺傷系のゴム弾と分かっていなかったら俺が止めていたぞ。全く」
「さて、ルミア。服以外に怪我は無い?」
「う、うん大丈夫……」
ルミアを縛る鎖は『魔剣エスパーダ』で斬り裂いて、服はフィールの宮廷魔導師団のコートを貸してあげた。リィエルの方を向き、指を鳴らすと【グラビティ・プリズム】が消えていった。
リィエルに近づき、目の前に立つと、パァン!! とフィールはリィエルの顔を力一杯叩いた。それはルミアでさえ目を瞑るくらい痛そうな程。
「……これはグレン先生の分」
「……私……は」
「リィエル、偶には一つだけ私が貴女に一言授けよう」
フィールはリィエルに告げた。
座り込むリィエルをフィールは見下ろしながら真面目な顔で一つの言葉を授けた。
「自分を憐れむな。自分を憐れめば、人生は終わりなき悪夢だよ」
その言葉にリィエルは震えた。
人形と卑下するこの少女にどうしても伝えたかった言葉だ。憐れんで、苦しんで、自分の居場所はない。生きる価値はない。そう思い込んでいるリィエルにどうしても伝えたかった言葉だ。
「でも……私は人形で……人間じゃない……」
「それの何が悪いの?」
「…………えっ?」
人形と卑下する少女は困惑した。
この少女は人形の何が悪いと真っ正面から口にしたのだ。
「リィエルが人間じゃないってのは分かってるよ。『Re=L計画』で生み出されたのは知ってるし、で? それと私がリィエルやルミアを助ける事に、何か都合の悪い部分があるのか? 言ってみなよ?」
「え…………いや、だから……私はみんなを騙して……」
「いまリィエルは『騙した』とか言ってたが、それは違う。貴女は知らなかった。ただ、秘密が明るみになっただけ、騙したんじゃなく、知らなかっただけ。だからリィエルは悪くない」
更に困惑するリィエル。
この人は何を言っているのだろう。人形である自分を許すなんて、リィエルには理解が出来なかった。
「あのねリィエル。確かに貴女は人形、魔造人間かもしれない。けど、私ははっきり言ってあげる。
「……だから、私は…………!」
「貴女が私やルミア達を見て何を思った?」
「!」
「楽しかった。違う?」
ただ俯いたリィエルは力無く頷く。
楽しかった。馬鹿みたいに騒いではしゃいで、それで心が安らいで、楽しかったのだ。それを思い出して涙が溢れ始めていた。
「それが答えだよ」
「でも…………私には.生まれた意味も、何のために生きるのかも、いるべき場所もない。グレンも刺して、システィーナも傷付けた。そんな私が──」
「あー!! もう!! 面倒臭い!!」
「っ!?」
急に口調が変わったフィール。
フィールは心の声の全てをぶちまけた。
「ウジウジするな! 傷つけたなら後で謝れ! 傷付けた罪があるなら次はその人を守る為に生きてみろ! 拳骨も甘んじて受け入れて、痛くても耐えて、居場所を取り戻せ!! 生きる意味なんて誰も分からない! ただ、探すしかない! だから探せ! この世界を生きてそれを必死に探してみろ!!」
それはまるでグレンのような口調で声を荒げる。
生まれてきた意味なんて分からない。分からないから探すしかない。リィエルはここから始まるのだ。スタートラインで挫けているなんて笑えない。
フィールは右手をリィエルに差し出した。
「––––自分の為に生きて、自分のやりたいように生きなさい。それが、私みたいな《愚者》から貴女への
リィエルは震えた手でフィールの差し出した手を掴む。
フィールは引っ張り上げるとリィエルはフィールの胸で泣き叫んだ。ただ、悲しさ故の涙ではなく、自分を肯定してくれたフィールの優しさにただ泣き叫んだ。
「私……まだ……ここにいていいの?」
「うん。ねっ? ルミア」
「勿論、また仲良くしてくれたら許してあげる」
ポロポロと涙が溢れてしまう。
止めどなく溢れるそれがリィエルの感情を決壊させ、フィールの胸で泣き続けた。ルミアもフィールとリィエルを抱き締めて、涙を流していた。
「うああああああああああっ!!」
「大丈夫、大丈夫だから」
フィールは優しくリィエルを抱き締めて背中を摩る。
アルベルトがそれを少しだけ、微笑ましく思い無粋な真似はせずに退路の準備を始めていた。
ただ、あの時見た蒼い瞳はリィエルを抱き締めている時には消えていた事に少しだけ疑問を感じて……
────────────────────
ルミア誘拐事件も終わり、旅籠へと戻るフィール達。
フィールを待っていた生徒達やグレン先生、セラ先生は何事も無く無事で良かったと素直に安堵の息をつく。
生徒達もグレン先生が死にかけていたり、リィエルとルミアがどこかへ消えたことなど心配していたのだが、システィーナが何も言わずに待っていて欲しいとお願いしていたようで静かに待つことにしていたのだ。
何も聞いていなかった為、不安で仕方がなかったのだ。
クラスメイト達の元へ戻ったルミアとリィエルは真っ直ぐにシスティーナの元へ向かった。
「フィールさん、何が……」
「まあともかく、今はあの5人だけにしてあげて」
システィーナが先頭に立ち、その後ろにセラとグレンの姿があった。
そして、みんなが見ている中でリィエルはシスティーナにぼそぼそと何かを話し、パァン! とシスティーナが突然リィエルの頬を平手で叩いた音が響き渡り、一同を驚かせる。
「~~~~~~ッ! ~~~ッ!」
システィーナが涙ぐみながら、リィエルに何事かを捲し立て、その後ろからセラも抱き締める。安堵の涙を流しながら力強く抱き締める。
「……っ……っ! ……」
抱きしめられるままのリィエルも、ぼろぼろ涙を零しながら何事かを呟いている。それにグレンは片目を瞑り微笑んでいた。自分を貫いた事は全部、システィーナが代弁していたから。
そして、それを見守っているルミアの目にも大粒の涙が浮かんでおり、それを見ていたクラスメイト達はいつもの光景に戻ったと、無事に終わったんだと心からそう思っていた。
────────────────────
『戦いはいつ終わるんだろうね』
腕に包帯を巻いているフィールにエルザを呟いた。
治癒魔術は日に使えるのに限界がある。アレだけの剣撃で更に最上の戦闘能力に『剣の神』エリエーテのデータまで含められたら少女も気が滅入る。
『急に何?』
『イルシアのコピー体をもう何体殺したと思ってるの? 流石に疲れるよ』
『……まあね』
『剣の神』エリエーテの剣技に対抗出来るのは帝国宮廷魔導師団の《剛毅》と《戦車》のエルザ、《愚者》のフィールくらい、後は『双紫電』のゼーロスくらいだろう。まあ魔術を使わなければエルザの方が断トツで強いが……
『ねえエルザ……もし、イルシアのコピー体が感情を持っていたらさ。仲良く出来たと思う?』
『私は無理』
『うわっ、はっきり言っちゃったよ』
『ただ……』
『?』
『感情の無い人間なんて、やっぱり悲しいかな。私のイルシアに向けての殺意も摩耗するくらいなんだから』
凄腕の暗殺者、イルシアに奪われたエルザの人生。
憎くて仕方ない相手のコピーが何体も何体も現れたら流石に精神的に磨耗し、疲れてしまうのだろう。
『けどね』
『?』
『イルシアのコピーに感情があったなら……それはイルシアじゃない。ただの別人とは思うかな』
『別人……ねぇ? 自分次第で仲良くはなれるって捉えていいわけ?』
『勝手にしなさい』
その曖昧な答えにクスッと笑ってしまった。
エルザは優しい人間だ。あの時母と叔母を失って尖っていた私に声をかけてくれた親友。「魔術を教えて」なんて下級生から言われたらプライドが許さない学校だった中で、唯一私と対等に接した人間。
自分次第で人は変わる。それがエルザの答えだった。
────────────────────
「結局は自分次第……か」
その通りなのかもしれない。
結局、運命を切り開くのは自分次第。今のリィエルが生きたいと思うのも自分次第。だから、だからこそ今のリィエルは笑顔でバレーボールに混ざっているのだろう。
あっ、殺人スパイクでカッシュ君が吹き飛んだ。
「これが……お前の守りたかった未来か?」
「いいえ、私はこんな未来は知らないですよ。ただ、守りたいと思えるなら、その未来はハッピーエンドなんでしょう」
木陰で一休みするフィールと気付かれないように木に背を預けるアルベルト。フィールは黒いビキニで緑色のパーカーを着ている。アルベルトは変装をしているが、フィールはあの光景を見て、フッと笑う
「ありがとうございます。アルベルトさん」
「何に対しての礼だ」
「リィエルの報告の虚偽、アルベルトさんがやったんでしょう?」
「…………フン」
『Project:Revive life』が明らかになればリィエルの今後は危ないだろう。だからアルベルトさんは報告書を隠蔽し、『Project:Revive life』について明るみに出ないように仕向けた。
任務に帰った後の後始末は殆どやってくれた。本当にこの人凄い。戦闘能力もそうだけど、やはり超一流の魔術師だ。
「リィエルを救ったのはお前だ。礼を言われる筋合いは無い」
「それでもですよ。私は未来であの子の地獄を見ましたから」
「『Project:Revive life』が利用された未来か……」
「あんなのは作られちゃいけないんです。だからこそ、リィエルは人形のままの感情じゃダメだって思ったら、気付かぬうちに声を荒げてた。全く、冷静になりきれない時点で魔術師失格ですよ」
冷静さを保つのは魔術師の基本だ。
アルベルトはその言葉に少しだけ笑った。
「お前が魔術師失格なら他の人間は魔術師以下となるぞ」
「それは勘弁、じゃあやっぱり私は魔術師ですよ」
フィールは笑ってしまった。
下手な謙虚は侮辱だから、直ぐに訂正してしまった。真剣な顔でフィールにアルベルトは質問する。
「フィール=ウォルフォレン」
「……? 何ですか?」
「お前は『
『
「……未来でも、それだけは不明でした」
「そうか」
「だけど一つ、
「歪み……お前も歪みの対象なのだろう? 世界を超えたのに世界は何故お前を修正しない?」
「……それは私にも分からないんです。改変となれば、世界そのものが
世界は歪みを許さない。
定められた運命と言うものが存在するなら、世界は歪みの対象であるフィールに対して、修正の為の存在くらい遣すだろう。
なのに、フィールに対して発動しないのは世界そのものに何かあるのか、フィール
この世界に来てから
チラッと自分の右手の甲を見ると、片羽の蝶の紋章のようなものが未だに存在している。異能関連に関わった時、
この紋章はフィール自身でさえ理解出来ず、ただ『銀の鍵』の他にフィールには全く別の、
「引き続き此方で調べる。リィエルの事は暫く任せるぞ」
「はい。アルベルトさんも気をつけて」
そう言ってアルベルトは木陰から姿を消していた。
全く、いつも手が早い人だ。薄く笑って、空を見上げる。少しはハッピーエンドに出来たのかな。そこからグレンが覗き込む。
「よう黒猫」
「……先生、リィエルとは話せたんですか?」
「『ルミアとシスティーナを守る、そしてグレン、わたしはあなたの剣になる。グレン達が望む道を切り開くために、グレンが守りたいものを守るために、わたしは剣を振ろうと思う。それが私のやりたい事だから』だとよ。兄の代わりじゃなく自分の意思なら否定出来ねーよ」
「ふふっ、そうですね」
それが自分の意思なら否定なんて出来ない。
リィエルのやりたい事なら尚更だ。グレンはフィールの頭に手を当てて呟く。
「……ありがとな」
「?」
「リィエルを叱ってくれた事だよ。イルシアとの約束、俺じゃなくてお前にやらせる事になっちまったけどな」
「ああそれですか。気にしてませんよ。ただ……」
てか私は猫か! と撫でられた手を恥ずかしくて払い除ける。グレンは真剣な顔でフィールを見る。その表情にフィールは軽く笑いながらバレーボールをしているリィエルを見る。
「リィエルは
「?」
「ほら、ああやって居場所を作って、教えあって、自分の為に生きるのが1番、
自分の為に生きる。傲慢な生き方だ。
だが、傲慢に生きなきゃ、私みたいに全て守りたいと言う傲慢さとリィエルのそれは少し違うが、でもリィエルが自分の為にそれを選んだなら否定するつもりはない。それはきっと自分の傲慢なのだろう。
「……ふっ、そうだな」
「それはそれとして、どうでした?」
「あっ? 何が?」
フィールはニヤニヤと笑いながらグレンに対して特大の爆弾を落とした。クラスを巻き込もうと思ったが、流石にセラ先生が恥ずかしそうだからあえて耳打ちでグレンに告げた。
「セラ先生のく・ち・び・る」
「ぶふぉっ!? お、お前あの采配絶対わざとだろ!?」
「まさかまさか、それともアルベルトさんが良かったですか?」
「それこそもっと嫌だわ!!」
「セラせんせいにまかせたのはわざとじゃありませんよー」
「棒読みじゃねぇか! 大人をからかいやがって、そこに直れ! 【イクスティンクション・レイ】だ」
「セラ先生〜! グレン先生が話があるって〜!!」
「おまっ!? 汚いぞ黒猫!」
「今の私は《愚者》ですよ? 汚くて結構」
「グレン君、どうしたの?」
「ぬおおおおぉ!? 白犬!?」
フィールはクスクスと笑いながらグレン先生から逃げ、グレン先生は昨日の恥ずかしさからセラ先生から逃げていた。まあフィールは遠く離れた所で【イリュージョン・イメージ】で誤魔化して上手く撒いていた。これで一層面白くなりそうだが、撒いたフィールの隣にリィエルが立っていた。
「何してるの? 三人とも」
「さあ? セラ先生とグレン先生の鬼ごっこかな?」
リィエルの頭に手を乗せてフィールは撫でた。
カラカラと笑いながらあの2人が走っていた場所を見ていた。フィールは撫でながらリィエルに問う。
「今、生きてて楽しい? リィエル」
「分からない。けど……」
未だ生きる意味は分からない。
だが、リィエルが今生きたいと思った理由をフィールに微笑みながら語った。
「この居場所を守りたい。そう思えた」
「……そっか。それは良かった」
「フィール」
「?」
「私は貴女も守りたい。グレンみたいで、セラみたいな貴女も」
「ふふっ、物好きだね。それは使命?」
「自分の意思」
「上出来、じゃあまた遊んでいきなさい」
と言ってリィエルは再びバレーボールへ足を運んでいた。ただ男子達はヒイイィぃ! と叫びながらも次は負けないといつの間にか参戦していたギイブルとバレーボールを繰り広げていた。
「……っ!? ごほっ! こほっ!!」
急になにかがむせ上がってくるような感覚に襲われ、フィールは咳き込んだ。まるで喘息を患った時のようなそれは何度か連続して訪れ、呼吸が難しくなる。
「カハッ……! ハァ……ハァ……」
少し収まったのを機に、口を押さえていた手を退ける。すると、その手は赤く滲んでいた。
「ハハッ、分かってるよ。そろそろ
自嘲しながらフィールは赤く染まった手を見て誰も居ない中で呟く。分かっている。私はきっと、2人が生きる未来の行く末まで
「……せめて
フェジテの滅びに決着をつけた後からは、フィール自身がどうなっているのか分からない。緩やかな毒のように身体に巡る運命の毒が、フィールに告げているようだった。
お前はもう長くないと、フィールには分かっていた。
けど、最善策の先に生まれたハッピーエンドで終わる世界があるのなら……
「1番、歪なのは……私なんだろうね。エルザ」
フィールは空を見上げて自嘲していた。