バッドエンドの未来から来た二人の娘 作:アステカのキャスター
再びエクソダスさんとコラボ致しました!
長いので前編と中編、後編に分けます!
では行こう!
ミアル「はぁぁ!!」
エルレイ「いいいいぃやああああああああ!!!」
誰もいない真夜中、何もない林の中で、エルレイとミアルは自分自身の武器を手に自分の信念を貫くため戦いあっていた。
ミアル「いい加減……諦めてほしいな!」
エルレイ「できるわけない、ふざけないっで!!」
二人の武器がかち合うたびに空気が揺れ、地面が振動する。
エルレイは大剣でミアルの武器を破壊し戦意喪失させようとし、そしてミアルは氷でできた鎌を使用し、それを軽々と受け流していた。
ミアル「さて、そろそろ終わりに……!」
エルレイ「なに……!」
二人が戦って後ずさりした直後、二人の戦っていた中心に空白の手紙が1通、空から舞い降りてきた。その瞬間、2人の動きが止まる。降ってきた空白の手紙に、ミアルは普通気付く事はないナニカを感じたのだ。
ミアル「……へえ」
ミアルは氷の鎌をしまい、その手紙を片手に取る、エルレイも大剣を消滅させ、ミアルに近づく。差出人は不明、しかしその内容は。
『あの少女に会いたいか?』
というエルレイにとって引っ掛かる言葉運びの内容だった。
エルレイ「……あの、少女?」
エルレイは嫌でも思い出す。
『私はエルレイ先生じゃない。だから––––』
思い浮かべたのは長い黒髪の少女。
優しい笑顔を持っていながら、何かに絶望した顔の少女の事を……。
ミアル「……どうする? リィエル」
ミアルは少し楽しそうに聞き返す。
どうやら、戦いは一時中断。この手紙には何かがあるのは明白。敵同士の2人が動きを止めなければいけないこの手紙にミアルは少し楽しそうに見えた。
エルレイ「決まってる」
エルレイは即座にミアルの持っていた手紙を取り上げる。この手紙の差出人は未だ不明だ。前回も目的が分からずにただ偶然にも出会えたに過ぎないあの少女も居る。
だが、それ以上に……
エルレイ「これに乗れば、黒幕の正体が、掴める可能性あり、わざと乗せられてやるだけ」
そういうとミアルはその言葉を待ってたと言わんばかりに微笑んだ。やられっぱなしじゃ性に合わない。動かされただけで終わるなら、2人は最初から戦っていない。
それにこんな術式、存在してはいけないのだ。
こんな術式があっただけで世界は崩壊する。故に2人は昔のように手を取った。一時的な共闘、だが2人がすべき事は決まっていた。
ミアル「そう、じゃあ、ロクサスと、シュウ君には内緒ね」
エルレイ「ん、ルミア……私たちの」
ミアル「私たちの」
「「
手紙を開いた瞬間、二人の意識は白い光に奪われていった。
────────────────────
血の匂いがする。
この地域は人が住まなくなった廃れた街中、そんな場所で2人は襲いかかる外道共を殲滅していた。
飛び散る鮮血、地獄を思わせる死肉が地面のあちこちに転がり、最後の1人をエルザが斬殺すると、フィールは風の魔術で死体を纏め上げて、燃やした。
フィール「任務完了……また気が滅入る任務だったよ」
エルザ「相変わらず、敵が減らないよね。ちょっと疲れてきちゃった」
死体の山を気付き上げて、魔術で死体を積み上げて、斬殺も火葬も全部自分達でやって疲れた。相変わらず血の臭いはとれない。腐ってしまった感情に腐ってしまった自分は多分、地獄に堕ちるのだろう。
とりあえず自分の服を水で流して魔術で乾かす。エルザの服まで乾かした瞬間、フィールは十時の方向に視線を向ける。
フィール「……! エルザ」
エルザ「分かってる。直感でしかないけど、かなりの戦闘経験が濃い。多分新手か……
途轍もない魔力の波動、召喚魔術で悪魔か天使でも降臨させたのか知らないが、それともまた違う。概念的存在とは違い、戦場を知っている傭兵に近い。そんな感覚が2人を襲う。
フィール「本部に連絡する? 大した応援は来ないだろうけど」
エルザ「死体が増えるだけよ。行きましょう」
フィールとエルザは強い気配を感じた場所へ走り出す。何故か、自分にもわからない不安を持ちながら。
────────────────────
エルレイ「……ここは」
見たところ街中のようだ、しかし人の気配はなく、ところどころ廃れている、そして何より、街の至る所に血が飛び散り、とても人が住める場所ではない。
ミアル「……血生臭いね」
ミアルは街中を見渡しながらそうつぶやいた。
嫌に鼻につく血と衛生が行き渡ってない為に匂う『死』の匂いにミアルは顔を顰めている。
エルレイ「……少し期待してたんだけど」
エルレイはかなりがっかりした様子でため息をついた、ここに例の少女がいる可能性は限りなく低いからだ、前に会った少女は血の匂いはしたがかなり過去に付いたものという印象を受けた。
エルレイ「もしも、ここにいたとするなら、私達、タイムスリップしてきたってことだね」
ミアル「誰の事かわかんないけど、タイムスリップなんて非科学的……」
2人は口ではそう言ったものの。
「「……」」
どうやら心当たりがあるようだ。それも割と身近に存在する。
ミアル「ごめん、できる人いるね」
エルレイ「……だね」
エルレイとミアルはある二人の少年を思い浮かべながら苦笑いをした。
そしてエルレイは背伸びをした後、眠たそうな顔を元に戻し、真剣な表情で構え直した。
エルレイ「誰か来るよ、しかも、殺ることに慣れた人が、二人」
匂いで分かる、何か血で染まった人間の香りが2人ほど来ている。それも真新しい人を殺した匂いと、血を焼いたような焦げたような匂いが鼻につくようだ。
ミアル「戦闘はいったんやめてねリィエル? コンタクト取ってみる」
エルレイ「わかった」
二人は何者かが来るであろう方向へ歩を進めていった。恐怖など何も感じていないかのように、友達と散歩をするような気持ちで、二人は歩く。
フィール「(……コピー体に、金髪の少女……どっちも手練れだね)」
その影で、息を潜めて敵を観察する2人。
片方はコピー体で片方は見た事があるような金髪の少女。だがどちらも血と戦闘経験の濃さが尋常じゃない。
それに、理屈は分からないが
フィール「……まあいいや。行くよエルザ」
エルザ「うん!」
フィール「《駆けよ風狼よ》!」
フィールはエルザに黒魔【スウィフト・ストリーム】をかけて先陣を切らせる。エルザの抜刀術【神風】は神速の居合い抜き、剣の神エリエーテのデータを持とうが、追い風とその速さに追いつけない事が多い。
だが……
エルレイ「!」
ガキンッッ──!!!
ミアル「!! リィエル!!!」
エルレイはその神速抜刀に反応し、即座に刀を生成させ、エルザとかち合った。火花が散り、頬を僅かに斬ったものの、その抜刀は止められていた。
エルレイ「……エルザ?」
エルレイはその斬って来た少女に見覚えがあった、昔のエルザの姿、そのものなのだ。 エルザは技を【神風】から【霜風】に変更し、下から上に刀を振るうが、それも受け流される
エルザ「くっ……!」
反応が早い。
剣の錬成スピードも今までのコピー体の比ではない。何より、言葉を話した。そして、隣の人間はコピー体をリィエルと呼んだ。
エルザ「(リィエル? 確かオリジナルの名前だったか……けど、私を知っている時点で敵なのは分かった)」
エルザは宮廷魔導師団の《戦車》だ。
それを知る人間は『天の智慧研究会』くらいだ。コピー体は兎も角、金髪の少女は何かを知っている。
フィール「【雷槍よ–––––踊れ】!」
並列起動した6つの【ライトニング・ピアス】をそれぞれに三発ずつ撃つ。毎秒8万キロスの超高速の雷槍が2人を襲う。コピー体は兎も角、金髪は何が知っている為、捕らえて情報を吐かせるつもりで手加減はしていた。
エルレイ「っ!!!」
エルレイは即座に刀を投げてエルザを庇うように抱きしめながら【ライトニング・ピアス】を受けてエルレイ。だが、腕や足に貫通しただけで急所は避けられた。しかも投げた刀は丁度ミアルに向かった【ライトニング・ピアス】をすべて弾くように回転していた。
ミアル「今度は誰!?」
ミアルは【ライトニング・ピアス】が飛んできた方向に向かって叫ぶ。その場所には敵はいない。既に、別の地点に移動しているからだ。
フィール「(っ……エルザがまさか、捕まるなんて)」
エルザが捕まった。
庇っているようにも見えたが、フィールはさっき撃った【ライトニング・ピアス】の場所から敵の背後に出る。
フィール「《吹雪け三度の厳冬よ》《駆けろ氷狼》!」
黒魔【フリージング・コフィン】を足元に放ち、黒魔【アイス・ブリザード】で視界を塞ぐ。エルザの服には凍結魔術対策の付与を施している為、エルザには効かない。
黒魔【フリージング・コフィン】の冷気をエルザを抱えたまま2人は躱し、黒魔【アイス・ブリザード】は視界を塞がれたとは言え、大した凍傷すらしていない。
だが、本命は氷風に隠した秒針で目を潰す事、そして自分が近づいて【愚者の世界】で魔術封殺をするのが目的だ。そうすれば魔剣エスパーダと魔銃ペネトレイターの領分だ。
近づいて、敵の背後を取った。秒針も目を潰す事に成功した。
その時だった。
フィール「っっ……!?」
なぜかフィールの体が動かない、下を見てみるとフィールの足元に氷が張り、身動きが取れなくなった。
フィール「なっ……!」
今、何をされたか分からなかった。
魔術は封殺した。タイミングも完璧だった。にも関わらず、自分の足は凍結していた。
フィール「っっ! 【女帝の世界】!! エルザ!!」
エルザ「動けない……! なんて馬鹿力なの……!?」
抱き締められてるエルザは抜け出せないようだ。
魔術での詠唱省略で脚に熱気を放ち、凍結した足を戻そうとするが、中々氷が解けない。恐らく、隣の金髪が行った異能関連のものなんだろう。
フィール「【極滅の雷神––––!」
ミアル「《はい、そこまで》」
ミアルがそういうと、指をぱちんと鳴らした、その瞬間、足だけでなく、身体がピクリとも動かなくなる、それはエルレイも同じようだ、体が停止している。
ミアルは秒針で血が出てしまった目の部分を擦りながら苦笑いをした。
ミアル「そろそろ、こっちの言い分を聞いてくれない?」
フィール「(っっ! 空間凍結!? たった2節で……)」
あり得ない。時間や空間と言った術式はどの国でも最高難易度な筈、フィールが使える空間転移系の魔術だって、構築出来ても劣化魔術が精一杯だ。
それに、有り得ないのは秒針が目に僅かとはいえ当たったのに、既に回復術式で目が戻っている。失明した目は普通戻らない筈なのに。
フィール「(っっ……詠唱も出来ない……【女帝の世界】も起こり得る事象が完全に停止してる。つまり、解除しない限り絶対に動けないって事……)」
エルザは馬鹿力で押さえつけられ、フィールは空間ごと凍結させられている。殺される。近づいていく金髪に思わず目を瞑った。
ぽんぽん
ミアル「驚かせてごめんなさい、ご機嫌いかが?」
ミアルはフィールの頭を軽くなでた。
ミアル「すぐに解除するね、リィエル、その子から……《離れなさい》」
エルレイ「かしこまりました……」
エルレイはまるで操られているかのように目に光がなく、ミアルの一言でエルザから手を離した。
パチンっ! とミアルがもう一度指を鳴らすとフィールとエルザの体の自由が利くようになる。エルザもフィールも動けるようになった瞬間、警戒して2人から離れる。
フィール「(精神支配の術式? いや、なんか違う……魔術と言うより……)」
これは一種の加護に近い。
ルーンによる加護とはまた違う。と言うより、強大な力を貸してもらってるような、そんな感覚。
それにこの人、髪型こそ変わっているが……何処かで見た事がある。アリシア女王陛下に似ている金髪に異能者、まさか……
フィール「エルミアナ王女?」
エルザ「?!」
エルミアナ王女はこの世界では天の智慧研究会に捕らえられたと報告があった筈だ。それがコピー体を連れて何故こんな所にいる?
ミアル「……エルミアナか」
ミアルは首を傾げた、少し考えた後ミアルは口をひらいた。
ミアル「私はミアル、この子の……保護者って思ってくれればいいかな?」
そう言いながら苦笑いをする、隣にいたエルレイは目を擦りながらため息をつく、エルレイは片方の目は当たって失明しているようだが、片方の目はどうにか見えているようだった。
エルレイ「ルミア……私までやらなくても……」
ミアル「ごめんごめん、でもこうしないと、止まってくれないでしょ?」
エルレイ「そりゃそうだけ……」
エルレイが2人を目視した瞬間。
血で目が霞みながらも、見たその光景にエルレイは目を見開いた。
エルレイ「……!!」
驚愕の表情を見せて、フィールのほうをじっと見た。
そこにいたのはエルレイが会いたかった少女、絶望を知りながら、絶望を覆す為に自分を欺き続ける哀れな少女。
エルレイ「フィー‥‥ちゃん?」
エルレイはフィールを見据えて呟くが、フィールは首を傾げながら警戒している。フィールの事をフィーちゃんと読んだのは、この世界で1人しかいない。その人物さえ、今は故人だ。
エルザ「フィール、知り合い?」
フィール「初対面……だと思うけど、貴女は誰?」
その言葉を聞いてエルレイの顔は暗くなる。
エルレイは知っている。だが、フィールは知らない。未来であったエルレイは過去のフィールを知らないからだ。
フィール「元帝国宮廷魔導師団の執行官であり、《戦車》の前任者。リィエル=レイフォードなら知ってる。コピー体とも少し違うのも分かる。けど、私は貴女を知らない」
エルザ「そもそも、貴女達は何者? エルミアナ……じゃなくてミアル? やイルシアのコピー体のオリジナルのリィエルだとしても、何でこんな所に?」
エルレイ「……っ別の時間軸……」
エルレイは俯いたままそうつぶやいた。
ミアル「この子が、リィエルの知り合いなんだね」
エルレイ「……」こくっ
ミアルの問いに、エルレイは俯いたまま軽くうなずく。
ミアル「……わかった、訂正します、私はエルミアナ王女で間違いありません」
ミアルは覚悟を決めたようにフィールとエルザに向き変える。
フィール達は驚愕する。何故なら、エルミアナ王女は今『天の智慧研究会』に囚われの身になっているからだ。
ミアル「前任者かはともかく、このこは、リィエル=レイフォード、執行官ナンバー7 《戦車》で間違いありません」
そしてミアルは片手に小さいナイフを取り出した。
それに警戒する2人、武器を一応構え直している。
ミアル「私達の事情は……未来の別次元から来ました。なんて言っても信用されないでしょう」
ミアルが口にした『未来の別次元』と言うのに引っかかった。
フィール自身はその術式をいつか生み出そうと考えている以上、その戯言のような言葉を聞き流せなかった。
ミアル「なので今から敵でない証拠をお見せします」
するとミアルは片手に握ったそのナイフを……。
自分の首に目掛けて振りかざした。
斬った瞬間ざしゅっと鈍い音がきこえ、辺りにミアルの血が飛び散る、このまま出血すれば、1分持たず絶命するだろう。
エルレイ「ルミアッッ!!!!!」
エルレイがその光景を見て悲痛そうな声をあげる。
ミアル「お手間は取らせません、何を言ったところで信用はされなさそうですからね」
ミアル「貴女方が傍観すれば私が死にます、何も問題はないでしょう?」
そう言いながらミアルは優しく微笑んだ。それは母親が子供に見せる笑顔のような優しさで、とても自殺しようとしている者の顔ではなかった。
フィール「なっ、ば、馬鹿かアンタは!?」
エルザ「フィール! ちょっ! 止血魔術!」
フィール「傷が深いから無理! 【女帝の世界】起動! 《戦車》の前任者!! 魔力足りないから貴女の魔力を貸せ!!」
術式を省略して、【リヴァイヴァー】を発動する。
すると時間が戻ったように、出血した部分が戻るように傷ついた体を修復していく。
3分後…………
ミアル「……いたいいたい……まあ、これで敵ではないとわかってもらえたかな?」
エルレイ「てめえこのやろう」
ごすっ!!! っとエルレイの拳が容赦なくミアルの後頭部に直撃する。
ミアル「いたっ!!!」
ミアルはとても痛いのか頭を抱えて蹲り、涙目になっていた。
ミアル「いった~……なにするのっ!!!」
エルレイ「何するの。じゃない自己犠牲の塊、そんなことをして……そんなことをして……」
エルレイはこぶしを握り締めている、どうやら《敵じゃない》と思われるためだけのために自己犠牲で死んでしまう最悪の状況を考えて、怒りが収まらなかったのだろう……
エルレイ「どう考えても、この二人の教育に悪い!!!!」
魔力を消費してグッタリしているフィールは力無く、エルレイの頭を叩いた。
フィール「いや問題そこじゃないから……未来の世界から来た身分証明書みたいなものある? もしくは、自分が未来から来たって証明出来るもの。未来から来たって言っても正直まだ信用は出来ない」
エルザ「と言うかそんな術式あるの? 聞いた事ないけど……」
フィール「思いつかなくはないんだけど、普通に考えて時間の奔流に流されて、精神体である魂がバラバラになるとは思うんだけど……」
エルザ「ダメじゃん!?」
身分証明書の偽造は出来なくはないから、対して意味はない。けど、この2人には間違いなく何かがある。
それだけは確かに言える事だ。
エルレイ「……ん」
エルレイはとりあえずカードの《戦車》を二人の前に出した、その戦車はかなり傷だらけでヨレヨレ、とても年期の入ったものだった。
ミアル「私は……ない」
フィール「まあ貴女はいいです。どうせ片方から芋づる式で出てくるので」
エルザ「うーん。時期はあってるし、この世界では確かリィエルの遺品は回収されてるんだっけ?」
フィール「ああ、間違いない。年期こそ入っているけど、本物だ。けど、これだけじゃ信用出来ないのは分かりますね?」
偽造可能の身分証明書。
私達を騙す為に作ったと考える事も可能だ。今の帝国宮廷魔導師団はシビアだ。戦力が少ない中で、死ぬ事がないようにする事が第一、用心深いのは当然だった。
エルレイ「?」
エルレイは何言ってるんだこの子、という顔で首を傾げた。
フィール「年期も時期も同じ、これは確かに《戦車》のリィエルと同じだけど、偽装は出来なくはないって事ですよ」
エルザ「まあ……出来ない訳じゃないとこっちも信用は出来ないかな。仮にも帝国宮廷魔導師団の私達を抑えれる以上、私達と未来であったなら何か、私達の私物とか持ってませんか?」
エルレイ「……?」
エルレイはまだ首をかしげる。
まるで何か引っかかっているかのように。
ミアル「ねえ、君たち、1つだけ、私の質問に答えてもらってもいい?」
そこでミアルは苦笑いしながらそう言った。
ミアル「いつ私たちがさ ‘‘信用して‘‘ なんて言った?」
フィールは納得して、ため息をつく。
確かに信用しろなんて誰も言っていない。敵なら敵のまま、敵じゃないならそれだけだ。
フィール「……ああそういう事。安心して。私が言う信用は背中から刺されないだけの信用だけ、そもそも私だって信用なんて薄っぺらい言葉が1番信用出来ないし」
エルザ「ちょっ! フィール!」
フィール「私があくまで調べてるのは天の智慧研究会の人間かどうか。容疑が晴れれば何処にでも行けと言いたいが、貴女達は未来から来たと言った」
フィールが危惧しているのは、むしろそっちの方だ。
過去や未来を行き来できる力、そんなものが外道魔術師達に渡ればこの国はお終いだ。
フィール「未来や過去に行き来できる力なんて、天の智慧研究会に知られたら国は終わる。だからこそ、貴女達が何者なのかハッキリさせるのが私達の仕事。お分かり?」
エルザ「ちょっとフィール、喧嘩腰にならないの」
フィール「それに……まあ、あの人の約束もあるからね。姿は変わっても……」
ミアルは分からないようで首を傾げている。
フィールだけが知っているアリシア女王陛下との約束。いつか必ず連れ戻すと約束したから、知らなければいけない事だってあるのだし。
エルレイ「……ん、一番……か、嫌いな言葉の私は3番くらいかな?」
エルレイはようやく合点がいったように前を向いた。
エルレイ「じゃあ、背後から刺される、事が無くなれば、フィーちゃんはいいんだ」
エルレイは左手で刀を握り締めて。
エルザ「っっ……!?」
そのまま自分の右腕を切り落とした。
ミアル「……人の事言えないじゃん」
ミアルは軽くため息をつく。
その痛々しい切断面に思わずエルザは眼を閉じてフィールの袖を掴んでいた。フィールもエルレイの行動に何とも言えない様子だった。
エルレイ「フィーちゃん、それはフィーちゃんの……私達特務分室の役目じゃない、特務分室の仕事は殺すor捕らえる、何者なのかハッキリさせるのは、拷問屋の役目……だよね?」
するとエルレイは持っていた刀の刃を左手で持ち、フィールに差し出す。
エルレイ「ちょっとだけ手伝って、これで、私の左手斬って、それならいいでしょ? フィーちゃん」
その左手は今にも刀によって落ちそうで、見てて痛々しい事この上なかった。エルレイがそう頼む中、フィールは思いっきりエルレイを殴った。力一杯殴ったせいで、エルレイは気を失っていた。
────────────────────
エルレイ「……知らない天井」
フィール「目が覚めたようね」
気が付けばエルレイはベッドの上にいた。
薄暗いが、ランプの明かりで照らされた家の中はとても広い。近くではエルザとミアルが毛布に包まり眠っていた。
フィール「ったく、腕を切り落とすくらいなら気絶させた方がマシなくらい考えろ。この馬鹿」
フィールは軽く頭を殴る。
エルレイはポカンとした表情でフィールを見る。
エルレイ「いたい」
フィール「んで? 未来から来たリィエル……エルレイだっけ? とりあえず表面上は貴女達を信用する事にした。だが勘違いしないで、命を簡単に粗末にする人間の言葉なんて薄っぺらい。だからこそ、生きる為に行動するべきだった。それが分からないなら私は貴女を許さない」
エルレイ「……優しいんだね」
エルレイは少し苦笑いをした。
エルレイ「でも、人間は簡単に命を粗末にする、食事、服、家、すべて命から頂戴したものだよ、生きるために命を粗末にするの……悪いけどね」
エルレイはそういうとフィールのおでこをペチッと叩いた。
エルレイ「命を粗末にする人間の言葉は薄っぺらい? 知ってるよ、そもそも人間自体が薄いからね」
フィール「生きて、話せて、それだけの態度が取れるならアンタは人間だよ。ったく、久しぶりに縫合と
エルレイ「フィーちゃん……」
フィール「……悪かったよ。私も動揺してた」
フィールは毛布を被ってソファーで眠り始めた。
信用されないからって腕を平然と切り落とすなんて真似、フィールはどうしても感化できなかった。誰も彼もが、生きる為に行動するのが基本なのに、エルレイやミアルの行動はそれと逆、いつでも死ねる心構えをしているようで、気がつけばフィールは動いていた。
エルレイ「やっぱり、優しいねフィーちゃんは…………優しすぎるほどに」
エルレイはそう言いながら目をつぶった。
エルレイ「ありがとタルト」
エルレイは力を振り絞りいちごタルトをフィールに差し出した。